ここはカントー地方のトキワの森。
数多くの野生のポケモンが生息し、主に虫ポケモンがその大半を占める。
基本的に低レベルのポケモンが住んでおり、その近くにあるトキワシティの子供たちの遊び場になっている。
森の奥に行かなければ、無害なキャタピーやビートルなどの虫ポケモンしかいないので、ほとんど安全地帯といってもいい。
しかし、その森の奥には、時として高レベルのポケモンが生息しており、その中にはまだ未確認の個体もいる。そんな場所でポケモン研究の権威であるオーキド博士はそこで探索をしていた。
4年前までは151匹しかいないと思われていたポケモンが、ここ数年で急速に数を増やしていき、既にその倍のポケモンが新種として見つかっている。
特にカントー以外の地方での発見が多いが、このカントーでも新種のポケモンが発見され続けている。
オーキド博士は昔レッドとグリーンという少年にゼニガメとヒトカゲを旅のお供としてプレゼントし、今は残ったフシギダネに研究の手伝いをさせている。
いずれは、他の地方にいる知り合いの博士と協力してパワーアップしたポケモン図鑑とともにフシギダネをプレゼントしたいと思っているのだが、未だにあのレッドとグリーンを超えると思える少年少女に出会えずにいる。
オーキド博士が森の奥に進むと、驚くことにカントーでは生息していないはずのボスゴドラがいた。
ボスゴドラ。鉄鎧ポケモン、タイプは鋼岩の複合タイプで山一つを縄張りにし、山が荒れると荒れた部分を治して掃除をするというエコ過ぎる特性を持っている。
鋼の鎧で覆われた二本足の怪獣のようなポケモンで、頭には鋭く尖った二本の角が輝いていた。
見たところ今は大木を地面から掘り起こし、それを持ってお月見山の方へ進んでいた。どうやらこのボスゴドラはお月見山を縄張りにしているようだ、とオーキド博士は推測した。
オーキド博士はその姿を写真に収めようと、不意にカメラでボスゴドラを取ったのが間違いであった。
オーキド博士は気を配り、ボスゴドラの背面を撮ろうとしたのだが、シャッターを切る直前にボスゴドラが振り向いたのだ。
カメラの光でボスゴドラは不意打ちされたように感じたのか、突如雄叫びをあげた。
大地が震えている。そうオーキド博士は感じた。
オーキド博士は、もしかすると大きな勘違いをしていたのかもしれない。確かに一般的なボスゴドラの縄張りは山一つではある。しかし、トキワの森の今オーキド博士がいる場所が、ボスゴドラの縄張りではないという保証はない。何故ならここは、十分にお月見山に十分近いのだから。
ここも、ボスゴドラの縄張りであったという可能性は低くはない。
ボスゴドラの敵意丸出しの雄叫びが、その証拠だ。
ズンッ、とボスゴドラがオーキド博士の方へと行進を始めた。
オーキド博士は急いで森から抜け出そうと走り出すが、既に初老を迎えた老人の体、ボスゴドラに追いつかれるのも時間の問題だ。
そうなれば手持ちのフシギバナで戦うか? と頭を巡らすがタイプの相性は兎も角、力の差が激しすぎる。フシギダネでは足止めにすらならないだろう。
このボスゴドラは気性が荒いのか、オーキド博士をしつこく追いかける。生い茂る木々をなぎ倒して、徐々にオーキド博士との差を詰めた。
もう駄目だ、とオーキド博士が諦めかけたその時、二人の少年少女がこちらへ走ってくるのがわかった。
足が棒のようになっており、息が切れてもう歩くことすらままならないオーキド博士は、咄嗟に少年少女向かって、
「君たち逃げなさい!」
と最後の力を振り絞って叫んだ。
しかし二人はオーキド博士の言葉を聞いていないのか、そのまま全速力でオーキド博士の方へと走っていった。
すると少年の方は、懐からモンスターボールを取り出した。
それをオーキド博士の真後ろに向かって投げると、モンスターボールが割れて中から一匹のポケモンが現れた。
黄色と黒の縞々模様の体に、両手には鋭い二つのドリルのような針がある。
トキワの森でも良く目にするポケモンのスピアーだ。タイプは毒・虫と、ボスゴドラとのタイプの相性は最悪でしかも能力の差は歴然だ。
「お爺ちゃん! もう大丈夫よ!」
そう言ってオーキド博士の肩を抱き上げた少女は言った。しかし、オーキド博士は、
「だ、駄目だ! 早くお前たちだけでも逃げなさい」
そう言うが、肩を抱く少女は笑いながらこう言った。
「大丈夫、クロのスピアーは最強だから、あんな奴くらい、直ぐにやっつけるわ」
「そ、そんなこと――」
あるはずがない。そうオーキド博士が言いかけた瞬間、背後から何かが倒れる音が聞こえた。
オーキド博士が恐る恐る振り返ると、そこにはボスゴドラが白目を剥きながら倒れており、その前でスピアーの健闘を称えている少年の姿があった。
これがオーキド博士と、これから物語が始まるクロガネとユキとの初めての出会いであった。