CODE VEIN ─Another queen─ 作:リヴィ(Live)
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ある日、世界は突然、あるバケモノに覆い尽くされた。
そのバケモノはありとあらゆるものを喰らい、己がものとする人類を大きく上回る能力を持った高次元生物であり、食物連鎖の頂点から、人は叩き落とされた。
平穏だった日常は戻らぬものとなり、ただただ、逃げて逃げて、無様に地に這いつくばる日々。
追い詰められた人類は、各々で対抗策を練り出し始めた。
そのうちの一つ───ゾンビのように甦った人の体から摘出された特殊な寄生体を使い、過去に死んだ者たちを蘇らせ、戦士として使役する方法が発案された。
『BOR寄生体』と命名されたそれは、心臓を核として人に寄生させることにより、圧倒的な再生能力と肉体性能を持ち合わす不死身の戦士、
しかし、同時に致命的な弱点もあった。
吸血鬼という名の通り、吸血鬼として蘇った者たちは、血に対する異常な渇望があった。その血の乾きが限界に達した時、心臓に寄生したBOR寄生体が暴走して自我が崩壊し、核である心臓を破壊されても死なない
そこで、吸血鬼の弱点である血の渇きに対する研究が始まった。
バケモノの観察、BOR寄生体の研究が進み、血の渇きの克服の道は発見された。
完璧な吸血鬼を創り出す計画。そして、人類を更なる絶望のどん底へと叩き落とした最悪の計画。
───《Q.U.E.E.N計画》。
血の渇きを克服し、かつ従来の吸血鬼を大きく超える能力を誇る最強の吸血鬼を生み出す計画は、失敗に終わった。
《クイーン》は最終実験の反動に耐えきれず暴走。バケモノだけではなく、人類にさえ牙を向き、同胞たる吸血鬼さえも何千、何万と手にかけた。
政府は緊急に大量の吸血鬼を量産し、暴走した《クイーン》の討伐が行われた。《クイーン討伐戦》の犠牲は何十万をも超える吸血鬼の犠牲と墮鬼を生む結果になったが、結果的には《クイーン》は討伐された。
しかし、問題は終わることなく、《クイーン》亡き後もその力は人類を脅かし続けた。
大量生産され、蘇った吸血鬼達は血の渇きを潤す結晶、『血涙』を求め闘争が始まった。更には《クイーン》が放った血の渇きを更に強くさせてしまう瘴気の存在が、その闘争を激しくさせた。戦いによって墮鬼となった吸血鬼達は数知れない。
しかし、血涙とて無限ではない。血涙を生み出す『血涙の泉』は、吸血鬼達の過度な採集により枯れていき、徐々に数を減らしていった。《クイーン》討伐後に創設された臨時総督府による血税──血涙や人血の提供──も限界を迎え始めていた。
また、BOR寄生体を寄生され、吸血鬼として目覚めるまで個人差があることも相まって、討伐後に目覚めた吸血鬼達による反臨時総督府勢力も各地で見え始めていた。
世界が暗闇の一途を辿る中──一人の少女は、激情を胸に崩壊した世界を駆け抜ける。
姉を犠牲にした者達と、父と───世界への憎悪を宿して。
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「はぁ…はぁ…な、なんだコイツは…!!」
とある市街地。荒れ果てたビル街を、一人の吸血鬼は逃げていた。
その男の吸血牙装──血を吸うための武器──は破壊され、武器も使い物にならない。残っているのは、この瘴気から唯一守ってくれる瘴気マスクだけ。
「こんなに墮鬼がいるなんて…仲間も言ってなかったのに…くそ!」
逃げる男を追うのは、武装したかつての仲間の墮鬼達。その目に理性はなく、ただ目の前の男を殺そうと駆け足で追いかけてくる。
死にたくない。そんな思いで男はひたすら走る。
「なっ…壁…!?」
だが、現実はそんな思いを受け入れてはくれない。
がむしゃらに走った先は、逃げ場のない壁。逃げ場を失った男は顔を青く染め、ガタガタと震え始めた。
「あぁ…おしまいだ…あんな数じゃ…心臓を貫かれて終わりだ…生き返れない……死んじまう…ああぁ…」
懺悔の暇もないと言わんばかりに、追いついた墮鬼達は男へ一直線に走った。そして、次々と墮鬼の持つ武器が男に振りかかろうとしていた時──
『ギィああ!?!?』
『あ゛あ゛ぁ…あ゛!』
その墮鬼達は、巨大な黒い手に薙ぎ払われた。
来るはずの痛みが来ない男は、ゆっくりと目を開けた。
「…ぁ…お、お前は……」
そこには、身を覆うほどのコートを羽織った白髪の少女が立っていた。後ろ姿しか見えていないが、男はその少女の姿に、否、腕に見覚えがあった。
本来コートで隠されていたであろうその両腕。顕になったその腕は、黒く、巨大。大人一人を丸々覆ってしまうほどの手の大きさ。そして、鋭く引き裂くような爪。
吸血牙装による武装ではない。本当の、生身の腕。
「───」
少女はその巨腕で荒々しく墮鬼を倒していく。巨腕から放たれる一撃必殺の攻撃と小柄な身体からなる身のこなしは、並の墮鬼では相手にならないほどの実力を有していることを示していた。
そして、あたりの墮鬼が沈黙した後──その巨腕で墮鬼の頭を掴み…。
グシャリッ、と
「あぁ…やっぱり…お前は…ぁ…!」
その光景を見た男は、墮鬼に追い詰められていた時よりも遥かに恐怖に顔を染めた。
墮鬼をさっきのように喰い尽くした少女は、くるりと男の方を向き、瘴気マスクと荒々しく伸びた髪の毛の間から赤い眼光を輝かせた。
「《黒朱の──あ、ぁぁああああああ!!!」
そしてその男の頭は巨腕によって掴まれ───同じように、喰われた。
「…」
少女はしばらく目を瞑り、何かを思い出すかのように顔をふせた。
しばらくして───
「…血涙の泉の情報だけか。使えない」
そう吐き捨てるように少女は呟いた。
禍々しい瘴気を放つ巨腕は、身を覆うコートの中に縮むように入っていった。巨腕は完全にコートに隠れていて、見た目は完全に少女のそれになっていた。
「アイツらの情報…やっぱり臨時総督府に乗り込むしか…」
ブツブツと、呪詛のように呟きながら、少女はその場を去ろうとしたが、少女の目線の先には、別の人影があった。少女は足を止めて、その人影をじっと凝視した。
「…何をしに来たの。待っていてって言ったはずだけど」
「申し訳ありません……ディアナ様に寄り添うことが……使命なので……」
まるで感情が籠っていないような声で喋る、もう一人の女性は、白の美しい装飾が施された露出度の高い服と、茨をイメージしたような吸血牙装を羽織っていた。足も素足に近く、他の吸血鬼とは異様な様だった。
まるで呆れたように少女──ディアナは言った。
「貴女何なの?いきなり現れて、あたしに寄り添うことが使命とか…見覚え無さすぎて気持ち悪いわ」
「……申し訳ありません……」
「…まぁいいわ。邪魔をしなければ問題は無いしね。《
「大丈夫です…」
それは暗に、『邪魔をすれば殺す』と言っているようなものでもあった。彼女──ディアナの瞳から放たれる静かな殺意が、それを物語っている。繋げて言った言葉も、この女性を気遣うものでもなく、心配するものでもない。ただの情報確認だけだ。
「ここから先に血涙の泉があるわ。着いてきなさい」
「はい…」
ディアナの言われるがままに、女性はディアナの後を着いていく。
陽の光に照らされる彼女の背中は、とても寂しいものであった。
彼女には、もう何も無い。
あるのは───大好きな姉を奪ったアイツらへの、憎悪だけなのだから。