CODE VEIN ─Another queen─ 作:リヴィ(Live)
今回は完成したのでどうぞ。
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崩壊したビル街を歩くディアナと女性は、先程男から得た血涙の泉の情報を元に、その場所へと向かっていた。うろつく墮鬼を喰らいながら、確実に一歩一歩進んでいく。
今や、赤い霧の牢獄に閉ざされたヴェインの地に、心から安らぐ場所などどこにもない。どこにいても墮鬼に襲われる危険性があり、《クイーン討伐戦》に大量発生した墮鬼や討伐後の闘争も相まって、今やそこらじゅうに墮鬼が徘徊している有様。
それもこれも──すべて、あの男が始めたことだ。あの男達のせいだ。
自分にもあの男と同じ血が流れていることに吐き気がする。あんな、自分の娘を──私の姉を犠牲に兵器を作ろうとし、結果失敗して大勢の犠牲を産んだ下衆なアイツの血が、私を生かしていることに。
「…ディアナ様」
「…!何」
「あれは、拠点でしょうか…?」
過去に思い出していると、白い女性が向こうを指さして言ってきた。
その方向を見てみれば、そこには文字通り、生活するためのテントや用品が無作法においてあった。拠点、というのには些か疑問ではあったが、同時に、探していた拠点と同じものでもあった。
「情報が一致する…あたりね」
「…人が…いないです…」
「……たしかに、無人ね」
拠点内に入ってみると、人気はなく、物が散乱していた。火はそのまま灯してあり、先程まで人がいたことは確か。かすかに人の匂いがするあたり、それは確実だろう。
「墮鬼に襲われたにしては、血の匂いはしない…」
「…出払った……のでしょうか…」
「…その可能性が高いわ。近くで墮鬼と戦ってるかもしれない。今のうちに血涙を確保するわよ」
「…はい…」
拠点から離れ、男から得た情報を頼りに、道を進み、洞窟の中へと入っていく。
岩場が多く、とても歩きずらい。こんな所で墮鬼や吸血鬼と当たれば苦戦することは確実だろう。見つかる前に、早くしなければと、ディアナは駆け足で血涙の泉へ向かっていく。
「あ…」
「……」
しかし、白い女性は不安定な岩場に足を取られ、バランスを崩してしまった。幸い壁があったからか倒れることは無かった。
ディアナは足を滑らせた的の女性の声を聞き逃さなかった。ディアナは女性の顔をじっと見て、言った。
「…気を付けなさい。遅れたら置いていくわ」
「は、はい…気をつけます…ディアナ様…」
恥ずかしかったのか、白い女性は顔を少し赤く染めて応えた。
ディアナはそれを確認すると、すぐに視線を戻して駆け足で岩場を駆け抜け始めた。
カッ、カッ───
ふとら遠くから、岩と靴の接触音が聞こえた。
「(足音──!)こっちよ」
「は、はい」
足音と判断したディアナは、白い女性の手を取り、近くの岩場に身を隠した。大きくなる足音は洞窟内で反響し、バラバラな足音からして複数人、しかも駆け足で動いていることがわかる。
ディアナは気配を殺し、静かに彼らの会話に耳をすました。
『クソ、あの女、どこに行きやがった!』
『まだ遠くには行っていない!全員で捕まえて血涙を取り返すんだ!』
『ちくしょう、あれが今月分のやつだってのに…あれがなかったら俺たちは……!!』
「(…血涙を奪われたのか。だから拠点がスッカラカンだったのね)」
どうやら、ディアナ達以外にも血涙を求めて来た者達──ディアナはどちらかというとついで感覚──が居るらしい。
今の時代珍しくない。血の渇きを抑えるために血涙を求めて同胞同士が争うこの時代で、保管していた血涙全てを奪われるなんてよくある事だ。
『泉は!?』
『ダメです、全部持ってかれてます!』
『クソ!手分けして探せ!あのメスガキ、絞め殺してやる!!』
「(──どうやら、泉の方もダメそうね。無駄足だったか)」
話を聞く限り、盗っ人は泉の方からも血涙を取ったらしい。余程欲張りなのか、それとも後がないのかは知らないが、こっちも命がかかっている。泉の方は見逃すわけには行かない。ここまできたのだから、殺してでも奪わなければ。それほどまでに、血涙というのは貴重なのだ。
そんなことを思っていると、男達は別行動で盗っ人を探し始めた。この場を離れたことを確認すると、ディアナはゆっくりと立ち上がった。
「盗っ人を探すわよ。殺してでも血涙を奪う」
「はい…仰せのままに」
「…コケないでよ」
「……はい」
念を押して、気をつけるように釘を押すディアナ。女性は再び顔を赤く染めて俯きながら返事をした。
大丈夫そうだと確認したディアナは、先程よりも早く岩場を駆け抜けた。
「(──洞窟の風通しや明かりからして、そんなに深くない。なら、盗っ人は表に出てる可能性が高いわね)…表に出るわよ」
「はい」
男達が散っていったうちの一人、出口へ向かっていった男をディアナは追った。やがて岩場は平地となり、陽の光が当たる開けた場所へと出た。
「(血の匂い……近い!)」
その場所は先程よりも血の匂いが濃かった。墮鬼のような穢れた血の匂いではない。純粋な吸血鬼の血の匂いだ。つまり、ここの拠点のうちの誰かが近くで負傷したか死んだ可能性がある。
血の匂いを頼りに、その場を進んでいくと───
「ディアナ様、あれは──」
女性が指さした。
その指先は───黒いコートと銃剣を携え、子供を連れた吸血鬼。その手には子供の手と血涙が入っていると思われる袋が握られている。
目当ての、盗っ人だ。
ディアナは地面を蹴り、盗っ人の方へと高速で駆けた。
女は地面を砕く音を聞いたのか、すぐさま銃剣をディアナに向けた。
「み つ け た」
「っ───」
しかし、もはやディアナと女の距離はゼロ距離に等しい。このリーチでは銃剣の剣も届かない。
ディアナは隠していた禍々しい巨腕を振りかざした。この距離でこれを喰らえばタダでは済まない。
「!?」
「くっ──」
だが、その鉤爪を防いだのは、吸血牙装。しっぽのように伸びた針型の吸血牙装が鉤爪を防いだのだ。女はそのまま牙装を地面へと突き刺し、牙装を軸として飛び上がり、銃剣を数発、ディアナに向けて放った。
「甘いわッ!!」
「なっ──あぁッ!」
ディアナはもう片方の巨腕で弾を防ぎ、防がれていた片方の巨腕で女の吸血牙装を掴んで、女を思いっきり地面に叩き落とした。
数メートルはあろう高さから地面に叩き落とされれば、吸血鬼とて激痛であろう。しばらくは痛みで動けないはずだ。
ディアナは地に伏す女の目の前に、見下すように立った。
「くっ──《黒朱の喰鬼》が…なんでここに…」
「目的はあなたと同じよ。その血涙、奪いに来たわ」
ディアナは、女が持つその袋を持って言った。
女は、渡さないと言わんばかりにディアナを睨んでいる。
「別にいいわ。あんたの意思なんて関係ないもの。むしろ、そんな体で抵抗できると思ってるの?」
「ぐっ…ぅ…」
意思など関係ない。そう言ったディアナは女の手から袋を奪おうとするが、女の手には力が入っておりなかなか手を離さない。
痺れを切らしたのか、ディアナは──
「面倒ね…もう殺すわ」
「っ……!」
「さよな────」
コツン───
鬱陶しくなったディアナは女の心臓を腕で貫こうとしたが、その瞬間…頭に、小石でも投げられたかのような軽い衝撃が走った。
視線を下してみて見れば、やはり小石だった。なら、誰が投げたか。
そういえば、子連れだったな───と、その子供を見た。
「ミアから…離れろ……!!」
「!?ニコラ…!逃げて!」
「…」
ニコラ、という少年は、ディアナは睨んでいる。敵意を持って、こっちを見ている。
「…あんた達、姉弟?」
「そうよッ!お願い、ニコラだけは……!ぐっぅ…う!」
この時代に兄弟、姉妹というのは酷なものだ。
世代的にも両親を無くしたのだろう。幼い弟を抱えて守ってきたのがわかる。いや、わかってしまう。
「……姉、か」
『お姉ちゃん!絵本読んで!』
『ふふ、ディアナは甘えんぼねー、いいわ、お姉ちゃんが読んであげる』
『やったー!』
「───」
ディアナは静かに、その手を納めた。
「!ミア!」
「よかった…ニコラ…」
「そんなことよりミアだよ、大丈夫?」
ニコラはディアナがミアから手を引いたことを確認すると、すぐ様ミアの元に向かった。互いに手を取り合っている。
「…」
「っ……」
その光景を黙って見ているディアナを、ミアは殺気を込めて睨んだ。更には牙装をニコラを守るように展開し、こう言った。
「この子に何かしたら、心臓を抉りとるわよ…ッ!」
「ミア…」
「…」
自分が満身創痍となってでも、弟は守る。弟に手を出したら殺す。そこには確かな姉弟としての絆があった。ディアナが失ったものを持っている彼女らに、ディアナは手が出せなかった。
だって───
「…その弟、暴走が始まってるわ。早く血涙を飲ませて、安静にしてあげなさい」
「え…なんで…?」
いきなり弟の心配をしてくるディアナに、困惑するミア。
たしかに、弟のニコラには暴走の兆候と思わしき跡が顔に出始めている。このままでは暴走して墮鬼になることだろう。
しかし、なぜこちらの心配をしてくる?先程まで命を狙ってたのに。
ミアの疑問は、それに尽きた。
「……たった一人の家族なんでしょ?大切にしてやりなさい」
「…!」
その言葉に、どんな意味が含まれているかは明確にわからないが、ミアは何となく、その言葉の意味を理解していた。
「あんたもよ。今は守られて、大きくなったら姉を守ってやりなさい」
「言われなくてもなるよ。絶対にね」
対してニコラは敵意を剥き出しにしたままであった。しかし、姉を守るという心は本物であることはわかった。
ディアナはその姉弟を、攻撃もせずに見送った。見せつけられた姉弟の絆に、ディアナは何も出来なかった。
「……我ながら何をやってるんだか。よりにもよって…思い出すなんて」
「…ディアナ様?」
「思い出しただけよ。柄にもなく、昔の……姉のことをね」
「そう…ですか」
不意に、幸せだったあの日々を思い出してしまった。吸血鬼も、バケモノもいない平穏の日々。まだ幼かったけれど、明確に覚えている私の宝。
戦意喪失、とはこのことを言うのだろう。あの姉弟を、殺す気にはなれなかった。姉弟ということを知っていなければ殺せたかもしれないが。
「…寄り添う、ね」
「…?」
「姉もそんなことを言っていたな、と思っただけよ」
だめだ。この女を直視できない。さっきまではっきり見えていたのに、この人が、『姉』に見えてしまう。これもさっきのフラッシュバックの影響か。
さっきまでそんなこと無かったのに。いきなり、どうして。
「…ダメ、今日はもう休みましょう」
「仰せのままに…」
その日は、最後まで頭痛が止まらなかった。