良かったらどうぞ。
現在、冬を迎えており昨日に大雪が降ったせいか辺り一面は銀世界へと成り果てていた。
そんな中、雲取山中を駆け巡る1人の藍色の髪型が特徴な少年。その少年には籠が背負われており、中には沢山の薬草らしきものが入っていた。
「この時期は早く採取しないと薬草がダメになっちまうからな!!今日中には春まで持てるぐらいまで沢山採らないと!!」
少年はそう言って、雪をかき分けて薬草を採取する。
本来なら、薬草とかはもうダメになり運良く耐え抜いた薬草はかなり少なく見つけるのは困難のはずなのだが、少年は次から次へと見つけ出して採取する。
「む。僕の勘が今度はあっちだと言っている。行ってみよう!!」
少年は方向を変え、走って進むと発言通り薬草が何本か生えていた。
「相変わらず、僕の勘は当たるなぁ」
少年は苦笑いしながら、目の前に生えている薬草を採取し籠の中に入れる。すると、ちょうど籠の中がいっぱいになった。
「よし。これだけあれば充分だろ。早く家に帰ろ」
採取した薬草の数に満足した少年は嬉しそうに自分が住む家へと向かう。
向かっていると、途中に山奥だというのにも関わらずポツンと建っている一軒家が現れる。
その一軒家からはワイワイと楽しそうに男女の子供が遊んでいた。
「あ!!鈴兄ぃ!!」
その内、1人の幼い女の子が彼を見て大声を上げる。それによって、他の子達も少年の存在に気づく。
「あはは、元気してるか?みんな」
幼い子供たちが、少年に近づきワイワイしていると1人の美しい女性が入り口から現れた。
「こんにちは、鈴蘭ちゃん」
「こんにちは、葵枝さん」
鈴蘭と呼ばれた少年は、自分の名を呼んだ女性の傍まで行く。
彼女の名前は竈門 葵枝。この一軒家で暮らしていて、周りにいる子達の母親だ。
「今日も薬草の採取??」
「はい!!今日はどうしてもやりたい調合があるので!!」
「そうなの。頑張ってね!!」
「ありがとうございます!!あ、これ良かったらどうぞ!!俺が調合して作った飲み薬と塗り薬です!!」
鈴蘭は懐から2つの小袋を取り出して葵枝に渡す。
「助かるわ。鈴蘭ちゃんが作った薬はよく効くから。流石は将来、お医者さんになる夢を持ってるだけあるわね」
「そんなこと言われたら照れますよ」
鈴蘭は昔からとある理由で医師になるという夢を抱いていた。
しかし、彼は医師になるための教材などを買うお金がないので、ほとんど独学で勉強したり、薬に関しては独自の調合したりしていた。無謀に近いやり方だが、運良く鈴蘭は勘が良いのか独学も良い感じに学んでいるし、調合も失敗を1度もした事がなくほとんど成功させている。
実際ここだけの話、市販されているやつよりも効果があると言われている。
「そうだ、お礼に炭を持ってってちょうだい。炭治郎ー!!」
「ん、どうした母さん………って、鈴蘭じゃないか!!」
「よ、炭治郎」
葵枝から呼ばれ、入り口から大きな籠を背負った1人の少年が現れる。その少年は珍しく赤い瞳をしており、耳飾りを付けていた。
少年の名は竈門 炭治郎。竈門家の長男で父親がいない今、炭を売って家系を支えている大黒柱的存在だ。
「てか、炭治郎よ。お前、顔が真っ黒だぞ?もしかして、今から山を下りて炭を売ってくるのか?」
「あぁ!!今のうちに沢山、炭売って正月に弟たちに腹いっぱい食べさせてやりたいからな!!」
「はぁー、相変わらずお前良い奴だな」
すると、周りの子達が炭治郎と一緒に行きたいと騒ぎ出すが、それを炭治郎や葵枝が速く走れないから、と言って説得する。
「炭治郎、また鈴蘭ちゃんが薬をくれたから炭をいくつか譲ってあげて」
「本当か!!いつもありがとうな、鈴蘭!!」
「別にいいって。その代わり、もし僕が医師になったら、ちゃんと来てくれよな」
「勿論だ!!その時は家族全員で行くぞ!!」
「いや、家族全員で来られても困るんだけど……。」
少しだけ抜けている炭治郎に溜息を吐きながら炭を貰う鈴蘭。
「よし。それじゃあ、行くか。」
「手伝ってくれるのか!?」
「な訳ないだろ。帰り道が同じだからそこまで一緒に行くだけだ。僕は早く調合がしたくてウズウズしてるんだよ」
「だと、思った!!」
アハハ、と笑う炭治郎を見て鈴蘭は思わずに笑みが零れる。炭治郎と知り合いになったのはまだ、竈門家に長女が誕生していない時だったので随分と時が経過したのかが分かる。
幼馴染と言っても過言ではない炭治郎は、鈴蘭にとって良き親友となっていた。
竈炭家を離れ、少しだけ進むと
「あ、お兄ちゃんと………鈴蘭くん!?」
幼い男の子を背負った1人の女性に話し掛けられる。
「やぁ、禰豆子ちゃん」
彼女の名前は竈門 禰豆子。竈門家の長女で炭治郎の妹。
容姿は葵枝に似ていて、かなりの美人だ。町でもそれは有名で評判となっており、彼女を狙う男子も少なくはない。まぁ、炭治郎がいるからそれは難しい話だが。
「六太を寝かしていたのかな??」
「う、うん!!大騒ぎすると思ったから」
「そっか。でも確かに、こんな幼いのに炭十郎さんが亡くなってしまったから、寂しいのは当然だよな」
それによって、六太含め炭治郎と禰豆子以外の弟たちは炭治郎にくっつき回るようになったというのも鈴蘭は知っている。
「偉いな、禰豆子ちゃんは」
鈴蘭は笑いながら禰豆子の頭を優しく撫でる。彼女は自分よりも他の兄弟を優先にして竈門家を支えているということも鈴蘭は知っていたのだ。まだ歳は12だと言うのにも関わらず。これは凄いことだ。
「ーーーーーーーー!!!」
すると、禰豆子は顔を真っ赤にして恥ずかしそうにするも、嬉しそうな表情へと変わる。
それを見て、炭治郎はまるで父親のような目線を鈴蘭に送りながら一言
「鈴蘭。お前になら禰豆子を任せられるよ」
「は?何、言ってんの、お前。馬鹿じゃねぇの?」
「もう!!お兄ちゃん!!」
炭治郎は他の人と比べて鼻が利く。それによって、禰豆子が鈴蘭に対して抱いている気持ちも匂いで炭治郎は察していた。
「早くしないと日が暮れちまうぞ?」
「そうだな。それじゃあ、禰豆子。みんなをよろしく」
「うん!!頑張って!!鈴蘭くんもまたね!!」
「はいよ。」
禰豆子と別れたあと、再び炭治郎と一緒に歩く鈴蘭。
ふと、鈴蘭は気になったことを口にした。
「そういえばさ、親父さん、亡くなったじゃん?」
「あぁ………」
「てことは、年初めにやってるいつものあの神楽。来年は炭治郎がやるのか?」
「一応、そのつもりだ!!」
神楽とは、火の仕事をしている竈門家に代々伝わっている毎年恒例のようなもので年初めに仕事が上手くいくようにと火の神様に捧げる舞のことだ。
「炭十郎さんの神楽………、好きだったのにな」
縁あって、数年前から毎年、その神楽を見させてもらったことがある鈴蘭は炭治郎の父親が舞う神楽が大好きであった。
それを見て、今年も医学に向けての勉強が上手くいくようにとお祈りをしていた鈴蘭にとって、それがもう見れないとなると寂しいと感じてしまう。
「本当に鈴蘭は好きだよな!!父さんの神楽」
「当たり前だろ。好きすぎて、その神楽を見よう見まねで覚えたぐらいだからな」
それを当時、生きていた炭治郎の父親に見せたら、珍しく驚愕の表情を浮かべていたのを鈴蘭は思い出す。
「そんなことあったな。今もできるか?」
「んー、どうだろう。ここ最近は、ずっと勉強やら採取やら調合やらで忙しかったからな。多分、また見れば思い出すんだろうけど」
神楽の型は全部で12ある。そんな中、もし今現在、やってみようと思っても恐らくできるのは3つまでだろう。
「あ、俺の家だ」
次第に鈴蘭の家が見え、玄関前で2人は立ち止まる。
「それじゃあ、ここでお別れだな」
「おう」
「今度、うちでご飯を食べに来いよ。鈴蘭!!」
「気が向いたらな。炭治郎も、炭売り頑張れよ」
「あぁ!!それじゃあ、また!!」
「おう」
炭治郎は手を振りながら先に進み、山へと降りていった。
「ただいまー」
家へと入った鈴蘭は言葉を出すも声が返ってくることは無かった。
それを分かっているかのように、鈴蘭は部屋の奥へと進み、とある部屋へと入る。そこには鈴蘭によく似た男性と女性の写真が置かれている小さな仏壇が置かれていた。
「ただいま、父さん。母さん」
鈴蘭は優しくそう言って、仏壇に採ってきた薬草を添える。その後、手を合わせて数秒ほど目をつむる。
目を開けたら、鈴蘭はその部屋から退室し、今度は自身の部屋へと入る。机の上には独学で勉強していたであろう紙や筆が散乱しており、もう1つの机には過去に採ってきたであろう薬草やら、作った薬品が入った入れ物が数多く置かれていた。
「うし!!それじゃあ、始めますか!!」
待ちに待った調合タイムでテンションが上がる鈴蘭。机の上にあるものを一旦整理し、ある程度の場所を作ったあと調合に使う道具と今さっき採ってきた薬草を置く。
「んじゃまぁ………、とりあえずはこの薬草とこの薬草をーーーーーー」
「やっべ。また、徹夜してしまった」
調合が予想以上に上手く行って、そのまま勢いに任せて続けた結果、夜を通り越して朝方になってしまっていた。
ふぁー、と欠伸をかき、睡眠を取ろうとした瞬間ーーーー
「…………なんだろう。今、竈門家が危ない気がする」
いつもの鈴蘭の当たる勘が彼にこう訴える。
ーーー竈門家が危ない!!と。
長男である炭治郎がいるから、安心だと思うが、鈴蘭の勘は恐ろしいほどに当たる。
「………ちょっくら行ってみるか」
不安になった鈴蘭はいくつかの薬草やら飲み薬やら塗り薬。そして、念の為に自身を守るナイフを持って家を出て走る。
そして、10分ほどで竈門家の前に辿り着いたのだが……………
「ーーーーーーーーは?」
炭治郎以外の竈門家のみんなが血塗れになって倒れていた。
登場人物
成矢 鈴蘭(13)……とある理由で医師を目指している少年。独学で勉強中。藍色の短髪が特徴。体力は山を駆け巡れるほどある。鈴蘭曰く第六感である勘がとても冴えており、これを頼りに、これまでずっと生きてきた。
炭治郎とは幼馴染。両親のいない鈴蘭にとっては第2の我が家に近い存在で竈門家の誰とでも仲が良かった。竈門家で毎年行っている神楽がとにかく大好きで教えてもらおうと炭治郎の父親にお願いするが呆気なく拒否される。そのため、2年間、つまり2度、炭治郎の父親が舞う神楽を視界に焼き付け、見よう見まねで神楽を覚えた。炭治郎の父親はそれを見て、完璧のコピーに思わず驚愕する。しかし、せっかく覚えた神楽の型も今では3つしか出来ない。(また見れば思い出すと本人は言う。)
因みに、恋愛に関しては鈍感で禰豆子の必死のアピールやアタックにも気付かない、とても残念なやつ。
キメツ学園編読みたいか、どうか。
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