【仮名】必ず僕達がお前を治す。   作:紅の覇者

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多くの方から誤字報告を頂いています。
投稿する前に確認はしているのですが、見逃してしまっているみたいですね。
報告してくださる多くの方々、本当にありがとうございます。

最終選別前日からのお話です。どうそ。


11話『嘘………だろ』

 蝶屋敷に来てちょうど1年が経過した。

 

 鬼殺隊に入ろうと地元に離れて、もう2年が経ったのか。時間が流れるのを早く感じてしまう。

 

 15になった僕は、当然ながら身長も伸び、胡蝶さん曰く少し大人びた顔つきになっているという。神崎先輩に頼んで身長を測ってもらったら170cmあった。2年で20cmも伸びたのか。

 

 いやぁ、それにしてもこの1年。色んなことがあったなぁ。

 

 医学の関する知識を、胡蝶さんから学べれるだけ学んだ気がする。医学は一生勉強しなければならない職業だと言われているため、さらに勉強しなければならないが、それでも独学していた頃に比べたら圧倒的に知識量は増えている。嬉しいことだ。

 

 さらに薬剤の調合についても、胡蝶さんから正しいやり方を教えてもらったことにより、さらに新たな薬を調合しまくった。

 

 調合する度に、胡蝶さんが驚愕する表情を浮かべていたが、あれは何を驚いていたのだろうか。まぁ、考えるのはやめよう。

 

 しかも、僕は3ヶ月ほど前からは『毒』についての研究も個人で始めていた。胡蝶さん曰く、鬼を殺せる『毒』もあるらしい。そんなの聞かされたら、興味出るに決まってるじゃないか。

 

 お陰様でそれ以降、『毒』に興味を持った僕はそのまま流れで胡蝶さんから、ある呼吸法を習った。その呼吸法は案外3週間ほどでマスターすることが出来た。

 

 元々はその呼吸は水の呼吸の親戚みたいなものだと胡蝶さんは言ってたため、水の呼吸を使っていた僕にとってはそこまで苦では無かったのだろう。

 

 むしろ、鱗滝さんには申し訳ないが僕は水の呼吸よりも胡蝶さんから習った呼吸の方が合ってるらしく、最近はずっとその呼吸の型を重点的に磨いている。とは言っても、ちゃんと水の呼吸の型もたまにだが忘れないように繰り出すようにはしている。

 

 "全集中"常中に関しては完璧にマスターした。何気なくこうやって過ごしてるけど、今も"全集中"の呼吸をしてるんだぜ?

 

 それにしても呼吸法って凄いよな。呼吸するだけで病気や毒とかの侵攻を抑えられるし、なんなら止血とかも出来ちゃう。近いうちに呼吸だけでどんな病気も完治できる未来が来るかもしれない。………そうなったら医者いらないじゃん。廃業になっちゃうよ。

 

 と、そんな下らない考えをしながら現在、僕と栗花落は"育手"である胡蝶さんの目の前で正座していた。

 

 男女3人がただ向かい合って正座しているだけなのに緊張感が走る雰囲気が部屋全体を漂わせている。

 

 「遂に明日………あの日がやって来ました」

 

 先に口を開いたのは胡蝶さんだった。そして、彼女が言う"あの日"。

 

 

 

 それは鬼殺隊の最終選別のことを指している。

 

 

 

 試験の内容は鬼殺隊の剣士によって捕らえられた鬼が潜む藤襲山に7日間生き残るということ。

 

 捕えられているということは、そこまで強くは無い鬼しかいないのだろう。しかし、その鬼達さえも倒すほどの実力が無ければ今後的に意味がない。

 

 鱗滝さんの鴉を通じて炭治郎と文通を行っているが、今年の最終選別に参加するようだ。なので、僕も胡蝶さんに最終選別に行かせて欲しいと頼んだら、すぐに了承を得た。

 

 そもそも、僕が頼まなくても胡蝶さん的には、僕を今年の最終選別には行かせる気だったらしい。理由としては、今回の最終選別に栗花落を元々、行かせようとしていたため、僕にも彼女と一緒に行ってもらいたかったという。付き添いみたいな感じかな。

 

 なので、命が懸かっている試験に向かう"継子"である俺たちに話があるらしく、こうして座っている。因みに、こういう激励的なことって試験当日にやるものじゃないの?と思うところではあるが、運悪く明日は早朝から

胡蝶さんはどうしても外せれない仕事が入ってしまい、蝶屋敷にはいないのだ。

 

 この時の胡蝶さんは本当に怖かった怖かった。なにせ、前々から最終選別当日は僕達を送り出すために予定を開けていたのにも関わらず、3日前ぐらいに急遽、よりによって僕達が最終選別に向かう日に大事な予定が入ったらしく、その日の胡蝶さんは珍しく荒れていた。

 

 普段は丁寧な口調で話すのだが、その日の夜はとてもキツい口調で数々の暴言を愚痴のように零していた。その愚痴を僕は朝まで聞かされて、その日の稽古は寝不足で仕方が無かった。

 

 それゆえに、最終選別の前日に胡蝶さんから激励のお言葉を頂くことになったということだ。

 

 「2人にはこれを渡そうと思います」

 

 胡蝶さんはそう言って、彼女のすぐ横に置いてあった刀2本を僕達に1本ずつ差し出す。

 

 「知っているとは思いますが、念の為説明しておきますね。この刀は"日輪刀"。太陽の光をたっぷりと浴びた2種類の鉱石で造られる刀です。この刀で鬼の首を刎ねれば、奴らを殺すことが出来ます。」

 

 鱗滝さんも以前、日輪刀について同じようなことを言っていたな。1年前のことだけど、昨日のように感じてしまう。

 

 「それでは2人とも、よく聞いて下さい。」

 

 「はい」

 

 「……………はい。」

 

 「貴方たちなら、恐らくですが心配することなく最終選別を突破することはできるでしょう。それほどの実力は2人にはあります。落ち着いて行動するようにしてください。」

 

 胡蝶さんは僕達にそう言ったあと、背後から箱を2つ取り出して僕達の前に置く。

 

 「これは、私からの餞別です。受け取って下さい。」

 

 僕と栗花落は互いに顔を見合わせたあと、2人でその箱を開ける。

 

 栗花落が渡された箱には綺麗な蝶の髪飾りが入っていた。

 

 「カナヲが今、付けているのは結構ボロボロになってしまいましたからね。新しいのをプレゼントします。」

 

 栗花落は無口ながらも、嬉しそうに頬を赤くして今、付けている蝶の髪飾りを外し、胡蝶さんから頂いた新しい髪飾りを付けた。

 

 「ふふ、とても似合ってますよ。カナヲ。ね?成矢くん。」

 

 「…………そうですね。少なくとも3年前の僕なら見た瞬間に告白していたと思います。」

 

 悔しいところではあるが、とても似合ってて可愛い。髪飾りが変わるだけでこうも変わるのか。くそ………、稽古している以外は朝から晩までひたすらシャボン玉しかしてない癖にぃ………。

 

 そして、僕の箱に入っていたのは

 

 

 「…………白衣??」

 

 

  そう。少し大きめの白衣を連想させるような真っ白の羽織だった。しかも、よく見てみると胸元部分には2匹の鮮やかな蝶が刺繍されている。

 

 「成矢くんに何か贈るとしたらこれしか思いつきませんでした。どうでしょうか?」

 

 どうでしょうか?だって?そんなの、言われなくても分かるだろう。

 

 「ありがとう……ございます」

 

 凄く………物凄く嬉しいに決まってるじゃないか。

 

 栗花落と同じく、僕は今着ている着物の上から胡蝶さんに頂いた白衣を羽織る。おぉ………、羽織るだけで見た目がもう医者にしか見えない。テンションが高ぶっているのかが分かる。

 

 「成矢くんもお似合いですよ。ね?カナヲ。」

 

 「………………」コクリ

 

 あの栗花落が頷いてくれたことに驚きながらも、僕も頬を赤くさせながら頭を下げた。

 

 「では、最後に。2人とも必ず生きて蝶屋敷に戻って来て下さい。あんな場所で死んだら…………許しませんからね。」

 

 「はい!!」

 

 「…………はい。」

 

 僕達の返事を聞いたあと、満足した胡蝶さんは部屋から退室した。なので、僕達も明日に備えて荷物を準備して寝ることにした。

 

 自室へ向かっている途中

 

 「あ、神崎先輩」

 

 「成矢さん」

 

 大量の洗濯物を手にしている神崎先輩と出くわす。1人じゃ大変そうだったので、無理言って半分、洗濯物を手にして彼女の隣に歩く。

 

 「遂に明日ですね。最終選別」

 

 「はい」

 

 神崎先輩と並んで歩いていると、彼女は僕に向かって口を開く。先輩も知ってたのか。

 

 「怖い………ですか?」

 

 「そうですね、怖くはないと言ったら嘘になっちゃいますけど………そこまで気にしてはないです。」

 

 「………凄いですね、成矢さんは。」

 

 彼女は少し俯きながら悲しそうに答える。神崎先輩は鬼殺隊に入ったものの、最初の任務で恐怖心を抱き、それ以降戦えなくなってしまったという。そんな中、胡蝶さんが神崎先輩を受け入れてくれたそうだ。

 

 先輩の同期は命を懸けて戦っているというのに、彼女自身は蝶屋敷でのほほんと暮らしている。恐らく、彼女はそれを負い目として抱え込んでしまっているのだろう。

 

 

 けど、神崎先輩は1つ勘違いしている。

 

 

 「別に逃げたっていいじゃないですか。」

 

 「え?」

 

 僕の言葉に、先輩は目を丸くして僕の方を見る。

 

 「もし、本当に先輩が自分をクズ野郎と思うのならば逃げたことすら気にも留めてませんよ。同期なんて顔すら覚えてないでしょう。それに対し、神崎先輩は"逃げてしまった"という負い目を感じながらも蝶屋敷で立派に責務を果たしてるじゃありませんか。確かに前線には立ってはいませんが、先輩も他のみんなと変わりなく、しっかりと戦っていると僕は思います。」

 

 確かに、神崎先輩は鬼と戦うことからは逃げたのかもしれない。しかし、この人は戦うのはやめたが、こうやって負傷した鬼殺隊の隊員を治療する手伝いをしっかりと果たしている。

 

 なら、別に負い目を感じることはない。むしろ、誇ってもいいはずだ。

 

 負傷した隊員を治療する際に、神崎先輩は必死に励ましているの僕は何度も目にしてきた。それによって、救われた隊員も少なくは無い。

 

 蝶屋敷に神崎アオイは不必要な存在か。答えは言わずもがな、否に決まっている。それは僕だけでなく、他の人に聞いたとしても同じことを言うだろう。

 

 「そんなこと………初めて言われました。ありがとうございます、成矢くん。」

 

 神崎先輩は瞳に涙を浮かべながら言葉を出す。少なからず、僕の言葉が彼女の心に響いてくれたようだ。これで、彼女が前を向いて日常の日々を過ごしてくれることを願う。

 

 そして、僕は神崎先輩と共に大量の洗濯物を干し終えたあと

 

 「成矢くん」

 

 「はい?」

 

 神崎先輩に声をかけられる。なので、振り向くと彼女は俺の両手を優しく包み込みながら

 

 「明日の最終選別………頑張って下さい。カナヲと2人で帰ってきてくれると信じてますから」

 

 と、僕に言葉を出してくれた。この時の神崎先輩の表情は重荷が外れたせいなのか、とても穏やかな笑顔を見せてくれた。彼女の笑った顔を見るのはこれで初めてなのかもしれない。とても綺麗だった。

 

 「勿論ですよ。これからも、僕は神崎先輩に色々と教えて頂きたいですしね。」

 

 そんな僕は彼女の言葉に対して絶対に戻って来るという意志を伝える。すると、神崎先輩はまたしても可愛らしく微笑んでくれた。思わず、ドキッとしてしまったのはここだけの内緒である。

 

 そして、神崎先輩と別れたあと自室へと戻り、忘れ物がないかをチェックして僕は眠りについた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「鈴蘭さーん!!早くしないと遅刻しますよ!!」

 

 「はい!!すみません!!今すぐに食べます!!」

 

 次の日、ぷんぷんに怒るすみちゃんに怒鳴られながら僕は朝ごはんを食べていた。

 

 簡単に言うと、思いっ切り寝坊しました。

 

 久しぶりに炭治郎に会えるという喜びと禰豆子ちゃんは元気かな、という心配と、明日の最終選別で生き残れるかな、という緊張感が襲いかかってきて余り眠れなかったからである。

 

 ここから、藤襲山に向かう時間を考えると早く出ないと間に合わない。

 

 恐らく、神崎先輩が作ったくれたであろう朝食を急いで腹に入れる。

 

 「鈴蘭さん!カナヲ様が待ってくれてますよ!」

 

 え?あいつ、待っててくれてるの?意外なんですけど。でも、まぁ、もう少し時間かかるし待ってもらうのも失礼だからな。

 

 「先行ってもらうよう頼んどいてくれる?」

 

 「いいんですか?」

 

 「うん。僕のせいで栗花落も遅刻したとなったら彼女に迷惑かけるしね。」

 

 「分かりました!鈴蘭さんも早く準備してくださいね」

 

 「はいよー」

 

 なほちゃんがトテトテと走っていくのを眺めながら僕は朝食を完食し、歯を磨いたあと部屋から荷物を取り出す。

 

 昨日のうちから準備はしてあったから、あとは着替えるだけだ。

 

 着ていた寝衣を脱いで、いつも稽古の時に使っていた薄い抹茶色の着物を見に纏い、その上から胡蝶さんに貰った白衣を羽織る。

 

 よし。これで出発する準備は完了。

 

 あとは全力でダッシュすればギリギリ間に合うだろう。早く行かなくては。

 

 …………そういえば、今日、神崎先輩に会ってないな。朝から出掛けてるのかな?

 

 っと、そんなことを考えている余裕はない。マジで急がないと本当に遅刻してしまう。

 

 そう思い、玄関に向かおうとした瞬間、

 

 

 「アオイ様!!アオイ様!!大丈夫ですか!?」

 

 

 「ーーーーッッ!!」

 

 蝶屋敷中にきよちゃんの大声が響き渡る。声からして、ただ事ではないことは確かだ。

 

 僕はすぐに声が聞こえてきた神崎先輩の部屋へと入ると、そこには

 

 「はぁ………はぁ………ぐっ!!」

 

 「ーーーッッ!?」

 

 

 大量の汗をかきながら、苦しそうに呼吸をしてベットに横になっている神崎先輩の姿があった。

 

 「神崎先輩!!!」

 

 僕は肩に背負っていた荷物をすぐに手放して彼女の様子を伺う。おでこに手を当てると、とても熱い。そして、脈を測ると、かなり先輩が衰弱しているのかが分かる。

 

 明らかにただの病気ではないと僕は直感的に判断した。

 

 詳しく調べなければ。早くしないと神崎先輩が危ない!!

 

 そう思い、僕は顕微鏡などを引っ張り出して先輩が苦しんでいる原因を調べる。

 

 案外、その原因はすぐに発覚した。発覚したのだが………

 

 

 「嘘………だろ。」

 

 

 思わず、僕は嫌な汗を頬から伝えながら言葉を呟いてしまった。

 

 神崎先輩を苦しませている原因。それは……………………

 

 

 

 

 "結核"

 

 

 

 

 現在、"不治の病"として世界中で多くの死者を出している治療不可能な病気に神崎先輩は掛かってしまっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




次回、鈴蘭めちゃくちゃ頑張ります。お楽しみに。

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