今年も、この作品をよろしくお願いします。
「鴉!!今、手が空いている鴉はいるか!!」
僕は神崎先輩の部屋で声を上げる。こんなに、大きな声を上げたのは初めてかもしれない。
すると、僕の目の前に2匹の鴉がバサバサと急いで飛んできた。こいつらは蝶屋敷専属の鎹鴉で特に僕に懐いてくれている可愛いヤツらだ。……って、今はこんなこと説明してる場合じゃない。
僕は早口で2匹の鎹鴉に使命を出す。
「今すぐに胡蝶さんを蝶屋敷に呼んでくれ!!呼び主は成矢 鈴蘭!!要件は『神崎アオイが"結核"により体調が悪化!!生命に危機あり!!早急に帰宅を求む!!』で頼む!!」
「リョーカイ、リョーカイ!!」
「お前はここから1番近い街まで飛んで医者を呼んでくれ!!要件はさっきと同じだ!!」
「リョーカイ、リョーカイ!!」
「頼むぞ、2匹とも!!」
バサバサと、窓から飛び立つ2匹の鎹鴉を見送りながら僕は神崎先輩の様子を見る。
くそ………、よりによってどうして"結核"なんだ!!先輩が何をしたっていうんだよ!!
僕は歯を食いしばりながら、彼女の不運を呪う。"結核"は未だに治療法が発見されておらず、"不治の病"と呼ばれていて、結核に掛かったら最期。必ず死んでしまうと言われている。
はっきりと言ってしまえば、この状況をどうにかしようとしてもどうにもならない。胡蝶さんがいれば、微々たる希望は出てくるかもしれないが、現状僕にはどうすることもできない。
このまま、神崎先輩が"結核"によって弱り果てて死んでいくのを僕はただ見ることしか出来ないって言うのか。
くそ!!くそ!!くそ!!
「…………成………矢さん」
「ーーーーッッ、神崎先輩!!」
彼女は辛そうに僕の名前を呼ぶ。意識が戻ったみたいだ。それは良かったのだが………
「先輩、喋らなくて大丈夫です!!今、胡蝶さんを呼んでーーー」
「もう……いいですから。」
「ーーーーえ?」
神崎先輩は僕の言葉を遮って、何度か呼吸を浅く行いながら彼女自身の心境を騙り始める。
「私はもう………間に合いません。だから…………気にせずに最終選別に行ってください」
「ーーーッッ!?何を言って」
「早くしないと………最終選別が受けられなくなってしまいます………よ。」
「そんなこと………今はどうだっていいじゃないですか!!」
どうして、僕なんかのことを!!今は自分のことを大切にして欲しいのに!!
「貴方は………"逃げた"私と違って、その刀で多くの人を助けることが出来る力があります。だから……………お願いします。行ってください」
先輩は今、とても辛いはずなのに僕に向かって………笑顔で言葉を出した。顔は赤くし、汗も止まらずにかき続けているというのにも関わらず。
その笑顔を見ると、とても心が痛くなる。
神崎先輩の想いを素直に受け入れるとするならば、最終選別に向かった方が彼女のためになるかもしれない。
だけど………だけど!!
本当に………それでいいのだろうか。
神崎先輩の最期を………こんなところで終わらせていいのだろうか。
それは、否に決まっている。当たり前じゃないか。
神崎先輩がいたからこそ、今の僕がいるんだ。蝶屋敷での稽古の過酷さで折れそうになった時、いつも支えてくれたのは彼女だ。
それを、僕はまだ恩返しできていない。
じゃあ………どうするか。
…………ハッキリしろよ、成矢 鈴蘭。本当は分かってるんだろ。
自分が今、この場でやるべきことを。
確かに、無謀なことかもしれない。無理かもしれない。時間の無駄なのかもしれない。
だけど、それを理由に僕は逃げたくない。
禰豆子ちゃんを人間に戻す?これから先、多くの人を救う?笑わせるな
目の前で今にも苦しんでいる人がいるというのに、それを見逃していいものか。
僕は……………医者になるんだ!!
なら…………覚悟を決めろ、成矢 鈴蘭。
1つしかないこの命をここで懸けてでも!!
「なほちゃん!!きよちゃん!!すみちゃん!!」
「「「ーーーはい!!」」」
僕の呼び声に彼女達を呼ぶ。3人とも、涙を浮かべながら不安そうにこちらを見つめる。
「長袖の上下、エプロン、手袋、マスクを装着しお湯と大量のタオルを持って戻って来て!!10秒以内に!!」
「「「ーーーーッッ!?わ、分かりました!!」」」」
僕の言葉に3人は急いで部屋から出て行き、本当に10秒以内に指示通りの格好とタオルを持って戻って来てくれた。"結核"は感染病。しっかりとした防護具を着ないと彼女達も感染する可能性がある。
「先輩の身体をそのタオルで温めたり、汗をできる限り拭いてあげてくれ。あと、励ましの声かけも忘れずに。」
「「「はい!!」」」
「何を………考えてるんですか。成矢……さん。話…………聞いていましたか?」
神崎先輩は驚愕した表情で僕に言葉を出す。当然といえば、当然だな。彼女の願いを無視したのだから。
「5分だけ…………僕に時間下さい。」
「え?」
僕は真剣な表情をして神崎先輩に言葉を出す。
「"結核"の治療薬を………5分で調合します。」
「ーーーーッッ!?」
神崎先輩は信じられないような表情を浮かべる。そんなの、不可能だと考えたからだろう。
はるか昔から恐れられていた病気の治療薬を今から5分で調合させるというのだ。驚愕するのも無理はない。はっきりして無謀な挑戦だ。
しかも、そんなことをしてしまったら、今年の最終選別には参加できなくなってしまうのは確実。鬼殺隊に入ることはできない。
だけど…………やるしかないんだよ。じゃなきゃ、神崎先輩は死んでしまう。
そんな後悔だけは絶対にしたくはない。
「そんなの…………出来るわけーーー」
「出来ます。作ってみせます。もし、作れなかったら責任取って切腹します。だから………僕を信じて下さい。」
僕は先輩の顔を見て真剣な顔で言葉を出す。彼女の瞳には1度も見たことの無い表情をしている自分の顔が映し出されていた。そんな顔も………出来るんだな。
そして、僕はこの部屋から退室しようとした瞬間、ぐいと腕を掴まれる。振り返ると、荒い呼吸をしながら神崎先輩が僕の腕を掴んでいて
「本当に………出来るんですか?」
と、不安そうにしながら僕に聞いた。
そんなことを聞くってことは、彼女も本当は死にたくなく、生き続けたいということ。
「出来ますよ。なにせ、僕の勘は良いですから。」
ニコッと微笑みながら、安心させるように僕は神崎先輩の頭を優しく撫でる。年下の男子に撫でられるとは思ってもいなかったのか、先輩は顔をさらに赤くして恥ずかしそうに顔を俯いた。だけど、満更でもなさそうだ。
「3人とも、あとは頼んだよ」
「「「はい!!」」」
神崎先輩を3人に任せたあと、僕は先程、彼女の病気を診断するときに使用した彼女の血が入っている試験管を手にして部屋から退室する。
急いで向かった場所は薬草の保管室。
胡蝶さん曰く、鬼には"血鬼術"と呼ばれる技を使うらしく、中には毒や菌、ウイルスに関連したタイプもあるらしい。
なので、そういう技を喰らってしまった剣士をできるだけ対応できるように、鬼殺隊のお偉いさんのアテで世界中の薬草や薬品を仕入れてもらっているという。
目の前にある引き出しを何個かあけると、中から大量の薬草が出てくる。
知ってるものもあれば、見たことの無い薬草もある。名前も知らなければ、どんな効果をもたらすのも知らない。
それでも……調合するしかないんだ。
僕は早速、何種類かの薬草を鷲掴みにして、薬研と呼ばれる薬草をすり潰すために使用する医療器具に放り投げて調合をしていく。
粉々になった薬草を水に浸し、その各々の薬草の成分が合わさった液状タイプの薬を早々に作り上げる。
そして、出来た薬を1滴、"結核"の原因となる"結核菌"が含まれているであろう神崎先輩の血に垂らして顕微鏡で観察する。
もし、これで"結核菌"が嫌がる反応を見せれば成功となるのだが………
特に反応は見えなかった。明らかに失敗である。
「くそ!」
すぐに薬草の厳選からし始める。今度は、感染病に効くとされる薬草をベースにして、色んな薬草と調合させ、薬を作る。
しかし、この薬も反応を見せず失敗。
僕は何度も何度も薬草を厳選し、調合させ開発した薬を"結核菌"に垂らすが、どれも反応は無かった。
「これもダメか………」
7回目も失敗し、追い込まれる。もう僕の辺りは散らばった薬草やら水やら医療器具やらで悲惨な状況になっていた。これを、胡蝶さんや神崎先輩が見たら相当ブチ切れるであろう。
約束の5分までもう僅か。
調合も出来てあと1回だ。
しかし、7回とも失敗している僕は焦燥心によって何を選べばいいのか分からなくなっていた。
やはり…………僕には神崎先輩を救うことができないのか!?
折れてしまうかっていうぐらい、僕は歯を食いしばる。しかし、こんなことをしている間にも時間は進んでいく。
どうすればいいんだ!?どうすればーーー
ーーーピシィィィィィィィン!!!!
「ーーーーッッ!!??」
突然、僕は誰かに殴られたような感覚に襲われる。実際には誰からも殴られていたのだが、それでも不思議な感覚だ。
今、自分自身に意識があるのか、ないのかよく分からない。なんだか、ふわふわする。
(…………あれ?)
すると、僕の身体が勝手に動き出した。一体、何が起きているというのか。
そして、引き出しを開けて、僕の手は何種類かの薬草を掴み始める。
厳選を終えたあと、同じように薬研に入れてすり潰して調合し、水に浸して液状タイプの薬を作り出す。その光景を僕はただ、黙って見つめるしか無かった。
僕が無意識の状況の中で作った薬を1滴、"結核菌"に垂らす。それを顕微鏡で観察する。
これでもしダメだったら、もうタイムアップなのだがーーー
「ーーーーーーーーーーーは!?」
僕は信じられないといった表情で顕微鏡を眺める。
なんと、"結核菌"が反応を見せた。しかも、みるみると縮小して小さくなっていくのだ。
「完成…………した!?」
ここで、完全に僕は意識を取り戻す。そして、その薬を持って保管室を後にした。
本来なら、もう少し確かめた方が良いのかもしれない。しかし、もう時間はないし、確か目でいる間に神崎先輩は死んでしまうかもしれない。
すぐに彼女の部屋に戻ると
「「「成矢さん!!」」」
3人は絶望に浸ったような表情を浮かべながら僕に飛びつく。
まさかーーー!?
「はぁ、はぁ、はぁ!!」
僕の想像通り、神崎先輩は先程より過酷な状態へとなっていた。目は飛び出しそうなぐらい見開いてい、呼吸も荒いを通り越して過呼吸へとなっている。言葉も出せれなくなっていた。
これはまずい!!早く治療しなくては!!
「先輩………いきますよ」
僕は薬を注射器に入れ込んで、彼女に針を突き刺す。そして、薬を先輩の体内に注入していく。
「はぁ、はぁ、はぁ!!」
薬を注入してもなお、先輩の様子は変わらない。まだ時間がかかるようだ。
僕は未だに苦しむ神崎先輩の手を両手で包み込んで、様態が安泰することを心の底から望む。
「先輩!!頑張れ!!頑張れ!!頑張れ!!」
必死に僕は彼女の名前を呼び、励ましの言葉を言う。もう、これしか僕にすることはないのだ。
神崎先輩、負けるな!!頑張れ!!頑張れ!!死ぬな!!死なないでくれ!!
僕は神崎先輩のことを、疲労で意識が失うまで言葉を出し続けた。
「もしもーし、成矢くん」
「ーーーへぁ?」
誰もが聞いて安心するような女性の声によって、僕は情けない声を出しながら目を開ける。
「おはようございます、成矢くん。」
目の前には胡蝶さんが立っていた。
「胡蝶………ひゃん」
起きたばっかりで呂律があまり回らず噛んでしまった。恥ずかしい…………
「はい、あなたの"育手"である胡蝶 しのぶですよ」
「ーーーそうだ、神崎先輩は!?彼女は!?」
どれくらい僕は寝ていた!?胡蝶さんが来たってことは薬を注入してから結構な時間が経過しているということ。
「胡蝶さん!!先輩はーーー」
「成矢さん」
「ーーーーッッ」
僕の声を遮って、聞きなれた女性の声が僕の名を呼ぶ。
振り向くと、そこにはーーー
「神崎…………先輩」
いつもの服を身に纏って、笑顔でこちらを眺める元気そうな神崎先輩の姿があった。
「きゃ!?」
「あらあら」
僕はすぐに彼女の方に飛びつき、思い切り抱き締める。先輩は可愛らしい声が聞こえてきたが、気にしない。
「良かった!!先輩が治って良かった!!う、うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
僕は大粒の涙を流しながら、まるで子供のように泣きまくった。
死んでしまうかと思った。もう目の前からいなくなってしまうと思った。それが怖かった。
本当に………良かった。
「成矢さん、ありがとうございます。私の命を助けてくださって」
今度は彼女が僕の頭を撫でながら感謝の言葉を贈る。その言葉を聞いてさらに僕は感極まってしまってさらに涙を出してしまった。
「成矢くん。そろそろ離れた方がいいんじゃないでしょうか?」
「え!?あ…………」
落ち着いたところで、今の自分がしていることを理解する。すぐ僕の目の前には神崎先輩の顔があって、隙間がないぐらい密着している。彼女の………胸の感触も今になって感じ始めている。い、意外と柔らい………って何を考えてるんだ!!
「ごめんなさい!!すぐに離れます!!」
バッ!!とすぐに神崎先輩から離れようとしたが
ーーーガシッ
「え?」
今度は神崎先輩が僕の腰に腕をまわして僕が離れないように抱きしめ始める。それによって、僕は再び彼女と抱きしめ合う形となってしまった。
「は、え、ちょっと!?」
「もう少しだけ………私を抱き締めてください。」
「あ…………はい。」
ぎこちない動きながらも、僕は神崎先輩を抱き締める。あぁ〜〜、またしても彼女の胸の感触がぁ………
「あの神崎先輩……」
「名前」
「へ?」
「苗字は嫌です。名前で呼んでください」
「( ˙꒳˙ )ファ!?」
名前!?なぜ!?苗字じゃダメなの!?
でも、呼ばれたいのなら………しょうがないよな。
「アオイ………先輩。」
「………もう一度、呼んでください」
「アオイ先輩」
「…………ありがとうございます。」
神崎先輩………じゃなかった。アオイ先輩は嬉しそうにして僕から離れた。い、一体何だったんだ!?
「それじゃあ、成矢くん。早速ですが、最終選別の方へと向かって下さい」
胡蝶さんは僕に向かって声をかける。
「ですが、もう…………」
最終選別には間に合わない。てか、既にもう始まっているだろう。日は最低でも1日は経っているはずだが…………
「大丈夫。話は上に通しておきました。1日遅れですが、あなたを今回の最終選別に受けさせることを"蟲柱"の権限で許可します。」
「えぇーーー!?」
そんなことってアリなの?柱って改めて凄いことを学んだ。
「あ、ありがとうございます!!では、すぐに行ってきますね」
僕は昨日、放り投げていた荷物と刀を手にして玄関に向かって走り出すが
「成矢さん………いえ、鈴蘭さん。」
アオイ先輩から声をかけられる。しかも、名前呼びで。
「頑張ってきて下さい。待ってますから」
「はい!!行ってきます!!」
あんな笑顔で言われたら、頑張るしかないじゃないか。
僕は胡蝶さん、アオイ先輩、なおちゃん、きほちゃん、すみちゃんの5人の前で頭を下げてから蝶屋敷を出る。
こうして、1日遅れではあるが、僕は最終選別を受けるために藤襲山へと向かうのであった。
ーーーしのぶ視点
成矢くんが最終選別を受けに行くため部屋を出てから数分ほど時間が経ちました。
「アオイ、体調の方は」
「はい、もう大丈夫です。」
アオイに何度も同じことを聞きましたが、最後に念の為です。ですが、見た限りでは本当に大丈夫そうですね。
あと、アオイ。気づいていないと思いますが、恋する乙女のような表情をしていますね。
成矢くんのことが……………好きになってしまったのでしょうか。まぁ、命を救ってくれたのですから、無理もないのかもしれませんね。
鴉から報せを聞いた時は驚きました。
アオイが"結核"になったというのを聞いて、すぐに私は蝶屋敷に向かって走りました。
運が悪いことに結構な距離があったので到着するのに時間がかかってしまいました。
早くなんとか処置をしなくては!と思い、アオイの部屋に突入したのですが
「…………え?」
なんと、私の目の前にはアオイは苦しむことも無く安心してベットの上で寝ていました。診療してみると、異常はありません。そして、彼女のすぐ傍には成矢くんがアオイの手を掴みながら不安そうに寝ていました。
これは………何が起きているのでしょうか。
「ん?」
成矢くんの足元に何かが落ちている?拾ってみると、それは使用済みの1本の注射器でした。
ーーーーーーーまさか!?
すぐに私は薬草の保管室へと向かい、中に入ります。すると………
本来なら綺麗なはずの保管室が悲惨な状況へとなっていました。犯人は言わずもがな、成矢くんでしょうね。
まさか………ここで"結核"に効果のある治療薬を調合したというのでしょうか?
「成矢 鈴蘭くん。貴方は一体………何者なんですか?」
私は凄いということよりも、恐怖に感じました。恐らくですが、いつものように勘を頼りに作り上げたのでしょう。
これは少し…………調べてみる必要がありますね。
次回、最終選別編です。
キメツ学園編読みたいか、どうか。
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