炭治郎達と別れたあと、僕は半日かけて蝶屋敷のすぐ目の前まで辿り着くことが出来た。
分かっていたことだけど、やっぱり狭霧山から蝶屋敷まで結構距離あるな。正直言って疲れたわ。お腹もなってる。アオイ先輩にお願いして何か軽く手料理を作って貰おう。
そう思いながら、扉を開けて「ただいま、戻りました〜。」と声をかける。すると、バタバタと屋敷内から足音を立てて、こちらの方に向かって来る。
「「「成矢さん!!!」」」
最初に僕のことをお出迎えしてくれたのは、なほちゃん、きよちゃん、すみちゃんの仲良し3人組だ。3人は涙を流しながら僕に抱き着く。
「心配しましたんですよ、もう!!」
「でも、帰ってきて良かったです!!」
「あ、荷物持ちますね!!」
「あはは、ありがとう。3人とも」
僕は相変わらずだな、と微笑みながら3人一緒に抱き締め、頭を撫でる。
「おかえりなさい、鈴蘭さん。」
「アオイ先輩」
すみちゃんに荷物を預け、3人がドタバタと屋敷の奥へと向かうと同時に今度はアオイ先輩が姿を現した。
「ただいまです。身体の調子はどうですか?」
アオイ先輩の姿を見た瞬間に、僕は彼女に体調を聞いた。僕が離れた後は、胡蝶さんに任せたから大丈夫だと思うが、それでも彼女は一応、不治の病に侵されていたのだ。念の為、聞いておかないとな。
僕の質問に、アオイ先輩は微笑みながら
「はい。鈴蘭さんのおかげで快調です。」
と、言葉を出してくれた。彼女の言葉通り、本当に大丈夫そうだ。そして、アオイ先輩の言葉を聞いて少しだけ照れしまう。
「胡蝶さんと栗花落はいます?」
「しのぶ様とカナヲですか?2人は奥にいますよ。顔、見せに行きますか?」
「えぇ。とりあえず、報告だけ行こうかなと。…………あ、そうだ。アオイ先輩」
靴を脱ぎ、屋敷の奥へと向かおうとする前に僕は彼女の方に顔を向けて申し訳なさそうにしながら言葉を出した。
「なんですか?」
「申し訳ないですけど、何か軽く作ってくれませんかね?帰る途中からずっとお腹減っちゃってて………」
「それぐらい別に構いませんよ。」
「本当ですか!?やったぁ!!いやぁ、もうアオイ先輩の手作り料理が食べたくて食べたくて仕方が無かったんですよね!!」
「ーーーッッ!?そ、そうなんですか……」
「はい!!途中、どこかに寄って食べてこようかなって思ってたんですけど、やっぱりアオイ先輩の手料理が食べたいなって思って我慢してきたんです!!」
「そ、そんなに!?」
僕の異常な喜びを見て、アオイ先輩は徐々に恥ずかしそうにして顔を赤く染めていく。何をそんなに恥ずかしがることがあるんだろうか。僕は本当のことしか言っていないのに。
「そ、それじゃあ………要望とかありますか?」
アオイ先輩は未だに顔を赤くしながら、ボソボソと言葉を呟く。要望かぁ………。アオイ先輩が作る料理は全部美味しいから迷っちゃうな。
………よし。決めた。
「握り飯がいいです!!」
「握り飯………ですか?」
「はい!具材はアオイ先輩に任せます!!」
今回は軽くお腹を満たすためのお願いだから、握り飯がちょうどいいぐらいだろう。簡単だから、時間や負担もそんなにかからないしな。それに、具材をアオイ先輩のお任せにすることによって、食べる楽しみも増える。
「わ、分かりました。では、鈴蘭さんがしのぶ様とカナヲに報告している間には作っておくので、食べたくなったら私に声掛けてくださいね。」
「はい!!楽しみにしてますね!!それじゃあ、また後ほどで!!」
僕はテンションを高くさせながら、ウキウキ気分で奥へと向かう。ちゃちゃっと2人に報告して早くアオイ先輩の作った握り飯を食べるとしよう。
因みに、僕がアオイ先輩の前から姿を消したところでーーー
「あれ?アオイ様?どうかしました?」
「………気にしないで下さい。」
すみちゃん曰く、何故か顔をトマトのように真っ赤にさせ、両手で手を隠しながら床に倒れ込んでいるアオイ先輩の姿があったという。
(次いでにお味噌汁も一緒に作ってあげよう。鈴蘭さん……喜んでくれるかな?毎日作って欲しいとか言われたらどうしよう………って何を考えてるのでしょうか、私は!!)
♠♠♠♠♠
恐らく2人がいるであろう部屋の襖を開けると、案の定、胡蝶さんと栗花落が待っていたと言わんばかりに正座していた。
「おかえりなさい、成矢くん。」
「ただいまです、胡蝶さん。」
僕はそう言いながら、2人と同じく正座をして座り、向かい合う形をとる。
「最終選別突破おめでとうございます。成矢くんなら突破できると信じてましたよ。」
胡蝶さんはそう言って、僕の頭を撫でる。
「あ、ありがとうございます。」
「それで、成矢くんはどんな6日間を過ごしてきましたか?カナヲのはもう聞いたんですが、成矢くんのも聞きたくて楽しみにしてたんですよ。」
胡蝶さんは声を弾ませながら、楽しみそうに聞く。栗花落も相変わらず真顔ながらも、ソワソワとしているので多少なりと気になっているようだった。
あと、ここだけの話、栗花落の話は胡蝶さん的にはつまらなくて少し窮屈だったらしい。栗花落の場合は出てきた鬼の頸をただズバズバと斬り落としてきただけなんだろうな、と容易に想像出来る。だって、強いもん、この姉弟子。
僕はこの6日間にあった出来事を手短にあっさりと胡蝶さんと栗花落に説明した。早くアオイ先輩の握り飯が食べたいのですよ………………。
説明し終えたあと、胡蝶さんは興味深そうに頷いたあと言葉を出した。
「まさか、異能の鬼がいただなんて………。それは驚きでした。」
本来なら数人しか食っていない鬼しかいないと思われているからな。何十年も生き残り、そして50人近くの最終選別に参加した子供たちを喰ってきた鬼がいたとなれば、驚きだろう。
「他にも、同じような鬼がいるかもしれないので1度確かめる必要がありますね。」
その方がいいと思う。そしたら、来年からは最終選別を突破する人数が増えると思うからな。
「まぁ、その鬼は無事に前から話してた親友と協力して倒せたんで良かったですよ。それじゃあ、僕はこれで。」
ペコリと、2人の前で頭を下げて立ち上がろうとする。さてさて、そろそろアオイ先輩も握り飯を作り終えている頃だろう。早く食べに行こうっと。
「ちょっと待って下さい」
胡蝶さんは僕の腕をガシッと掴み出す。え!?え!?何!?
「な、なんでしょうか??」
「少し無愛想じゃありませんか?もっと詳しく話してくださいよ。」
「えぇ………!?」
ちょ………、嘘でしょ!?そんなことある!?お腹、減りすぎて死にそうなんですけど!?
「それは………その………。」
「それに、前の"育手"の方の家にお泊まりしたお話も是非、聞きたいです。」
「つ、つまらないですよ?」
「つまらなくても大丈夫ですよ。貴方がどう過ごしたのかを知りたいだけなので。」
「ええ………。」
栗花落の話がつまらなくて窮屈だった的なことさっき言ってじゃないっすか、アンタ。同じだと思いますけど!?
しかも、これは………………少しだけマズいぞ。話が長くなるパターンじゃないか、これ!?
「話もまだ弾むと思いますし、茶菓子を持ってきましょう。カナヲ、お願いしてもいいですか?」
胡蝶さんの言葉に栗花落は頷いて、部屋から退室する。チャンスだと思い、カナヲの手伝いを装って部屋から出ようとしたものの、胡蝶さんに防がれてしまった。
「成矢くんはここで休んでてください。長旅でお疲れでしょうから。」
「で、でも姉弟子だけにやらせるっていうのは弟弟子にとっては拷問に等しいっていうか………」
「な・り・や・く・ん?」
「はい、すみません!!」
座るから!!大人しく座るから、その密かに右手に握ってる注射器をしまってくれませんかね!?それ、絶対にアカンやつでしょ!!
「良い子です。それじゃあ、お茶が入るまでに毒について勉強しましょうか。」
「ど、毒についてですか?なら、どちらかと言うと、医学についての勉強をしたいのですが………」
「………………」スッ
「はい!是非とも毒について教えて下さい!!いやぁ、楽しみだなぁ!!あ、あはははは!!!」
もう、何も言わないまま、笑顔で再び注射器を手にする胡蝶さん。それを見て、僕はすぐに土下座をした。
諦めるしかないな………、これは。
僕は心の中で、何度もアオイ先輩に謝罪しながら、胡蝶さんの話を聞いた。
「それじゃあ、藤の花の仲間についてーーー」
♠♠♠♠♠
「やっと………終わった。」
ようやく解放された僕は、重くなった足を引きずりながら屋敷内を歩く。
結局、結構な時間長引いてしまった。胡蝶さんによる毒についての勉強からの、カナヲが合流したあとにまたしても、最終選別にあったことの詳しい話をしていたら当然ながら遅くなってしまった。
「腹減った………」グギュルル
僕はお腹に手を当てる。胡蝶さん達と話している時、茶菓子はあったのだが、手は出さなかった。理由としては、ここに来る途中に飯屋さんに入らなかった理由と同じで、アオイ先輩の握り飯を真っ先に食べたかったからだ。
でも、アオイ先輩に申し訳ないことしたな。
作るだけ、作らせておいてお願いした当人はなかなか現れないのだから。
真面目な先輩のことだ。「遅いです!!どれくらい待たせるのですか!?」みたいなお叱りを受けそうだ。その時は、甘んじてそのお叱りを受け入れよう。そして、反省しよう………。
「あ、鈴蘭さん。」
「アオイ先輩………」
噂をすれば………と、いうやつで廊下でアオイ先輩と会ってしまった。
すぐに僕は彼女に土下座をした。
「すみませんでしたぁ!!!」
「ええぇ!?」
突然の土下座にアオイ先輩は驚きの声を上げる。
「僕は、貴女にお願いするだけしておいて、来るのが遅くなってしまいました!!本当にすみません!!」
「ちょーーー」
「どんな罰も受けます!!どんな申し出にも答えます!!だからどうかお許しをぉぉぉーーー」
「別に怒ってませんけど?」
「え?」
「え?」
「……………」
「……………」
「「え?」」
僕とアオイ先輩は目を点のようにして、ポカンとさせる。
「え、もしかして私が怒ってると思ってたんですか?」
「だって………待たしてしまいましたし。」
「手料理のことなら心配無用ですよ。なんなら、たった今出来たところでしたので。」
「え!?」
「すぐにお持ちするので、部屋で待ってて下さいね。」
アオイ先輩はそう言って、厨房の方へと向かう。僕は彼女の言葉通りに、自分の部屋まで足を運び、中に入って待機する。
「失礼しますね」
少し経ったあと、アオイ先輩はお盆を持ちながら僕の部屋の中に入ってくる。
「どうぞ。」
「おぉおおおおおおお!!!」
彼女は机の上にお盆を置く。そのお盆の上には大量の綺麗な形をした握り飯に、ホカホカと湯気が上がっている味噌汁があった。
「味噌汁の買い出しなどで時間がかかってしまいました。なので、私も鈴蘭さんを待たせてしまっていると思っていましたが………ちょうど良かったですね。」
「た、食べても??」
「鈴蘭さんの為に作ったんですから、どうぞ。あ、その前に手を洗ってきてくださいね?」
「フウゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!!!」
僕は奇声をあげながら、手を洗いにひとまず洗い場まで赴き、速攻で手をきちんと洗ったあと、自室に戻って握り飯を手に取り頬張る。
「美味しい!!」
いい感じに効いている塩のしょっぱさが疲れている身体に気持ちよく響く。しかも、中に入ってるの昆布じゃないか。
そして、口の中のものを流し込むように味噌汁も手にして啜る。
身体が味噌汁によって、温かくなっているのが感じる。これも美味しぃ………
止まらなくなった僕は、次から次へと握り飯を口の中に放り込む。どれも美味い!!梅!!鮭!!昆布に紫蘇!!
「ふふ、喜んでもらえて良かったです。」
僕の食べてる様子を、嬉しそうに眺めるアオイ先輩。
「本当に美味しいですよ!!もう、毎日作って欲しいぐらいです!」
「え?」
「え?」
「…………」
「…………」
「「え?」」
僕の言葉によって、先程と同じように僕達は目を点にしてポカンとしてしまう。あれ?僕、何かおかしなことを言った?
「ななな、何を言って!?」
明らかに動揺してるアオイ先輩は震えながら声を出す。ちょ、震えすぎ震えすぎ!!手にしてるお茶が伝わって零れてきてるから!!
「本当のことを言ってるだけですか?」
「ーーーーーーーッッ!!!!もう、鈴蘭さんなんて知りません!!」
アオイ先輩は顔を真っ赤にさせながら、僕の部屋を飛び出してしまった。
「えぇ……………」
僕はただ、それを眺めることしか出来なかった。
その後、胡蝶さんから「あまり、アオイの心情を揺さぶらせるような発言は控えるように」と怒りのオーラを漂わせながら笑顔でお叱りを受けました。
…………何故!?
Q、好きな食べ物は?
A、アオイ先輩が作ったもの全て。
カナヲ「…………鈴蘭」
鈴蘭「栗花落…………」
ーーーガシッ!!
後藤(何してんの、こいつら。)
キメツ学園編読みたいか、どうか。
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