ブチギレ立香ちゃんの漂白世界旅   作:白白明け

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ようやく人理修復を終えた一息ついてから、第二部やるぞ!と意気込んでやったら…立香ちゃん。ちょっと可哀そうすぎない?…と思い書きなぐった作品です。

原作のネタバレ・原作の立香ちゃんなら、絶対に言わないこと、やらないことをしています。

それでもいいと読んでくれる方の暇つぶしになれば幸いです。(__)





立香ちゃんは激怒した①

質問①‐なぜ世界を救おうと思ったのか。

 

逆に聞きますが、なぜ世界を救わないという選択を選べるのですか?地球に生を受けた一個の生命体として、宇宙船地球号の一員として、世界を救わないなんて選択肢は初めから存在しなかった。カルデア以外の場所が消えてしまった地球で、一年間を愉しく過ごすなんて出来なかった。

 

 

質問②‐自身が優秀なマスターであると思っているか。

 

思っていません。私は人類最悪のマスターです。それは魔神王からのお墨付きなんですよ?

 

 

質問③‐君は自身の行いを正しかったと思っているのか。

 

当然です。私は世界を救った。どうあれ救ったんです。私はその偉業を否定しない。誇りに思っています。私が居なければ、世界は滅んでいた。私が居なければ、目の前で偉そうに踏ん反り返っている貴方たちも居なかった。そうでしょう?

 

 

質問④‐…問②、問③の回答を以って、君が聖女では無い事は証明された。ならば、問①の回答には虚偽が含まれていたと我々は判断する。再度、問う。質問①‐なぜ世界を救おうと思ったのか。‐二度目の虚偽は、許されない。

 

………あは。あはは、アハハ!なんだ、やればできる子じゃないですか。うんうんうん。その目です。最初から、その目で私に聞いてくれればよかったのに…貴方たちは私を人と見て居なかった。魔術師故の傲慢ですか?非魔術師は自分よりも劣る存在だと?浅慮です。眩暈がします。

 

 

質問⑤‐質問①の回答を求む。以降、他の言動を許可しない。

 

答えている最中です。急かさないでください。早漏は嫌われますよ?―――なんて、冗談ですって、そんな目で睨まれると怖いです。答えないのではなく、答え難いなんてこと、察してくれてもいいじゃないですか。

 

…確かに私は魔術の素人でレイシフト適性が辛うじてあるだけの一般人に過ぎない。サーヴァントに満足な援護も出来ない最悪のマスターです。けれど、どうあれ私が世界を救った。大勢の人の力を借りて、沢山の英雄の助力を得て、…多くの犠牲を払って世界は救われた。

 

私は、世界を救った。その偉業を誇ります。ええ、誇りますとも、絶対的にそこだけは譲らない。

 

けれど、どうして世界を救おうと思ったのか。その切っ掛けは、残念ですけど、誇れないんですよ。私は―――“死にたくない”。ただその一念のみを以って世界を救ったんです。

 

 

質問⑥‐その回答は回答足りえていないと我々は判断する。“死にたくない”、その思いを我々は軽んじない。命への執着は我々魔術師もまた持ちえるもの。不死の探求により始まった魔道は数多く存在する。だが、しかし、人類焼却式、彼らとの対峙において、それは世界を救う回答足りえない。世界を救う過程で、君は死よりも辛い苦痛を味わったのではないか。

 

…ええ、なんだ、知っているじゃないですか。はい。その通りです。私はレイシフトした時代で沢山の英雄たちと出会い一緒に様々な“世界”を旅してきました。そして、沢山の綺麗なものと沢山の醜悪なものを、見てきました。国が滅ぶのを何度も見てきた。いわれのない虐殺を繰り返し見てきた。正義の蛮行を瞼に焼き付くほど見てきた。人間狩りを、奴隷制度を、仲間割れを、非人道兵器を、人身売買を、姥捨てを、親殺しを、子減らしを、文化の弾圧を、遺産の大量破壊を、資源の枯渇を、差別と偏見を、復讐と逆襲を、男尊と女卑を、飢餓と疫病を、見てきた。私自身、何度も酷い目にあったけれど、それでも、私は諦めきれなかった。生きることを―――諦めたくなかった。だから、いつか、いつか、いつか、いつか、いつか、いつか世界を救えると信じて戦った。

 

 

質問⑦‐…その結果、君は世界を救った。それは紛れもない事実である。では、その救われた世界で君はなにを成すのか。人類最後、人類最悪を自称するマスター。

 

決まっているじゃないですか。家に帰るんです。

 

質問⑧‐自身と周囲の安全の保障。それのみが望みか。世界を救った割には殊勝に過ぎる願いに不信を覚えるものもいる。

 

そんなの知りません。一年分の労働の対価はダ・ヴィンチちゃんからしっかり貰いましたから、貴方たちから貰うものなんて小石一つもいりません。せいぜい、私が居なくなったカルデアで私が残した残飯でも漁っていればいいんですよーだ。あは、アハハ!貴方たちにとってはそれがとても価値のあるものなんでしょう?

 

 

質問⑨‐…我々の中には君が望むのならば君をそれなりの待遇で迎えると言う者もいるが、どうする。

 

あれれ~、おかしいな~。私みたいな素人マスターに価値なんてないんじゃなかったんですか。まあ、別に貴方たちの心変わりなんて、どうでもいいですけど。答えはノーですし!おすし!言ったでしょう。私はお家に帰るんです。陰気な貴方たちの顔なんて見ていたくもないですし!おすし!

 

 

質問⑩…では、これが最後の質問となる。君は本来、世界を救うはずだったマスター達。カルデアのAチームのマスター7名をどう思うか。

 

………別になんとも思わないかな。顔も名前も知らないですし、まあ、あえて無理やり感想を出すならそうですねぇ。寝坊助さん達ですかぁ?あは、アハハ!残念でしたー。貴方たちが救うはずだった世界はこの美少女☆マスター・立香ちゃんがもう救っちゃいましたよーだ。アハハ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2017年12月31日。

 

人類焼却式‐魔神王ゲーティアの3000年の大望が藤丸立香の手によって砕かれ、世界が救われてから数日後、世界を救った英雄として称えられるべき藤丸立香は拘束されながらの6時間に及ぶ審問会からようやく解放されカルデアの廊下‐独房となった謹慎室への帰り道を歩いていた。その頭の上には小さな白い獣。元・災厄の獣であり現・可愛らしい小動物であるフォウ君が乗っかっている。

 

「うんうん。そうだよね。あはは~、わかりみが深いよ~、マジ卍~」

 

頭の上に乗せたフォウ君の鳴き声に合わせて返事をしながら若干時代遅れのギャル言葉を駆使する立香をカルデアから魔術協会(ロンドン)に送られた報告書の通りに“普通の一般人”と見るかは判断の別れる事であったが、少なくとも立香を拘束し謹慎室へ送り届ける役目を負ったNFFの傭兵からすればどう見ても“普通の一般人”には見えなかった。

いや、この年頃の少女が砕かれ意味すら捨てた言語を話すこと自体は何も珍しいことではない。

ただ()()()()()()()という普通とは言えない状況で普段通りの言葉遣いで、よりにもよって小動物と会話しているという事態が、“普通”ではないのだ。

 

 

そう拘束だ。立香は傭兵に見張られているのではない。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

普通ではない状況。普通ではない。日本という小国で生まれ魔術を知らぬ普通の一般人とされた藤丸立香は普通では無かった。否、カルデアから魔術協会に送られた藤丸立香のプロフィールに嘘偽りはなかった。

立香は普通の一般人()()()。ただ変わってしまった。レイシフト。人理の航海をへて普通の少女は変わり果ててしまった。一介の傭兵にはそうとしか思えなかった。

 

「ねえ、傭兵のお兄さんのお給料っていくらなんですか?」

 

立香から唐突に掛けられた質問に答える権利を傭兵は持たない。彼に許されている権限は審問会を終えた立香を謹慎室まで送り届けることだけ。だから、質問に沈黙を返す傭兵に対して立香は返事なんて期待していなかったと言わんばかりに直ぐに言葉を重ねる。

 

「私、実はお金持ちなんですよ。人生を遊んで暮らせるくらいの無駄金が世界を救ったら転がり込んできたんです。だから、傭兵のお兄さんが貰っているお給料の倍くらいは出せると思うんです。だから、NFFなんかじゃなくて私に雇われませんか?」

 

立香の口から出る笑えない冗談に笑う権利も傭兵は持たない。それは彼の領分を越えている。許されているのは、()()()()()()()()()()()()、彼女を謹慎室まで送り届けることだけだ。

拘束具で拘束されているものが拘束している側に権利を課す。その異常な事態は言うまでもなく異様なもので、傭兵にとって初めての経験で、マスクの下で流れる汗に苛立ちながら、銃を握る手が震えることだけは必死にとどめていた。

その様子を見ながら、立香は嗤っていた。

 

「あは、アハハ!そんなにおっかなびっくりしないでくださいよー。冗談ですよ。私の、私たちの救世の冒険の対価を貴方なんかにあげる訳ないじゃないですか。ねー。フォウ君」

 

そう嗤う立香の微笑は美しく可愛らしかった。けれど、その言葉の中には傭兵への、いや、カルデア乗っ取りを考える新所長‐ゴルドルフ・ムジークとそれに与するNFFへの嫌悪を感じずにはいられなかった。否、立香はそれを隠そうともしていないのだろう。だからこそ、嗤う。美しく嗤う。可愛らしく嗤う。世界を救った自分を拘束し、家に帰りたいだけの少女を監禁する奴らを差別なく侮蔑していた。

 

それを傭兵は子供の様な駄々だと思った。そうだ。カルデアを手に入れようとしたゴルドルフのやり方は決して責められるような手段ではなかった。むしろ真っ当に私財を投じてカルデアの機関すべてを買い取り纏め上げようとする正道だった。

勘違いされそうになるがゴルドルフのやろうとしたことは只の合併と買収だ。その上でゴルドルフは職を失うカルデア職員の再就職先まで面倒を見ようとしていた。善良なやり方だと、言っても良かった。

それに対して悪感情をむける立香こそ、責められて然るべきだった。子供の様にと‐いや、もとより少女であるのだから、子供の様な駄々は仕方ないにしろ、それを咎める者くらいはいても良かった。

 

傭兵である彼は自分はそれをできる人間だと思っていた。けれど、それが間違いであったことを知ったのは…ほんの数日前のことだった。

 

 

 

2017年12月26日。

 

その出来事はカルデアの新所長となったゴルドルフがNFFの傭兵を率いてカルデアの心臓部である管制室にやって来た時に起きた。ゴルドルフを迎え入れる場にはカルデアの代表代行であった現存する唯一のサーヴァント‐レオナルド・ダ・ヴィンチの他に多くの職員。そして、立香もいた。この時はまだ立香は只の普通の少女‐(世界を救ったマスターに対してそんなことを言うのもどうかと思うが)‐でしかなかった。すくなくともゴルドルフやNFFの傭兵達。そして、傭兵達を束ねるNFFの代表である美女‐コヤンスカヤでさえ、そうであった。

 

ゴルドルフに対応したのはダ・ヴィンチで立香はダ・ヴィンチとゴルドルフとの会話に入って来ようともせず頭の上に乗せたフォウ君と戯れつつ、隣にいた色素の薄い少女‐カルデアの報告書にも載っていたデミ・サーヴァントであるマシュ・キリエライトにちょっかいを掛けてケラケラと嗤っていた。それがゴルドルフの目に留まった。ゴルドルフとしても自身の威厳を示さなければいけない場で、ふざけて居る子供がいれば、一言二言は言わないわけには行かない。それでもその場でのゴルドルフは言葉を選んで立香を注意していたように思う。少なくとも罵倒を浴びせて詰ったりはしなかった。‐「能天気な顔だね。君ぃ。まるで蜂蜜をかけたマフィンの様だ」くらいの事は言ったかも知れないが、その程度だ。

それに対しては立香も別に気にした様子はなかった。自分の第二の故郷とも言えるほど濃い時間を過ごした場所を奪いに来た太っちょに苛立ってはいたのだろうが、‐「あはは、マシュ。見てよ。でっかいマシュマロが喋ってる」くらいの事しか言わなかった。

 

だから、間違えたのはその後の対応だった。雇い主が威厳を示さなければいけない場の御ふざけを注意されて軽口を返した少女に対して一人の傭兵が銃口を向けた。

 

それは責められることだったかもしれない。少なくとも雇い主の命令もなく立香に銃口を向けてしまったその傭兵を同じ傭兵である彼は傭兵失格だと思ったし、雇い主であるゴルドルフ自身も直ぐにその銃口を下げるように命じようとした。

 

けれども、それは、決して、両腕で贖わなければならない罪では無かった。

 

―――おぃおぃ、テメェ、誰のマスターにちょっかい掛けてんだ?

 

立香に銃口を向けていた傭兵の両腕が切り落とされた。鮮血が、舞う。一瞬、止まった時間を動かしたのは両腕を失った傭兵の悲鳴だった。誰もが目を疑う中で“ソレ”は“ソコ”に確かに存在していた。

 

人一人を容易く串刺しにするだろう大きな直槍。重厚な具足を身に纏いながら兜は無く、血の様に赤い髪は無造作に束ねられていた。そして、何より印象的なモノはその眼‐明らかに正気ではない狂気に呑まれた眼。

 

言われるまでもなくその場の誰もが理解した。“ソレ”が、“コレ”こそが、“英霊(サーヴァント)”。ダ・ヴィンチ以外に存在しない筈のサーヴァントが其処に居た。しかも、厄介なことにそのサーヴァントはダ・ヴィンチとは違い立香(マスター)に敵対行為を取った者に対して一切の容赦を見せなかった。否、そのサーヴァントの正体がかの戦国武将・森長可だと知る者なら斬り捨てられなかっただけ容赦はしたのだと言っただろうが問題は其処ではない。

 

鮮血が舞った。悲鳴が響いた。居ない筈の“モノ”が存在していた。その現実に誰もが絶句する。まさかカルデアの代表代行を務めていたダ・ヴィンチが、万能の人である彼女が魔術協会への虚偽の報告を行い、あまつさえこんなお粗末な形でそれを露見させるとはゴルドルフはおろかコヤンスカヤでさえ思わなかった。

 

けれど、それは違った。確かにダ・ヴィンチは魔術協会に虚偽の報告をしていた。確かにダ・ヴィンチの他にサーヴァントは存在していた。しかし、それは()()()()()()()。万能の人であるダ・ヴィンチが居るかもしれない“見えない敵”への対応策として用意していた“敵には見えていない味方(サーヴァント)”は今も工房の奥で気配を消している筈の名探偵シャーロック・ホームズだけだ。

この瞬間までダ・ヴィンチの頭には森長可の“も”の字もなかった。

 

だからこそ、ダ・ヴィンチは目を見開きながら立香を見た。それを見てその場の誰もが理解した。ダ・ヴィンチもまた立香を守る為にずっと存在し続けていただろう森長可を知らなかったことを―――

 

―――あは、あはは、アハハ!

 

立香は嗤った。美しく嗤った。可愛らしく嗤った。驚く大切な仲間たちと戸惑う可愛い後輩も置き去りにして嗤いながら両腕を切り落とされた傭兵へと近づいた。

 

―――もう、森君ってば、駄目だよ。私、ちゃんと大人しくしててってお願いしたのに。

 

―――でもよ、コイツ、マスターに筒なんて向けやがったんだぜ。殺されても仕方ねぇよなぁ。

 

―――そうかもね。でも、そうじゃないんだよ。ありがとう。でも、ごめんなさいなんだよ。森君。わかった?

 

―――………意味わかんねぇけど、了解(おう)

 

誰もその会話に入り込めなかった。立香の大切な仲間たちも、立香の可愛い後輩も、誰も主人(マスター)使い魔(サーヴァント)の会話に入り込むことは出来なかった。手負いの傭兵へと近づきながら、欠片もその傭兵への関心を割かずにサーヴァントと会話をしている立香が何処かオカシイトと気が付きながらも、口に出せなかった。

 

立香は両腕を切り落とされ痛みで失神しかける傭兵の元へと辿り着くと白い制服が血に塗れるのも厭わずに跪き傷口を見る。そして、緑色の光が傷口を包むと血が止まった。それは難しい魔術ではない。立香の着る制服‐魔術礼装・カルデアに装備されたただの応急手当だ。血が止まろうとも傭兵の失われた両腕がまた生える訳でも繋がる訳でもない。それでも、微笑みながら傷を癒す立香の姿はまるで聖女の様にも見えた。

その光景を見て後輩‐マシュは安堵した。傷を癒すその優しさはマシュの知る立香そのものだった。

ただその傷は立香のサーヴァントである森長可の負わせたもので、その傷を癒した後の立香は何とか意識を保つ傭兵に対して微笑みながら、嗤いながら、言った。

 

―――腕、無くなっちゃったね。でも、命があってよかったって感謝して義手でも付ければ良いよ。まあ、ダ・ヴィンチちゃんと違って貴方には義手なんて似合わないと思うけどね!

 

その言葉は悪意に満ちていた。隠す気のない嫌悪に塗れていた。そうして、ゴルドルフやコヤンスカヤはおろかダ・ヴィンチやマシュもようやく気が付いた。立香が、怒っていたことを‐第二の故郷とも呼ぶべき濃い時間を過ごした場所、カルデア。人理継続保障機関・カルデアに、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()に、無遠慮にも土足で踏み入ってきた者達に対して、あまつさえ自分に銃口を向けた者たちに対して、立香はただ普通に苛立ちではない怒りを覚えている。

 

―――あは、あはは、アハハ!………ほんと、嫌になる。どうして私にそんな態度がとれるのかな。私はカルデアを代表する、人理を救ったマスターだよ?

 

こうして立香は拘束されることとなった。

 

 

 

 

 

ゴルドルフやコヤンスカヤ、NFFの傭兵達にとって意外だったのはそんな立香が易々と拘束具を着せられることを受け入れたことだった。大聖杯やそれに連なる膨大な魔力の使用なく単身でのサーヴァントの使役というどう考えても魔術の域を出た文字通りの“奇跡”を起こす立香がその気になればそれこそカルデアからゴルドルフ達を追い出すことだって出来たかもしれない。

 

しかし、立香はそうせずに現界した森長可を消した後、直ぐに拘束を受け入れた。立香とて魔術協会に正式にカルデアの新所長と認められたゴルドルフと本気で戦う気などない。業腹ではあるが、彼女は既にカルデアからの退去を受け入れている。そもそも挑発されて森長可が勝手に現れなければ自分は何の問題も起こす気なく日本に帰国していたと立香は嗤う。

 

その笑顔は今までの立香の笑顔となにも変わらないもので、拘束具を着せられた状態で彼女と再会したマシュは何処かオカシイ彼女の事を変わらずに“先輩”として“大切な人”として受け入れると決めた。

ダ・ヴィンチは“今の立香”を測りかねていた。見た目に記憶、他の身体的情報、魔術的に見ても“今の立香”は“前の立香”と何の変りもない。けれど、なにかが違っている。それを測ろうとしているダ・ヴィンチに対して立香は少しだけ寂しそうに笑うのだった。

 

ダ・ヴィンチにとってそれは時間を掛けなければならないことだった。立香は拘束された。しかし、それは立香の脅威が消えたことを意味しない。現界を解き姿を消した森長可は未だ“ソコ”に居て立香を守っている。彼がその気になれば立香から拘束具を外す事なんて容易いこと、そして、立香はだからこそ拘束を受け入れたことにダ・ヴィンチは気が付いていた。悪辣だと思いもした。けれど、形だけでも拘束され周りを安心させている優しさだとも思いたかった。少なくともゴルドルフはあの後の立香の謝罪を受け入れ、拘束されることを約束した彼女をおっかなびっくりしながらも尊大な態度で許した。先走った傭兵にも非はあると認める事すらした。そのことからダ・ヴィンチはゴルドルフを悪人ではないとみていた。居るかもしれないと思った“見えない敵”は少なくともゴルドルフではない。

“見えない敵”は、ゴルドルフの裏に潜む何者かか、あるいは立香を変えてしまったかも知れない何かか、万能の人にして簡単には答えの出ない問だった。

だから、致命的とも言える時間が過ぎてしまっていた。

 

 

 

 

 




なお、このお話の中では時系列的にまだ召喚できないんじゃないの?な、サーヴァントが普通に登場します。

やっぱり好きなサーヴァントを出したいから、仕方ないよネ!

申し訳ございません。(__)

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