クリプター‐カドック・ゼムルプス。くすんだ銀髪に金眼。耳にピアス。カルデアに残されていた資料通りの外見をした少年の登場に、立香の意識は完全にアタランテ・オルタから外れた。
「バベッジさんっ!」
肩に乗る立香の敵意の先を見据えてバベッジは
「…だから言ったでしょう。彼女は問答無用で貴方を殺そうとすると、そういう目をしています」
「…ああ、わかっていたさ。だから、君にも来てもらったんじゃないか」
砕いた大地から舞う粉雪が晴れる。カドックへのバベッジの攻撃を防いだアナスタシアはため息を吐いた後、凍るように冷たい視線で立香を見据えた。
クリプター‐カドックの前に立つ白い皇女‐アナスタシア。
その二人の姿を見た立香は嗤った。
「あは、なんだ、図星だったからお姫様は怒ってたんだね。お姫様のマスターは、見ての通り根暗でジメジメしてるー」
「…
「あれ?根暗でジメジメは否定しなくていいの?お姫様はそういう人がタイプ?あは、趣味わるーい」
「…あなたは本当に不快な人ね」
アナスタシアの冷ややかな視線に対して嗤う立香は、会話の中で二騎目のサーヴァントを召喚し不意を突こうと隙を探る。
バベッジの武器を凍らせて油断している今が
今回、カドックは立香と戦いに来た訳ではない。偉大なる
「待てよ。藤丸立香。僕らは首都から態々、お前と話をする為にここまで来たんだ。わかるか、今の僕たちが望むのは対決ではなく対話だ。…対決は、まだ早いんだよ」
カドックから掛けられた声に対して立香はあからさまな舌打ちを鳴らした。普通にガラの悪い少女の態度でカドックを見る。嫌悪感を隠さない。立香はカドックを、クリプター達を嫌悪し憎悪し激怒しているのだから隠す理由もない。
無論、立香とてカドックがこうして正面からやってきた時点でわかっている。対話を望むという言葉があれば確信もできる。十中八九、カドックは立香にも利のある提案をしようとしている。だが、しかし‐立香は目を見開きながら、カドックを見下した。
「黙ってよ、人類の裏切り者。私にはお姫様と話す口はあってもお前と話す口はないんだから」
「…はは、アナスタシアの言う通り、これはとても会話できる目じゃないな。だが、話さなくても聞いては貰う。これは僕にとってもお前にとっても重要な話だ。この異聞帯の“王”‐イヴァン雷帝は普通に戦って勝てる相手じゃないんだよ。だから、ちっ、…お前、本気かよ」
カドックの言葉を妨げるように氷を削る音が鳴る。
アナスタシアにより凍らされていたバベッジの武器が轟音を上げて回転する。そして、氷の拘束から抜け出た武器を手にバベッジは再び戦闘態勢に移行する。その肩に乗る立香は腕を組みながら、動揺を隠せないカドックに対して嘲笑を向ける。
敵意は示した。既に一撃を向けたことで立香の中では宣戦布告も済んでいる。なら、交渉なんてまどろっこしい真似をする気は立香にはなかった。それに、此処でもし立香がカドックとの交渉に応じてしまえば、それこそ立香は彼らに
「あは、アハハ!カドック君てば、うけるー。冗談で殺そうとするわけないじゃん。本気だよ。
立香はカドックの交渉に一ミリも応じない。そもそも交渉の席に立たない。それは立香の抑えきれない激情故のことでもあったが、同時に冷静に過ぎる状況判断故の決断でもあった。
この場で
「ダ・ヴィンチちゃんが言うには、あなたは汎人類史側のサーヴァントなんだよね。なら、ごめんなさいしますから、一緒に戦いましょう」
ダ・ヴィンチはアタランテ・オルタが汎人類史側のサーヴァントだと言った。そして、それは正しく、立香との衝突からカドックの登場まで二転三転する展開に若干の混乱をしながらも
ただアタランテ・オルタはカドックが
故にアタランテ・オルタが番えた矢は二本。
一本はカドックへ。もう一本は立香へ。それぞれ狙いを定めながら、自分に向けられた矢の意味が分からず首を傾げる立香に向けて調停を申し出た。
「ほえ?アタランテさん、なんで私に矢を向けるの?」
「そんな心底不思議そうな顔をするな。私が悪いことをしているみたいではないか。…私たちは先ほどまで戦っていたのだ。正体不明は、お前も同じだ。この魔術師は
「はは、マスターよりもサーヴァントの方が聞き分けが良いってどういうことだよ。…藤丸立香。どうする?アタランテは話し合いが終わるまで中立を保つそうだが、僕らもろとも敵に回すのか?」
《藤丸ちゃん。ここはカドック・ゼムルプスの話をとりあえず聞こうか、聞くだけなら私たちに不利益はないよ。むしろ、情報は私たちが一番望むものさ》
「みんな、ちょっと甘いんじゃないかなぁ。こいつら、正真正銘の人類の敵だよ?」
そう言いつつも立香は姿勢を崩し、バベッジの頭に身を預けつつ肩の上で座り込む。考えたようなアタランテとの共闘が望めず、あまつさえ場合によっては再び敵に回るというのならダ・ヴィンチの言う通りに話位は聞くのが賢い判断と言うものだ。立香の
怒りは納めず治まらない。だが、ここまで言われたのなら話位は聞いてあげると立香はカドックに視線を送る。ようやく話を聞く姿勢をとった立香に対して安堵の息を吐きながら、カドックは口を開く。
カドックから語られたのはロシア異聞帯の王。イヴァン雷帝の正体‐約500年前から存命のこの世界に於ける最古最大の生物。偉大なる威光を以って世界を照らした皇帝は‐既に生物の範疇を越えた怪物に成ってしまった。生きているだけで国の害となるほどに強大に成長してしまった彼が生きている限り、この
だから、討たなければならないと語るカドックの話を聞き誰もが息をのむ。
自分たちが敵に回している者の巨大さに英雄であろうと身が震える。
自分たちが争っている場合ではないというカドックの言葉に嘘は無かった。たとえその先での対決が決定的なモノであろうとも、偉大なる
それを理解したアタランテ・オルタが息をのみ、通信の先で話を聞いていたダ・ヴィンチ達が沈黙をする他にない中で、立香は独り嗤っていた。腹を抱えて嗤っていた。
「あは、あはは、アハハ!山より大きな偉大なる
「…お前は、やっぱりイカレてるのか。今の僕の話で状況の把握くらいは、できただろう。共闘か全滅か、僕らの道は二つに一つだ。それとも憎い僕と共闘しなきゃならない。そんな自分の弱さを嗤っているのか?」
「私はお前と違って現実を嗤い飛ばせるくらいには強いから、それはないよ。そして、今のは返事はオッケーって意味なんだよ。うん。ダ・ヴィンチもそれで良いって。じゃあ、カドック君。私を
カドックにとって意外だったのは、立香が意外にもあっさりと自分の提案に乗ってきたことだった。
“藤丸立香は
そんなことは誰に言われるまでもなく理解していた。自分たちは彼女の旅路を否定した。彼女の救った世界を滅ぼした。恨むなという方が無理があるとカドックは思っている。クリプター達の中で一番立香に近い感性を持つとされた凡庸な魔術師と自認するカドックはだからこそ、
人類焼却式。それを覆すためのグランド・オーダー。人理救済の旅路に於いて立香は幾度も一度は敵対した相手と共に敵と戦った。最終局面においては数多の敵が立香を助ける為に駆け付けてくれた。だから、今回の共闘もすんなりを受け入れた。‐そんな筈がない。
そもそも以前の旅路と今回では状況が違い過ぎている。七つの特異点‐そこで立香の敵として立ちはだかった者たちはどうあれ人類史に刻まれた
だが、世界の“漂白”‐これはどうだ。対話はない。対決もない。“観戦の席もない”と揶揄された“
わからないから、ブチ切れるのだ。
それは子供の様だと非難されて然るべき
だから、結論から申し上げますとカドック君は見誤ったのです。立香ちゃんは共闘する気など微塵もなく、ただ利用する為に嗤うのです。アハハ!
特殊フォントなるものを使ってみたかった。
この後の立香ちゃんの行動はどうする?
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態度は少し軟化する
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態度はだいぶ軟化する
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クリプター達とお友達になる
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激怒する