※ご都合展開があります。
皆様の暇つぶしになれば幸いです(__)
人類最悪のマスター‐立香は偉大なる
信念を語った。意地の張り処を無粋にもつまびらかにした。
では、次に夢も希望もない現実の話をしよう。
‐そも、6騎のサーヴァントと1人のマスターだけでイヴァン雷帝が倒せるか否か。
答えは無理だ。
偉大なる
「はッはッはッはあッ!面白くなってきやがったぜぇ‼」
猛き武将‐森長可がイヴァン雷帝に向かい槍を振るう。彼にイヴァン雷帝を恐れる心はない。万人が恐れ戦いすら放棄する巨躯を前に笑っている。大地を砕き抜く左前脚を避け、振り下ろされる重鼻を受け流し、無防備な脇腹に迫る。イヴァン雷帝は巨躯故に重鈍だ。近づくだけなら難しくない。故に森長可は確実な距離で手加減などない全力で宝具を開帳する。
「
森長可の宝具‐『人間無骨』。その槍の前では人間も骨が無いように容易く両断されてしまうという逸話からその名が付いた宝具は、逸話通り対象の防御力を無効化する極めて強力な宝具ではあるが、しかし、人ならざる神獣と化したイヴァン雷帝を相手どるには少しだけ破壊の規模が足りていなかった。
切り裂かれた脇腹から噴き出す血を浴びながら、森長可は自分の攻撃がイヴァン雷帝への決定打に成りえないことを悟り悔し気に息を吐く。犬猫の一掻きで巨象は死なない。
「くそが…
イヴァン雷帝の巨躯が揺れる。それは勿論、森長可の宝具のダメージにより体勢を崩したからではない。自分の身体の下に潜りこんでいた森長可を押し潰す為に態と身体を地に伏すのだ。避けようもない巨大な壁が森長可の視界を覆った。そうして、森長可は霊基が完全に砕かれる前に霊体に戻り立香の元へと帰っていく。
この戦闘において森長可は此処でリタイアした。
これで既に2騎が墜ちた。
既に6騎いた立香のサーヴァントの内の三分の一が消滅している。それが半分になるのも時間の問題だと‐森長可の最後を腕を組み見届けていた彼岸に燃える炎‐魔王信長は状況を正しく判断する。
立香の6騎のサーヴァントの内、最大戦力の一人である魔王信長は必然的にサーヴァント達の中でリーダー的役割を担っている。元・戦国大名。現・第六天魔王。その立ち位置は必定であると高らかに嗤う彼女には、だからこそ、この
戦力差。地理的優位。状況判断。Etc.‐全てを統括して勝利に導かなければならない。
だが、しかし、どう考えても分が悪すぎた。あの巨躯ではダメージを与えること自体が困難。更にあの神獣は血潮を滾らせ雷雲を呼ぶ。森長可に一撃を喰らって以降、落ちてくる雷を身体に纏わせて暴れている。
近づくことさえ容易ではなくなった状況でそれでも魔王信長は嗤っていた。
「くは、クハハ!やはりマスターの傍にいれば退屈せんのう!良いぞ良いぞ!これこそ魔王たる我が
イヴァン雷帝と正面から正々堂々と戦う。策もない。弱体化も。援軍もない。おそらく多くのものは立香を愚かだと嗤うだろう。考えなしの馬鹿此処に有りと指を指すに違いない。
だが、しかし、魔王信長は違う。それでこそ我がマスターと手を叩く。
「稀代の大うつけ。良いではないか。ああ、そうであろう。張れぬ意地に意味など無い‼正面から堂々とその怒りを受けて殴ると決めた!で、あればこそ!我らが力を貸す価値があるというものよ‼のう、我が
魔王信長の大声に前線でイヴァン雷帝と戦っている2騎のサーヴァント。ライダーとセイバーから同意と共に“高笑いをしていないでお前も戦え”と罵倒が飛んでくる。
「で、あるか‼」
罵倒を気にせずカラカラと嗤う魔王信長の魔王ムーブを前にしてセイバーは思わず斬りたくなったがどうにか我慢してイヴァン雷帝の相手をする。落ちてくる雷すら斬る太刀筋でイヴァン雷帝の巨躯を少しずつ削り取っていく。
対しライダーは一杯一杯だった。攪乱に専念しているが、いつ墜ちてもおかしくない状況で笑えない。
時間はもうあまり残されてはいない。
「まあ、あの子供皇帝に関しては『妾の前で皇帝を名乗るとはおっろかものー』と勇んで出てきておきながら、この寒さに驚き、くしゃみをして引っ込んでいっただけだから実質リタイアではないのだがな‼まったくマスターに要らぬ知恵を与え場をかき乱しながらの、その所業、是非もなし‼それを許すマスターもどうかと思うが、それが
嗤う。笑う。哂う。天を見上げて大笑する。その上で魔王信長は言い切ろう。
「どうだ、理解したか。異界の皇帝よ。
既に2騎を潰され何を偉そうに言っているのだとイヴァン雷帝は唸りを上げて重鼻を持ち上げ、魔王信長に向けて振り下ろす。魔王信長はそれを
イヴァン雷帝は初めて動揺した声を出す。
「貴様、余の圧政を受け止めるとは何者か!」
「我こそは第六天魔王。神仏衆生の敵。つまりは
魔王信長は不敵な笑みを絶やさない。たとえ重鼻を殴り返した右腕の骨が砕けていようともそれを一切態度に出すことなく嗤ってみせる。
魔王信長には逸話通りの神性特攻が存在する。並みの神格であるならば彼女は殴り飛ばせる。しかし、イヴァン雷帝。偉大なる
しかし、それでも魔王信長は退かない。立香が正面からイヴァン雷帝と対峙すると決めたのなら、そこから一歩も引く気はない。
それに奥の手が無いわけではない。
偉大なる
視線の先の立香は戦っていた。魔術の素人である立香にはサーヴァントを支援する術が乏しい。‐否であると魔王信長は考える。それは戦の素人の考え。大将が前線にいるだけで兵の士気は上がるものよと嗤う。
そして、そんな立香にだからこそ自分たちは力を貸したいと願い、魔神王と呼ばれた
立香には6騎のサーヴァントを世界に留める力を与えた。
そして、
余談だが、クリプター達には“大令呪”と呼ばれる奥の手が存在する。
その存在を彼は“視た”。詳細こそ分からないが絶大な力であることは理解した。彼の身体は伊達に魔術王と呼ばれていた訳ではない。彼の中身は酔狂で魔神王を自称した訳ではない。
目に見える脅威がある。敵には奥の手が存在する。
‐よろしい、ならばこちらも
エネルギーの収集は彼が三千年をかけてやってきたこと。そのエネルギーの譲渡は彼が
クリプター達の“大令呪”に対抗する立香のサーヴァント達の奥の手に名を付けるなら“大宝具”。何の捻りもない名の意味することは霊基の器を越えた宝具の強制解放。一度きりの奇跡の具現。
魔王信長の大宝具。それは文字通り三千世界を滅するだろう。偉大なる
「…何をしておる。蒸気王。我の超カッコいいシーンをじゃまするでないわ」
立香を肩に乗せ守っていたバベッジが何時の間にか自分の傍まできて、その手で天へと掲げようとした自分の腕を抑えている状況に流石の魔王信長も意味が不明だと眉を潜める。
バベッジはそんな魔王信長に首を振る。
「可能性の終着点‐魔王たるものよ。今はまだ貴様の大宝具を切る場ではない。大宝具を使用すれば確実に霊基が砕ける。
バベッジの言葉に魔王信長はため息を吐く。その言葉はこの場では、立香のいる前では言ってはならないことだった。
“大宝具”という聞いたことのない言葉。それに連なる消滅の単語を聞けば、魔術師としては三流以下だが、マスターとしては一流であると敵にすら太鼓判を押された立香が状況を飲みこめない筈がない。立香は変なところで勘が良いのだ‐だから、6騎のサーヴァントたちの間でも魔神王から無理やり持たされた“大宝具”という
票の割れ方は5対1。“伝えて良し”が5票で、“止めておけ”が1票だった。その対立は6騎のサーヴァントたちがそれぞれに立香の事を深く理解していたからに他ならない。
“大宝具”の存在を知った立香がどういう反応をするのか。自分を犠牲にする力なんて使わなくていいと泣くだろうか。‐否、それはない。立香は使う。ことが終局に至り、他に打つ手なしと判断したなら、たとえサーヴァントを失うことになろうとも立香は“大宝具”を使用する。
表で嗤い裏で泣きながら、 “私の為に
‐それが覚悟と言うものだ。戦う以上、味方に損害が無いなど有り得ない。仮にも神を語る者との戦いだというなら、なおさらに犠牲はでるだろう。‐その犠牲の全てを背負う覚悟の無いものが何故、
“全ては自分がやったこと”。
“殺した敵も、失った仲間も、全部、自分が戦った結果に生まれた犠牲”。
全ての責任は
5騎のサーヴァントはそんな少女がマスターであることを誇らしく思っている。神の敵として、
対して1騎のサーヴァントはもうこれ以上、少女に傷ついて欲しくないと思っている。少女の傍に誰よりも長くいたその英雄は知っている。‐本来の彼女が、
だから、“大宝具”の存在は1人の英霊の意思の下に秘匿された。魔王信長がまとめ役を買って出てはいるが、立香のサーヴァント6騎の立場は平等だ。会議は全会一致が絶対条件。
無論、隠し続けることはできない。異星の神。クリプター。世界の“漂白”を成し遂げた者たちとの戦いに於いて全力を出さなければならない戦場が無いわけがないのだ。
「…“大宝具”。そっか、あの人は意外とお節介だね。誰かさんとそっくり」
それでもと願った英霊の祈りは否定された。此処に“大宝具”の存在が立香に知らされた。
ならば、立香は思考し決断しなければならない。使えば霊基が砕け消失する一度限りの奇跡の具現。
犠牲の選択は、選定の剣を引き抜いた理想の王であっても感情を殺さなければならなかった。それが味方であるのならどれ程の負担になるのかを知らないものはいない。
それでも立香は冒涜的取捨選択をしなければならない。そして、少し考えればわかることだがバベッジの言う通り“
酸っぱいものが口の中に広がる不快感に耐えながら思考する。クリプター達の後ろにいる首魁が“異星の神”だとするなら魔王信長の神性特攻は勝利に於いて一番重要となるもの。
最後の最後まで魔王信長を失う訳にはいかない。
なれば、どうする?‐誰を犠牲にする?‐立香の視線は、神の如き獣‐イヴァン雷帝に向けられる。今この時も時間を稼ぐ為に山の如し巨躯に追いすがる2騎のサーヴァント。二人ならばイヴァン雷帝に勝てるだろうか?‐いや、違う。想定すべきは人との戦いではない。神との戦いでもない。雷を纏い、歩みは大地を砕き、そこに在るだけで世界を壊す。そんな災害との戦いである。
ならば、答えは既にで出ていた。立香は目を逸らすことを止めて、蒸気王‐バベッジを見た。
「バベッジさん。…お願いしても、いいかな」
「承った」
バベッジもまたその言葉を待っていた。イヴァン雷帝の巨大さに対抗できる宝具を持つのが魔王信長の他に自分であることを理解していた。だから、魔王信長の“大宝具”の使用を止めた。そして、肩に乗る立香を彼女の傍に下ろす。
鋼鉄の巨人と橙色の髪の少女が極寒の世界で向き合う。雷鳴と神の如き獣の咆哮が世界を揺らす中で二人の視線は揺らぐことが無く、少女はあまりに悲しい命令を嗤いながら言おうとして、嗤えず、笑えずに、泣いた。それでも絞り出した声はマスターとして彼に最後に掛ける言葉が消えることのないように、聞き返されることのないように、はっきりと。
「令呪を持って、命じます。
武骨で大きな機械の手が少女の頭に置かれる。
「貴様は、我を、信じるのだな」
「はい」
「では、貴様に見せてやろう。我が夢見る空想世界。笑ってみているがいい」
蒸気が噴き出す。異音が鳴る。鋼鉄の巨人が空を飛び、神の如き獣に向かっていく。
その最後を立香は目を逸らすことなく見届ける。
明日は投稿できないかもしれません。
この後の立香ちゃんの行動はどうする?
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態度は少し軟化する
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態度はだいぶ軟化する
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クリプター達とお友達になる
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激怒する