ブチギレ立香ちゃんの漂白世界旅   作:白白明け

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皆様の暇つぶしになれば幸いです(__)

※原作の立香ちゃんなら絶対しないことをしています。





立香ちゃんは激怒した②

 

 

2017年12月31日。

 

拘束具を着せられた立香の寝台は“壁”だ。両腕は胸の前で交差(クロス)させられ動かせない。辛うじて歩くことの出来るように調整された両足の拘束も謹慎室の壁に備え付けられた器具に嵌めることで完全に身動きはできなくなる。他のカルデア職員たちとは違い完全拘束を約束させられた立香が動くことの出来る時間は審問会の行き帰りと食事・排泄の短い時間だけだった。

ガシュンと機械音が鳴る。立香の身体が完全に“壁”に嵌め込まれ拘束されたことを確認すると傭兵は安堵のため息を漏らしながら部屋から出ていった。

 

「…これ見よがしなため息に立香ちゃんはプンプンだよ。ねえ、フォウ君もそう思うでしょ」

 

立香の頭の上で白い毛玉‐フォウ君がもぞもぞと動き鳴き声を上げた。拘束されて以降、立香の話し相手はフォウ君だけだ。マシュとダ・ヴィンチとは一度しか会えていない。審問会の送り迎えをする傭兵は声を掛けても返事もくれない。拘束されている立香を揶揄いに来た‐(立香視点)‐美人秘書・コヤンスカヤや神父・言峰は立香と一度だけ話をするともう現れなくなってしまった。

 

つまりは立香は―――暇なのである。

 

「はぁ、フォウ君をクンカクンカするのもいいけど、そろそろマシュに会いたいなー。マシュと一緒にお風呂に入りたいなー。どさくさに紛れて脇をペロペロしたいなー」

 

だいぶ人としてどうかと思うことを素直に口に出しているが、コレはダ・ヴィンチの言うところの変わってしまった部分ではなく、立香(※この物語の立香)の平常運転である。立香は明らかに自分に“先輩”として以上の好意を向けてくれる後輩とイケナイことをしないほど、出来た人間ではなかった。人類救済の旅という限界の状況で呼び起こされる生存本能を抑えられなかった。だから、立香はマシュと色々とイケナイことをした。そしたら、歯止めは利かなくなった。仕方ない。立香は健全な少女で、その周りには自分に好意を向けてくれる数多くのサーヴァントたちがいた。そんなサーヴァント達は皆、綺麗で、格好良くて、素敵だった。仕方ない。立香は色々なサーヴァントとイケナイことをした。歯止めは利かない。

具体的には清姫の前でマシュと※※※して、嫉妬でベッドを燃やしそうになった清姫にマシュと一緒に※※※してあげたりした。またある時はディルムッドに無理を言って魅了の魔術をかけて貰って本気でイチャイチャラブラブしながら朝まで※※※したりした。またある時は大勢のハサン達と※※※したりした。またある時は恩着せがましくベディヴィエールに迫り※※※して貰ったりした。またある時は酒呑童子と一緒に茨木童子に※※※したりした。またある時はシェヘラザードと一緒にフェルグスの部屋に突撃して返り討ちにあい朝まで※※※されたりした。なんかもうめちゃくちゃだった。立香の部屋のベッドが濡れていない日は無かった。やり過ぎて(ジャンヌとジルの絡みが見たいと言って)殺されそうになったり、ナイチンゲールに立香の私室が性病の温床にならない様にと(立香は綺麗な身体で相手はサーヴァントなので心配はないが)監視されるようになったりしたが、それは立香には些細なことだった。

 

ともかくとして立香が言いたいのは人肌が恋しいということだった。いや、フォウ君の獣肌はとてもモフモフで心地いいがそれだけでは物足りない。立香は普通に欲深い。

 

「もーいくつ寝ると―お正月―。お正月になったら、家に帰ってゴロゴロするんだー。それでマシュの検査が終わったら、マシュを家に呼んでお父さんとお母さんに紹介しなきゃ。私の可愛い後輩で、お嫁さんですって!あは、アハハ!同性婚の出来る国に引っ越さなきゃなー」

 

年明けと共に立香は解放される。以後、カルデアと魔術協会は立香に干渉しない。それがゴルドルフと審問会と立香の間で交わされた約束だった。

 

立香は純粋だった。純粋で無垢で、“そこ”は普通の少女だった。だから、立香は約束は果たされるものだと疑ってはいなかった。

 

太っちょ紳士‐ゴルドルフの名誉の為に一応は断言しておこう。彼は立香との約束を守る気でいた。ゴルドルフが欲したのはカルデアであり、正直、“奇跡”を起こす少女は手に余った。それにいくら立香が他に類を見ないほど貴重な存在だったとしても、意に沿わない形で少女を従わせるというのはゴルドルフの主義に反するものだった。それが彼が経営者には向いても魔術師には向かないと言われる“甘さ”であったが、立香に対する対応として正しかった。

 

間違いを犯そうとしていたのは魔術協会。彼らは立香との約束を守る気はなかった。単身による英霊の使役という“奇跡”を起こす立香は魔術師にとって文字通り喉から手が出る程に欲しい貴重な存在(サンプル)だ。魔術協会は何としても立香を手に入れようとしただろう。少女が帰りたいと願った場所を踏み躙り‐少女の両親すらも利用したに違いない。そうなれば、立香は※※※する。激おこぷんぷん丸どころではない。怒髪、天を衝くどころではない。ダ・ヴィンチの言うところの“今の立香”は確実に※※※する。それをできるだけの意思と力を立香は持っている。

 

英霊・戦国武将‐森長可。()()()()()()。立香の中にはあと5騎。あの時、あの場所で、マシュもダ・ヴィンチも誰も見ていない場所で、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

立香との約束を魔術協会が破れば、彼らを率いて立香はたった一人で時計塔(ロンドン)に攻め込むだろう。そして、攻め込んできた立香と魔術協会は戦うことになる。その戦いの結末は、わかりきっていることだ。いくら英霊、いくら英雄と言えどたった6騎と一人のマスターでだけでは魔術協会は倒せない。魔術協会は立香に勝利する。ただし、甚大な被害を出しながら、ロンドンを火の海に変えながらの勝利になったことだろう。そして、死の間際、立香は最後の意地として自分の遺骸をサーヴァントの宝具によって塵も残さず消し去ったに違いない。

 

魔術協会はロンドンを火の海に沈めながら何の成果も得られずに立香に勝利する。

 

そんな最悪の結末が十分にあり得た。否、今から起こる最悪な出来事が無ければ物語は最悪な結末を辿っていた。けれど、だから、これから起こることに感謝しろなどとは立香の前では決して言ってはならない。何故ならばこれから起こる最悪は、立香のこれまでの旅の否定である。カルデアへの否定である、人理への否定である。

そして、最後まで泣いて消えていった彼女と誰でもない彼への否定であると立香が思わずにはいられないからだ。

 

 

2017年.12月30日。この日、世界は“漂白”される。

 

カルデアに非常事態を知らせる警報が鳴った。

 

立香は目を見開きながら、その音を聞いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ゴルドルフは痛みと絶望の中にいた。

 

「…ああ…あああ、誰か、誰か…!誰かいないのか!誰でもいい、誰か、誰か―――!」

 

人理継続保障機関・カルデアは、彼のモノとなる筈だった場所は、現在、正体不明の軍勢に占拠されようとしていた。カルデアの心臓と言えるカルデアス。それに繋がれたコフィンの中で眠っていた世界を救うはずだった7人のマスターの救出。その術式(オペレーション)は完璧だった。万能の天才たるダ・ヴィンチ。そして、自分が指揮をとるのだから万に一つの失敗も無いと信じていたゴルドルフだったが、それが成功した時は思わず小躍りしてしまいそうだった。

 

しかし、喜びも束の間。この瞬間を以って、世界の“漂白”が明るみに出た。

 

オペレーションは完璧だった。けれど、コフィンの中に7人のマスター。世界を救うはずだったカルデアAチームの姿は何処にもなかったのだ。

 

そして、鳴り響いた警報が電磁波の一切の検知を、宇宙線の一切の検知を、人工衛星からの映像が、マウナケア天文台からの通信が、消失したことを知らせてきた。

星からの映像が、マウナケア天文台からの通信が、消失したことを知らせてきた。

 

其処から先は電光石火の出来事だった。称賛する他にない制圧だった。カルデアに攻めて来たのは黒い装束の兵隊とそれを率いる白い少女。彼らの制圧により、既にゴルドルフの私兵‐NFFの傭兵たちは壊滅。遂に黒い兵隊たちはゴルドルフの眼前に迫ってきていた。

 

黒い兵隊の持つ鎌で切り裂かれる。鮮血が舞う。痛みが走る。抵抗する様に打ち出した魔銃の玉が黒い兵隊を貫く。倒れる。起き上がる。その繰り返しだ。黒い兵隊は減らない。増えることはあるが減ることがない。明らかに人ではない。人間でない。

 

「ひぃぃ!?誰か、誰かいないのかぁ!なんだって私がこんな目にあう!?くそう、私を誰だと思っているんだ!私はゴルドルフ・ムジークだ!ムジーク家の長男なんだぞ!?」

 

館内放送用の手持ち小型マイクを握り助けを求める。返事はない。

 

黒い兵隊は耳を貸さない。切り裂かれる。鮮血が舞う。痛みが走る。

 

「あがっ!?き、今日という日からカルデアを栄光に導く男!栄光、そう、栄光!そのはずだったのに………!」

 

黒い兵隊は耳を貸さない。切り裂かれる。鮮血が舞う。痛みが走る。

 

「ひぃぃ、いたい、いたいぃぃい……!ああ…ああ…ひっぐ、うう、ううううう…!…なぜだ。なぜなんだ。なんでいつも、最後になって裏切られるんだ!」

 

切り裂かれる。鮮血が舞う。痛みが走る。

 

「ああ、いつもこうだ!私はいつもこうだった……!」

 

切り裂かれる。鮮血が舞う。痛みが走る。

 

「何処に行っても私はのけ者だった。敗者だった。つまはじき者だった」

 

切り裂かれる。痛みが走る。痛みが走る。

 

「知っているさ、私が嫌われ者だってコトぐらい!でも、だからってどうしろと言う!嫌われる理由が分からない!人に好かれる方法なんて分からない!」

 

痛みが走る。痛みが走る。痛みが走る。

 

「私だって、努力したんだ!私なりに最善を尽くしてきたんだよ!なにも一番なんて望んではいなかったんだよ?二番でも三番でも満足だった!だが、はは、結果はどうだ。三番どころか成果すら出せなかった!」

 

痛みが走る。痛みが走る。痛みが走る。

 

「ああ………いたい、いたーい!やめろ、やめてくれーーーぃ!」

 

痛い。痛い。痛い。

 

「くそう、今まで何もいい事がなかったのに!やっと、やっとここで成功できると思ったのに……!どこまでいっても私の人生はどん詰まりなのか、チクショウ、チクショウ………っっっ!」

 

痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。

 

「死にたくない、まだ死にたくない!だってそうだろう、私はまだ、一度も、一度も―――」

 

痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()……!」

 

痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。

 

 

「痛いなぁ」と、立香は呟いた。

 

 

ゴルドルフには目の前の光景が信じられなかった。目の前には拘束具を着たままの立香が、まるで自分を守るかの様に、黒い兵隊と自分との間に何時の間にかに立っていた。

 

「は…え…?なぜ、お前が此処にいる?なぜ、お前が私を守ろうとしている?だって、お前は、私の事が…、憎んでいた、はずだろう?嫌悪を、隠そうともせずに、それなのに、なぜ?」

 

ゴルドルフの言葉の通りだった。立香はゴルドルフが嫌いだった。だから、見ていた、()()()()()()()

カルデアに異常事態を告げる警報が鳴り響き、謹慎室の“壁”の拘束を破壊し抜け出して、ゴルドルフを見かけてから、ずっと見ていた。ゴルドルフが黒い兵隊に追われるのを見ていた。ゴルドルフが鎌で斬られるのを見ていた。ゴルドルフの抵抗を見ていた。ゴルドルフが痛みで涙を流すのを見ていた。最後まで、見ているだけのつもりだった。だって、立香はゴルドルフが嫌いだから。

 

立香だって現カルデアの解体が仕方のないことだということを理解していた。ゴルドルフが悪くないこと位わかっていた。それでも、立香はゴルドルフが嫌いだった。それは仕方のないことだ。()()()()()()()()()()()()()()()

ゴルドルフは運が悪かったのだ。仕方のない。此処に立香が居るという幸運は本来なら起きるはずのない幸運だったのだから、立香がゴルドルフを助けないのも仕方のないことだ。

そう思い立香は最後まで見ているだけのつもりだった。()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

だが、しかし、立香はゴルドルフの最後の言葉を無視できなかった。

 

 

人生に良い事なんて一つも無かったと泣きながら消えていった女性がいた。立香の手は、彼女には届かなかった。救えなかった。助けられなかった。助けたかった、はずなのに。

 

 

「古傷がね、痛いの。ゴルドルフさん、女の子をイジメたら、駄目なんだぞ」

 

「な、なにを、君は言っている。やはり、君は何処か、オカシイのか?」

 

「あは、あはは、アハハ!ゴルドルフさんってばひどーい。折角助けてあげようかと思ったのにー。そんなこと言われちゃうと立香ちゃんのやる気はダダ下がりなんだぞ。助けるの止めちゃおうかな?」

 

「な!?ま、待て待て待て!?此処までやって来てそれはないだろう!?敵とはいえ、目の前で死にそうなのを救助しないのは国際法違反だ!そして私は別にお前の敵という訳ではなかろう!?」

 

「私、そういう難しいこと知らないから。()()()()()。………ねぇ、ゴルドルフさん。酷い事言って、ごめんなさいは?」

 

「………………すまん」

 

「うん。許しちゃう。まあ、正直、今はゴルドルフさんと遊んでいる時間も惜しいみたいだしねぇ。ねえ、黒い兵隊さん。貴方たちは、誰?どうして此処に来たの?どうして、カルデアを滅茶苦茶にするの?どうして、彼女の夢を土足で踏み躙って平気な顔をしていられるの?」

 

黒い兵隊‐殺戮猟兵(オプリチキニ)は答えない。彼らは皇帝(ツァーリ)の威光を示す為のみに存在し、ただその為だけに動く人形に過ぎない。だからこそ、立香の問いに答えない。ただ鎌を振り上げるだけである。

 

「…そう。言葉が通じないなんて、哀しいね」

 

立香の言葉には嘘がない。この時の立香は本当に心の底から悲しんでいた。カルデアをこんなにした黒幕の正体が知れなくて、殺戮猟兵(オプリチキニ)が仕える皇帝(ツァーリ)が誰なのかを知れなくて心底、ガッカリした。そして、その悲しみに答えるように現れた猛き武将の手によって殺戮猟兵(オプリチキニ)は四散に割れて消滅した。

 

ゴルドルフは目の前の光景を疑った。

 

「(これが、これが、報告書にあった未熟なマスターだというのか?)」

 

立香の命もなく現れ消えた森長可。去り際に自分の事を虫けらでも見るように見下して消えていったサーヴァント。彼は完全に立香の意思を命令もなく遂行し魔力の消費を最小限に抑えて消えていった。

 

「(英霊との完璧なまでの意思の疎通。これで未熟だと言うのなら、一流のマスターは目配せ一つで超高度な作戦内容をサーヴァントに伝えられる化け物だとでもいうのか…!?)」

 

拘束具を着たままに殺戮猟兵(オプリチキニ)を容易く蹴散らした立香はゴルドルフの方へと改めて向き直ると、床に腰を落としているゴルドルフと視線を合わせる為にしゃがみながら言った。

 

「ねえ、ゴルドルフさん。この拘束具、そろそろ外してもらえませんか?」

 

「え、あ、ああ、うん。まあ、そうだな。非常事態だ。仕方なかろう。…しかし、その、あれだ。別にお前、自分でもこれは外せるだろう?なぜ私に許可を求める?」

 

「あは、他人(ひと)に嵌めて貰った物は他人(ひと)に外して貰うから意味があるんじゃないですか」

 

「そうなのか?いや、意味が分からんな。まあ、いいか」

 

ゴルドルフが立香の拘束具の留め金を外す。立香は拘束具から解放された。拘束具を脱いだ立香の肢体が晒される。オレンジの下着姿だった。当然だ。拘束具と拘束服は一体型で、それは決して制服の上から着るようには造られていない。

立香の下着姿を見てしまったゴルドルフは目を逸らしながら、上着を脱いで立香に渡した。

 

「…私の上着を着なさい。少女が下着姿でうろつくのは、問題がある」

 

「えー、汗臭いから要らない」

 

「いいから着なさい!紳士である私の前ではしたない格好をするんじゃない!?」

 

「…仕方ないなぁ」

 

渋々と言った様子でゴルドルフの上着を羽織りながら、立香はゴルドルフに問いかける。

 

明らかにサイズの合っていない上着を羽織った立香は図らずも裸ワイシャツを想わせる意外と煽情的な姿に成ってしまったが、ゴルドルフは真っ当な大人であったので、少女である立香には欲情しなかった。ゴルドルフはコヤンスカヤの様な蠱惑的な美女が好みだ。

 

「ねえ、私、拘束されていたせいで状況がよく分かってないんですけど、敵はどうやってカルデアの防衛ラインを突破したんですか?」

 

「それは私も知らん。ただ奴らは外から押し寄せ東区画から侵入した。既に東区画は奴らの手に落ちている」

 

「ふーん。東から攻めてきて、そのまま進んでたら、今頃は管制室まで来てますかね。よし、じゃあ、向かう先は管制室で決まりですね!ゴルドルフさん!行きましょう!レッツゴーです!」

 

「いやいやいやいや、待て待て待て待て、君、何を言っているのかね?君自身が言ったことだからね?管制室には奴らの大群がいるのだぞ?」

 

「ええ、そして、たぶん奴らの親玉がいる場所ですよね」

 

「そうだよ?だから、絶対に近づいちゃ駄目だろう?」

 

「だから、行くんでしょう?」

 

かみ合わなかった。太っちょ紳士‐ゴルドルフと半裸少女‐立香の言葉と考え方は明らかに致命的にかみ合っていなかった。立香は呆れたようにため息を吐きながら、変な事を言っているゴルドルフに物事の考え方を一から説明してあげることにした。

 

「いいですか、カルデアを、こんなにした敵の親玉はたぶん、管制室にいるんですよ?なら、行かなくちゃ。戦わなくちゃ。此処は私の大切な思い出の一杯あるカルデアで、ゴルドルフさんの栄光はこのカルデアから始まるんでしょう?なら、取り戻さなくちゃ駄目です。私、なにか間違ったことを言ってますか?」

 

「…」

 

言っていなかった。立香は何も間違ったことを言ってはいなかった。正体不明の勢力からカルデアを取り戻す。それは言うまでもなく“正しい選択”だ。出来るかどうかという問題を棚上げするなら、それ以外に取るべき手段なんてない。ただその棚上げする問題が、問題なのだ。敵は未知数。されどその勢力は膨大で強大であることは予想できる。

それに対して今の此方の戦力は立香とゴルドルフの二人のみ。確かに立香にはサーヴァントと言う強力な力がある。しかし、サーヴァントは強力だが絶対の存在ではない。戦って勝利は約束されない。負ければ待っているのは“死”だ。

ならば此処はいったん引き、反撃をするにしてもダ・ヴィンチ達と合流してから考えるべきだと思うゴルドルフの考えが真っ当だ。しかし、ゴルドルフはそれを口に出来なかった。

 

気が付いてしまったのだ。敵は未知数。されど膨大で強大。そう約束された戦場で戦ってきたマスターこそが、立香だった。

人類焼却式‐魔人王ゲーティア。おそらくゴルドルフが逆立ちして百回戦っても勝てない相手に勝利し世界を救ったマスターが立香なのだ。

 

かみ合わない筈だ。初めから人間としての種類が、違っていたのだとゴルドルフは思った。

 

「…付き合いきれん。私は逃げるぞ。戦うのなら、一人で戦え」

 

「そうですか。まあ、そうなりますよね。じゃあ、ゴルドルフさん。さようなら!無事に逃げられて、もしダ・ヴィンチちゃんやマシュに会うことがあったら伝えてください。立香は立派に戦って何処かで死んでいるかもって!あは、アハハ!」

 

そう言って立香はゴルドルフの前から消えた。走って消えた。管制室に向かうその小さな背中を見送りながら、ゴルドルフは奥歯を噛んだ。

 

「なんだ、あの娘、狂ってなどいないではないか。…自分が死ぬかも知れないと、理解しているでは、ないか」

 

何もできない。ゴルドルフでは、立香の隣に立って戦えない。それに対する悔しさをゴルドルフが持たない訳ではない。只一人で戦場に向かった立香に対して、ゴルドルフが出来ることは館内放送用の手持ち小型マイクを持つことだった。

先ほどまでのゴルドルフはコレで助けを呼んだ。《誰かいないのか》と叫んだ。

 

「…カルデア内にいる私ではない誰かに伝える。助けてくれ。…頼む。助けてやってくれ。あの娘が、藤丸立香が、管制室に向かった。…カルデアを救う為に、一人で、戦いに行った。…頼む。…誰か、助けてやってくれ」

 

ゴルドルフはもう叫ばなかった。けれど、その言葉は確かに“誰か”に届いていた。

 

 

 

 

 


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