皆様の暇つぶしになれば幸いです(__)
※原作の立香ちゃんが絶対に言わないことをサーヴァントに対して言っています。
ロシア異聞帯‐零下100度を下回る極寒の世界に適応する為に魔物と人間を掛け合わせることを選んだ世界。そうして生まれた新人類‐ヤガ。彼らは突如現れ自分達の“狩場”を荒らした立香たちに戦いを挑み、敗れ、そして
少なくともそう考えるヤガの若者‐パツシィは多頭の蛇の魔物‐ジャヴォル・トローンの肉片の雨が降る中、それを成した立香とバベッジに恐怖を覚え他のヤガ達が逃げ出していく中で、ただ一人、最後の瞬間まで立香とバベッジの戦いを見ていた。
圧倒的だった。圧倒的な蹂躙だった。そして、パツシィはその蹂躙に魅入られた。自分が絶対と信じたものが容易く砕かれる瞬間は逃げることも忘れて見入るに十分な光景だった。
ジャヴォル・トローンの蹂躙を終えた立香とバベッジがパツシィに視線を向ける。バベッジの巨体がパツシィに近づいてくる。
鋼鉄の巨人の肩に乗る少女の視線が自分に突き刺さっているのを感じた。
巨人の歩みを遅く感じる。聞こえてくる異音の度に逃げ出しそうになる。それでもパツシィがその場に留まることが出来たのは彼の他のヤガからは異端とされた考え方が故だった。
弱肉強食を突き詰めたこの
‐だからだろうか。自分たちを恐れ、自身の生を優先し逃げ出したヤガ達とは違い、その場に残り自分達にお礼を言ってきたパツシィに立香は笑顔を返した。外見がまるで違うが故に美的感覚を共有できない新人類と旧人類ではあるが、パツシィは立香の笑顔を何故か美しいと感じた。
「こんにちは。私は立香。あなたは誰?」
「…パツシィ。あんたは、ヤガじゃないよな。“旧種”、人間か。
「
「…いいぜ。ただそれでさっきの借りはチャラだ。それでいいな」
「うん!」
それからパツシィが語ったことは立香たちが求めて止まなかった情報。
この国において500年間に渡り存命だという最古のヤガ‐“
「なあ!待ってくれ!あんた、
パツシィの言葉で立香は止まる。少しだけ考えこむように首を傾げた後、立香は自分の傍にいる
だから、その天使の如く天才的な可愛い声は今後の立香の行動を大きく救った。
《私を頼ってくれたまえ‼》
「ふぇ!?いまの声はダ・ヴィンチちゃん。急な大声に立香ちゃんの心臓はバクバクだよ?どうしたのかな?」
《えへへ、なにちょっと出番が欲しくなっちゃって。でだ、藤丸ちゃん。そこのパツシィ君の提案に乗ろう。敵の敵は味方さ。ここまで言うんだ。案内役はパツシィ君が買って出てくれるんだろう?》
「あ、ああ…なんだ、どこから声がすんだよ。まあ、けど、その通りだ。だが勿論、タダじゃねぇ。あんたらを案内する代わりに俺も無事に叛逆軍の元に連れていくと約束しろ」
「パツシィさんも叛逆したいの?
「ああ、少し前までは
《よし!話は決まったね。藤丸ちゃん。まずはパツシィ君を連れてボーダーまで戻ってきてくれたまえ。それから叛逆軍の下に向かうことに‐ゴルドルフ君ちょっと黙っててよ。ホームズ。うん。いつまでも好きにさせる訳にはいかないだろう》
何やら通信機の先でゴルドルフが喚いている声が聞こえていたが、ホームズがゴルドルフに一言いうと消えた。立香には何を言っていたかは聞こえなかった。
「ダ・ヴィンチちゃん?なにかあったの」
《ううん。なんでもないさ。そういう訳だ。待っているから早く帰っておいで‐何なら戻ったら一緒にシャワーでも浴びるかい?》
「え!本当‼わーい。バベッジさん。パツシィさんを乗せてあげて!全速力でボーダーに帰還するよー」
「承った。我が手に乗るがいい。異なる世界の隣人よ」
「…え。…あんたに、乗るのか………わかった。握りつぶしたりするなよ」
こうして立香はパツシィと出会い、
―――それが正史。それが正道。それが正解。‐だというのに
立香が力を持つことで正史においてロシア異聞帯でパツシィと出会うタイミングが遅れた。叛逆軍と合流するタイミングも遅れた。けれど、世界の修正力とも呼ぶもののチカラにより、絶妙なタイミング。ギリギリのタイミングで合流することが出来るはずだった。けれど‐
それは後に記録を見れば明らかな失敗だった。そのせいで立香は叛逆軍と合流できずに、あったはずの出会いを台無しにした。けれど、それを責めることは出来ない。神のみぞ知る、でもない。神も知らない。知りえない。いつの時代もそれを見誤るからこそ、神は姿を消してきた。
「…なあ、散らばってるジャヴォル・トローンの肉塊を集めて、一度、村に寄ってもいいか。…母親が村に残っているんだ」
「お母さんも叛逆軍に参加したいの?」
「いや、あいつは弱い。叛逆軍になんて参加できねぇよ。奴らにも戦えない奴を養う余裕はないだろ。…だから、コレを最後にあいつに届ける食糧にしたい」
それは肉親を思うヒトの感情。それはヒトがヒトである証左。そして、‐往々にしてそれは奇跡を呼ぶと等しく悲劇を生む。
「ふーん。…いいねぇ。パツシィさんの今日のラッキーカラーはきっと白だねっ!。いいよー、お母さんも一緒に連れて行こう。叛逆軍が面倒をみない?残念!立香ちゃんが助けちゃいますからー」
パツシィの村。
ただでさえ“叛逆”という“正義”を掲げる彼女にとって、
立香達がジャヴォル・トローンの肉塊を食糧として集めて居なければ、ギリギリのタイミングでパツシィの村へと、やむにやまれぬ事情により食糧の提供を強制的にお願いしようとする叛逆軍と、村にたどり着く前に合流することができた。
だが、しかし、そうはならなかった。
「ボス、どうやら情報通りに村の男衆は出払ってるみたいです。理由はわかりませんが…どうせ、独占している狩場での狩りでしょう。あの村の連中はその狩場の為に他の村の者を撃ち殺す様な連中だ」
「…憤りは収めろ。私たちは無駄な争いは望まない。だから、このタイミングでやってきたことを忘れるな。皆にも伝えろ。無益な血を流すことは許さない。特に子供に銃を向けるような奴が居れば私がハリネズミにしてやるとなっ!」
「ボス、ハリネズミってどんな魔物です?強いですか?」
「…やりにくいな」
黒い毛皮を纏った女性‐人理を救う為に世界が召喚したサーヴァント‐アタランテ・オルタ。
子供に優しい彼女は堪えるように顔を歪ませパツシィの村を見ていた。
「正義のための戦いとは、こんなに苦しいものだったか?」
答えはない。それでもアタランテ・オルタは弓を取らなければならない。彼女は叛逆軍とは名ばかりの行き場の無い弱き者達‐ヤガの常識からすれば見捨てるべき弱き者達、老人や病人や子供を捨てられずに意思弱き者達と迫害され行き場をなくした彼らを救わなければならない。
その為には食糧が必要だ。先日、
無論、アタランテ・オルタもパツシィの村が飢えるほどの食糧を持っていく気はない。パツシィの村が食糧を必要以上に溜め込んでいることは調べが付いているのだ。だから、飢えない程度に奪う。だから、これは助け合いなのだと吐き捨てて‐自嘲した。
「とてもではないが子供に見せられぬ姿をしているのだろうな。今の私は………、行くぞ」
それでも弱者を救う為に。それでも前に進むために出した足は‐確固たる信念の為に出されたが故に止まることが出来なかった。
村の手前でパツシィが叫んだ。ヤガの目は人間よりもはるかに遠くを見渡す。
「なんだ、あの連中…っ、まずい。
《藤丸ちゃん。こっちでも
火は燃える。炎に変わる。雪の世界ではあまりに不運な争いがあっさりと起きてしまう。
叛逆軍を率いるサーヴァント‐アタランテ・オルタ。
彼女はホームズが推理した異星の神に対抗する為に召喚された汎人類史側のサーヴァント。つまりは立香の味方となる筈のサーヴァントだった。過酷な世界で生きるヤガ達‐その上に振り下ろされる
白銀の世界を黒い魔獣‐
立香とアタランテ・オルタの視線が交差する。互いに言葉はない死線のやり取りにバベッジの蒸気が花を添える。死地が築かれていた。
何が悪かったかといえば、きっとすべてが最悪だった。タイミングも、互いの第一印象も、村人たちがかけた言葉すらも、悪かった。
アタランテ・オルタはパツシィの村に来て直ぐに駐留していた
そんな場面を目撃すれば、“相手は盗賊だ”と叫んだパツシィに非は無く、また立香もその言葉を信じた。無論、盗賊の頭目と思しき者がサーヴァントであったことに何も思わなかったわけじゃない。立香は戦う前に、何か事情があるのだろうと‐対話を試みようとした。
ただ、その瞬間に
『や、やった…!
最近になり
「ちっ、痛て…くそ、ぼさっとすんなよ!旧種って奴は、弱いんだろ!?」
目の前で守ろうとしていた者が射抜かれた。その時点で、立香はアタランテ・オルタとの対話を放棄した。プッツンした。
「パツシィさん!?大丈夫、そうだね。よかったー。…マジ意味わかんないんですけどお、いきなりなにするの、話し合おうとか思わないの。…いいよ。うん、心まで獣に成りたいなら、付き合ってあげる‼ねぇ、バベッジさん‼」
「否定する。他の者が貴様に対し甘すぎる故に、私は叡智を捨てず猛る貴様を窘める者である。だが、目の前のサーヴァントの危険性は理解する。その危険性が貴様に危険を齎すなら、我が鋼鉄は全ての破壊を是とするものである」
「アハハ!結局、戦ってくれるってことだね。バベッジさんは優しいから大好きっ。パツシィさんは降りててねー」
心優しい鋼鉄の巨人は怪我人を降ろすと嗤う少女を肩に乗せたまま動き出す。巨体が異音を鳴らし蒸気を噴き上げる。
「貴様ッ、やはり
「否定する。私の主は誰の手先にもなり得ない」
「あはは、そうだよ。私を
「え、えすえす、てぃー?ええい、意味の分からない言葉を使うな!人の言葉で話せ!」
「話してるよー。そっちこそ無理に人の言葉で喋んなくてもいいんだよ?使い慣れたの使いなよ。アハハ!豚語とか、ブヒブヒ♪」
「…ブチ殺す」
本来であれば共に戦うことの出来たサーヴァントとマスターの争い。どちらが悪かったとか、そういうことはない。確かに立香の性格は少しばかり悪かったかも知れないが、引き金を引いたのはアタランテ・オルタが先で、バベッジは立香を甘やかす他のサーヴァントとは違い自分位は立香を窘める側に回ろうと思いながらも結局は甘やかしていたが、やはり誰が悪い訳でもない。この場にいる者達に責任の所在は問えない。責任者は何処か。
責任は問えない。往々にして運命の分かれ道を決める弾丸はそうして放たれる。一つの弾丸から始まる虐殺がある。立香は見てきた。何度も見てきた。多くの英雄たちの記憶を夢として見る中で多くを見てきた。いわれのない虐殺を繰り返し見てきた。正義の蛮行を瞼に焼き付くほど見てきた。だからこそ、激情に駆られながらも、そこだけは間違えてはいけなかった。ああ、だから、やはり、先の言葉は否定するべきだ。
この場において彼らだけが誰の味方でもなかった。立香は村人の味方だった。アタランテ・オルタは叛逆軍の味方だった。
「粛清。粛清。粛清。この光景全てが
凶弾が二人の命を簡単に奪おうと放たれる。戦いに巻き込まれた親子が死ぬ。誰かの叫びが上げる。それを全員が見ていることしかできない。立香も、バベッジも、アタランテ・オルタも見ていることしかできない。自分達が起こした戦いで親子が死んだ。その結末に三者が動けずに辿り着く寸前で、親子に向けて放たれた
空中で静止する弾丸。無論、そんな現象はあり得ない。目を凝らせば見えてくる氷の壁が、凶弾から親子を救っていた。突然訪れた救いに眼を疑う中、戦いが止まり掻き消えていたダ・ヴィンチの言葉が立香に届いた。
《――ちゃん!-丸ちゃん!藤丸ちゃん!ああ、よかったようやく聞こえたようだね。目の前のサーヴァントとカルデアのアタランテの霊基パターンが一致した!彼女はアタランテが反転した姿、おそらく私たちの敵じゃない。
ダ・ヴィンチの通信を聞いて立香は村の奥へと目を向ける。雪風が吹きすさぶ中、近づいてくる白い二つの影。
くすんだ銀髪の少年が白い皇女と共に歩いてくる。
彼は村で起きている惨状を見ながら吐き捨てるように言った。
「世界を救っておきながら、村一つ満足に救えないのか。三流マスター」
作者はアタランテ・オルタが大好きです。
最終再臨がエッチすぎるけど、是非もないよね!
この後の立香ちゃんの行動はどうする?
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態度は少し軟化する
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態度はだいぶ軟化する
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クリプター達とお友達になる
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激怒する