ブチギレ立香ちゃんの漂白世界旅   作:白白明け

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皆様の暇つぶしになれば幸いです(__)

※原作の立香ちゃんが絶対に言わないことをサーヴァントに対して言っています。





立香ちゃんは許したくない①

 

 

 

 

ロシア異聞帯‐零下100度を下回る極寒の世界に適応する為に魔物と人間を掛け合わせることを選んだ世界。そうして生まれた新人類‐ヤガ。彼らは突如現れ自分達の“狩場”を荒らした立香たちに戦いを挑み、敗れ、そして()()()()

 

少なくともそう考えるヤガの若者‐パツシィは多頭の蛇の魔物‐ジャヴォル・トローンの肉片の雨が降る中、それを成した立香とバベッジに恐怖を覚え他のヤガ達が逃げ出していく中で、ただ一人、最後の瞬間まで立香とバベッジの戦いを見ていた。

 

圧倒的だった。圧倒的な蹂躙だった。そして、パツシィはその蹂躙に魅入られた。自分が絶対と信じたものが容易く砕かれる瞬間は逃げることも忘れて見入るに十分な光景だった。

 

ジャヴォル・トローンの蹂躙を終えた立香とバベッジがパツシィに視線を向ける。バベッジの巨体がパツシィに近づいてくる。

 

鋼鉄の巨人の肩に乗る少女の視線が自分に突き刺さっているのを感じた。

巨人の歩みを遅く感じる。聞こえてくる異音の度に逃げ出しそうになる。それでもパツシィがその場に留まることが出来たのは彼の他のヤガからは異端とされた考え方が故だった。

 

弱肉強食を突き詰めたこの異聞(せかい)において、パツシィには“死”が無意味だとは思えない。生きることの為に全てが許される世界で、自分が生きること以外にも大切なものはあるのではと考えてしまう。()()がなんなのかをパツシィは知らないが、立香は知っている。

 

‐だからだろうか。自分たちを恐れ、自身の生を優先し逃げ出したヤガ達とは違い、その場に残り自分達にお礼を言ってきたパツシィに立香は笑顔を返した。外見がまるで違うが故に美的感覚を共有できない新人類と旧人類ではあるが、パツシィは立香の笑顔を何故か美しいと感じた。

 

「こんにちは。私は立香。あなたは誰?」

 

「…パツシィ。あんたは、ヤガじゃないよな。“旧種”、人間か。皇帝(ツァーリ)のコルドゥーンと同じ」

 

皇帝(ツァーリ)。あは、あはは、アハハ!知ってるよ。皇帝(ツァーリ)の威光を遍く全てに!だよね。ねえ、パツシィさん。私、知りたいことが多すぎて困ってるの。助けてくれると嬉しいなっ!」

 

皇帝(ツァーリ)という言葉を聞いた瞬間に表情を変えて嗤いだした立香に対して若干引きながらもパツシィは答えを返す。

 

「…いいぜ。ただそれでさっきの借りはチャラだ。それでいいな」

 

「うん!」

 

それからパツシィが語ったことは立香たちが求めて止まなかった情報。

この国において500年間に渡り存命だという最古のヤガ‐“皇帝(ツァーリ)”‐イヴァン雷帝。古くからイヴァン雷帝に仕える為に存在する殺戮猟兵(オプリチキニ)。そして、最近になり王都に集い始めたという魔術師(コルドゥーン)。その魔術師(コルドゥーン)の中には()()()()()()()がいるという。

 

(クリプター)の居場所は判明した。この異聞帯が歩んだ歴史も理解した。もはや探索に掛ける時間は要らない。そこからの立香の動きは早い。すぐ様にでも王都に攻め込む。そう意気込み駆け出そうとした立香を通信を通して話を聞いていたホームズが止めようとする前にパツシィが立香を止めた。

 

「なあ!待ってくれ!あんた、皇帝(ツァーリ)と戦うつもりなんだろう。なら、叛逆軍と合流した方がいい。殺戮猟兵(オプリチキニ)のやり方にムカついて皇帝(ツァーリ)を倒そうとしている奴らが居るんだ。聞いた話じゃ、最近そこにも妙な奴が入ったらしい。会う価値はあるんじゃないのか」

 

パツシィの言葉で立香は止まる。少しだけ考えこむように首を傾げた後、立香は自分の傍にいる頭脳(ブレイン)に意見を聞こうとした。‐ところで、通信機を通じて可愛らしい声が辺りに響いた。一つだけ言っておこう。もしこの天才的に可愛らしい声が無ければ叛逆軍と立香が合流する未来はなかった。なぜなら立香の頭脳(ブレイン)は叛逆者とか、謀反者が嫌いだった。イヴァン雷帝を打倒しなければならない自分達を棚に上げて“謀反とかマジ無いのじゃ”である。叛逆軍など羽虫の集まりが彼女の考え方であった。

 

だから、その天使の如く天才的な可愛い声は今後の立香の行動を大きく救った。

 

《私を頼ってくれたまえ‼》

 

「ふぇ!?いまの声はダ・ヴィンチちゃん。急な大声に立香ちゃんの心臓はバクバクだよ?どうしたのかな?」

 

《えへへ、なにちょっと出番が欲しくなっちゃって。でだ、藤丸ちゃん。そこのパツシィ君の提案に乗ろう。敵の敵は味方さ。ここまで言うんだ。案内役はパツシィ君が買って出てくれるんだろう?》

 

「あ、ああ…なんだ、どこから声がすんだよ。まあ、けど、その通りだ。だが勿論、タダじゃねぇ。あんたらを案内する代わりに俺も無事に叛逆軍の元に連れていくと約束しろ」

 

「パツシィさんも叛逆したいの?皇帝(ツァーリ)に中指突き立てガッデムなの?」

 

「ああ、少し前までは皇帝(ツァーリ)の威光に従っていればキツイが生きられたんだ。だが、それも三ヶ月くらい前に変わっちまった。正直、冬を乗り切れるかもわからねぇんだ。なら、いっそ叛逆軍に加わった方がマシだ」

 

《よし!話は決まったね。藤丸ちゃん。まずはパツシィ君を連れてボーダーまで戻ってきてくれたまえ。それから叛逆軍の下に向かうことに‐ゴルドルフ君ちょっと黙っててよ。ホームズ。うん。いつまでも好きにさせる訳にはいかないだろう》

 

何やら通信機の先でゴルドルフが喚いている声が聞こえていたが、ホームズがゴルドルフに一言いうと消えた。立香には何を言っていたかは聞こえなかった。

 

「ダ・ヴィンチちゃん?なにかあったの」

 

《ううん。なんでもないさ。そういう訳だ。待っているから早く帰っておいで‐何なら戻ったら一緒にシャワーでも浴びるかい?》

 

「え!本当‼わーい。バベッジさん。パツシィさんを乗せてあげて!全速力でボーダーに帰還するよー」

 

「承った。我が手に乗るがいい。異なる世界の隣人よ」

 

「…え。…あんたに、乗るのか………わかった。握りつぶしたりするなよ」

 

こうして立香はパツシィと出会い、()()()()()()()()で叛逆軍の下へ向かうことになる。

 

 

 

 

 

―――それが正史。それが正道。それが正解。‐だというのに立香(にんげん)は何時だって失敗する。失敗を繰り返してきた。その繰り返しの中でダ・ヴィンチの言うようにピンチをチャンスに変えてきた。だから、今回の事もまたその一環である。‐筈だった。

 

立香が力を持つことで正史においてロシア異聞帯でパツシィと出会うタイミングが遅れた。叛逆軍と合流するタイミングも遅れた。けれど、世界の修正力とも呼ぶもののチカラにより、絶妙なタイミング。ギリギリのタイミングで合流することが出来るはずだった。けれど‐

それは後に記録を見れば明らかな失敗だった。そのせいで立香は叛逆軍と合流できずに、あったはずの出会いを台無しにした。けれど、それを責めることは出来ない。神のみぞ知る、でもない。神も知らない。知りえない。いつの時代もそれを見誤るからこそ、神は姿を消してきた。

 

「…なあ、散らばってるジャヴォル・トローンの肉塊を集めて、一度、村に寄ってもいいか。…母親が村に残っているんだ」

 

「お母さんも叛逆軍に参加したいの?」

 

「いや、あいつは弱い。叛逆軍になんて参加できねぇよ。奴らにも戦えない奴を養う余裕はないだろ。…だから、コレを最後にあいつに届ける食糧にしたい」

 

それは肉親を思うヒトの感情。それはヒトがヒトである証左。そして、‐往々にしてそれは奇跡を呼ぶと等しく悲劇を生む。

 

「ふーん。…いいねぇ。パツシィさんの今日のラッキーカラーはきっと白だねっ!。いいよー、お母さんも一緒に連れて行こう。叛逆軍が面倒をみない?残念!立香ちゃんが助けちゃいますからー」

 

 

 

 

 

 

 

パツシィの村。

 

皇帝(ツァーリ)に忠誠を示し、“狩場”を独占することで他の村々よりも比較的に食糧事情に余裕を持つその村には、だからこそ税の徴収に訪れる殺戮猟兵(オプリチキニ)が駐留していた。そして、パツシィ達のような若く強いヤガが居るのなら、その村を襲うには相当な労力を要する。少なくない犠牲も覚悟しなければならないだろう。

 

ただでさえ“叛逆”という“正義”を掲げる彼女にとって、皇帝(ツァーリ)に忠誠を示しているとはいえ、ただの村人である彼らに弓を向けるのは心が痛む‐その痛みの上に積み重ねられるかもしれない犠牲は、可能な限り減らしたい。その考えは真っ当なもので、だから、ギリギリのタイミングだった。

 

立香達がジャヴォル・トローンの肉塊を食糧として集めて居なければ、ギリギリのタイミングでパツシィの村へと、やむにやまれぬ事情により食糧の提供を強制的にお願いしようとする叛逆軍と、村にたどり着く前に合流することができた。

 

だが、しかし、そうはならなかった。

 

「ボス、どうやら情報通りに村の男衆は出払ってるみたいです。理由はわかりませんが…どうせ、独占している狩場での狩りでしょう。あの村の連中はその狩場の為に他の村の者を撃ち殺す様な連中だ」

 

「…憤りは収めろ。私たちは無駄な争いは望まない。だから、このタイミングでやってきたことを忘れるな。皆にも伝えろ。無益な血を流すことは許さない。特に子供に銃を向けるような奴が居れば私がハリネズミにしてやるとなっ!」

 

「ボス、ハリネズミってどんな魔物です?強いですか?」

 

「…やりにくいな」

 

黒い毛皮を纏った女性‐人理を救う為に世界が召喚したサーヴァント‐アタランテ・オルタ。

子供に優しい彼女は堪えるように顔を歪ませパツシィの村を見ていた。

 

「正義のための戦いとは、こんなに苦しいものだったか?」

 

答えはない。それでもアタランテ・オルタは弓を取らなければならない。彼女は叛逆軍とは名ばかりの行き場の無い弱き者達‐ヤガの常識からすれば見捨てるべき弱き者達、老人や病人や子供を捨てられずに意思弱き者達と迫害され行き場をなくした彼らを救わなければならない。

 

その為には食糧が必要だ。先日、殺戮猟兵(オプリチキニ)に焼き払われた隠し食糧庫には叛逆軍の集めた全体の三割にも及ぶ食糧が収められていた。それを失った。ヤガにとって食糧を失うことは死活問題だ。人間は水だけでも7日は生きられるが、ヤガは3日で死ぬ。老人や病人、子供であれば更に早く命を失う。それだけは‐彼女にとって避けなければならない最悪の結末だった。

無論、アタランテ・オルタもパツシィの村が飢えるほどの食糧を持っていく気はない。パツシィの村が食糧を必要以上に溜め込んでいることは調べが付いているのだ。だから、飢えない程度に奪う。だから、これは助け合いなのだと吐き捨てて‐自嘲した。

 

「とてもではないが子供に見せられぬ姿をしているのだろうな。今の私は………、行くぞ」

 

それでも弱者を救う為に。それでも前に進むために出した足は‐確固たる信念の為に出されたが故に止まることが出来なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

村の手前でパツシィが叫んだ。ヤガの目は人間よりもはるかに遠くを見渡す。

 

「なんだ、あの連中…っ、まずい。()()()()()()()()()()‼」

 

《藤丸ちゃん。こっちでも殺戮猟兵(オプリチキニ)の霊基を確認した。どうやら村で争いが起きているようだ》

 

火は燃える。炎に変わる。雪の世界ではあまりに不運な争いがあっさりと起きてしまう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

叛逆軍を率いるサーヴァント‐アタランテ・オルタ。

 

彼女はホームズが推理した異星の神に対抗する為に召喚された汎人類史側のサーヴァント。つまりは立香の味方となる筈のサーヴァントだった。過酷な世界で生きるヤガ達‐その上に振り下ろされる皇帝(ツァーリ)の威光が幼い子供の命まで奪っているという現実に叛逆する為に弓を取った彼女の感性もまた立香が好む“英雄”そのものであり、だからこそ立香とアタランテ・オルタは共に戦うことが出来た筈だった。

 

白銀の世界を黒い魔獣‐魔猪(カリュドーン)の毛皮を纏ったアタランテ・オルタが疾走する。序だとばかりに周囲にいた殺戮猟兵(オプリチキニ)達を斬り倒しながら、鋼鉄の巨人‐バベッジに迫り、バベッジの肩に乗る少女‐立香に矢を向けた。振り下ろされる巨大な鉄塊(アイアンメイス)。矢が放たれる前に振るわれたバベッジの攻撃がアタランテ・オルタに迫る‐アタランテ・オルタは距離を取った。繰り返すこと五度目の攻防。

立香とアタランテ・オルタの視線が交差する。互いに言葉はない死線のやり取りにバベッジの蒸気が花を添える。死地が築かれていた。

 

何が悪かったかといえば、きっとすべてが最悪だった。タイミングも、互いの第一印象も、村人たちがかけた言葉すらも、悪かった。

 

アタランテ・オルタはパツシィの村に来て直ぐに駐留していた殺戮猟兵(オプリチキニ)達を制圧した。圧倒的な武力を見せつけた上での交渉にパツシィの村の村長は応じるしかなく、備蓄していた食糧の五割を叛逆軍に提供することなる‐寸前で立香とパツシィを乗せたバベッジが村に到着した。

 

そんな場面を目撃すれば、“相手は盗賊だ”と叫んだパツシィに非は無く、また立香もその言葉を信じた。無論、盗賊の頭目と思しき者がサーヴァントであったことに何も思わなかったわけじゃない。立香は戦う前に、何か事情があるのだろうと‐対話を試みようとした。

 

ただ、その瞬間に殺戮猟兵(オプリチキニ)の増援が現れた。しかも、村に駐留していた殺戮猟兵(オプリチキニ)より強力な個体だった。それをみた村長は叫んだ。

 

『や、やった…!皇帝(ツァーリ)はやはり、我々を見捨てていなかった!コルドゥーンの方も来てくださった!叛逆軍ども!恐れおののくがいい!皆殺しにされると思え!』

 

最近になり皇帝(ツァーリ)の元に集ったコルドゥーン‐旧種の魔術師のことは噂になっていた。だから、そう言われてしまえば立香がそうであると思ったアタランテ・オルタの考えは至極真っ当なもので、矢を番えたこともまた仕方のないことだった。アタランテ・オルタとの対話を望む立香に矢は放たれた。それが立香を射抜いていたなら、まだよかった。アタランテ・オルタの矢は確かに立香の肩を抉ったかもしれないが、それだけで命を奪うものではなかった。アタランテ・オルタ自身が動きを止める為だけに射ったもの。ただ、その矢から立香を庇うようにパツシィが飛び出した。

 

「ちっ、痛て…くそ、ぼさっとすんなよ!旧種って奴は、弱いんだろ!?」

 

目の前で守ろうとしていた者が射抜かれた。その時点で、立香はアタランテ・オルタとの対話を放棄した。プッツンした。怒髪(どはつ)(かんむり)()く、立香は吼えた。

 

「パツシィさん!?大丈夫、そうだね。よかったー。…マジ意味わかんないんですけどお、いきなりなにするの、話し合おうとか思わないの。…いいよ。うん、心まで獣に成りたいなら、付き合ってあげる‼ねぇ、バベッジさん‼」

 

「否定する。他の者が貴様に対し甘すぎる故に、私は叡智を捨てず猛る貴様を窘める者である。だが、目の前のサーヴァントの危険性は理解する。その危険性が貴様に危険を齎すなら、我が鋼鉄は全ての破壊を是とするものである」

 

「アハハ!結局、戦ってくれるってことだね。バベッジさんは優しいから大好きっ。パツシィさんは降りててねー」

 

心優しい鋼鉄の巨人は怪我人を降ろすと嗤う少女を肩に乗せたまま動き出す。巨体が異音を鳴らし蒸気を噴き上げる。単眼(モノアイ)が赤く光る。その光景は対する者すべてに恐怖を与えるものであり、叛逆軍のヤガ達は銃を向けて発砲した。無論、そんなものがバベッジの装甲に通じる筈もなく振りかぶられた巨大な鉄塊(アイアンメイス)で叛逆軍のヤガ達は殺戮猟兵(オプリチキニ)ともども吹き飛ばされる。それはバベッジがヤガの身体の頑丈さを知っているからこその攻撃であり、手加減をしているのだがそれを知る由もないアタランテ・オルタは同胞が討たれたことに怒りを抱きながら矢を番える。

 

「貴様ッ、やはり皇帝(ツァーリ)の手先となった魔術師とサーヴァントだな‼」

 

「否定する。私の主は誰の手先にもなり得ない」

 

「あはは、そうだよ。私を皇帝(ツァーリ)の手先と間違えるなんて、最低()最悪()つまんない()

 

「え、えすえす、てぃー?ええい、意味の分からない言葉を使うな!人の言葉で話せ!」

 

「話してるよー。そっちこそ無理に人の言葉で喋んなくてもいいんだよ?使い慣れたの使いなよ。アハハ!豚語とか、ブヒブヒ♪」

 

「…ブチ殺す」

 

本来であれば共に戦うことの出来たサーヴァントとマスターの争い。どちらが悪かったとか、そういうことはない。確かに立香の性格は少しばかり悪かったかも知れないが、引き金を引いたのはアタランテ・オルタが先で、バベッジは立香を甘やかす他のサーヴァントとは違い自分位は立香を窘める側に回ろうと思いながらも結局は甘やかしていたが、やはり誰が悪い訳でもない。この場にいる者達に責任の所在は問えない。責任者は何処か。

 

責任は問えない。往々にして運命の分かれ道を決める弾丸はそうして放たれる。一つの弾丸から始まる虐殺がある。立香は見てきた。何度も見てきた。多くの英雄たちの記憶を夢として見る中で多くを見てきた。いわれのない虐殺を繰り返し見てきた。正義の蛮行を瞼に焼き付くほど見てきた。だからこそ、激情に駆られながらも、そこだけは間違えてはいけなかった。ああ、だから、やはり、先の言葉は否定するべきだ。

 

立香(じぶん)が悪かった。と‐後に立香は後悔した。

 

殺戮猟兵(オプリチキニ)。‐バベッジとアタランテ・オルタの戦いのついでとばかりに蹴散らされる皇帝(ツァーリ)の威光を示す為のみに存在するイヴァン雷帝の宝具の一つ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

この場において彼らだけが誰の味方でもなかった。立香は村人の味方だった。アタランテ・オルタは叛逆軍の味方だった。殺戮猟兵(オプリチキニ)だけはこの場にいない皇帝(ツァーリ)の味方で、そして、その庇護対象には村人も入ってはいない。彼らは取り立てる者。皇帝(ツァーリ)の威光の為に税を、命を刈り取る者。

 

「粛清。粛清。粛清。この光景全てが皇帝(ツァーリ)の威光を貶めるもの。全員、首を差し出すべきだ」

 

殺戮猟兵(オプリチキニ)が銃を構える。その先には母親に庇われる子供がいた。‐()()()()()()()()。乾いた音が鳴った。

 

凶弾が二人の命を簡単に奪おうと放たれる。戦いに巻き込まれた親子が死ぬ。誰かの叫びが上げる。それを全員が見ていることしかできない。立香も、バベッジも、アタランテ・オルタも見ていることしかできない。自分達が起こした戦いで親子が死んだ。その結末に三者が動けずに辿り着く寸前で、親子に向けて放たれた殺戮猟兵(オプリチキニ)の銃弾が空中で静止した。

 

空中で静止する弾丸。無論、そんな現象はあり得ない。目を凝らせば見えてくる氷の壁が、凶弾から親子を救っていた。突然訪れた救いに眼を疑う中、戦いが止まり掻き消えていたダ・ヴィンチの言葉が立香に届いた。

 

《――ちゃん!-丸ちゃん!藤丸ちゃん!ああ、よかったようやく聞こえたようだね。目の前のサーヴァントとカルデアのアタランテの霊基パターンが一致した!彼女はアタランテが反転した姿、おそらく私たちの敵じゃない。()()()()()()()()。間違いない。カルデアに残されていたデータ通りの魔力パターンだ。元Aチームの魔術師‐カドック・ゼムルプス。七人のクリプターの内の一人だよ!》

 

ダ・ヴィンチの通信を聞いて立香は村の奥へと目を向ける。雪風が吹きすさぶ中、近づいてくる白い二つの影。

くすんだ銀髪の少年が白い皇女と共に歩いてくる。

 

彼は村で起きている惨状を見ながら吐き捨てるように言った。

 

「世界を救っておきながら、村一つ満足に救えないのか。三流マスター」

 

 

 

 

 







作者はアタランテ・オルタが大好きです。
最終再臨がエッチすぎるけど、是非もないよね!



この後の立香ちゃんの行動はどうする?

  • 態度は少し軟化する
  • 態度はだいぶ軟化する
  • クリプター達とお友達になる
  • 激怒する

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