それではどうぞ。
窓からさす光が顔に当たり、目が覚める。朝だ。
もそもそとベッドから起きて、軽く寝ぼけつつも服を着替えて下に降りる。
「あら
「ん、おはよう。分かってるよ母さん」
母親に挨拶をして顔を洗いに行く。冷たい水が気持ちいい。シャッキリと目を覚まし席につく。
父親は既に仕事に行っていてもう居ない。2人きりのリビングで談笑しながら朝食をとる。
「あら、もう時間じゃない?」
「え? あっやべっ!」
いつもより会話が弾んだために気づかなかったようだ。
残りを頬張り、カバンを持って玄関に出る。
「忘れ物は無いわね?」
「んー、大丈夫。じゃあ行ってきます!」
ドアを開けてジョギング程の速さで通学路を行く。
◆
「ふー! ギリギリセーフ!」
教室に駆け込み息を吐く。
運が悪かったのか、ほとんどの信号に引っかかってしまいギリギリだった。そういえば今日の運勢は最下位だとテレビでやっていた。
「おはよう優樹。いつもより遅いなんて珍しいわね」
席に着いた自分に声をかけて来たのは
切れ目の目は鋭く、だがしかしその瞳の奥には柔らかさも感じられ、大抵の第一印象はカッコイイ、だろう。
女子にしては高身長で幼少の頃からの剣道によって引き締まった体、大和撫子を体現したようだ。
彼女の実家は八重樫流と呼ばれる剣道道場を営んでいて、彼女自身も小学生の時から大会で負けたことがなく、雑誌の取材も受けたことがあるらしい。
さらにその持ち前の性格から目につく問題を率先して仲裁するため、よく後輩の女子からお姉様と呼ばれているのを見かける。
自分がなぜそんな彼女と話せているかと言うと、彼女の家とたまたま近所で幼馴染だからだというだけである。
普通、異性の幼馴染とは成長するに従って関わりが少なくなるものなのだが、昔にあったある
そう、前世…、前世である。
どうにも自分には前世の記憶がある。こんなことを言ったらなんだこいつと引かれること間違いないだろうが本当のことなのだ。
前世では、極々一般的な家庭で、今の自分ぐらいの歳で車に轢かれてあっけなく死んだ。そして再び意識が覚醒した時に自分は、立派な幼稚園生になっていたのだ。
最初は、混乱して泣き叫び親にとてつもない苦労をかけた。
そこからしばらく本来産まれてくるはずだった
話がズレた
全生徒の噂の的の八重樫雫が話しかけて来たことにより、クラスの男子全員から殺意とも取れる敵意がビシバシと体に当たるが、今更だ、もう気にしてもいない。
「ああ、おはよう八重樫。ちょっとあってな」
そう返して、彼女と話に興じる。
少しの間話しているとクラスの雰囲気が変わり喧騒が加わった。
そちらに目を向けると
「よぉ、キモオタ! また徹夜でゲームでもしてたか? どうせエロゲでもしてたんだろ?」
「うわっ、きも〜。エロゲで徹夜とかまじキメェ!」
何が面白いのか、自分達で言ったことで笑いだす男子生徒達。
男子生徒達が声をかけたのは、自分の友人の南雲ハジメといい、俗に言うオタクだ。しかしキモオタと言われる程の容姿では無い、髪も切りそろえていて、受け答えも明瞭だ。
それにオタクというのだったら自分もそうだ。自分でもあそこまでされない。
それならば何故そこまで酷い敵執心を持たれているのか、その理由の1つはハジメにズンズンと近づいていく彼女だろう。
白崎香織、2大女神の片割れの美少女で雫と同じく男女ともに人気がある。
腰まで届く綺麗な黒髪で若干垂れ目の瞳は見た者に優しいと思わせるだろう。
さらに性格も完璧で、面倒見がよく責任感もあるため、先生にもよく頼られる。それを断らないために時々彼女が高校生ではないのではないかと思う時がある。
そんな彼女だが、よくハジメを構う。その理由はなんとなく分かる。まぁ、惚れているのだろう、その理由こそ分からないが雫やハジメと友達なので自然と彼女とも関わるために分かる。ハジメは気づいていないが。
要は、周り…特に男子生徒は気に入らないないのだ。
成績は平均を取っているものの、授業中に居眠りをよくして不真面目な生徒だと思われているハジメを人気者の香織が構っているのは…
もしこれでハジメの生活態度が良くなったり 、イケメンだったりしたら許せただろうが、生憎とハジメの容姿は普通で、座右の銘が"趣味の合間に人生"をなために生活態度も改めない。
そのハジメが香織と親しくしているのがほかの男子には我慢ならないらしい。女子生徒の方は香織に手間を掛けさせているのが気に入らないようだ。
ハジメが助けを求めるようにこちらを見てくるが、目を背ける。"裏切られた!" と言いたそうな顔をしてくるが…
許せハジメ、面倒事に首をツッコミたくない。
見かねたような雫が、声を掛けに行く。お前が声を掛けるともっと大変になると思うのだが…
そして雫の他に2人の男子がハジメに声を掛ける。
「南雲君。おはよう。毎日大変ね」
「香織、また彼の世話を焼いているのか? 全く、本当に香織は優しいな」
「全くだぜ、そんなやる気の無いやつにぁあ何を言っても無駄だと思うぜ」
雫の他に、若干クサイセリフで話しかけたのが天之河光輝。容姿端麗、成績優秀、スポーツもできる完璧超人である。
茶髪で優しさを帯びた瞳、高身長イケメンで、誰にでも優しく、正義感が強い。ここまで揃った主人公も今時の小説は少ないのではないだろうか?
まぁ、唯一にして最大の欠点である思い込みが激しい所があるが。
彼は小学生から八重樫道場に通っていて、雫とも幼馴染である。もっとも、剣道をやっていない自分とは関わりは少ないのだが。
もう1人の男子生徒の名前は坂上龍太郎といい、光輝の親友だ。
光輝よりも大柄で見た目に反さず熱血漢なため、ハジメのような人間は嫌いらしい。
「おはよう、八重樫さん、天之河くん、坂上くん。はは、まぁ、自業自得とも言えるから仕方ないよ」
そうハジメが言った途端に、先程より強くなった視線が刺さる。女子生徒達も天之河がハジメと話すのは嫌らしい。
「それが分かるなら直すべきじゃないのか? いつも香織の優しさに甘えるのはどうかと思うよ。香織だって構ってばかりいられないんだから」
そう言って光輝が注意する。光輝の目には不真面目な生徒に映るらしい。なんだかんだ言ってこのクラスの中で1番将来のことを考えているのは、ハジメだと思うのだが。
「いや〜、あはは……」
ハジメは笑ってやり過ごそうとするのだが、ここで香織が無常にも爆弾を投下する。
「? 光輝くん、何言ってるの? 私は、南雲くんと話したいから話してるんだよ」
南無…ついそう言ってしまう。八重樫も顔に手を当て天井を仰いでいる。
香織からの爆弾発言により教室が騒がしくなる。男子達がギリギリと歯を噛み締めながらハジメを睨んでいる。
「え? ……ああ、本当に香織は優しいな」
光輝の中ではどうやら、香織がハジメに気を使ったという事になっているらしい。相変わらずのご都合主義だと思う。
「……ごめんなさいね? 2人共悪気はないのだけれど」
雫が2人の代わりにハジメに謝罪する。その悪気がないというのが1番ダメだと個人的には思う。
そうこうしている内にチャイムがなり教師が入ってきた。この空気感には既に慣れていて、何事もないように連絡事項を話していく。
そうしている間にもハジメは腕を組んで眠りに入る。それを見て香織は微笑み、雫は苦笑いをしている。教室中の視線がハジメに集まるのだった。
◆
昼休みになりカバンから弁当を取り出してハジメの席に行く。
ちょうど起きた所らしく伸びをしていつもの昼ご飯を取り出していた。
「よう、ハジメ。元気か?」
「あっ優樹! 朝はよくも無視してくれたね」
ハジメに挨拶すると、ハジメはエネルギーを補給しつつも皮肉混じりにそう言った。
「いやすまんすまん、面倒くさくてな」
そう返すとはぁ…とため息を吐きつつ机に突っ伏した。どうやらもう一眠りするらしい。
それならば別の所で食べるかと離れようとすると
「南雲くん、珍しいね、教室にいるの。お弁当? 良かったら一緒にどうかな?」
きた。我らが大天使カオリエルだ。俺の事は目に入ってないらしい、ハジメの方を見ると苦虫を噛み潰したような顔をしている。
不穏な空気が出てくる中、ハジメは、抵抗をするらしい。
「え〜と、誘ってくれてありがとう、白崎さん。でも、もう食べ終わったから天之河くん達と食べたらどうかな?」
それは悪手だぞ、ハジメ。
「えっ! お昼それだけなの? ダメだよ、ちゃんと食べないと! 私のお弁当分けてあげるね!」
助けを求めるようにこちらを見てくるハジメに対してサムズアップしてやる。あっハジメの眼が死んだ。
増していく圧力の中ハジメに取っての救世主が現れる。光輝達だ。
ハジメの精神を生贄に捧げ、勇者(笑)を召喚!
1人脳内で遊びつつ弁当を食べながら行方を見守る。
「香織。こっちで一緒に食べよう。南雲はまだ寝たりないみたいだからさ。せっかくに香織の美味しい手料理を寝ぼけたまま食べるなんて僕が許さないよ?」
アニメならキラーンという擬音が聞こえそうな程爽やかにキザなセリフを吐く光輝。さながらタイプ一致の効果抜群4倍だ。これだけで世の女性は落ちるだろう。
だがしかし、この程度の言葉では香織には効かない。
「え? なんで光輝くんの許しがいるの?」
キレッキレな返しに思わずゴフッとむせる。まったくもってその通りだ。見れば雫も吹いていた。
光輝は、困ったようにいろいろ言っているが、香織には一切聞いていない。
ひとしきり楽しませてもらいつつ、食べ終わった弁当をカバンに戻そうとして……
思考が固まった。
俺の視線の先、光輝達の足元辺りに幾何学模様の円環が現れる。クラス全員がそれに気づいたが、誰もが動けない。
そして一般的に"魔法陣"と呼ばれる物が足元にきた所で、硬直が解ける。
「皆! 教室から出て!」
教室に残っていた畑山愛子先生の声で逃げようとするがもう遅い。
半ば無意識的に自分のカバンをひっつかむのと視界が真っ白になったのは同時だった
魔法陣から放たれた光がだんだんと収まってくる。そこには誰もいなかった。倒された椅子や食べかけの弁当箱などがそのままに人間だけがいなくなっていた。
この事件は、白昼の高校で起きた集団神隠しだと世間を騒がせることになった。