最初は雫視点にしようかと思ったんですけど見送りました。またいつかやるかもしれません。
では、本編をどうぞ。
『…ター! …マスター!』
「うっ、うーん」
何かに呼ばれて目が覚める。体が何かで濡れてぶるりと震える。頭がボーっとして考えがまとまらない。
「痛っ、ああ? ここは……?」
『起きましたかマスター!』
とりあえず起き上がろうとして全身に走る痛みに目が覚める。
そうだ、俺は橋の崩落に巻き込まれて落ちたのだ。
考えが落ち着いた所で、声を掛けてきた存在をみる。
「もしかしなくても……ブロードソードだよな?」
『はいっ、そうですよ! こうやって話すのは初めてですね』
やはり俺を起こしてくれたのはブロードソードだった。話を聞く限り、今までも意識があり話しかけようとしていたらしいのだが、俺が力を使いこなせなかったために通じることがなかったらしい。
「……そうか、俺が力を使いこなせていれば……」
『マ、マスター……』
もし力を使えていれば最初からあんなことも起こらなかったかもしれない。後悔の念が湧いてくるが、自分以外は助けることができたのだ。メルド団長と光輝がいるなら全員無事だろう。
とりあえず、と立ち上がって周りを見る。
辺りは薄暗いが緑光石のおかげで視界は確保されている。近くには川があり、先程まで俺が浸かっていた。
ブロードソードが言うには、落ちている途中で鉄砲水のような滝に押し出されて、横から流されたらしい。
助かったのは奇跡だろうと、幸運に感謝する。
「とりあえず、服を乾かさ……へっくしっ!」
先程まで低温の水に浸かっていたので体が震える。このままでは死にかねない。すぐに服を脱ぐ。
『へ? ……きゃあ!』
「ああ? どうし……すまん耐えてくれ」
ブロードソードは女性だ。いきなり男が脱ぎ出したら驚くだろうが耐えてもらう。そうしなくては普通に死ぬ。
すぐに下着姿になり服をまとめて火属性の魔法を使おうとして気づく。ブロードソード使えば良くね? 自分には普通の魔法の才能がないが魔剣魔法があるのだ。
「なぁ、火……つけさせてくれないか、あったまれる程度でいいから」
『は、はいっ。分かりました!』
ビシッと半ば叫ぶように彼女が言うと、拳大の炎が出現する。
しゃがみこみ暖を取りつつこれからのことを考える。橋から落ちたことを考えるとここは下層、しかもかなりしただろう。
魔剣がなぜトータスにあるのかも知りたいが、それは落ち着いたあとだ。
とにかく地上に戻るのが第一目標、それ以外は二の次だ。
しばらく暖を取り、服もある程度乾いたのでここから離れる。最悪あのベヒモスより強い魔物がいるかもしれない以上、注意するに越したことはない。ブロードソードにも警戒を頼みながら洞窟を進む。
洞窟はまるで二十階層のように複雑になっていたが、比べもにならないほど広く、隠れる場所も沢山あった。
そうやってどれくらい歩いたのだろうか、ブロードソードとも殆ど会話することなく進んでいると分かれ道についた。巨大な四辻だ。岩に隠れつつどの道に行くかをブロードソードに聞こうとして、『マスター! 何かいます!』という声に身を屈めた。
恐る恐る覗くとそこにいたのは、まるでウサギのような存在だった。全体の大きさが中型犬ぐらいで、体全体に赤黒い線が血管のように無ければ。
『なぁ……アイツ、どう思う?』
『分かりません……ですが今までの魔物より圧倒的に何かが違います』
魔剣適正技能の念話のようなもので話しかけ、様子を伺う。その瞬間ウサギがピクっと動いて背を伸ばした。すわ見つかったかと剣を構え、攻撃に備える。だが、ウサギが警戒した理由は別であった。
唸り声と共に白い毛並みの狼のような魔物がウサギ目掛けて飛び出した。
狼は大型犬程の大きさで尾が二本に別れていた。
その狼がウサギに飛びかかると共にどこに隠れていたのかもう1匹が現れた。狼は群れで狩りをしているらしい。
どこからどう見てもウサギが捕食されるシーンだ。
今しか通れる瞬間は無い、魔物の実力が分からない以上簡単に敵対できないのだ。
だが……
ウサギが可愛らしい鳴き声を出したと思った途端、ウサギが飛び上がり、その大きな足で回し蹴りを放った。
まるで銃声のような音が洞窟に響き渡る。
ウサギの蹴りは狼の頭にクリーンヒット、ゴキャ! っと音をたて狼の頭があらぬ方向に曲がった。
あまりにも異常な光景に魔剣共々固まってしまう。
そうしている間にも、ウサギはくるりと空中で一回転をし、逆さまになったかと思うと
その頃に、また新しく来ていた狼二匹が着地した瞬間を狙ってウサギに襲いかかった。
しかし、それでもウサギには届かない。なんとウサギはその巨大な耳で体を支え高速で回転させたのだ。
飛びかかった狼二匹ともが竜巻に突っ込んだかのように吹き飛ばされ、動かなくなった。
最後にいた一匹が、唸りながらバチバチとしっぽから放電する。魔物であることから、狼の持つ固有魔法なのだろう。
狼の咆哮と共に電撃がウサギに飛ぶ。しかし、ウサギはなんでもないかのようにステップを踏んで全てをよけ、魔法後の硬直で前に跳び、最後の一匹をも蹴り殺した。
ウサギは二本足で立ち勝利の雄叫びなのか鳴き声を上げ、耳を前足で払った。
……未だに硬直が解けない。ヤバイ、ヤバすぎる。動きが殆ど見えなかった。もし見つかれば死ぬ。
殆ど無意識に逃げるために後ずさってカツンという音が洞窟にやけに響いた。
下がった拍子に触れた小石が音を立てたのだ。あまりにもありふれていてベタ、そして何よりもこの場で一番やってはいけないことだった。
「う、おおぉお!!」
あのまま動かなかったら死ぬと確信し、ブロードソードを構え突撃、剣を振り下ろす。
「外した!」
だが、ウサギは余裕とばかりにバックステップで避け、お返しだとこちらに蹴り返してきた。
『マスター!』
咄嗟に横っ飛びで回避する。反応できたのはひとえに警告と魔剣によって強化されたステータスのおかげだ。
硬い地面を転がりながらもすぐに立ち上がる。
『マスター、撤退しましょう!』
『無理だ! 追いつかれる。それに、勝機はあるんだ』
あのウサギは、こちらの攻撃を避けた。それに今も俺、というよりブロードソードを警戒して、飛び込んでは来ない。
つまり当たりさえすればあのウサギを倒すことができる。
「……何だ?」
魔剣を構え直し攻撃に備えると、ウサギの様子がおかしい。ウサギは何かに怯えるようにブルブルと震えている。
いや、事実ウサギは怯えているのだ。
ウサギの視線を追って視界を滑らせる。そこには、巨大な熊の魔物がいた。白い毛皮に例の如く赤黒い線が何本も走っており、足元まで伸びている腕に大きく鋭いツメを生やしている。
辺りに静寂が満ちる。ウサギも俺も熊の威圧感に呑まれ動くことができない。
と、飽きたとでも言うように熊が唸り出した。
その唸り声にビクッと反応したウサギが一瞬で踵を返し、正しく脱兎の如く逃げ出した。
しかし、その逃走が叶うことはなかった。
熊がその巨体に似合わない素早さでウサギに近づき、鋭いツメを振るったためだ。
ウサギは、持ち前の俊敏さでそのツメを体を捻って躱した。
……ように見えたが、
着地したウサギの体がズレたかと思った瞬間にウサギが切り裂かれ、血を吹きだし倒れた。
ウサギが逃げた理由がよくわかる。あれは他の魔物とはわけが違う。文字通りバケモノだ。
熊は、当然とばかりにのしのしと死体に近づくと、バリバリと音を立てながら死体を食らう。
『しっかりしてくださいマスター!』
「ッ!?」
ブロードソードに呼びかけられてようやく我に返る。今の選択肢は二つ。逃げようとして、熊に殺されるか、一縷の望みに賭けてアイツに立ち向かうかだ。
熊は既にウサギを食べ終え、こちらに向かって唸り声をあげている。今すぐに逃げたい気持ちが湧き上がるが、それを最後。ウサギに使った魔法で切り裂かれて終わりだ。
ならば答えはひとつ。アイツを殺して生き残るだけだ。
深呼吸して構える。熊にとっても魔剣は危険なのかこちらを伺っている。
動かないなら好都合、魔剣に魔力を込めその時を待つ。
そして、遂にその時が来た。
剣を振るい、火を放つ。いきなり前ぶりもなく放たれた魔法に怯んだ隙に魔剣を振り抜く。
しかし、熊も負けていられないのか腕を振って火を散らしもう片方の腕で魔剣を迎えうった。
ザクり、と熊の腕を切り落とすことに成功するが、苦し紛れの攻撃で吹き飛ばされる。壁にぶち当たり、空気が肺から逃げ出す。
咳き込みながらも立ち上がり、先程よりも大量の魔力を送り込む。一度の攻撃で体はボロボロだ。これ以上戦闘は長引かせられない。
「行くぞ!」
『分かりました!』
『「ブレイズ…ドライブ!!」』
放たれた膨大な炎が洞窟を蹂躙する。洞窟が局所的に地震に襲われたようにグラグラと揺れる。
『マスター! 無事ですか!?』
体から大量な魔力が消費されたことにより、膝をついて肩で息をする。
これで倒すことができなかったら終わりだ。もう潔く死ぬしかないだろう。
炎がだんだんと収まる。
そこには、
焼け焦げた熊がその場に倒れていた。
しばらく息を整えながら観察していたがぴくりとも動かない。どうやら死んだようだ。
緊張の糸が緩んだのか体の力が抜けその場に座り込む。何とか勝つことができたようだ。
「……ぃいよっしゃぁあ!」
荒い息をつきながら、雄叫びをあげる。1歩間違えれば死んでいた。そのことが実感され今になってどっと汗が吹き出てくる。
と、洞窟の壁がガラリと音を立て崩れた。
どうやらブレイズドライブの影響で壁が崩れたらしい。
そこには人一人が屈んでようやく通れる程の穴が空いていた。
体から力を振り絞り、立ち上がって穴に近づく。どうやらどこかに繋がっているらしい。
今ここで寝てしまいたい程疲労しているが、他にも魔物がいる以上どこかに隠れなければいけない。ここはちょうどいいだろう。
身を屈めて穴の中を進む、しばらくそうしているとばかりと体が倒れてしまった。もう限界だ。
『マスター!? 大丈夫ですか!』
「あぁ、大丈夫だ。……少し寝る」
心配するブロードソードにそう答え、襲ってくる眠気に身を任せる。意識が無くなる直前に何かで頬が濡れたことだけがわかった。