岸波白野のヒーローアカデミア   作:sahala

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 続いてしまった二話目。そのくせに話は進んでない。ああ、正月休みが終わる……。


第二話:記憶喪失

「記憶障害、ですか………」

 

 呆然と呟くグラントリノに慈江田病院の医師は重苦しく頷く。

 

「岸波君の体力が回復して、改めて現在置かれている状況などお話ししたのですが………いまを2030年代と思っていたり、超常社会についての知識が欠落しているなど記憶に混乱が見られますね。日常生活の知識などは特に問題がない様ですが………」

 

 医師は少し躊躇いながらも、意を決して言葉にする。

 

「酉野さん、落ち着いて聞いて下さい。岸波君は御家族の事………祖父である貴方の事や御両親の事を覚えていない様です」

「俺や娘夫婦の事を、全く覚えていないという事ですか?」

「………残念ながら」

 

 グラントリノは自分の顔を手で覆う。しかし手の隙間から隠し様が無い程に苦渋に満ちた顔が医師には見えた。気の毒に思いながらも、医師は職務として白野の健康状態を伝える。

 

「脳波の測定やMR検査など行いましたが、岸波君の脳そのものには異常はありません。私は神経内科は専門外なので断言は出来ませんが、岸波君が病院に運び込まれた時の状況が起因していると思います」

 

 ―――二年前。

 グラントリノの娘である岸波風癒(旧名:酉野風癒)とその夫の岸波江水。プロヒーローであった彼等は息子の白野と休暇を過ごしていた所をヴィランに襲撃された。休暇中であった為にヒーロースーツやサポートアイテムは所持しておらず、街中であった為に一般市民を守りながらの戦闘。そして息子を庇いながら、二人は善戦した。

 その結果―――風癒と江水は殉職。命からがらヴィランに応戦して捕縛に成功したが、戦闘で負った傷が元で彼等は病院に搬送される前に亡くなった。

 白野もまた戦闘に巻き込まれた際に半死半生の状態で病院に運び込まれた。その際に頭を強く打っており、医師はそれが原因でこれまで意識障害や今回の記憶障害の原因となった、と推測していた。

 

「………白野はいま、どうしていますか?」

「容態は安定しています。ただ、やはり自分の記憶が無くなってしまった事にショックを受けている様です」

「そう、ですか………」

 

 グラントリノは床に視線を落としながら、どうにか声を絞り出した。意気消沈してしまった彼は以前よりも小さく見えた。医師は何十歳も老け込んでしまった様な彼が哀れに思えて見ていられなかった。

 

(無理もない………娘夫婦をヴィランに突然奪われたかと思えば、孫は意識不明の重体で二年間の昏睡状態。奇跡的に覚醒したと思ったら、自分の家族の事を覚えていないなんて………神様はどうしてこんな残酷な仕打ちをされるんだ)

 

「酉野さん。記憶喪失の治療はまだ医学的に確立されていませんが、何かの拍子でふと思い出される事があります。当院でも岸波君に出来る限りのサポートをしていきます。ですから、あまり気を落とされないで下さい」

 

 医師は気休めにしかならないと思いながらも、そう言う事くらいしか出来なかった。

 

 ***

 

 時刻は午前一時を回った頃。看護師の夜間巡回も先程済まされ、灯りを消された病室のベッドで白野はぼんやりと天井を見ていた。

 ()()()()()()()()()()()()()()

 

『たとえ私が忘れたとしても、私はお前をずっと忘れない』

 

 光の粒子に分解さればがら肉体が崩壊していく白野を前に、褐色肌の女性が涙を流しながら口にする。

 

『肉体が崩壊しても、この夢が途中で尽きる時が来ても。お前というマスターに、感謝をし続ける』

 

 その傍で真紅の舞踏衣装を着た金髪の少女と、()()()()()()()()()()()()()が悲しそうに二人を見つめていた。

 

『―――ありがとう。さようなら、マスター。どうか、良い旅路を』

『―――ありがとうアルテラ。それじゃちょっと、君を救いに行ってくるよ』

 

 そして、()()()()()は崩壊した。意識は眠りに落ちる様に消え去り、身体は粒子となって空へと消えていく。それが岸波白野に残された最後の記憶だった。

 医師は岸波白野が記憶喪失だと診断したが、正確にはそうではない。白野には病院で目覚める前の記憶はある。

 それは月に偽装された巨大霊子コンピュータ『ムーンセル・オートマトン』を巡る戦いの日々。その戦いの中で白野は自らを『精神』・『魂』・『肉体』に三分割していた。そして『肉体』の白野はムーンセル共々、地球の文明の破壊を目論む『捕食遊星ヴェルバー』の尖兵であるアルテラに囚われた。

 だが、虜囚としてアルテラと接していく内に彼女が抱える孤独を知り、アルテラが怪物などではないと知った白野は彼女を救う為に戦い―――そして、自らを犠牲にした。

 

(そう………そのはず、だった)

 

 電子の海に融け、1ビットすら残らずに消えていく感覚は覚えている。そうして意識が闇に落ちていき———気付けば、病院の天井を見上げていた。

 最初は奇跡的にデータを復元されたのかと思った。しかし、白野の主治医を名乗る医師と話していく内に事態は白野の予想外の方向に転がっていた。

 

(ほとんどの人間が特異体質を持つ超常社会。そして俺は二年間眠っていた、か………)

 

 最初は地上で眠るオリジナルの岸波白野の肉体に還ってきたと考えた。しかし、どう見ても白野が知る地上の状況と今の状況は全く噛み合わない。この世界はポールシフトで環境が激変した様には見えないし、何より白野が知る西暦より大幅にズレている。

 

(じゃあ、月での出来事は………夢、だったのか………?)

 

 それは寂しい結末だ。アルテラと共に月で戦った日々も、語り合った日々もはっきりと覚えている。あれが夢だったとは思えない。しかし、いま白野を取り巻く状況にムーンセルでの出来事が現実にあった、と示せる物は無い。

 

(それに、問題はそれだけじゃない)

 

 医師の話では白野には家族がいると言う。両親は亡くなり、祖父が唯一の家族だそうだが、白野には彼等の記憶が全く無かった。これはここが白野の全く知らない世界だから、というわけでは無い。そもそも電脳世界においても白野には家族の記憶など無かった。

 岸波白野は地上で生きていた人間を基にムーンセルで構成されたNPCだ。その為にムーンセルで目覚めてからの記憶は無い。地上で生きていた“岸波白野”がどういった生活だったか———家族構成やどういう風に暮らしていたかなど、知る由も無かった。

 

(これからどうしたらいいか………)

 

 ベッドの上でため息をつく。そうして悶々としながらも、夜は更けていった。

 

 

 




今更ですが、Fate/EXTELLAをプレイ済前提で書いています。また私自身が結構うろ覚えになっているので、白野関連については所々矛盾点があるかもしれません。
魂と精神に記憶が持って行かれた筈の肉体の白野が、地上の知識がある事についてはアルテラを救う為に時間逆行した時に、必要な知識を得ていたという事で。
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