とある一人の真理到達   作:コモド

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おかえり

 

『なあ、上条。お前はオレがいくら貸しをつくろうとしても、困っているのに、頑として断り続けたな』

 

 日が沈んでから、上条当麻の携帯電話に、二羽真理から着信があった。

 記憶のない当麻には、一週間ほど前に街を歩いていると話しかけられた、今にも倒れそうな男子学生という印象しかなかった。

 親しげに話しかけられ、適当に相槌を打つ当麻の目の前で彼は倒れた。

 そのときに名前を知り、当麻の着信記録には彼とのメール内容から、相当に親しい間柄であったことが判明した。

 記憶を失う前の親友――その人物からの電話に少々身構える。不審に思われてはならない。

 緊張して硬い声の当麻に対し、シンリの声はひどく穏やかだった。

 

『オレは友人というものを良く知らなかった。だから利害関係で信頼を築こうとしていた。

 けれど、お前はそれを全然良しとしなかったな。当時は理解できなかったが、今なら何となく、その理由がわかるよ』

 

 声音の色は機械を通してのものなのに、ひどく鮮明に聞こえて、当麻は胸騒ぎが収まらなかった。

 

『今の上条がどういう事情にあるのか、オレは判らない。お前はオレを頼ってくれなかったし、巻き込もうともしてくれなかった。

 お前にとってのオレは頼りなかったのかもしれないな。それだけは心残りだ』

 

 間をおいて、小さなため息が聞こえた。それが何を吐き出しているのか、それは本人にしか知り得ない。

 

『だけど、オレにとってのお前は違う。クソみたいな掃き溜めの街で、お前のような真っ直ぐな馬鹿に会えたのは、オレにとって望外の出来事だった。

 そんなお前に似たもう一人の馬鹿がな、これから死にに行こうとしているんだ。オレが止めに行くが、きっと最悪の結果になる』

 

 そのもう一人の馬鹿が誰なのかさえ、当麻には分からなかった。

 電話の向こうで笑っている気配がする。なぜ笑っているのかも当麻には検討がつかない。

 

『恥を承知でお前に頼む。助けてやってくれ。きっと馬鹿だから勝ち目のない戦いを挑むに決まってる。

 オレとお前の関係は無償の間柄だったけど、今回だけは、頼らせてくれよ、上条』

 

 そして、透き通るように何の憂いも衒いもない澄んだ声で、

 

『オレを殺してくれ』

 

 

 

 

 

「お前がやったのか、これを」

 

 死屍累々の超能力者たち。それが当麻には学園都市最強の能力者たちだとは判らない。

 だからこそ、凄惨な様相に見えた。

 

「あぁ、だから何だ」

 

 此処に来るまでに、何人もの無辜の学生が道端で昏睡していた。

 警備員を総動員しても救命活動が追いつかず、学園都市内の病院では収容しきれない惨劇がどこに行っても広がっていた。

 完全に麻痺した学園都市で、その現状を創り上げた張本人が嗤っている。

 殺してくれ、と。かつての友に頼んだ男の顔と声で。

 

「許さねえ……」

 

 強く握り締める右手の爪が肌に食い込み、武者震いに戦慄く。

 自然と脚が前に踏み出した。

 

「アイツの顔で嗤ってやがる」

 

 倒れる前に会ったシンリは、ぎこちない当麻の受け答えを見て困惑していた。

 その得も言えぬ表情に心を痛めた。その顔が下卑た顔で歪んでいる。許せなかった。

 

「随分と知ったふうな口を聞くな。親友? シンリに親しい者がいる訳が無い。アイツは、人間を見下している。

 超常の力を得て、無能なクズを心の底から蔑視しているのに、それと仲良くなりたいと本気で考える矛盾した捻くれ者だ。

 無限を実現する力を有限な人間が得た時点からアイツは歪んでいるんだよ。アイツがおれを作ったときに何を考えていたか教えてやろうか?

『こんなに痛いのは嫌だ。もっと遊びたい。同じ境遇の人が欲しい。だから逃げよう』だ。結局アイツには理解者など現れなかった。シンリは現実を逃避して自分だけの現実に引きこもった、哀れな――」

「それ以上、その薄汚ねえ口でアイツを語るなっつってんだクソ野郎ッ!」

 

 当麻が吼える。マリが双眸を眇め、AIM拡散力場の波動を感じない愚かな挑戦者を見定めた。

 

「オレよりシンリを理解している人間はいない。何せずっと同じ体を共有して生きてきたんだからな。

 どこまで愚昧なカスか知らねえが、テメエもシンリに踊らされた口か? 利用されてることにも気づかないのか?」

「利用? 利用って言ったか?」

「あぁ」

 

 激昂が血を滾らせる。他人を利用しようとするつもりの人間が、あのように静かな声を出せるものなのか。

親友と思っている人間に、『殺してくれ』と頼むものか。

 

「テメエは何も分かっちゃいねえ。分かっていたら、こんな無関係の人間を巻き込んでまで強くなろうとしない筈だからな」

「判っていて袂を分かったんだ。ヤツは最期まで自分と向かい合おうとしなかった臆病者だ」

「あぁ――もう分かった。もう囀るな」

 

 記憶にない感情が怒りの薪となり激情を燃え上がらせる。禁書目録との初めての邂逅でも胸に残っていたもの――

 記憶になくとも、心が憶えている。これは、『上条当麻』の怒りだ。

 

「その体から消えろ、三下」

 

 宣戦布告にマリが失笑する。愚かな勘違いだった。目覚しい能力にも恵まれていない底辺が、頂点に粋がっている。

 憐憫の情すら懐いた。空間が軋み、異界の風が当麻に吹き荒れる。それを、突き出した右手がかき消した。

 

「!?」

 

 マリが目の色を変える。不変にして絶対の力が、変哲のない右手に触れただけで消滅した。

 そして気づく。マリが赤い羽根に変えて学園都市に散布したAIM拡散力場の集合体に触れても、この男は昏睡して取り込まれていない。

 しかし、大能力者かと言えば、そうでもない。そのAIM拡散力場は存在を感知できないほどに微弱だ。

 確信と共に、その異能を見据える。

 

「そうか。お前が『鍵』か」

 

 記憶の端に付着する、正体が掴めなかった物の実物を前にし、油断が消えた。

 愚直にも直進し、マリに向かう当麻に右腕を突き出す。

 

「情けない話だ。こんなチンケな人間に頼らなければならないとはな」

 

 翼が鳴き、当麻が膝をつく。当麻でさえ、何が起こったのか理解できていなかった。

 不思議そうに足を見下ろす。大腿部にコイン大の穴が空いていた。出血し、同時に激痛が思考を焼く。

 

「あがッ……ぐっ、ああぁぁッ!」

 

 絶叫し、倒れる。無慈悲に降り注ぐ万能物質の槍が、四肢を地面に磔にする。唯一、『幻想殺し』である右手だけが無事だったが、もう身動きが取れない。

 

「なにも礼儀を弁えて正面から攻撃してやる必要もねえだろ。要は右手だけなんだろ? その厄介な能力は」

 

 嘲笑う。当麻の右手は天敵であったが、それ以外は喧嘩慣れした一般人と大差ない。

 如何様にも対処できる。彼ならもしかしたら――その異能を知る美琴の最後の希望を容易く打ち砕いたマリが、痛みに耐える当麻にゆっくりと歩み寄る。

 

「どうやら今夜のおれは、余程についているらしい。お前を確保しておけば、どこぞの神気取りの魔術師の機嫌も悪化するだろう。

 シンリは本当におれを理解してくれている。最後のピースも用意してくれるとはな」

 

 目だけをマリに向け睨むも、マリは冷然と見下すだけだった。

 もはや希望はない。完全な天使と化すマリの前に何もかもが平伏す。

 それに抗う者が、まだ一人。

 

「すごいパンーチ!」

 

 緊張感のない名前が、掠れた声で轟く。解析不能な不安定な力場が、マリを襲った。

 翼が弾くが、マリの形相が歪む。振り返った先には、左膝をついたままで、左半身から大量に出血しながらもマリを見据える軍覇が拳を構えていた。

 その瞳に宿る気炎は、一片の陰りもなく燃え盛っている。マリが足音を荒げてその身の程を弁えない愚者を降すべく接近する。

 

「眠っていれば過ぎ去るものを……どうして利する事柄を選べないんだ、こいつ等は。そんなに死に急ぎたいのか」

「人の……心の判らないお前には、永遠に分かるまい」

「分かりたくもねえよ。感情で左右されるテメエらの行動が不可解だ。両手足の腱を断っておくか? 後に己の選択を後悔して嘆くんだな」

 

 翼が振り上げられる。そこに、未知の物質が纏わりついた。不快にマリの眉が釣り上がる。

 

「学園都市で二番目に賢い男が、何を血迷っているんだか」

「勝ったつもりになって粋がってんじゃねーよバーカ! 偶然、力を得て付け上がった底辺の偽物が、神様気取りで見下してるのが我慢ならねえんだよ!」

 

 その六翼は健在だが、全身打撲に流血が痛々しい帝督の罵声にマリは嘆かわしくなり、かぶりを振った。

 

「おれの翼を見て、その位階まで辿りつけたくせにな。どうだ? 世界の真理を知った気分は?

 痛快か? 爽快か? それとも自分では理解しきれない深淵に絶望したか?」

「黙れって言ってんだよ格下がッ!」

 

 

 

 

 

 レベル5の意地か、己の正義か。満身創痍の二人がマリと勝ち目のない闘いに挑んでいる隙に、当麻は右手を伸ばして四肢を串刺しにする万能物質を消し去った。

 身を捩るたびに血が噴き出し、激痛が意識を飛ばしたが、何とか自由にはなった。だが――

 

「……ッ! 動け! 動けって……ぐッ!」

 

 両太腿、左掌を貫通した大怪我が、四肢の機能を失っていた。激痛に力は抜け、刻々と流れる血が活力を奪い去ってゆく。

 もはや気力の問題ではなかった。構造的に無理が生じている。骨は無事だったようだが、人体として歩くのが不可能になっていた。

 這いずってでも、マリに触れさえすれば――だが、それも叶うまい。その前に再び串刺しにされるのが見えている。

 次は幻想殺しではなく、右腕を重点的に潰し、機能を削ぐだろう。理不尽な強敵とはこの身で戦ったことがある。

 だが、あれは違う。恐れがなく、気負いもなく、徹底して弱点を突いてくる。ハッタリも通じまい。

 どうすれば――

 

「大丈夫……な、ワケないわよね……」

 

 未だに帯電する電撃に苦しみながら、大怪我を負った当麻まで美琴が近づいた。

 当麻がハッと美琴を見遣る。右手を伸ばした。すると、一瞬でマリの万能物質が消滅し、美琴が自由を取り戻す。

 

「アンタ、やっぱりその手……」

「話はあとだ。頼む、何でもいい。どうにかして俺をアイツまで届けてくれ」

「は?」

 

 当麻の申し出に美琴がぎょっと固まる。戦場であることを忘れて叫んだ。

 

「む、無理に決まってんでしょ! 幾ら身長差がそんなにないって行っても、スピードも出ないし、接近する前に返り討ちよ!」

「じゃあ放り投げてくれてもいい。アイツに触れさえすれば、俺の右腕なら倒せる筈なんだ!」

 

 右手――美琴の視線が『幻想殺し』に注がれる。そうだ、今のマリは、AIM拡散力場の集合体だ。

 言ってみれば、能力の集合体。ならば、あらゆる能力を打ち消す彼の右手なら、天使に至ったマリも倒せるかもしれない。

 だが、どうやって? 超電磁砲のように射出するか? いや、無理だ。彼の体が持たない。

 しかし、自分の力では運べない。どうすればいい。思索する美琴の脳裏に、先ほど自分が思いつきでやった方法が浮かんだ。

 成功するか判らない……だが、やらなければ全てが終わる。

 美琴は当麻の左側に移ると、左腕を己の肩にかけ、体を支えた。当麻が苦痛に呻いたが、無視して集中する。

 

「た、頼むぞ……」

「あたしに右手で触っちゃダメよ。能力が使えなくなるから」

「は?」

 

 疑問の声を上げる当麻の泥だらけの顔を見つめた。紫電が、二人を包む。

 

「今からアンタの体に電気を流して、強制的に筋肉を動かす。アンタも走りなさい。その方が早いでしょ。少し痛いかもしれないけど、男なんだから我慢しなさい」

「……できるのか、そんなこと」

「わかんないわよ! でも……あたしたちがやらなかったら、沢山の人が犠牲になる! 返って来ない奴もいる! そんなの絶対に赦せないのよ!」

 

 遮二無二、感情を吐露して息を吐く。息を吸って、当麻を見た。覚悟は、決まったようだった。

 

「死ぬほど痛いかもしれないけど、いいわよね?」

「あぁ――」

 

 右手には流さないように慎重に電流を当麻の体内に流す。

 動かなった四肢を、美琴の能力が補い、傷だらけの肉体は、前に走り出した。

 

 

 

 

 

 

「おおおおおォォォォォォォッ!」

 

 当麻の裂帛の絶叫に、マリが振り返る。信じ難い光景が広がっていた。

 動けない当麻を美琴が支え、マリ目掛けて一直線に向かってくる。あまりにも無謀だった。

 紫電が二人を包んでいる。どうやら当麻の生体電流の反射を連続して起こし、当麻の肉体を走らせているらしい。

 無策に等しい自殺行為だった。こうしている今も、負荷のかかった当麻の傷跡からが大量に失血している。

 ショック死も危ぶまれる。滑稽だった。そうまでしてもシンリを取り戻したいのか。呆れる。

 

「どこ見てんだ格下ァ!」

 

 勝負の最中に余所見をするマリに憤り、白翼が頭部を貫こうと突き出された。

 

「見る価値もないだろ、お前は」

 

 マリの二翼が遮り、触れた先から未元物質が消失していく。目を見開く。続いて、無造作に振り払った血斑模様の翼が、帝督を沈めた。

 地面に赤い大輪が咲く。完全に帝督から興味を失い、マリは当麻への対処を思考する。

 

「電撃を……無駄か。厄介だな、あの右手は。なら、二度と立てないように脚を切っておくか」

「させるかよォォッ!」

 

 軍覇の右拳から放たれる力場がマリに触れる。また翼で弾けばいい。そう思慮して当麻への対処策を練ろうとし――

 

「根性が足らねえんだよ、お前は……」

 

 原理不明の力の波が、翼を弾いた。マリが目を剥いて防御を突破した軍覇を見る。

 先の一撃で力を使い果たしたのか、右膝も折れ、俯せに倒れた。顔を顰める。

 僅かに、ほんの僅かにだが、今の一瞬だけ軍覇は人工天使になろうとしているマリを上回った。

 世界最大の原石――その本質を知れば、学園都市の頂きにも届きうる力にマリが歯軋りした。

 

「窮鼠猫を噛むか……根本を絶たねばならねえらしいな」

 

 マリの意に答え、翼が光る。狙うは、上条当麻の身体を動かしている御坂美琴。

 過たず、当麻を支えていた美琴の右腕が、不可視の槍に突き刺された。身体が当麻を離れ、ぐらつく。

 側にあった温かさが無くなり、当麻が鬼気迫る表情で振り返った。

 

「おい――」

「行けッ!」

 

 後ろを向きそうになる当麻の背中を、離れ際に美琴の左手が押した。

 まだ、動く。美琴が離れても、美琴の電流操作は継続していた。当麻の身体を、美琴の意思が押し上げる。

 マリは舌打ちして肉薄する当麻を睨んだ。体内にある電流は観測のしようがなく、万能物質による支配も及ばない。

 目的を四肢の切断に変更する。焦る必要はない。右手にさえ気をつければいい。向かってくる速度は並みの人間と大差ない。

 対処できない疾さで、足と腕を削ぎ落とせばいいだけだ。翼が嘶く。

そこに――マリの死角から、マリと当麻の狭間を、一条の光が切り裂いた。

 

「ッ!?」

 

 土埃が舞い、視界が遮られる。振り向いた先には、『原子崩し』を放った麦野沈利が笑っていた。

 唇がマリへの罵倒を紡ぎだす。ザマアミロ――

 

「死に損ない共が……!」

 

 当麻を視認できず、万能物質が封じられた。だが、それがどうした。障害はこの翼で払えばいいだけだ。

 翼が風を起こそうと撓る。強大な風を発生させ、粉塵もろとも上条当麻を振るおうとして、未元物質が翼に干渉した。

 見れば、瀕死の帝督が息も絶え絶えで立ち上がっている。翼は未元物質の解除に機能を裂き、翼を振るうタイミングを失った。

 拳を振り上げた上条当麻が、煙の中から姿を現す。

 

(癪だが、退いて距離を取るしかねえ――)

 

 距離が近すぎる。接近を許しすぎた。正面から放てば、幻想殺しによって消される。背後から攻撃を放っても、振りかぶった拳はマリに届くだろう。

 距離を取り、状況を立て直す。それが最善だ。足を引き、背後に跳ぼうとした身体を――ベクトルが押しとどめる。

 

「――ッ!? この、雑魚がッ!」

 

 背中を襲ったベクトルに、退路を絶たれた。棺桶に片足を突っ込んだ超能力者が、マリの覇道を阻む。

 前には、夥しい出血で全身を赤く染めた当麻が、その『幻想殺し』を放とうとしていた。

 

「オオォォォォォッ!!!!!!」

「……! クソ――がァ!」

 

 翼が当麻を砕こうと振り下ろされる。突き出される拳との質量差、その神秘性の比重は比較にもならない。

 横から振るわれた一翼が、当麻の左腕を肘から切断した。当麻の頭蓋を砕こうとする翼の鉄槌が、『幻想殺し』と接触し――触れた先から、光の粒子となって宙に散ってゆく。

 

「――」

「アアアアアアァァッ!!!!!」

 

 呆然と、崩壊する翼を見つめるマリが、続けて迫り来る拳を止めようと、右手を広げた。

 砕ける掌――永遠に到った事象が、無に還ってゆく。

 『幻想殺し』は勢いのままに、マリの頬を殴りつけた。ほんの、触れたように過ぎない刹那の接触だった。

 

「……」

 

 当麻の肢体が崩れ落ちる。切断された左腕が地に落ち、致死量相当に達する出血が地面を薔薇色に染めた。

 右手が消滅し、翼が先端から消失してゆく己の姿をマリは忘我と見つめていた。

 顔が罅割れて、その内部が露出してゆく。ガラスが砕ける様に似た音で崩壊が始まる。

 彼の左顔面は既になく、無機質な内部が覗き、その核たるコアまでが、少しずつ動きを止めていた。

 百万人ものAIM拡散力場を束ねた天使が、その形を失い、持ち主の元に還ってゆく。

 

「クソが……クソがッ! おれは最強だった……! なのに貴様ら如き雑魚に……!」

「最強になりたいならなればいい。一人の人間として生きたい気持ちも、あたしは否定しない。

 でも、他人の命を犠牲にしてまで上り詰める頂点なんて、あたしは絶対に認めない」

 

 左腕を抑え、美琴が消え行くマリを睥睨した。もう声を放つ器官も残っていない。

 空へと消えていく無数の光の粒が燦燦と夜闇を照らし、その光が消えたところで、シンリの身体が、ゆっくりと地に落ちた。

 マリによって昏睡状態に陥った者達は、続々と目を醒ますだろう。

 自由になった光が、学園都市中に降り注ぐ。その淡い光の群れを見届けて、食蜂操祈は深甚に微笑んだ。

 

 

 

「おかえりなさい……真理さん」

 


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