Side:アインス
よもや白い影の拠点と思わしき場所がジェニス王立学園だったとは、これは流石に予想外だったよ。――だが、だからこそ冗談ではない。学園にはクローゼをはじめ、沢山の仲間達が居るのだからな。
「気合を入れて行くぞ、エステル。シュテルもな」
「モチのロンよ!こんな迷惑な目撃騒動、さっさと終わらせてやるんだから!」
「……抜かりました。相手がホンモノの幽霊だった時の為に、出発前に塩を買うのを忘れてしまいました」
「シュテル、何で塩?」
「塩には清めの力があり、玄関先に盛り塩をする事で不浄な霊が家に入って来るのを防いだりしてくれるらしいのです。なので、件の白い影がホンモノの幽霊ならば撃退する事が出来るのではないかと思いまして」
「へ~~~、塩って調味料以外でも使う事があるのね?」
まぁ、塩の清めの効果と言うのは、塩漬けにする事でどうして肉や魚が長期保存が出来るのか分かっていなかった時代に、『塩には神秘の力が宿っていて、その力で食物の腐敗を防いでいる』と考えられた事からなのだけどね。
それは良いとして、何でお前はさも当たり前の様に付いて来てるんだオリビエ?
「愛と美の探究者が、美しき幽霊に心惹かれただけの事。
其れは鳥が空を翔け、魚が水と遊ぶのと同じ位自然な事なのさ」
「結局自分のやりたいよーにしてるだけなのね……アンタって人は。
まったく……アタシの事気にして飛んで来てくれたと思ったら……これだよ」
「困った人だな、エステル君は。エルモ温泉を蹴ってまで、君の元へ馳せ参じた僕の真意が伝わってないと言うのかい?」
「あ~はいはい、なーんか心配かけてすみませんでした」
勝手に付いて来たオリビエは、いつもの調子だと思ったんだが、エステルが『心配かけて~』と言ったら、真面目なテンションになって『全くだ』と言ったあと『その姿を見て安心したよ。君が前向きな気持ちで旅立てたことが……』と言って来た。
うん、そこで終われば良かったんだが、『その挑発的な衣装からもむんむんと伝わってくるからね』なんて事を言ってくれた……だけでなく、『アインス君のその衣装は更に挑発的だねぇ?』とまで言って来たので、速攻でエステルとの合体攻撃『ダブル金剛撃』でブッ飛ばしておいた。
エステルの脳天への一撃と、私の顎へのアッパーのサンドイッチ攻撃を喰らっても意識を保っていたオリビエの頑丈さには驚きだがな……コイツ、冗談抜きで不死身なんじゃないかと思ったぞ。
夜天宿した太陽の娘 軌跡89
『いざ、王立学園で幽霊調査!!』
道中の魔獣を倒しながらジェニス王立学園に到着した訳だが、何だか道中には前には居なかった魔獣が居なかったか?何なんだ、あのパンダは?
私達なら負ける事はないとは言え、経験の浅い遊撃士には脅威の存在であるし、一般人なら死を覚悟するレベルのモノだったからな……それを素手で掴んで爆発させたシュテルも大概だと思うがな。
それにしても、半年と時間が経っていないと言うのに、ここに来るのはもう何年振りかと言う錯覚を起こしてしまうのは、学園祭の時に過ごした時間がとても濃密だったからだろうな。
「では、いざ!幽霊の探索と今後の参考の為に、学園内をくまなく見て回るとしよう!」
「オイコラ勝手に入るな」
で、オリビエが勝手に入ろうとしたので、後からチョップをかまして強制的に止めて、襟首を掴んでおいたのだが……勝手に入る事は出来ないとは言え、中に入らなくてはどうしようもない。
誰か知ってる人でもいれば良いんだが……
『ピューイ!』
と思っていたところにジークが現れて、エステルの棒術具の先に止まって、嬉しそうに鳴いてくれた……何を言ってるのか全然分からんがな。
だが、お前が居ると言う事は――
「エステルさん。アインスさん……」
「「クローゼ!!」」
「アミタとキリエを遥かに超える美少女の登場に、驚き桃ノ木山椒の木です。」
お前も居るよなクローゼ。
そしてシュテル、何を当たり前の事を言ってるんだお前は?クローゼは絶世の美少女と言っても過言ではない美少女なのだから、クローゼが相手では、かなり高レベルの美少女であるアミタとキリエも勝てんさ。
「クローゼ!良かったぁ!!」
っと、エステルがクローゼに駆け寄って抱き付いたか……抱き付く前に人格交代して欲しかったと言うのは内緒だ。だって、やろうと思えば私だって抱き付けるからな!エステルが前からなら、私は後からだ!
「エステルさん、アインスさん?」
「テレサ先生から学園に居ると言う話は聞いていたんだが、少し心配だった。あのままずっとグランセルに居るのかと思っていたからな」
「もしかしたら、もうクローゼとも気軽に会えなくなっちゃうんじゃないかって……なんてね。元気だった、クローゼ?」
「エステルさん、アインスさん……」
ここでクローゼがエステルの胸に飛び込んだとさ……そして、『エステルさんとヨシュアさんが大変な時に、何も出来なくて……本当にごめんなさい』と言って来たが、その気持ちだけで充分だよ。
こうして会えただけで、私もエステルも嬉しいからな……だから、もう泣くな。
「私達は空気ですね」
「シュテル君、無粋な事は言うモノではないよ。可憐な美女達が織りなす百合の花園と言うモノもまた美しいじゃないか」
……すまん、完全にお前達の事を忘れていたよ。それからオリビエ、今回ばかりはお前の言ってる事は若干正しい。
そんな事をしていると、ジルが現れて『アンタが慰められてどーすんのよ』と、丸めたプリントでクローゼに一撃!!うん、実に見事な突っ込みだな。
そしてやって来たのはジルだけではなくハンスもだ。
「ジル!それにハンス君も!!」
「よ!って、その銀髪美人さんは誰よ?」
「エステルのもう一つの人格のアインスだ。
クーデター事件の後で、こうして半実体化する事が出来るようになってな――今までは、人格交代をしてもエステルが銀髪になるだけだったが、今は人格交代をすると、私の姿になるんだ」
「あ、アインスだったんだ。」
「まさか、これだけの美人さんとは驚いたぜ」
その褒め言葉は有り難く受け取っておくよハンス。――そんな訳で、無事に学園に入った私とエステルだが、オリビエとシュテルも『協力者』と言う事で中に入れて貰った。
で、如何やら学園にはジャンから連絡があったらしく、学園長が生徒会に事件の調査協力をするように指示して、ジル達は独自に『白い影』について調べていてくれたらしい。
が、ジェニス王立学園には、所謂『学校の怪談』みたいなモノには縁がなく、更に今は定期試験中で、全ての生徒が勉強に集中していたので、件の『白い影』の目撃者は居なかったらしい――只一人を除いてはな。
その一人と言うのは『ミック』。学園祭の時、前日まで堂々と準備をサボっていた不良生徒なのだが、彼のおかげで旧講堂の魔獣を一掃出来たので、彼の証言には一見の価値ありだ。
ミック自身は渋っていたが、『裏門の上空を白っぽい人間がフワフワ浮いていた』との証言をしてくれた――ビンゴだ、その話が聞きたかった。
そして、ミックの話を皮切りに、レイナと言う女生徒と、フラッセと言う女生徒が『白い影』を見たと証言してくれた。
ギルドに寄せられた目撃情報から割り出したのが、このジェニス王立学園だが、その学園でも既に二件の目撃情報があると言うのならば、白い影の拠点は学園内にあるとみて間違いないだろう。
本来ならば、ここからもっと掘り下げて行きたかったのだが、生徒会室に生活指導のマッチョな教員が突撃して来た事で、ここにいたメンバーは強制的に寮に戻る事になってしまった――学園で起きている異変を調査してるんだから、少しは大目に見ろと言いたいな。
だが、有力な情報を得る事が出来たのは僥倖だ。少なくとも、この学園のどこかに、白い影が隠れているのは間違いなさそうだからな。
「隠れているか……その表現、私にはちょ~っと違和感があるのよね」
「違和感、だと?」
ジルが『隠れていると言うのは違和感がある』と言って来たのだが、彼女の考えを聞いたら納得出来た――白い影は、自分の存在を隠すどころか、逆に自分の存在をアピールしている。逆に何かの騒ぎを起こそうとしている、か……
確かに、これまでの証言と照らし合わせて見ても、その可能性は否定出来んな。
「ジル達は先に戻っていて。アタシ、一通り学園を見回ってからにするわ」
「何か分かる事があるかもしれないからな」
白い影が、逆に自分の存在をアピールする為に現れているのだとしたら、今夜もきっと何かしらのアクションを起こす筈だからな――その瞬間を逃さずに必ず捕らえてやる!!
ずに必ず捉えてやる!!
「あの、それでしたら私も一緒に……」
「クローゼ?……分かった、手伝って。それから、クローゼが一緒ならこっちの方が良いわよね♪」
――シュン!!
「ここで私に変わるのか?……相変わらず、中々に空気の読める奴だ。」
「アインスさん……そ、それでは行きましょうか?」
「あぁ、行こう」
クローゼが一緒に行くとなった途端に、人格交代をしたか……別に半実体化しているのだから良いと思うのだが、『久しぶりに会ったんだから二人きりの方が良いでしょ?』って、確かにそうだけどな。
……これは、ヨシュアと再会した時には暫し引っ込んでいるべきだな。今日の礼に。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・
・・・・・・
・・・
と言う訳で、学園全部を見て回ったのだが、特に目ぼしい何かはなかったな――すまんなクローゼ、見回りに付き合わせてしまって。
「いいえ、私が勝手に付いて来た事ですし――一応講堂の中も覗いてみますか?」
「そうだな。ここを見たら、今日は終わりにしよう」
明かりを付けて中に入ると……やはり広いな。
ここに来ると、あの学園祭での劇を思い出す。ジルの発案で『男女の役を逆転する』と言う、普通なら絶対に許可されそうにないモノだが、アレは間違いなく学園の歴史にその名を残す劇だろう。
「『白き花のマドリガル』ですね」
「エステルが貴族の騎士を演じ、クローゼが平民の騎士を演じたのだったな……この配役に関しては、エステルとクローゼの立場も逆転していたんだよな、今にして思えば」
「言われてみればそうですね……」
「その騎士達が奪い合うお姫様を、何故かヨシュアが演じたりして……」
「ふふ、でも劇は大成功でした」
「そうだな」
だが、こうして二人の騎士が舞台に戻って来たと言うのに、肝心の姫君は一体どこに消えてしまったのやら……エステルの事をほっぽってな。
ヨシュアにとって、エステルは他の何にも代えられない程に大切な存在だった筈なのに……それなのに、アイツはエステルの前から消えてしまった。
一体、どうしてこんな事になってしまったのだろうな?
「アインスさん……私は、ヨシュアさんが好きです」
「どうしたクローゼ、藪から棒に?と言うか、それって私に言う事か?」
「あぁ、恋愛感情とかではなく、一人の友人としてと言う意味です。そして、それと同じ位エステルさんの事も好きです。
ヨシュアさんは私にはない強さを持っていて、でも似た所も感じられて……エステルさんは、本当に私とは正反対で……そんな二人に、私は惹かれていたんです」
「友人としてか」
お前とヨシュアに似てるところがあるかは分からないが、お前がエステルに惹かれたのは、それこそ正反対の存在だからだろう。磁石のS極とN極が引き合うのと同じさ。
正反対の存在と言うのは、一度くっ付いてしまえば離れる方が難しい。一生物の付き合いになる事だって少なくないだろう。
「だから、ヨシュアさんがエステルさんの事をどれだけ大切に想っているのか、私には分かるんです。
なのに……エステルさんを置いて、姿を消してしまうなんて。……きっと、誰よりもエステルさんのそばを離れたくなかった筈なのに……
ヨシュアさんって、強い人ですよね……私なんて足元にも及ばない」
「あぁ、確かにヨシュアは強い。だが、それは間違った強さだと私は思う」
「アインス、さん?」
クローゼ、お前は大事な何かを決める時、物凄く悩んだりしないか?
それが自分にとってとても大切な事ならば尚更だ――私も、闇の書事件から半年後には消滅する事が定められていたから、その半年で何をすべきか、我が主に伝えるべき事は何か、とても悩んだ。そして、どうにか消滅を免れる方法はないかとも考えたよ。
悩んで、考えて、実行して失敗してまた悩んで……その繰り返しの果てに、完全に満足出来たとは言わないが、それでも我が主に最低限の事は出来たと思っている。
たった半年でも、どれだけ悩んだか分からないと言うのに、それなのにヨシュアは悩まなかった。悩みもせずに、当たり前の様にエステルの前からいなくなった……私には、それが許せん。
「アインスさん……」
「だが、それ以上に許せないのは、エステルのファーストキスを『睡眠誘導剤』味にした事だ!
恋する乙女のファーストキスと言うのは、この上なく大事なモノであり、恋愛事においてとても大切な記憶になるモノを、最低最悪の思い出にしたと言うのはマジで許せん!」
「な、なんですかそれ!それは絶対に許せません!!女の子の気持ちを何だと思ってるんですか!?」
「だろう?さっさと連れ戻して、その場に正座させて二時間の説教コースを喰らわせんと気が済まん!!!」
「全く持ってその通りです!……って、時にエステルさんにこの会話は?」
「聞こえていない。人格交代をするだけじゃなく、外界の会話やら感覚やらを完全にシャットアウトする、深層心理に引っ込んだらしい……そこまでする必要が有るとは思えんのだがな」
「私とアインスさんに、余程気を使ってくれたのですね?」
「自分の気持ちに気付く前から、エステルは私とお前の事となると気を使ってくれたからな」
取り敢えず、講堂も異常は無いみたいだから寮に戻ろうかクローゼ?明日から本格的に白い影の調査を……って、ん?
「アインスさん、どうしました?」
「いや、今窓の外に何か見えた様な……」
気のせいかと思ったが、講堂の外に出て、それは未間違いではなかったと言う事を確信した――講堂を出た私とクローゼの前には、『夜空に浮かぶ白い影』がいたのだからな。
今夜も必ず何かしらの行動を起こすと思っていたが、こうして会う事が出来るとはな……だが、こちらから現れてくれたのならば好都合だ。お陰で、探す手間が省けたからな……!!
To Be Continuity
新作は何が良い?
-
IS:楯無逆行モノ
-
IS:ハーレム無しヴィシュヌヒロインモノ
-
ガンダムSEEDとISのクロス
-
作者初の小説である遊戯王小説の再構成モノ