朋也「聖なる夜の生誕祭」   作:キラ@創作垢

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後編

 【翌日】

  

 二日酔いの頭痛もあったが、なんとか俺は起きる事ができた。

 

 あれこれとしてる内に時刻は昼過ぎになり、早苗さんは夕飯の買い物に、オッサンは向かいの公園で汐と遊んでいる。

 

 本当は俺も汐と遊ぼうかと思ったのだが、オッサンの命令で何故か今は店番をやらされている。

 

 そんな、午後の事だった。

 

 

声「岡崎、いるかー?」

 

朋也「はーいっ」

 

 作業着姿の芳野さんが店を訪ねて来てくれた。

 

 その手には程よい大きさの荷物があり、俺が先週ひそかに頼んでおいたものが届いた事を物語っている。

 

 

朋也「あははは……わざわざすみません、芳野さん」

 

祐介「気にするな、昨日は彼女と風子ちゃんが世話になったようだな、感謝する」

 

朋也「いえ、汐も風子と遊べて楽しそうでしたから、こちらこそありがとうございました」

 

 礼を交わし、芳野さんにお茶を出す。

 

 

祐介「ほら、注文の品だ、わざわざ隣町まで行って探して来てやったんだ、感謝しろよ?」

 

朋也「すみません、わざわざありがとうございます」

 

 そして、俺は芳野さんからの荷物を受け取る。

 

 

祐介「……お前も、いいかげん免許ぐらい取ったらどうだ? 車があると、だいぶ変わるぞ?」

 

朋也「そうですねぇ……」

 

 春原も免許を取ったと言ってたし……俺も、時間見つけてやってみようかな……。

 

 

祐介「ま、余裕が出たら話してみろ、車の参考書ぐらいなら貸してやる」

 

朋也「ええ、その時は是非……」

 

祐介「じゃあ、俺はもう行く、仕事がまだ残ってるからな」

 

朋也「ええ、風子と公子さんにも、よろしくとお伝えください」

 

祐介「ああ……岡崎」

 

朋也「……はい?」

 

祐介「来年から、こっちの仕事も忙しくなるだろう」

 

朋也「……ええ、俺もそうなると思います」

 

祐介「だが、俺もお前も、今は守る物がある」

 

朋也「……はい」

 

祐介「お互いに、協力し合って行こう」

 

祐介「そして、守るべき物を大事にして守って行くんだ、それが真の愛だ……!」

 

朋也「……はいっ!」

 

祐介「じゃあな、メリークリスマス、良い年を」

 

朋也「ええ、メリークリスマス……」

 

 いつもの芳野さんらしい事を言い残し、車は走り出して行く。

 

 

朋也「愛……か」

 

 芳野さんからの荷物を運び、店番に戻る。

 

 準備は整った……。 あとは、夜を待つだけだ。

 

―――

――

 

 そして夕方が過ぎ、時刻は夜。

 

 辺りの家からは楽しそうな声が響き渡る、クリスマスの夜となった。

 

 当然、古河の家の中にもそれらしい装飾が施され、テーブルには“五人分”の食事が立ち並ぶ。

 

 

秋生「ジングルベール♪」

 

早苗「メリークリスマース♪」

 

汐「めりーくりすまーすっ」

 

 楽しく歌うオッサンと早苗さん。

 

 それを見て、きゃっきゃとはしゃぐ汐。

 

 古河家で過ごす、クリスマスパーティーが始まった。

 

 

早苗「汐、サンタさんからのクリスマスプレゼントですよ~♪」

 

秋生「俺からもだ、近所のおもちゃ屋から、汐の好きな物を買ってきてやったぞーっ」

 

汐「わーいっ♪」

 

 二人からのプレゼントを手に、幸せそうに笑う汐だった。

 

 

朋也「ありがとうございます、ほら汐も、ちゃんと2人にお礼を言おうな?」

 

汐「さんたさん、ありがとー」

 

早苗「いえいえ♪」

 

朋也「パパからも、汐にプレゼントがあるんだ」

 

 昼間、芳野さんが届けてくれた荷物を汐に手渡す。

 

 嬉しそうに包装紙を開け、その中身を見て、汐は歓喜の声を上げていた。

 

 

汐「わぁ……だんごだいかぞくだっ」

 

秋生「うお、よく見つけて来たなお前……俺がいっくら探しても見つけられなかったのにな」

 

朋也「ああ、芳野さんに見つけてきて貰ったんだ」

 

 この辺りのおもちゃ屋は俺も探し回ったが、やはり、ただでさえ品薄で、しかもブームが完全に終わってしまっただんご大家族のグッズは、もはや一部の古い店にあるぐらいしか無かった。

 

 その店をインターネットで探し、仕事のついでにその店まで買いに向ってくれたのが、芳野さんだった。

 

 本当に、あの人には頭が上がらないな……。

 

 

早苗「汐、よかったですねぇ~」

 

朋也「汐、気に入ってくれたか?」

 

汐「うんっ!」

 

 だんご大家族のぬいぐるみを抱え、汐はいつまでもはしゃいでいた。

 

―――

――

 

 パーティーが始まり、小一時間ほど経とうとしてた頃。

 

 

声「すみませーんっ!」

 

早苗「はーいっ」

 

秋生「客か、最近多いな?」

 

朋也「でも、今の声、聞き覚えが……」

 

 店先から聞こえる声に、俺とオッサンも向ってみる。

 

 そこには、昨日飲み交わした皆がいた。

 

 

春原「よ、岡崎昨日ぶりっ」

 

芽衣「みっなさーん、メリークリスマスです♪」

 

杏「汐ちゃんこんばんわ、メリークリスマース♪」

 

汐「ふじばやしせんせい、こんばんわー」

 

 

智代「この子が……なるほど、確かに渚さんの面影があるな……」

 

涼「可愛い、元気なお子さんですね……」

 

朋也「春原に杏、智代まで……みんな、どうしたんだ?」

 

有紀寧「実は、お誕生日をお祝いに来たんですよ」

 

朋也「誕生日って……まさか……」

 

 俺達に縁がある人間で、今日が誕生日のやつなんて、一人しかいない。

 

 

秋生「…………そっか」

 

早苗「みなさん、覚えていてくれてたんですね……」

 

汐「……パパー、きょう、だれかのおたんじょうび?」

 

朋也「……ああ」

 

ことみ「今日はクリスマス……そして、渚ちゃんのお誕生日でもあるの」

 

朋也「その通り、汐……今日はママのお誕生日でもあるんだ」

 

汐「ママ……の?」

 

朋也「……ああ」

 

 

朋也「みんな……その為にわざわざ……?」

 

智代「まあな、春原の運転で遠くの街まで行って、ちゃんとプレゼントも用意したんだぞ?」

 

杏「やっぱり、目当てのそれはどこ探しても店には置いてなくってねー、そしたら、ことみがネット使って調べてくれたのよ」

 

ことみ「これを…」

 

 ことみが、丁寧に包装されたプレゼントを俺に手渡してくれる。

 

 子供の顔ぐらいの大きさのそれは、程よい重さがあった。

 

 

杏「店のお姉さんからの伝言よ、お誕生日おめでとう、メリークリスマス……だって」

 

朋也「ああ……みんな、ありがとう……!」

 

早苗「みなさん、是非上がって行ってください、渚も……きっと喜ぶと思います……」

 

杏「はい、お邪魔します……」

 

 そして、外にいるみんなが、一同に居間の渚の写真の前に座る。

 

 

春原「渚ちゃーん、また来ちゃったよ、今度はみんなも集めてきたんだ」

 

杏「なぎさぁ~、会いたかったわよ~♪」

 

涼「お姉ちゃん、今朝からずっと楽しみにしてたもんね…♪」

 

ことみ「渚ちゃんお久しぶり、お話したい事、いっぱいあるの…♪」

 

智代「正直、いきなり大勢で押し掛けて、迷惑じゃないかと思ったのだがな……」

 

有紀寧「あはは、さすがに多すぎる気がしますけど、でも、今日ぐらい……それも良いと思いますよ…」

 

芽衣「渚さん、喜んでくれますよね……」

 

朋也「もちろんさ、こんなに集まってくれたんだ……あいつも、喜んでるに決まってる……」

 

早苗「みなさん……」

 

秋生「……へへ、見てるこっちまで泣けてくるじゃねえか」

 

早苗「……ええ………」

 

秋生「……少し、外に出るか」

 

早苗「……ええ……っ…すみません…」

 

秋生「……気にすんな……お、雪降ってんじゃねえか?」

 

早苗「まぁ、素敵です……ホワイトクリスマス……ですね」

 

秋生「……あいつからのお礼……かもな……」

 

早苗「………」

 

 渚の前で、俺達は笑い合っていた。

 

 そこにいるのは、歳を取り、大人になったみんなじゃなく……昔のままの俺達で……。

 

 あの頃と変わらない、屈託のない顔で、俺達は渚と共にいた……。

 

 

汐「ママ……♪ ママァ…」

 

 汐も嬉しいのだろう、何度も、ママと、渚の事を呼んでいた。

 

 

 

 ―――もし―――れば―――しょうか―――。

 

 

 

汐「……?」

 

 

 

 ―――このま――の―――ねがい――――しょへ―――。

 

 

 

汐「マ………マ……?」

 

汐「………!」

 

 突然、汐が外に飛び出して行った。

 

 

朋也「あ、おいっ、汐!」

 

杏「汐ちゃん……?」

 

 何事かと思い、みんなが汐の後を追う。

 

 

 ―――あな―――おつれ――――ょうか――。

 

 

朋也「汐……」

 

 外に出てみると、いつの間にか雪が降っていた。

 

 

朋也「………雪……」

 

 一瞬、“あの時”の光景が頭に浮かぶが、即座に首を振り、頭に思い描いたそれをかき消す。

 

 街灯に照らされる雪はキラキラと光り、聖夜を祝福しているかのように輝いていた。

 

 そんな雪の中を、汐は一人、公園に向かい走って行く。

 

 

朋也「汐、どうしたんだ?」

 

早苗「…何か、あったんでしょうか?」

 

風子「汐ちゃん、何かを見つけたようです」

 

朋也「おわ、お前いつの間に……」

 

 いつの間にか足元にいた風子に俺は驚く。

 

 神出鬼没な奴だ、いつからいたんだ…?

 

 

風子「何やらとても良いことがありそうなので、遊びに来ちゃいました」

 

朋也「……そっか」

 

汐「………」

 

 汐の瞳は、公園のある一点を見つめ続けていた。

 

 

秋生「汐、公園に何かあるのか?」

 

汐「……ママっ!」

 

朋也「……ママ?」

 

汐「うんっ! そこにママがいるっ!」

 

朋也「………渚が?」

 

 汐の声に、俺達もまた、公園の真ん中を見つめる……。

 

 まさか、渚が……。

 

 汐が嘘を付くとは思えない。

 

 が、渚がここに来る事もあり得ない。

 

 汐、一体……どうして……。

 

 

杏「……何もないわね……」

 

芽衣「……汐ちゃん、きっとママの事思い出して……それで……」

 

春原「っかし……この雪……よく降るなぁ……」

 

智代「ああ……でも不思議だ、これだけ降っているのに、積もる様子が全然ないな…?」

 

涼「むしろ、どこか暖かい感じが……」

 

ことみ「うん……懐かしくて、すごく落ち着くの……」

 

有紀寧「…光……」

 

春原「……? 有紀寧ちゃん? 今、なんて……」

 

杏「しっ、何か聞こえるわ……」

 

 

 尚も汐の瞳は公園の一点を見つめたまま、離れずにいた。

 

 その場所は確か……渚が昔……。

 

 

 ――もしよろしければ あなたを お連れしましょうか――

 

 

 そう、こんな感じで、あいつはここで、劇の練習を………。

 

 

朋也「……え?」

 

 今、あいつの声が……。

 

 

朋也「…………」

 

 耳を澄ませ、意識を集中させる……。

 

 まさか……そんな……。

 

 

 ――この街の 願いが叶う場所に――。

 

 

 ――あなたを お連れしましょうか――――――。

 

 

 

 嘘だ。

 

 

 この声は………まさか……。

 

 

 

朋也「………っっ!!!」

 

 

朋也「な………ぎ………さ…………!!」

 

 

 反射的にその声に応えるよう、俺は渚の名前を呼んでみる。

 

 すると、俺の声に応じるように、公園のある一点に、微かに雪が集まって来た。

 

 

 いや違う……よく見ればそれは、雪じゃない。

 

 それは、光……。

 

 

 俺が、幾度となくこの街で見つけた光。

 

 

 昔、宮沢と美佐枝さんが言っていた……光だ……!

 

 

汐「………ママ………ママっ!」

 

朋也「渚……なぎさあああっっ!!!」

 

 弾けたように、俺と汐は有りっ丈の声で渚の名前を叫んでみる。

 

 その名前を叫べば叫ぶ程に、また俺と汐の声に応えるかように、次々と光が人の姿を形作っていく。

 

 

 そして……

 

 

 ――もしよろしければ あなたを お連れしましょうか――

 

 ――この街の 願いが叶う場所に――

 

 ――あなたを お連れしましょうか――

 

 

風子「汐ちゃん!! もっと大きな声で!」

 

汐「ママ………ママーーッ!!」

 

 汐の声に共鳴した光が、一際眩しく輝いて行く……!!

 

 

朋也「……渚……!」

 

 

 とても眩しい……一瞬の光明の後。

 

 

渚『しおちゃん……ともやくん―――』

 

 懐かしい声、数年前までいつも聞いていた……優しい声が聞こえた。

 

 

 ああ……見間違うわけがない。

 

 

 そこにいたのは、俺の世界で唯一愛した人……渚だった……。

 

 

 

杏「嘘……でしょ? あれって……」

 

秋生「なぎさ……そんな……!」

 

早苗「……あれは……幻?」

 

有紀寧「……いいえ……あれは、きっと……」

 

涼「……有紀寧ちゃん、心当たりがあるんですか……?」

 

有紀寧「……ええ、この街には、一つの伝承があるんです……」

 

智代「…伝承?」

 

有紀寧「誰かに幸福が訪れた時、その人の所に光の玉が現れ、手にした人の願いを一つだけ叶える……そんな伝承が……」

 

ことみ「素敵な伝説なの……」

 

有紀寧「私も初めて見ました……それが、こんなにも……やはり岡崎さんは、特別な方だったんですね……」

 

 

 光に包まれるように、渚はそこにいた。

 

 それは、雪が見せる幻想なのか、それとも、この街の伝承が起こした奇跡なのかは分からない。

 

 ……いや、考えるのはよそう。

 

 

 渚がここにいる…それだけで、他に理由なんて要らないのだから。

 

 

朋也「……渚っ!」

 

渚『――朋也くん お久しぶりです』

 

朋也「ああ……! ずっと……会いたかった……お前に……会いたかった……っっ!」

 

汐「ママ……ママっっ!」

 

渚『――しおちゃん……ママのこと、わかりますか』

 

汐「わかる……わかるよ……! ままぁ……ママぁぁ……っっ」

 

 我慢しきれずに、汐が渚の元へ向かう。

 

 だが、汐の手は虚空を掴み、決して渚に触れられる事は無かった……。

 

 そんな汐を優しく見守る渚。

 

 その笑顔は、母親そのもの……。

 

 汐の唯一の母、渚にしかできない……渚の笑顔だった……。

 

 

風子「渚……さん」

 

渚『――風子ちゃん、私を覚えていますか?』

 

風子「風子……ずっとお礼……言いたかったんです………お姉ちゃんの結婚式……ありがとうございました……っ!」

 

渚『――はい、退院……おめでとう、ございます』

 

風子「……なぎさ………さん……っっ」

 

 

「――なぎさああああっっっ!!!」

 

 公園の外にいた皆が、一同に駆け付ける。

 

 皆が皆、大粒の涙を流し、歓喜の声を上げて……渚の名前を呼んでいた……。

 

 

杏「あんた……どうしたのよ! 帰って来るなら一言言いなさいよ……このばかっ…!」

 

涼「渚ちゃん! 岡崎くん、ずーっと会いたがってたんです……私も、会いたかったです!! 渚ちゃんっっ!」

 

秋生「渚ぁ!! オメーの為にみんな集まってくれたんだぞ! 心配かけさせやがってよぉ……っっく……うぅぅっっ!」

 

早苗「渚……! っっく……なぎさ……なぎ……さ………っっ!」

 

春原「プレゼントもあるんだよ! 渚ちゃんが大好きだっただんご大家族……! みんなでそれ持って来たんだよ! 渚ちゃんっ!」

 

芽衣「私、大きくなったんです!! あの時の渚さんよりも……ずっと大きくなったんです……! 渚さん……!!」

 

ことみ「なぎさちゃん……会いたかった……会いたかったよっっっ……っ!」

 

智代「渚さん……! 覚えているか? 皆、待っていたんだ……あなたにまた会える日を……ずっと、待っていたんだ……っ!」

 

有紀寧「渚さん……みなさん、渚さんの事……一日だって忘れてませんでしたよ……! こうして、お会いできる日が……どれほど待ち遠しかったことか……!!」

 

 

 その場の全員が、渚に向かい、叫んでいた。

 

 各々が言いたかったこと、伝えたかったことを次々に叫び続けている。

 

 その聞き分けが難しいのか、渚は少し、困ったような顔をして……。

 

 

渚『――はい……私も……みなさんに……会いたかった……です―――』

 

 と、優しく、微笑み返してくれていた。

 

 

朋也「みんな、覚えていてくれたんだ……渚の誕生日……覚えていてくれたんだ!」

 

朋也「渚……もっとこっちに来いよ……! お前の顔…もっと、見せてやれよ……っ」

 

汐「ママ……もっとママといっしょにいるの……! ママァ……っ!」

 

 

渚『――ごめんなさい……私……もう――――――』

 

朋也「……渚……?」

 

 徐々に渚の声が遠くなって行く……。

 

 

渚『――こうして―みんな―――会え――よ―った―す――』

 

 光が舞い、渚が薄くなって行く。

 

 それは、そう時間を持たず、渚がいなくなってしまう事を意味していた……。

 

 

朋也「渚………そんな……」

 

 

 やっと会えたのに。

 

 やっと……こうして出会えたのに……。

 

 もう、いなくなってしまうのか、渚……。

 

 

朋也「待ってくれ渚……もう少しだけ……もう少しだけでいい……! 居てくれないか……渚……!」

 

 お前には、話したいや謝りたい事がたくさん……たくさんあるんだ……。

 

 5年間も汐を放っておいた事……。

 

 その汐の存在の大きさを、誰よりも渚が教えてくれた事。

 

 汐がどんな風に成長したか、どれだけ強くなったか……たくさんあるんだ……言葉じゃ言い尽くせないぐらい…あるんだ……。

 

 

渚『――大好きで――みんな――』

 

渚『―私――いつも――みんなの―――そ―に――』

 

 

朋也「渚……っっ………なぎさ………」

 

 

渚『――とも――くん―――しお―ゃん――こと―』

 

 

 

 ――よろしく――おねがい――します――――――

 

 

 

 最後の言葉を言い残し、光が空に舞っていく。

 

 やがて光は完全に消え、渚がいた所に、虚空が戻る。

 

 

 そして……雪が降り始める。

 

 5年前のあの日の様に、冷たい雪が、ゆっくりと……街を覆っていった。

 

 

朋也「渚………」

 

汐「……パパ……」

 

 汐が俺の手を引く。

 

 

朋也「汐……」

 

汐「ママ、わらってた……」

 

朋也「ああ、笑ってた……な」

 

汐「ママがわらってると、うしお、うれしいっ」

 

朋也「……ああ、ママが笑うと……パパも嬉しいぞ…」

 

汐「だからもう、さみしくないっ」

 

朋也「汐……そう……だなぁ…っ」

 

 

 たまらず、汐の身体を抱きしめる。

 

 寂しさを堪えるように、悲しさを振り払うように、汐の身体を強く、抱きしめる。

 

 

 その暖かさが……渚にどこか似ていて……声を上げて、俺は……泣いていた……。

 

 

汐「パパ……なかないで……」

 

朋也「ああ……っ……すまなかったな、パパも、泣き虫さんだ、あははっ」

 

汐「うん、パパがわらってくれると、うしおもうれしいっ」

 

朋也「……ああ……」

 

 子供に励まされるとは……汐、どれだけ大きくなって行くんだ、お前は……。

 

 

杏「さっきのは何だったのかしら……あれ……」

 

涼「確かに、渚ちゃんだったよね……?」

 

有紀寧「それはきっと……光が、願いを叶えてくれたんだと思います……」

 

有紀寧「この街の伝承が、この聖なる夜に……私達の、渚さんに会いたいという、その願いを……この一時に、叶えてくれたんだと……思います……」

 

智代「伝承……か」

 

ことみ「素敵なプレゼント……」

 

芽衣「渚さん……サンタさんになったのかな……」

 

杏「…かもね、優しいあの子だもん……きっと、世界中の子供に、だんご大家族のプレゼントでも送ってるわよ……きっと……」

 

春原「ははは……渚ちゃんらしいな………」

 

朋也「……戻ろう、みんな」

 

 涙を拭き、みんなの前に戻り、俺は言う。

 

 いつまでも、子供の前で泣いていられないよな……。

 

 

杏「朋也……」

 

朋也「パーティーの続きだ、クリスマスと……渚の誕生日のな……!」

 

智代「ああ、まだまだ夜は長いからな……」

 

芽衣「私、お料理と飲み物買ってきますねっ♪」

 

春原「芽衣、僕も行くよっ」

 

涼「ケーキは用意したんですけど、もうちょっと大きい方が良かったかな?」

 

ことみ「じゃあ、私も買って来るの♪」

 

早苗「お料理冷めちゃったでしょうから、暖め直してきますね、風子ちゃんもいかがですか?」

 

風子「はい、お邪魔しますっ」

 

智代「……どこかで見た事ある子だな……」

 

風子「伊吹風子と申します、お近付きの印に、みなさんにこれを差し上げますっ」

 

 風子が鞄からヒトデの木彫り細工を取り出し、それを一人一人に配って行った。

 

 

杏「これは……ヒトデ?」

 

涼「どこかで見た事あるなぁ……うーん……どこだっけ?」

 

有紀寧「不思議ですね、私も見覚えが……」

 

 それぞれが顔に疑問符を浮かべ、それを見る。

 

 ……やはり、皆が皆、そのヒトデに見覚えがあるようだった。

 

 

秋生「はっはっはっ! こりゃー大賑わいだな! 早苗! 酒だー! 酒持ってこーいっ!」

 

早苗「はいっ♪」

 

朋也「まったく、昨日に続いて騒がしくなりそうだな」

 

早苗「でも、賑やかで楽しい、私達のパーティーって感じがします♪」

 

秋生「未成年以外は飲めーっ! 俺の酒だ、飲まねえなんて許さねえかんなーっ!!」

 

智代「昨日に続いて今日もか……今日ばかりは遠慮しておきたいのだが……」

 

秋生「気ーにすんなともぴょんっ! おじさんが酌してやっからよ!」

 

智代「……その呼び方は止めてくれ……良い歳して恥ずかしい………」

 

 戻り際に俺は公園を振り返る。

 

朋也「ありがとな、渚……」

 

汐「パパー、はやくーっ!」

 

朋也「ああ、今行くー!」

 

 

 宴は続く。

 

 

 聖なる夜の生誕祭は……まだまだ続く。

 

 

 ――メリークリスマス、渚……

 

 

 そして……誕生日……おめでとう……!

 

 

 

―――

――

 

 それから夜が明け、ことみと春原と芽衣ちゃんの見送りに、俺達は駅に集まっていた。

 

 

ことみ「すっごく楽しかった、みんな、また……必ず会おうね……♪」

 

春原「そうだね……へへっ、これも全部早苗さんのおか……」

 

芽衣「……お兄ちゃんっ!」

 

 春原の失言に芽衣ちゃんの声が飛ぶ。

 

 

春原「……やっべ、い……今の無し! なんでもないよっ!」

 

朋也「……やっぱりな」

 

汐「……?」

 

 一昨日オッサンが言ってた通り、春原達がここに来たのも、早苗さん達のおかげか。

 

 

朋也「そうだ、ことみ……」

 

ことみ「……ん、なーに?」

 

 俺は、ここ最近続く不思議な既視感について、ことみに話をした。

 

 両親の研究を引き継ぎ、『世界』の理に関する研究を続けていることみなら、何か分かるんじゃないか。

 

 そんな期待を込めながら、俺は話をしてみた。

 

 

ことみ「………ん~」

 

 俺の話を聞き終えたことみはしばし考えを巡らせ、やがてゆっくりと口を開いた。

 

 

ことみ「それ、もしかしたら、他の世界の繋がりかも知れないの」

 

朋也「繋がり……?」

 

ことみ「そう、この世界には、私達の世界の他に、たくさんの世界があって…」

 

朋也「………」

 

 

 ことみの話は、抽象的な事と専門的な話が入れ混じっていて、詳しくは分からなかった……。

 

 が、それでも、かろうじて俺にも分かる事がいくつかあった。

 

 

 まず…この世界には、俺達の住む世界とは別にいくつもの世界があり、そこには、その世界の数だけ“俺達”がいると言う事。

 

 ことみが言うには、俺や春原が感じた既視感は、その“別の世界”の俺達の記憶なんじゃないかという事だ。

 

 

ことみ「極端な話をすると、ある世界では……渚ちゃんじゃなく、智代ちゃんが朋也くんのお嫁さんになってたり……」

 

ことみ「あるいは、私や杏ちゃんが朋也くんのお嫁さんになる、そんな世界があるかも知れないっていう事なの」

 

ことみ「ふとした瞬間に、別世界の記憶がシンクロして、ありもしない記憶が残る……」

 

ことみ「これが、世に言われるデジャヴと呼ばれるものなの、……本当の事はまだはっきりとしてないのだけど……」

 

 

 別の世界の俺達の記憶……か。

 

 

杏「もしかしたら、その数多の世界の中には、渚がいなくならずに、朋也と汐ちゃんと、幸せに暮らしてる世界もあるのかも知れないのね……」

 

朋也「言い換えれば、その逆もあるかも知れないって事か……」

 

 渚に続いて、汐までもがいなくなる世界……か。

 

 考えただけで、心が壊れそうになる世界だ……我ながら、馬鹿な事を考えてしまったと思う。

 

 

杏「そういえば……私、大分前にこんな夢を見た事あったわ」

 

涼「お姉ちゃん、どんな夢?」

 

杏「うん、高校の頃の話なんだけど、朋也と涼が付き合うのよ」

 

朋也「……俺と藤林が?」

 

杏「うん、そんで、私はそれを祝福するんだけど……それがどこか寂しくて……本心では涼が羨ましくなって……きっと、その世界では私も朋也の事が好きだったのね」

 

杏「でも、涼を裏切れないから、私、本当の気持ちを押し隠して、二人に向き合っていて……」

 

 杏の話は、妙にリアリティのある話だった。

 

 まるで、夢じゃなく、本当にあったかのような……そんな実感のある話に聞こえた。

 

 

杏「朋也も、次第に自分の中の本当の気持ちに気付いてね……涼を振って、私を選んでくれたのよ」

 

春原「なんか……すごい三角関係だね、それ……」

 

朋也「まったくだ……杏の夢の話とは言え……その夢の中に入り込んで、俺自身をぶん殴ってやりたい気分だ……」

 

涼「でも……私……それが正しい気がする。 本来の形っていうか……そうあるべきっていうか……変だよね、お姉ちゃんの夢のお話なのにさ……」

 

涼「きっと、私と結ばれることは、間違いなんじゃないかって……そう、思っちゃう」

 

杏「涼……そこまで思いつめなくてもいいのよ……ごめんね、変な事言ってさ……」

 

涼「いいんだよ……ほら、少なくとも、今のこの世界の私には、彼がいてくれるから……」

 

春原「っかし……岡崎もチャレンジャーだねぇ……こんなに人畜無害な妹を振って、わざわざあんな凶暴なのを……岡崎って、実はMなの?」

 

杏「あんたは黙ってなさいっ!」

 

朋也「娘の前で変な事言うんじゃねえっ!」

 

 げしっ! どすっ!

 

 俺と杏のダブルパンチが春原に直撃する。

 

 

春原「あべらっっ! 痛ってぇぇぇ……」

 

智代「私にも……似たような夢が……あったような……」

 

朋也「え……俺、お前の夢の中でもちょっかい出してたのか?」

 

智代「ああ…………その……私とお前が……その………え…えっちな……」

 

朋也「よーーし分かった智代!! とりあえずお前は落ち着け、だんご大家族でも見て和もうな~???」

 

 何故だろう、智代にこれ以上喋らせるのは汐の教育上ものすごく宜しくない気がした。

 

 

春原「間違いない、岡崎、お前超ドM……」

 

 ――ばしこーんっっ!!

 

 言い終わらぬうちに、智代の蹴りが春原を完全に沈黙させていた。

 

 

有紀寧「だとすると、昨日の一件にも、一つ、納得できることがありますね……」

 

涼「それって、有紀寧ちゃんの言ってた、伝承の話?」

 

有紀寧「ええ……」

 

有紀寧「一ノ瀬さんの話が仮に本当だとすれば、様々な世界の私達の“幸せ”が、昨日の奇跡を産んだのではないでしょうか?」

 

杏「だとすると、ロマンチックな話よねぇ……」

 

有紀寧「あの時、みなさんはただ、“渚さんに会いたい”と、それだけを願いました……」

 

有紀寧「そして、その願いに応じるように、数多の世界の幸せが光となり、あの一時の為だけに訪れたと……今なら、そう信じる事が出来るんです……」

 

朋也「でも、それがなんで俺達なんだ? 奇跡を望むのなら、他にも……」

 

有紀寧「岡崎さん、もしかしたらあなたと汐ちゃんは……本当に特別なのかもしれません……」

 

有紀寧「数多の世界を行き来し、多くの光を手に出来る、そんな……世界を行き来できると言っても過言ではない程の存在……それが、岡崎さんと汐ちゃんなのかも知れません……」

 

 宮沢の話はどこかスケールが大きすぎて、さすがに冗談めいている気がした。

 

 

杏「あははっ有紀寧~、それは大袈裟よ~。 汐ちゃんはともかく、こんなやつ、そこまで持ち上げる事ないって」

 

朋也「同感だ……さすがにそこまで言われると、どうも怪しく感じる……」

 

有紀寧「まぁ、それは私が個人的に思った事ですから……」

 

朋也「結局、謎は深まるばかりか」

 

杏「でも、いいんじゃない? 世の中なんて、分からないことだらけなんだしさ」

 

芽衣「確かに、その通りですね」

 

杏「あんたはあんたで、私は私、そんで汐ちゃんは汐ちゃんで、私の可愛い園児、それだけで十分よ」

 

 杏の言う事ももっともだ。

 

 他の世界がどうであれ、ここにいるのは、“俺達”なのだから。

 

 

智代「……そうだな、他の世界の私達の幸せはその世界の私達に任せて、私達は、この世界の私達の幸せを紡いでいく……それがいい」

 

朋也「ああ……杏や智代の言う通りだ、俺達は、俺達にしか作れない幸せがある……他の世界は関係ないさ……」

 

 

 だからこそ、たった一つだけ、俺は“俺”に、願う事があった。

 

 

 ……ここにいる俺と同じ過ちは犯さないで欲しい。そして……

 

 

 ――汐を、渚を、守ってやってくれ。

 

 

 と、どこかの世界にいる“俺”に、俺は願った……。

 

―――

――

 

 

 話に区切りが着いたその時だった。

 

アナウンス『――まもなく列車が参ります、白線の内側にお下がりください』

 

 アナウンスが終わって数秒、その言葉通り、列車がやってきた。

 

 

朋也「……来たか」

 

春原「じゃあ岡崎、またな」

 

芽衣「みなさんお元気で、良いお年を……!」

 

朋也「芽衣ちゃん、また来てくれ、今度は春原抜きで」

 

芽衣「はい! もちろんです!」

 

春原「こら芽衣ーーっ! そこだけ元気よく返事すんなー! ってか岡崎、お前も最後の別れぐらいきちんとやれよっ!」

 

朋也「今生の別れだ、また来世に会おうな」

 

春原「そう遠くない内に会いに行ってやるから安心しろっ! ……じゃあなっ!」

 

汐「めいおねーちゃん、ようへいおじちゃん、ばいばーいっ!」

 

 

 各々が別れを告げ、春原と芽衣ちゃんを乗せた列車が遠くへ走り出す。

 

 たった三日だけだったが、やはり、あいつで遊べないってのは、少しだけ寂しい感じがしてしまう……。

 

 

ことみ「私も、行かなきゃ……」

 

杏「ことみ、あんたの研究が発表される日を待ってるから、頑張りなさいよ?」

 

ことみ「うん……必ずお父さんとお母さんの研究を完成させて……昨日あった事の謎も解明してみせるの…!」

 

朋也「ことみ、お前ならやれるさ……なんたって、俺の自慢の幼馴染なんだからな……!」

 

ことみ「…うんっ! 朋也くんも元気でね……必ず……必ず会おうね……!!」

 

汐「ことみおねえちゃん、さよーならーっ!」

 

ことみ「汐ちゃん……またね……っ!」

 

 

 そして……ことみを乗せた列車の扉が閉まる。

 

 窓越しに大粒の涙を流し、ことみは別れを惜しんでいた……けど、最後には、笑っていた。

 

 

 ことみは、日本にいない日が多いから、会える日は非常に限られるだろう。

 

 だが、不安は無い。 いつでも、どこででも……連絡さえすれば、あいつはまた、笑って俺達の話に耳を傾けてくれるから……。

 

 

 そう、たとえどこの空の下であろうと……俺達は、繋がっているのだから……。

 

 

有紀寧「では、私もそろそろ……」

 

涼「私も……」

 

杏「そっか、涼、今日勝平君とデートだったっけ?」

 

涼「お……お姉ちゃん……」

 

 杏の言葉に藤林は頬を赤める。

 

 

朋也「そっか、藤林、幸せにな」

 

涼「はい……その、今度岡崎君にも紹介しますね、彼に岡崎君の事お話したら、是非会いたいって言ってましたから……」

 

朋也「ああ、楽しみに待ってるよ」

 

涼「うふふ、ありがとうございます」

 

 藤林の彼氏か……。

 

 何故だろうな、顔も名前も分からないけど、藤林の彼氏となら、きっと良い友達になれるんじゃないか、そんな気がした。

 

 

有紀寧「岡崎さん……」

 

朋也「宮沢、わざわざ来てくれてありがとうな、為になる話も聞けたし、お前のおかげで、俺も汐も救われた……ありがとう」

 

有紀寧「いいえ、私は何も……岡崎さんも、身体にお気を付けて……一人の身体ではないんですから……決して無理はなさらずに……」

 

有紀寧「また何かあれば、必ず言って下さいね……何処にいても、何をしても、私は駆けつけますから…」

 

朋也「ああ……ありがとうな」

 

有紀寧「ではみなさん、良いお年を…」

 

 宮沢と藤林に別れを告げ、俺と汐、杏と智代も歩き始める。

 

 

朋也「じゃあ、俺達も行くか」

 

 振り返り、俺は杏と智代に向かって言う。

 

杏「ええ……智代、あんたはこの後どうすんの?」

 

智代「私もまだ時間がある……そうだな、少し付き合おう」

 

朋也「んじゃ、行くか」

 

杏「汐ちゃん、どこか行きたいところ、ない?」

 

汐「……いきたいところ?」

 

朋也「ああ、遊園地でも、動物園でも、汐の好きな所に連れてってやるぞ?」

 

汐「……うん、いきたいところ、ある!」

 

―――

――

 

 汐の行きたい所とは、俺達の予想外の所だった。

 

 

朋也「ここら辺は……全然変わってないな……」

 

 そこは、まるでそこだけが時間から隔離されたかのように、止まっていた。

 

 草も、木も、薄汚れた看板の文字、小さな公園の遊具ですら、昔のまま、変わらないでいた。

 

 

 ――そこは、光坂高校に続く通学路。

 

 7年前まで、俺達が通学や下校に通っていた、あの道だった。

 

 

杏「ほんとね……駅前はあんなに変わったのに……ここだけが昔のまんま……」

 

智代「当たり前だ、私がそうしたんだからな」

 

朋也「智代が?」

 

智代「ああ、この辺りの自然は、出来る限り残して置きたいと思ってな……」

 

智代「私が今やってる仕事も、そういう仕事なんだ……」

 

朋也「そうだったのか……」

 

智代「……自分にも分からないんだが、何故だか、ここだけは変えたくないと思ったんだ」

 

智代「私にとって、鷹文との思い出の場所があの並木道だったように……ここも、誰かの思い出なのかも知れないしな……」

 

智代「だから、もしもここが変わってしまったら、確実に誰かが不幸になる、そんな気がしたんだ……」

 

 そう、遠い目で智代は言った。

 

 

朋也「智代……ありがとう」

 

 もしかしたら、智代の活動のおかげで、今の俺は救われているんじゃないか。

 

 心当たりはないが、俺は智代に感謝の言葉を告げる……。

 

 そして俺達は歩き出し、あの坂道に差し掛かる。

 

朋也「懐かしいな……ここも……」

 

汐「……パパ……」

 

朋也「ああ………この先に、俺達の学校があるんだ」

 

 ……懐かしい……。

 

 ここで俺は……あいつと………。

 

 

汐「ねえパパ……」

 

朋也「ああ、汐、どうした?」

 

汐「ここ、パパとふたりで……あるきたい…」

 

朋也「ああ……分かった」

 

朋也「杏、智代……悪い、ここからは、俺と汐だけで行かせて貰っていいか?」

 

 

杏「……うん、大丈夫よ。 私達、ここで待ってるわ」

 

智代「ああ、行って来い、岡崎」

 

朋也「すまない……それじゃ汐、行こうか」

 

汐「……うんっ」

 

 杏と智代を残し、俺と汐は坂を上る。

 

 

朋也「……この坂道で、パパはママと初めて出会ったんだ」

 

汐「ママものぼってたの? このさか」

 

朋也「ああ……そして、パパとママはこの道で―――」

 

 

 ――出会い、やがて恋をして…しおちゃん、あなたが産まれたんですよ――。

 

 

朋也(……?)

 

 

 ――そうですよね? 朋也くん――

 

 

朋也(………ああ、そうだ)

 

汐「そのはなし、もっとききたいっ」

 

朋也「……ああ、それで……ママはこの坂の下でな…………………」

 

 

【エピローグ】

 

 

 ―――娘の小さな手のひらを離さぬよう、しっかりと握り返し、俺達は坂道を歩き出す―――。

 

 

 ―――木漏れ日から差す光に照らされ、ゆっくりと歩きだす影二つ……いや、影“三つ”―――。

 

 

 

 ――俺たちは登り始める――

 

 

 

 ――長い長い、坂道を―――。

 

 

 

 FIN...




以上となります、聖夜に訪れた軌跡の物語、いかがだったでしょうか。

既にブームは過ぎ去ってしまったCLANNADですが、個人的に冬が来るとまた見たくなり、またゲームをプレイしたくなる程好きなお話です。

宜しければご感想などいただけると幸いです。


それでは皆さん、メリークリスマス……。

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