青年Aのカルデア録   作:向柑

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契約は同意して結ぶ物じゃない。

結ばせるものだ。


“俺は僕で、僕は俺”




???
机が一つ


ドアを静かに開ける。

 

 

「…やぁ、元気だったかい?」

 

 

にこやかな表情を保ったまま開けたドアを閉める。

 

まるで凍りついたかのように静かな空気。

 

 

見ると相手はとても驚いている。

僕がここにいる、という事だけに驚いている訳では無いらしい。

 

 

まぁ、そうだろう。

 

誰だって自分しかいない部屋に既に乾いているとはいえ()()()の人間が入ってきたのだけら。

 

「なぜ…ここが…」

 

「…うん?あ、そうか」

 

今更ながら大切な事を忘れていた。

 

 

 

「今、僕がここにいると君達の計画がパーだもんね。」

 

 

 

「改めて、()()()()()ジョーカー。

僕はアケチゴロウと名乗らせて貰おう。

君が騙そうとしていた明智吾郎とはDNA型まで同じだけの別人と考えてくれていい。」

 

相手に好感を持たれるには自分からそれを示さなければならない。

だから相手に笑顔を向けたのだが、どうやら相手には胡散臭く感じたらしい。

 

「…何が目的だ。」

「君に逢いに来たんだ。」

 

座らせてもらうね。と声をかけて目の前のパイプ椅子に座る。

 

 

「随分やつれたね、ご飯食べてる?僕は割と味とかどうでもいいやって思っているから、サプリとかで済ませちゃうなぁ」

 

ぎろり

睨まれた。まぁ、さっさと本題に入れって事だよね。

 

「パラレルワールドって信じるかい?」

「…?」

 

彼はいきなり出た単語に不思議そうにしながらも頷いた。

 

「僕は、簡単に言ってしまえば並行世界の明智吾郎だ。

僕が育った環境もそれなりに悪くてね。魔術師とか訳の分からない一族だったし、人間じゃないし。両親はそれなりに構ってくれたけどそれは研究材料としてだったし…いや、そんな事じゃなくて、しまった…いざ本物の君を前にすると話したい事だらけでたまらないな。」

 

彼は少々困惑している。

まくし立てるように話したし、情報を詰め込もうとしてしまった。

 

「僕の目的は一つだけだ。」

 

 

「ジョーカー、雨宮蓮。

 

君には訳がわからないだろうし、これから理解する必要もない。

 

これは僕のワガママだ。

 

ぎりぎりの中で逢いに来る必要性はどこにも無いかもしれない。

思いつきで行動したから本来世界の道筋がずれてしまうかもしれない。

 

それでも、どうしても、頼む。

 

 

僕と、握手をしてくれないだろうか。

 

これ以上は望めない。これしか僕は望めないんだ。」

 

 

 

いつのまにか彼は静かに、真剣にこちらを見ていた。

 

ただ見つめ合うこと数秒。

 

 

「……………」

ゆっくりと彼は手を差し出した。

 

 

慌てて自分の手袋を外す。

 

 

 

彼の手は、存外暖かかった。

 

 

彼は、ここにいると、

 

本物であるのだと、

 

視線の先に映る彼では無く、

 

僕だけを見つめている。

 

どこまでも、何度も探した彼がここにいると、

 

彼がここにいる事実(尊さ)をようやく頭が理解し始めた。

 

涙が出そうな程に嬉しい。

 

 

 

 

 

「…アケチ、少し痛い」

 

 

慌てて手を離す。

 

「涙、出てるぞ」

 

本当に涙が流れていたらしい。

僕がここにいたという証拠は残してはいけないから袖で拭う。

 

「はは、みっともないところを見られてしまったね。」

「“お前”は明智なんだな。」

「?何を今更」

「手の大きさとか、殆ど同じだった」

 

思わず吹き出す

 

「“僕”と手を握ったことあるの君?」

「あると言ったらどうする」

「僕の笑いが止まらなくなるだけさ!」

 

いたの間にか彼も笑っていた

 

「…ありがとう。もしかしたら君は僕と話している間、計画がずれてしまっていると思っただろう。心配はいらない」

 

彼はぱちり、と瞬きをした。

 

「異世界が、現実と経過する時間が全く同じだと思っていたかい?

この程度の誤差、異世界という()()()()()場所なら、時計の針の一周がとても遅かった(時間の経過が緩やかだった)事にできる。

“この”僕だからこその技能だ。

 

…ある意味この出会いは無かった事になる。術者の僕しか覚えておくことはないけど。僕は、どんな事をしてでも君に会いたかったと、今この瞬間だけは覚えて欲しい。

 

じゃあね、また会える事を祈らせてくれよ、ジョーカー」

 

 

彼がジッとこちらを見つめる事を名残惜しく思いながらも部屋から出る。

 

「じゃあな」

 

部屋から声がかけられた様な気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

産まれながらにして根源に接続している少女を知っているだろうか。

恋を知って少女へと堕ちた全能がいる。

 

全てが可能で、全てを認識できる機能を持つ。

文字通りの、完璧な全知全能。

サーヴァントとの戦闘から空間転移、並行世界への干渉まで可能な少女だ。

 

ただし、自分に関する未来は見なかったらしい。

 

 

 

 

 

僕、ゴロー・アケチこと明智吾郎は、たまに視線が交差する程度で殆ど視線を()()()()()()()()()()()()()

 

魔術回路は多くも無く少なくも無く、と言ったところだ。

 

文面から察すると思うがこの()明智吾郎は根源接続者だ。

 

自分を見て嫉妬(人間)を覚えた全能だ。

 

 

 

幼い頃は周囲に流されるまま、自分の意思を明確に持たないままただ生きていた。

 

しかし、ある日視てしまった

 

ガツンと頭を殴られた様な衝撃だった

 

本当にあれは並行世界の自分なのかと疑う程だった

 

自分とは切り離された全くの別人かと思った

 

どうあがいても自分でしかなかった

 

 

(ジョーカー)へ感情のまま叫ぶ自分を見て、この世界の彼に会ってみたくなった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

この世界で彼に当たる人物はいなかった

 

 

 

取り乱した、暴れた、八つ当たりをした。

己で扱える力で気付けば一面更地になっていた。

 

親と呼べる存在は微かに息をしていた。

 

 

並行世界の自分を殺して成りかわる。という事はやろうと思わなかった。

できない訳ではない。

 

それは自分から彼を奪うという事で、たとえ他の自分(限りなく他人)相手とはいえそんな事を自分がやったという事実を作りたくなかった、したくなかった。

 

他でもない自分に相対する彼がいないという現実が残った

 

 

 

自分は嫉妬と恨みを覚えた事で様々な事にブレーキがかかっていた。

 

以前流されるがままだった自分ならできた事が出来なくなっていた。

 

親に時計塔へと放り込まれ日々僕のいない世界の彼を探した。

 

眼球は自然と自分と彼の姿を優先して追った。

 

無意識に、自分は自分(明智吾郎)として振る舞おうとして見本を見ていた。

 

全能から嫉妬まみれのただの人になっていた。

 

明智吾郎になりたい魔術師(ゴロー・アケチ)が出来た。

 

 

 

 

気付けばマリスビリーに誘われて、カルデアにいた。

 

その頃にはすっかり自分は明智吾郎だった。

 

 

でも、それを自分から名乗ってしまうことは他の自分への冒涜だと思った。

 

だからゴロー・アケチと名乗った。

 

親に56番と、呼んでいたから名付けられた事は随分前から知っていた。

 

 

 

 

能力のブーストの為にカルデアスを通して自分を覗いた時だ。

 

接触があった。

 

全て炎に飲み込まれた大地の自分だった。

 

 

 

 

素養はあったから自分にも出来ると思った。

 

できてしまった。

 

 

新しい同居人は、自分には新鮮だった。

 

悪戯好きで、お喋り好きのかまってちゃんだった。

 

 

そんな生活に慣れていく中第一回のレイシフトは失敗に終わり人理は焼却された。咄嗟にこの自分に焦点を当てて未来を視た。

 

第四特異点のナーサリー・ライム、亜種特異点の幻霊達、そしてアルターエゴ。様々なモデル(見本)を見た。

 

この時にはせいぜい1つの(12月で終わる)世界しか見れなくなっていた自分に新しい世界(3学期)が見えた。

 

命の明確な危機に焦って、明智吾郎として振る舞おうとしていなかったのだろう

 

だから一時的に能力が上がった。人としてでは無く全能としての反射的な機能として観測した。

 

 

 

そんな

 

そんな事があり得ていいのかと思った

 

 

世界が行き止まるのを見た。

 

 

水密隔壁の向こうで倒れた自分は行き止まったと。

 

 

 

哀れ

 

 

 

ならば、自分が3学期(その先)へと連れて行く。

 

どうせ行き止まってしまうのなら何をしてもいいだろうと思った。

 

 

 

 

カルデアでコフィンを一台ちょろまかして遺伝子レベルで同じ自分の肉体のダミーを作って凍結していた。

レクリエーションルームに術式を何度かに分けて仕込んだ。

カドック・ゼムルプスが見た血溜まりと肉片はこれらだ。

 

 

いざ本番となって、欲が出た。

 

怪盗団と自分が隔てられる瞬間に飛べば良かったのに、

彼が絶対1人である空白を思い出してしまった。

 

 

 

でも、よかったと思う。

 

 

 

 

 

 

彼のいるドアの向こうを見つめながら魔術を使った。

 

「まぁ、僕も忘れるんだけどね」

 

なんであんな事言ったんだろ

 

 





少しでいい。

胸を張って自分の名前を名乗りたい 。

他でもない、彼に。





これまで彼が使っていたペルソナ系の魔法は彼が魔術で出来る限り似せたものです。
(つまりキャスタークラスにも通用するレベルの魔術)
武器なども瞬時に作成/召喚していました。
ただし、カルデアから脱出するのには散々並行世界の自分を見てきて植えつけられた自分の認知を利用しています。

昨日、今日とテンション高めだったのでバンバン投稿していました。
やっぱご都合主義かなこれ…
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