「もうドンパチやるの危ないから全部ISサッカーで決めよう!」
「は?」
修学旅行から帰って数日。突如ホームルーム中の教室に現れた天災、篠ノ之束はいつも通りの怪しい笑顔で俺達にそう言った。
急に何を言っている? ISサッカー? 何だそれは、IS装着して玉蹴りしろと? これまでも中々頭のおかしい発言ばかりだったが、今日この発言は特におかしい。脳がサッカーボールになってしまったのだろうか。
「いきなり何言ってるんですか束さん。ISサッカーだなんて……なあ皆?」
「全くだ。私はプレー経験がないんだぞ」
「そうですわ。準備というものが……」
「機体の調整だって必要なのに……」
「ん?」
今何か変だったような。
「まだこのメンバーでやったことないもんね。ラウラはどう?」
「問題ない。……と言いたいが、こちらの戦力把握の時間が欲しいな」
「私は賛成よ。ISサッカーなら被害は少なくて済むし」
「同じく……。けど、まだ打鉄弐式でやったことはないから、少し心配……」
「ちょっと待ってくれ」
どういうことだ。これではまるで、
「どうした一夏? まさかISサッカーを知らないなんて言うまいな」
「いや知らん。何それ……」
「「「えっ」」」
「えっ」
何だその反応。俺がおかしいみたいに。
ISサッカーなんて単語聞いたことないぞ。授業にも出てないし教科書にも載ってなかった。千冬姉に隠れて見てたISの動画にもそんなのなかったぞ。
「何を言っとるか。ISサッカーなら授業で何度も教えただろうが」
「千冬姉まで……」
ついに姉までも狂ったか。普段なら馬鹿者と言って出席簿を振り下ろすところだろうに。
しかし目はマジだ。授業中に怒られるときと同じ目だもん。
「冗談だろ……?」
「そんなわけあるか」
「ほんとに忘れちゃったの一夏?」
「勉強不足だぞ」
そんなはずはない。成績はイマイチでもしっかり授業は受けているんだ。この通りノートだってしっかり……そうだ! 本当にISサッカーを教えられているならこのノートに書いてあるはず。
「ほらっ! ノートにだってISサッカーなんて……ある!?」
「ほら見たことか」
嘘だろ。まるで覚えがない。覚えがないのにノートは取ってある。これは一体……。
「当然だね! なんたってISは宇宙開発とサッカーのために作ったんだから!」
「えぇ……」
今明かされる衝撃の真実。この人絶対そういうこと考えてないだろ。教科書にもそんなこと書いて……ある。書いてある。なんで?
「おーけー? わかった? どぅーゆーあんだすたーん?」
「わかりましたよ……」
もう否定しても無駄だろう。きっとこれは夢だ。顔をつねっても普通に痛いけどこれは夢。きっとそう。
それにサッカーで決着が着くのなら悪い話じゃない。スポーツなら学園が破壊されたり全身を焼かれたりはしない。平和的だ。
「織斑、後はお前だけだぞ」
「……やる。俺、ISサッカーやるよ」
「うんうん! じゃあ早速試合開始─「だめだ」……ちぇー」
そりゃそうだよな。そもそも俺、ルール知らないし。皆が言うにこのメンバーでやったことないみたいだし。
「むー……。なら一週間後はどう? それ以上は待たないよ」
「……いいだろう。では来週午前十時、グラウンドで待つ」
「決まりだね! 会場はこっちで用意するから、ばいばーい!」
あっさりと試合の約束が結ばれ、束さんはいつもの人参型ロケットで去って行く。やはり嵐の様な人だ。
「……ということだ。来週、試合を行う。専用機持ちはそれまで授業を欠席して特訓だ。質問のある者は?」
「は、はい!」
「なんだ織斑」
試合をやるのはいいが、俺にはまだまだ知らないことばかり、皆に遅れを取らないためにISサッカーについて少しでも早く知っておく必要がある。今の内に聞いておかないと……。
「専用機持ちは八人だけど、サッカーは十一人でやる物だろ?」
「何を言っている、ISサッカーは八人でやる物だろうが」
え。
「基本のルールすら忘れたか? 後でルールブックを渡すから明日までによく読んでおけ」
「はい……」
まさか人数が変わっているとは。しかしルールブックがもらえるのはありがたい。これである程度知識を入れることができるだろう。
「では、今日は解散とする、明日七時から練習を開始するので各自用意するように。織斑は職員室に来い」
「「「了解!」」」
まあ、どうにかなるだろ。
翌日早朝。グラウンドに集められた俺たち専用機持ちは早速特訓を開始しようとしていた。
昨日渡されたルールブックを読み込み、インターネットも活用して(世界中で大人気のスポーツだったらしい)何とか基本のルールは覚えることができた。
普通のサッカーと違う点はざっくり3つ。昨日も言われたが試合は8人で行うこと、試合時間は短く、オフサイドは存在しない。そしてISサッカーの名の通りISを装着して行う。他にもファールの基準が緩かったり、フィールドが通常の数倍もあったりと色々と違いはある。因みにこれらを定めたのは束さんらしい。
しかしただ一つ。いくらルールブックを読み込んでもわからないことがあった。
「シャル。一つ聞いていいか?」
「なぁに一夏? もう練習始まるよ?」
「いや大したことじゃない……と思うんだけどさ、
ISのサッカーモードって何?」
それがこれ、サッカーモードだ。どうやらプレーする時はこのモードで行うらしいが、どこを見ても知ってて当然が如く説明がない。まさか寮でISを展開するわけにもいかず、よくわからないままグラウンドへ来てしまった。
「そっか、一夏はISサッカーがわからないんだもんね。サッカーモードっていうのは……うーん、見てもらった方が早いかな」
「いいのか? サンキューシャル」
「いいよいいよ。どうせみんな使うしね。いくよ……」
「おお……」
そう言って、『ラファール・リヴァイヴ・カスタムⅡ』を展開。しかしなんの変哲もないいつものリヴァイヴだ。ここからどう変わるのだろうか。
「ちゃんと見ててね、『リヴァイヴ、サッカーモード 』」
瞬間。全身が光に包まれ、がしゃんがしゃんと音を立ててリヴァイヴが変形。数秒後には光が晴れこれまで違う姿へ変化したリヴァイヴが現れる。
装甲は脚部に集中。スラスターは小型化し、飛ぶよりは走ることに重きを置かれているようにも見える。
「これがサッカーモード。通常形態ISサッカーをするのに適した姿へ変形する機能。この形態だといくつかの武装は脚で使うんだ、ほら!」
「《灰色の鱗殻》!すっげえ……」
左足にはシャルの切り札でもあるパイルバンカーが。今は出していないがきっと他の銃器やブレードも脚で使うのだろう。
「一夏もやってみてよ。きっとかっこいいよ」
「よーし、『白式、サッカーモード!』」
名前を叫ぶと同時にモードチェンジ、普段と違う感覚に身を包まれながら『白式』が展開される。
リヴァイヴと同じく脚部に集中された装甲。《雪片弐型》は右脚、《雪羅》は左足へ。ちゃんと使えるか不安だったが、展開してみれば使い方が頭に流れ込んでくる。これならいけそうだ。
「
「へーっ、アンタのサッカーモードってそんな感じなんだ」
「
「これはこれで……アリ」
初めて見せる姿だからか、みんながこちらを見てくる。中々イケてるデザインらしい。なんかこそばゆいな。
「練習を始めるぞ! さっさと並べ馬鹿ども!」
「「「はい!」」」
「は、はい!」
いっけね、慌てて白式を収納し、整列する。危うくお仕置きを食らうところだった。
それからは俺たちの厳しい特訓の日々が始まった。
つい昨日ルールを学んだばかりの俺にとってはどれも初めての経験。しかも一週間後には世界の命運をかけた戦いが待っているのだから、練習はどんどん厳しくなっていった。特にキツイのは──
「今よ一夏!」
「うおおーっ! 零落白っ……うおあー!?」
──
「くっそーどうしたら必殺技が出せるんだ?」
練習が始まって三日目。ISを装着してサッカーをする違和感こそなくなったが、中々習得できない技能が一つ。それが必殺技。
皆が言うにはノーマルモード──普通にISを展開した状態のこと──で使われる技術や武装を、よりサッカーに適した形で使用することを指すらしい。それらはどれもド派手で奇抜。ISサッカーが世界中で愛される要因であり、これを習得してこそISサッカープレイヤーとして認められる……らしい。
当然皆は習得済み。しかし俺は未だ一つも習得できていない。
「こればかりは特訓あるのみとしか言えませんわ。わたくしも一つ習得するまでに何日も特訓しましたし」
「でも簪はもう三つ覚えたぞ」
「私は……打鉄弐式ができる前からISサッカー自体はやってたから……」
「やっぱ完全に初めてじゃ厳しいよなぁ……」
初日から何度も試してはいるが、普通に零落白夜を使うのとは感覚が違うらしく一向に成果は出ない。千冬姉に教えを乞うても、
「感覚で何とかしろ」
としか教えてくれない。それでも教師か。
「とりあえず、もう一度皆さんの必殺技を見てみればいいのでは? ちょうど鈴さんがシュート練習するみたいですわよ」
「そうだな……。おーい鈴! ちょっと見学させてくれー!」
「わかったー! しっかり見てなさいよー!」
ペナルティエリアの手前。ゴールの真っ正面に立ちシュート練習の準備をする鈴。確かに鈴はFWらしいしお手本に丁度いいだろう。
GKはラウラ。ドイツにいたときは黒兎隊のキャプテン兼守護神として戦っていたらしい。本人が自慢していた
「いくわよラウラ! はぁぁぁぁっ『
空中に蹴り上げたボールをブレードを装着した右足で一回、その勢いで回転し左足でもう一回。更に回転し両脚でトドメの一回。
ボールは連結した青竜刀を思わせるオーラを纏いゴールへ飛んでいく。
「止めるっ! 『AIC』っ!」
飛んでくるシュートに合わせて右腕を突き出す。瞬間掌から放たれたエネルギー波が空間を歪め、慣性を奪う。
ボールが纏うオーラは徐々に小さくなり、遂には消滅。見事に止められてしまった。
「あーもうやっぱり堅いわねー!」
「中々いいシュートだったぞ。だがまだまだだな」
「ぐぬぬ……もう一回よ!」
「受けて立つ」
そして再び必殺シュート。必殺キャッチ。必殺技の応酬が始まる。
「参考になりまして?」
「……わからん!」
どうやるかはさっぱりだが、まともに試合をするにはとにかく必殺技がいる。これだけはわかった。
そして練習を再開したが、結局この日は必殺技を覚えることはできなかった。
四日目。基本的な動きや連携は身についたと見なされ、新しい練習をすると言われ集められた俺達。しかしグラウンドには特に変化なし、一体何をするのだろうか。
「では今日の練習だが、山田先生」
「はいっ! 皆さんには今日から
「ん? 揺れてる?」
「わわわっ、地震?」
ポチッ。山田先生が手に持った装置ボタンが押され、地面が揺れる。少しずつ揺れは大きくなり、グラウンドの一部が割れた。
割れた所からは入り口の様な物が現れ、その先には階段が見える? これは……地下室?
「ここが、ISサッカー専用特訓施設『イナビカリ修練場』です!」
「イナビカリ……」
「修練場?」
「先ずはこの階段を降りろ。説明はそれからだ」
突如出現したイナビカリ修練場なる施設に困惑したまま、千冬姉に促されて階段を降りる。
降りきった後明かりが点灯し、その全貌が明らかとなった。
「すっげー……」
「学園の地下にこんな場所があったのか……」
「地図にも載せてないからね。私も来るのは初めてよ」
地下だと言うのにこの広大さ。それで十分驚きだが。特に異様なのはその設備。
サッカーボールを発射するであろうガトリング型の謎の機械、障害物が満載の巨大ランニングマシーン……普通のサッカーでは、いやISを使っていても考えられないものばかり。
一体ここでどんな特訓をするんだ?
「お前達にはここで個人の能力を高めてもらう。個人の練習メニューも用意した。順番に取りに来い」
「おお……」
メニューが配られ、早速練習開始。場所も設備も代わり昨日までとは比べものにならないほどキツい。正直普通に戦ってる方がまだ楽だ。
「どうした織斑、もうへばったか?」
「こんのぉっ……! まだまだぁっ!」
「よし、もう1セットだ!」
「うおおー!」
でも、こんなところで潰れるわけにはいかない。俺達は絶対に勝たなきゃいけないんだ!
そして練習は続き───
「『
「うわー!!!」
続き───
「『フレキシブルロード』っ! ですわ!」
「なんのっ! 『
「箒も必殺技を!?」
「やるじゃない!」
続き───
「いくよっ! 『バックトルネード』!」
「『キャプチャートラップ』!」
「止めたぁー!」
続いたが──
「俺もっ! 『零落白y──』どぉうわー!?」
「一夏ぁー!?」
俺だけには全く必殺技を使える気配がなかった。
「どうして俺だけできないんだ……?」
「タイミングはバッチリのはず……」
「必殺技以外はちゃんとできてるんだけどなー……」
練習も最終日。皆は次々と必殺技を覚え、ISサッカーの次元を上げている。一方俺はまるで成果なし。
しかし何度挑戦しても必殺技はできない。正確には発動ギリギリまではいけるが、あと一歩のところで失敗してしまう。
「くそっ。もう時間も残り少ないってのに……」
「そこだ、織斑」
「千冬姉……? 急に何をア゛ッ!?」
「ここでは織斑監督だ」
千冬姉が監督なのか……。いや妥当か元プロISサッカープレイヤーだったらしいし。
それよりも、千冬姉は俺が必殺技を撃てない理由がわかるのだろうか。この前は感覚とか言ってたのに。
「今のお前は焦り過ぎている。スタートが遅く、しかし決戦の日は近いからな」
「……そうだよ。だからこうやって──「だが」
「必殺技とは
「そんなっ……」
今の俺じゃ必殺技が使えない。使えなければ試合に勝てない。
我武者羅に練習するだけじゃダメってことか? でも時間が足りないんじゃ他にどうしようも──
「落ちつけ。あくまで今はできないというだけだ。余計な焦りを消し、足りないものを知れば必ずできる」
「……そんな簡単に言われたって、俺は……」
「だから、私が手本を見せてやる」
「千冬姉が……?」
「ああ、一度だけだがな」
そう言いながら運ばれてきた打鉄に乗り込む千冬姉。元プロの必殺技。確かに参考にはなるだろう。
……でも、皆がやっている所を見てもできなかった俺がそれでできるようになるだろうか?少しでも多く練習した方がいいんじゃ……。
いかんいかん。焦っちゃダメなんだった。
「久しぶりだな。ここに立つのは」
センターサークル中央にボールを設置。ドリブルから始めるのだろうか。それにしたって距離が遠すぎる気もするが。
「これが私の、
「なっ!? 中央からだとっ!?」
勢いよく振り下ろした左足で強烈なバックスピンをかけられて浮き上がるボール。
空中で静止したそれに向かって勢いよくオーバーヘッドキック。力強くそのシュートの名が叫ばれる。
「『ブレイブショット』!!」
ボールは強烈な蹴りを受けて蒼いオーラを纏い、一直線にゴールへ入る。
今まで見たどんな技よりも強烈で凄まじい。とんでもないシュート。
「はぁ……はぁ……やはり、ブランクが大きいな。どうだ一夏?」
「すげぇ、すげぇよ千冬ね、いや織斑監督! こんな技があったなんて!」
「ふっ。その様子だともう焦りはないようだな」
「えっ? あっ……」
そうだった、俺はずっと焦ってて。それで失敗し続けていた。
でも今のシュートを見たらそんな感情は吹き飛んでしまった。
そうか、千冬姉はこの為に俺に見せてくれたのか。
「……この技は、私のISサッカーの原点とも呼べる技。強い思いを込めて編み出されたシュートだ」
「原点、思い……」
俺に足りなかったもの。ろくに経験のない、俺の原点、思いとは?
その答えは───
「─おい織斑、聞いているのか?」
「悪い。ちょっと考えてた。でももう大丈夫だ。
「……いいだろう。やってみろ」
「はい!」
ペナルティーエリア一歩手前。ここから俺はシュートを撃つ。どうせなら千冬姉みたいにセンターサークルから、と思ったが大事なのは距離じゃない。
ボールを置き、
「いくぞっ!」
思い切りボールを蹴り上げ、追って自身も飛び立つ。
右足に装着された《
「これが俺のっ……『
「!」
俺の
「やった……できた! できたぞ千冬姉!」
「……よくやった。
やっとできた。俺の必殺技。これで敵とも戦える、ISサッカーができる!
「やったな一夏! 凄いシュートだった!」
「ああ! これでバンバン点取ってやるぜ!」
「まあっ、わたくしにも見せてくださいな!」
「ちょっともう一回やんなさいよ!」
「僕も見たい!」「私もだ!」
「私もお願い!」「録画準備……OK……」
「わわっ、ちょっと待てって!」
結局この後、色んな角度から見たいとかなんとかで何回もシュートをやらされた。お陰でヘトヘトだよ。
……だがついに、ついに俺にも必殺技ができたんだ。ずっと不安だったが、ようやく希望が出てきた。明日の試合もこの調子でいくぞ!
「…………ふぅ」
遂に必殺技を完成させた夜。試合をを明日に控え、本来ならば寝ていないといけない時間だが、俺はグラウンドに来ていた。
別に今から練習するわけじゃない。ただどうしてもじっとしていられなかったんだ。
しかしこんな夜に誰かがいるはずもないか、早く帰って寝るとしよう。
「……何をしている?」
「あっ……」
千冬姉だ。やばい。こんな時間に彷徨いているなんて怒られるに決まっている。前日に説教なんて受けたくないぞ。
「……眠れないのか?」
「へ? あ、ああ……」
「そうか……まあ座れ、すこし話そう」
「? はい……」
あれ、怒られない。というか、何時もより少し態度が優しい。まるで家にいる時みたいに。
そのまま近くベンチに座り、しばし無言の時間が流れる。
「…………」
「…………」
気、気まずい……。何か話はなかったか、えーと……。
「今日お前が使った技だが」
ぽつり、と一言。言葉が発せられる。今日の技? あのシュートか。
「『零落白夜』か?」
「そうだ、その技は……昔私がプロの試合で使っていた物だった」
「『いた』って……今は」
「使えない。あれは以前の私の専用機、『
『暮桜』。かつて千冬姉が出場したISの世界大会、『モンド・グロッソ』でも乗っていた専用機だ。
たしか『零落白夜』は、もともと『暮桜』の単一使用能力だったらしい。
「私がいたチーム……かつての日本代表は、『イナズマイレブン』と呼ばれていてな。『零落白夜』を撃つとき、イナズマの様なエネルギーが出ただろう? あれは、特に強力な必殺技を使うときに発生するものでな、チーム全員の必殺技が発していたことからそう呼ばれるようになった」
「じゃあその、『イナズマイレブン』は今何を?」
「やめたよ。私が現役を引退したと同時に解散して……今は全員普通に生活している」
「そっか……」
ISサッカーに限らず、千冬姉が現役だった頃の話をするのは珍しい。普段ならいくら聞いたってはぐらかされてしまうことが多い。
それにしても『イナズマイレブン』か。初めて聞くがさぞかし強いチームだったのだろう。
「あの頃は本当に楽しかった。連戦連勝向かうところ敵無し、伝説とも呼ばれたよ」
「そんなに強かったのか……」
当時の話をする千冬姉は懐かしそうで、楽しそうな表情だった。
こんな顔の千冬姉を見るのは久しぶりだな。
「……明日の試合、不安か?」
「っ……。まあ、どういうわけかISサッカーのこと忘れてるし、必殺技もやっと一個できるようになったばっかりだしな」
「そうか……」
こちらからすれば急に皆がサッカーやり出して随分困惑したんだけどな。もう諦めてるけど。
「大丈夫だ」
「え?」
「お前ならきっとできるさ。私の弟だからな」
「千冬姉……!」
そういった千冬姉はとても優しい眼差しをしていた。俺に剣を教えてくれたあの日と同じ、眩しいものを見るような表情だった。
「さあもう戻れ、明日に響く」
「わかった……それと、ありがとう、千冬姉」
「……ああ」
そして夜が明け、試合の日が訪れた。
次回、試合編!