もしもアニメのアズールレーンに指揮官が出てきたら〜2nd season 海上の誓い〜   作:白だし茶漬け

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こんにちは。今回で特別幕間の物語は終わりです。
最近は忙しくてこちらの小説はあまり更新していませんが、最後まで書くつもりなので最後までよろしくお願いいたします。

コメントの返信も最近はしてませんが、ちゃんと全部読んでは届くとめちゃくちゃ喜んでます!w


アズールレーン

 

さんさんと輝く太陽に、もし乗れならふわふわで眠くなってしまいそうな白い雲、それに照らされてまるで自然の鉄板の様に熱くなっている白い砂浜、そして青く海の底まで見えるようなサファイアブルーの海。

 

まさに海で泳ぐには最適な天気だ。……こんな時平和だったらどんなに良かった事なのだろうか。

 

この平和だったはずの海岸は、今まさに水着を着ているKAN-SEN達の戦場と化していた。

 

「指揮官に指輪を貰うのは私です! 」

 

「いーや!ヒーローの隣にいるのはこのリノ何だから! 」

 

スフィフトシュアとリノが絶賛戦闘中だが、他にもまだいる。

 

千歳や千代田、ハーマイオニーやチャシャーやドレイク等その他諸々のKAN-SEN達が炎天夏の暑さにも負けない熱い戦いを起こしている……いや、さっさと止めて欲しいのではあるんだけど……残念ながらこっちもこっちで4人のKAN-SEN達に囲まれていた。

 

「指揮官、大人くしく指輪を渡すのです 」

 

「いーえ、こちらに渡してもらいます 」

 

「いえいえ!ジャベリンにですよね!? 」

「ラフィー、指揮官とずっと一緒に居たい。だから、本気出す」

 

ジャベリン、ラフィー、綾波、そしてニーミことZ23の仲良し4人組が俺の四方を囲んでいた。

 

しかしそれだけならどれほど良かったのだろう。四人とも……というか、俺を除くこの場にいる全員、艤装を背負っていた。

 

砲弾やら銃撃やら飛び交う砂浜は最早混沌としており、一瞬でも気を抜ければこの混沌に飲み込まれそうだ。

 

明石とリフォルさんが作った機械であるKAN-SENが俺に対しての好感度が上がる機械……面倒臭いないちいち言うの、もう【好感度上昇機】でいっか……。

 

ともかく、その機会がサラトガ辺りのイタズラKAN-SEN達が謝って操作してしまい、暴走を起こした結果。好感度がオーバーフローしてしまい、どんな手段を使ってでも俺を傍に居させようとしているのが今のKAN-SEN達の状態だ。

 

機械の効力は2、3時間程らしく、効力が切れるまで逃げ切れりたい所だけど……

 

「無理に決まってるよなぁ…… 」

 

そう、このアズールレーン基地は島丸々ひとつ改修して作った場所だ。逃げ道も無いし、KAN-SEN達も大体100余人は普通にいる。そんな所でやり過ごすというのは無理もいい所だ。

 

「覚悟……するです! 」

 

最初に仕掛けたのはやはり綾波であり、綾波は2本の剣を俺に向け、速攻で斬りかかってきた。回避しようにも砂浜で足が奪われ、初速が足りずそのまま綾波にやられてしまうと判断した俺はやむを得ず艤装を展開し、同時に俺の武器である大剣を出現させ、綾波の攻撃を防いだ。

 

「ちょっと!流石にそんな武器で斬られたら痛いと思うんだけど!? 」

 

「心配ないです。峰打ちなのです」

 

「そりゃあありがたい事で…… 」

 

「だから指揮官、安心して綾波に負けて、綾波の傍にずっといるですっ! 」

 

流石に力負けする綾波は一旦俺と距離を置き、一呼吸すると綾波の雰囲気が変わった。すると綾波の艤装の一部が中心から離れるように再展開され、綾波の目も赤く光っていた。

 

「それじゃあちょっと本気を出すです。鬼神の力……味わうのです! 」

 

鬼神と呼ばれている綾波の動きが更に俊敏になり、砂の上にも限らず綾波は加速していく。

 

目でギリギリ追える程であり、もしも瞬きひとつでもしたら直ぐに見失ってしまいそうだ。

 

「これが改造した綾波か……! 」

 

そう、テネリタスの一件以来、殆どのKAN-SEN達には【改造】と言うものを施している。KAN-SEN達の船の設計図を元に提案、発展を繰り返し、少しづつだが改造を終えたKAN-SENも存在し、戦力の増強に一役かっている。

 

その1人が綾波だ。改造した事により機動力や雷装が高まり、綾波の得意分野である接近戦が更に磨きがかかっている。喜ばしい事なのに今はそれが裏目に出ているのが辛い……!

 

「そこなのです! 」

 

「後ろ!? 」

 

背後から綾波の声を聞き、咄嗟に大剣の後ろに隠れて攻撃をやり過ごそうとした。しかし、大剣の影から見える背景には綾波は移っておらず、それなのに金属がぶつかり合う鈍い音と衝撃が走った。

 

何事かと確認すると、そこには綾波の刀が砂浜に置かれていただけだった。

 

「まさか……わざと片方の剣を後ろから投げて気を逸らさせた!? 」

 

「その通りです! 」

 

また綾波の声が後ろから聞こえ、振り返った先にはもう綾波が目と鼻の先まで接近していた。

 

迎撃しようとしてももう間に合わない。俺は綾波に押し倒され、剣の刃先を喉元に向けられてしまった。

 

「ゲームオーバーです。綾波と一緒に来るのです 」

 

「ぐぅ……! 」

 

右腕とを抑えられ、左腕も綾波の剣の重りで動けない。油断した……のは言い訳か。

 

「もう逃げられないです。大人くしく指輪を渡すのです 」

 

「いやこんな無理やりには嫌と言うかなんというか…… 」

 

「大丈夫です。嫌とは言えないぐらい綾波と一緒に…… 」

 

綾波の言葉は途中で途切れ、綾波は横から来る銃弾を剣で切り裂き、俺から離れ、俺を守るように前に出た。

 

横からの銃撃を行ったのはラフィーの2丁の銃だった。

ラフィーも綾波と同様に改造を受けたKAN-SENの1人であり、ラフィーは改造した結果、服に黒い上着が追加され、専用の二丁拳銃が追加され、更にラフィーの特徴とも言える自己リミッターを解除した際の出力も向上しているが、この場ではやって欲しくない。いや、本当に。

 

「邪魔をしないで欲しいです 」

 

「邪魔してない……邪魔してるのは、綾波の方。ラフィーは指揮官の傍にいたいだけ 」

「それは綾波も同じなのです。邪魔をするのなら…… 」

 

「……コロす 」

 

「ちょっと2人ともぉぉぉ!? 」

 

綾波とラフィーは本気でぶつかり合い、お互いの全力を尽くして俺の事を勝ち取ろうとしていた。と言っても俺が素直に行く訳ではないんだけど……!

 

「今の内に逃げられる……って、無視する訳にも行かないかな 」

 

このまま味方同士でやるのもまずいし、このまま被害が拡大するのも困る。

 

だけど、かと言って傷つけずに止められる自信は無い。

仕方ないけど最低出力の攻撃でやり過ごすしか無い……!

 

「何か考え事ですか?指揮官! 」

 

「なっ……ジャベ……! 」

 

武器を換装しようとした瞬間に目の前にジャベリンが表れ、そのまま持ち武器である槍を捨ててそのまま突撃をかけるように俺に抱きついてきた。

 

突撃して抱きつかれたから武器を手放し、艤装も衝撃で強制的に消えてしまい、更には砂浜を背にジャベリンに両肩を掴まれてしまった。

 

「捕まえましたよ!さぁ、早くジャベリンとあーんなことやこーんなことを……きゃっ!言っちゃった。これはお嫁さんにしてくれないとダメですよね?……ね? 」

 

え……やだ、怖い。いつも明るいジャベリンがめちゃくちゃ怖い感じになっている。

 

動こうにも肩が完全に抑え込まれて上半身の殆どが動けず、そのままジャベリンのなすがままにされてしまった。

 

「ちょ、え……エロはいけないんじゃ無かったの!? 」

 

「ジャベリンとなら問題無いですよ〜!というより、私以外としたら指揮官に何するか分かりませんよ……? 」

 

まずい、ジャベリンの目にあった光が何処かに行ってしまった。

 

ジャベリンは我慢の限界のように顔を近づかせ、そのまま唇を重ね合わせようとしていた。

 

思わず顔をそらそうとしても、ジャベリンは体全体を使って俺を押さえつけ、両手で俺の顔を掴んで無理やりジャベリンの方に顔を向けさせられた。

 

「顔を逸らさないで下さいよ〜!早くチューしましょうよ! 」

 

「いい加減にしなさい!ジャベリン! 」

 

もう顔を逸らせない状況を見た二ーミは自分の身長ぐらいある砲塔を構え、間髪入れずにジャベリンに向けて砲撃した。

 

砲撃した瞬間を察知したジャベリンは砂浜に突き刺していた槍を抜き差し、そのまま槍を振り上げて砲弾を縦に真っ二つに斬り、砲弾はそのまま海に落ちて爆発した。

 

「もぅ!危ないよ二ーミちゃん! 」

 

「指揮官に影響が出ないようにちゃんと狙ったから大丈夫よ。それより、こんな白昼堂々そんな真似はハレンチだと思うけど?そういうの、ダメじゃ無かったっけ? 」

 

「さっきも言ったけど、私に対してなら大丈夫だから! 」

 

「そんな勝手が許される訳無いでしょ! 」

 

二ーミは怒涛に砲撃を連発し、ジャベリンは狙われていると自覚したのか俺から離れ、俺に危害を加えまいとしていた。

 

避けるジャベリンに当たらない砲撃……そのせいで砂浜にクレーターが増殖してしまい、穴が無いところを探すのが難しい状態になってしまった。いや、これは二ーミのせいじゃ無くてここで暴れている人達も原因何だけど……。

 

二ーミの攻撃はそれ程影響があり、ジャベリンだけではなく他の皆も巻き添えを食らっていた。

 

いつもの二ーミならこんな事は絶対しない筈なのに、改めて機械の暴走の恐ろしさが目に見えて分かる光景だ。

 

とにかく今は逃げるよりも二ーミをどうにかした方が良さそうだ……幸い武器は近くに落ちているからそれを拾って接近すれば何とかなるはずだ。

 

武器を持ち、接近するチャンスを待ったが……その前に高速で二ーミに接近する剣を持ったKAN-SENを確認し、二ーミもそれに気づいて咄嗟に武器で攻撃を防いだ。

 

黒の水着……というか明らかに服の面積が小さいからビキニか?それを着ており、その上に透明で中が透けているラッシュガードを身にまとい、頭の上にはハート型のサングラスという中々なセンスをしている物だった。

 

そしてその水着を来ているKAN-SENは、白髪で水着のせいで抜群のプロポーションが顕になっているメイド……シリアスだった。

 

「誇らしきご主人様の危害を加える輩は……シリアスが退治します! 」

 

「貴方は……!厄介な人が出てしましたね…… 」

 

自分の砲撃を活かせない近接戦に持ち込まれた二ーミが押されており、シリアスはそのままの勢いで二ーミを押し潰さんとしていた。

 

「ぐっ……流石戦闘だけは超一流なメイドですね! 」

 

「お褒めに預かり恐縮です 」

 

(それって褒めてるのかなぁ…… )

 

確かにシリアスの戦闘能力はずば抜けて高く、ロイヤルの中では一二を争う程でもある。だけどその反面、メイドとしての給仕能力はちょっと……低い。

 

皿は割り、菓子を焦がし、掃除をしたと思えば花瓶を割ったり、ハプニングを起こさない日は無い。本当にメイドなのかと他陣営のKAN-SEN達に言われた事もあった。多分二ーミが言っていた事はこの事だ。

 

【メイドの癖に】と。

 

「貴方は指揮官に何が出来るのですか!?料理もまともに出来ず、身の回りの世話だって出来ない。そんな貴方は指揮官に相応しくありません! 」

 

「っ…… 」

 

図星をつかれたシリアスは僅か一瞬力を抜き、二ーミはそれを見逃さずに砲塔と剣の鍔迫り合いは二ーミが制し、体勢が崩れたシリアスから距離を置いた。

 

「貴方は指揮官の隣に相応くありません 」

 

「それでも、私は誇らしきご主人様の事を愛しています!この身を抱きしめ、壊して欲しい程に…… 」

 

「だったら私が粉砕してあげます! 」

 

「では私は貴方を退治致します 」

 

いよいよ2人の戦闘が本格的になってしまったけど、そのおかげでこっちの注意が逸れたようだ。この隙に逃げて機械の効果が無くなるのを待てばこっちの勝ちだと考えた瞬間、地面の砂浜に急に影が出来たのを気づいた。

 

影はどんどん大きくなりいきなり影が出来たと言うことは上空で何かが近づいた証拠だ。眩しい太陽の中空を見上げると、太陽を背にこっちに近づいていく物が見えた。

 

このままでは直撃コースだ。咄嗟に回って回避した直後、接近してきた物体は砂浜にぶつかり、凄まじい量の砂が辺りに吹っ飛んだ。

 

着地地点の砂が晴れ、ようやく姿が見えるとそこには4本の足に頭には角と紫色の毛が生えた動物に、その上には紫色の髪を持ったKAN-SEN……ユニコーンがいた。

 

「ご、ごめんねお兄ちゃん。びっくりさせちゃったよね……? 」

 

「そりゃあいきなり上から攻撃されたらびっくりするよ 」

 

仲良し4人組の次はユニコーンか……しかもいつも小さいぬいぐるみの姿をしているゆーちゃんも本気モードの姿である4本足でまさにユニコーンの何相応しい形をになっている。

 

あの姿のゆーちゃんは結構強いんだよなぁ……馬よりも早く駆け、しかも翼を生やせる事もできるとんでも生物だ。噂によれば、二足歩行で筋肉が発達している姿も確認されていると聞いたけど……なんか嫌だなそんな姿。

 

「ご、ごめんね。お兄ちゃんの事助けたくて……ゆーちゃんの背中に乗って空を飛べば、皆から逃げられるかなって思って…… 」

 

「え……?もしかして、ユニコーンは好感度増幅器の影響を受けていな…… 」

 

「それで2人きりになれる場所に着いたら……お兄ちゃんと一緒に愛し合うの。ユニコーン、本当は悪い子だから、お兄ちゃんが何て言ってもやめてあげないから……ね? 」

 

前言撤回、ユニコーンも同様におかしくなっていた。咄嗟に剣を取り出し、ユニコーンに対して臨戦態勢を取った。

 

「お兄ちゃん、何でそんな物向けるの?……あ、そうか。私が悪い子だから、お仕置するんだね。でもそんな危ない物を向けるお兄ちゃんも悪い子だから、先に私がお仕置するね! 」

 

どうやらあっちはやる気満々だが、こっちはやり合うつもりは無い。丁度ユニコーンを止めるものが周りにゴロゴロあるからこれを利用しよう。

 

ユニコーンを乗せているゆーちゃんは自慢の角を突きつけながら真っ直ぐこちらに向かった。真っ向からのぶつかり合ったらこっちが力負けする。……ならば、答えは1つ。受け流すのみだ。

 

ゆーちゃんとの距離が近づき、まだ引きつける。引きつけ、引きつけ、まだ引きつける。ゆーちゃんの凛々しい目がはっきり見た瞬間、剣を少し傾かせ、1歩左に体を傾かせた。

 

いきなり横に避けた俺に攻撃を当てる術が無いゆーちゃんはそのまま俺を通り過ぎた。

 

「よ、避けた?ゆーちゃん、もう1回お兄ちゃんに…… 」

 

「残念だけどその場に落ちてもらうよ、ユニコーン 」

 

「へ? 」

 

ゆーちゃんが足を止め、方向展開した瞬間、いきなりユニコーン達がいた地面に穴が開き、そのままユニコーン達は砂浜の落とし穴に落ちていった。

 

「え、えぇ!?い、いつの間に……? 」

 

「俺が作った訳じゃない。ここには俺たちの他に艤装を使って戦闘しているKAN-SENもいるからね、その余波で砂浜に穴が開きまくっているから、それを利用しただけだよ 」

 

「うぅ……ゆーちゃん、大丈夫? 」

 

ゆーちゃんは何とか体を起こそうとしたが、ゆーちゃんの4本足の体型的にあそこから抜け出すのは難しいだろう。

 

「ごめんねユニコーン。また後でね! 」

 

「あ、お兄ちゃん!待ってよー! 」

 

何とかユニコーンを無傷で凌ぎ、今度こそこの砂浜から逃げようとしたが……

 

「あらあら〜どこに行くんですか?指揮官 」

 

上空からいきなり攻撃機による機銃が俺の前を遮るように攻撃すると、機銃は砂浜の砂を飛ばし、周りに砂煙を発生させた。砂に目が入ってしまい、思わず目を閉じては砂を取り出すように目をかき、丁度そのタイミングで砂煙が晴れると……いつの間にか4人のKAN-SENに囲まれていた。

 

俺を囲んでいる4人のKAN-SENは、イラストリアス、ヴィクトリアス、フォーミダブル、そしてインドミタブルというイラストリアス級に囲まれてしまった。

 

「指揮官、どこに行かられるのですか?これから私だけのお茶会をしようと思いますので、是非指揮官にも来てください 」

 

にこりとイラストリアスはいつものように眩しい笑顔でお茶会に誘っていた。普段なら是非とも行きたいところだけど今は状況が状況だ。

イラストリアスの眩しい笑顔の隅には拭いきれない影も少しあり、それは輝かしい光に負けないぐらいの黒さだった。

 

俺には分かる。この誘いに誘ったら確実にやられると。だが、どうせ拒否権なんて無いのだろう。

 

「因みに拒否権は無いわよ!強制参加決定よ 」

 

ヴィクトリアスがそう言ってきた。

 

「やっぱりな……だけど、悪いけど今は参加出来ないんだ……よ! 」

 

四方八方から囲まれ、俺の事を見られていてはまず間違いなく逃げ場無い。だがらまずは視界を奪う。

 

大剣を砂浜に突き刺し、そのまま引きずる様に体ごと回転させて剣を振り、砂浜の砂が辺りに舞い、イラストリアス達の視界を奪った。

 

「キャッ! 」

 

「ごめん!だけど今の内に…… 」

 

この砂の中では目を開ける事さえ困難なはずだ。この隙にイラストリアス級の包囲網から抜け、人気のいない所で時間を潰せばと考えていたが、それはこの後の一言で全て破綻させられた。

 

「じっとしてなさい!指揮官 」

 

その一言を聞いた瞬間、俺の体はその言葉に逆らう事が出来ず、体はまるで時間でも止められたみたいに固まってしまった。

 

「これ……フォーミダブルの! 」

 

意識はあるのに体は指一本すら動かせない状況の中、俺が出した砂煙は晴れてしまい、俺の目の前にはフォーミダブルが立っていた。

 

「指揮官、酷いですわ。レディに対してこんな事するなんて……お仕置が必要ですわね! 」

 

フォーミダブルは俺の頭を掴み、そのまま自分の胸に押し込むようにして俺を抱き寄せた。フォーミダブルのたわわに実っている2つの胸に頭を挟まれ、思ったように息ができない。顔を出そうにもフォーミダブルの凄まじい力で俺を押えつけられているから顔を出せないでいる。

 

「ずるいわよフォーミダブル。じゃあ私は後ろから失礼して…… 」

 

「では私は右手の方を…… 」

 

「じゃあ私は左手ね。ふふ、顔と手がこんなに柔らかい感触に包まれるなんて、指揮官は幸せ者ね 」

 

確かに男子からすれば天国のような幸せな事だとは思うけどこのままだと本当にフォーミダブルの胸で窒息してしまいそうだ。だけど右手はイラストリアスに、左手はヴィクトリアス、そして後頭部はインドミタブルが押さえつけるように胸を当ててるからどうしようもできない。

 

4人の柔らかい感触が雪崩のように押し寄せ、息苦しさと羞恥で頭が回らず、俺の意識は朦朧としていた。

 

(もう……ダメだ…… )

 

瞼が重くなり、抵抗する意思さえも消えかけていたその時だった。

 

突如発煙筒が俺たちの中心に置かれ、間髪入れずに発煙筒から白い煙が飛び出した。

 

「え!?何事!? 」

 

「これはまさか……催……眠ガス 」

 

イラストリアスが煙の正体を気づいた時にはもう遅く、煙を吸ってしまった4人はそのまま寝てしまい、俺は何とかフォーミダブルの拘束から抜け出す事が出来たが、俺もこの煙を少しだけ吸ってしまい、思うように体が動けずにいた。

 

とにかく煙から脱出しようと口元を手で押え、足を引きずりながらも歩いていくと、煙の先から声が聞こえた。

 

「少々失礼致しますご主人様 」

 

意識が朦朧とする中で背後から誰かに体を抱かれ、煙の外に出たのと同時に、目を瞑ってしまった。そのまま深く寝てしまった。

 

 

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「ん……んん 」

 

眠っていたのか、ゆっくりと目を開く。

 

知らない天井だった。体はベットの上にあり、ふわふわでまるで雲のような柔らかい布団がかけられていた。まだ頭がぼうっとして、上手く体が動かせない……

 

どことなく俺の部屋に似ているが少し違う。俺の部屋の天井とは少し造りが違い、ここはどこかと首を動かすと、この部屋の主と目が合った。

 

「おはようございます。ご主人様 」

 

「ベルファスト……? 」

 

「はい、貴方だけのベルファストでございます 」

 

ベルファストはベットの傍にある椅子の上に座り、いつも通り笑っていた。多分ずっと俺の事を見てくれたのだろう。

 

どうやらここはベルファストの部屋のようだ。部屋は綺麗で埃なんて無く、それでいて物も見事に整頓されている。流石ベルファスト、プライベートでも完璧だった。

 

「気分はどうですか?皆様から逃がれる為に、少々手荒な行動を取ってしまい申し訳ございません 」

 

「いや、大丈夫だよ。ありがとうベルファスト、ベルファストは何とも無いんだね 」

 

「何とも……?あぁ……この騒動の原因である暴走した機械の件ですね?承知しております 」

 

流石ベルファスト、情報が早い。見た感じ好感度上昇機の影響も受けていないし、ここに俺が居るのを他のKAN-SEN達も知らないようだ。恐らく最も安全な場所とも言えるだろう。

 

「ほとぼりが冷めるまでここにいた方が賢明でしょう。今お茶を容れますのでお待ちください 」

 

ベルファストは座っていた椅子から立ち上がり、ティーポットがある机の上まで歩いた。だけど、何故かベルファストの姿に違和感があった。

 

姿というが、ベルファスト自体に違和感は無い。というか……何だかベルファストの首元から何か伸びている様な気がする。

 

まだベルファストの投げた催眠ガスの効果が抜け切ってないのか目が良く見えず、目を擦ってぼやけた視界を直した。するとようやくベルファストから伸びている物が見え始めた。銀色……いや、ちょっと黒い……鉄の様な物だ。まるで鎖みたいな物だ。鎖がどこから伸びているのかと鎖を辿って見ると、鎖は何故か俺が寝ているベットの方に伸びている様な気がした。

 

ベットに何かあるのかと体を起こすと……ジャラっと鉄が擦れ合う音が俺の首元から聞こえたと同時に、首に何か巻き付かれたかの様な締め付け感があった。恐る恐る首元を触ると、鉄の冷たさと硬さがあり、ゆっくりと目を下に向けると……そこにはベルファストがいつも首元にしている鉄の首輪があった。

 

「えっ……はっ?……ええ!?なにこれ!? 」

 

思わず首輪を外そうと手にかけて見るものの、首輪は外れない。部屋中に鎖の音が鳴り響き、ベルファストがその音で俺が何をしているのか分かっているか、後ろを振り替えずに構わず紅茶を容れていた。

 

「無理に外そうとすると首元が傷つきます。どうか安静にしてください 」

 

「これでどうやって安静に出来るって言うんだよ!これベルファストのと同じだろ?外してよ! 」

 

「それは出来ません。ご主人様はもう私から離れる事は出来ません 」

 

「なんでこんな事を……良いからこれを」

 

外してくれと言う前に、ベルファストは自分の机が壊れるぐらいに強く叩き、大きな音で体がびくりと固まってしまった。

 

「ご主人様はいつも無理をされておられます。ベルファストはいつもご主人様を見ていましたから。朝起きる所も朝食を食べている所も公務をやっている所も他の方々と接している所も昼食も食べている所もお昼後は少し眠そうにしている所も何もかも全て全て全て全て全て……見ていますから 」

 

振り返ったベルファストの目に光は無かった。まるで何かのタガが外れたかのような目は赤城姉さんとそっくりだ。不気味な笑顔のままベルファストがこっちに近づき、逃げようとした。だけどベルファストが自分の鎖を引っ張ると、俺に首に繋がっている首輪も同時に引っ張られ、首が締め付けられてしまう。

 

「がぇっ……!? 」

 

出した事ない歪な声を出し、苦しさで咳き込みながらベットに倒れてしまい、ベルファストはすかさず俺の体を馬乗りに乗った。

 

「離れる事は出来ないと言いましたよね?もうご主人様は私無しでは生きられ無いのです 」

 

「何でこんな事を……! 」

 

「決まっています。ご主人様の事を愛している他ありません 」

 

「は……? 」

 

いきなり愛していると言われて状況に似合わず顔を赤く染め、心臓の鼓動が止まらなくなった。

 

いきなり告白された……のか?この状況でどう反応すれば良いか分からず、とにかくベルファストとは顔を向けられずにいたが、ベルファストは俺の両頬を挟むように持ってはそのまま顔を無理やり合わせてきた。

 

「目を背けてはダメです。もっと私を見てください。そしてこの鎖の様に繋がり合いましょう 」

 

そう言ってベルファストはゆっくりと顔を近づていった。顔をそらそうにも顔は押さえつけられ、鎖で繋がれているから逃げる事さえできない。

 

「愛していますご主人様。海より深く、そして誰よりも…… 」

 

互いの吐息がかかる程近くなり、ゆっくりとベルファストが近くなる度に心臓の鼓動が早くなる。このままでは唇が重なってしまう。

人生で初のキスがこんな形になるなんて少し複雑だけど……もう逃れる事は出来ない。

 

あと少し、あとほんの少しだけの時間で唇が重なる時、それを壊すように突然部屋の窓ガラスが割れたと同時に、何者かが部屋に侵入した。

 

突然の出来事に流石のベルファストも一瞬動じたが、直ぐに俺を守るように体を向け、窓から侵入したKAN-SENに向けて武器を向けた。

 

割れたガラスの破片と共に現れたのは、黒いコートに白い軍帽を纏い、ベルファストとは違い銀色の髪をなびかせていた。

 

「エンター……プライズ? 」

 

「指揮官から離れてもらおう 」

 

エンタープライズは手持ちの弓を引き、ベルファストの喉元に突きつけたが、ベルファストも手に持っている小型の副砲をエンタープライズに突きつけていた。

 

2人ともそれ以上の動きは見せず、睨み合いが続いた。

 

「ご主人様は私から離れられませんし、今後も離れることもございません 」

 

「指揮官はお前の所有物では無い 」

 

睨み合いの均衡を破ったのはエンタープライズだった。ベルファストの小型副砲を跳ね除け、弓のアーチをまるで剣のように鎖を叩きるように振り下ろし、草は甲高い音と共に断ち切られ、俺はベルファストの束縛から逃れられた。

 

「逃げろ指揮官!今目の前にいる奴を倒し、貴方の傍でずっと守り続ける! 」

 

「それはこちらの台詞です。ご主人様の隣に相応しいのは私です! 」

 

「ちょ、ちょっと待て2人とも! 」

 

このままエンタープライズとベルファストが激突したらこの部屋どころかここの建物自体どうなるか分からない。すかさず俺は2人の間を遮るように割り込んだ。

 

すると2人はやはり攻撃をとめ、俺に困惑した目を向けた。

 

「な、何故止めるんだ指揮官!私は貴方の為にそいつを…… 」

 

「私も同意見でございます。危険ですのでそこをどいてください 」

 

「ここから退くわけには行かないし、それに俺の為って言うんなら今すぐ武器を下ろしてくれ 」

 

「……っ、指揮官がそう言うのなら 」

 

「ご主人様のご命令とあらば 」

 

2人は少し不本意ながらも武器を下ろし、艤装も解いてくれたが警戒は解いていなかった。もし相手が隙のひとつでも見せたらすぐ様に食らいつく獣の様に相手を睨み、俺もそれを止める為に気を張る。

 

だがこれでようやく話し合いに持ち込めた。意外と言ってみる物だな……だけど2人ともやっぱり目が怖くて正直内心はビクビクしている。

 

「なぁ、どうしたんだ。いくら機械が暴走して俺への好感度が上がっているからって、どうして他人を巻き込む様な事をしたんだ…… 」

 

「決まっている。指揮官の為だ 」

 

「私の行動の全てはご主人様の為です。それ以外ございません 」

 

「だからって赤城姉さんみたいにな事しなくても…… 」

 

「私がどうしたのかしら? 」

 

ふたりとは違う声と共に部屋の扉は蹴破られ、ドアはそのままこっちに倒れた来た。

 

そして、蹴破られたドアの向こうには今一番会うのがまずい3人の姉がいた……この瞬間悟った。あぁ、終わったなって。

 

「優海の気配を感じて来て見たら……優海にまとわりつく害虫が2匹もいるわね。さっさと駆除しないと優海が毒に侵されてしまうから 」

 

「害虫だと?バカをいうな。お前こそ指揮官の姉と言っているが、いつまで経っても指揮官にまとわりつくお前こそ害では無いのか 」

 

「亡霊風情がよく喋るわね。駆除じゃなくて除霊が必要かしら? 」

 

赤城姉さんに物申すようにエンタープライズも反論し、自体は更にヒートアップしていくのを感じた。だがそれは、とある1人の嘲笑によって更に加速した。

 

「ふっ……確かにこの腰巾着が害なのは認めるが、重桜には家族水入らずという言葉もある。ここは弟の優海を姉である私に差し出すのが筋というものだ 」

 

「誰が腰巾着ですって?対して優海の世話もしてなかったくせにバカを言わないで 」

 

「事実を言って何が悪い。それに私は過ごした時は短くても誰よりも優海と接した覚えがあるがな。なぁ?優海 」

 

「え?ま、まぁ確かに小さい頃結構遊んで貰った記憶はあるけど…… 」

 

「ほらな? 」

 

「それって貴方も腰巾着……いえ、いつまでもまとわりつく金魚のフンと言ってるのと同じじゃない!もしかして自分への戒めとして腰巾着って言ったのかしら? 」

 

「獣畜生がよく言う…… 」

 

「あら、やる気かしら? 」

 

土佐姉さんの嘲笑により今度は赤城姉さんと土佐姉さんが対立しそうだ。というかもうしている。赤城姉さんは式神を取り出し、土佐姉さんはいつ反撃が来てもいいように刀の柄に手を置いている。

 

2人の背後には黒い狐と白い獣が睨み合っているかのような迫力があり、もう止めることは難しそうだ。

 

「どうやらここは危険そうだ。指揮官、私の後ろに隠れてくれ 」

 

「皆様、ここは私のお部屋だと言うことをお忘れなく。もしここで戦闘行為を行うと言うのであれば武力行使で止めさせていただきます 」

 

まずい、エンタープライズとベルファストも痺れを切らして武器を取り出してきた。この艦隊で一二を争う程の力を持っている皆がこんな所で暴れられたら本当に終わりだ。

 

出来れば戦わないで事を沈めたい限りだけど、止める為の材料が無い。

 

「……いや、あるにはあるけど 」

 

俺のポケットには誓いの指輪がある。これを利用すれば……と一瞬考えたが逆に火種を燃え上がらせる要因になりかね無い。一か八かとこの指輪を使ってこの場を収めようとポケットに手を入れると、先に加賀姉さんが手を挙げ、皆は加賀姉さんに注目した。

 

「待て、ここで戦えばこの場所おろか優海を巻き込むぞ。お前達はそれで良いのか 」

 

「なら場所を変えよう 」

 

「私は今すぐにでも貴方達を燃やし尽くしたいのだけど 」

 

「そこでだ。今お前達が最も欲しいものを私は持っている。条件次第ではお前達に渡す事もやぶさかでは無いが…… 」

 

「ふん、私は相当簡単に物につられる様な」

 

「今なら優海の幼少期の写真や秘蔵の写真もあるぞ 」

 

「指揮官の幼少期の頃の写真だとっ……!?」

 

「ご主人様の……!? 」

 

加賀姉さんはこれみよがしに俺の小さい頃の写真を見せるとエンタープライズとベルファストは目の色を変えて小さい頃の写真を凝視した。

 

「あぁそうだ。遊びすぎて泥だらけの笑顔の写真や寝ている時の写真、はたまた入浴時の写真色々だ 」

 

「うん待って?何か変な写真入ってない?いつの間に撮ったの? 」

 

「秘密だ。さぁどうする?お前達にとってこれ程価値のある物はそうそう無いだろう 」

 

「適当にはぐらかされた!? 」

 

しかもよく見たら結構恥ずかしい写真まで入っているし……その写真見たせいで小さい頃の恥ずかしい思い出とかも蘇ったから思わず顔を隠してその場にうずくまってしまった。だけど騒動は止められているから何も言えないのがまた屈辱的というかなんと言うか……何ともいえなかった。

 

「ねぇ加賀?それ私も持ってない写真があるけど良かったら私にも見せてくれないかしら?あ、この頃の優海も可愛いわね…… 」

 

「おぉ、この頃って私が任務で出ていった時か…… 」

 

しかも赤城姉さんと土佐姉さんまで写真に食いつているし!まぁ土佐姉さんは分からなくも無いけど……って、あれ?今全員俺の写真に釘付けになっているから……これもしかしてこっそり逃げられるか?

 

丁度エンタープライズが窓ガラスを割って侵入したおかげで窓を開ける手間は省けたし……行ってみるか。

 

「おい!これは私が撮った物だ。いくら姉様や土佐に無条件で渡す訳には行かない。とにかく、これを渡して欲しければ優海をこっちに渡して近寄るな。お前達は写真の中の優海がお似合いだ 」

 

「ぐっ、卑怯な……! 」

 

「戦いに卑怯も何も無い。出ないとこの写真がどうなるかな? 」

 

こっそり窓に四つん這いで目立たずかつ音を立てずに移動しながら様子を見ると、加賀姉さんは青い炎を俺の写真の端ギリギリまで出していた。

 

「やめろ!指揮官に危害を加えるな! 」

 

(いや本人ここにいるんですけど……! )

 

と言ったら全部水の泡だ。心の中の叫びを押し殺し、ようやく窓際まで移動出来たから後はここから飛び降りて地上で上手く着地出来れば逃げられる筈だ。

 

「確かにその写真は魅力的ですがご主人様を渡すとなると話は別です。……後で極秘ルートで揃えておきましょうか。ところでご主人様は何処に行かれるというのですか? 」

 

ベルファストは後ろに目でも付いているように振り返りもせず後ろにいる俺にナイフを投げつけ、投げつけられたナイフはコートの裾に突き刺さった。

 

「嘘っ!? 」

 

「どうして逃げたりするのですか?離れないと言ったはずですよね? 」

 

「指揮官……なんで逃げるんだ?貴方が居ないと私は…… 」

 

「ほぅ?逃げようとするとはいい度胸だ。姉として教育しないとな? 」

 

「姉上の言う通りだ。逃げようとても私は何処までもお前と共に居るからな 」

 

「うふふふ、いけない子ね優海。これはお仕置ね 」

 

あぁ……これはもうダメだ。そう悟った俺は白旗をあげるかのように体の力が抜けてしまい、逃げる気力すら折れてしまった。

 

5人はゆっくりとこっちに近づき、そしていきなり糸が切れた人形の様に倒れて行った。

 

「あ……あれ? 」

 

「ふぅ〜何とか貞操の危機は防げたようだね〜 」

 

扉の向こうにはリフォルさんが小型の銃の様な物を持っている姿が映り、意外な人の登場に目を丸くした。

 

「り……リフォルさん? 」

 

「やぁ優海。助けに来たよ〜 」

 

言葉とは裏腹に気だるげな語尾に、しんどそうに体を曲げては重そうに銃を両手で持っていた。

 

「というか何ですかその銃!まさか……姉さん達をころ…… 」

 

「いやいやそんな事しないから〜これは麻酔銃。ちょっとだけ眠って貰っただけだから。皆優海に釘付けだったから楽に狙えたよ〜 」

 

確かに銃声はしなかったし、よく見ると5人とも寝息をたてて倒れている。どうやら命に別状はないらしい。

 

「良かった…… 」

 

「それじゃ行こうか 」

 

「行くって何処に……? 」

 

「今この島で1番安全な場所だよ。それに、そこには1番信頼出来る人もいるから 」

 

そう言われ、俺はリフォルさんについて行った。

 

そろそろ好感度増幅装置の影響が薄まる時間なのか、もしくはリフォルさんやジンさん達がKAN-SEN達を少しずつ眠らせて言ってるのか分からないが、KAN-SEN達の当たりは弱くなり、ここまでKAN-SEN達に出会う事は無かった。

 

今俺がいる場所は森が生い茂り、道という道が無いまさに樹海の様な場所だ。有り得ないと思うけど野生の動物が出てきそうな雰囲気だ。

 

「こんな所があったなんて知りませんでした 」

 

「ぜぇ……ここは……はぁ……未開発区域だから……まだ……皆には……はぁ……知られて……無いよ……あぁ、疲れた…… 」

 

「だ、大丈夫ですか? 」

 

まだ少ししか歩いていないのにリフォルさんがまるでフルマラソンを完走した陸上選手並の息切れを起こしていた。汗も滝のように流れ、リフォルさんのぶかぶかな白衣にもその汗が染み込んでいた。

 

「あ……あぢゅいしづかれた……優海〜おぶって〜! 」

 

「えぇ……まぁ、いいですけど。暑いならその白衣を脱げば 」

 

「それはダメ。これだけは絶対に脱がない 」

 

この時、リフォルさんがまるで別人の様に目が鋭くなった。驚いた俺はリフォルさんの事を怖がるような目をしていたのか、リフォルさんは我に返ったかのように直ぐに普段の気だるい目に戻した。

 

「あ……い、いやーこの白衣は大事な物だから。離したくないんだよ〜 」

 

「大事な物?それって…… 」

 

「これね、死んだお父さんの白衣なんだよ 」

 

「……ごめんなさい 」

 

「いいよいいよ〜それよりも早く早くおぶってよ。道案内はするし、これについても少し話してあげるから。ほらほら、はーやーく 」

 

「はいはい 」

 

仕方なくリフォルさんをおぶり、少しの坂道を歩いた。背負ったリフォルさんからは少しキツい機械の油や煤の匂いが鼻に付き、お世辞にも女性らしくは無かったけど、リフォルさんらしいとは思った。研究一筋で、誰よりも好きな事をやっている。そんな人の匂いだった。

 

「そういえば、どうしてリフォルさんは指揮官になろうとしたんですか?正直、あんまり指揮官を目指すような人には見えませんけど…… 」

 

「あぁ、それは親に言われたのもあるけど……大まかな理由はKAN-SENを一目見たかったのと研究のツテを手に入れる為。オセアンさんをちょこーっと言いくるめて晴れて今の地位を手にした訳〜 」

 

「あぁ……どうりで結構オセアンさんに話しかけてると思った 」

 

昔からリフォルさんはオセアンさんに話しかけていたのを見てはいたけど、そんな理由があったのか。まぁ確かに指揮官になるタイプには見えなかったし想像は出来る。

 

「それよりも私の話は聞かなくて良いの?あ、そこ右に曲がって 」

 

「うーん、確かに気になりはしますけど……しんみりしそうなので良いです。いつか話したい時に話してください 」

 

「相変わらずだね〜 」

 

坂道が少し急に傾き出した。リフォルさんを落とさないようにリフォルさんを浮かして姿勢を戻し、滑らないように足もしっかりと踏ん張る。生い茂った森から徐々に木々が減り、太陽の陽射しが見えてきた。

 

「あ、あそこだよ。それじゃあもう下ろしていいよ 」

 

「え、良いんですか? 」

 

「うん。私がいたら邪魔になりそうだしね 」

 

「邪魔に……?でも気をつけてくださいね。下りの方が山道は危険なので 」

 

「はいはーい。それじゃあね、優海。話はいつか話すから 」

 

リフォルさんは歩いて来た道を戻り、足を踏み外さないかドキドキしながら見送った。目が届かない距離まで見送り、ようやく森から抜け出すとそこには広い丘の平原が広がった。

 

初めて来た場所なのに見覚えのある場所だ。

 

「ここ、綾波と最初に出会った場所にそっくりだ 」

 

綾波と初めて出会い。俺の全てが始まった場所でもあるあの丘にそっくりの場所だけどあそこよりも広々としていた。見える海も地平線まで遠く見え、とてつもない開放感がある。懐かしながら丘を歩いていくと、丘の先に人影が見えた。栗色の髪に赤い着物を羽織った九尾の後ろ姿は間違いようが無かった。

 

「母さん! 」

 

そう叫ぶと母さんは後ろに振り返り、待っていたと言わんばかりに微笑んだ。

 

「あぁ、優海。無事だったのですね 」

 

「え?うん……まぁ何とか……てか母さんの方こそ大丈夫なの?皆見たいにその……変な事になったりとかは 」

 

「事情はリフォルさんから聞いています。ですが私自身は何もありません。恐らく、私が居た場所は研究室が爆発した所とは最も遠い所に居たので、影響も少ないと話していましたよ 」

 

「それは良かった〜!母さんも姉さん達みたいに襲いかかったらどうしようかと…… 」

 

「うーん、赤城に関してはあんまり変わってないように思えますけどね 」

 

「あぁ……うん、そうだね 」

 

ある意味変わってないけど行動に制限がついてない状態だから厄介なのは確かだけど。

 

「ここなら安全ですのでここで残り時間を過ごしましょう。逃げ回って疲れたでしょう。こっちに来て休みなさい 」

 

「そうするよ 」

 

母さんの近くまで歩き、母さんは事前に準備したのか麦茶の入った水筒やおにぎりの入ったビスケットを出した。

 

「はい、どうぞ 」

 

「ありがとう。こうしてみると何だかピクニックみたいだね 」

 

おにぎりを1口食べると中身は何とフィッシュアンドチップスが入っていた。おにぎりに揚げ物と驚いたけど結構いける。食べやすいサイズだしサクサクの衣がご飯が進む。唐揚げとご飯を一緒に食べるみたいでそんなに抵抗は無く、ペロリと食べられた。

 

「ん、美味しい!」

 

「ふふ、良かった。重桜以外の料理も振る舞えるように日々鍛錬してますから。どんどん食べてね 」

 

母さんの言葉に甘えてバスケットの中のおにぎりをどんどん手に取り、がっつくように食べ進んだ。これまで走り続けたからかなりお腹が空いたからどんどん食べられ、更に母さんの手料理は絶品だから飽きることも無い。絶妙な塩加減に沢山の具がどんどん入り、時には喉を詰まらせて慌ててお茶を飲んではまた食べる光景は、小さい頃を思い出した。

 

「あらあら、口元にご飯粒が付いてますよ。こういう所は直さないとダメですよ 」

 

母さんは口元に付いていたご飯粒を取り、そのまま食べた。

 

「あはは……ごめんなさい 」

 

「もう、指揮官なんだからきちんとしなさい 」

 

「で、でも執務とかはちゃんとしてるし 」

 

「関係ありません。人の上に立つ立場なのですからこういう細かい所もきちんとして初めて良い指揮官になるんですよ。悪い子は……こうします 」

 

「あいてっ 」

 

コツンと母さんは人差し指を俺の額にぶつけた。小さい頃はこうやってだらしない所は直しなさいと言われてはこうして額をぶつけられた物だ。本当に……凄く懐かしい。

 

「あはは、やっぱり母さんだ 」

 

「……母さん、ですか。優海、少しこっちに来て貰えますか? 」

 

「え?うん、良いけど 」

 

母さんさんの傍まで近づくと、母さんはじっと俺の顔を見つめた後、優しく俺を包むように抱いた。少し驚いて離れようとしたけど、そんな気持ちは直ぐに消えた。

 

10歳の冬。母さんは居なくなったのに、今こうして一緒に居るこの瞬間がまるで夢みたいだ。夢から覚めないで欲しいぐらい安心する暖かさに包まれ、ここまで逃げた疲れもあってか瞼が少し重くなった。

 

「昔はこんな風にお昼寝してましたね。風の音や葉のざわめきを聞き、陽の光を浴びながら縁側ですやすやと……ふふ、本当に変わってないですね 」

 

そう言って母さんは俺の頭を優しく撫でてくれた。

 

母さんだってこの優しい手つきは変わっていなかった。気持ちが良く、安心感に包まれた俺は更に瞼が重くなり、意識も眠りに落ちる寸前だった。

 

「眠っても良いんですよ?時間になれば昔のように起こしてあげます。……今日はお疲れ様でしたね 」

 

「うん……ありがとう、母さん 」

 

最後に母さんの微笑みを目に残し、ゆっくりと目を閉じた。

 

昔のように風の心地よさと陽の光の暖かさ、そして母さんの温もりを感じながら眠りについた。

 

「おやすみなさい。私の愛しい息子 」

 

心做しか、俺の額に何か柔らかくて潤いを持った物が触れた様な気がした。

 

 

 

「……ごめんなさい優海。私も他の方のように狂っているんです。だって、母親が息子を1人の男として恋愛感情を抱くなんて、狂ってる他無いでしょう? 」

 

 

 

___

 

__

 

_

 

 

数日が経ち、KAN-SENの暴動で破壊された施設の復旧はほとんど完了した。

 

KAN-SENの皆はあの時の事をほとんど覚えていないらしく、事情を話したら俺に深く謝罪した。

 

別に被害が大きいとは言えないし、負傷者も殆どいなかったから気にする事は無かった。謝るKAN-SEN達に俺は全面的に許し、いつも通りにしてと言うと、KAN-SEN達は負い目を感じながらも時間の経った今はいつも通りに接してくれた。

 

ただ、この騒動を起こした2人は例外だけどね。

 

「うぇぇ〜ん!私優海の事逃がしたじゃーん! 」

 

「か……堪忍にゃ…… 」

 

「ダメに決まっているでしょ。きっちりと始末書を書いて、その後も報告もしてもらうから 」

 

今回騒動を起こした原因はイタズラをしたアバークロンビー辺り達だけど、そこはフッド達に任せており、俺たちは明石とリフォルさんに責任を取らせている。

2人の横には大量の書類が山のように積まれ、リアさんの逆らえない圧に2人は縮こまりながら始末書を書いていた。

 

「大体貴方達が優海にちゃんと機械の報告をしたらこんなことにはならなかったのよ!今後は絶っっっっ対に報告する事!返事は!? 」

 

「は、はーい…… 」

 

「わ、わかったにゃ…… 」

 

「え、えーとリアさん。そろそろ止めた方が 」

 

「貴方も甘やかしすぎよ!リフォルから聞いたけど貴方も見て見ぬふりをしてたらしいわね?ん? 」

 

「あ……えーと…… 」

 

「全く、貴方は……」

 

リアさんはネージュさんに対しても怒っており、リアさんはネージュさんに説教を垂れていた。ああなってはリアさんを止められるのは多分ジンさん辺りだろう。何も出来ない俺はただひっそりと被害届の確認とその報告書を纏めるしかできなかった。どうか非力な俺を許してくれ、ネージュさん。

 

そしてそのジンさんはと言うと、この執務室のソファーで足を伸ばしてくつろいでいた。……体が包帯に巻かれてミイラ男になっているけど。

 

「そこまでにしとけよ〜な? 」

 

「貴方にも言いたい事はあるのよ!?艤装を付けたKAN-SEN達に立ち向かったせいで貴方本来は全治2ヶ月はかかる怪我なのに2週間で済ませるように手配してるんだから早く安静しなさいよ! 」

 

「いやーすまねぇな 」

 

ジンさん本人は笑っているけど本気のKAN-SENに立ち向かって生きている所か全治2週間ってヤバくないか……?リアさんが手配しているからって2週間程度で済ませるのは本人の自然治癒力も必要だから、本当にジンさんが人間なのか疑ってしまう……。

 

「リアってやっぱりジンには甘いよね 」

 

「貴方は黙って始末書を書きなさい 」

 

「ほーい…… 」

 

リフォルさんは始末書を描き続け、ジンさんのおかげでネージュさんはリアさんの説教から逃れてこっちに来た。

 

「優海さん、大変でしたね…… 」

 

「あはは……まぁ、こんな変わった日常があっても良いんじゃないですかね 」

 

笑って、怒って、時にハチャメチャで、楽しい日常。ここではそんなちょっと変わった日常が続いている。そしてここ以外にも人類が住んでいる所にもそんな日常がある。

 

そんな変わらない日常を守る為に、俺達は今日もこの蒼い海の上で戦い続ける。

 

それが、アズールレーンなのだから。

どのテネリタスが好き?

  • ロリママ創造者の2代目 ラハム
  • 人類最強の天然3代目 アトラト
  • 食いしん坊な絶対守護者4代目 シーア
  • 武士道と極める騎士5代目 ロドン
  • 風のように自由なガンマン6代目 セイド
  • 完璧で究極のアイドル7代目 マリン
  • おっとり包容力で全知全能の8代目 ミーア
  • 元人間のセイレーン 10代目マーレ
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