もしもアニメのアズールレーンに指揮官が出てきたら〜2nd season 海上の誓い〜   作:白だし茶漬け

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メイドの嫉妬

 

 連合演習も2日目。

 今日も今日とてKAN-SENたちの勇姿を楽しみにしているギャラリー達で島は溢れかえっており、それに応えるように、演習に参加する代表のKAN-SEN達も気合いが入っている。

 

 そんな中、俺は島の高台にある建物の特別室にてそれを眺めるようにして見ており、今回の演習もここから見る予定だ。

 

 赤いカーペットに宿泊施設の様な設備やベット。ここで一日どころかいつまでも過ごせるぐらいだ。

 眺めも良いし、部屋も広い。本当にここに住もうかな? 

 

 まぁそれはさておき、今回の目玉はユニオンのエンタープライズが率いるチームと、ロイヤルのエリザベスが率いるチームの演習だ。

 アズールレーンの中でも一二を争う陣営同士の戦いは、見逃す理由なんて無かった。

 

「覚悟しなさい! 我がロイヤルの勇者達が、貴方達を完膚なきまでに倒してあげるわ!」

 

「悪いが、指揮官が見ているんだ。無様に負けるつもりは無い」

 

 相手が相手だからかどっちもやる気満々だ。

 エリザベスのチームにはウォースパイトとフッド、前線にはシラ、ダイドー、シリアスという、ダイドー級で前線を固めていた。

 恐らく、主力が全て戦艦だから対空能力の高い奴を選んだのだろう。

 

 そしてエンタープライズのチームには、ホーネットとヨークタウン、前線にはクリーブランド、ボルチモア、サンディエゴだ。全体的に見ればかなりバランスが取れており、火力中心に編成されている。

 こういうのも何だが、ジンさん好みの編成だ。

 

 いよいよ演習が始まる数分前で、部屋の扉からノックが聞こえる。どうぞと声をかけると扉が開けられ、そこにはベルファストがクラッシクで高級感のあるメイドワゴンを持って現れた。

 

 そのメイドワゴンの台には紅茶の入ったポットやティーカップと、料理が盛られた皿があった。

 

「ご主人様、お料理をお持ち致しました」

 

「ありがとうベルファスト。わざわざ運ばなくても良かったのに」

 

「いえ、ご主人様に尽くすのがメイドの本分ですので」

 

「自分のやりたい事やってもいいのに」

 

「これが私のやりたいことですので」

 

 相変わらずストイックだなと思いつつも、ベルファストは料理を机の上に置いた。ベルファストが持ってきた料理は意外なことに、唐揚げだった。

 

 唐揚げがある皿には更にロイヤルの魚料理が入っており、一つの皿に重桜とロイヤルの料理が合わさった光景が広がった。

 

 しかし唐揚げ……ここは白米が欲しいなと期待しながらベルファストをちらりと見た。

 

「ご安心下さい。ライスもご用意していますよ」

 

「やった! やっぱり唐揚げには白米がなくっちゃ!」

 

 早速ベルファストがどこからかホカホカの白米を用意し、これで準備は整った。後は箸があれば今すぐにでも食べたいけど、その箸が無かった。

 どこだどこだと探すと、ベルファストが持っており、するとベルファストが唐揚げを一つ箸で掴むと、俺の口元まで持ってきた。

 

「はい、ご主人様。あーんして下さい」

 

「べ、ベルファスト。子供じゃないんだから、自分一人でも食べれるよ」

 

 綺麗なメイドさんにあーんして貰うのは嬉しいちゃ嬉しいけど、何だか子供扱いされてるようでむしろ怒る気分になる。

 

 箸を取ろうとベルファストの手に腕を伸ばすと、ベルファストは箸を取られない様に箸を引き下げ、箸を返さず、自分のペースを保っていた。

 

「これが私のやりたい事です。それに、子供扱いを嫌う所が子供っぽいと思いますよ?」

 

「ぐぬぬ……」

 

「さぁ、お口を開けてください」

 

 何を言ってもベルファストは折れないと考え、諦めて口を開けてベルファストに唐揚げを食べさせられた。

 口の中に入れた瞬間、鶏の旨みと衣の香ばしさが口に広がり、噛む度に鶏の甘い肉汁がジュワッと弾ける。

 

 そして、ザクザクと心地よい噛み心地が更に食欲をかきたたせ、これ以上無い最高の唐揚げだった。

 

「如何ですか?」

 

「美味しいけど、やっぱり自分で食べたい」

 

「ご主人様は私のやりたい事を無くすおつもりですか?」

 

「そう言われると何も言えないんだけど……」

 

 諦めてベルファストのペースで食事が進み、ベルファストは満足そうに俺に料理を食べさせ続けた。まるで餌付けをされてる様な絵面で何だか落ち着かないが、ベルファスト自身は満足そうな笑みを浮かべていた。

 

 いつも余裕の笑みを持っているベルファストだけど、この時はまるでそんな余裕の笑みではなく、本心からの笑みを浮かべおり、それを見ると何だかこの行動を受け入れてしまい、また一つご飯を食べさせられる。

 

「ところで、ご主人様はどちらの応援されますか? 閣下のチームか、それとも……」

 

 ベルファストが口を俺の耳に近づけ、囁いた。

 

「夜のお相手をしたエンタープライズ様のチームですか?」

 

「んぐっ!?」

 

 思わず食べていた唐揚げが喉につまり、急いでコップに注がれた水を全て飲み干し、喉に詰まった物を流し込み、大きく息を吸って止まった息を甦らせる。

 

「よ、夜の相手って……どど、どういう意味!?」

 

「前の日、エンタープライズ様のお部屋にご主人様が入っていったのを見たので。その反応……まさかエンタープライズ様と……」

 

「な、何もやってないから!」

 

「左様ですか。それは失礼しました」

 

 ベルファストはまるで何事も無かったかのようにまた俺にご飯を食べさせ続け、何とか食事は終わった。

 本当に美味しいから後半辺りは抵抗もせずに食べ続けたからか演習が終わる前に食べ終え、演習も終盤に差し掛かっていた。

 

「どっちを応援してるかの話ってまだだっけ?」

 

「はい。ご主人様はどのチームを応援しているのかと」

 

「俺は皆を応援してるよ。このチームが1番とか、そんなのは無いよ」

 

 第一、確かにこの演習では勝ち負けはあるけどそこには優劣は無い。

 勝っても負けても、全力で戦って悔いが残らなければ俺はそれこそ勝利だと思ってる。

 

 モニターに映ってる皆も、自分の全力をだしきっており、決着はつきそうだった。

 

 艦載機を手足のように動かし、雨のような対空砲を避け続け、一気に敵の本陣へと駆け巡り、旗艦であるエリザベスに武器を向けた。

 

「チェックメイト……と言うべきか?」

 

「ぐっぬぬ……! 舐めないでよね!」

 

 エリザベスは負けん気に主砲をエンタープライズに向けて発砲したが、エンタープライズはその主砲を避けた。

 超至近距離の砲撃を交わしたエンタープライズも凄いが、怖気つかずに砲撃したエリザベスの度胸も凄い物だ。下手をすれば自分すらも巻き込みかねないと言うのに、意外と泥臭い所もあって意外だった。

 

 だが、決着は着く。至近距離の砲撃を交わしたエンタープライズはその行動に敬意を表すように笑い、弓を引いた。

 

『そこまで! ロイヤルチームの全滅により、ユニオンチームの勝利にゃ!』

 

 ロイヤルチームが全員大破した為、ユニオンチームの勝利となった。エリザベスは負けた事を相当悔しがっているが、最後はエンタープライズと手を取り合い、彼女達は相手の奮闘に敬意を表した。

 

「素晴らしい戦いでしたね、ご主人様」

 

「うん。これは負けてられないね。そうだ、これ確か録画してるよね? ちょっとリモコンをっと……」

 

 録画していた演習の状況を止めたり、巻き戻したりを繰り返し、端末でさっきの戦いの事をメモして次の演習に備える。

 

 戦いにおいて、情報は最も強い武器になる。情報を制する物は、戦いさえも制すると言われている。現に、この演習に置いてはチームが決められているから、戦い方や戦法、そして人選が分かっていると言うのは凄まじいアドバンテージだ。これを逃す手なんて、無い。

 

 まぁ、次の相手はエンタープライズでも無ければエリザベスのチームでも無いんだけど。だけど後々役に立つのは間違いない。何故なら、どうであれ最終的に戦うことになるのだから。

 

「ご主人様。確か次の演習相手はエセックス様が旗艦のチームですよね?」

 

「うん。だけどエセックスはエンタープライズの事かなり尊敬しているから、戦い方が似てるんだよ。今の演習でなんかヒントにならないかなって」

 

 そう思いつつ、エンタープライズの戦い方を繰り返し見ているけど、見れば見る程有り得ない動きをしていた。

 

 自分が出している艦載機とはいえ、飛び石のように空中で飛んでいる艦載機に飛び移って進軍と回避を両立させており、この前の演習で同じ空母相手にこの動きを使って3次元的な戦い方を駆使し、相手を完封している。

 

 ……いや待って? 飛んでいる艦載機に飛び移るって自分で言ってるけど、これ相当凄いからね? 

 まず第一に、艦載機も物凄いスピードで飛んでいるんだ。そこから飛び移るともなると、必ずそれに追いつける以上のスピードのジャンプが必要になる。

 

 もしそのスピードに達せなかったら艦載機に置いていかれるどころか後ろの艦載機に激突する恐れもある。つまり、エンタープライズの跳躍は一瞬だけど艦載機を超える速度になっている事に……うん、流石KAN-SENって言っておこう。とても真似できるものじゃない。

 

 これ、エンタープライズじゃないと出来ない芸当だろと心の中で呟きながら、何とか突破口を見つけ出したい所だけど……うーん、分からない。

 

「流石エンタープライズ様、手強そうですね」

 

「うん。まぁ、目の前の課題はエセックス達だけどねぇ……」

 

 エンタープライズの対策はさておき、次はエセックス達の演習も見てみる。エセックス達の編成はかなり独特だが、個々の能力でその独自性が長所となっている。

 

 まず、前線の編成がハムマン、ラフィー、そしてエルドリッジの駆逐艦で編成されており、主力がエセックスとイントレピッド……そして最後はと言うと……

 

「しっきかーん!!」

 

 勢い良く個室の扉が開かれ、それと同時に元気な声も飛び出し、俺の耳に入った。

 

 その声の主は長い青髪の長髪に、兎のように長いヘッドパーツを付けており、体のラインが強調されているタイツの様な服装の上に、丈の短いスーツと白いロングコートを羽織っていた。

 

「ニュージャージー? どうしてここに来たんだ?」

 

 彼女の名前はニュージャージー。ユニオンのアイオワ級の戦艦であり、ユニオンの中で最強の一角だ。

 

 性能だけで言えば、あのエンタープライズをも凌ぐ程の実力であり、エセックス達のチームの旗艦でもある。そんな彼女がどうしてここに来たのだろうか? 

 

「んー? だって私明日の演習、指揮官のチームとやるでしょ? いわゆる宣戦布告? それとも、果たし状を出しに来た? って言えばいいのかな? 指揮官、こういうの好きでしょ?」

 

 ニュージャージーの口癖が炸裂した所だけど、こういう果たし合いを出す出されるの場面は好き嫌いは無い。

 まぁ、アニメとか時代劇とかで戦う場所を決めてそこで熱い闘いをするっていうシチュエーションは好きだけど、これはちょっと違うような気がする……。

 

 苦笑いを浮かべているとニュージャージーはあまりに気にせずに会話を続けていると、ベルファストの方に目を向き、今ベルファストが居ることに気づいたようだ。

 

「あれ? ロイヤルのメイドさんじゃん。もしかして私、お邪魔だった?」

 

「邪魔? なんで?」

 

「だって、主人とメイドの秘密の関係ってあるじゃん? ふふ、指揮官だけじゃなくて、殆どの男の子が好きそうな場面だね。んー、私もメイドになって指揮官に秘密のご奉仕しちゃうかな? 指揮官もそういうの好きでしょ?」

 

「秘密の奉仕? なにそれ」

 

 ニュージャージーがメイド……何だか想像付かないけど、案外やってみたらしっくり来るかもしれない。ニュージャージーは意外と面倒見が良いし。

 

 でも秘密のご奉仕って言うのがどんなものかは知らずそれを聞こうとした途端、ベルファストが急に俺がさっき食べ終えた皿を割れそうな勢いで強くメイドワゴンに叩きつけ、そこから出た金属同士のぶつかる音に俺とニュージャージーはベルファストの方に意識を向けた。

 

「……失礼しました。お気を散らしてしまい申し訳ございません」

 

 いつも通りベルファストは何食わぬ顔で謝罪してたけど、その顔から何故か有無を言わさない圧が滲み出ていた。

 

「ベ、ベルファスト? なんか怒ってる?」

 

「怒る? 何故私が怒るのでしょうか?」

 

 いや本当に怖すぎる。言葉の1文字1文字に圧があり、思わず背筋を伸ばし、体が震えてしまう。何かベルファストに嫌な事でもしたのだろうか? 

 

 ベルファストに聞きたいけどこの状況で聞けるほどの度胸は無い。というか逃げたい。何だか変にお腹が痛くなり、変な汗も出てしまう。

 

 こうなったらニュージャージーに助けを求めようと彼女に目を配ったが、ニュージャージーは気づかず、逆にベルファストの方を見ていた。

 するとニュージャージーは何かを悟ったのか、ニヤリと笑った。

 

「ふーん、完璧メイドさんもそんな顔するんだね〜」

 

「なにかご不都合でも?」

 

「いいや〜? ちょっと意外だなって思っただけ〜」

 

 するとニュージャージーはいきなり俺に抱きつき、少し激しめのスキンシップをベルファストの前だと言うのにした。

 

「指揮官、こういう風にくっ付くの好きでしょ?」

 

「ニュ、ニュージャージー!? 今は良いから!」

 

「え〜指揮官、受け入れるのに〜」

 

「状況を考えて!? ほら、ベルファストが居るから……もう」

 

「別に私は問題ありませんよ? 私には 全く 関係ないので

 

 いつも通りの声色でいつも通りの笑顔なのに押し潰される程の怒りを感じる。思わずアワアワと情けなく声が漏れ、同時に涙が溢れてしまう。

 ベルファストがそのまま空の皿を持って部屋から出ていこうとすると、そこで立ち止まった。

 

「……ご主人様、差し支え無ければ次の演習、私を使ってくださいませんか?」

 

「はい! よろこんで!」

 

 

 

 

 

 

 

 

「っと、いう事があったんだ」

 

「さ、災難でしたね指揮官……」

 

「うん。なんで怒ってたんだろベルファスト……」

 

 あれから数時間後、外にあるベンチで島風と駿河と出会ってこれまでの事を話した。もう思い出しただけで泣きそう。というか泣く。

 

 だけど事の経緯を聞いた駿河が何故か苦い顔をしており、顔で何かを訴えかけようとしていた。

 どうしたのと声をかけようとした途端、俺の表情を見るな否や駿河は顔をキリッとさせ、1つ咳き込んで演習の相手について話した。

 

「しかしあのユニオン最強のブラック・ドラゴンのニュージャージーが相手……どうするんですか? 指揮官」

 

 どうやら駿河もこの前の演習を見たのか、ニュージャージーの強さを危惧していた。

 

「同じ戦艦から見て、駿河はニュージャージーの強さをどう思う?」

 

「……別格、と言ってもいいですね。火力、走行、速力、更には対空能力まである。はっきり言って、勝つ要素が無いですね」

 

 やはり大方予想通りの答えが返ってきたな……。駿河の言う通り、ニュージャージーに弱点らしい弱点は存在しない。

 

 ここはニュージャージーとの戦闘は避け、時間切れによる被害率の少なさで勝利するのが定石だとは思うけど……それを許してくれる相手だとは思えない。

 

 よく考えてみると良い編成だな〜。参考にしてみようかなと思いつつも、頭の中で数々の戦法を提示しては、自分で査定して問題点を見つけ、また新たな攻略法を探し出す。

 

 空中戦を挑む? いや、ニュージャージーの対空能力の高さとエセックスとイントレピッドがいる。無闇やたらな空中戦は逆に危険だ。だとすれば、戦い方はこれしかない。

 

「よし、空中戦は捨てよう」

 

「つまり、空母を編成しないと?」

 

「そういう事。だけど、対空はしっかりしたいから。前線はあと1人対空が得意な子が良いかな。そして主力は戦艦のみ。これで行こうとは思うけど、何か質問とかあるかな?」

 

「はい! 指揮官先生!」

 

「はい、島風君」

 

 まるで先生と生徒の様なやり取りをし、島風は指揮官先生の俺に説明した。

 

「空中戦は捨てると仰いましたが、具体的には何をすれば良いでしょうか?」

 

「お、いい質問だね。今回の作戦はニュージャージーをどうするかが鍵になる。そこで、今回は機動力に賭けてみようと思う」

 

「機動力……ですか?」

 

「いくら最強の戦艦と言っても、本質は戦艦だ。戦艦の弱点を機動力で狙う」

 

 分かりやすく俺は端末を2人に見せ、ニュージャージーの艤装と、島風の艤装を見比べた。

 

「見て、駆逐艦の艤装と戦艦の艤装を合わせると、その差は2倍以上の大きさがある。つまり、どうしても被弾の多さは避けられない。これが戦艦の弱点だ」

 

「ですが、ニュージャージーは装甲も完璧ですよ?」

 

「うん。だからニュージャージーとの接敵はなるべく避けて、それ以外の相手を倒して、そこから集中砲火する数のごり押し戦法で行こうと思う」

 

 というか現状誘えるKAN-SENの能力からしてこれぐらいしか出来ないのがニュージャージーの強さを裏付けている。流石はユニオン最強の一角というべきか……

 

「それで、今回の編成はどうするのですか? 島風達がぴゅーっと連れて来ますよ!」

 

「わ、私も!?」

 

「そう? じゃあ主力艦は全員重桜だから頼めるかな? こっちはあと一人を探すから。この2人を探してきて欲しいんだ。多分、一緒にいると思うから」

 

「ふむふむ、なるほど! では、島風達は行ってきます! ささ、駿河殿も!」

 

「あぁ! 分かってるから引っ張らない!」

 

 島風と駿河は仲良く俺が言った2人を探して離れていった。さて、こっちもこっちで1人を探さなければならない。

 

 彼女はベルファストと同じロイヤルメイドだから、人が集まる場所に行けば居るはずだ。早速人が集まる場所、パーティ会場や偉い人が集まっている会議室をこっそりと見たりなどしたけど……

 

 なんということでしょう。見つからなかった。今日はここに居ないのかと考えたけど、今朝見たからこの島にいるのは間違いない。

 だけど探せど探せども見つからず、途方に暮れていたその時、後ろから右肩をトントンと叩かれ、後ろに振り向いたその瞬間、彼女の細くて綺麗な指に頬をつつかれた。

 

「私をお探しでしょうか? ご主人様」

 

 彼女は引っかかった俺に小悪魔の様に笑っていた。

 

「ふにゅ。シラ、探したんだよ」

 

 俺の頬を突っつき、そして俺が探していた長い白髪でメイド服を着たKAN-SEN、シラだ。

 

 彼女はロイヤルメイドでダイドーやシリアスと同じダイドー級のKAN-SENであり、比較的最近配属されたKAN-SENだ。

 

 そう、ダイドー級である。巷ではダイドー級はまぁ、なんというか面子が濃いとか言われているけど、シラはそんな事……ないと思う。

 

「ふふ、ご主人様が私を探すお姿は可愛かったですよ」

 

「そう? ……って、ずっと見ていたの!? もう、居たんなら言えばいいのに」

 

 こんな風に俺を揶揄い癖があり、こう一癖あるのがダイドー級らしいと言えばらしいと感じてしまう。

 

「って、そうだ。シラ、少し話があるんだけど……」

 

「察するに私を特別チームに編成したい事でしょうか?」

 

「うん。どうしてもシラの力が必要なんだ。……頼めるかな?」

 

「まぁ、私がいないとダメだなんて……ふふふ……」

 

「し……シラ?」

 

「あっ、ごめんなさいご主人様。勿論、ロイヤルメイドのシラは、ご主人様の為にこの力を振るいますわ」

 

 何故かシラが少し怖い笑顔をしているけど、話を聞く限りではどうやら特別チームに入ってくれるそうだ。

 シラは対空も得意なんだけど、その他にも弾幕も張れるのが良い。次の演習では間違いなく活躍してくれるだろう。

 

 これで前線のメンバーは揃った。あとは島風達があの2人を見つければ、準備は完了だ。

 

「ところでご主人様、後ろにいるメイド長はどうされたのでしょうか?」

 

「後ろ?」

 

 シラに言われて後ろを振り返ると……そこには太陽を背にしたベルファストが笑顔で立っていた。

 

 俺は後ろに急に置かれたきゅうりにびっくりする猫のように髪の毛を逆立てながら無言でシラの方に飛び出し、シラの胸に飛び込む形になってしまった。うっかり手がシラの胸に吸い付くようにして掴んでしまった。

 

「あん、ご主人様は大胆ですね」

 

「ご、ごごごごごめん!」

 

 わざとじゃないけど不慮な事故というのは変わりないので、シラに謝りながら手を胸から離そうとするも、シラが俺の手首を掴んで離さず、俺の手はシラの弾力ある手を掴んだままになってしまった。

 

「ご主人様……そのような行為は時と場合を考えてしてください」

 

「ご、誤解だよ!!」

 

 頬を染めるシラと、じっと目を細めて系熱しているベルファストに囲まれながらも、なんとか前線のメンバーは空った。だがその代わり、俺の心は海の底に沈むような悲しみにおぼれた。

 

「おやおや、どうやら指揮官はお楽しみの様だ」

 

 少し低めのトーンでマスク越しの声に振り返ると、そこにはくノ一の様な格好と、ロイヤルと思わせるような英国風の服を身にまとった重桜のKAN-SEN、金剛と霧島がいた。

 

 その近くには島風と駿河がおり、どうやら2人とも無事に金剛と霧島を見つけてきたようだ。そう、金剛と霧島こそ、俺が探していたKAN-SENなのだ。

 

「それにしても指揮官は意外と大胆だな。白昼堂々、メイドの胸を……」

 

「い、いやいや! わざとじゃないんだよ」

 

 残像ができるほど激しく首を横に振って否定する姿を見て金剛と霧島は軽蔑するどころか面白おかしく笑っていた。

 

「ふふ、心配せずとも分かっていますわ。指揮官はそんな行動は出来ないと分かっていますから」

 

「な、なんか悪口言われてる様な気がするんだけど」

 

「気の所為ですわ。それよりも指揮官、私と霧島が必要だと駿河達から聞きましたが」

 

「あぁ、うん。2人には是非とも今度の特別チームに入って貰いたなぁって」

 

「へぇ、私達が必要なんだ。相手はあのブラックドラゴンって言われてるニュージャージーだぞ? 勝算はあるのかい?」

 

「まぁ、一応ね」

 

 それでも、勝率は五分……いや、ギリギリ届かないかもしれない。でも、だからといってこのまま負けるつもりも微塵も無い。弱気は飲み込んで誰にも言わず、ひっそりと無くして顔を上げる。

 

「じゃあ、早速作戦会議を始めようか。打倒ユニオン、目指せ勝利! てね」

 

「おー! 島風も勝利に向けて全力で行きます!」

 

「お、元気が良い新米だね。これは私達も気合いを入れないとな、金剛」

 

「あら霧島、勘違いをしていますね。どんな時でも勝利は絶対よ」

 

 皆の士気は高まっており、この様子なら次の戦闘でも問題なさそうだ。あるとすれば……俺の指揮が通用するかどうかにかかっている。

 

「ご主人様? どうかなされましたか?」

 

「え? あ、いや。なんでもない」

 

 この士気を下げる訳にはいかず、弱音を隠した。そんな弱音を隠しながら作戦会議は続き、連携や作戦の練り直しを繰り返していくと、いつの間にかニュージャージーのチームとの演習は明日になっていた。

 

「違う……違う、ううん……これならどうだ! いやダメだ。これだとエセックス達に隙をみせちゃう。あぁ! 味方だと頼もしいけど敵だと厄介すぎるー!!」

 

 部屋の中で今まで考えた戦術が書かれた紙を空中に放り投げ、むしゃくしゃする気持ちをソファーにぶつける様に座り、そのまま寝転んだ。

 

 なんか今までで1番戦術に悩んでいるような気がする。考えても考えても上から抑え込まれるように戦術が否定され、正解の道が閉ざされていく様にも感じられた。

 

 そもそも戦術には正解というものは無い。今ある状況や戦力によって、最も効果的に盤面をこちら側に引き込むかという点が戦術の最適解であり、絶対的な正解は無い。

 

 だが、戦闘は必ず『変数』という予想だにしない事が多々あるものだ。だから戦術は1つでは無く、2つ3つ、ましてや数え切れない程用意しなければならない。

 だが、今回は別格すぎる。用意した戦術で勝てる未来が見えず、どうしたものかと上の空になってしまった。

 

 そんな時、部屋のドアからコンコンとノックがした。

 

 どうぞと一声かけ、扉が開けられると天城母さんがトレーで何かを持ちながら出てきた。

 

「失礼します。優海、お夜食を持ってきましたよ」

 

「母さん? どうして……」

 

 どうしてここに来たのか、よりも何でまだ起きているのかと尋ねた。今はもう深夜なのに、俺が起きている確証は無いはずだ。

 

「母ですから。どうせ根を詰めていると思ったまでです」

 

「敵わないなぁ」

 

「息子の事なら何でも分かるつもりです。さぁ、温かいスープですよ」

 

「へぇ、珍しいね」

 

 母さんがいつも作るのは重桜食だけど、今回は違った。大きめだが底が浅い皿に盛り付けられたスープには、ラム肉にたっぷりの野菜とコンソメのいい匂いが立ち上っていた。

 

 これは……ロイヤルの料理であるスコッチブロスだろうか。だけど、かなりのアレンジが加えられている。例えば本来スコッチブロスで使われる肉はラム肉。つまりは羊だけど、これは豚肉が使われており、使われてる野菜も重桜で一般的に使われているものばかりだ。まるでこれは……言うなればロイヤル風豚汁と言うべきか。

 

 とにかく1口食べると、直ぐにコンソメが他とは一味違う事がわかった。このコンソメには隠し味として味噌が使われており、見事ロイヤルと重桜の食を融合させている。

 

「美味しい!」

 

 舌が火傷しないちょうどいい温かさと、野菜がしんなりと茹でられているから小腹が空いた夜食に最適だった。だが、食べ進めている内に違和感というものがあり、俺は母さんに訪ねてみた。

 

「……ねぇ、これ本当に母さんが作ったもの?」

 

 いつも食べている母さんの料理と少し違っていた。ロイヤル食と重桜食では作り方や味がまるっきり違うことはわかっているけど、これはそんなものでは無い。

 

「どうしてそう思うのですか?」

 

「いや、なんと無くそう思っただけ。何だが……ベルファストが作った料理の味だなって」

 

 この完璧な盛り付けと、寸分狂いの無いような味付けは完璧主義であるベルファストの味付けそのものだった。すると母さんは一瞬目を丸くし、扉の方に目を向けるとそのまま小さく笑った。

 

「ふふ、ちゃんとKAN-SEN達の事を見ているのですね」

 

「???」

 

「その通り。その料理はベルファストさんが作ったものです。彼女に言われて、この料理を持ってきたのです」

 

「やっぱりね。でも、何で母さんが?」

 

「ベルファストさんから頼まれたのですよ。根を詰めすぎないように。との事です」

 

「そうだったんだ……直接言えばいいのに」

 

「恐らく、母である私から言えば貴方は言う事を聞いてくれると思ったのでしょう」

 

「なるほど、ベルファストがやりそうな事だね」

 

「……優海、ちょっと良いですか?」

 

「ん?」

 

 急に母さんがニヤニヤしながらこっちを見てきた。何だが楽しそうな母さんは珍しいと思い、母さん話を聞いた。

 

「ベルファストさんとはどういう関係ですか?」

 

「ベルファストとの関係? うーん、指揮官と……メイドさん?」

 

 深く考えた事無いから、あまり分からない。友達……という間柄でも無いし。言われてみればよく分からない関係だった。

 

「では、ベルファストさんの事をどう思っているのですか?」

 

「どうって。うーん……」

 

 瞳を閉じて、ベルファストの顔を思い出し、これまでの出来事を振り返る。最初はなんというか、不思議なKAN-SENだった覚えがある。

 まるで全てを見通すかのような瞳に、完璧な立ち振る舞いに、完璧な奉仕。誰もが羨む完璧な人。というのがベルファストの印象だ。

 

「なんかすごい完璧で羨ましいって思ってる」

 

「あぁ……うーん、そういう事では無いのですよ。もっとこう……ううん」

 

 何故か母さんが今度は困った顔をし、埒が明かないと言った顔だった。

 俺の頭はもう疑問で浮かんだが、母さんはこの話はやめましょうと言わんばかりに手を叩き、ある助言をした。

 

「そうだ。優海、貴方今度の戦術に困っているようですね」

 

「うん。何か無いかなってずっと模索しているよ」

 

「優海、確かに勝ちに拘るのは指揮官として正しいです。ですが、貴方には指揮官としてまだ足りないところがあります」

 

「大事なところ?」

 

「負けを知る事です」

 

「負け? どういうこと?」

 

「確かに指揮官として、その戦闘に勝利する事に越した事はありません。ですが、この先強大な敵を前に皆さんが為す術なく敗れる事が必ず起きます」

 

 確かに……いずれマーレさん達テネリタスと戦う事になれば、負けはあるかもしれない。

 

「そこで、どう負け戦にするかも指揮官としては重要な役目です。勝ち戦よりも負け戦をさせる方が難しいです。貴方はこれまで、自分の指揮で負けた事はありません。KAN-SEN達……皆さんを守る為に負け戦にする事も、指揮官として大事な役目です」

 

「守る為に、負け戦を……する」

 

「ですが何も負けるつもりで挑むと言っている訳ではありません。そのような判断も大事だと、胸に刻んでください」

 

 すると母さんは食べ終えた料理を片付け、それを持って立ち上がった。

 

「では私はこれで失礼します。もう遅いので、早く寝てくださいね」

 

「うん。分かったよ」

 

 もう作戦を見ないように全ての戦術が書かれた紙を裏返したり、タブレットの電源を落としてもう見れないようにした。それを見た母さんは安心して笑顔を浮かべ、そのまま部屋から出た。

 

「あ、そうそう優海。赤飯はいつでも準備してますから、良い人が入れば紹介して下さいね」

 

「?????」

 

 そう言って母さんは今度こそ部屋から出た。何だったんだと思い、腕をのばして大きく欠伸をすると、急に眠気が襲ってきた。ソファーで寝てしまいたい欲を抑え、隣の部屋のベッドに行き、俺はそのまま泥のように眠った。

 

「明日寝坊しませんように……」

 

 朝の自分に言い聞かせるように、俺は深く眠った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「天城様、この度は私の我儘を聞いていただき、ありがとうございます」

 

「いえいえ、こちらこそ優海を支え続けて頂きありがとうございます。どうかこれからも優海の事をよろしくお願いします」

 

「はい。承知致しました」

 

「……ところで、優海の事はどう思ってますか?」

 

「とても深くお慕いしております」

 

「優海は朴念仁なので、言葉にしないと伝わりませんよ」

 

「……肝に命じておきます」

 

どのテネリタスが好き?

  • ロリママ創造者の2代目 ラハム
  • 人類最強の天然3代目 アトラト
  • 食いしん坊な絶対守護者4代目 シーア
  • 武士道と極める騎士5代目 ロドン
  • 風のように自由なガンマン6代目 セイド
  • 完璧で究極のアイドル7代目 マリン
  • おっとり包容力で全知全能の8代目 ミーア
  • 元人間のセイレーン 10代目マーレ
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