もしもアニメのアズールレーンに指揮官が出てきたら〜2nd season 海上の誓い〜   作:白だし茶漬け

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母を越えろ

 

「うーん……参ったなぁ」

 

用意された自室の中で、島風と駿河と一緒に悩み声を上げていた。

 

連合演習も5日目に差し掛かり、今までで最も苦しい演習が迫っていた。

 

恐らく俺が思う中で最も強いチームであろう相手に、編成の時点で俺は悩んでいた。

 

俺達の次の対戦相手は……赤城姉さんが旗艦のチームだ。しかもその中には加賀姉さん、土佐姉さん、そして愛宕さんと高雄さんと綾波までいる始末だ。

 

これだけならまだマシな方だ。問題はその後ろにいる母さんの存在だった。

 

_数時間前

 

次の演習相手が姉さん達だと知ったあの時、演習が始まる前に一言言っておこうかと思い、姉さん達が宿泊している部屋に足を運んでいた時だった。

 

姉さん達の部屋に付き、ノックをしようとしたその時、部屋の中から姉さん達だけではなく、母さんの声も聞こえた。何か喋っているのかと耳を澄ますと……

 

「優海が一体どんな方と組むせるのか分からない以上、優海は貴方方の弱点をつく戦法を取るはずです」

 

「確かに……でも、そうなれば編成はかなり絞られますよね?」

 

「ええ。赤城の言う通り、もしこの編成の弱点をつくとなれば、航空機での空中戦となるでしょう。そうなれば、この陣形を組むことで対空砲を一点に……」

 

(こ、これってまさか……母さんが赤城姉さん達の指揮をしている感じ!?)

 

兄妹対決から親子対決になってしまった瞬間であり、挨拶に来る雰囲気ではなかった。

というかこれ……俺、スパイみたいになってない?いや、意図して来た訳では無いから無罪だとは思うけど……バレたらバレたらで少し厄介な事になりそうだ。

 

とにかく挨拶は諦めてこの場から離れようとした瞬間に扉は開かれ、支えを無くして姉さんの部屋に転がり込んでしまった。

 

転がって仰向けになってしまい、俺の目には笑顔で俺を見下ろした愛宕さんがいた。

 

「あら〜やっぱり優海君来てたのね。匂いがすぐそこまでしたから分かっちゃった♡」

 

「に、匂い?」

 

俺もしかして臭い?自分の臭いは気づかないと言うから、思わず腕をスンスンと嗅ぎ、自分の臭いを確かめた。

 

昨日もちゃんとお風呂に入って体も洗ったからそんなにだとは思うけど、もしかしたら女の人にとっては臭いと思うとショックを受ける。

 

「あぁ大丈夫よ。優海君は臭くないわよ。むしろ……興奮しちゃう匂いだから」

 

愛宕さんの舌なめずりを見た俺は体の底から危険信号が発信され、思わず愛宕さんから離れた。

 

「あら?どうして離れるの?」

 

「そんな気味の悪い事言うからよ。馬鹿犬さん」

 

「ふふ、いつまで経っても弟離れしない小狐さんよりかはマシだと思うけど?」

 

「あらあら、今ここで貴方の事をソウジしても……」

 

「いい加減しなさい赤城」

 

赤城姉さんと愛宕さんが火花を散らした中、天城母さんのゲンコツが赤城さんの脳天に直撃し、赤城姉さんの頭の上に大きなたんこぶが出来、赤城姉さんは涙目を流しながらしょんぼりと体を縮めた。

 

相変わらず赤城姉さんに対しては厳しすぎるなぁ……

 

「……さて、優海はどうしてここにいるのですか?」

 

「えーと、今度姉さん達と愛宕さんと高雄さん。それに綾波との演習だから挨拶しておこうかなって」

 

「なるほど、それで私が居て驚いたと」

 

「まぁ、そんな感じ。あと……ちょっと作戦会議っぽいのも聞いちゃって……どういう事?」

 

「私が提案したのです。今回限り、私はこの艦隊の作戦立案をします」

 

「え……ええぇ!?」

 

「優海、貴方が指揮官としてどれだけ進歩したか見せてください。当日、楽しみにしていますよ」

 

母さんの笑みがこれ程怖いと思った日は無く、あの後何がどうして部屋から出て言ったのか、覚えていなかった。

 

_現時刻

 

「まさかの母さんが指揮するなんて聞いてないなぁ」

 

「でも、ルール違反ではありませんですぞ?」

 

島風の言う通り、ルールにも書いてなければしてはいけないとは書かれていない。つまり誰がやっても良いって事だ。

 

だけどそれにしても姉さん達だけでも厄介なのにそこに母さんの指揮が合わさるともうどうしようもないレベルにまで上がる。

 

「うわぁぁ〜!どうしよう〜!!」

 

頭を抱えに抱え、2人がいるのにも関わらず情けない声を出してしまう。

 

「ですが、指揮があっても編成は変えられませんよね?相手が戦艦だけなら、空母を2隻編成して有利に運べば……」

 

「うーん、でもそれ多分母さんに読まれてるんだよねぇ〜」

 

確かに駿河の言う事は最もだ。相手の編成は戦艦1隻に空母2隻、重巡が2隻に駆逐1隻と火力に重きを置いた編成だ。

 

この編成相手なら、こっちも空母を2隻編成し、軽巡を1隻か2隻編成するのがベターだけど、多分母さんにそれは見透かされている。

 

現に俺が聞いた限り、母さんは俺がやろうとしている戦術を全て読めている筈だ。

 

その裏をかいて、下手な編成をすればこっちのバランスが悪くなってまともに戦う事が出来なくなるジレンマがある。この時点でもう母さんに負けており、ここから巻き返す為には、当日で母さんが予想していない戦法を取るしか勝つ手段は無い。

 

……と、言ったもののそんな奇想天外な戦法は思いつかない。どんな戦術も頭の中で母さんの戦艦に上から押しつぶされるビジョンしか見えず、編成の時点で難航していた。

 

「あの、天城殿はそれほど軍師としての技量が高いのですか?私と駿河殿は、ここに来て日が浅いので……」

 

「うん。かなり凄いよ。俺の作戦立案とかにも細かな指摘とかしてくれるし、何より……俺、将棋で母さんに勝った事無いんだよなぁ」

 

子供の頃でも勝てず、今でもたまに将棋をしても母さんには勝ってない。今の所俺の49戦49連敗だ。

 

この事実があるからこそ、どんな指揮をしても勝てないと思い込んでいるのかも知れないけど、それ程までに母さんの存在は大きかった。

 

上の空になって一緒に悩んでくれる島風と駿河を見ると、ふとある事を思いついた。母さんが俺の考えを読むと言うのなら……他の人の考えを乗せれば良いんじゃないか?

 

指揮官として、やってはいけない事だとは思うけど、母さんや姉さんに勝ちたい気持ちが勝り、指揮官としてのプライドを捨てて俺は2人にある事を話した。

 

「なぁ2人とも。今回の編成、2人が決めてくれないか?」

 

「……へ?す、すみません。もう一度お願いします」

 

「今回の編成は島風と駿河、2人で決めてくれ」

 

島風と駿河が1度向かい合い、ようやく俺の言葉を飲み込んだ。

 

「「えええええ!?」」

 

驚くのも無理は無いと思うけど予想以上の驚きで思わずこっちの方が驚き、特に駿河は慌てふためきながら俺に問いつめた。

 

「ど、どうして私達が編成を決めなければいけないんですか!?」

 

「いやぁ……母さんが俺の考えを読んでいるのなら、編成を島風達に任せれば多少母さんの予想を上回れるかなって」

 

「それはまぁ……ですけど!」

 

「良いじゃないですか駿河殿!実は私、自分で好きな編成をやってみたかったんですよね〜」

 

「はぁ!?ちょっとアンタ何勝手に……」

 

「じゃあ編成はよろしくね。決まったら連絡してきてね」

 

「了解しました!さぁ駿河殿、行きますぞ!」

 

島風が駿河の手を引き、2人で仲良く?編成探しの旅に出た。この選択が吉と出るか凶と出るか……どちらに転ぶかは、俺の作戦立案次第だ。

 

「……あの人にでも会おうかな」

 

ここでじっとしている訳には行かず、打開策を見つける為に、俺はある人に出会う。

 

 

_数分後、島風達にて

 

「さて、意気込んだのは良いけど、どうしましょうか?」

 

「アンタ、考え無しに引き受けたの!?」

 

「えへへ……それで、どうします?」

 

「え?えーと……相手は赤城さん達よね?空母の動きを止めたいのなら、対空が得意な軽巡洋艦を編成するのが鉄則だけど……」

 

「じゃあ軽巡洋艦の人を探しましょう!」

 

「アンタ指揮官の話聞いてた!?指揮官も軽巡洋艦を編成しようとしていたけど、天城さんがそれを読んで軽巡洋艦を無力化する作戦を向こうが考えているんでしょう!?」

 

「なら島風がそれ以上に頑張れば良い話です!という訳で、軽巡洋艦探しに行きますぞ!」

 

「あぁもう!」

 

島風達は、まず軽巡洋艦のKAN-SENを探しに島を歩き回った。

 

「でも、対空が得意な方とはどなたがいるのでしょうか?」

 

「そうね……ロイヤルのメイド隊が得意な人が多いけど……」

 

「ではメイドさんを探しましょう!」

 

島風達は、ロイヤルの陣営が集まる場所へと移動した。島風達が移動した場所は、人類が豪華な料理を嗜むパーティー会場であり、そこにはメイド達の給仕が行き届き、人類達は何不自由無く様々な陣営の料理を楽しんでいた。

 

「おぉ〜メイドさん達が沢山いますね、……お、あの方は……?あの方に声をかけてみましょう!」

 

島風がまず声をかけたのは、ベルファストだった。ベルファストは以前に島風達と同じ艦隊で戦っていた為、まず島風は顔見知りのベルファストに声をかけた。

 

島風の声に反応したベルファストは体を振り向き、島風達にカーテシーをし、優雅に挨拶をした。

 

「これはこれは、島風様、駿河様、お久しぶりでございます」

 

「お久しぶりですベルファスト殿!」

 

「えぇ。ところで何用でございますか?」

 

「また、島風達と一緒に戦いませんか?」

 

ストレートに島風はベルファストにそう頼んだが、ベルファストは申し訳なさそうな顔を浮かべた。

 

「申し訳ございませんが、私はこれ以上演習に参加出来ないのです」

 

「はぅわ!?ど、どうしてですか!?」

 

「演習の追加ルールに、艦隊に編成した事があるKAN-SENはもう編成が出来ないって書いてあるわよ」

 

駿河が追記されたルールブックを島風に見せると、島風は知らずに話してしまったことに負い目を感じ、うさ耳をしぼませた。

 

「うぅ、これは失礼致しました……島風、一生の不覚です」

 

「いえいえ。対空が得意のKAN-SENをお探しでしたら、丁度手が空いた方がいますよ。お呼び致しますので、ここでお待ちください」

 

人々が多く歩く中でベルファストはそれをものともせずに優雅に歩き、一瞬で人混みで姿を消した。

何分かとかかると島風達は予想していたが、何とわずか30秒ほどでベルファストが戻り、その背後には他のメイド隊とは少し格好が違うメイド服を来た猫耳のKAN-SENが、ベルファストの背後からひょっこりと現れた。

 

「やっほー!計画艦のチェシャーだよ!ダンナ様の艦隊に入れるって言うけど、本当?」

 

「……あれ?ベルファストさん。確かこの方って重巡洋艦ですよね?」

 

「よくご存知ですね。ええ。彼女は重巡洋艦ですが、対空は得意分野です。きっとお力になりますよ」

 

「重巡洋艦で対空が得意……これは良いKAN-SENです!勿論、歓迎します!」

 

「こちらこそよろしくね〜」

 

こうして、島風達は1隻を獲得し、チェシャーと共に新たなKAN-SENを探しに出かけた。

 

_一方その頃

 

「君とこうしてお茶をするのはいつぶりかな」

 

「俺が指揮官になって以降はしてないから……1年ぶりですかね?」

 

とある施設のテラスに設置された白い椅子に座り、白いテーブルに置かれた紅茶を一口飲み、目の前にいる男性と会話を交わした。

その男性とは、テネリタス9代目当主にして、ロイヤルの上層部でもあるオセアン・テネリタスさんだ。

 

「ところで今日はなんの用かな?」

 

「……俺に、もう一度戦術を教えて貰えませんか?」

 

「ほう?」

 

オセアンさんは飲もうとしていた紅茶を一旦置き、興味深そうに俺の話を聞いてくれた。

 

「明日、姉さん達との演習なんですが……そこには母さんの指揮も加わるみたいで……だから今俺が持っている指揮じゃ母さんには勝てないと思ったので……」

 

「なるほど。でも、もう君には私の知る限りの戦法は教えきったけどね」

 

「そ、そんな事無いでしょ!?」

 

「ううん。もう、教えきったつもりだよ。その証拠に……チェスでもしようか」

 

オセアンさんはテラスから部屋に戻り、その中からチェス盤と駒を持ってテーブルに置いた。

 

チェスなんていつぶりだろうか。ほとんど将棋しかやってないし、駒の動きとかあやふやになってそうで不安だ。

 

「先手と後手、どっちがいい?」

 

「え?じゃ、じゃあ……先手で」

 

チェスは基本的には先手有利だ。先手と後手を選ばせてくれるのなら、余程の事がない限りは先手を選べば勝率は上がる。チェスで黒は先手を意味し、早速チェスが始まった。

 

将棋には勝利の為の格言見たいな物があるけど、チェスにもそう言った物がある。

 

その中の1つに、序盤は本のように、中盤は奇術師のように、終盤は機械のように指せという言葉がある。

 

どういう事かと言うと、まず本というのは盤面におけるセオリーの事を指している。自分がどんな陣形をして勝つのかを用意し、その為の陣形を作りだすのがチェスの序盤だ。

 

そして中盤の奇術師とはアドリブが求められるという意味だ。ここからチェスの仕掛け合いが続き、相手がどんな意味で動かしたのか、陣形を崩してまで駒を動かす意味の応酬だ。

 

最後に機械……これは簡単だ。チェスには、この手じゃないと絶対に勝てない場面があり、これを如何に見極めてその手を狂わさせずに取るかの勝負だ。

 

これがチェスの基本であり、今はもう中盤に差し掛かっていた。

 

(この盤面……右端のポーンを捨てればナイトが活きる……けど)

 

チェスにも将棋と同じ様に捨て駒の様な技法があるが、俺はそれをやる事を躊躇い、あまり動かしても意味が無い駒を動かした。

 

「やはり、君は優しすぎる。心優しい人は、チェスが弱いと言うからね」

 

オセアンさんは白いナイトを動かし、そのナイトをキングで取った。そしてオセアンさんは間髪入れずに駒を動かし、いつしか俺のキングが囲まれてしまった。

 

「はい、チェックメイト。君の負けだ」

 

「うーん……強いなぁ、オセアンさん」

 

「いや、君が優しすぎるだけだ。君がサクリファイス……所謂、捨て駒をすれば完全に私の負けだったよ。どうしてしないんだい?」

 

「……チェスは、将棋と違って取った駒は使えない本当の意味での死です。そう思うと、捨て駒なんて使えたくなくて」

 

「これはボードゲームだよ」

 

「それを言い訳にしてやり続けたら、いつしか実際の指揮にもやりそうで、それが……怖いんです」

 

勿論、チェスと実際の指揮が違うというのは分かる。だけど、やっぱり捨て駒……何かを犠牲にして勝つ指揮だけはしたく無かった。

 

それでは、昔指揮官を目指した人達と同じだからだ。

 

KAN-SENを道具としか見ていない、俺が1番嫌っている人と同じになるのは……嫌だった。

 

「俺は、KAN-SEN達を道具として扱いたく無い。たとえどんな状況になったとしても……俺は……」

 

「うん。やっぱり、君を指揮官にして良かった」

 

オセアンさんは笑ってそう言った。

 

「元々、セイレーンである君を監視する為に我々上層部は君を指揮官にしたが……君は、良い指揮官になってくれた。上層部とは関係なく、君自身の力でね」

 

「俺自身……?」

 

「KAN-SENを道具として扱わず、人として扱うその姿勢が君の強みだ。僕には僕の。天城には天城の、そして君には君にしか出来ない指揮が出来る筈だ。音楽の指揮者が違えば、同じ曲でも感じられる物が違うようにね」

 

「俺にしか出来ない指揮……」

 

「もう一度チェスをしようか」

 

オセアンさんは駒を直し、もう一度チェスを指した。

 

オセアンさんの手はさっきと全く同じ展開であり、またポーンを捨てればナイトが活きる盤面になった。同じ手を使えば、さっきみたいに負けるのは見えている……勝ちたければポーンを捨てれば解決するけど……。

 

(俺には俺の……戦い方がある)

 

「うん、いい目をしている」

 

自分の戦い方。それを武器にしてオセアンさんとチェスを指し続けている中、頭の中では母さんに勝つ算段を思い浮かべていた。

 

_一方その頃

 

「よーし!このままどんどん良い人を探しますぞ!」

 

「とは言うけど、当てはあるの?」

 

「ありません!」

 

あまりにも無鉄砲な考えに駿河は呆れ、肩を透かしながらため息をついた。ただ、駿河の考えは最もだ。

 

相手はただの重桜の艦隊では無い。天城が指揮する艦隊という点が他の艦隊と大きく違う点だ。

以前の艦隊達は各々の考えを元に動いてはいたが、個人の域を超えておらず、結局は優海の指揮を上回ることはできなかった。

 

だが今回は違う。同じ……いや、僅かに天城の方が指揮に通ずる物があり、恐らくだが優海の考えはほぼ読まれる。

 

だから優海はまず天城に考えには無いことをしようと島風達に編成を決めさせたが、考え無しの編成は逆に自分の首を絞める行為だ。能天気な島風を心配する駿河の心境は、同意出来るものだった。

 

「駿河殿、チェシャー殿。どなたが良い方は思いつきますか?こう……えぇ!?って思わせるような」

 

「どひゃーって……そんな個性的なKAN-SENが簡単に見つかる訳……」

 

「あ、いるよー。えぇ〜!?って思わせるようなKAN-SEN」

 

「嘘でしょ……?」

 

「おー!誰ですかそれは?」

 

「鉄血の軽巡なんだけど〜その子、なーんか不思議なんだよね〜まぁ、見たら分かるよ」

 

チェシャーはそういい、島風達を案内した。

 

そして案内したのは鉄血陣営内のとある泉があるベンチだった。鏡のように水面が移る泉近くのベンチには、服というには露出が少し多い肩や胸の上半身が丸見えなチューブトップの白いハイレグの様なドレスに白のニーソックスに銀のハイヒール。

 

そして極めつけは、左目に付いている白薔薇の眼帯だった。

 

「あ、あの子だよ。名前はエムデン。鉄血の軽巡洋艦だよ」

 

「エムデンの名前を呼んだのは誰ですか?」

 

名前を呼ばれたエムデンはゆっくりと顔をこちらに向き、美しい顔を白髪をなびかせた。

 

「おぉ、これは見る限り不思議そうな人ですな!」

 

「あら?兎さんに猫さんそして……たぬきさんがエムデンに何か用ですか?」

 

「たぬき?」

 

兎は島風、猫はチェシャーだと分かるが、たぬきに該当するKAN-SENが見当たらず、島風とチェシャーは首を傾げた。2人の他にいるのは駿河だけだが、駿河は山羊の様な角をしており、たぬきの耳では無かった。

 

「た、たぬきだなんて何言ってるんですか!?私のはほら、こんな角があるじゃないですか!」

 

駿河は妙に山羊の角をエムデンに向けると、エムデンは何かに気づいたのか、笑って訂正した。

 

「……あぁ、ええ。そうですね。ヤギさんでしたね。ふふ、失礼しました」

 

「自分を偽るなんて失礼なたぬきね。身の程を弁えなさい」

 

突然、エムデンと声は同じだが明らかに口調が違う声が聞こえると、エムデンの隣にもう1人のエムデンがいた。

 

エムデンと同じ顔であり、同じ服装だが色は黒で統一されており、右目に赤薔薇の眼帯を付け、対称的な姿をしていた。

 

「あ、アンタ誰よ!?」

 

「ケーニヒスベルク級のエムデン、大洋艦隊の一員よ。私達はエムデン。よく覚えておきなさい」

 

「えーと……?同じ名前のKAN-SENって事ですか?」

 

「いいえ。私達は2人でエムデンなのです」

 

「2人で……?」

 

「この子、ちょーっとカンレキが特殊なんだよね。2人じゃなくて、2人で1人なの」

 

チェシャーが大まかにエムデンの事を説明したが、島風と駿河は納得がいかなかった。

 

事実が思考と噛み合わず混乱する中、エムデンは島風と駿河を囲むようにして周りを歩いた。

 

「私達は1人で2人であり」 「2人で1人でエムデンなの」

 

「片方だけではエムデンではありません」「どちらが片方がエムデンでは無い」

 

「「それが私、エムデンなんです」なの」

 

「う、うーん……なるほど、これはえぇ!?と思わせるようなKAN-SENですな!」

 

「その域を超えてはいるんだけだね……」

 

「なら、エムデン殿!島風達の艦隊に入りませんか!?」

 

「兎さん達の艦隊に……?それって、人間さんの艦隊……という事でもありますよね?」

 

「人間さん……指揮官の事ですか?」

 

「それ以外誰がいるのよ。人間は人間なんだから」

 

「……ですが、指揮官って確かセイレーンですよね」

 

駿河の言う事は最もであり、初めてエムデンの顔から余裕の笑みは消えた。

 

「過去に指揮官はセイレーンの因子によって暴走を起こし、KAN-SEN達に武器を向けたと聞いています。……そんな者を【人間】と言うには違和感が……」

 

「じゃあ、たぬきさんは何でヒトの形をしているのですか?」

 

「え?……てか、たぬきじゃなっ……」

 

エムデンは駿河に問いつめる。問いつめられた駿河はエムデンの圧に押し負け、額に汗をかきながら後ろ足を引いた。だが駿河を逃がさないように黒いエムデンが駿河の後ろに付き、駿河の逃げ場を失わせた。

 

「ヒトの定義って何ですか?」「ヒトとは何か。貴方に分かるのかしら?」

 

「だけど、誰かがそのヒトの事を人間と認めれば」「ソイツは人間になれる」

 

「だから人間さんは人間なんです」「人間は人間。それが事実なの」

 

「あー!もう!分かりました!変な事言ってすみませんでした!!」

 

駿河はエムデンの圧に負けて先程の言葉を撤回し、エムデンは満足そうに笑った。

 

「まぁまぁ、駿河も旦那様の事しっかり見れば、旦那様がどんな人か分かるにゃー」

 

「一応、これまで指揮官の事を見ていたつもりですけど。なんていうか……指揮官ぽく無いっていうかなんというか……」

 

「それが人間さんの良いところ。必死に足掻いて……ふふふっ♡」

 

「……ねぇ島風、今からでもこいつ誘うの止めない?ちょっと危うい感じがするわ。特に指揮官が」

 

「うーん……でも、この人ならきっと役に立つのでこのままで!さて、これであとは主力KAN-SENを見つけるのみです!」

 

「とは言うけど、あてはあるの?」

 

どうなっても知らないと言うように駿河は渋々納得したため息をつき、これで前衛の艦隊は揃った。

残るは主力艦隊だけとなったが、見切り発車でのスタートだった島風達に勿論当てなど無い。

 

「うーん、何か指揮官がびっくりする様な方っていませんかね〜……」

 

「ひぐっ……妾の刀どこぉ〜!?」

 

悩んでいたその時、子供の泣き声だが明らかに成長した女性の声が島風達の耳に届き、泣き声の方に全員顔を向けた。

そこには、重桜特有の黒い和装に右の額から小さな赤い角が一本と側頭部から生えている非対称の角が赤色と白、それぞれ1本ずつの、計3本の角を持っている腰まで伸びた白髪に白い瞳のKAN-SENだった。

 

「はにゃ?あれって重桜のKAN-SENだよね?誰だっけかにゃ……」

 

「あれは……白龍ですね。重桜の空母開発艦です」

 

駿河が白龍の事を簡単に説明し、島風は泣いている白龍に近づき、声をかけた。

 

「あの〜そんなに泣いてどうしたのですかー?」

 

「わ、我の刀がどこかに行っちゃって……あれが無いと……ふぇぇぇん!」

 

話を聞くどころか白龍はまた大泣きしてしまい、まるで赤ん坊の様だ。

 

「たぬきさん。あの龍さんはいつもあんな感じなのですか?」

 

「だからたぬきじゃ……もういいですよ。私もよく知らないんです。私と島風は、最近配属しましたし……」

 

「でもこのまま泣き続けられるのも面倒くさいわ。無視する?」

 

「そうは行きません!困っている人を見かけたなら、助けるのが道理です!と言うわけで、白龍殿の刀を探しましょう!」

 

「そんな時間ある訳無いでしょ!ここは他の人に任せて私達は艦隊に必要なKAN-SENを探すのが最優先よ。じゃないと、指揮官に合わせる顔が無いじゃない……」

 

駿河の言う事は最もだ。どこに無くしたのか分からない刀探しに時間をかければ、編成に必要なKAN-SENを探す時間が削られ、最悪艦隊が揃わなかった事態にもなりかねない。

 

駿河の言っていることはこの事だが、それでも島風の意見は折れなかった。

 

「いいえ。やはり困っている方を見過ごす訳には行きません。申し訳ありませんが、島風1人でも白龍殿の刀を探しに行ってまいります!……島風は配属されたばかりですが、指揮官ならこうすると思いますから」

 

「島風……」

 

「では、勝手ながら失礼します!白龍殿、どの辺で落としたか分かりますか?」

 

島風は白龍にどこに刀を落とし、その刀がどんな物なのかを聞きながら刀を探しに回った。島風に対して否定的な意見をした駿河は何も言い出せない雰囲気になってしまい、何かを言いたくても口を閉ざしてしまった。

 

「どうするー?私達も探す?」

 

「私はあの龍さんが泣きながら刀を探す姿を見るのが楽しいので、探してみようと思ってます♡」

 

「趣味が悪いですよ。……まぁ探しますけどね」

 

「おやおや〜?案外駿河もお人好しだにゃ〜」

 

「島風を放っておけないだけです」

 

結局、駿河達も島風と一緒に白龍の刀を探す事にした。だが、手がかり無しの探し物はかなり大変だ。白龍かな大まかな特徴は聞きはしても刀は刀。同じような物があり、白龍の刀は白龍しか分からない。

 

その為、刀の捜索にはかなりの時間がかかり、もう夕方になってしまった。

 

「み、見つかりませんね……」

 

「もう他の刀でも良いんじゃないかにゃ〜?」

 

「ダメ〜!あの刀が無いとダメなのー!」

 

白龍にも譲れない物があるのか、やはり白龍が元々持っていた刀ではダメな様子だ。しかし、これだけ探しても手がかりは無く、闇雲に探せばジリ貧なのは間違いない。

 

現に、数時間も経っているのだから。

 

「あら?こんな所で泣いている子がいて……どうしたのかしら?」

 

泣いている白龍や島風達に声をかけたのは、服装こそ聖職者のような格好と言えなくもないのだが、露出が非常に多く際どく、思わず二度見どころか何度でも見直してしまう程であり、聖職者なのかと疑うほどだった。

 

「うわっ、すっごい衣装……」

 

と、駿河がつい口を滑らせてしまう程だ。

 

胸は隠れてない所の方が多く、腰周りも最早服を着るのではなく布を添えるという言葉の方が似合っていた。

 

「えーと、貴方は?」

 

「あら、自己紹介が遅れたわね。私はロイヤルネイビーの装甲空母、インプラカブルよ。見ての通り、聖職者よ」

 

「その衣装で聖職者はちょっと……」

 

「あら?でも指揮官は気に入っていたわよ。林檎の様に赤く顔を染めて……ふふ」

 

「ふ……不埒!!やっぱりこの人聖職者じゃなくて淫魔なのでは!?」

 

「えー、ロイヤルでは結構普通にゃよ?」

 

「嘘でしょ……?」

 

駿河は初めて自分の常識を疑った。

 

「ところで、そちらの方はどうして泣いているのかしら?」

 

「えーと、実は刀を……」

 

「刀?……もしかして、これの事かしら?」

 

インプラカブルは持っていた刀……と言うより、赤い鞘が添えられた太刀を白龍に見せた。

すると白龍は目を輝かせ、太刀に手を置いた。

 

「こ、これだ!我の刀はこれだ!!」

 

白龍は刀を抱きしめ、先程まで幼児のような態度は無く、強気な性格になった。

 

「……世話になったな」

 

「いえいえ、見つかって良かったです!うんうん、これで一件落着……」

 

「な訳無いでしょう!どうするのよ!?もう日が暮れてるし、編成だって決めていない!もうー!指揮官にどう説明するのよ!」

 

駿河は島風の両肩を掴んで前後に激しく揺らし、島風の首が分身する程に強さだった。

 

「だ、だって困ってる方は見過ごせないじゃないですかー!」

 

「その結果がこれなら取り越し苦労でしょうがー!」

 

「それなら、この方達を編成すれば良いのでは?」

 

エムデンは白龍とインプラカブルの2人を指した。確かに前衛の編成は完了し、残りは主力艦隊だけだ。幸い、どちらも空母だ。残った穴を埋めるのにはちょうど良かった。

 

「なるほど!おふたりとも是非島風達に力を貸してくれませんか?」

 

「力……?まぁ、刀を探してくれた借りもある。付き合ってやる」

 

「協力しない……理由は無いわね。良いわ」

 

無事2人の協力を取り付けられた島風は兎のように飛び跳ねて喜び、駿河は無事編成が決まった事にホッとしていた。

 

「どうやら、決まったらしいね」

 

丁度いいタイミングで優海が戻り、編成の面子を見ると、優海は意外な面子を見て驚いていた。

 

「チェシャーにエムデン、白龍にインプラカブルか。結構個性的な編成になったなぁ」

 

「ふふん、頑張りました!」

 

「ところで、指揮官はどうしてここに?」

 

「ん?いや、島風達が何か探してるって皆からの連絡があったから、様子をね」

 

優海は艦船通信の画面を開き、島風達が白龍の刀を探しているとの情報が映し出されていた。

 

どうやら心配で様子を見てきたらしい。

 

「とにかく、これで編成は決まったね。ごめんね、編成任せちゃって」

 

「いえ!楽しかったです!」

 

「こっちは大変でしたけどね……」

 

「あはは、でもその分指揮は頑張るよ」

 

「という事は、何か策があるんですか?」

 

「うん。……勝つよ、母さんや姉さん達に」

 




△月〇日
今日は、不思議というものが如何にどういうものか思い知らされた日だった。

特に1番印象に残ったのがエムデンというKAN-SENだ。2人で1人という不思議なKAN-SENと出会った。
彼女……いや、彼女達は俺の事を「人間」さんと言ってくれた。
元々がセイレーンだって、前もって分かっている筈なのにわざわざそう言ってくれるのが嬉しかった。

そんなエムデンは、癒してあげると言って俺に目隠しをして、両耳に囁いた。細い声が頭の中に入り、何だか変な感じがして思わず椅子から転げ落ちてしまい、その後耳かきもされた。

これがどこから漏れたのか、翌日多くのKAN-SEN達から耳かきをされる事になった。

因みに1番はやっぱり母さんだ。昔からされたから。

どのテネリタスが好き?

  • ロリママ創造者の2代目 ラハム
  • 人類最強の天然3代目 アトラト
  • 食いしん坊な絶対守護者4代目 シーア
  • 武士道と極める騎士5代目 ロドン
  • 風のように自由なガンマン6代目 セイド
  • 完璧で究極のアイドル7代目 マリン
  • おっとり包容力で全知全能の8代目 ミーア
  • 元人間のセイレーン 10代目マーレ
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