もしもアニメのアズールレーンに指揮官が出てきたら〜2nd season 海上の誓い〜   作:白だし茶漬け

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お久しぶりです。

就活で小説の投稿が止まり、休載的な事になってしまった事に関して、まずはお詫び申し上げます。

直近でようやく就活が終わり、小説執筆の目処が立ったので、少しづつですがペースを元に戻そうと思っています。

これからも、私の小説をご愛読して頂けると励みになるので、これからもよろしくお願いいたします。


天城越え

 

 ついに始まる4日目、俺にとって大事な演習が始まる。

 

 相手は俺の名残りのあるKAN-SEN達ばかりであり、強者揃いだ。

 そして俺の目の前には、俺が知っている限り1番強いKAN-SENがここにいる。

 

 普段優しい目を向けている目はここにはなく、本気で向き合おうとしている強い目を向けるのは、戦艦天城、俺の母さんだ。

 

「では、始めましょう。久しぶりの将棋をね」

 

「……よろしくお願いします」

 

 これと同時に、島風達の演習も始まった。

 

 今回の演習相手はひと味もふた味も違う。

 

 まず相手が姉さん達と、高雄さんと愛宕さん、そして綾波だが……その背後には母さんの存在がある。

 

 今回の演習……相手は俺と同じような母さんの指揮が加わっており、他のチームと比べて戦術も戦略も桁違いの完成度を誇っているのは間違い無い。

 

 正直勝てるかどうかは分からない。例えるならプロの棋士相手に歩だけで勝負して勝てと言われてる様な物だ。

 

 端目でテレビを眺めていると、島風のチームと赤城姉さんのチームが双方持ち場に待機しており、演習が始まるのも時間の問題だった。

 

『では、これより島風の特別編成チームと赤城旗艦の重桜チームの演習を開始するにゃ〜』

 

 今回も変わらず明石が実況解説の受け持つ様だ。まぁ、明石以上の適任は居ないだろうけど。

 

『因みに、今回島風チームはよく見ると7隻いると思われるようにゃけど、エムデンは2人で1人。つまり、2人で1隻の計算だからノー問題にゃ』

 

「2人で1人ですか……世の中不思議な方もいらっしゃいますね」

 

「俺も最初びっくりしたよ。他にも居るよ。グータラ大好きな子とか、なんかロボットの様な子とか……」

 

 エムデンの事を知った母さんは興味を持って俺の話を聞いてくれた。思わず、これから真剣勝負をする事を忘れてしまいそうになり、我に返った俺は慌てて口を塞いだ。

 

「良いんですよ。優海が沢山の交流を持ってホッとしています。昔はあんなに人見知りだったのに……」

 

「む、昔はもう良いでしょうが」

 

「そういう訳には行きません。今だって優海の小さい頃の写真を大事に持ってますから。母からすれば、子供はいつでも子供ですから」

 

「……」

 

 部屋の中で、将棋盤と駒が互いにぶつかり、パチッと聞きなれた音と、テレビから流れる明石の実況と観客達の歓声が耳に入る。

 

 だが歓声や実況は耳に入ると言っても言葉まではあまり聞いておらず、言わば音楽みたいな物だった。

 

 それぐらい集中している。そうでなければ、今目の前にいる母さんには、絶対に将棋では勝てないのだから。

 

「昔と比べて随分と指す手が変わりましたね。私がいない間、貴方が多くの事を学んだことが分かります。母として、誇らしく思います」

 

 そう言いながら母さんは微笑み、俺の桂馬を取った。

 

「ですが、まだ甘いです。連勝を潰すつもりはありませんので」

 

「連勝というか、俺母さんに勝った事無いんだけどなぁ……」

 

 今の盤面を簡単に言うとすれば、徐々に押し込まれて言っていると言っていいだろう。そして、この盤面はまるで今の島風達の状態を表している様だった。

 

 チラリとモニターに映る演習の風景を覗いてみると、島風達は先手を取られて苦戦していた。

 

 やはり姉さん達の遠方からの射撃に行く手を阻まれており、思うように進めない状況が続いていた。

 

 まるで今やってる将棋の状況そのものだ。こっちもこっちで母さんの角が何時でも動かせる様にしているから迂闊には攻められない。

 

 だけど、チャンスはある。母さんは堅実を取るタイプだから、この盤面を荒らす様に駒を動かせば攻める隙が生まれる筈だ。

 

 振り飛車の飛車を動かし、盤面を荒らす手筈を取ろうとしたその時、母さんは間髪入れずに駒を動かした。

 

 その間1秒足らずだ。あまりの早指しに適当に動かしたと思って動かした銀を見た。

 

「……あっ」

 

 銀の周りと、その向こうにある角を見た瞬間分かってしまった。この飛車は死んだと。

 

 ここで死ぬというのは駒を取られるという意味では無く、どれだけ動かしても無意味ということだ。

 

「飛車を使って盤面を荒らそうとしたつもりでしょうが読んでいました。そして、島風を台風の目にしようとしている事も織り込み済みです」

 

(戦術まで読まれてる……!!)

 

 やっぱり、一筋縄じゃ行かないな……母さんや姉さんの相手は……。

 

 

 

「ぐぬぬ……中々攻め込めないです!」

 

「後輩にそう簡単に負ける訳にはいかないです。ラフィーの無念は綾波がとるです」

 

 台風の目、つまり戦況を荒らす為の要因である島風は綾波に止められ、天城の戦術によって攻め込めない状態になっていた。

 

 何とかして綾波とのタイマン状態から逃れようとしても、綾波の超人的な反応速度で攻撃をいなされ、島風の速さに追いついていた。

 

 しかし要因はそれだけでは無い、島風と綾波の上空には赤城が出している艦載機が飛び交っており、綾波の援護をしていた。その援護は決して多いものでは無かったが、島風の足を止めるのには十分だった。

 

 その為、赤城は綾波の援護を最低限に済ませる事が可能であり、本来の役目である前衛のKAN-SENを倒すことに集中出来た。

 

「天城さんも中々酷な事をする。この布陣になってしまえば、早々に崩れないだろう」

 

 天城に対して尊敬や恐れを含みながらも、優海にとっては厳しすぎ無いかと甘えを思って土佐はそう言った。

 

 確かに、全体的に見れば天城の作戦に優海はまんまと引っかかっており、ここから崩すのは相当苦労する。

 少なくとも、損害は免れないだろう。

 

「油断は禁物だ。それに優海なら必ずこの布陣を突破する算段をつけているはず」

 

 加賀が警戒をしながらもこの布陣を突破する事を確信しているような笑みを浮かばせた。

 

「それはまたどうして?」

 

「あの子は天城姉様の息子で、私達の弟よ。このぐらいは超えてくるわよ」

 

「そしてその一番槍が我だ!」

 

 空から高らかに笑い声を上げながらあるKAN-SENが力強く海に着地し、大量の水飛沫と共に赤城達3人の前に現れたのは、白龍だった。

 

 白龍が背中を太刀を抜き、間髪入れずに赤城達に襲いかかった。

 

 だが、その襲撃に真っ先に土佐が反応し、土佐も腰に付けている刀を抜き、白龍の刀を真正面から受け止めた。

 

「ほう、時代遅れの戦艦が我と勝負するか!」

 

「時代遅れとは言わせてくれるな」

 

 時代遅れと言われ腹が立った土佐は怒りを見に任せた乱暴な剣撃で白龍に鍔迫り合いで押し勝ち、そのまま主砲で白龍を狙い撃ちにする。

 

 だが白龍は軽やかな動きで土佐の砲撃を避け続け、逆に反撃の艦載機を呼び出し、土佐に機銃が襲いかかる。

 

 だが近くの加賀が白く巨大な獣を呼び出し、獣が白龍の艦載機を全て噛み砕いた。

 

 噛み砕かれた艦載機は破片となって消え、すかさず赤城も燃え盛る艦載機で白龍を攻撃した。

 

 機銃を刀で弾き、不利な状況にも関わらず白龍は余裕の笑みを浮かべた。

 

「ははは!! 噂の一航戦もこの程度か! いや、我が強すぎるだけか! はっはっは!!」

 

「流石開発艦というべきかしら。一筋縄じゃいかないわね」

 

「だが相手は単独、私達3人で行けば問題ない」

 

「いや、ここは私に任せてくれ」

 

 加賀の言う通り、3人で白龍と戦えば間違いなく白龍を大破する事ができる。

 

 だが、土佐はそれを許さずに加賀の提案を蹴った。

 

 土佐からは白龍に対しての戦意を顕にしており、白龍もそれに感化するように体を震わせ、更に戦意を昂らせた。

 

「姉上達は天城さんの作戦に徹してくれ」

 

「殿のつもりか!? 時代遅れの戦艦が勝てると思うなよ!」

 

「行ってくれ、姉上」

 

 土佐は曇りなき眼で加賀と赤城を見つめ、赤城と加賀は土佐の提案を受け入れ、加賀は右手で土佐の右肩に手を置いた。

 

「任せたぞ」

 

 土佐は何も言わず力強く頷いた後、赤城と加賀の2人は天城の作戦に沿って行動した。

 

 短い言葉だが、土佐にとってはその一言だけで充分だった。本来なら出会う事の無かった姉妹の内には、赤城と加賀との間とは違う絆があった。

 

 その絆と期待を裏切らない様に土佐は刀を握る力を更に強めた。

 

「ここから先は行き止まりだ」

 

「くはは! 戦艦、ましてやろくに造られもしなかった者に我を止めれると思うなよ!」

 

 白龍の言葉に土佐は静かに怒りを燃やしていた。

 

 KAN-SENにとって艦歴、すなわち元になった艦の歴史は切っても切れない繋がりがある。

 

 ある者に取っては栄光、ある者に取ってはプライド、そしてある者にとっては呪い。

 

 土佐にとって艦歴というのは無いに等しい物だった。

 

 だが、それでもKAN-SENとして生まれ、戦艦として戦える事に喜びを噛み締めて今を生きた土佐にとって、艦歴は言わば自分自身そのものと言っても過言では無かった。

 

 土佐は刀を抜き、体に灰色のオーラを纏った。

 

 赤城と加賀が獣を呼び出し、使い魔の様に使役するのとは違い、土佐は言うならば獣をその見に宿し、目の前の敵を喰らう獣のそのものの様だった。

 

「それはそちらも同じだろ、空想だけの空母。空想と空白、どちらのから()が上か試してみるか?」

 

「面白い、受けて立つ!」

 

 白龍の戦意は最高潮に達し、刀と刀と鍔迫り合いが始まった。

 

 

 

 

 

「ふむ……嫌な所に飛車が居ますね。さしずめ今の土佐と白龍と同じような状況でしょうか」

 

 母さんは守りの手で来るとは予想はしていた。

 

 母さんの陣営深くに飛車を潜り込ませた結果、王の近くにいた金や銀に対してのプレッシャーはかけられた。

 

 だが、有利にはなっていない。想定していた盤面と実際の盤面との差異が思ったよりも大きく、どちらかと言えば依然母さんの方が優位だ。

 

 今まで考えていた作戦の殆どが塵紙当然となり、困っている俺を見て母さんは笑った。

 

「中々の攻め手ですが、詰めが甘すぎます」

 

 母さんは駒を動かし、徐々にこちらの陣形が崩れてつつある。

 

 だが、仕掛けるのなら今しかない。

 

 俺は手前にある銀を指すと、母さんは耳をピクリと動かし、微かな動揺を見せた後に手を止めて次の一手まで長い時間をかけた。

 

(急に指す手を変えてきた……?)

 

 多分母さんの頭の中には様々な考えが巡っている筈だ。

 

 そんな中、俺は演習のモニターに目を向けた。そろそろ別の動きになる筈だけど、戦況はどうなってるかな……? 

 

 

 _演習開始前

 

「白龍単騎で敵の主力艦隊に突撃!?」

 

 あまりにも無茶な作戦に駿河は机を乗り出して驚き、逆に当の本人の白龍は興味津々の様子だった。

 

 正直、あまりにも無茶な作戦なのは誰でもわかる。言ってしまえば敵の懐に1人で突撃してくる、神風特攻見たいな物だ。

 

 他のKAN-SEN達もこれには流石に否定的な様子だ。白龍は嬉々としていても、他のKAN-SENたちは説明してと言わんばかりの眼差しを向け、駿河がそれを先導した。

 

「ええと、とにかく真意を聞きましょうか。白龍の特攻には何か意図が?」

 

「今回、あっちが警戒するのは島風の突破力だと思う。演習で嫌という程見せられたからね」

 

「えへへ、島風は速さが売りなので!」

 

 島風の機動力による突破力の高さはこれまでの演習で周知の事実になっており、今回母さんはそれを危惧しているに違いない。

 

 勿論、向こうに軽巡が居ない事による対空能力の低さをカバーする為の対策もある筈……考えられるのは空母同士による空中戦だろうか……? 

 

 それを止める為にも、白龍には赤城姉さんか加賀姉さん、どちらかの足を止めてもらいたい。

 

 仮に3人で相手を取ろうとすれば、その分島風の機動力も活きて一気に主力艦隊まで突撃をかけられ、陣形の穴をついて一気に勝負を決められる筈だ。

 

「あと、駿河にももう1つやって貰いたい事があるんだ」

 

「わ、私ですか? なんでしょうか」

 

「もし白龍が姉さん達との戦闘を開始した時、その先の指揮は任せたい」

 

「…………はい?」

 

 

 

 

 

 

「あぁもう! 指揮官がKAN-SENに指揮を任せるってどういう神経しているのよっ!!」

 

 駿河は荒れるに荒れていた。

 

 無理もない、いきなり指揮官の代わりに指揮をしろという無責任な事を言われたら、こうもなる。

 

「それになるべく狭く戦えって……もう! それが出来るなら苦労はしないのよ! 勝手に頼られても迷惑なのよ!」

 

「あらあら、素が出てるけど大丈夫かしら?」

 

「あっ……今のはその……」

 

 インプラカブルが駿河の化けの皮が見れたおかげかご満悦な様子だ。

 

「と、とにかく! 貴方の力、ここで使ってください」

 

「了解よ、旗艦さん」

 

 インプラカブルは6つの艦載機を展開し、展開した艦載機の内側には魔法陣の様な物が浮かび上がり、インプラカブルの頭上にある紋章が光ったその後、艦載機はそれぞれの方向に飛び去ると同時に紋章は空に広がった。

 

「止まりなさい」

 

 その瞬間、赤城はまるで時間が止められたかのように動きを止めた。

 

「あら? 体が動かないわね」

 

「これは……あの淫魔聖職者の力か!」

 

 高雄が刀を振ろうと力を入れても、そもそもその力が固定されている為、文字通り指一本すら動けない状態だった。

 

 高雄と愛宕だけでは無く、遠くにいる綾波や赤城、加賀、土佐も同じ様に体が固定されていた。

 

「……1歩も動けないです」

 

「おぉ! これがインプラカブル殿の力ですか!」

 

『褒めてないでさっさと主力艦隊に行きなさい! 長くは保てないらしいから!』

 

「了解! 申し訳ありませんが突破させていただきます!」

 

 駿河に通信で叱られながらも島風が綾波の横を通り過ぎ、赤城達に損傷を与えようと全速力で駆け抜けた……と思われたその時、島風は背後からの寒気を感じ、体を震わせた。

 

 何かを察知した島風は一瞬後ろに振り向くと、そこにはインプラカブルの力によって体が動けない綾波がいるだけだった。

 

 だが島風はその綾波に対しての恐怖を感じていた。

 

 綾波は動けず、動けたとしても綾波とは遠く離れており、その距離は綾波の全力でも追いつけないと島風はそう思っていた。

 

 何故なら、島風は自分の速力は重桜一だと自負しており、それは結果が示していた。全ての駆逐艦の中でも、自分が最も速い。それは島風にとっての絶対的な自信であり、事実でもある。

 

 それなのにも関わらず、島風の中には不安があった。

 

 空に浮かんでいたインプラカブルの紋章が消え、綾波はすぐ様綾波に振り返ると、綾波の目はまるで鬼のように鋭く、赤く光っていた。

 

「鬼神の力……味わうが良い……!」

 

 綾波が猛スピードで島風に向かって突き進み、島風はそれを引き離さんとスピードを上げた。

 

「ふおお!? 綾波殿、何だか物凄い形相です〜!」

 

「兎狩りの時間です……!」

 

 スピードは確かに島風の方が上だと綾波も分かっていた。

 

 だが、綾波は片方の剣を島風に向かって投げ飛ばした。

 

 投げた剣はまるで槍のように海の上を突き進み、島風の艤装に直撃し、島風は艤装の爆発でバランスを崩してしまった。

 

 その一瞬の隙に追い打ちをかけるようにもう一度綾波は剣を投げ、島風は二投目の剣を防いだ。

 

 だがこれで島風の足は完全に止まり、綾波は稲妻の様に投げた剣を回収し、島風の前に立ちはだかった。

 

「まさか追いつかれるなんて……」

 

「これが綾波の力……です。と言っても、武器の投擲はジャベリンから教わったです」

 

 遠くの方でジャベリンが「綾波ちゃんかっこいいー!」と聞こえる様だが、綾波は油断せずに島風から目を離さなかった。

 

 逆に島風は一投目の攻撃で艤装が損傷し、思い切り戦う事はあまり出来なくなっていた。

 これでは速さによるアドバンテージは取れず、不利な状況が続いていた。

 

「綾波の動きを止めて赤城たちの方に行こうとする作戦は失敗です」

 

「失敗……? いいえ島風の目的は達成しました!」

 

「それはどういう……?」

 

 疑問が浮かんだ瞬間、綾波は背後の気配に気付いて後ろに振り返った。気配の正体は敵ではなく、味方である愛宕と高雄だった。

 

「愛宕と高雄? どうしてここに……」

 

「あら? 綾波ちゃん? もっと向こうに居たんじゃ無かったの?」

 

 綾波と愛宕、そして高雄がいつの間にか目視出来る距離に居たのだ。天城が立てた作戦ではもっと距離を離れている筈だと3人は困惑した。

 

 そして、綾波達3人の周りにはエムデンとインプラカブルの計3隻によって囲まれた。

 

「あらあら、これは油断しちゃったかしら」

 

「赤城達の援護は!?」

 

「残念ですが、空母の援護はチェシャーさんが止めてくれてます」

 

「結構キツイから早く島風ちゃん来てにゃー!!」

 

 遠くの方でチェシャーが赤城と加賀の艦載機を得意の対空と重巡の装甲の厚さによって耐えていたが、流石に限界が来ていた。

 

 島風は急いで優海の作戦通りに赤城と加賀に全速力で突撃をかけ、赤城達の懐へと飛び込んで行った。

 

 稲妻の様に赤城達に迫っていく島風の速さに赤城と加賀は島風を目では追えてはいたが、体が防御するまで反応出来なかった。

 

 それ程距離が短く、島風が速いのだ。島風は魚雷を放ち、赤城と加賀には回避不可の魚雷が襲いかかる。

 

 このままでは損傷は免れない。赤城も加賀も、これを見ている誰もがそう思っていた時、海の向こうから深い蒼色の獣の幻影を纏ったKAN-SENが2人の前に壁のように立ち、全ての魚雷を受け止めた。

 

 魚雷の爆発で水柱が立ち、雨のように海水が落ちていく中には、艤装と服がボロボロになった土佐が膝を崩していた。

 

『土佐! 大破認定にゃ! まさかの赤城と加賀を庇うとは予想外だにゃ』

 

 明石の言う事は、赤城も同じ意見だった。赤城は目を丸くさせてボロボロになった土佐に近づき、その真意を探った。

 

「どういうつもりかしら……?」

 

「勘違いするな腰巾着。私はお前ではなく、姉上を庇ったんだ。たまたまお前が姉上の近くにいたからだ」

 

 土佐はこう言ったが、これが嘘だと赤城はわかっていた。何故なら、加賀を守るだけならわざわざ赤城と加賀両方の前に立つ必要が無いからだ。

 

 赤城は土佐に素直じゃないと言おうとしたが、それは自分も同じ事だと自覚していた為、その言葉を飲み込み、別の言葉を土佐に送ろうとした。

 

「ありがとう土佐。ここからは任せなさい」

 

 土佐は驚いた様に目を開き、赤城を見た。

 

「……何かしら? 私の顔に何か付いている?」

 

「いや、まさか感謝されるとは思わなかっただけだ」

 

「そこまで薄情じゃないわよ。……家族なんだから」

 

「……そうか……そうだな。姉上、赤城。後は任せる」

 

「あぁ。ゆっくり休んでおけ」

 

 加賀は土佐の頭を撫で、土佐を労った後、赤城と共に島風に目を向け、式神を構えた。

 

 赤城と加賀、一航戦の巨大な圧に島風は圧倒され、無意識に1歩ずつ後ろに下がっていた。

 

「こ、これが一航戦の迫力ですか……」

 

「こうして面と向かって話すのは初めてかしら? 駆逐艦島風。貴方とはゆっくりお話がしたかったのよ。弟の優海についてね」

 

「し、指揮官の事ですか?」

 

「単刀直入に言うわ。……優海の事はどう思っているのかしら」

 

 返答次第で速攻で島風を倒す。赤城はそう決意し、加賀はそんな赤城を姿を見てブレないなと呆れつつも、島風の返答に少し気になってはいた。

 

 対する島風は質問の意図が読めず、とりあえず素直に話そうとしていた。目を閉じて優海の事を思い浮かび、少し悩みながらも質問には答えた。

 

「指揮官殿はとても良い人で尊敬しています! 着任したての島風と駿河殿にとても親身に接してくれたりして……まるで太陽みたいな方です!」

 

「尊敬ね……じゃあ、優海にあんなにベタベタしてるのは何故かしら?」

 

「ベタベタとは?」

 

「貴方が優海に躊躇無く抱きついたりとかしているの知っているわよ? 優海とはどういう関係でどうしてそんな事するのカシラ?」

 

(また姉様の悪い癖が始まったな……)

 

 いつもの事だが呆れた加賀は攻撃の準備をし、赤城は島風に向けて純粋な殺気を向け、笑顔が能面の様な不気味さと恐ろしさを醸し出した。

 

「何でと言われましても……うーん……なんというか、気が置けないから?」

 

「よし、燃やすわ」

 

「何故ー!?」

 

 ノータイムで赤城は自身に紅蓮の炎を纏った巨大な黒狐を呼び出し、黒狐は口を開き、全てを焼き尽くす炎を躊躇いもなく島風に向けて放った。

 

 赤城から感じていた殺気のおかげで回避は出来つつも、やはり激しい攻撃に島風は回避するのに精一杯だった。

 

「し、島風は何か悪い事を言いましたか!?」

 

「ただ私は優海に這い寄る害獣を駆除するだけよ! 加賀、貴方も手伝いなさい」

 

「了解した。相変わらず身内以外には手厳しい姉だ」

 

 加賀も赤城同様に白い獣を呼び出し、獣は周りに白い炎をいくつも浮かべ、赤城の攻撃に合わせるように炎を飛ばした。

 

 直線的な赤い炎と時間差で弾丸のように飛んでくる白い炎の攻撃を避け続けるのは、いくら島風の速さを持っても不可能だ。だが、島風に随伴するようにチェシャーが遅れて島風の傍につき、得意の対空で加賀の攻撃を全て撃ち落としていく。

 

「チェ、チェシャー殿〜! ありがとうございます〜!」

 

「島風ちゃん早いから遅れちゃったにゃ。ささ、ここからは2人で頑張ろうー!」

 

「いいや! 3人だ!」

 

 上空から高らかな笑い声を出しながら太刀を振り落とし、その太刀の斬撃で2匹の獣の首が切られ、獣は残炎となって消え、炎が浮かぶ海の上には、先程土佐と戦闘していた白龍がいた。

 

「はっはっは!! 中々見事だったぞ戦艦土佐! さて……次はお前達だ一航戦!」

 

「土佐をここまで損傷させたのか……だが、お前もかなり疲弊している様子だ」

 

 加賀の言う通り、土佐の艤装も相当ギリギリを保っていた。恐らくあと一発でもまともな攻撃を受ければ大破認定される程だろう。

 

 だが白龍はそんな事を気にせずに防御無視の攻撃を繰り出し、太刀から白い龍を帯びた斬撃が赤城と加賀2人に襲いかかる。

 

 赤城と加賀は白龍の斬撃を式神の壁で受け流し、式神は斬撃で紙くずとなった。その後島風が続くようにして赤城達の懐に飛び込み、島風は刀はあとほんの数センチで赤城に届く所を、赤城と加賀は後ろに下がり、逆に島風に向けて炎を纏った式神を投げつけて島風の艤装に直撃した。

 

「空母だからって、接近の心得が無いわけじゃないわよ?」

 

「ぐぬぬ、流石ですね……ですが、島風の速さは並ではありませんよ!」

 

「それはどうかしらね?」

 

 赤城はニヤリと怪しい笑みを浮かべると、明石が次のアナウンスをした。

 

『空母インプラカブル、軽巡エムデン2隻、大破にゃ!』

 

 

 

 

 

 

 

「……やられた」

 

 いきなり盤面を狭く使ったチェス戦法によって天城母さんの王を包む様な形で追い込み、序盤の不利を帳消しにする程形成は逆転した。

 

 こうなれば後は要所要所の逃げ道を潰せば母さんは詰む。

 

 ……だが、母さんはこの戦法すら読んでいた。

 

 盤面を狭く使うと言うことは、それだけ駒一つ一つの逃げ道も狭くなるということだ。当たり前だけど、駒の動く先に駒があればそこには動かせないし、端に行けば行くほど逃げ道は塞がれていく。

 

 そして結果、飛車と角のような大きく盤面を動き回る駒は大半の強みを失ってしまう。だが、その駒は成りさえすればそれは解消される。

 

 母さんは飛車を動かして駒を竜王へと成らせた。この駒を取らなければかなり不利になる為、横にある金で取らなければならないけど……

 

(ここを金で取ってしまえば王を守るのがきつくなる……!)

 

 だが取らない選択肢は無かった。仕方なく隣の金で飛車を取り、王の守りを捨てた所を母さんは一気に攻め始めた。

 

 どこまで俺の作戦読んでるんだ天城母さんは……! 

 

「さぁ、どんどん行きますよ」

 

 守っても守っても駒が取られていき、持ち駒はこっちの方が圧倒的に強いのにそれを活かせる盤面では無い……! 

 既に俺の王の前には金や銀、桂馬や歩がゆっくりと囲い込み、守る駒を失いつつあった。

 

 自分で自分の首を絞められるような状況になり、指揮官としての未熟さが嫌でも浮き彫りになっていた。

 

『空母インプラカブル、軽巡エムデン2隻、大破にゃ!』

 

 まずい、向こうでも2隻が大破してしまい、人数的にも不利になった。しかもあの2隻が大破したって事は……今後衛にいるのは駿河だけだ。

 

 ここで駿河を失う訳には行かない。そして今の状況でも守りの駒を失ったらその時点で負けだ。

 

 なら、取る行動は1つのみだ。

 

 攻める為に使っていた飛車を手に取り、その飛車を自軍の前まで後退させた。

 

「……ほう」

 

 ここで母さんは想定外の動きを見せられたせいか、長考を始めた。ここは……我慢勝負だ。

 

 

 

 

「白龍殿チェシャー殿! すみませんがここは頼みます!」

 

「お? 駿河ちゃんの所に行くのかにゃ?」

 

「すみません、やっぱり駿河殿を放っておくことが出来なくて!」

 

「構わん! 行け!」

 

「勿論、いっておいでにゃ!」

 

 島風は2人に礼を良いながら全速力で駿河の所に戻っていく。海の上を跳ねながら駆け抜けるその様は、稲妻の様だった。

 

 もっと速く、息をする暇すら惜しいと島風はただ早く動く事だけを考え、駿河の元へと駆け抜けた。

 

 もっと速く、風よりも、疾風よりも、嵐よりも速く、速くと強く願った島風の目が、一瞬黄金に輝いた。

 

 黄金に輝いた目と同調するように島風はその一瞬だけ風も光も超えたかのような速さを手に入れた。

 

 島風は自分の異常的な速さに戸惑いながらも足を止めずに走り、僅か数分で駿河を目視で確認できる距離まで駆け抜け、同時に目視した愛宕達に向けて主砲を放った。

 

 その異常な速さに気づいた愛宕達は咄嗟に島風の攻撃を躱し、島風は愛宕達を抜けて駿河の前に立った。

 

「大丈夫ですか駿河殿!」

 

「し、島風……アンタ、いくらなんでも速すぎない?」

 

「島風にも分かりません。何だか体のそこか、力が湧き上がった様でしたが……そのお陰で駿河殿をお守り出来ます!」

 

 島風にも説明出来ないこの現象に、見覚えのあるKAN-SEN達は何人かいた。その中には、愛宕や高雄、そして綾波も含まれ、3人は目を合わせてあの時の事を思い出した。

 

「……さっきの島風ちゃんの目って、昔エンタープライズも同じような目をしてたわよね?」

 

「あぁ。だが、エンタープライズと違って一瞬の現象の様だが」

 

 そう、エンタープライズが敵味方問わず圧倒したあの現象。あの時とは違い、一瞬だったせいか暴走状態の様な事にはならなかったが、綾波達の警戒心は一気に跳ね上がった。

 

「……どうやら、気を抜く暇は無さそうです」

 

「な、何か向こうの人達やる気満々みたいね」

 

「大丈夫です! 島風と駿河殿なら乗り越えられます!」

 

島風はこの状況で駿河に笑いかけ、自信満々に乗り越えようとし、その状況を楽しむ蛇の影が1つあった。

 

「ふーん……あの子がねぇ……エンタープライズと戦わせたら、面白い事がおきそうね」

 

どのテネリタスが好き?

  • ロリママ創造者の2代目 ラハム
  • 人類最強の天然3代目 アトラト
  • 食いしん坊な絶対守護者4代目 シーア
  • 武士道と極める騎士5代目 ロドン
  • 風のように自由なガンマン6代目 セイド
  • 完璧で究極のアイドル7代目 マリン
  • おっとり包容力で全知全能の8代目 ミーア
  • 元人間のセイレーン 10代目マーレ
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