もしもアニメのアズールレーンに指揮官が出てきたら〜2nd season 海上の誓い〜   作:白だし茶漬け

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島風復刻ありがとうございます……!

本日のメンテから島風が少々特殊な建造方にて排出しましたね。これは是非ともお迎えしたいですね。
キューブの方も丁度テンペスタの面々で使い切ったのでこの方法はありがたい事です……笑


威厳と期待

 

 数分前の出来事だ。

 

 演習にてインプラカブル、エムデン、そして駿河の4隻は高雄、愛宕、綾波の3隻と対峙していた。

 

 エムデンは2人で1人という性質を活かし、愛宕と高雄との戦闘を始め、自分自身が2人という理論上理想的なコンビネーションを愛宕達に繰り出し、愛宕と高雄は苦戦を強いられていた。

 

 しかもエムデンは軽巡洋艦でありながらも火力が出せる特殊を重ねたKAN-SENであり、重巡の愛宕達は機動力に置いても不利を重ねていた。

 

「くっ……面妖な動きをする!」

 

「どうしましたか? エムデンを倒したければもっと頑張らないと♪ 「それともそれが限界なのかしら? だったら滑稽ね」」

 

 エムデンは戦闘中にも関わらず愛宕達の神経を逆撫でしたが、愛宕と高雄はその程度では動じなかった。

 

「限界ね……確かに今までの私達ならそうだったかもしれないわね」

 

「だが、拙者達も日々の鍛錬で強くなっている。今ここでそれを証明する!」

 

 愛宕と高雄はエムデンに接近し、持ち前の剣術でエムデンを倒そうとしていた。

 

 しかしエムデンはそれを分かっていた。接近戦に持ち込ませまいとエムデンは魚雷を機雷の様に扱い、愛宕と高雄の進軍を止めようとした。

 

 だが、見通しが甘いと高雄は心の中でそう言った。高雄は両手で刀を握りしめ、刀を下から上へと力強く振り上げると、刀から重い斬撃が海を割り、浮かぶ魚雷を切り裂き、斬撃はエムデンを切り裂いた。

 

「まぁ……! 「中々やるようね」」

 

 驚きながらもエムデンは動揺はせず、斬撃と共に突撃していた愛宕から目を離さず、愛宕に主砲を向けた。

 間髪入れずに主砲を打ち出したエムデンの榴弾は愛宕に向かって行き、大破必須の攻撃に対し、愛宕は刹那に刀を抜き、榴弾を斬った。

 

 1秒、いや0.1秒未満の中での居合はKAN-SENでさえも認識するのは不可能に近かった。

 

 目では追えない居合を避けられる術は無く、エムデンは愛宕の攻撃を受け、背負っている艤装に切り傷を受けた。

 

 この時初めてエムデンの顔に動揺が浮かび、エムデンが愛宕達に向けていた態度を変えた。

 

 エムデンは顔を見合わせ、本気で行くと心で通わせた後、エムデンは互いの手を握ると、エムデンの龍の形をした艤装が白と黒に染まり、それぞれが黒い光と白い光を集めさせていた。

 

「ここまでエムデンを本気にさせたお礼にご褒美を差し上げます「しっかりと堪能しなさい」」

 

 明らかに軽巡の火力では無い攻撃を悟った愛宕と高雄はあのチャージが終わる前にカタをつけようとしたが、エムデンの前に突如光の壁が愛宕達の接近を遮った。

 

 光の壁が突如出てきた事に驚きつつも、愛宕達は砲撃して壁を壊そうとしたが、壁は壊れるどころかヒビひとつすら入らず、壁の向こうのエムデンは無駄な事だと言うようにクスクスと小さく笑っていた。

 

「残念だけど、生半可な攻撃じゃその壁は壊せないわ」

 

 エムデンとは違う方向から声が聞こえた愛宕達は、直ぐにそこにいたインプラカブルの姿を捉えた。

 

「どうやら貴方がこの壁を仕向けたようね」

 

「ええ。どうする? 壊すか、私を退けるからしたら壁は無くなるわ」

 

「だったら貴方をどうにかするわ。その清楚の姿形が無い服装は、優海君の目に毒だもの」

 

 愛宕は柔らかい口調ながらも徐々に低くなるトーンでインプラカブルへ怒りの態度を顕にした。

 

「あら、聖職者の服装に文句があるのかしら?」

 

「……高雄ちゃん、エムデンの事を頼めるかしら。私はあの淫行聖職者の相手をするから」

 

「それは構わぬが……激情に駆られてはならぬぞ」

 

「うふふふ、大丈夫よ。じゃあ、頼むわね」

 

 愛宕は高雄を後にし、インプラカブルとの一騎打ちを選んだ。インプラカブルへの対抗心もあるが、愛宕は高雄なら例え擬似的な2対1の状況でも何とかするという信頼があった。

 

 姉妹艦なのか、それとも多くの時を過ごして来た戦友としての勘なのか、それは他人からでは分からない。それが指揮官だったとしてもだ。高雄は言葉を交わさずとも愛宕への信頼を通じ、その信頼に応えようとエムデンに刀を向けた。

 

 この戦闘の最中、近くではもう1組の戦闘が始まっていた。

 

 駿河と綾波の戦闘だ。意外にも駿河は綾波と善戦している状態であり、綾波は駿河が展開するシールドに苦戦を強いられていた。だが、駿河も防御に集中してしまって思うように動けず、攻撃に転ずる事は出来なかった。

 

「そっちも攻撃しないと勝てないのです」

 

(防御しないと負けるからでしょ!)

 

 止まることの無い連撃に駿河はどうしても攻撃する事は出来ず、シールドも保たない時が来ていた。

 

 駿河はこの激しい攻撃にある事に気づいた。それは決して戦闘に関与している訳では無いが、それでも好奇心から駿河は迫り来る綾波に問いた。

 

「あの! なんか攻撃に怒りのような物が混じっているような気がするんですけど……」

 

 綾波は駿河の問に反応し、思わず体を強ばらせ、駿河から顔を背けた。その後、少しだけ口を尖らせて駿河に目を細めた。

 

「……ちょっと羨ましいだけです」

 

「羨ましい?」

 

「駿河は指揮官の特別編成に入ってるです。だから、演習が終わる時に指揮官に労って貰って……ずるいです」

 

「へ? それってつまり……しっt」

 

 駿河が全ての言葉を言い切る前に綾波は駿河に斬りかかり、駿河は咄嗟に腕をクロスさせて綾波の剣を受け止めた。

 

「違うです。別に羨ましいとか嫉妬とかしてなんか……無いです」

 

 綾波は照れ隠しをしていたが、駿河の目には頬を少しだけ赤く染めた綾波を映していた。どれだけ本人が否定しても、その顔を見れば誰が見ても綾波の本心が理解出来る物だった。

 

(うわぁ……わかりやすっ)

 

「むっ、なんか失礼な事を思っているです。先輩として指導するです」

 

「横暴過ぎない!?」

 

「それが先輩なのです!」

 

 綾波が駿河を一刀両断しようとしたその時、後ろから颯爽と現れる刀に綾波の剣は弾かれ、駿河に攻撃が届かなった。

 

 そして駿河の前には、先程まで前線にいた筈の島風が立っていた。

 

「お待たせしてしまい申し訳ありません、駿河殿! 島風、ただいま参りました!」

 

 

 

「……まずいな」

 

 優海はそう呟き、将棋の盤面を眺めた。さっきまで優勢だった盤面が一気にたった数手で形勢が逆転してしまった。優海の王の周りには金銀桂が包むようにして配置され、その内側には歩が散りばめられ、逃げられる場所は一見無さそうに見える盤面だった。

 

(飛車を戻せば何とかなりそうだけど……)

 

 それは決して良い手では無い。勿論ケースバイケースもあるが、優海も決して王に届かない盤面では無い。

 持ち駒を活かせば何とかなると踏んで優海は持ち駒で守りを固めようとした所、優海は直前に頭に電流が走り、持ち手を指す手を止めた。

 

 優海は考えた。この事を天城は予測しているのではと。

 有り得るかもしれない。だが、確信は無い。いくら家族と言えど、頭の中までは分からないものだ。

 ならばこそ、優海は自分の母親を信じ、敵陣深くまで成っていた飛車……竜王を一気に自陣まで戻し、攻めに使っていた天城の金を取った。

 

「……!」

 

 この行動に天城は今日一番の衝撃を受けた。明らかに将棋のセオリーではないからだ。

 将棋の格言には『玉飛接近すべからず』という言葉がある。

 

 これは所謂、王の近くに飛車を近づけてはならぬという意味だが、優海はこの格言を知っていながら飛車を王の近くまで持ってきた。つまり、悪手だ。だがその悪手が天城の心理を付き、場を流れを変える一手となった。

 

「これは……ある意味凄い手ですね」

 

 悩ましく盤面を見つめる天城を見た優海は、内心誇らしげだった。今まで将棋で勝った事はおろか、善戦すら出来ていなかった相手にここまでやれるという事実に、優海は喜びを感じていた。

 

 だが、ここで終わっても良いという考えは優海には無い。最後まで優海は、天城に勝つ事しか考えていない。この将棋に対しても、演習に対してもだ。

 

(そろそろエムデンが動くか……?)

 

 チラリとモニターに映る演習の様子を見た優海の目には、高雄と対峙するエムデンが映し出された。エムデンはインプラカブルが出した光の障壁に守れながら、艤装のチャージが完了し、高雄に向けて二門の主砲を向けた。

 

「結局頑張り損でしたね「ご褒美に惨めな敗北をあげるわ」」

 

 エムデンの前の障壁が消えたと同時にエムデンは容赦なく二門の主砲から黒と白の光を纏った榴弾が、高雄に襲いかかった。

 

 しかし、高雄は堂々と腰を下ろし、刀の柄に手を添えた。

 

「諦めたのかしら?」

 

「断じて否! この程度の事に乗り越えられなければ、『最強』の名に傷がつく!」

 

 高雄と榴弾の距離が近くなる。あと数秒も無い所で直撃するその刹那、高雄は刀を抜いた。

 

 大きく半月を描くように刀は振られ、まるで刀が巨大化した様な荒々しい振りは2つの榴弾を斬った。斬られた事にようやく気づいたかのように榴弾は高雄の後ろを通過した後に爆発し、エムデンは驚きで動きを止めた。

 

「まぁ……「なかなかやるわね」」

 

「弟子が見ているんだ。負ける訳にはいかぬのでな!」

 

 高雄はもう一度半月を描く様に刀を振り、振った刀の軌跡から斬撃が放たれ、エムデンに襲いかかった。斬撃は視認がしづらく、エムデンは回避不可だと悟った。

 

「あんまり舐めたら……「酷い目にあうわよ」」

 

 だがエムデンもすかさず反撃し、それぞれ一発ずつの榴弾を高雄に向け、その榴弾が高雄に直撃すると同時に斬撃もエムデンに当たり、痛み分けという形になった。

 

 両者共に致命傷を負い、大破認定は確定だが、高雄だけは歯を食いしばり、膝を付くことは無かった。

 

「っ……はぁ……はぁ。中々の強敵だったな」

 

『エムデン、大破にゃ! だけど高雄も相当なダメージが入ってギリギリにゃ!』

 

「ふぅ……少しは優海(弟子)に格好がついたか?」

 

 高雄は急いで愛宕の元に援護を向かおうとしたが、思ったように体が動かず、そのまま立ち尽くしていた。

 

「すまん、少しばかり任せたぞ愛宕!」

 

「了解! 任せて!」

 

 愛宕は高雄の奮闘に鼓舞され、インプラカブルに迫っていく。たが、インプラカブルが放つバリアの様な物によって、思うように攻撃が通らずにいた。

 

 しかしインプラカブルからは艦載機による攻撃で愛宕を一方的に攻撃を仕掛けていた。

 

 攻撃は通らず、空中からの攻めに愛宕は苦戦を強いられ、やがて愛宕の艤装に爆撃が直撃し、被弾した所で火が拭いた。

 

 明石からのアナウンスがない事から、まだ大破認定では無い様子だった。

 

「あら、まだ大破はしていないのね。慈悲を与えたつもりは無いのだけれども」

 

「貴方が慢心しているだけじゃないのかしら?」

 

「それは無いわよ。陛下が見て、指揮官の元で戦う今、敵に対して何故慢心する必要があるのかしら」

 

 インプラカブルは柔らかい口調ながらも、その芯は硬かった。今インプラカブルの目には、仲間のKAN-SENでは無く、単なる敵として見えていた。

 

 だが、ある意味それは愛宕も同じだった。愛宕の目に映っているのは、シスターの名を冠した悪魔だと。

 

「そうね……優海君を誘惑する人に慈悲なんて無いわよっ!」

 

 愛宕は鋭い突きをインプラカブルに向け、その突きは鋭い斬撃を生み出し、斬撃がインプラカブルの頬を掠め、インプラカブルの頬に血が流れた。

 

「知ってるわよ! 破廉恥な衣装で優海君を誑かしている事をね! 毎回毎回純情な優海君を誘惑して、腹が立っていたの!」

 

「誘惑だなんて……ふふ、私は指揮官に素直になって欲しいだけで、誘惑なんてしてなわいよ」

 

「じゃあロイヤルの礼拝堂で優海君にベッタリくっ付いたのは何かしら?」

 

 インプラカブルは数秒固まり、何も言わずにクスリと笑うだけだった。それが何を意味するかは分からないが、愛宕にとってそれは、自分にとっては怒りの着火剤となった。

 

「お仕置……確定ね」

 

 愛宕の怒りに満ちた刀の突きに、インプラカブルは余裕を持ってバリアを張った。

 

「いくらやっても同じよ」

 

「そう……かしら!?」

 

 愛宕は何度も何度も突きや斬りを目にも止まらずに繰り返した。だが、闇雲では無かった。その証拠にインプラカブルのバリアに亀裂が走り、インプラカブルは初めて動揺を見せた。

 

 愛宕は今まで、普通の攻撃を繰り返していた訳では無く、同じ所に何度も攻撃を集中させたていたのだ。

 

 初めて攻撃を通らなかったあの瞬間から、愛宕はこの突破方法を思いついており、その時から連続で攻撃をしてしたのはこの為だった。

 

 一点集中による連続攻撃。数mmのズレも無いその攻撃は、針の穴を縫い付けるかの様な技量が必要だ。見た目以上に繊細さが無ければ出来ないことを、愛宕は涼しい顔でやってのけていた。

 

(迎撃が間に合わない……!)

 

「これで終わりよ!」

 

 亀裂がバリアの全体に走った瞬間、愛宕は最後の突きをする様に足を前に出して刀を突き抜けると、インプラカブルのバリアは破れ、その衝撃でインプラカブルの体制は崩れ、愛宕はその隙を見逃さずに主砲を構え、ありったけの榴弾をインプラカブルに放った。

 

 防御する術を失ったインプラカブルは砲撃の直撃によって吹き飛ばされ、艤装と共にボロボロとなった。

 

『インプラカブル大破にゃ! しかし愛宕もギリギリにゃ!』

 

「はぁ……はぁ……優海君の純情はお姉さんが守るんだから」

 

「ふふ……随分と欲にまみれてるわね、私が言う事では無いけど」

 

「そういう点では、似てるかもね。私と貴方って……」

 

 戦闘が終わったせいか、愛宕とインプラカブルは互いに笑いあった。

 

 だが、まだ戦闘は終わってはいない。インプラカブルとエムデンが大破した結果、島風の部隊が残っているのは島風、駿河、白龍、チェシャーの4隻だ。

 

 一方で、ダメージこそあるが相手はまだ誰一人として大破しておらず、人数での不利は否めなかった。

 ここで1人でも大破に持ち込みたいのが、優海や島風たちの考えている所だ。

 

 そしてその島風が対峙しているのは、重桜でも指折りの実力者でもある鬼神、綾波だった。

 

「2対1ですか。良いハンデなのです」

 

「ではそのハンデを余すことなく使わせて貰います!」

 

 島風は自前のスピードで綾波に突撃をかけ、綾波に向けて腕に装着された副砲で牽制をかけた。

 

 しかし、綾波はその牽制を最低限の動きだけで軽々と避け、空を蹴るようは動きで足を振り上げ、その勢いで足元に装着した魚雷を投げつけるように発射させた。

 

 発射した魚雷は島風の進行方向に向かい、島風は魚雷に気づいてもスピードに乗りすぎて急には止まれず、そのまま自分から魚雷に直撃してしまった。

 

 魚雷を直撃した島風はバランスを崩し、まるで飛び石の様に跳ねながら吹き飛ばされた。

 

「確かに速いです。けど、動きが単調すぎるです。そんなのじゃ綾波には勝てないです」

 

「なら、これならどうですか!?」

 

 今度は綾波に動きを悟られないように蛇行しながら綾波に近づき、綾波の周りを囲むようにして旋回し続けた。

 確かにこれならば動きを勘づかれず、攻撃は通る筈だ。

 

 島風はそう考え、3周半してようやく綾波の背後を突き、艤装に向けて副砲を撃った。

 これは当たると島風は確信したが、綾波は超人的な反応で島風の方に体を振り向かせ、綾波は攻撃を交わし、島風の横腹を蹴った。

 

「甘いです」

 

「島風!!」

 

 吹き飛ばされた島風を駿河が抱き抱えた。

 

「やはり綾波殿は強いですね……駿河殿! 援護は頼みます!」

 

「……アンタ、なんでそんな前向きなのよ」

 

「ほぇ?」

 

「なんで前向きなのかって聞いてるのよ! 人数も不利で、前線も崩壊気味、そして貴方もボロボロ! どう見ても勝てる見込みないじゃない!」

 

 駿河はこの不利な状況と、綾波との技量の差に心が折れていた。だが、島風の態度を見て、駿河は溜まりに溜まった物を吐き出すようにした。

 

 島風はそんな駿河の溜めを受け止めるように応えた。

 

「……皆さんが諦めないからです」

 

 島風は駿河から離れ、よろめきながら立ち上がった。

 

「ここまで島風達と戦ってきた皆さんは、どんな状況になっても諦めていませんでした。だったら、その方達に失礼がないように島風は最後まで戦うだけです!」

 

「島風……」

 

「それに、島風には駿河殿が付いています! 駿河殿は凄い方だと知っていますから! だから……まだやれます!」

 

 島風は駿河に信頼を寄せた笑みを向け、駿河の援護を期待して綾波に突貫した。

 

「……何よ、何勝手に期待してるのよ」

 

 たった数日共に戦ってきただけどと言うのに、絶大な信頼を寄せられ、プレッシャーが襲いかかっていた。

 

 とある理由から、駿河は極度に目立つ事を嫌っていた。

 

 そしてこの状況は嫌でも目立ってしまい、駿河にとっては、一刻も早く逃げ出したい状況だが、逃げ出す訳にはいかなかった。

 

 大衆に見られているのもあるが、何より、KAN-SENとしてのプライドや島風に頼られては、それを裏切る訳にはいかなかったのだ。

 

 駿河は期待された事へのお返しを胸に顔を上げ、前へと飛び出た。

 

「ちょっと動きが変わったです……。だけど、負けるつもりは無いです」

 

 駿河の心境が変わったのを動きで察知した綾波は更に集中し、駿河の方にも意識を向けた。

 

「くはは! あちらもどうやら盛り上がっているじゃないか!」

 

 綾波達の向こうでは、白龍とチェシャーが赤城、加賀、そして中破状態の土佐と戦っていた。

 

 空母の攻撃はチェシャーが迎撃し、その隙に白龍が一気に攻めるという、2人の性格とは裏なバランスの取れた戦い方をしていた。だが、手練が複数かつ人数不利を背負っているせいか、決めてには欠けていた。

 

 攻めこもうとしてもお互いをカバーしあう赤城達との連携で刀は弾かれ、白龍は斬撃を飛ばそうとにもそれは炎の壁によって塞がれていく。

 

「随分と我に楯突くがここまでだ! この一撃で貴様ら全員葬り去ってやるわ!」

 

 白龍の刀からは紅蓮の炎が龍の形になって燃え盛り、炎は白龍の何倍……いや、数十倍の大きさにも燃え、3隻のKAN-SENを葬り去るのには充分過ぎるほどの火力だった。

 

 勿論これは演習であり、大破こそはするが轟沈、つまり人間でいう命を落とす事は無い。だが赤城達はそうは思ってはいない。油断すれば命を落とすのは必至であると思わせる程の迫力は、彼女達の動きを一瞬止めた。

 

「隙ありニャっ!」

 

 そしてその一瞬が命取りとなった。動きを止めた隙を見たチェシャーが、特殊弾である肉球の形をした弾幕を赤城達に撃ち続けた。

 

 ふざけた形をしているが威力は通常の榴弾と変わらない威力だ。しかも主砲からでは無く上から突如隕石の様に降ってくる肉球の雨により、赤城達は白龍の巨大な炎の大剣を受けざる負えない状況まで追い込んだ。

 

「赤城、姉上を頼むぞ」

 

「土佐!?」

 

 土佐は防御するどころか白龍に向かって突貫し、再度体に銀色の獣の様なオーラを纏った。

 オーラを纏った土佐の動きは更に鋭敏になり、槍の如く白龍へと向かう。向かってくる土佐に対し、興味と無謀さを感じた白龍は、己の勝ちを確信した笑みを土佐に向け、炎の大剣を振り下ろした。

 

 振り下ろされた炎の大剣は海を焼き、直線上にいる赤城と加賀を飲み込もうとしたが、白龍の太刀と土佐の刀がぶつかり合う距離まで間に合った加賀は、白龍の太刀を刀で受け止め、炎の大剣は土佐の鍔迫り合いでその歩みを止めた。

 

「無謀だな! 玉砕覚悟で向かおうとても、三下の戦艦にこの我が倒せるものかっ!!」

 

 土佐の体には限界が来ていた。戦闘開始直後での白龍の戦闘でかなりの無理をしたからだ。着ている衣装の一部は焦げ、艤装の火花は自身の体の悲鳴の様であった。

 

「ぐっ……っぁぁ」

 

「やはり限界のようだな! そんな状態で我に勝てると思ったら笑止千万だ!」

 

 それでも土佐は悲鳴を上げる腕と足で振り下ろされている炎の太刀を受け続けた。

 

 歯を食いしばり、軋む骨に刀からは鈍い音と亀裂が走る。もう限界は近い。仮にここで受け止めきれたとしても、その後の戦闘に参加するのは不可能だ。

 

 たかが演習に、ここまで執念深く勝利に執着するのは何故だろうか。

 

 MVPを取り、他者に認められたいからでは無い。それよりももっと単純だった。

 

「勝つとか……そういう大層な物は……無い!」

 

「何だと? だったら貴様は何故それ程までに戦う!」

 

「決まって……いるっ!」

 

 太刀を受け止め続け、最早折れる寸前の刀から白銀の炎が刀を喰らい、土佐の身体を喰らうようにして燃え上がった。

 

 白銀の炎は獣の姿となり、紅蓮の炎を食い破るかのように燃え始めた。散り際が最も美しく輝く薔薇のように、残った篝火が最後の一瞬で燃え上がるが如く、土佐の炎は一気に広がり、一瞬で紅蓮の炎を燃え尽きさせ、同時に土佐の刀は粉々になって折れた。

 

 だが土佐の心は折れなかった。刀が折れても攻撃は出来る。爪がダメなら牙で、牙がダメなら骨で、骨がダメなら命で敵を倒すか如く、土佐は獣の叫びを上げながら白龍の喉元へと駆け抜ける。

 

「姉として……弟に無様な姿を見せない為だぁぁぁぁぁ!!」

 

 土佐は折れた刀で白龍の刀を吹き飛ばし、刀を失った白龍は自身の性格ゆえ、戦意を失った。

 

「あぁ! 我の刀が〜!」

 

「終わりだっ! 白龍!」

 

「ひゅぃっ!」

 

 刀を失って弱々しくなった白龍は土佐の攻撃をまともに受け、艤装の大半がズタボロになると同時に、白龍の艤装が火花を大きく散らし、土佐の艤装も爆発して大半の機能は失い、その損傷が自身の体に受けてしまった土佐は勝ったのにも関わらず、膝を付いて倒れてしまった。

 

「あとは……頼んだ……」

 

「わ、我の刀どこなの〜!!」

 

『土佐、白龍! 共に大破にゃ! というか土佐の大破はヤバいにゃ! 誰か早く連れてけニャ〜!!』

 

「土佐姉さん……!?」

 

 土佐と白龍の戦闘を一部始終見た優海は、一手を指したと同時に部屋から飛び出していった。

 天城も土佐を案じて優海と同じ様に飛び出したが、優海が指した一手を一瞬見た後、優海の後を追いかけた。

 

『さぁ! 残り時間も少ないことで、現在は赤城の艦隊が優勢にゃ!』

 

 明石の言う通り、状況は赤城達が優勢だ。損傷率も、人数も負けている状況の中、ここから島風達が勝つには綾波、愛宕、高雄の3人を倒す事だ。

 

 だがその3隻は数々の戦いを潜り抜けた手練だ。島風と駿河もそれを理解しており、口にする事さえ難しい事だ。

 

 だが、そうでもしないとダメだ。勝つ為には、土佐の様に己を犠牲にしてでも敵に喰らいつくしかないと、駿河は考えた。

 

「……島風、聞いて。今から私があの人達の攻撃を全て受け止めるわ」

 

「えぇ!? それじゃあ駿河殿が持ちませんよ!」

 

「何とかするわよ! でもその代わり、絶対にあの人達に勝ちなさいよ!」

 

 駿河は島風を【信頼】していた。島風から向けられていた感情を、今度は駿河が島風に向けられており、島風は自分が向けていた信頼という名の重圧が鉛のようにおしかかった。

 

 だが、同時に使命感にも似た感情も島風を支えていた。期待という信頼を向けられ、共に戦ってきた駿河から信頼を向けられたという事実が、島風にとってプレッシャーを感じるよりも、嬉しい事だったのだ。

 

「はい! 必ず駿河殿の屍を超えて勝利します!」

 

「誰が屍になるか! ……良い? じゃあ……行くわよ!」

 

「了解!」

 

 駿河は島風の前に立ちながらバリアを前方に展開し、綾波に突撃をかけた。

 

「特攻……!?」

 

「愚策だ! 綾波、避けて3人で囲むぞ!」

 

 綾波は高雄の指示を受けて駿河の特攻を鮮やかに交わし、高雄と愛宕は駿河と島風を囲み、一定の距離を保ちつつ、一斉に砲撃を開始した。

 

「来た……!」

 

 駿河は島風と自身を覆う様にバリアをドーム状に貼り直し、綾波達3人の攻撃を受け止め続けた。

 

 いくら戦艦特有の装甲とバリアがあったとしても、耐久値には限界がある。榴弾の嵐でバリアに亀裂が走り、傷つき始めていた。

 

(予想よりも攻撃が激しい……!)

 

 だがまだ島風が仕掛ける状況では無い。島風はもどかしい気持ちを抑えながら駿河を信じて攻撃のチャンスを見定めていた。

 

 激しい轟音と榴弾が鳴り響く中、ついに駿河のバリアがガラスの様に砕け散った。

 

「好機ね!」

 

 バリアを破る為に一斉砲撃した愛宕達は接近戦に切り替えた。榴弾を再度装填する時間さえ煩わしく考えつつも、島風の速力で一気に距離を詰められると考えたからだ。

 

 だからまず、愛宕と高雄が先行し、綾波が遅れて魚雷を駿河に向けて射出した。これならば確実に駿河を大破まで持ち越せるからだ。

 

 そして、それは上手くいった。魚雷に気づいた駿河は島風を突き放し、駿河は魚雷に直撃した。

 

「行ってきなさい! 島風!」

 

『駿河、大破にゃ!』

 

 これで駿河は動けず、島風が攻撃するのならば接近戦を持ちかけた愛宕と高雄しかいないのだ。仮に綾波に攻撃してきたとしても、距離が十分離れている為綾波は即座に反応できる為だ。

 

 だからこそ、愛宕と高雄は攻撃されると分かっており、その心構えをしていた。

 

 だが、()()()()()()()。自分達の予想よりも速く間合いに詰まれ、島風が先に向かったのは高雄だった。

 

 高雄は反応できず、島風の刀で艤装の一部が切り落とされたしまい、高雄はそのダメージを受けてその場で崩れ落ちた。

 

『高雄! 大破認定にゃ!』

 

「高雄ちゃん!?」

 

 ここまでダメージを受けたにしても、呆気なさすぎる光景に愛宕は驚きを隠せず、島風から目を離さなった。

 だが、愛宕に目に映るのは島風の残像だけであり、損傷も相まって思うように動けなかった。

 

「さっきの一斉砲撃でガタが来たのね……ちょっと焦ったかしら」

 

「隙ありです!」

 

 背後から島風の声が聞こえたが、振り返る間もなく愛宕は艤装にダメージを受けた。

 

『愛宕、大破にゃ! これは凄いにゃ! どんどん損傷率の差が縮まっていくにゃ!』

 

「あとは綾波殿を……!」

 

 島風は間髪入れずに綾波の元に向かった。だが、綾波との距離は遠い。綾波は距離のおかげで充分に綾波を捉えたが、綾波は島風の姿に驚愕していた。

 

「島風……武装を全部パージしてるです」

 

 そう、島風は装備していた物を全て捨てていたのだ。

 個手につけられた主砲や、足に装備していた魚雷や艤装に取り付けられていた対空砲全てを捨てたのだ。

 

 これが愛宕と高雄、2人を追い込んだ秘密だった。

 

「身軽なれば、島風はもっと速くなるので!」

 

 至極当たり前の事だが、装備を捨てるのは自殺当然の行為だった。なぜなら、今島風持っている武器は刀1本だけだ。とても戦い抜ける装備では無い。

 

 後先考えず、今を勝つ為だけの考えに、綾波の頭には疑問が浮かび上がった。

 

「島風は馬鹿なのですか?」

 

「ガーン……いきなりそう言われると流石にへこみます!」

 

「だって、まだ空母の赤城と加賀が残っているのです。対空砲を捨ててこの後どうするですか」

 

「あ……あ〜確かに、そうかもしれませんね。あはは……ですが、後悔はしてません!」

 

「後悔……です?」

 

「島風にとって、あの攻撃でやられるのはとっても悔しいからです! 折角駿河殿に信頼されて、私を庇うために突き放したのに、何の成果も得られなかったら悔しいじゃないですか!」

 

「恥ずかしいから止めて島風……」

 

 自分がした行動に駿河は羞恥心で顔を真っ赤にさせて顔を疼くめた。だが島風は気にせず話を続けた。

 

「だから、今この瞬間は勝ちたいんです。駿河殿の為にも、期待された島風の為にも!」

 

「良い心構えです。でも、負けるつもりもないです」

 

 島風と綾波は構え、先に動いたのは当然島風だった。

 装備全てをパージした島風は綾波の周りを回り、残像を残すほど高速で回り、まるで複数人に囲まれている様だった。

 

(落ち着くです。攻撃を仕掛けるのは一方向だけ。そこを見極めれば問題ないです)

 

 綾波は呼吸を整え、静かに目を閉じて島風の気配だけを追った。

 

 波の小さな揺れさえも感じない程綾波は集中し、島風が攻撃する瞬間を待っていた。

 

 1周、2周、3周と島風は綾波の周り回り続け、5周半目で遂に動き出した。

 

 島風の気配がした背後に綾波は振り返り、迎撃武装が無い島風に対して艤装の副砲で応戦しようとしたが、綾波目に映ったのは島風では無く、一直線に飛んでくる島風の刀だった。

 

 島風がいない事に驚きつつも綾波飛んでくる刀を弾き返し、綾波は姿を消した島風を探した。

 だが島風の姿は無く、武装を全て捨てた島風の唯一の攻撃方法は接近戦だけだと綾波も理解している。だが海上に島風の姿や動きいた形跡が無い事から、綾波は半ば半信半疑で空を見上げた。

 

「綾波殿がしていた戦法を真似させて頂きました!」

 

 見上げた空の下には太陽を背にし、弾き返した刀を持った島風が今まさに刀を振りおろそうとしていた。

 

 太陽を背にしているせいで島風を直視出来ず、攻撃の出始めが見極められない綾波は咄嗟の防御が出来ずにいた。その僅かな時間は、島風のスピードの前では充分過ぎるほどに好機だった。

 

「取りました! 綾波殿!」

 

(やられるです……!)

 

 防御が出来ない。綾波は頭の中でそう確信し、島風の攻撃を受けるのを待つだけだった。刃が綾波に触れるその刹那、突如島風に一機の艦載機が突貫した。

 

 特攻した艦載機を受けた島風に当たると同時に爆発し、島風は爆発の衝撃で吹き飛び、意識外からの攻撃だった為かなりのダメージを受け、バランスを崩しながら吹き飛ばされた。

 

 この攻撃は綾波にとっても想定外のものであり、綾波は攻撃方向に顔を向けると、そこには加賀が青く燃える式神を持って現れた。

 

「助かったです。でも、少し遅かったです」

 

「あの猫娘に少々遅れを取ってな」

 

「や、やられたにゃ〜……」

 

「ふん、優海にベタベタと……馴れ馴れしいメス猫だったわ」

 

 どうやら赤城がチェシャーを大破に追い込んだが、赤城の方もボロボロの様子だ。やはりそれ程チェシャーが強く、ここまで加賀と赤城の2隻を食い止め事に、加賀は内心評価していた。

 

「こ、ここに来て加賀殿が来るとは……ですが、負けませ……」

 

『島風! チェシャー共に大破認定にゃ! もう動くのは禁止にゃ』

 

「えっ……?」

 

 島風は納得のいかない顔を一瞬浮かべ、直ぐにその事実を受け入れた。

 

 何故なら装備を捨てて綾波に向かったのだ。その分艤装の大部分が顕になっていた為、大破するのは容易い。

 

 そして、島風とチェシャーの2隻が大破した瞬間、演習は終了した。結果は島風達の全滅により、赤城達の艦隊が勝利した。

 

 島風は行き場のない悔しさで抱き、その場で尻餅をついて空を見上げた。

 

「負けてしまいました……」

 

 その時、島風の頬に涙が伝ったことを駿河は見た。

 

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