もしもアニメのアズールレーンに指揮官が出てきたら〜2nd season 海上の誓い〜 作:白だし茶漬け
島風の艦隊と赤城の艦隊との演習が終わり、結果は島風艦隊の全滅で幕を閉じた。
ただ決して惨敗という訳では無い。島風達も姉さん達相手に良く善戦し、本当にあと少しと言うところで勝ちを取れた演習だった。
演習が終わった後も皆島風達を称え、諦めない真っ直ぐな気持ちは皆の胸に届いていた。
そんな島風達を労いたいが、今は土佐姉さんの事が心配だった。
土佐姉さんは先程の演習で白龍と戦闘していたが、その戦闘はあまりにも激しかった。白龍の方は幸い何とも無いが、土佐姉さんの方は気絶する程の大破だった。
それ程の死闘であり、土佐姉さんのおかげで赤城姉さんの艦隊は勝利したと言っても過言では無い。
そんな土佐姉さんは今、この島に設置された医務室のベットに横たわっており、そこには俺を含む赤城姉さんと加賀姉さん、天城母さんもいた。
「全く、無茶をするわ」
呆れた口調の赤城姉さんだけど、決して嫌味を言っている訳では無い。いつものような喧嘩腰では無く、感謝の気持ちが見え隠れしている言い方だった。
こんな時ぐらい素直になっても良いのにと思いつつも、赤城姉さんにとってはこれが最大限の素直さなのだろう。
本当に不器用な態度に母さんは笑い、赤城姉さんはその笑いの意味を汲み取ると珍しく母さんから照れ隠しで顔を逸らした。
「だけど赤城姉さんの言う通り無茶をしたね、土佐姉さん」
「ああでもしないと勝てなかったからな。お前はさっさとあの兎共の所に行ったらどうだ」
そう言って土佐姉さんはベットの掛布団にくるまりながら背中を向けた。
「確かに島風達のところに行って労いたいけど……島風が何故か見当たらなかったんだ」
「呼んでも来ないのか?」
「うん……」
加賀姉さんの言う通り、こっちから連絡を飛ばして呼ぶという事も考えたけど、島風は一切の連絡を無視していた。何かあったんだろうかと考えたけど、それなら駿河が何か連絡を寄越して来る筈だ。
その駿河も連絡が来ないとなれば、大丈夫なのかそれとも駿河にも何かあったのか……もしかしたら、負けて悔しがって1人で溜め込んでいるのかもしれない。
もしそうだとしたら、指揮官として何か声を掛けるべきだけど……なんて声をかければ良いか分からず、今も尚ここにいる。
「それにしても今回は完敗かぁ。母さんの将棋にも負けたし」
「ですがあれは優海が土佐を案じて飛び出した結果です。こちらの勝ちというには少し語弊があります」
「らしいぞ。良かったな、愛しの弟に愛されて」
「姉上っ!」
声を荒らしながら土佐姉さんは加賀姉さんに向かって枕を顔面に向かって投げつけた。いつも慕っている加賀姉さんに向かって何か物を投げる事なんてこれまで無かったのに、珍しい物を見れて少し驚いた。
だけど加賀姉さんは怒ることも驚くこともせず、普段通り冷静な顔をしたまま枕を受け止め、枕を放り投げて土佐姉さんに返した。
「あら、散々私の事を腰巾着とか言っていたけど、貴方も大概ね」
「今すぐその減らず口を斬ってやろうか」
「その体で出来るものならやってみなさい」
「あぁもう! 何でそんな喧嘩腰なんだよ!」
土佐姉さんがこんな状況でも煽る事を忘れない赤城姉さんに呆れながらも、2人に割って入て喧嘩を止めた。
「ふん。優海、お前はさっさと島風達の所に行ってこい。指揮官なんだろ」
「でも……」
「軟弱な弟に心配される程弱っては無い。心配するな」
そう言いながら土佐姉さんは俺に背中を向けるようにして寝転び、掛け布団で顔を隠した。
土佐姉さんは今、指揮官としての天城優海と話している事がさっきの言葉で分かってはいた。
だけどその前に俺はこの家族の末っ子だ。家族の様態を心配しない家族なんてどこにいるのだろうか。
板挟みな感情の中で揺れながらも、俺は土佐姉さんの気持ちを汲み取る事にした。もしも自分が同じような状況になったとしたら、心配はかけたくないと強がるからだ。
土佐姉さんも同じ気持ちだと察し、俺は島風達の所に足を運ぶ事にした。
「分かった。何かあったら連絡よろしくね」
「良いから早く行け」
「うん。……あ、それと。演習、カッコよかったよ! 土佐姉さん」
すると土佐姉さんの耳がピクリと一瞬動きはしたが、こっちに振り返る事はしなかった。
あの時、白龍を打ち負かした土佐姉さんの姿を思い返しながら、本心を伝えた後に島風を探した。
「……要らん事を言うな、馬鹿者」
「そんなこと言ってるけど本当は嬉しいんでしょう?」
「黙れ腰巾着」
「はいはい。喧嘩はそこまでです。でないと……分かりますよね?」
「「ひっ……」」
「相変わらずだな……土佐も姉上も」
今日の演習も終わり、すっかり夜になってしまった。だけど寝るになまだ早い時間だから、島風と駿河も起きている筈だ。でももしかしたら演習の疲れでもう寝ているかもしれないから急いで島風と駿河泊まっている部屋へと走った。
幸い同じ重桜陣営が泊まっているホテルだったからそれ程時間はかからず、島風の部屋に辿り着いた。
扉の横の壁にあるインターホンを押すと、部屋の中から音がなると、駿河の声が聞こえ、扉を開けた先には駿河がいた。
「し、指揮官? こんな時間になんの用でしょうか」
「いや、今日の演習頑張ったてからさ。いつもの労いをしようと思って……」
「あぁ、いつものアレですね。ですがそれは今日したはずですよね」
「駿河や他の皆にはね。でも島風が見あらたなくて……何か心当たりとかない?」
「いえ……私もあの演習以来顔を見ていません。全く、どこに行ったのやら」
そうか。駿河も島風とはまだ1週間も経っていない仲だ。さすがに島風が行きそうな場所の心当たりは検討もつかない筈だ。
となると心配だ。駿河も見ていないということは、少なくとも部屋には戻ってないという事になる。
頭を悩ませて部屋で立ち往生した中、駿河は携帯を取り出した。
「あの、もしかしたら何ですけど……海にいるんじゃ無いですか?」
「海? こんな時間に?」
「はい。実は島風からこんな連絡があったので」
駿河は携帯を見せると、画面は艦船通信の個人メッセージチャット画面で、そしてそこには島風のメッセージがあった。
﹁少し武者修行してきます! 夜には帰ってきます! ﹂
「武者修行?」
「はい。島風、あの時の演習に負けて悔しそうでしたから……」
「なるほど……」
負けた悔しさを発散する為に海に出て特訓しているのだろうか。気持ちは分からなくは無い。負けて悔しい怒りは誰にぶつけられる物でも無く、下手すれば八つ当たりと捉えかねない。
小さい頃は母さんに将棋で負けすぎて姉さん達や愛宕さんに八つ当たりとかしてハチャメチャに迷惑をかけた覚えがある。
だから1人でやるせない気持ちを発散させるしかないけど、まさか島風がそうなるとは思わなかった。
てっきり島風はそういう物には無頓智見たいなイメージがあった。人は見かけによらず、性格にもよらずというのはこの事だ。
とにかく場所が分かったのなら話は早い。早速行くとしよう。
「じゃあ、島風を探してみるよ。一緒に来る?」
「まぁ心配ですし……」
「決まりだね」
駿河と一緒に島風を探す事になり、とにかくまずは近くの演習場に足を運んだ。
結構遅い時間の為、ここに来るのは相当練習熱心なKAN-SENだけど、その熱心なKAN-SENがいた。
夜を照らす白髪と兎の耳はまさに白兎を体現しているかのような出で立ちであり、後ろ姿で誰かすぐに分かった。
「いた。おーい島風……?」
しかし返事は帰ってこず、島風は自前の速度を活かして海の上を走り、ドローンによって動かされている3つの的に向かって模擬弾を放った。
模擬弾3つの内2つは見事的に命中したが、1つはかすりもせずに佇んでいた。1つ外した事に島風は凄く悔しそうに的を睨み、めげずにもう一度同じ動きを繰り返して動く的に狙いを向けた。
しかし一向に1つ取り逃し続けいる状態が続き、相当参っている様子だ。膝に手を置き、息も乱れている感じからかなり長い時間ここで鍛錬しているのは間違いない。
「おーい! 島風──!!」
とにかく止めさせる為に大声を上げ、ようやくこっちに気づいた島風はいつもの笑顔で大きく手を振った後、自慢の速さでこっちまで来てくれた。
「駿河殿、指揮官殿! どうしてこんなところに?」
「いつもの労いを言いそびれていたから。言おうと思って」
「それはそれは、いつも労いの言葉を下さりありがとうございます! ですが……ご期待に添えられずに負けてしまいました……」
島風は申し訳なさそうにしながら頭の上にあるうさ耳もぺたんと落ち込ませたけど、島風は直ぐに顔を上げた。
耳の方は、落ち込んだままで。
「ですが次は負けません! 次こそはご期待に添えるように頑張ります!」
島風は笑顔だったけど、それは強がりの笑顔というのは火を見るより明らかだった。
悔しい気持ちを押し殺したような苦しい笑顔はこっちの胸も締め付けられそうになり、駿河もバツが悪そうに目を背けていた。
指揮官としてここは声をかけるべきだろう。だが、こういう悔しさは他人の言葉でどうこう出来る訳じゃ無いのはよく知っている。
時間で解決する事もあるけど、多分島風の場合は無意識に悔しさが残って後々影響するタイプだ。
勿論そうじゃないかもしれないけど、今ここで空元気の笑顔を向けるということは、心配をかけさせたくない、迷惑をかけたくないという島風なりの心遣いがあるのは明白だ。
今自分が一番悔しくて、泣きたい筈だと言うのなら、他人を事なんか気にしなくていい。そう教わったんだから。
「島風」
「は、はい?」
「ちょっと付いてきて欲しい所があるんだけど、いい?」
「え? 島風は別に構いませんが……」
「じゃあちょっと失礼するよ」
俺は島風を片腕で脇から背中に手を回し上半身を支え、もう一方の手を両膝の下に差し入れ脚を支え、島風を抱き上げた。
突然の出来事に島風は手足をバタつかせて暴れていたけど、俺は気にせず、自分の艤装を展開した。
背中に青白い光が船の形となり、光が収まると白い艤装が現れ、船というには艦首が鋭利で独特な形をした物を見たせいか、島風は手足を止めた。
「これが、指揮官殿の艤装……!」
初めて出会った日、島風は俺の艤装を見たいと言っていたから、それが叶って感極まっているんだろう。
と言うより、島風よりも駿河の方が動揺し、目を渦のような形似させていた。
「ななな何をしてるんですか指揮官!?」
「ごめん駿河、ちょっとの間この辺りに人が居たら適当に追い返しておいて」
「は、はぁ!?」
「じゃ、行ってくる」
そのまま修練場の海に飛び込み、海の上を走ってこの島から抜けたと同時に、空中で武器を取り出し、その武器を変形させた。
バラバラになった武器は次々と形を変えながら組み合わさり、宙に浮く2つの長方形型の武器となった。
その上に俺と島風は乗り、俺の意思のままに2つの武器は2人を載せて空に飛んでいく。
夜風を受けながら、徐々に海から離れていく事に島風は怖さどころか気持ちを昂らせていた。
「おおー! 指揮官殿のおかげで島風が空を飛んでいますー!」
「普通じゃ味わえないでしょ?」
「はい! 指揮官、どんどん上がっちゃって下さい! 島風、もっと高い所に行きたいです!」
「りょーっかい!」
島風の要望を受けてもっと高く飛ぶと、演習に使っている島が手のひらで掴めそうな程の小ささまで飛び、これ以上は武装の出力が持たず、この辺りが限界高度だ。
大体高度3000mぐらいだろうか。島風を落とさないようにしっかりと抱きながら、明かりで綺麗なライトアップをされている島を、島風と一緒に眺めた。
「うひょー! これは凄いですね! 人が蟻のようですぞ!」
「なんか聞いた事あるセリフだ」
「1度言ってみたかったんです! ……それにしても、凄いです。こうしてみると、海はこんなにも広いのですね」
確かに島も相当大きいけど、それ以上に海は広大でだった。
夜だから真っ暗な海しか見えないけど、きっと昼に見れば美しいマリンブルーの海が広がり、地平線もくっきりと見えた筈だ。
流石に昼間は人目があるからこういう事は出来ないけど、夜ならばバレずらい筈だ。
それに夜の海だって綺麗な所はある。例えば月だ。
今の月は満月で薄青色になっており、海を優しく照らしていた。島風もその美しく照らす海を静かに見つめ、表情がどんどん柔らかくなっていた。
「こんなに広いとなると、島風の悔しさはちっぽけな物だと分からせてしまいます」
「そんなこと無いと思うな。悔しいと思うのはそれ程本気だったから。そうでしょ?」
島風は否定せず、何も言わずに頷いた。
「悔しかったら地団駄踏んで立ち止まっても良いんだ。そこから前に進むのが成長だから」
「成長……」
「まぁ、母さんの受け売りだけどね」
散々自分の言葉の様に言ってきたけど、ほとんど母さんに言われた事を言っただけだ。
だけど今の島風にはこの言葉が必要だと思ったから言ったまでだ。
言葉は言葉、どう受け取るか、どう思うかは聞いた本人次第であり、島風はもう一度海と島を見つめると、いつも輝かせている島風の目に戻った。
どうやら、もう大丈夫なようだ。
「指揮官殿、島風はもっともーっと強くなり、最強を目指します! そして、指揮官殿や皆様のお役に立ちます!」
「お、最強か〜。大きく出たね」
「はい! 目標は大きく! そして島風はそれに向かって突き進むだけです!」
どんと胸を張り、目標に対してなんの疑いも無い程の笑顔を見せた島風の中に、錨の様な重く沈んた気持ちは無かった。
安心して思わず力が抜けそうになってバランスが崩れ、急いでバランスを取り戻してグッと力を入れて島風を抱き抱え直すと、不意に島風の顔が近づき、互いの息がギリギリかかる程になってしまった。
「あぁ、ごめん。大丈夫?」
「は、はひっ! だ、大丈夫ですぞ! はい!」
(ち……近い! 指揮官殿の顔が近いです!)
島風は挙動不審になって顔を赤くし、言動すらもままならない様子だ……やはり空中でバランスをいきなり崩したから怖がらせたようだ。悪い事をしてしまい、申し訳ない気持ちで沢山になった。
「そろそろ戻ろうか。あまり遅いと駿河に悪いし」
「そそ、そうですね! そうしましょう!」
いつも反応が大きい島風だけど、今回は一際大きい印象を受けた。うーん……やはり怖がらせてしまったのかな。とにかく下降はゆっくりと安全優先で降りていき、誰にも見られないように物陰に隠れながら駿河がいた元の場所へと戻った。
「おかえりなさい。……って、島風。なんか顔赤いけど、何かあったの?」
「い、いえ! なんでも無いです!」
「え、えぇ……? 指揮官、島風と何かあったのですか?」
「うーん……ちょっと上空でバランス崩したから怖がらせちゃったかな。けど、心のしこりは無くしたから大丈夫。そうだ、今日は島風の為に何か食べようか。奢るよ」
「な、なら人参ケーキが食べたいです! ささ、駿河殿も一緒に行きましょう!」
「はっ!? ちょ、どうして私まで……」
駿河の有無を言わさずに島風は駿河の手を取り、そのまま俺を置いていくようにして行ってしまった。まだどこに行くのかも分からないのに、先に行ってしまっては奢りたくても奢れない。
とにかく島風の後を追おうとした時、ふと誰かの声が耳に入った。
_お前……いや、お前たちアズールレーンは何をしようとしているんだ
「この声……どこかで」
聞いたことある声を頼りに記憶を遡ると、声の主を頭の中で見つけた。確か……べリタスさんって人で、ジンさんのお父さんだ。
雰囲気的に誰かと話しているようであり、好奇心が勝った俺は、聞こえてくる声を頼りに道を歩いた。
_私達はただ世界の為に動いているだけだよ
「……オセアンさん?」
べリタスさんの他に、オセアンさんの声も聞こえる。どうやらこの2人が会話している様子だが、べリタスさんの声色がどうも重苦しい。まるでオセアンさんに問い詰めているようだ。
とにかく声を頼りに2人の位置を探ると、声がさっきよりも大きく聞こえ、周りを見渡す。
ここはユニオンの関係者が泊まっているホテル近くであり、声の方はホテルではなく、向こうに見える海に囲まれたバルコニーの様な空間に2人はテーブルに座って対談していた。
しかもおかしな事に、護衛らしき人がいなかった。
普通ならKAN-SENか、ボディガードの人とか周りに置くのが普通だ。なぜなら2人はアズールレーンの上層部だ。言うなれば世界の権力者……そんな貴重な人達が護衛の1人も寄越さないなんて……まるで敵が来ない事を知っているかのようだ。
「逆に私は、君が上層部に来る事が驚きだよ」
「貴様の祖先が暴れたからだ」
2人は知り合いなのだろうか……。オセアンさんがフランクに話している感じからかなり長い付き合いに感じるけど、べリタスさんの感じは相変わらずキツイ。声色がそう物語っていた。
「もう一度言う。お前達アズールレーンは何をしようとしている。【エックス】とはなんだ」
「エックスだって……!?」
エックス……俺たちが倒すべき本当の敵であり、セイレーンが倒す最終目標だ。
ここでその言葉を聞くとは予想出来ず、思わず声を荒らげる所を自分で口を塞いで何とか気付かれずにすんだ。いや、別に盗み聞きしようかなって思ってはいないけど、このまま黙っている方が何か上層部に対しての情報が聞ける筈だ。
指揮官だけど、実は上層部自体の情報はよく分かっていない。分かっていることと言えば、世界を動かす権力がある事だけ。あまりにも抽象的で、全体像が掴みずらく、その実態は謎に包まれている。
オセアンから何度も上層部について話しても、何も答えてくれない辺り、余程厳重な管理体制なのは間違いない。
そして、その上層部の2人が今ここで言い争っているのはある意味チャンスだ。もしかしたら上層部の事について少し知れるかもと思ったけど、まさかのエックスについても聞けるとは……とにかく俺は耳を済まし、話の続きを聞いた。
「それは上層部に入った時に知った筈だよ。この世界を蝕む侵略者だってね」
「……はぐらかしたな。まぁいい。その為にセイレーンと手を組んでいたと。バカバカしい限りだ。敵対していたと思えば癒着関係だったとはな」
「毒を以て毒を制す。君だってそうしてきた筈だ」
「ならお前は自分の手で息子と妻を葬ったわけだ」
「違うっ! あれはセイレーンの独断だ!」
初めて見るオセアンさんの焦りに、べリタスさんは戸惑う事を見せなかった。
「だとしてもセイレーンの動きは察知出来た筈だ。結局お前は家族よりも世界を選んだ。それが揺るぎない事実だ」
「っ……」
「皮肉だな。お前が見捨てた息子に脅かされているとはな」
セイレーンの独断……恐らく、ピュリファイアー辺りが面白半分でマーレさんがいた島を襲撃したんだろう。そのせいでマーレさんとそのお母さんは死亡し、マーレさんはセイレーンの技術によって蘇り、俺たち……いや世界の敵となっている。
自分の息子がそんな風になってしまったオセアンさんの心労は想像出来ない物であり、誰にも分かるものではない。
「私は……君のようには強くないさ」
「情けない英雄だ」
べリタスさんは立ち上がり、吐き捨てるようにそう言った。どうやら会話を終えるようだ。
「……1つ言い忘れていたが、またお前の息子が何かやろうとしているようだな」
「そのようだね。あれほどの武力を持って、数も揃えられるとしたら……太刀打ちはできない」
「それもそうだが、もう1人の息子の方もそこに隠れているぞ」
「ええっ!? なんでバレた!?」
観念してゆっくりと姿を見せると、オセアンさんは大層驚いた顔でべリタスさんを見た。俺も同じような顔をべリタスさんに向け、理由を問いただした。
「どうして俺の事……」
「普段他人から恨まれているからな。気配には人一倍敏感な自信がある」
誇ることも無く、さも当然かのようにべリタスさんは語った。
「その様子だとさっきの話は聞いていただけではなく……アズールレーンとセイレーンが繋がっているのも知っているな。いや、そもそも貴様はセイレーンか。知っているのは当然か」
実は俺も元々知らず、北方領土に行った時に初めて知ったとは言えなかった。
まぁ、知る知らないという事実が大事な為、元々知っていたというのはどうでも良いけど……。
「ではこれで失礼する。後は貴様ら親子と仲良く話していろ」
テーブルの上に置いていた紅茶を飲み干してからべリタスさんはこの場から去っていき、親子という単語を聞いて俺はある事を聞こうとした。
「あの……!」
「なんだ?」
「ジンさんのこと……どう思っているんですか?」
ジンさんは父親……つまりべリタスさんのことをかなり嫌っていた。聞いた限りでは虐待混じりの教育をさせたとかで、その溝はかなり深い様子だ。
だけど俺はジンさんの一方的な気持ちしか知らず、べリタスさん自身の気持ちは知らない。もしかしたらべリタスさん自身はジンさんの事を少しでも思っているかも知れないと考えた。
だって家族なんだ。俺やオセアンさんとは違って、血の繋がった本当の家族……だからきっと何か考えがあっての事だと期待していた自分がいたが、その期待は裏切られた。
「ジン……誰だそれは」
「誰って……貴方の息子でしょ?」
「知らん。俺に息子はいない。……貴重な時間を無駄にしたな」
「ま、待って!」
しかしべリタスさんは振り返ることもせずに自分の部屋に戻って行った。
べリタスさんに嘘をついている様子はなかった。鋼鉄の様な表情に、冷たい目、そして息子であるジンさんの名前を言っても何も反応をしなかったあの態度を見てしまったら、本当に家族なのかどうかさえ疑ってしまう。
同姓同名の人……というわけでは無い。ジンさんの様子からして間違いなく父親のべリタス・カービスなのは間違いない。
だけどべリタスさんはジンさんの事を本当に赤の他人という認識でしかなく、その感性を疑った。
「あれが……父親なのか?」
「血が繋がっているからと言って、仲良しとは限らないよ」
「でもそれはあまりにも悲しすぎますよ……」
まるで心が冷たくなったのような寂しさが込み上げ、小さくなっていくべリタスさんを眺める。
あの人の背中はとてつもなく冷たく、ジンさんと全然違う背中だった。
べリタスさんの記憶や心にはもうジンさんは残っていないのだろうか。ジンさんの心には一生消えない爪痕を残したというのに、自分は存在そのものを忘れた身勝手な行動に、怒りすら出てきそうになる。
だが、怒りに任せて何かをしたとしても、それはジンさんの為にはならず、ましてや誰かの為にもならない。それが分かっているからこそ、俺は何も出来ず、やるせなさだけが残った。
「少し嫌なとこを見せてしまったね。私もこれで失礼するよ。ううん、歳を取ったからか夜の風が寒いねぇ……」
寒さも確かにあるだろうが、それ以上にオセアンさんは何か別の事を隠したがっている様子だった。その証拠に、オセアンは顔を見せなかった。
隠しているのは恐らくだがエックスの事だろう。謎の敵であり、侵略者とも言ったエックス……そしてそれがアズールレーンの内部にいるというのが、テネリタスから貰った情報だ。
正体不明の敵を知る実態が掴めない上層部……疑いの目を持たない事は難しいけど、あの人はエックスでは無いと信じる事は簡単だった。
何故なら、俺を助け、ここまで育ててくれた父さんだから。
それ以上に、信じられる理由なんて無いから。
「さーて、島風と駿河の所に戻ろうかな」
気になった事を確認できた俺は急いで島風たちの所に向かおうとすると、携帯から着信音が鳴った。
「……ジンさんから電話?」
こんな時間にどうしたのかと気にしつつも、特になんの抵抗もせず電話に出た。
「もしもし?」
『おお、優海か。すまねぇ、こんな時間に』
「いえいえ、どうしたんですか?」
『明日、ちょっとユニオンホテルのViPルームに来てくれねぇか? お前に頼みたい事があるんだ』
「頼みたい事……?」
声色からして買い物とかそういう軽い物では無く、かなり危険な頼み事だと察知した俺は、思わず生唾を飲み込んでジンさんの言葉を待った。
『……テネリタスがこの海域で目撃された』
○月✕日
今日はとても晴れた日であり、尾張と一緒に畑で野菜を採った。採れたての野菜で作ったサラダはみずみずしく、特にキャベツがとても美味しかった。
野菜の他にも魚を獲るために江風さんと釣りをしたり、山城と一緒に山に行って山菜を取りに行ったりもした。
だけど、山城の不運に巻き込まれたせいで遭難になりかけて執務が溜まった事はちょっと誤算だった。
今度、不幸を打ち消すために雪風を連れていこうと決心した。
どのテネリタスが好き?
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ロリママ創造者の2代目 ラハム
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おっとり包容力で全知全能の8代目 ミーア
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元人間のセイレーン 10代目マーレ