もしもアニメのアズールレーンに指揮官が出てきたら〜2nd season 海上の誓い〜   作:白だし茶漬け

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創造の前に

 

 柔らかいオレンジ色のライトに照らされた茶色い高級塗りの壁が互いの良さを引き立たせ、モダンな雰囲気をどこからともなく流れてくるピアノのクラシック音楽が空気を和やかに……とは行かなった。

 

 ここはユニオンホテルのvipルームという、ごく限られた人しか入れない特別な部屋だ。

 

 そんな部屋には俺含む7人がテーブルを囲むようにして座っていた。

 

 その7人とはいつものメンバー、ジンさん、リアさん、リフォルさん、ネージュさんにオセアンさんと……昨日オセアンさんと話していたジンさんのお父さん、べリタスさんだった。

 

「じゃあ早速会議を始めよう。議題は勿論、近くの海域にテネリタスが出現した事だ」

 

 オセアンさんが舵を切る様にして始められた会議だが、俺の隣にいるジンさんは乗り気では無かった。と言うより、早くこの場所から出ていきたいという気持ちが口に出さなくとも分かるぐらいに不機嫌だった。

 

 ジンさんは誰とも目を合わせようとせず、そのまま椅子から椅子から離れて近くのダーツに足を運んでしまった。

 

「ちょっとジン。今は大事な会議なのよ」

 

 知り合いとはいえ、上層部2人がいる前で無礼な態度にリアさんはジンさんに注意したが、ジンさんは聞き入れる耳もなくダーツを手に取った。

 

「うるせぇ、ちゃんと話は聞くから大丈夫だ」

 

「でも上層部の方が……」

 

「いらん心配をするな。まともに会話に入らない心配をするよりも、今は本題の方が大事だ」

 

「アイツも言ってんだから気にすんな」

 

 吐き捨てるようにジンさんは会議から外れ、そのままダーツを始めてしまった。仲は悪いが同じ意見に挟まれたリアさんはそれ以上何も言えず、静かに椅子に座った。

 

「……続けてもいいかな?」

 

「はい……申し訳ありません」

 

「良いんだよ。さて、テネリタス……と言っても、確認したのは1人。4代目のシーア・テネリタスだ。近くには優海君が演習開始前に遭遇した謎の騎士も発見されており、哨戒しているのは間違いない」

 

 テーブル中央にはホログラムの画像が映し出され、そこにはこの前見たあの鎧を纏った騎士と、大きな盾を持った女性、シーア・テネリタスがいた。

 

「結局この騎士は何だ。セイレーンなのか?」

 

「そこは、リフォルちゃんから話を聞いてみようか」

 

 べリタスさんの質問にオセアンさんはリフォルさんに投げると、いきなり会話のボールをぶつけられたリフォルさんは少しだけ面倒くさそうな態度をしながら自前のタブレットを操作し、テーブル中央のホログラムが動き出し、なにかのデータが映し出された。

 

「まぁ、一部セイレーンの技術が取り込まれているけど殆どは自前の技術だろうね〜。テネリタスの方にも、ミーア・テネリタスっていうとんでもない科学者がいるし」

 

 ミーアという名前にオセアンの肩が少し上がり、表情を見せないように誰にも気付かれずに軍帽を深く被った。

 

 当然だ。ミーアさんは血筋上オセアンのお母さんだ。

 

 母親と息子を敵に回す辛さは言葉に出来ず、想像も出来ないぐらいだ。

 

「でもね……なーんか怪しいんだよね。これ」

 

「怪しい? どういう事でしょうか?」

 

 リフォルさんの態度にネージュさんが反応したが、誰しもが疑問に思った事だ。リフォルさんは更にタブレットを操作して解説を進め、ある推測を話した。

 

「なんで無人兵器とかじゃ無いんだろうな〜って」

 

「どういう事ですか?」

 

「この騎士の装備を見た感じ、恐らく強力な兵器を作れるのは余裕で作れる筈なんだよ。それこそ、オロチ以上のミサイルとか大量に」

 

 オロチさんのミサイルと言えば……島1つ簡単に破壊できるとんでもない武装だぞ……? それが何発も作られるとしたら、物量差で間違いなく殆どの陣営は壊滅状態……いや、最悪全ての陣営の生態系が崩れ去ってしまう。

 

 そんなものが大量に、しかも容易に作り出せる技術力がテネリタスにあるというのなら、最早対抗手段はほぼ無いに等しい。それを理解した俺達は絶句し、口を閉ざしてしまった。

 

「……それで? 貴様が気になっている事はなんだ」

 

「え? ええっと、こんなに技術力があるならなんで人型なんていう回りくどい作り方をしてるのかなって」

 

「それがどうした」

 

 べリタスさんは沈黙した空気を壊すかのようにテーブルを叩き、全員の視線を自分に向けた。

 

「今の本題はそこじゃない。テネリタスがこの海域に居るのなら被害の侵食を防ぐ為に迎撃する事だ。その為にここに居るんだろ」

 

 ハッと俺達は本題を忘れていた事を自覚し、いつの間にかこの会議の主導権はオセアンさんではなく、べリタスさんが持っていた。

 

「今海域に確認出来ている数は2つだ。侵攻するというのなら迎撃し、そう出ないなら真意を問う。これが目的だ。分かっているな、指揮官」

 

「は、はい……!」

 

 凄い手腕とカリスマ性だ。この人の言う事ややる事には迷いが一切なく、自分こそが正しいと思い込んでいるのでは無く、そうでなければならないという絶対的な自信がある。

 

 似ている奴で言えばエリザベスもそうだが、彼女とは違うオーラがこの人にはあった。

 

「そうだけど優海1人には任せられねぇだろ。敵が複数いるなら、最低でも4、5隻ぐらいは欲しいだろ」

 

 ジンさんだけ対抗する様に意見し、ジンさんはダーツを投げた。

 ダーツは見事真ん中に当たり、ジンさんは満足そうな顔では無く、嫌悪するような態度でべリタスさんに話をふきかけた。

 

「そこは指揮官の問題だ。貴様1人で良いのか、KAN-SENを使うのかは好きにしろ」

 

「ですが……今ここにいるKAN-SEN達は演習や見物人での護衛であまり多くはさけません。どうしましょうか……」

 

「……あ、1人だけいますよ。暇な人」

 

 

 

 

 

 

 

 

「んで? 私を呼んだ訳と」

 

 面倒くさそうに口を尖らせて出撃を嫌がっていたのは、オロチさんだ。オロチさんは書類上KAN-SENとして扱われてはいるが、どの陣営にも所属しておらず、演習にも参加していない。

 

 いわゆる暇人だ。KAN-SENが1人でもさけられない今、頼りになるのはオロチさんだけだ。

 

「んー、まぁ良いわよ。私が見たい演習は別の日だし」

 

「え? 見たい演習なんかあったんですか?」

 

 意外だった。まさかオロチさんがこの合同大演習に興味を示しているとは思わず、びっくりしてしまった。

 

「どこの演習なんですか?」

 

「島風とエンタープライズの演習よ」

 

 オロチさんは確かにそう言った。

 

 島風とエンタープライズ……どこも接点が無いKAN-SEN同士だが、オロチさんはその2人を気にかけている様子だ。いつもの気まぐれでは無く、オロチさんからは確かな思惑が感じ取れた。

 

 悪い事では無いけど、怪しさ満点なのは過去に敵対したせいだろうか。とにかく今は味方だ。KAN-SENに危害を加える事は絶対にしない。そこだけは信頼出来る。

 

「んで、もう出撃するの?」

 

「ええ。だけど……リフォルさんからちょっと待ってと言われているので」

 

 しかもここのドッグで待機と言われたから、何かしら持ってくるとは考えた方が良い。

 

 今は誰も近づかない様にジンさん達が徹底して人払いをしているから、ここにKAN-SENや一般人が来る心配は無い。

 

「ところで、島風達の編成とかは良いの?」

 

「今日は島風の演習日ではありませんから。大丈夫です」

 

「ふぅん……お? ようやくリフォルが来たわよ」

 

 ドッグの扉からやけに白いシートを被せられた荷台が饅頭達の運転で現れ、その荷車を引いている車の助手席にリフォルさんがいた。

 

 リフォルさんはダボダボの白衣を袖を大きく振っており、妙にご機嫌な様子だった。

 

「やっほー。待たせたねー」

 

「いえ。それよりも渡したい物って……」

 

 俺は荷車の方に目を向けると、リフォルさんは目を輝かせ、白い布をめくり、荷車に乗せられた物を見せた。

 

 そこにあったのは、青と白のツートンカラーのライフルとシールド、そしてパイルバンカーだった。

 

「これって……」

 

「優海の新しい武器……というより、指揮官専用の武装だね」

 

「指揮官専用? でも俺にはもう武器が……」

 

「これ、元々ジンが使う予定だった物だよ」

 

「!?」

 

「優海がもしも指揮官になれない逸材だったら、指揮官になるのはジンだった。でもジンの身体能力は普通の人間はおろか、KAN-SENにまで届く逸材だ。そこで上層部は、ジンを戦場に出させる為に指揮官そのものを切り札とした【指揮官専用海戦型特殊装甲服】を計画したんだよ」

 

 確かにジンさんの身体能力は凄まじい。アスリートにも引けを取らない……いや、下手したらそれ以上の身体能力は今まで何度も見てきた。

 

 そしてこの武器は見ただけでも強力かつ使い勝手が良いことの判断はついた。ライフルも量産型程度なら難なく撃破出来るし、シールドも強固だ。

 

 極めつけはこのパイルバンカーだ。威力重視だと思われたが、よく見ると背部にはブースターが付いており、最悪轟沈されてもブースターの出力で自力での脱出が可能になるように設計されている。

 

 まさに人類が戦う為の兵器だ。これがもし量産されるような事になれば、一般人もセイレーンと戦う事が可能になってしまう。俺にはそれが怖く思えた。

 

「だけど優海が指揮官になったから、この計画は中断。テネリタスの攻撃で上層部も壊滅状態計画は進まず破綻したけど、私がこの計画を掘り起こした訳。ちなみに、全部の武装は優海の戦闘データを元にして再設計したから、きっと馴染むよ」

 

 ありがたい調整だ。それは確かだけど……素直に喜べなかった。

 

「結局……戦い合うしか無いのかな」

 

「優海?」

 

「俺、テネリタスの人達が悪い人とは思えないんです。もしかたら、戦う必要すら無いのかも……」

 

「でも、アイツら貴方達の陣営を滅茶苦茶にした極悪人よ? 何千、何万人の命を奪って、それでも悪い人とは言えないって言うの?」

 

 オロチさんは理解出来ないと言うようにそう言った。確かに、テネリタスは許されない事をした。

 

 大勢の人を巻き込み、事態を混乱させているのは紛れも無い事実だった。

 

 だけど……行動の節々にどうしても違和感があった。何か、見落としては行けない何か……分かり合えるかもしれないパズルのピースがあった。

 

 それ故に俺は戦う気は無い。衝突したとしても、俺はマーレさんと話したい。その為に俺が欲しいのは力では無く、伝える意思だ。

 

 折角作ってくれた物だが、俺は装備せずに自前の艤装で出撃しようとしたが、リフォルさんが前に出て止めた。

 

「ダメ。使って」

 

「でも……」

 

「別に敵を倒してと言ってる訳じゃ無いよ。私はただ、無事に帰る為に武器を作ったの」

 

「帰る為に?」

 

「やりたい事、伝えたい事を伝えたい為にはちゃんと力も必要なの。出ないと、相手の力に押しつぶされるから」

 

「でも……」

 

「力は優海の使いたい様に振りかざせば良い。力は自分の想いを伝える為の単なる手段なんだから」

 

「…………」

 

「私はただ、優海やKAN-SEN達を守る力を与えるだけ。だけど、力の使い方は間違わないで。科学者は力を与えるだけで、使うのはできない。だから信じるの、力を使う人を」

 

「力の使い方……」

 

 俺はリフォルさんが言った言葉を思い返しながら作った武器を眺めた。

 

 思い返して見ると、力があったからこそここまで来れた。北方領土の時が1番痛感した。もしもあの時に力が無ければここにすら立っていない。

 

 生きるためにも力は必要だ。だけどそれは自分だけの為に使うだけでは無いのも知っている。俺はそれを……知ってるはずだから。

 

 記憶の中では戦いが起きてきた。戦って、戦って、戦い続けて傷ついて、守れなかった人もいた。

 

 だけど守れた人もいる。綾波、長門、ビスマルク、皆だって守れた。だから……

 

「……守れる力、使わせて貰います」

 

 最大級の感謝の意を込めて俺は頭を深々と下げた後、作られた白と

 青の装備を身にまとった。

 

 手にした瞬間体に馴染む感覚が流れてくる。まるで無くした装備を取り戻した様な感じだ。

 

 しかも装備の重量は見た目ほど重くは無く、むしろ軽いぐらいだ。右腕に装備したパイルバンカーも重くなく、これなら今までの武器をいつも通りの感覚で使える。

 

 それほどリフォルさんの技術が凄まじいという事だ。良い仕事をしてくれている。

 

「気をつけてね」

 

「はい。行ってきます」

 

「お? 何だかいい雰囲気じゃない。そのまま行ってきますのチューでもしちゃう?」

 

 オロチさんが口を尖らせてそういってきた。だけどそうするつもりは無いし、そういう関係でもない。だけどそんなふうに言われては少し照れ臭くなってしまい、少しリフォルさんから目を逸らした。

 

「して欲しいのならやるよ?」

 

「だ、大丈夫です! ほら、行きますよ! オロチさん」

 

「まぁ、照れちゃって」

 

「まだ子供だねー」

 

「どうせまだ子供ですよ」

 

 ムキになって返した言葉はオロチさんの予想通りの言葉だったのか、オロチさんはくすくす笑ってしかめっ面になった俺の顔を見つめた。

 

「行ってらっしゃい。優海」

 

「……はい。天城優海、行きます!」

 

「私も行くわよ」

 

 ドッグの扉が開かれたと同時に全速力で海へと駆け抜ける。目指すはこの前謎の騎士と出会ったあの海域だ。

 

 その海域に行く前に軽く武装の手触りを確かめる。左手のライフルを構えながらも右手に装備したいつもの武器を何パターンをも変形させる。

 

 ただ、左手にライフルを持っている状態じゃどうしても使えない変形機構が生まれる。

 

 該当するのは大剣やスナイパーライフルなど、両手で使える物は使えない。だけどその分、どうしても出力不足だったビットの出力は上げられるし、二丁拳銃を1つに絞る事で出力も上げられる。

 

 うん、いい感じだ。シールドも良い感じの強度で裏にはミサイルもある。戦闘の幅が広がりそうだ。

 

「良いわね〜新装備。リフォルってすごいわね。二型改造もするし、技術力は人類最強ね」

 

「確かに……凄いですよね。まるで未来人のようなアイデアと技術力です」

 

 あの人はいつもそうだ。頭が良くて、手先が器用で、次々とKAN-SEN達の為に装備改良や艤装の改良だってしてくれる。

 

 実際にKAN-SENに必要な改造の設計図はリフォルさんが全て作成しており、今のKAN-SENの戦力=リフォルさんの技術力と言ってもいい。

 

 実際、ビスマルクがリフォルさんを気にかけているらしく、しばしば交流が見られている……らしい。

 

「さーて、そろそろ目標の海域よ。レーダーに熱源は……っ!? 優海、気をつけて、熱源が4つあるわよ」

 

「4つ!?」

 

 多くは無いが予想していない数に驚愕してしまい、自分の中の警戒レベルを最大までに引き上げる。1つは謎の騎士だとして……残りの3つがテネリタスだとしたら戦力差は天と地の差が生まれてしまう。

 

 正直、新装備を貰ってもまだテネリタス1人に勝てるビジョンが見えず、オロチさんも複数いるテネリタスとはやりたくない様子だ。

 

 数を揃えたと言うことは、ここを制圧して演習している島に向かうつもりなのか……? だとしたらここで食い止めないとKAN-SENや一般人まで被害が出てしまう。

 

 だけど俺とオロチさんだけで対抗出来る数では無く、テネリタスがどんな戦い方をするのかまだ全員はっきりしていない。

 

 戦い方がはっきりしているのはマーレさんの他には5代目のロドンさん、6代目のセイドさん、7代目のマリンさんしか居ない。

 

 撤退を選ぶ……訳には行かない。何とかしてテネリタスを引かせ、この海域の安全を確保しなければ、この後ろにいる皆が危険に晒される。

 

「ここで何とかするしかない……」

 

「やっぱり? はぁ……どうなっても知らないわよ全く」

 

 勝ち目は薄いが何も勝つことが目的では無い。

 

 この状況での目的は対話だ。話し合いで解決して、テネリタスの大目的を知る。

 

 まずは何をすることにもまずは熱源の正体だ。熱源から少し離れてから目的の海域に辿り着くと、辺り一面には何も無く、俺とオロチさんは少しの間だけなら空中に移動するのが可能な為、上空から海域を見下ろした。

 

 見下ろした先には、この前見た騎士とあと3人がいた。

 

「あれは……3代目のアトラト・テネリタスさんと、4代目のシーア・テネリタスさんか? あと一人は……誰だ?」

 

 アトラトさんとシーアさんは分かるが、あと一人が分からない。背丈は小さく、子供のようだが……薄い水色の半透明で丸い形をした艤装の上に座っている事から、テネリタスというのは間違いない。

 

 誰なんだあの子は……。

 

「あの子……まさか」

 

「知ってるんですか?」

 

「ええ。多分、あの騎士を創ったのはあの子よ」

 

「それはどう言う……?」

 

「おーい! それは本人から聞いた方が良くないかー!?」

 

 下の方から大声が聞こえたと同時に青色の巨大ビームが俺たちを挟むようにして空を突き抜け、遠くの雲を突き破った。

 ビームの発生源はアトラトさんが持つ2本の大剣から発せられており、空中にいる俺達を完全に捉えていた。

 

 恐らく次は回避しても当てられるという直感が頭を囁き、オロチさんと一緒に観念して海上へと降りていき、テネリタス3人と対面する事になった。

 

「なんで気づいたんですか」

 

「海が教えてくれたんだよ。君達がここに来るってね」

 

「海が……?」

 

「そう。海が全てを教えてくれるんだ。君たちの事、そしてこの世界がどんな風に過去を歩んで来たのか全部。生前もこんな風に海の声が聞こえるから、今でもこんな風になっているのかな?」

 

 到底信じられない事だが、俺たちの位置を把握していないと初撃のビームは撃てない。本当かどうかを知る前に、それよりももっと気になる事に目を向けた。

 

 それは謎の騎士と、新たなテネリタスの存在だ。

 

 小さな女の子は白髪で貝殻のアクセサリーでサイドテールを編んでおり、白いワンピースを身にまとっていた。

 10……いや、下手したらもっと小さな年齢は間違いない。

 

 こう言っちゃ何だが、アーク・ロイヤルが見たら亜光速の勢いで飛ばされてしまう程衝撃を受けるのが目に見える程小さな女の子だった。

 

「ん、どうやら母さんが気になる様子だね」

 

「母……さん? て事はその子は……」

 

 小さな女の子は艤装から降りて海の上を歩くと、ゆっくりと頭を下げて挨拶をしてきた。

 

「ごきげんよう。私は2代目テネリタス当主。ラハム・テネリタスよ」

 

 その幼い出で立ちから到底想像できない丁寧な口調と、母性溢れる笑顔は、逆に俺達に謎の恐怖を与えた。

 

 何をすればいいのか、どうすらばいいのかすら分からずにいた俺は頭の機能が麻痺したかのように動けなかった。

 

 掴み所が無いというか……まるで無邪気な風の様な感じの人だった。確かにそこにあって、感じられる物だが、目には見えずに触れられない、一方的に振り回される一時の風。

 

 それが彼女、ラハム・テネリタスの印象だった。じっと立っている俺を見て変に思ったラハムさんは首を傾げると、怒った様に頬を膨らませた。

 

「あら? 挨拶したのに返さないなんて、少しお行儀が悪いわよ。ちゃんと挨拶しないと、メッ! よ」

 

「だってさ」

 

「え、あ……はい。すみません」

 

「どうして挨拶するの。あっちのペースに乗せられちゃダメ」

 

 オロチさんの言う通り、何故か相手に怒られたから思わず謝ってしまった。まるで母さんに叱られた感覚になったから思わず謝ったのもあるが、俺の母さんは後にも先にも1人だけだ。

 

「そんな事より、2代目から4代目の英雄様達がどうしてこんな所にいるのかしら? そこにいる騎士についてもちょっとお話が聞きたいけど?」

 

「どうと言われましても……ええと、話しちゃダメ……だよね? お父様」

 

「ダメじゃない? マーレ君から言われてるし」

 

「ならお口をチャックしないとダメよ」

 

 緊張感の無い会話についていけない。何なんだこの人達は……敵が目の前に居るというのにも関わらず、和やかな空気が広がっていく。

 いや、もしかしたら彼らは俺とオロチさんを敵として見ていないのかもしれない。それ程までに自分の強さを自負しているのか……それともこちらが弱すぎて敵として見ていないのか……どちらにしろ、向こうから戦闘の意思は感じられない。

 

 この状況はこっちにとっては良い状況だ。戦わずして情報を得られらのなら、こっちの目的は半分達成出来る。

 

「これだけは教えてください。貴方達はここで何をしようとしてるんですか」

 

「ここでというか……僕達が何をしようとしているのか、知りたいんじゃないのかな」

 

 その言葉の意味を俺は理解した。ここで何をするという事では無く、テネリタスの最終目的についてアトラトさんは言っていた。

 

 全てを見透かす様にアトラトさんは笑い、ゆっくりとこっちに近づいた。まるでいつも歩いている道を進んでいるような足取りで、友達を見つけて近づいていく様だった。

 

 敵意は感じられない。その筈なのに恐怖が止まらない。

 

 優しい笑顔で隙だらけの体制なのに、あの大剣の間合いに入ったら殺される考えが止まらない。

 

 呼吸が浅くなり、心臓が飛び出しそうな程激しく動き、苦しくて吐きそうだ。

 

 それでも俺は目を逸らさない。逸らしたらその時点で負けだと高雄さんが言っていた。気持ちで負けちゃダメなんだ。

 

「良い目をしている。10代目君と同じだ」

 

「10代目……マーレさんのことですか?」

 

「うん。だけど綺麗すぎる」

 

「綺麗……すぎる?」

 

「君はこの世界の醜さを知らなさすぎる。世界には醜い所なんて無い。そんな目をしてる」

 

「それが一体……」

 

「僕達の目的はこの世界に害をなすもの全てを壊し、全てを救う事。それが僕達テネリタスの目的だ」

 

 優しげな顔から一気に目付きが変わり、まるで別人のようだった。

 

 体が恐れるように震え、汗が上がるほどの緊張感に心が支配され、思わず武器を構えたが、アトラトさんが大剣の切っ先を喉元に突き立てた。

 

(早すぎる……!)

 

「たとえどんな敵を前にしても僕達は止まらない。世界を永遠に救う為にね」

 

「救う……? 関係ない人を巻き込んだのに!?」

 

 世界を救う。それが目的なら今までの行動は矛盾している。その証拠に上層部の人間を抹殺し、全ての陣営を攻撃してきたからだ。

 

 明らかに救うとは正反対の行動に俺は違和感を覚え、アトラトさんの言葉に疑いをもった。

 

「関係ない人は巻き込んで無いよ。言ったでしょ、この世界に害をなすものを壊すって」

 

「どういう事ですか」

 

「死亡した者を調べたらわかるよ。僕が言った言葉の意味を。10代目君が目指す世界を」

 

 アトラトさんは大剣を下げ、喉元に剣先が無くなった事を良いことに俺はすぐにアトラトさんから離れた。

 

 生きた心地がまるでせず、あっちは殺す気は無いにしてもこうやって離れたのは奇跡に思えた。例えるなら、大災害の中心地に居たにも関わらず、生き延びた事と同じように……。

 

「さて、僕から話せるのはこれで終わりだ」

 

「まだここで何をしてるのか話して無いんだけど?」

 

「それは流石に言えないかな。だってあそこに敵がいるからね」

 

 アトラトさんは何も無い海に向かって左手の大剣を振り下ろすと、大剣の斬撃で海が割れ、割れた海の中から何か飛び出してきた。

 

 飛び出してきた影が太陽の光で徐々に顕となり、まず最初に見えた2つの青く光るランタンだった。ランタンの光によって銀色の髪に、3つに連なっている主砲が左右それぞれに展開されていた黒い艤装が見え、艤装の全体像は艦では無くまるで魚の骨の様な見た目だ。

 

 あれは間違いなくセイレーンだ。それは確かな筈だな、オブザーバーでもピュリファイアーでも無い。誰だあいつ……? 

 

「あれは……ハーミット?」

 

 オロチさんが知っているかのように呟いた。どうやらあのセイレーンの事を知っているようだ。

 

「ハーミット?」

 

「アビータ Hermit IX。それが彼女の個体名。セイレーンの中層端末でそこそこ強いわよ」

 

「中層端末……?」

 

「オブザーバーとかの下層端末より権限や戦闘能力が上って認識すれば良いわ。なんでこんな所にいるのかしら」

 

「決まっているわよそんな事」

 

 突然ハーミットが喋りだした。それはセイレーン何だから喋るのは当然だが、こうもいきなりしゃべられると驚いてしまう。

 

「テネリタス。貴方達の目的は私達と同じ筈。何故敵対するのかしら」

 

「同じ? ははは、おかしな事を言うね。同じな訳が無いでしょ」

 

 アトラトさんは大剣の柄を握りしめ、ビリビリと肌が痺れるほどの圧を剥き出しに、俺やオロチさんどころか味方のラハムさんとシーアさんまで恐れさせた。

 

「【未来】の為に【現代】を犠牲に……いや、この世界すら犠牲にする君達と目的が同じな訳がない。僕たちの世界は、僕達が永遠に守ってみせる。それが、僕がこの世に再び命を持った理由だ」

 

「その【現代】を壊してるのは貴方達も同じじゃないの?」

 

「かもね。けど、創造の前に破壊ありと言うじゃないか。だから僕達は壊すんだ。未来の為に、その障害がある今をね」

 

 まるで溢れんばかりの殺気を帯びたアトラトさんの艤装の主砲から青い光が溢れ出し、超高出力のビーム砲をハーミットに向けて放たれた。

 

 突然向けられたビームにハーミットは難なく回避し、戦闘態勢に移行し、周りに無数のセイレーン量産型を出現させた。その中には人型のエグゼキューター型も存在し、数える事すら億劫になるほどの規模だった。

 

「ねぇ優海君、ちょっと協力しないかい?」

 

「協力?」

 

「そっ、ハーミットは僕がやるから。優海君はシーア達と一緒に周りを頼んでくれないかな? 君も直ぐにKAN-SEN達の方に戻りたいだろうし、早めに済ませる為に集中したいんだ」

 

「そっちに何かメリットでもあるのかしら?」

 

 オロチさんの言う通り、確かにテネリタス側にメリットが無さすぎる。だが、メリット以前にこの人は善意で動いているのはさっきの行動で理解はした。

 

 それに……この状況だったらこっちが受けない理由は無い。むしろ断れば自分達の首を絞める行為にもなる。この人はそれを分かっているからこそ持ちかけたのだ。

 

「……分かりました。任せます」

 

「ありがとう。じゃあ……行くぞ」

どのテネリタスが好き?

  • ロリママ創造者の2代目 ラハム
  • 人類最強の天然3代目 アトラト
  • 食いしん坊な絶対守護者4代目 シーア
  • 武士道と極める騎士5代目 ロドン
  • 風のように自由なガンマン6代目 セイド
  • 完璧で究極のアイドル7代目 マリン
  • おっとり包容力で全知全能の8代目 ミーア
  • 元人間のセイレーン 10代目マーレ
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