もしもアニメのアズールレーンに指揮官が出てきたら〜2nd season 海上の誓い〜   作:白だし茶漬け

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こんにちは、最近SEEDFREEDOMとゲゲゲの鬼太郎の映画を見に行きましたが、どちらもとても面白かったです。

ガンダムに関しては2回以上見に行っており、見てない人は是非とも見て欲しい作品です。


望まない意志

 嵐が引き起こす荒波の中、人々の叫びが聞こえた。

 

 泣き叫ぶ声、声にならない声、理不尽と叫ぶ声がどこからともなく聞こえ、心に流れ込んでくる様だ。

 

 声が聞こえる度に体が引き裂かれそうな程の痛みや悲しみ、そして理不尽に対しての怒りがぶつけられてくる。

 

 それが体を通じているかのように、痛みがズキズキと体を蝕んだ。

 

 これは一体どこから来るのか、誰の声なのかも分からない。ただ分かるのは、これを引き起こしたのが空高くいる灰色の亡霊、エンタープライズが引き起こしたという事だ。

 

「エンタープライズ……」

 

 名前を呼んでも反応はせず、エンタープライズはその黄金色に輝く目で向こうにいるネージュさんを抱き抱えているマーレさんをただ見ていた。

 

「何でネージュさんを……!?」

 

 マーレさんが助けたのかは分からないけど、様子からして恐らく間違ってはいない。心做しか焦っているように見えるマーレさんエンタープライズに弓を引き、攻撃をしようとしていた。

 

「止めろエンタープライズ! そっちにはネージュさんがいるんだぞ!」

 

 だがエンタープライズは手をとめずに空気を切り裂く黒い矢を放ち、マーレさんとネージュさんに向かっていく。

 

 いつもの様にエンタープライズの攻撃を防ごうとしたマーレさんだが、両手でネージュさんを抱き抱えているため剣も銃も使えず、回避しようにも怪我をしているネージュさんの負担をかけずに動く事は出来ずにいた。

 

 思った通りの動きが出来ないマーレさんはネージュさんだけは守ろうと背後の艤装で攻撃を受け止めようと振り返った瞬間、矢が艤装に着弾する前に別方向から弾丸が黒い矢を粉砕させた。

 

 銃弾が飛んできた方角には、スナイパーライフルを構えたセイドさんがいた。

 

「早く行けマーレ! 俺『達』が援護してやる」

 

 言葉に引っかかったマーレさんの疑問を解くかのように、また別方向から今度は斬撃がエンタープライズを襲いかかり、斬撃はエンタープライズの帽子を掠め、そのまま空の上に浮かぶ一つの雲を断ち切った。

 

 斬撃を放ち雲を切ったのは、蒼く輝く刀を持ったロドンさんだ。

 

「戦いでの即断即決は基本だ。これと決めたからには刹那で行動しろ」

 

「分かってますよ。ここからは好きなようにしてください」

 

「承知した」

 

「おう、はよ行ってこい」

 

 マーレさんはネージュを連れてこの海域を離脱していき、俺はそれを追いかけた。

 

「待ってください! ネージュさんをどうするつもりですか!!」

 

「おっと、邪魔するぜ」

 

 しかし、動こうとした瞬間セイドさんからの銃弾が前を掠め、その場から1歩も動かせないように俺に狙いを定めていた。

 

 ここからかなり距離があるのにも関わらず異次元な精密射撃に恐れをなしてしまい、マーレさんの姿を見失ってしまった。

 

 力を入れて何とか動こうとしても、艤装が破損した影響で体が動かず、右膝を着いてしまう。

 

 オロチさんに治療して貰ったにも関わらずこのダメージは流石に辛い。最も、殆どは自分が招いた結果なんだけど。

 

 セイドさんとロドンさんは暴走しているエンタープライズに向けて攻撃をしていたが、エンタープライズはその2人の攻撃を交わし続け、また無数の黒い艦載機を呼び出してセイドさんとロドンさんに無数の機関砲の雨を浴びせようとした。

 

 ロドンさんは巨大な横一閃の斬撃を放って弾丸ごと艦載機をまとめて切り裂き、セイドさんは大型のライフルから集束した巨大ビームで艦載機ごと焼き払った。

 

 この程度の攻撃では2人を倒せないと考えたのか、エンタープライズは黒い矢を空に向かって放つと、矢は空中に刺さったかのように何も無い上空に亀裂を走らせ、やがて亀裂から空間の裂け目の様な物が生まれた。

 

 そして、その裂け目から矢が雨のように降り注ぎ2人を襲った。いや、2人だけじゃない。まだ安全海域に到達していない他の避難船もその雨の中の範囲内に降り注いだ。

 

「何やってんだあの女!? 逃げ遅れた奴ら巻き添えだぞ!」

 

「完全に我を失ってるとは愚かな奴だ」

 

 ため息を吐き捨てたロドンさんは刀を鞘に収め、あの空を埋め尽くす程の矢を全て何とかしようとしていた。流石にこれは身内のセイドさんも無理だと信じきれない顔をしていたが、本人は本気でこれを何とかしようとしていた。

 

「我を失って得た力……面白い。当方がその力を断ち切らせて貰おう」

 

「あ〜この親父アレだ。強いヤツみて昂ってら。俺、しーらね」

 

 セイドさんはこれ以上付き合い切れないと判断し、自分に向かう矢だけを撃ち落とす最低限の自衛に徹した。

 

 そしてロドンさんは矢の雨に向かって飛び上がり、海を蹴ると同時に3人へと分身した。

 

 いや、3人だけじゃない。さらにその倍の6人、9人へとロドンさんはまるで矢が止まっているかのような速さで矢を切り裂き、それぞれが独断で行動しているようにも見えた。

 

 だが忘れてはならないのが、元々は1人だという点だ。

 

 つまり、あの9人のロドンさんは凄まじい速度で分身を作り上げているという事だ。

 

 並の人間の身体ではまず間違いなく不可能であり、出来たとしても内蔵はグチャグチャになり、骨は折れ、筋肉は崩壊する。

 

 だが、ロドンさんの強靭な肉体を持ち合わせているかつ、もう生者では無い死者だ。死者だからこそ出来る芸当であり、その姿まさに全てを切り裂く鎌鼬や電光石火と走る稲妻のようにも見えた。

 

 分身したロドンさんが全てを矢を切り刻むと海上へ静かに降り立ち、分身が真ん中のロドンさんに集まるようにして収束していった。

 

「ふん、つまらぬものを斬ってしまったな」

 

 ロドンさんはゆっくりと残心しながら刀を鞘に収め、どうにかしてエンタープライズの攻撃から身を守ると同時に、避難していた船やKAN-SENを守った。

 

「うわぁ、流石人間辞めてるだけあるわ。んじゃ、俺はこの隙に撤退するぜ」

 

「構わん。早く撤退しろ」

 

「あいよ。無理すんじゃねぇぞクソ親父」

 

「黙れバカ息子」

 

 ロドンさんのおかげでフリーになったセイドさんは、海上にスモーク弾を放ち、白い煙で自分の姿を見失わせた。

 

 やがて煙が晴れるとそこにはセイドさんの姿は無く、どうやらロドンさんを置いて撤退したようだ。

 

 こっちも見ているだけじゃダメだ。急いで艤装に装填されているミサイルで矢を打ち落とそうハッチを開けるが、ミサイルのハッチが開けられず、その機能を失っていた。

 

「まだダメージが……!」

 

 手持ちの武器もエネルギー切れで遠距離武装が使えず、エンタープライズに声を届かせることさえもできない。

 

 無理をしてミサイルを使おうした反動なのか、足に力が入らず立ち上がろうとしても思った様に体が動かない中、母さんと姉さん達の俺を呼ぶ声が聞こえた。

 

「優海!」

 

 4人は膝を着いた俺を見て真っ直ぐこちらに向かい、倒れていた俺の腕を天城母さんが腕を貸すようにして持ち上げてくれた。

 

「あぁ良かった……貴方が無事で本当にっ!」

 

 いつも見れない焦った顔から本当に安堵した表情を浮かべた母さんが俺をだきしめ、怪我はどうあれ無事な俺の熱を確かめ、感じるように強く抱きしめてくれた。

 

 しばらくして抱擁を止めた母さんは、怪我をしている俺の体を見て唇を噛んだ。

 

「優海、貴方も早く逃げなさい。ここは私たちが……」

 

 その時真っ二つに折れていた船が突然爆発し、そこで人々の悲鳴が溢れ出した。恐らく、燃料部分に火事が引火し、さらに爆発を起こしたのだろう。

 

「だ、誰か助けてくれぇぇぇ!!」

 

「嫌だ! 死にたくないっ! 誰かぁぁ!」

 

 まずい、爆発による炎と荒々しい波に挟まれて生き延びた人達は身動きが取れず、このままでは波に飲まれて命を落とすか、体が燃やされて命を落とすかの二択になってしまう。

 

 だけどエンタープライズとテネリタス2人を放っておく訳には行かない。今ここにいるのはヨークタウン、ホーネット、母さんと姉さん達、ベルファスト、そしてオロチさんの8人。

 

 逃げ遅れた人をまた避難させるには、絶対に何人か量産型の自分の艦を出し、安全海域まで避難しないといけない。そしてこの荒波とテネリタス、そして暴走したエンタープライズもいる。

 

 多く人員を割く訳には行かないが、こっちの体はもう限界ギリギリだ。全力で戦闘すれば艤装は5分も持たない。

 

 エンタープライズを正気に戻す方法……というより、可能性はある。あと一回だけしか使えないあの方法、長門ちゃんを助け、ビスマルクを正気に戻したあの方法なら、エンタープライズの暴走を止められるかもしれない。

 

 ……やるしかない。今こうしている間にもエンタープライズはテネリタスを狙って攻撃しているが、その近くにはまだ生きている避難船もある。

 

 多くの人を助ける為には、もうアレをするしかない。覚悟を決めて深呼吸した俺は、隣にいたオロチさんとベルファストに指示を出した。

 

「全員避難船の援護と生存者の救出を頼む。俺はエンタープライズを止める」

 

 母さん達は俺がそういう事を予感していたのか、やはりそう言うのかという顔をしながらも、否定的な顔を浮かべていた。

 

 それはそうだ。艤装と体はボロボロでやっとの思いで動いている状態だ。ろくな攻撃は出来ないと思った方がいい。

 

 それでもやるしかないんだ。少なくとも、俺の声はエンタープライズに届いている。

 

 現状助けられるのは俺しかいない。なら、俺がやらないんと行けないんだ。ここで命を落としたとしても……

 

「優海、それなら私も協力するわ。その怪我じゃ無理よ!」

 

 赤城姉さんが肩を掴み、協力どころか直ぐにでも俺を逃がそうとしているのが見え見えだった。

 

 姉として、家族として俺を守りたい事が痛いほど伝わる手の震えはまさにそれを表していて、加賀姉さんと土佐姉さんだけじゃなく、ベルファストもそうだった。

 

 周りにいる全員がこんな俺を心配してくれたのを見ると充分恵まれたなと思いながら曇り空を見上げた。

 

 これ以上何か幸せを望んだらきっと神様からのバチが当たると思う程にだ。

 

 大切な家族、大切な人達、大切な仲間が必死になって人類を助けようとしている。ならば指揮官として、KAN-SENを1人ぐらい助けないと示しが付かない。

 

 皆の願いや気持ちを無視して俺にやらせたく無い事をやろうしている自分はまさにごうまんそのものだって自覚している。

 

 誰かがやらなくちゃいけないのなら、俺がやる。やるしかない。俺は赤城姉さんの手を退け、突き放すように離れた。

 

「優海っ! お願い……行かないで!」

 

 何としても行かせない思いで赤城姉さんは背中の服を掴んで来た。それはまるで俺の心さえも掴んでいるように、背中から聞こえる姉さんの涙で心が罪悪感という牙に噛みつかれる。

 

 痛みを堪えるように歯を食いしばり、姉さんの手を振りほどいた。

 

「大丈夫。直ぐに……戻るから」

 

 心配させないように言ったんだけど、自信なさげにこう言ったせいで逆に不安を煽るような形になってしまった。

 

 けど言わない訳にはいかなかった。例え不安を煽ることになったとしても、絶対に戻ってくるという安心感がほんのわずかでも与えたかった。

 

 それなら、今度は笑顔の1つでも見せるべきだと思うけど、それはできなかった。今振り返っても直ぐには出来そうに無く、多分母さん達の顔を見れば笑顔なんて直ぐに消えると思ったから。

 

 だから、これ以上はもう何も言えないし何もできない。ただ真っ直ぐエンタープライズの方に向かうだけだ。

 

 姉さん達からは何も口は出ず、そのまま行こうとした時、ようやく母さんが口を出そうとしていた。

 

 何を言おうか迷っているのか、珍しく母さんの言葉は詰まってはいたが、それは直ぐに終わった。

 

「今日は貴方の好きな唐揚げや蕎麦、天ぷらも作って待ってますから、早く帰ってきなさい」

 

 それは、夜遅く帰る事にならないように母親が子供を帰らせる為に使う言葉と優しい口調であり、俺が帰ってくる事を確信しているようだった。

 

 昔はよくこういう風に帰ることを諭されて、家に帰ったが多かったことを思い出した。それで俺は母さんの言う通りに遅くなる前に家に帰り、必ずその時言っていた料理が出てきて俺は喜んでいたっけ。

 

 早く帰ってきなさい。なら、早く帰らないといけないな。

 

 帰る理由が1つ出来た俺は大きく深呼吸して、荒れ狂う波に向かって1歩を踏み出した。

 

 もう誰も俺を止める様子は無かった。天城母さんの言葉がそうしたのか、それとも帰ることを信じている顔をしてそれを信用したのか、顔を振り返る事が出来ない俺にとっては、その真意を探るのは不可能だった。

 

「じゃあ、行ってきます」

 

「行ってらっしゃい、優海」

 

「気をつけるのよ!」

 

「待っているぞ」

 

「必ず帰ってこい! 帰ってこなかったら例え地獄でも引っ張りだして帰らせてやる!」

 

 家族の声を背に、エンタープライズの元へ駆け寄った。

 

「本当に大丈夫なの? あの子、命をかけてエンタープライズを助けようとしてるわよ」

 

「それでも息子のやる事を見守るのが母親です。さぁ、私たちは私たちのやるべき事をしましょう」

 

 母さん達は俺の指示通りに逃げ遅れた人達を助け、これでエンタープライズの説得に集中できる。

 

 変わらずエンタープライズは残ったテネリタスであるロドンさんを集中的に狙い、その攻撃は周りの被害を度外視した広さだ。

 

 爆撃はロドンさんには当たらなかったが、じわじわと追い詰めてはいた。ロドンさんの武器は刀のみの近接武器だ。

 

 斬撃で多少なりともの遠距離攻撃は可能だが、それでも手数はエンタープライズの方が上手だった。

 

 ロドンさんの逃げ場は矢と爆撃の炎で徐々に狭くなりつつあり、やがてロドンさんは炎の檻に閉じ込められた。

 

 だがロドンさんの顔は鉄仮面の様に変わっておらず、いつでも撤退できるような素振りを見せていた。

 

 むしろロドンさんは敢えて残っているようにも思える。その真意は分からないが、そのおかげでずっとエンタープライズを説得しているヨークタウンとホーネットには一切攻撃に巻き込まれていなかった。

 

 まさか、あの二人を巻き込まないようにわざと戦場に残っているのかと考えたが、あのロドンさんがそんな事するだろうかと思ったその時、ふと重桜で出会ったロドンさんの事を思い出した。

 

 暴走した車椅子を止めてくれたあの時の事を……

 

 いや、それよりもヨークタウンとホーネットの援護が先だ。

 

 攻撃こそ受けてないが、エンタープライズの広範囲攻撃を避け続けるのは無理だ。

 

 何とかしてエンタープライズを止めなければ、避難している人もまた危険に晒される。

 

 エンタープライズから放たれる無差別爆撃を避け、迫り来る爆風と熱から抜け出し、エンタープライズに声を届ける。

 

「エンタープライズっ!!!」

 

 ありったけの声を出してようやくエンタープライズは俺に気づいたのか、攻撃を止めてくれた。

 

「指揮……官」

 

 エンタープライズから黒い影が消えつつ、ゆっくりと武器を降ろして安堵をしようとしたその時、エンタープライズを狙うように黒い光がエンタープライズに襲いかかった。

 

 エンタープライズは体を捻って光を避け、光が放たれた先にはエンタープライズと同じ色の髪と同じような艤装を右側に装備したKAN-SENがそこにいた。

 

 あれは俺を撃ったKAN-SEN……いや、それよりも前に出会った事がある。夢か幻かで出会った、エンタープライズ……では無い。

 

 確かオロチさんがあのKAN-SENの事をコードGと言っていた事を思い出し、コードGは一瞬俺と目が合うと直ぐに目を背け、エンタープライズに向かっていった。

 

 そしてそれとは別にどこかからこっちに接近する音がこだまする様に聞こえる。

 

 艤装の機関部の音と、海をかき分けて波飛沫が出る音が大きくなり、音がする方向に体を向けた。

 

 目にはこちらに迫り来る何かが急加速でこちらに突撃をかけ、折れた武器を構えて防御の体勢をとった。

 

 迫り来る何かから不穏な気配を感じて半ば勘のような物が防御しろと訴えかけ、すかさず防御したが、加速による衝撃と何かをぶつけられた重みで折れた武器では満足な防御は出来ず、体制を崩してしまう。

 

 だが、接近してしたものも空中で弾き返されたのでそれが何かを確認し、その名前を口走った。

 

「ジャベリン……?」

 

 KAN-SENのジャベリンでは無く、ジャベリンが使っていた槍と同じ様な形状をした槍の事を俺は言った。

 

 ジャベリンが持っていた物よりも刃先の形状が長く、切断する事も出来る刃があるのが特徴的で、それ以外にも何か銃口の様な物が先端にあった。

 

 それ以外は変わっていない。あるとすれば色が黒く染まっており、そこには赤いラインが血液のように張り巡らせていた。

 

 空中に浮かぶ槍の全体を見終わったと同時に、何か艤装の様な物を背負った誰かが槍を空中で掴み取り、そのまま俺の背後を取るようにして飛び出すと、攻撃されないように直ぐにそいつに身体を向ける。

 

 そしてこの目には信じられない物が映し出された。

 

 ツギハギだらけの艤装を背負っていたのはやはりKAN-SENなのは間違いなく、知っている顔だった。

 

 少し明るめのベージュ色のポニーテールはボロボロで毛先が棘のようにパサつき、黒いセーラ服のような物を着ているが、その上に襟に毛皮がある黒いコートを肩にかけるように羽織っていた。

 

 そして極めつけは、背中の左の肩に掛けるように装備するように付けられている怪物のような艤装は鉄血の艤装で間違いなかった。

 

 しかもあれは間違いなくZ23の艤装だが、俺の目に映る姿はZ23ではなかった。

 

 そのKAN-SENは槍を左手に持ち、ゆっくりとこちらに顔を合わせると、抜き身の刀のように鋭く、そして冷たい紅の目を俺に向けた。

 

「あや……なみ?」

 

 恐る恐るその名前を言い、俺は直ぐにその言葉を訂正しようとした。

 

 俺の知っている綾波とは全然違う。目の前にいる綾波? は体付きも目つきも全然違う、身長だって少し伸びている。

 

 それに、どうして綾波がジャベリンとラフィーとニーミの艤装を付けているんだ? 訳が分からない、本当に綾波なのかともう一度問いただそうとしたが、その前に目の前にいるKAN-SENが口を開けた。

 

「……指揮官、久しぶりです」

 

 俺の耳に届いた声は、綾波の声だった。

 

 訳が分からない、あまりの不明の量で頭が鈍器で殴られたかのように揺れる様に感じ、思わずよろけてしまう。

 

「いや違う。君は誰だ……?」

 

 しかし目の前のKAN-SENは何も答えなかった。

 

 あれは綾波だと分かったはずなのに、思わず拒むようにそう言ってしまった。

 

 何故なら目の前にいる綾波の艤装は歪だった。

 

 明らかに後付けされた黒い羽のような形状の艤装の内側には右側に魚雷、左側には錨。そしてその艤装は、他の艤装から無理に付けられた、ツギハギの様な物だった。

 

 しかも綾波の着ている服は、綾波の物だけじゃない。

 

 両腕の手首にはジャベリンが付けていたピンク色のリボンがあるガラスのブレスレット、右腕にはZ23が付けていたアームカバーと腕章に手には白い手袋。

 

 そして、綾波が羽織っているあの黒いコートは、ラフィーの物だ。

 

「どうして皆の武器や艤装を……」

 

 綾波の顔は曇り始め、忌々しく思う顔を浮かべると、その事実を吐き出した。

 

「いなくなったからです。ジャベリンも、ラフィーも、ニーミも」

 

「いなくなった? どういう……事だ?」

 

 何もかも分からない俺に目の前の綾波は答えず、代わりに剣と槍を構えて明らかな敵意を見せた。

 

「知らなくていい事です。それに指揮官はこれ以上辛くて苦しいだけの現実を見なくてもいいです」

 

「一体何を……」

 

「リアルはクソゲー……いえ、地獄と言うことです」

 

 綾波は槍と剣と共に俺に襲いかかり、対抗しようにも折れた武器では出来ることはたかが知れていた。

 

 防御では無く回避で何とかしようと壊れたパイルバンカーのブースターを起動させ、綾波の突撃を加速で逃れようとした。

 

 しかし綾波は黒い剣の切っ先を俺に向けると、切っ先が銃口になっている事に気づいて咄嗟に剣から発射された弾丸を弾くが、間髪入れずに二射目を槍から放ち、何とかそれも防ぐが、バランスを崩し、その隙を狙って綾波はZ23の艤装を担ぐようにして支え、主砲を俺の腹に撃ち込んだ。

 

 少しでも衝撃を和らげるために後ろに飛ぶようにして下がり、主砲から撃ち出され榴弾は体に触れると同時に爆発し、ただでさてボロボロの体が更に焼かれ、そのまま飛び石のように吹き飛ばされ、手足が動かず倒れてしまう。

 

 俺の知っている綾波とは戦闘スタイル、パワー、スピード、練度が何もかも違っていた。

 

 手も足も出ず、ボロボロの体が動かないまま仰向けで倒れてしまい、折角オロチさんに治療してもらったばかりだと言うのに申し訳ないと思っていたところを、綾波は目の前に立った。

 

「指揮官、もう戦わないで欲しいです。誰も指揮官が戦う事を望んでないです」

 

 この綾波が言った言葉は、俺の胸を突き刺すようだった。

 

 自覚しているぶん胸の痛みは強くなり、綾波は武器をしまう様にして姿を消し、俺に顔を近づけて頬に手を添えた。

 

「綾波だって指揮官を傷つけたくありません。けど、それ以上に指揮官を失いたくないです。傷つく所を見たくない、倒れる所を見たくない、もっと笑顔が見たい。ただそれだけなのです」

 

 この瞬間、俺の知っている綾波の顔を見たような気がした。

 

「だから指揮官、もう戦わないで……もう海には出ないでください! 綾波は……指揮官が平和に、幸せに暮らせるだけで良いのです。綾波はそれ以上何も望まないです……お願いです」

 

 綾波は涙を流し、本気でそう願うように、懇願する目をしていた。

 

 もう声を出す力すらない俺が答える術は首を縦に振ることか、それとも背く事だけだ。

 

 綾波は首を縦に頷くことを願うかのように更に空いている手で空いている頬に触れ、両手で顔を添える形になった。

 

 だけど俺は頷く事はせず、綾波から顔を背けた。

 

「……っ! なんでっ!! 何でなのですか!!」

 

 思った答えが出なかった綾波は激昂して頬に触れていた手を胸に移動させ、そこにあった服を握りしめた。

 

 まるで、今貴方の命は綾波が握っていると言うかのように。

 

「そんなの誰も望んで無いのですっ!! どうして!? どうして綾波達の願いを聞いてくれないのですか!!」

 

「しっ…………きかん、だから」

 

「え……?」

 

 ようやく声が出せるほどの体力が戻った俺は起き上がろうとしたが、綾波がそれを許さず、押し倒した。それでも俺は声を止めず、綾波の説得をした。

 

「指揮官だから、世界や人類を守らなくちゃ。それが出来る力があるなら、俺はその為に使うって決めt」

 

「必要ないです」

 

 綾波の目は更に暗くなり、その目には光が無かった。

 

「綾波がいた所では、人類は指揮官の事を守ってくれませんでした。何も知らない癖に、指揮官がどれだけ苦しんだか、指揮官がどれだけ優しいのも分からない癖に!! 指揮官をっ!!」

 

「綾波……?」

 

 綾波は何かを思い出したのか、怒りで叫び声を上げた後、綾波は右手に剣を取り出し、怒りや悲しみに満ちた愛憎にも似た目を浮かばせ、仰向けの俺に馬乗りした。

 

 まさかと思い急いで逃げようにも綾波に乗られて逃げられず、綾波は無情にも剣を突き刺そうとしていた。

 

「分からない指揮官にはもう痛みで教えこむのです。大丈夫、もう二度と戦えないようにするだけです」

 

 綾波は恐怖しか感じられない笑顔で浮かべ、左肩に向かって剣を突き刺し、左肩を貫かれた痛みは身体に襲いかかり、声にならない声を上げた。

 

「あっ……がっはっ………………!!」

 

 左肩に突き刺された剣が少しづつ抜かれ、剣が上がる度に痛みが襲いかかる。体から左肩の感覚が無くなり、そこにあるのに感覚では無い物として扱われる脳の情報と、目に映る情報の矛盾に戸惑ってしまう。

 

 ただ声にならない叫びを上げ、綾波はようやく剣を抜くと、その剣には赤い血が滴り、俺の服を赤く汚す。

 

「次は右肩なのです。……いや、むしろ腕ごと切り落とすです。利き腕さえなければ指揮官はもう戦えないです」

 

 止めてと言おうとしても叫び声でそれすらも言えず、綾波は無情にも血を染めた剣を俺の右腕に向けた。

 

「安心して指揮官、大丈夫です。綾波が守ってあげるです」

 

 いつぞや言われた言葉と共に、綾波は涙まじりの笑顔を浮かべて剣を振り下ろした……

 




○月✕日

今日は綾波とゲームをした。

事の発端は最近部屋に引きこもりがちの綾波を心配して部屋に入った事が要因であり、どうやら引きこもった原因は新作ゲームの完全クリアを目指していたらしい。

外に出ないと不衛生だと思って外に連れ出そうとした所を、綾波はこれ以上無く嫌がったのを覚えている。

そこで、綾波とゲームで勝てば外に出ると言っているけど、ゲームをした事ないから勝負にならないと言うと、綾波からゲームを教わる事になった。

どうやら俺は反応速度とかで結構格闘ゲームとか強いらしく、操作方法を理解して試しにやってみたら綾波から賞賛の嵐を浴びせられてちょっといい気分になった。

だけど、それを理由に綾波を外には出さずに一緒にゲームをしてしまい、結局夜まで綾波と一緒にゲームをやってしまった。

そのせいで執務が溜まってベルファストやビスマルクに怒られたのは忘れたい日だ……

どのテネリタスが好き?

  • ロリママ創造者の2代目 ラハム
  • 人類最強の天然3代目 アトラト
  • 食いしん坊な絶対守護者4代目 シーア
  • 武士道と極める騎士5代目 ロドン
  • 風のように自由なガンマン6代目 セイド
  • 完璧で究極のアイドル7代目 マリン
  • おっとり包容力で全知全能の8代目 ミーア
  • 元人間のセイレーン 10代目マーレ
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