もしもアニメのアズールレーンに指揮官が出てきたら〜2nd season 海上の誓い〜 作:白だし茶漬け
ここからさらに物語の核心に迫るので、どうぞお楽しみにください
白雪姫と英雄達
ある白髪の少女が目を冷ました。
少女の目には少しだけ青黒い天井が最初に映り、ふかふかなベッドと暖かい掛け布団に不思議と思いながら体を起き上がらせた。
どこまで眠っていたのだろうと彼女は記憶を振り返った。
彼女の名前はネージュ・トケル。
アイリス出身の彼女の家系は、アイリスでは有名な家系だ。
アイリス陣営内でも力と発言権があり、彼女はその三女に当たる地位を持っていたが、表面的な立場と実際の立場は違っていた。
何故なら彼女の母親はトケル家の家系ではなく、ただの一般人だからだ。
聞いた話によれば、ネージュの母親はトケル家の召使いだったらしく、当主はネージュの母親と関係を持った後、ネージュを産んだ。
だが関係が関係な為ネージュの母親は屋敷を離れ、女手1つでネージュを育てたが、セイレーンの攻撃よって亡くなった。
1人になったネージュに手を差し伸べたのが、その当主、つまりネージュの父親だった。
ネージュの父親は自分と母親の関係をネージュに話し、ネージュはそれを受け入れてトケル家の三女として迎え入れた……が、周囲の反応はよろしく無かった。
特に長女と次女からの扱いは酷く、他の母親のちが混じったネージュを人として見ておらず、まるで家畜……いや、汚物の様に見ていた。
父親からの言い付けも守らず、道具のようにネージュを虐めたが、ネージュは母親から唯一のプレゼントである熊のぬいぐるみを糧に生きてきた。
そしてある日、そんな熊のぬいぐるみが姉達によって自分では手が届かない程高い木の上に放り投げられてしまった。
必死に泣きながら姉達に返すように言ったが、姉達は聞かずそのまま去っていった。
幼いネージュは初めて木登りに挑戦したが、手が傷付くだけで登ることは出来ず、悲しさと痛みで大きな粒を落としながら泣き叫んだ。
誰か助けて、お母さん助けてと言うように、そう泣いていると、1人の男の子がネージュの涙を拭いた。
それがマーレ。本当の、マーレ・テネリタスだった。
幼いマーレの顔を思い出したネージュは、この前起こった出来事を振り返った。
全ての陣営のKAN-SENの演習を目的として開催した連合演習のある日、当然マーレ率いるテネリタスが開催している島に襲いかかり、マーレは指揮官として宣戦布告をしてきた。
その島にはKAN-SENだけでは無く、有権者の人類も在住しており、その人達の避難誘導にネージュは力を入れていたが、突然エンタープライズの暴走によって避難していた船は破壊され、ネージュの乗っていた船の乗客ももパニックになった。
落ち着いてと悟ったが、パニックになった1人に突き放され、その衝撃で壁に頭をぶつけて気絶し、今さっき目を覚ましたのだ。
「そうだ、皆さんは!? 島は一体……」
ネージュは直ぐに周りを見渡した。
青黒い壁と天井に、窓ガラスには海の中が映し出されており、まるで水族館のような空間だった。
ネージュはベッドからおり、礼儀正しく布団を直してから窓の方に向かった。
窓の向こうには魚達が泳ぎ、サンゴ礁や藻が付いた岩等があり、ネージュは驚いて窓に両手をついて海の中を見渡した。
この魚達は生きており、海の水面から太陽の光が照らし出される事海の中なのだろうかと考えていると、扉が開かれる音がして直ぐにネージュは振り返った。
部屋の電気はつけていないため少し薄暗くて顔は見えないが、男性という事はわかる体格をしていた。男は壁のスイッチを押して電気をつけると、その男は明かりによって顔を顕にし、その顔を見たネージュは息を飲んだ。
「マーレ……君?」
「ネージュ……! 目が覚めたのか」
優海と全く同じ顔……正確には、優海が後に造られた為、優海がマーレと同じ顔をしている訳なのだが、今のネージュにそんな事はどうでも良かった。
こうして間近に会えるのは2度目だが、それでも幼なじみの存在にネージュは喜びと同時に、互いに敵同士だという関係で警戒してしまう自分もいた。
少し不安がっているネージュの顔を見たマーレは一瞬目を逸らし、危害は無いと訴えるように一歩後ろに下がり、沈黙が続いた。
気まずい空気だけが流れていき、マーレは口を開けようとしたが、何を言えば良いのか分からなかった。
そもそも、ネージュをあの島から攫ったのはマーレ本人だ。その理由は、ネージュがいた避難船はエンタープライズの攻撃によって沈没寸前で、しかもそこにいた客から危害を加えられて気絶したからだ。
マーレはネージュを助けたい一心でここに連れ込み、意識が目覚めたのならアズールレーンに返そうとしていたが……今こうして目の前にネージュが居て何か話そうと思うと、立場的に変だと考えていた。
大丈夫かと敵に言われてどう思うだろう、間違いなく変に思われる。話を切り出すのもおかしい。なら、沈黙するのが正解なのではと、マーレはそう考えて黙っていた。
ネージュはも同じ様な考えで思わず黙り込んでしまい、1分もの間、お互い見つめあっていた所を、別の誰かが割って入るように部屋に入った。
「あのさ、感動の再会なんだからもう少し話さない訳〜?」
「きゃあ!!」
現れたのは7代目当主マリン・テネリタスであり、マーレの背中から飛び出すようにして現れた所をネージュは身体を飛び上がらせ、ベッドへと戻って行った。
あまりの反応にマリンは笑いながら謝罪し、マーレは過度な登場に怒っていた。
「マリンさん……何しに来たんですか」
「んー? マレっちの幼なじみがどんな人か気になってね〜。あ、私はマリン・テネリタス! マリンちゃんとか、マリリンとか呼んでね♪」
マリンはネージュにウィンクを飛ばし、ウィンクを受け取られたネージュは苦笑いしか出来なかった。
マリン・テネリタス……7代目当主なのは確かだが、実はロイヤルの方では名の知れたアイドルや芸術家という側面を持っていたとネージュは記憶していた。
彼女が生み出した音楽と美術は数少ないが、聞けばその耳は一生離れず、絵は目に焼き付けられると評判だったと言う。
そんな伝説上の人物とこうして話をするのは不思議に思い、思わずこんな質問をしてしまった。
「えっと、本当にマリン・テネリタスなのですか? 貴方はもう既に亡くなって……」
「そうだよー。もう今から20年前ぐらい? もっとかな? まぁ死んじゃったのは確かだよ」
「そうですか……あの、ここはどこですか? 窓を見ると、海の中なのは確かですが……」
言うだけ無駄かも知れないと分かっていながらも、幼なじみのよしみとしてマーレなら答えてくれるかも知れないとネージュは僅かばかりの希望を持って質問したが、マーレの態度は相変わらずだった。
「それは言えな……」
「ここはね、私達の基地だよ」
「マリンさんっ!!」
隠す気のない態度に思わず怒鳴ったマーレだが、マリンはまるでイタズラした子供の様な笑みをこぼしながら部屋から出ていき、追うだけ無駄だと悟る様にマーレはため息を吐き、ネージュに目を向けた。
「……ここは水深約1500m深海だ」
諦めてマーレは場所を言うと、ネージュは驚いてもう一度窓を見た。
「水深1500m!? 通りで探しても見つからないわけです……」
「しかもここは鏡面海域だ。通常海域じゃ絶対に見つからないからな」
鏡面海域とは、セイレーンが作り出した特殊な領域の事だ。
兵装の実験やセイレーンの転送など、用途が多岐に渡り、また特殊な装置で気象状況や物理法則をある程度操作可能だと鉄血からの報告者で読んだことあるとネージュは記憶していた。
そこに添付されていた画像では、鏡面海域の海はこれ程青くなく、赤黒い物だも記憶していたが、ここにある海は青くとても美しかった。
「鏡面海域に生物が居るんですね」
「いや違う。これはラハムさんが作った生命体だ」
「作った? 生命をですか? それにラハムって確か2代目当主の……」
「あぁ。特別であり、不可思議な力だ。ラハムさん自身もどこまで作れるか、何までなら作れるのか、大きさ、質量、内部、外見、そして空想上の物……それを把握する為にこの海域にいるんだ」
生命を作るという、最早神のような力にネージュは流石に信用出来ないと思ったが、ネージュはマーレが嘘を言っているようには思わず、ただひたすらに頷いた。
そしてつい話しすぎたマーレは自分の口を塞ぎ、これ以上何も話さない様にしていた。
「も、もう喋らない! これ以上は機密情報だ!」
「え? は、はい! もう聞きません! 大丈夫です!」
何故かネージュは謝り、また沈黙が続いた。
最早何かの芸なのかと呆れるコントに扉の傍で聞き耳を立てていたマリン・テネリタスが、扉を叩いて自分の存在を気づかせた。
「ねぇマーレ。そろそろ次の話題に入らない?」
「貴方は?」
「あら、覚えてない? ミーアよ、ネージュちゃん」
「ミーア? ……えっ!? ミーアおばあ様ですか!?」
ネージュの記憶の中では、ミーアは年相応の年老いた顔であり、それと面影はあれと自分とそれ程変わらない若々しい顔にネージュはまた驚いた。
「そう、ミーアおばあ様ですよ。でもここで話すのはなんだから、場所を変えてご飯にしましょう」
マーレとネージュはミーアについて行き、上一面がガラス張りの廊下を歩いていく。
ネージュは廊下のガラス張り窓から見える色とりどりの魚を目で追いながら歩いていくと、まるで自分が絵本の中の世界に迷い込んだかのような感覚に落ちた。
薄暗い深海の中を少し照らす太陽に、その中を舞うように泳ぐ魚に、彩りの良いサンゴ礁はまるで踊り場の様だ。
「ネージュ?」
ネージュはいつの間にか足を止めて外の景色を眺めており、マーレに声をかけるまでその事すら気づかなった。
「ご、ごめんなさい! つい綺麗な景色で……」
「だろうな。ここの景色はマリンさんとラハムさんが作ったんだ。どうすれば綺麗に見えるかをマリンさんが考え、ラハムさんが能力を確認がてら作ったんだ」
「通りで綺麗な海ですね」
「それに、この廊下や部屋のデザイン全ても
「リビング……?」
聞きなれた単語を聞いたネージュだが、マリンは扉を開けるとそこに様々な陣営の料理が並べられた長いテーブルがあり、そこには2代目から7代目のテネリタスが勢揃いしていた。
先程までの穏やかな気持ちが凍りついた様にネージュは息をのみ、その場で固まった。
「大丈夫よネージュちゃん。皆さん敵意は無いから」
そうは言うが一人一人が人間離れした力を持っている英雄だ。
英雄達の視線がこちらに向けられているのに気張るなというのが無理な願いだ。
ネージュの手足は小刻みに震え、今すぐここから逃げ出したいと思っているのに、歴代英雄の圧に縛られる様に体が動かなった。
怖がっているネージュを守るようにマーレが昔のように前に立ち、ネージュをテネリタスの目線から遮った。
「大丈夫だネージュ。怖いなら俺の側から離れるな」
「マーレ君……」
「ヒュ〜! お熱いね2人共、親父の目つきの悪さのせいであの嬢ちゃんビビってんだろ」
「貴様の薄汚く破廉恥で邪な視線で怯えているだけだ」
「俺は他人の女を寝取る趣味はねぇっての」
「そこまでだよ2人とも。……圧をかけたようで、ごめんね」
テーブル奥から2番目辺りの席に座っていた、3代目アトラト・テネリタスが申し訳なさそうにしつつも圧を与えないように笑顔で歩み寄り、白い手袋をはめた右手をネージュに差し出した。
ネージュは、ロイヤルでも伝説と扱われている人物に出会っている事に未だに不思議に思いながらもアトラトの顔を眺めた。
やはり血が繋がっている為か、マーレとどことなく似ているとネージュは思い、マーレとアトラトを見比べた。
やはりマーレの方が自分の好みに近いと思いながらも、恐る恐るネージュはアトラトと握手を交わした。
「ネージュ・トケルです」
「アトラト・テネリタスだよ。一応3代目テネリタス当主をやっていて、好きな物は読書かな? あと、最近はゲーム? って奴にハマってて……」
「は、はぁ……」
いきなり自己紹介をされたネージュは戸惑いながらもアトラトの趣味を聞き入れ、なんだか俗っぽいなと感じた。
確かにテネリタスは英雄の家系としてロイヤルでは伝わっているが、当の本人達は庶民派……言わば、派手なことはせず普通の人と全く同じ事をしたいのが大半だ。
とは言うが、全体的に庶民派とは思えないほどテネリタスは大きな偉業を成している。
1番民衆に触れているのは、7代目のマリンだろうとネージュは考えた。一躍は時の人として祭り上げられ、彼女の芸術は今でも愛されているのだから。
その点では、アトラトはテネリタスの中で最も庶民的だとネージュは思った。
「え、えーと……私も趣味とか話した方が良いですかね? 好きな物はお菓子作りとかでした、ええとそれから……」
「ネージュ、そんなに長々と自己紹介しなくていい。早く空いている所に座ってくれ」
マーレが割って入る様に会話を遮り、ネージュは言われた通り空いている席に座り、アトラトも元いた座席に座った。
「そもそも、なんでこんな所でネージュの扱いについて話す必要があるんですか」
「私の扱い……?」
ネージュは肩をビクつかせ、頭の中で一瞬死という恐怖が埋めつくした。
ネージュを誤解させてしまったマーレは直ぐにネージュに向けてその言葉の意味を訂正した。
「大した事じゃない。お前の扱いは2つ。1つはアズールレーンに返す。もう1つは……ここに居させる……要するに捕虜にするかだ」
「ここに居させる? どう言うですか……?」
「俺はお前を、元の海域に返そうと思っている。だが俺以外の全員は、捕虜にしようと考えているんだ」
「えぇ!?」
「その驚きは俺も一緒だ」
ネージュはマーレ以外の全員の顔を見合わせ、何故自分がここに居させるのか気になり始めた。
何故ならネージュはミーア以外とは初対面だからだ。交流も無ければ、特別な力なんでない。それなのにも関わらず、先代の英雄たちから注目されていると知り、萎縮した。
「あの……どうして私をここに残すのでしょうか……?」
「それは、ここが一番安全だからよネージュちゃん」
テネリタスを代表するように、ミーアがその訳を話した。
「今、アズールレーンは酷い混乱状態になっているの。だって指揮官がアズールレーンを裏切って人類の敵になったんだから」
「でもそれって優海君じゃなくてマーレ君が……」
「そう。だけど、世間では指揮官……優海君はマーレ・テネリタスなの。元々、天城優海という男はこの世に存在しなかったんだから」
「それは……」
「話を戻すわね。指揮官が居なくなったアズールレーンは、人類からかなりの不信感を受け、反乱している所まであるのよ。まぁ実際、かなり闇が深い部分があるのは事実だけどね」
アズールレーンの闇はネージュ自身も思う所はあった。
謎が多い上層部、どこからか流れてくるメンタルキューブと、不自然に消去された戦闘データ等、アズールレーンの内部にいたネージュにとっても、アズールレーン自体の不透明さは小さく、分からないことだらけだった。
「そして問題は貴方自身の安否よ。ネージュちゃん」
「私の安否?」
「元の海域の方で貴方は恐らく……死亡扱いにされてるわ」
「死亡!? どうして!?」
「貴方がマーレや優海君の事を知っているから」
そう言ってミーアは2本の棒状の間にホログラムが作り出す近未来的なタブレットを取り出し、一通り操作してネージュに渡した。
ネージュはそのタブレットを手に取り、手探りでホログラムに触ると、従来のタブレットと変わらない操作感でこのタブレットの使い方を理解し、その中にあった資料を読み始めた。
資料はアズールレーンとセイレーンとの関係が記載されており、どれも重要機密で世にバレたら大変な事になる情報ばかりであった。
中には、セイレーンの実験の為に犠牲になった島や村があり、明らかに犠牲を承知の上で認可している実験も多く、それを隠蔽するために仮初の戦闘を行った作戦もあった。
一文を読む事にネージュの額から汗が流れ始め、域を飲むほどの深淵を見た様だった。
「アズールレーンは本当にこんな事を?」
「事実よ。そして、アズールレーンはセイレーンと繋がりがあった事を隠蔽する為に、あらゆる手を使ってくる筈よ。その一例が……天城優海の処理とかね」
「処理……!? そんな!」
「よく考えてみて、人類に宣戦布告したアズールレーンの指揮官が、何故かまだ人類の味方をしている……そこでようやく人類は天城優海という存在を認知し、そして真実を知る……そうなったらアズールレーンという組織は終わりよ。だから真相を闇に隠すのよ」
「それが処理でだから私は死亡扱い……という事は、事情を知っているジンさんやリアさん、リフォルさんも同じように……?」
「恐らく……指令はあると思うわ」
ネージュは情報量に頭がぐらつき、一瞬足場を無い錯覚まで起こす程のショックを受けた。
こうしている間にも知人が命の危機に晒されていると思うといてもたっても居られなくなるが、今の状況で自分がどうこう出来る立場でもなければ、その力さえも無い自分を憎むように、ネージュは服を握りしめた。
「だからこそ、ここが安全という訳よ。それでもマーレはネージュちゃんを元の海域に戻すの?」
ミーアはマーレに話を振り、マーレは俯かせたネージュを見て何か考え込んだ。
元の海域を戻し、アズールレーンの刺客がネージュの命を奪う危険性があるのはマーレも充分分かっていた。だが、それでもマーレの意見は変わらなかった。
「俺は……それでもネージュを元の海域に戻したい」
「理由は? 私達はそれを聞きたいの」
理由のない意見は駄々をこねる子供の言う事と同じだと言わんばかりに、ミーア……いや、テネリタスはマーレの意見の理由を求めていた。
だがマーレは頑なに理由を言おうとはせず、固く口を閉ざしていた。
何度も言おうと口を開けたりはするが、一文字目から言葉につまり、まるで思春期の男子の告白のようだった。
煩わしさでロドンが催促するように咳き込んだりもすれば、セイドは気長に銃の手入れをし、マリンは鼻歌を歌ってマーレの言葉を待っていた。
1つ、2つ息を吸っては吐くことを繰り返し、ようやくマーレは口を出した。
「ネージュを、これ以上戦いに巻き込ませたくないからです」
「……と言うと?」
「鏡面海域にいる以上、セイレーンと戦闘する事にはなります。そうなればここも安全とは言えなくなる。だからこそ、ネージュを戦いとは縁遠い場所に行かせるべきだと考えたんです」
「じゃあ、どうしてネージュちゃんを戦いから遠ざけたいの?」
「それは……言えません」
マーレは自分の気持ちを伝えるのが恥ずかしくなって頭を掻きむしって目を合わさず、その態度を見て各々違った反応をしていたが共通して小さく笑ったりしていた。ミーアも例外に漏れず、その笑みは予想通りと言っているようだった。
「ふふ、ならネージュちゃんに決めて貰いましょうか」
「私に?」
「そう。ここに捕虜として残るか、マーレの意見で元の海域に戻るか、どっちか選んで欲しいの」
「私が……選ぶ」
「元の海域に帰ることになったら、アズールレーンとは縁遠い場所で一生を過ごすことになるわ。勿論、私達が最後まで貴方を守る。ここで捕虜になっても同じ、私達……というか、マーレが最後まで貴方を守るわ」
結局どっちを選んでも命の保証はあるようで少し安心したネージュは目を閉じて考えた。
目を閉じると、ネージュはさっきまで見ていた記憶の続きが見えた。
大切にしていた熊のぬいぐるみを取ってくれたあの日が、彼女にとって人生の転機となった。
彼の優しさにネージュは恋焦がれ、いつの間にか彼とは友となり、彼に会うと無意識に目で追っていた。
出会えると分かった日の前日は眠れない夜が続いていた事を、我ながら単純だと笑った。
そう、今まで単純な理由だった。アズールレーンに入った理由も、何に対しても全て単純な理由だった。
「あの、選ぶ前に少しだけ話して貰いたいものがあります」
「何かしら?」
「貴方達の、マーレ君が一体何をしようとしているのかが知りたいです」
テネリタスの核心を聞こうとしているネージュに意外にも誰も驚かず、変わりに滲み出ている警戒心と殺気がネージュに襲いかかった。
ロドンは刀を構え、セイドは手入れしていた銃の引き金を指先に置き、銃口をネージュにわざとらしく見せていた。
いつでもお前を殺せると、ネージュに分かるように伝え、それはネージュも伝わっていた。
だが隣にいたマーレはネージュに対してでは無く、殺気を向けているロドン達に対してだった。
マーレはネージュの傍から離れず、ここの空気が一気に重苦しく、緊迫していた。誰かが動けばそこから戦闘が起こる様な雰囲気に、動いたのは小さな女の子……いや2代目当主のラハム・テネリタスと4代目のシーア・テネリタスだった。
「やめなさい。この子は良い質問をしているのよ」
「そうです。2人ともその武器をしまいなさい」
「しかし、当方達の目的を晒すのは行き過ぎだ。捕虜にそれ程情報を与えてしまっては、いずれ当方たちの害になり得る」
「ですが、アズールレーンは私を始末しようとしているんですよね? 目的よりも保身に動きそうな人達だと思いませんか?」
「むぅ……」
「やられたわね、ロドン」
ネージュは引けを取らずに反論し、ロドンを口論で打ち負かした姿を見て、母親であるシーアは笑った。
ネージュは何がなんでも情報を引き出そうとしていた。
「マーレ、私は話すべきだと思うわ。貴方がこの子を大切に思っているのなら、貴方の考えを話してあげて」
ラハムは親のようにマーレを諭し、ついにマーレは折れた。
「……分かった。なら話そう。俺の目的をな」
マーレはネージュに全てを話した。
自分の目的や、それを達成する為のプロセス、必要な物に、これまでの行動の意味、そして自分の意思を余すことなくネージュに伝えた。
テネリタスの全てを知ったネージュは雪崩のような情報量を飲み込むようにして唇に指先を添え、それを元に自分の考えを練り、ついに選択をした。
「わかりました。私は……」
「貴方について行きます、マーレ君」
ネージュはそう言い、マーレは内心喜んでいた。
敵にならずホッとしたと様な穏やかな感情と同時に、戦いに巻き込む悲しさが渦巻いた感情がマーレの表情にも浮かび上がり、マーレは自分の気持ちを整理しようとした。
「ですが、貴方達の仲間になる訳ではありません。正直、貴方達の目的には否定的です。だってそれはあまりにも悲しい結末ですから」
「だけどそれはマーレが選んだ未来よ」
「だから私が否定します」
「……他に道があるとでも?」
「あると信じているからこそ、貴方達は優海君の事を本気で倒していないのですよね? だったら、他にも道はある筈です。だって、そうして人類はここまで来たのですから」
英雄達に対して自分の意見と意志を貫いたネージュは、もしここで命を落とされたとしても後悔はしなかった。
少し沈黙が続いた後、1つの拍手が鳴り、それはアトラトの拍手であった。
「ははは! 良いじゃないか、ここに居るけど僕達を止めるか……中々奇妙な立場だ。うん、面白いね……けど」
アトラトは拍手を止め、真剣な眼差しをネージュに向け、ネージュはアトラトから発する圧で思わず生唾を飲み込んだ。
「僕は正直、もう人類にはなんの期待もしていない。何十年、いや、もう100年ぐらいは行ったのかな? 英雄と呼ばれた僕達は、何度も人類に期待し、裏切られ、そして願っていた平和とは程遠い戦争を人類は繰り返した」
「ですが、今は人類同士の戦争は起きて……」
「そうだね。だけどそれは、セイレーンという共通の敵が居たから……いや、敵が居たとしても結局、アズールレーンとレッドアクシズというに勢力に別れて戦った。ただ、戦争しているのが、人類からKAN-SENに変わっただけだ」
アトラトから発する言葉には、もう人類に対してなんの感情も抱いて無く、歴代テネリタスも同様の表情を浮かばせていた。
ある者は裏切られ、ある者は民衆から恐れられたテネリタスは、それでも人類を信じて生き、死んで行ったが、自分達が蘇って見た世界は、まるで自分の人生を否定されたと同意義だった。
だからこそ、テネリタスはマーレの目的に賛同したのだ。今度こそ、例えそれがディストピアと呼ばれようとも、平和には違いないと信じて……。
その目的に否定的なネージュとは、相容れない存在だが、アトラトは見定めていた。
「君は、一体どんな世界を願っているんだい?」
「私は……」
ネージュはマーレを端目で見た後、深呼吸をして言葉を出した。
「私には貴方達のように世界を作れる様な力も、明確な未来を想像する力もありません。ですが、私は私の世界を救ってくれたマーレ君に恩返ししたいだけです」
「恩返し?」
「ずっと、ありがとうって言いたかった。感謝してもしきれないほどに、私を助けてくれました。だから、恩返しがしたいだけなんです。生きていて欲しい……それが、私の願いであり、未来だから」
「…………」
アトラトは黙り込み、瞳を閉じてネージュの考えを汲み取っていた。
「なるほど、とても一途な思いだ。……そうらしいけど、どうするマーレ君?」
「……別に、ネージュがどんな考えを出そうとしても、俺は考えを変えない。好きにしろ」
「えっ……じゃあ!」
「ただし、捕虜としてだからな。その辺りは弁えろよ、ネージュ」
「……ありがとう、マーレ君」
形はどうあれ、ようやくマーレが近くにいれる嬉しさでネージュは思わず泣いてしまい、ネージュの涙を見たマーレは慌てて拭くものを探そうと上着のポケットやテーブルを見てハンカチを探そうとした。
そんな慌てているマーレにマリン達はどっと笑い、今までの重苦しい雰囲気は消えた。
「あ〜マレっちが女の子泣かした〜最低〜!!」
「いや、これはネージュが勝手に……」
「こら、女の子のせいにするのはダメでしょ」
「そうですよ、それよりも……早くご飯にしませんか? 私もうお腹ぺこぺこで……」
「そうだね。じゃあ、奇妙な仲間を祝って……乾杯しようか」
アトラトがワインの入ったグラスを持ち上げると騒がしい空気は静まり、乾杯と合図をすると一気にこの場は小さなパーティー会場へと変わった。
「賑やかになりそうだな、親父」
「その様だな。だが、悪くは無い」
「私……生前は成人して無くなって今はこの体だけど、お酒は大丈夫かしら?」
「一応止めた方が良いのでは? ラハムさんにはこのぶどうジュースで何とか……」
飲んで、食べて、談笑する空気になってネージュの涙は少しづつ無くなっていき、どこかアズールレーンのKAN-SEN達に通ずる雰囲気を感じていた。
「……この方達は、普通の人と変わらないのですね。立場が違うだけで」
「それはそうだ。前は普通の人間だったからな。ただ、
セイレーンの実験台にされただけで」
「……だからこそ、私は貴方を止めます」
「あまり期待はしないでおく」
「ええ。その方がやりやすいです。だけど、私はやる時はやるんですよ? これでもアズールレーンの人ですから」
ネージュはテーブルの上にあったグラスを取り、その中で揺れるワイン越しにマーレを見つめた。
(必ず止めてみせます、マーレ君)
どのテネリタスが好き?
-
ロリママ創造者の2代目 ラハム
-
人類最強の天然3代目 アトラト
-
食いしん坊な絶対守護者4代目 シーア
-
武士道と極める騎士5代目 ロドン
-
風のように自由なガンマン6代目 セイド
-
完璧で究極のアイドル7代目 マリン
-
おっとり包容力で全知全能の8代目 ミーア
-
元人間のセイレーン 10代目マーレ