もしもアニメのアズールレーンに指揮官が出てきたら〜2nd season 海上の誓い〜 作:白だし茶漬け
ついこの前新社会人となり、社会に揉まれた白だし茶漬けです。
今年から大きく忙しくなり、長年続いたこの小説の投稿頻度もまた長くなるかもしれませんが、できる限り早く投稿する努力をしていきたいですね。
社会人となり、少しのお金が自由に動かせる余裕が出来たら、いつかこの小説の挿絵みたいな物を皆さんに見せられたら良いなと夢見る所存です。
今日も世界には、フランケンシュタインの怪物が愛を求めてさまよっている。
道行く人々に声をかける女性がいた。女は銀色の髪を靡かせ、姿を見せないように深く帽子を被り、右手に持っている1枚の写真を指先だけで握りしめる程に持っていた。
「少しいいか、この女を見た事はあるか?」
女は写真に写っているベルファストを指さしてそう言った。声をかけられた男は写真のベルファストを見て相当美人な人だとつい魅了され、写真のベルファスト眺めてしまい、女の殺気混じりの視線を受けて直ぐに我に返り、男は記憶の中でベルファストを探した。
「い、いやー見てないな……か、可愛いね。勿論……君も」
「そうか、では」
女の圧に気圧されながらも男は質問に答えると、女は男への興味を失い、この場を後にしようとしたが、男がその歩みを止めるように腕を掴んだ。
「す、少し待ってくれないか? どうせならこの後俺とお茶でもしないかい?」
男は声をかけられた美麗な女に惹かれてこの後の行動を誘ったが、女は男の腕を振り払い、鋭い目を向けた。
「興味無い」
女の鋭い言葉に体を貫けた男は女に怯えながら逃げていき、女はベルファストを探す為にまた歩く。
「指揮官……どこなんだ? 何処にいる?」
「少し根を詰めすぎですよ、エンタープライズ」
女は名前を呼ばれて足を止め、名前を呼んだ方向に体を向けると、サディアの町並みとは掛け離れた和風と和傘をさし、栗色の髪や大和撫子の雰囲気は、サディアを歩く人の目を奪っていくようだった。
「……天城か。あなたも人の事を言えないぞ」
エンタープライズは自分の目元に指を指し、天城の目元に少しあるクマがある事を言った。天城もそれを自覚しているのか苦笑いをしていた。
KAN-SENにとって心臓であるリュウコツが破損しかけている天城の体は最早ボロボロだが、優海を探す為にエンタープライズと同じように無理をしており赤城や加賀、土佐の心配を無視していた。
その無理がたたってか天城が咳き込み、つい和傘を離して膝をついてしまう。エンタープライズは天城に肩を貸し、体を支えた。
「ゴホッゴホッ! ガハッ……すみません、ありがとうございます」
「もういい、指揮官は私が探す。無理をするな」
「そういう訳には……ゴホッゴホッ……」
血すらも吐き出す程の咳に流石にこれ以上無理をさせる訳には行かず、エンタープライズは天城を休ませる為に空いているベンチへと座らせ、地面に落ちた和傘を拾い、天城の隣に座った。
その後赤城に連絡を取り、天城の容態を伝えて赤城が来るのを待っていた。天城の容態を伝えたら声色を変えて直ぐに行くと言っており、艦載機を使って一秒でも早く天城の元へと向かっていく勢いだったが、電話越しで加賀が止めていたので普通に来る事だろう。
「赤城は相変わらずだ。いや、指揮官がいないからいつもより荒れているか」
「ふふ、気持ちは分かりますけどね」
天城は苦笑いを浮かべていた。その苦い笑顔はとても和やかで柔らかく、今のエンタープライズにとっては太陽の様に眩しく、同時に天城の疲弊した心も見えていた。
何日も寝ていない証拠のくまや息切れしている呼吸は見ていて何とも痛々しいものだった。
天城の疲弊からエンタープライズは自分よりも、天城の方が無理をして優海を探していたと確信した。
「……優海は今どうしてるのでしょうか。ちゃんとご飯は食べてるのでしょうか」
天城は疲れで虚ろ気味になっている目で空を見上げてそう呟いた。
「ベルファストが居るんだ、その辺りは問題無いだろう」
ベルファストのお節介はエンタープライズも分かっている。主人に忠誠を誓っているベルファストがそばに居れば、嫌でも健康的になる事は間違いないとエンタープライズは経験談を交えて話すと、天城はさっきとは違った笑顔を見せた。
「そうですね。あの人なら安心できます」
天城の信頼の寄せる顔に、エンタープライズは胸に針が指すほどの痛みを感じた。
「……やはり、指揮官を任せるとしたらベルファストなのか?」
恐る恐る、エンタープライズは天城にそう言った。
エンタープライズ自身も、優海の隣にはベルファストの様な完璧な者が相応しいと考えてはいた。
完璧な料理、完璧な奉仕、完璧な立ち振る舞いは全て自分の上を行くものだった。
敵わない。この文字がベルファストに会う度に、完璧な立ち振る舞いが見せられる度に突きつけられ、胸を苦しませ、指揮官との距離を引かせられる。
「確かに彼女は素晴らしいですが、伴侶を選ぶのは優海自身です。あの子が選んだ人なら私は文句ありませんし、とやかく言うつもりはありません」
天城はエンタープライズが心に秘めている気持ちを察し、あえてチャンスがあると言うことを伝えた。
天城の意図を読んだエンタープライズは、自分の心が見透かされていると知った途端に照れ隠しで軍帽を深く被り、合わせる目を隠した。
その後赤城が血相を変えている姿が見え、それについて行く加賀と土佐が人混みを避けるどころかなぎ倒していくかのような勢いでこちらに走っていた。
「相変わらずだな……赤城」
身内の危機となるといつも暴走する赤城見て、エンタープライズは呆れると同時に安心感を感じた。
いい意味で、赤城は赤城だと感じたエンタープライズは腰を上げた。
「もう行かれるのですか?」
「指揮官が心配だからな。失礼する」
エンタープライズはこの場を後にした。
「……危ういですね、彼女」
「天城姉様ぁぁ!! 身体はご無事でー!?」
「赤城、公共の場ですよ。少しは声を落としなさい」
迫るくる赤城の額を指で弾くと、赤城は白目を向いて気絶した。本人はそこまで力を入れてないと思ったが、赤城が受けた衝撃は相当なものらしく、天城は天城の膝の上でピクリとも動かなくなってしまった。
「あ。ごめんなさい赤城、少し強すぎたのかしら……」
一瞬で倒れる所を目撃とした加賀と土佐は生唾を飲み込むと同時に冷や汗が体から溢れ、尻尾を針のように逆立てて天城の前でだんまりした。
余計なことをしたら次の赤城は自分達になると心に刻まれたからだ。
「あ、天城さん……身体は大丈夫なのか?」
「大丈夫ですよ加賀。エンタープライズさんが介抱してくれたので。……それよりも、優海は見つかりましたか?」
「……残念ながら収穫なしだ」
悔しくも土佐は現状を話し、赤城達だけではなく他の捜索メンバーも同じ様な状況だった。
優海どころかベルファストやオロチを目撃している人は存在せず、収穫らしい収穫は無かった。
意気消沈する中、土佐がある事を話した。
「天城さん、あの新しい指揮官の指示通りに優海を探しているが本当に大丈夫なのか?」
「……何が言いたいのですか?」
「あの指揮官は上層部の人間が決めた指揮官だ。それに優海とマーレの顔は同じだ。もし優海を見つけてアイツに渡そうものなら、見せしめでテネリタスを討ち取ったなんて事に……」
「止めろ土佐」
加賀の静止で土佐は最悪のシナリオを言葉にするのを止めた。
優海とマーレは同じ顔であり、そもそも優海はマーレを元にして造られたセイレーンだ。
顔が同じならば、優海をマーレに見立てて処刑する事も出来る。土佐はそういう考えをしたのだ。だが、天城はそれを否定した。
「それは無いでしょう。実行したとしても、マーレ本人が現れては意味が無いですから」
「確かにな。だが優海を連れ戻す事が危険なのは同意だ。あの男は……危険すぎる」
「そうですね……」
天城達はヤークトの潜在的な危険性を感じ取っていた。
理論的な考えは無くただの直感だが、天城達はこの直感を不思議と受け入れていた。
他のKAN-SEN達は天城達ほど危険性を感じ取っておらず、天城達はこの危険性を伝える事もしなかった。
そもそも殆どのKAN-SEN達は優海の失踪によって精神的に不安定な者も多く、今の状況で現指揮官が危険だと話しても混乱するだけだからだ。
その為、天城達はあのヤークトと指示に従うしか無い状況だ。動くためには、何かきっかけが必要だと天城は感じており、そのきっかけはまさに今、風のように現れた。
「ハーイ、そこの狐さん。ちょっとお話でもしないかしらー?」
フランクに接しようとする言葉遣いに3人は顔を向けた。
「……オロチ」
加賀がその女性の名前を呼び、彼女は返事をした。
「久しぶりね。……なんで赤城はのびてるの?」
「気にしないでください。貴方がここにいると言う事は……」
「そうよ、優海はここに居るわよ」
「優海!?」
優海という言葉で赤城は意識を覚醒させ、目の前にいるオロチが何故いるのかという訳を気にも止めずにオロチとの距離を詰めた。
「優海がここに居るのね!? さっさと居場所を吐きなさい!!」
「詰めるわね貴方……けど、そういう訳にも行かないの。私はただ情報が欲しいだけだから」
「情報?」
「そっ、あの新しい指揮官に関してね。でも貴方達は優海の安否の方が気になるのよね?」
オロチは赤城に掴まれている腕を離し、首元の襟を直した。
「単刀直入に言うけど、優海は生きてはいる。それだけよ」
「まるでそれ以外は悪い口ぶりだな」
「そうよ加賀。優海は生きているけど意思疎通も食事も出来なくて、自分で手足すらも動けない廃人よ」
オロチの言葉に天城達は絶句し、嘘をついていると真っ先に考えた。だが、オロチの表情でそれは無いという考えと共に、未だに信じられない感情が天城たちの中で渦巻いた。
「嘘だと思うなら会ってみる? 感動的な再会とはならないけどね」
オロチは選択を天城達に託し、天城達に背を向けてゆっくりと歩いていく。
時間が無い、このまま立ち止まれば自分達は一生優海には会えないという後悔しかない未来が天城達の目に浮かんでいた。
そもそも迷う必要は無い。自分の大切な人に会えるという期待、そして想像しうる最悪な状態を覚悟しなかまらも、天城達は静かに蛇の後ろ姿へと追いかけて行った。
一方その頃、家族と過ごしている者がいた。家族と言っていても血縁というだけであり、正確には家族ではない。そんな、数百年にも渡る血縁者がサディアの名の知れた服屋で買い物をしていた。
ある一人の少女と共に……。
「ん〜ネージュちゃんは清楚系が良いかな〜? それとも、オフショルダーでマレっちを悩♡殺しちゃう?」
「こ……これ肩だけじゃなくて胸元まで見えてしまいませんか……?」
ネージュは黒のオフショルダーを持ち上げ、自分がこれを着る姿を一瞬想像した。
だが、あまりにも破廉恥な衣装に自分とのギャップが生じて羞恥心が生まれたが、マーレが喜ぶ僅かな未来を思い浮かべたネージュはそっと黒いオフショルダーと、短いドレスの購入を決意するように、顔を赤くしながら服を抱きしめた。
「まぁネージュちゃん胸大きいもんね。でもマレっちもこういうの好きでしょー?」
「こんな所で名前を呼ばないでください。俺たちはもう名前を知られているんですから」
服屋の片隅で店員の目を気にしながら姿を現したマーレは、姿を隠す様に髪型を変えてサングラスで顔を隠していた。
マーレは奥にいる店員に名前を聞かれてないが気にし、店員に目を向けると、店員は名前を聞いていないようであり、マーレはほっと静かに胸を撫で下ろした。
「ふふ、服もこんなに変わっているなんて数百年という年月は馬鹿にならないわね」
マーレの前に小さな女の子が白を基調としたゴシックドレスを来てくるりと回転させ、ドレスをヒラリと舞わせた。
小さな披露宴を見たマリンはあまりの可愛さに目を輝かせながら拍手をした。
「わぁ〜!! ラハムちゃん可愛い〜!! これは買いだね! うんうん」
「マリンさん、俺たちがここに来た目的を忘れないでください」
「分かってる分かってる〜。でも折角サディアに来たんだから、サディアブランドは買わないと。マレっちも何か買う?」
マリンはマーレに似合いそうな服を選んでおり、マーレはため息をついた。
「それよりも、なんでネージュを着いてこさせているんですか」
「だってあの艦にずーっと居させるのキツくない? たまには外の空気を吸わないとダメだよ」
「……はぁ、ほどほどにしてください。俺は少し用がありますから、ネージュを頼みますよ」
呆れたマーレは何も言わず、マリン達の買い物を付き合わずに店の外へと出ていった。
外に出ると石畳の道路の上に人々が歩いており、歩く人々の顔は曇っていた。
「おい聞いたか? またテネリタスがサディアを攻めてるらしいぞ」
「どうしてこの陣営を狙うんだよ……ほか行けよ……」
店の前に通り過ぎる人間の会話を聞き、マーレはこう思った。
(別の陣営だったら良いって事か?)
自分さえ良ければそれで良いと、男は考えていた。
そばに居た男も確かにと言いながら笑っていつも通り歩いていき、マーレは男達を見送って用事を済ませようとしとしたその時、遠くの広場から女性の悲鳴が聞こえた。
悲鳴が聞こえた方角にマーレは目を向けると、広場中央には怯え泣いている少女とそれを乱暴に抱えている男がいた。
男の右手には拳銃があり、少女の母親が泣いて返すようにとせがんでいたが、男はその要求を飲み込まず、少女の頭にこめかみに拳銃を突き立てた。
「動くなっ! 動いたらこのガキ撃つぞ!」
銃を突きつけられた女の子は泣き出してしまい、泣き声にあてられた男は怒りの逆鱗に触れた。
「黙れっ! どうせみんな終わりなんだ! ははは!!」
「狂った奴が……」
テネリタスとセイレーンによって人類は全滅の危機に瀕した結果、恐怖であんな奴みたいに自暴自棄になるヤツらは少なく無い。
その要因の1つになっていると自覚しているマーレは他人事とは思えず、暴動を止めるために動こうと一歩前に踏み出した瞬間、マーレの横を凄まじい速さで走った女……いや、KAN-SENがいた。
「そこの人! 今すぐ止めなさい!」
あれはサディアのKAN-SEN、カラビニエーレだ。
正義感があり、真っ直ぐな性格を持った少し苦手なタイプであり、そんな性格を示すように銃を持った男に走っていった。
「KAN-SENか!?」
カラビニエーレを見た男はギョッとした顔で直ぐさま銃口を彼女に向けたが、いつも戦場で命のやり取りをしているKAN-SENの反応速度は常人の倍を行くものだ。
銃口を向けられた瞬間、カラビニエーレは腰にぶら下げていたライフルを構え、ライフルから弾丸を放った。
放たれた弾丸は男の拳銃を撃ち抜き、銃が無理やり引き剥がされた衝撃に耐えきれず、男は拳銃を手放した。
拳銃を引き離した事により男の意識はカラビニエーレから離れ、カラビニエーレは全速力で男を床に組み伏せた。
「くそっ! 離せ! お前ら人類を守るKAN-SENだろ!」
「市民の安全を守るのも役目です!」
「だったらマーレとかセイレーンとか止めろよっ! 人類を守るためにお前らは造られたんだろうがよぉ!!」
「っ……」
カラビニエーレは男の言葉に戸惑いつつも力は緩めず、男の手首を縄で拘束して鎮圧した。
その後パトカーのサイレンが近づき、ようやく警察が来たようだ。複数のパトカーから警官が男を捕まえた。
「ご協力ありがとうございます!」
「いえ、これぐらいは……」
「だったらセイレーンや敵ぐらい倒せよっ!」
男はそう怒鳴ると、警察の男達は彼を力強く取り押さえたが、男はカラビニエーレに……いや、KAN-SENに更なる怒りを向けた。
「お前らのせいで俺達はやばい事になっている! お前ら俺たち人間を守る為に造られたんだろ!? なら守れよ!? なぁ!」
「それはっ……」
カラビニエーレは何も言えず、ただ俯いた。
正論を言われ、自分の無力さにうち打ちひしがれたカラビニエーレは1歩後ろに下がり、胸の痛みを抑えるようにしていた。
「お前らのせいで俺の……俺の友達や家族はっ!」
「友っ……えっ、あっ……?」
まるで自分の余命でも宣告されたかのようにカラビニエーレは瞳孔を見開かせ、また1歩男から離れた。
「返せよ! おいっ! 俺の大切なもの返せよっ!!」
「動くなっ!! ……ほら、いくぞッ」
男は警察に連れていかれパトカーへと連行された。これにて一件落着だが、野次馬の目が男から一気にカラビニエーレに向け、その目は少しだけ冷たい目だった。
あの男が言ったことは、この場にいる誰もが思った事だからだ。
自分の命が狙われる不安、大切な何かが奪われ、それを守れなかったKAN-SENへの怒り、そしてそれに対してのわかだまりを、あの男が代わりに弁論したんだ。
それに対して思うところはあるのだろう。
俺も同じような思いも、経験もしてきた。
今でもあの時の炎が目に焼き付いて離れない。
崩れゆく建物、皮膚が焼ける燃え盛る炎の中で冷たくなっていく母さんの体の体温を忘れた事は無い。
KAN-SENへの怒りもあったが、それよりも自分の無力さを呪った。
糧にしなければ、この怒りにも似た炎は消えない。何かを成す力を欲した結果、こうなった。
白い手は獣の爪のように鋭くなり、誰かの手を握る事すらできない。いや、する必要が無い。
俺はひとりで全てを倒す。敵を倒して、倒して、倒して、そして最後には……全てを終わらせて……
「マーレ君」
「ん……?」
「あの、外……どうしたんですか?」
外の騒ぎが気になったのか、ネージュが店の外へと出てきた。
ネージュの目線が野次馬の方に向けられ、事情を説明してと言わんばかりの様子だった。
「ちょっとバカ騒ぎしたヤツがいただけだ」
「……そうですか」
ネージュはそれ以上何も言わず、ただ俺に微笑んでくれた。
「何も言わないのか?」
「今の私は貴方達の捕虜ですよ? 捕虜がとやかくいうつもりはありませんから」
「それで俺達を止めようと?」
「ええ。そうです」
ネージュは硬い決意の目で俺を見た。俺の記憶の中にあるネージュとは全く違い、一瞬別の人にも見えた。
「…………変わったな、お前」
「マーレ君は……変わってませんね」
「変わったさ」
俺は変わり果てた左手をネージュにみせた。
もう誰の手も握られない酷く、ボロボロの手をネージュは手に取った。
「ほら、こんなにも貴方は暖かいのですから」
温もりを感じるように、ネージュは俺の手を自分の頬に添えた。
「っ、ネージュ……」
「わ〜ラブラブ〜♡」
俺とネージュの一連の流れを見たマリンさんがムカつく笑顔でニヤニヤとしており、驚いてネージュは俺と離れ、マリンさんの後ろにひょこっとラハムさんが出てきた。
「あら、これは孫の孫の孫の……とにかく、孫が見れるのかしら」
「俺とネージュはまだそんな関係じゃない!」
「『まだ』?」
「……あっ」
しまった、失言した。しかもこの失言はまずい、色恋沙汰が好きなマリンさんにとっては俺を揶揄う良い材料になった。
ネージュは顔を赤く染め、マリンさんはにんまりと笑い、ラハムさんは聖母の笑顔でそれを見守っていた。
「と、とにかく俺はこの後別の場所に行きます。貴方達はネージュを連れて帰った後、作戦を開始してください」
「はーい。一応ミーアもそっちに連れていくんだっけ?」
「ええ。よろしく頼みます」
「はいはーい。それにしても……今回の作戦は女の子で固めちゃうなんて、マレっちはおませさん?」
「……本当に頼みますよ」
軽いノリだが、マリンさんはやる時はやる人だ。信頼はできる。……まぁラハムさんもいるからとりあえずは安心だ。
ネージュを気にかけながらもこの場を後にすると、そのネージュから止められた。
「マーレ君。……気をつけて」
「分かってる。……じゃあな」
俺はネージュに触れられた左手を触れてみた。
「……冷たいな」
_一方その頃
瓦礫の中の扉が開かれる。
壊れた窓ガラスを差し込むのは、生気を失って力無く車椅子に倒れ込むように座った1人の青年だった。
その青年を見た瞬間、天城達は胸の痛みを受けたと同時に、ようやく会えた喜びを感じていた。
喜びと悲しみ、両方の感情が混じった涙を流しながら天城と赤城は車椅子に俯いた青年、アズールレーン元指揮官の優海を抱きしめた。
「優海……! こんなっ……」
「ああっ……また私を忘れるの? 優海……」
「あぅ……っあ」
優海は決して天城達を忘れている訳では無い。現に優海は天城達と出会えて喜んでいる。
だが優海は笑う事が出来なかった。
感動で涙を流す事も、笑う事も、再会の喜びを分かちあう事も出来なかった。
「……おい、どういう事だ。何故優海がこうなっている」
「待って待って待って。落ち着いて加賀。私がやったんじゃないから」
優海の状況に加賀はオロチに問い詰め、胸ぐらを掴んで瓦礫の柱まで追い詰めた。
だが、オロチは涼しい顔を浮かべていた。
「私もね、どうして優海がこうなったのか分からないよ。……まぁ大抵の予想は付くんだけど」
「なんだそれは!」
「えー? 言っちゃっても良いのー?」
「言え!」
「わかった。分かったから、ちょっと話してよ。服がシワになるから」
加賀は乱暴にオロチを離し、1部シワになった所をオロチは伸ばすようにした。その後軽く咳払いをして天城達に意識を向けさせ、自分の話を聞かせる準備を整ってから、口を開けた。
「まず、こうなった原因は多分コネクターの能力による許容オーバー。つまり、力を使いすぎたのよ」
「力だと……?」
「あぁ、そういえば貴方達は知らないか。この子ね、簡単に言えばKAN-SEN達の心の中に入れるのよ」
「心……?」
「メンタルキューブの中にある量子情報……って、言っても分かりにくいか。とにかく、優海はコネクターの力を使って、ビスマルクとエンタープライズの暴走を止めた。……あと、長門を重桜の神木から引き上げたわね」
オロチはこれまで優海がした事を話した。
まずは長門の件、重桜の神木に長門を差し出す事によって信仰が力になるゆる重桜陣営に、再び民の信仰を取り戻し、神木に力を取り戻そうと重桜上層部は企んでいたが、優海の尽力によってそれは解決された。
だが、これと同時にテネリタスによる全陣営の上層部が殆ど虐殺された事件が発生し、軍事指揮権を全て指揮官に譲渡された。
次に起こったのが、テネリタスの鉄血襲撃だ。
突如テネリタスが鉄血を襲撃し、あまりある戦力差を補う為、ビスマルクが黒いメンタルキューブを取り込んでテネリタスに抵抗したが……その結果、ビスマルクは暴走を起こした。
その暴走を止める為に優海はまた力を使い、事なきを得た。
「そして最後は、エンタープライズの暴走。これが引き金となって、優海は廃人化した。全く警告したのに……馬鹿ね」
「経緯は良い。どうしたら優海は元に戻る」
鋭い目をした加賀と土佐にとって廃人化した経緯はどうでもいい様子だ。今最も優先されるのは、優海がどうしたら戻るのか。それは加賀と土佐だけじゃなく、ベルファトや天城、赤城も同じ考えだった。
期待を胸に、全員オロチの言葉を待っていた。オロチの両肩に得も言わない重圧が圧し掛かっていた。
だが本人はその重みを重圧とは思わず、飄々とした顔を浮かべ、自分の考えを告げた。
「……さぁね、分からないわよ」
「何だとっ!?」
「だってメンタルキューブの量子情報が破損しているのは分かるけど、それの直し方なんて知らないわよ。そもそも、メンタルキューブが破損するなんて前例が無いんだから」
「じゃあこのままご主人様は……」
「やめて、それ以上言ったら燃やすわよ」
「失礼しました……」
ベルファストの考えは赤城と同じだった。だが誰しもがそれを口にするのが恐ろしく、考えたくもなかった。
「うーん……もしかしたら信濃だったら何とか出来るかもね」
「信濃が?」
「ええ。あの子の力なら……或いは」
オロチが何かを考えようとしたその時、遠くの方から爆発音が聞こえた。
爆発の振動がこの廃墟にも伝わり、それが引き金となって壁に亀裂が走った。
「これは……皆さん! この廃墟から離れましょう!」
ベルファストが声を上げたと同時に、天城達は優海を連れて廃墟から離れていった。
完全に崩壊する前に逃げた為、危機一髪という事は無く、余裕を持って逃げる事が出来た。
廃墟の教会はゆっくりと崩壊し、廃墟から瓦礫の山へと変わっていく。ベルファスト達はその変わりようを見終える事はなく、爆発がした海上へと目を向けた。
海の上には、大量のセイレーンとKAN-SEN、そして2代目ラハムと7代目マリンが、セイレーンとKAN-SEN相手に抗戦していた。
「ちょっとー!! こんなにいるなんて聞いてなーい!」
「これは厳しいわね。でも、造作はないわ」
セイレーンの大群に数で対抗するように、ラハムの周りに青く透明な馬や鳥、そして鎧を纏った騎士達が現れた。
「行きなさい、私の友人達」
ラハムの号令の元、友人達と呼ばれた創造物はセイレーンに向かって行き、攻撃していく。
鳥は羽を弾丸のように飛ばし、馬はその足でセイレーンの体を貫き、騎士は槍を使って攻撃した。
「ねぇねぇラハムん。なーんかセイレーンの動きがおかしくない? 統率が取れてるっていうかなんというか……」
「そうね……誰が統率しているのかしら?」
「というかこれちょっとキツーイ!! ロドンおじいちゃんかパパを呼ぶの無理なの!?」
「あの子達は別の陣営で根回ししているから。期待は出来ないわね」
「もー! でもキツイだけで何とかなるよね」
「ええ、でも頑張るわよ。マリン」
「はいはーい! この後サディアスイーツをいっぱい食べるんだから!」
そう息巻いたマリンは、青色の粒子をラハムの下僕にまとわりつかせると、下僕の動きが機敏となり、電光石火の様に敵をなぎ倒していった。
「三つ巴……とにかくここを離れましょう。優海をどこか安全な場所に!」
戦場の光が目視が出来る以上、優海を危険な場所に居させる訳には行かない天城の意見に皆は何も言わずに賛成し、すぐこの場を去ろうとした所に機械の足音が鳴った。
「発見。ようやく見つけました、天城優海」
「誰っ!?」
優海の名前を呼ぶ声に、赤城は敵意を向けた。
赤城は目の前の光景に一瞬戸惑った。
何故なら、目の前には銀色の装甲を纏ったロボットがそこにいたからだ。
「誰……? 貴方」
「お迎えに参りました。天城優海。ジン・カービスがお待ちです」
「あっ……つうぁ……??」
銀色のロボット、JBが優海の目に映った。
「……ここか」
地中海の地下の鏡面海域、数々ある島の中央の島にあるコロッセオ。そこに俺が探している物がある。
地上にあるものとは姿は似ているが、それ故にどこか異質な雰囲気が漂わせていた。コロッセオの周りには緑色の鷲が飛び交い、こちらに向かって飛んでくる。
動きが直線的な為、撃ち落とすのは造作無い。
撃ち落とした鷲は地面に落下すると同時に霧散して残骸は残らないが、また別の鷲が空中で産まれ、また俺達を襲ってくる。
極めつけは幽霊船だ。幽霊船と言っても実態があり、無人船と言っていい。
こちらも特に強くは無いが、鬱陶しい。
叩いても、潰しても、また別の奴が出てくる。こんな奴らを相手にするのは、穴を掘ってはその穴を埋めるような無意味さだ。
「早く中に入りましょうか」
「ええ。けど、気をつけて行きましょう」
「分かってますよ」
子供はいつまでも子供ということだろうか。いつまでも俺を甘やかすミーアさんの態度には飽き飽きしつつも、どこか安心感があった。
少し心強い祖母と共に、コロッセオの中へと入っていくと、俺達を出迎えたのは静寂に満ちた石階段だった。
敵の気配は……無い。しかもコロッセオという割には美術品が多い。
有名な絵画、骨董品、剣、銃……芸術品好きなマリンさんが見たらどんな反応をするんだろうか。
「マリンさんが見たら、どう思います?」
興味本位で、マリンさんの娘であるミーアさんにそう尋ねた。
「そうね……きっと静かに見ると思うわね」
「静かに?」
意外な答えに俺は驚いた。あの人が静かに何かを見るのは想像出来ないからだ。
すごーい、とか綺麗ー! とかよく言うし、喋らないと死んでしまう病気にでもかかっているのではないかと思う程だ。
そんな人が……静かに? 想像つかない。
「ふふ、マリンお母様は絵と会話するのよ」
「絵と会話……?」
「ええ。静かに見つめ、絵と会話し、作者の心を傾ける。それが芸術への敬意だと言っていましたよ」
「信じられないな……」
「じゃあこれが終わったら美術館に行きましょう」
「……終わったらね」
会話を終えて良い雰囲気では無く、いつの間にか周りにKAN-SEN……いや、駒に囲まれた。
駒は緑のオーロラの様に薄い光を纏って発光し、通常の駒とは少し違う印象を受けた。
セイレーンに造られたKAN-SEN、通称【駒】はKAN-SENの量子情報を元に造られて構成された兵器な為、意思とかそんなものは無い。
だが、何故かこの駒からは意思の様な物がうっすらと感じる。
しかも……敵意が薄い。なんだこの気味の悪さは。
ミーアさんも警戒して駒を観察し、自分から攻めようとしてない。このまま睨み合いをするのなら俺から攻めようとしたその時、拍手をしながらコツコツと足音が聞こえた。
「こんな所で意外な人たちと出会えましたね」
KAN-SENの駒をまるで小間使いの様に手払いで道を開けさせると、そこには指揮官服を着た男がいた。
見かけからして優海の代わりに着任した新しい指揮官なのは確かだが……
「誰だ」
「おっと、申し遅れました」
男は指揮官服の襟元を直し、ひとつ咳き込んだ。
「僕はヤークト。アズールレーンの指揮官です。お会いした記念に、お茶でもいかがでしょうか。英雄様?」
男は丁寧に頭を下げ、友好的な笑みを浮かべてそう言った。
経過日記5日目
本日は拠点としているこの廃墟の裏で、温泉を作りました。
ご主人様が廃人となっても、やはり体は綺麗にしなければならず、オロチ様の光学兵器の熱量を利用してお湯を沸かし、ご主人様の体を洗いました。
点滴を打っているので栄養補給は大丈夫ですが、細く、軽い腕を触ると胸が痛みます。
ご主人様のお早い帰還……私はいつまでもお待ちしております。
どのテネリタスが好き?
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ロリママ創造者の2代目 ラハム
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人類最強の天然3代目 アトラト
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食いしん坊な絶対守護者4代目 シーア
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