もしもアニメのアズールレーンに指揮官が出てきたら〜2nd season 海上の誓い〜 作:白だし茶漬け
寂しさ虚しさ渦巻く帰郷
柔らかい風が桜の桜を散らせ、風に乗った桜が舞って世界を美しく彩る。
青く広がる空と薄桃色の桜が見せる景色は他の陣営では絶対に見られない絶景を作り出し、見る者全てを心惹かれさせるようでもあった。
だがたった1人、心を失ってこの素晴らしい風景を見ているはずなのに、この景色が見られない男がいる。
目に光りは無く、自分の足で歩くことも出来ない彼、天城優海は、故郷である重桜の光景を見ることも無く、石畳の道を意味もなく……いや、意味すらも持たずに眺めていた。
桜の花びらが1枚車椅子に乗っている優海の膝に乗っても優海には反応がなく、膝に着いた桜の花びらを天城は取り払い、取った花びらは風が吹くと天城の手から離れ、遥か彼方の空へと旅立って行き、それはまるで今の優海を現しているかのようだった。
「貴方の帰郷はいつも寂しい物ですね。優海」
優海の後ろから天城が話しかける。
桜の花びらを意味もなく見ている優海とは違い、天城は重桜の街を眺めながら昔を思い出していた。
優海を拾い、育ててきた数年間は今この道に広がる桜の様に美しい物だった。
天城は桜の木々を見ながらゆっくりと車椅子を押し、我が家へと戻っていく。
家に戻る道中で、天城は近くにある街に足を運ぶ。
そこは数々の母屋が並び達、1階には数々の店を構えた商店街であると同時に、天城達にとっては縁のある場所だった。
いつもはここで買い物をしながら、数々の人達と交流をしていたが、今はかつての賑わいが無かった。
店はほとんど閉まっており、何かに怯えるように窓も締め切って外への干渉を極力避けていた。
原因はやはり、テネリタスの宣戦布告とサディアに対する侵略行為だろう。
テネリタスは今でも各地で侵略行為を行っており、サディア上層部の壊滅により鉄血に吸収されたとはいえ、下手をすればサディアはテネリタスに乗っ取られていたかも知れない。
ここ重桜でも少しだけだが被害があり、その事実に人々は怯えながら今日という日を無事に過ごす事だけを考えていた。
自分達KAN-SENの不甲斐なさに天城は唇を噛み、謝罪するかのように少し目線を下げながら街の中を歩いていく。
かつて人々の声で賑わっていたこの街で聞こえてくるのは自分の足音と車椅子のタイヤが回る音のみで、天城まるで世界中から人が消えたかのように錯覚してしまいそうになっていた。
しかしそれは、目の前に落ちた石ころでかき消される。
明らかに誰かから投げられた石に嫌な予感を感じた天城は投げられた方向のある家の2階に顔を向ける。
向けた先には窓を開けて、天城を険しい目付きで睨んでいた重桜の住人が石を持ち、持っていた石を天城に向けて投げた。
距離があった為か天城には当たらなかったが、優海が座っている車椅子のタイヤに石が当たり、天城は直ぐに優海を庇った。
石を投げたのは小さい男の子だった。
「KAN-SENは出ていけー! お前達が弱いからお父さんが怪我をしたんだ!」
「止めなさい! KAN-SENは私達よりも遥かに力が強いのよ! 反感を買われたらどうなるか……」
どうやらテネリタスの侵攻によって親に被害が受けたようだ。母親らしき人物が子供を抑え、天城の方に畏怖の目を向け、直ぐに窓を閉めた。
子供の叫びが号令となり、次々と家の窓から天城に向けて冷ややかな視線が向けられ、天城は何も言わず、少し早く歩いてこの場を去った。
「のこのこと歩きやがって」
「お前らが弱いから俺達はこんな目に……」
「しっかりしてくれなきゃ造られた意味なんて無いのに」
心無い言葉は天城の背中に刺さり、天城は咎めることなく甘んじて受け入れながら商店街の街を抜け、その先の少しの坂道にたどり着く。
ここを上がれば我が家だが、病弱持ちの天城には優海の車椅子を押しながら進むのは少しだけ辛いが、天城はそのまま進もうとしたその時、天城に声をかけた人物がいた。
「押すの、代わるわよ?」
「オロチさん?」
意外な人がやって来たと天城は少し驚きつつ、天城はオロチに変わって車椅子を押すのを代わった。
オロチは車椅子のハンドルを握り、天城と一緒に坂道を登っていく。
「それにしても、あの人間達の行動ってお門違いよね〜。侵攻しているのはテネリタスなんだから、そいつらに怒りを向ければいいのに」
「見ていたのですか?」
「なに? どうして助けなかったって? 見た目がほぼセイレーンの私があの場で姿を現したら、あの場は大混乱になるわよ」
白い髪、薄い色素の肌は確かにKAN-SENや人間にも当てはまらない姿をしており、セイレーンと似た風貌を持っている。
何も知らない者から見れば、セイレーンと思われても無理は無い。故にオロチは傍観した。
それは天城も理解しているかつ、自分が、KAN-SENが責められるのは当然だと受け入れてもいた。
自分達は人類を守る為に、人類の思いによって造られた盾でもあり、剣でもある存在。
使命とは果たさなければならないもの、その使命とは人類を守る事。人類にとってそれは絶対であり、果たすべき約束と言ってもいい。
優海が無事ならそれを否定するだろうが、今となっては否定してくれる人類はどこにもいなかった。
夏が近づき日差しが強くなり始める中、天城とオロチは言葉を交わさず黙って登り、ようやく1つの家が見え始めた。
重桜特有の木造の一軒家の屋敷は広い庭があり、のどかな縁側から少しだけ家の内装が見えていた。
あれこそ優海が天城と共に暮らした家だ。しかし、我が家を目にしても優海に変化は無く、虚無なその姿に天城は胸を痛ませた。
「少し前まではここで過ごしたというのに……」
天城の目には幼い頃庭で走り回る優海の姿や、縁側で赤城達と昼寝をしていた優海の姿が映っていた。
まるで昨日の事のように覚えている景色は、隣の車椅子で項垂れている優海によって色褪せてしまい、悲しい現実を突きつけられる。
「ねぇ、早く家に入らない? 暑いんだけど」
オロチの言葉で我に返った天城はオロチに謝罪し、車椅子を押す役割を変えて家へと入った。
扉を開けると、空調の聞いた涼しい空間が天城達を出迎え、玄関には赤城達が履いている靴ともう2足、重桜の物とは違う靴があった。
1つはスニーカー、もう1つはハイヒールであり、男女1人ずつというのが分かる。
「まぁ、もう帰っていたのですね」
天城は車椅子から優海を抱き上げ、歩く事が出来ない優海は全体重を天城に預けるも、天城は体制を崩す事無く優海を背負い、居間まで歩いた。
見慣れた居間には赤城や加賀、土佐とベルファストが夕飯に向けての支度をしており、畳の床には客人のジンとリアがくつろいでいた。
「どうやら私達が最後だったようですね」
「お帰りなさい天城姉様。もうすぐ夏だから暑かったでしょう。夕飯の支度は私たちがしますから、ゆっくり休んでください」
「そう? じゃあお言葉に甘えるけど、くれぐれも、ベルファストさんと喧嘩しないように」
「わ、分かっています」
釘を刺された赤城はベルファストと嫌々ながらも協力し、心配ながら天城は笑ってそれを見守った。
支度を赤城達に任せた天城は、縁側の近くにある和室に敷かれた布団の上に優海を寝転ばせ、優海の頭を撫でた。
何も感じてないのか、それとも感覚さえも無くなってしまったのか、優海は触れられた事に気づいていない様にピクリとも動かなかった。
「相変わらずぼーっとしてるな」
寝そべっている優海に向けてジンはそう言った。
あれから2週間程経過し、天城達がここ重桜にいるのはオロチが重桜だったら優海を元に戻す方法があると言ったからだ。
だがオロチはその詳細を知らせず、今日までずっと隠して続けた。
「そろそろ話せよオロチ。どうやったら優海を戻せるんだ?」
「ん、そうね。じゃあ話そうかしら」
オロチはキッチンにいる赤城達にも聞こえるよう、立ち位置を変え、話をした。
「まず、優海はメンタルキューブがボロボロに砕けた状態になってるの。人間に例えるなら、心が砕けたって感じね」
「……ん? メンタルキューブって心臓と似たような物だろ? それボロボロになったら死ぬんじゃねぇのか?」
メンタルキューブは未だにブラックボックスが多い謎の物質として認知しているジンは、メンタルキューブ=命
として認識していた。
ジンだけではなく大抵の人間はそう認知しており、リアも敷居に頷いていた。
「あー……説明がしづらいけど、メンタルキューブは心臓そのものじゃなくて、人間の体って言えば良いのかしら。心臓の役割はリュツコツって言うもので、メンタルキューブ自体は艤装や感情に直接的な関係があるの」
「な……るほど?」
人とは違う感性や構造な為、ジンは全てを理解する事は出来ないが、概要は掴めたから良しと苦笑いを浮かべた。
その苦笑いにオロチはあまり理解出来ていない事を察して小さく笑った。
「まぁとにかく、ボロボロになったメンタルキューブをどうにかして繋ぎ合わせれば、優海は元に戻るって事よ」
「けど、メンタルキューブって触れるのか?」
ジンはメンタルキューブによって生まれたKAN-SEN達を目に向けたが、KAN-SEN達はしきりに首を横に振り、最初に加賀が口を出した。
「普通は無理だ。明石によればキューブは変形して私達の姿になっている。触れるどころか形さえない」
「けど優海は別。メンタルキューブで体を形成しているんじゃなくて、メンタルキューブそのものを体に埋め込む形になっている。だからセイレーンなのに身体が成長するのよ」
「じゃあ、体突き破ってメンタルキューブ取り出せればいいのか?」
「そんなことすればお前を斬るぞ」
馬鹿げた事を言い出したジンに刀の抜き身をチラつかせ、ジンは冷や汗をかきながら目線を逸らし、先程の失言を水に流すように口笛をふいた。
馬鹿な事を言うのなら最初から言わなければ良いのにと土佐は呆れ、話を進めた。一刻も早く、植物状態に近い優海をどうにかしたいからだ。
「キューブ自体が優海の中にあるのなら、それに接触すれば問題ないのだな?」
「そうね。その為には必要なKAN-SENがいる」
オロチは右手の人差し指を立て、必要なKAN-SENが誰なのか答えた。
「信濃。あの子が持っている『世界渡り』、他の平行世界に移動できる能力を応用すれば、メンタルキューブで形成された深層世界に行けるはず」
「要はもう一度優海の心の中に行けるのですね?」
天城が言ったもう一度とは、オロチ戦の後に起こった優海の人格喪失の事を指していた。その時、オロチの力を使って天城達は優海の深層世界に入り、優海の状態を治そうとした。
しかし優海はそれを拒絶し、深層世界で優海は天城達に襲いかかり、天城達は優海に敗れて失敗してしまった。
結局、優海の中にいたコネクターによって優海の人格は元に戻った。
今回も同じ事をする訳だが、今回は優海の状態が違う。記憶を失った訳では無く、心そのものが壊れた状態だ。
そんな状態でなんの前情報も無いまま深層世界に行くのは無謀にも程がある。
その為、世界渡りという別の平行世界を行き渡る能力を持っていながら、今いる次元の世界に戻って行ける信濃を同行すれば、命綱を得た状態で深層世界に行けるとオロチは踏んでいた。
方法が分かって一同は希望を見出したが、天城が手を小さく挙げて問題点を指摘した。
「ですが問題は信濃をどうやってこちら側に行かせられるかですね」
「んぁ? どういう事だ?」
「信濃は重桜でかなりの地位に立っている者だ。謁見も稀ゆえ、会う事すら困難だ」
「連れ出す……訳には行きませんからね。そもそも今意識があるかどうかすら怪しいのも要因です」
「ん? 今、信濃って意識不明なのか?」
「彼女の世界渡りは不規則かつどこに飛ばされるかは完全にランダムなのです。いきなり眠ったと思えばすぐ起きたり、丸一週間眠ったままという事も多いですから」
つまり、姿を見たとしても信濃の意識が無い場合の方が大きい為、協力を得られるのは難しいという事になる。
だが信濃力は必要不可欠。まずどのようにして出会うかが一番の問題であり、それについて悩んでいた所に家のインターホンが鳴るベルが鳴らされた。
この家を訪ねる人物は少なく、ジン達はもしかしたら自分達の事がアズールレーンに気づかれたと不安と焦りが込み上げた中、天城は心配ないと言いながら立ち上がった。
「大丈夫です。おそらくあの人でしょう」
天城は玄関まで歩き、鍵のかかった
天城の姿を久しぶりに見た三笠はまず一瞬驚きながらも、いつもと変わらない雰囲気に安堵して笑みを浮かべた。
「おお、やはり天城か。電気がついていたからもしやと思ってな。帰ってきてたか」
「お久しぶりです三笠さん。どうぞお入りください」
天城は三笠を家の中へと招き、居間に続く廊下で軽く事の経緯を話した。
おおよその事情を聞き終えた三笠は居間でジン達と顔を合わせると、予想だにしなかったせいで一際驚き、三笠はベルファストにも出会えた事にもまた驚きを隠せなかった。
ジン達からも自分達がKAN-SENの駒に襲われた事や、JBというロボットのおかげで難を逃れたを三笠に伝えた。
ベルファストも、優海の植物状態を今まで世話した事と、こうなった経緯を説明すると、あまりの情報量の多さに三笠は頭を悩ませた。
「ううむ……どうやら皆、窮地を掻い潜った様だな……待ってくれ、状況整理をする。すまないが、お茶を頼めるか?」
「それでは私がお容れ致します。重桜の所作は慣れておりますゆえ」
ベルファストは率先してお茶を入れ、完璧な温度と容器の中の茶葉を踊らせると、容器の口から茶器へと香り豊かな緑茶が注がれ、三笠に渡された。
丁度いい温度というのが茶器越しでも分かり、特に抵抗も無く三笠は緑茶を口にした途端、下を唸らせた。
「ほぅ……これは良い。完璧な温度と濃さで文句無い腕前だ」
「身に余る光栄でございます」
お世辞でも無い称賛にベルファストは謙虚に受け、三笠は半分ほど緑茶を飲んで、これまでの事を整理した。
「まず、天城達が優海を匿っているのは、アズールレーンから優海を遠ざける為で合っているな?」
「はい。連合演習の際、マーレが宣戦布告をしたあの日、事情を知らない人類は優海の事をマーレと誤解しています。そんな状況でアズールレーンの傍に置いておくのは危険です」
「それに、あのヤークトという指揮官も危険だ。当たり障りの良い奴だが、その本心は酷い物だ」
加賀のヤークトの評価に、同じ士官学校時代を共にしたジンとリアもその通りと頷いていた。
ヤークトの嘘を天城達は最初から気づいていた。だからこそ、サディアでは単独で優海を捜索し、アズールレーンから脱退している形で優海の傍にいる事となった。
「まっ、ヤークトがいるアズールレーンに優海を放り込むのはやめた方がいい。アイツ、KAN-SENの事を道具としか見てないからな」
「下手すれば優海の事を抹殺するかもね。私達のように」
「ふむ……ジン達も危害を加える事から、アズールレーンは優海の痕跡をどうしても抹消したいのが伺えるな」
話の整理がついた三笠は緑茶を飲み干し、天城が三笠の名前を読んで今度はこちらから質問を投げかけた。
「三笠さんはどうしてこちらに?」
「特に理由は無い。ふとここに足を運んでみたら、電気がついていたから様子を見ただけだ」
「そうですか。……ではついでに、三笠さんに相談があります」
天城は一瞬土佐の膝の上で寝ている優海に視線を向け、その視線に三笠は気づき、これまでの経緯から天城よりも先に相談の内容を言った。
「信濃の事か」
天城と全員は静かに頷き、いい返事が帰ってくる事を期待したが、三笠の唸る声と微妙な反応に期待は暗くなりつつあった。
「……少し難しいな。謁見は可能だが、連れ出すのは無理だ。信濃はいつも寝ているからな」
「そう……ですか」
耳と尻尾をへたらせ、目に見えて天城はショックを受けた。天城だけではなく、ベルファストや赤城達も同様に暗くなり、三笠は罪悪感を受けてしまう。
だが1人、オロチだけは何かを閃いた様子だった。
「謁見は可能って言ったわね?」
「何か考えがあるのか?」
「まぁ確率は五分五分だけど」
オロチは手の平から小さな黒いメンタルキューブを生み出し、それを三笠に渡した。
親指と人差し指で摘める程度の小ささのメンタルキューブを初めて見た三笠はオロチに渡された黒いキューブをまじまじと見つめた。
その輝きは黒の中に赤みがかった光が淡く輝いており、いつまでも見ていられるような代物だった。
オロチはもう1つ同じ物を作り出し、今度は優海に渡そうと近づき、土佐は警戒心でオロチを睨む。
「何をするつもりだ」
「大丈夫大丈夫、これを握らせるだけだから」
オロチは脱力しきった優海の右手に黒いメンタルキューブを握らせた。
「これを肌身離さず握っていてね」
眠っている優海に語り掛けた後、三笠に黒いメンタルキューブの使い方を説明する。
「もし信濃に出会えたならそれをどこでも良いから信濃の傍に置いて。服の中でも髪の中でも胸の谷間でもどこでもいいから」
「流石に胸は目につくだろ……」
三笠が呆れながらもツッコミを入れ、オロチは子供のように笑った後、メンタルキューブの用途を説明した。
「これはただの道標。信濃の世界渡りがランダムなのは、行ける道が多数あるから。つまり、道を絞れば……」
「ほぼ狙い通りの世界に行ける……と?」
天城の答えを指を鳴らして正解と伝え、オロチは説明を続ける。
「だけど成功率は五分五分。信濃自身が優海の深層世界に行く事を決めないと、信濃は来れない。最悪信濃無しでも実行はするけど、おすすめはしないわ」
「……覚悟は出来ています。それに、犠牲になるのは私だけですから」
天城の『犠牲』という言葉に皆が驚き、特に赤城が血相を変えてキッチンから離れ、天城に詰め寄った。
「犠牲とはどういう事ですか!?」
「優海の深層世界には私1人で行きます。赤城達はここに居てください」
「何故ですか……! 私は優海の姉です! 行かない訳にはいきません!」
「なりません。赤城は重桜の担う柱の一人。加賀も土佐もこれからの重桜には必要なのです」
「天城姉様も必要不可欠な存在です! だから私達が……」
「赤城っ!!」
天城は声を荒らげ、やるせなさで拳を握って赤城の頭に拳骨をぶつけようとし、いつもの赤城なら耳をへたらせて目を閉じ、その拳骨を受け入れていたが、今の赤城は受け入れるどころか何度も受け止める覚悟をしていた。
天城は覚悟をしていた赤城の姿に拳骨を抑え、その拳をしまった。
自分もまだまだ未熟だと卑下しつつも、天城は自分だけ危険な状況に飛び込む意志を変えなかった。
「私は一度この身を失った存在です。言わば生きる屍……その様な存在が表立ってとやかくするのは今を生きる人々の冒涜です」
「天城姉様……」
「現に私が居なくても赤城は赤城なりに重桜の事を真剣に考えていました。……少し横暴でしたけどね」
天城はオロチと赤城を交互に目を向けた。
「ほんとにね〜私にあんな事やこんな事をして散々こき使ってわよね? 天城を再現させる為だけにね」
「結局貴方の方から牙を向けてきたでしょ。天城姉様の姿形を型どって加賀を誑かして……全く、とんだ蛇ね」
「止めてくれ2人とも。その話は私に効く」
加賀は自分の情けない出来事を思い出し、2人の話を遮るために赤城とオロチの間に入り、苦い顔をしながらその話を止めさせた。
そして少しの時が経つと、赤城が料理を放っておいたせいで鍋から溢れ出し、ガスに水が触れるとジュワっと音が鳴る。
「あっ……いけない、料理が!」
慌てて赤城がガスの火を止めて鍋の蓋を開けると、料理事態は無事なようで赤城はホッと安心しつつも、自分の不注意さに卑下しつつも、料理を仕上げに入る。
ベルファストの方も魚を捌き、皿には見事に盛り付けられた赤身の魚達が並べられていた。
「そろそろ料理が完成するようですね。加賀、土佐、お皿の用意を。優海は私が見ておきます」
土佐は優海を天城に渡して天城の膝の上に優海の頭が乗せられ、加賀と土佐は皿を用意し始める。
「三笠さんもどうですか?」
「うむ、折角だ。ここは馳走になろう」
「では大机を用意しましょうか。ジンさん、すみませんが……」
「任せろ。こういうのは男の仕事だ」
「私も手伝うわ」
天城はジンとリアを連れて長机をリビング隣にある和室へと移動させ、加賀と土佐は赤城とベルファストによって盛り付けられた皿を机の上に置く。
刺身、汁物、煮込み、焼き物、預け鉢、吸物など、宴会にでもするつもりなのかと言うぐらいの料理が並び達、ジンとリアは興味が溢れ出したかのように声を漏らした。
「へぇー、重桜でもこんな量が多い料理があるんだな」
「懐石料理です。本来なら1食ずつ提供するのですが、今回は全て一度にお出ししました」
「重桜版コース料理って事かしら……?」
「そのような物ですね。さぁ、食べましょう」
天城の言葉を皮切りに、赤城達は食卓を囲んで懐石料理に箸を伸ばし、優海を気にしながら食べ進めたが、ジンとリアは慣れていない重桜食、特に魚の生物である刺身に抵抗がある顔を浮かべた。
「oh……重桜って本当に生の魚食べるんだな」
ジンはまじまじと赤身の魚を箸で持ち、食べるのを躊躇っていた。
「ええ。そういえばユニオンは生物をあまり食べないところだったわね。なら、残しても大丈夫よ」
「申し訳ございませんジン様、リア様。ロイヤルでは少しながら食べるので……配慮不足で申し訳ございません」
赤城とベルファストは配慮不足に謝罪し、ジンとリアは気にしないでいいと伝え、刺身を食べようとチャレンジを試みた。
マグロの刺身を醤油の小鉢に付け、後は口の中に放り込むだけの作業がぎこち無く、口に入れるのを拒みつつも、目を閉じながらジンとリアは覚悟を決めてマグロを食べた。
天城達はその行く末を見届ける為に箸を止めた。
生魚の柔らかで仄かに弾力のある食感を咀嚼し、嚥下した後、ジンとリアは箸を止めて互いの目を見合わせた。
「美味い!」
「美味しいわね。うん、いけるわ」
嘘ではない本音に天城達は少しの安心感で止めていた息を小さく吐き出し、談笑を交わした食事が始まった。
「おい、優海。こんな美味いもの食わなくて良いのかよ。早く起きてこいよ……」
ジンは傍で横たわっている虚ろ目の優海の帰還を待ち望みながら、次の日を生きる為の活力を得るために食事食べ進めた。
_同時刻 重桜 とある宿にて
桜を見ると自分が生きていた時を思い出す。
桜の匂いを感じる度に、同じ名前の彼女との軌跡が脳裏に蘇る。
この夜空に浮かぶ月を背景に桜が今いる宿の窓から中に舞い散り、赤い盃に酌された酒にひらり舞い落ちた。
桜の花びらが浮かぶ酒を見るとふと思い出す。俺が桜が共に歩みだし、死がふたりを分かつまでと誓ったあの時の事を。
白無垢の桜はそれはとても美しかった。あれは花すらも嫉妬する美貌、可憐さ、強かさもあり、つい頬が緩んでしまう。
思い出に浸って酒を飲んだ中、この宿の襖から気配がし、すかさず声が聞こえた。
「ロドンさん、俺です」
この声はマーレだった。別段拒む理由は無いため、入れと言って部屋の中に招くと、いつものボロボロになっている黒コートでは無く、この宿に用意された浴衣を着ていた。
少しだけ桜の血……重桜の血筋を受け継いでいる為か、他のロイヤルの者より似合っていた。
だが、そんなマーレは浴衣を慣れていないのか少し不格好かつ不満そうな顔をしていた。
「どうした、浴衣が苦手か」
思わずそんな事を口にしてどうして不満の顔を浮かべているのかを聞き出すと、マーレは小さく頷いた。
「ええ。……あともう1つ」
「なんだ?」
「なんで俺とネージュの部屋が一緒なんですか!?」
「そんな事当方に聞かれても知らん。お前の祖母が決めた事だからな」
と言っても、前々から知らされた事だからあまり驚きも無ければ予想通りの初心な反応に笑いさえ出てきそうだ。
「部屋が足りないからな。こうするしか無かったらしい」
「だったら大部屋2つ借りて俺とロドンさんとセイドさん、ネージュ、シーアさん、ミーアさんの男女分ければいい!」
「あの馬鹿息子と同じ部屋では眠れん。それに、当方は重桜での単独行動が約束されている筈だ」
少し強めの口調と声色になって空気が変わるのを感じた。マーレも空気の変化に気づいて背筋が少し伸び、顎を引いて警戒していた。
別に脅している訳でも無ければ踏み込むなと言っていない。
当方には戦闘する意思も無ければ意味も無い。マーレもそれを分かっている筈だが……無自覚に溢れる殺気に当てられたせいで、当方の意思が組み込められないようだ。
だが、この殺気はどうしても止められない。重桜の地に足を踏み入れたら溢れるものでもあり、当方……いや、俺が今この世にいる理由だ。
「当方はお前の目的に協力する。だがその代わり、当方の目的を果たす為に、単独行動を許すのが条件だと最初に言った筈だ」
「……ええ。今回の目的は貴方をあまり当てにしてません。だからシーアさんとセイドさんを連れてきたんです」
「母上に関してはネージュを守る意味合いが強いだろうが……」
ネージュの名前を出した瞬間、マーレから圧が生まれた。分かりやすい反応で図星だと確信し、揶揄う理由もない為この話を辞める事にした。
「とにかく、当方は好きにさせて貰う。お前もさっさとネージュの体を温めてに寝てこい」
「あた……そんな事しませんよ!」
温めるの隠語の悟ったマーレは頬を赤く染めた。成人済みにしては貞操概念が幼く、本当に初心な反応が面白い。
だが、その幼い概念ゆえに必ずネージュを守りきる信頼と確信があった。
「とにかく、単独行動は許します。貴方の復讐が実ることを、祈っていますよ」
「……あぁ。必ず果たしてやる」
マーレは礼儀良く一礼しながら部屋を去り、俺はもう一度夜に浮かぶ満月を見上げた。
「復讐……か」
月の光が紅く染まったように見えた。
いずれ見る光景か、それとも自分自身に起こる未来なのか、どちらにしろそれを暗示するかのような紅だった。
「妖狐……俺は必ずお前を苦しませる」
刀を手に取り、俺は誓う。
今度こそ、今度こそ俺は妖狐……今は重桜の上層部の女を苦しませる。
死なせるだけでは物足りない。
苦しめて、苦しめて、生きたことすら後悔するほどの絶望を味あわせてやる。
「俺の桜を奪った罪……償わせてやる」
桜が浮かんだ酒を飲み干し、赤い盃に残った桜を見つめ続けると、俺が愛した女の姿が見えたような気がした。
どのテネリタスが好き?
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ロリママ創造者の2代目 ラハム
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人類最強の天然3代目 アトラト
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食いしん坊な絶対守護者4代目 シーア
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武士道と極める騎士5代目 ロドン
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風のように自由なガンマン6代目 セイド
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完璧で究極のアイドル7代目 マリン
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おっとり包容力で全知全能の8代目 ミーア
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元人間のセイレーン 10代目マーレ