もしもアニメのアズールレーンに指揮官が出てきたら〜2nd season 海上の誓い〜   作:白だし茶漬け

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策略の根

 

「ここに来るのは久しぶりだな……」

 

 重桜のKAN-SEN、三笠はそう呟いた。

 

 長い長い木造の階段を上がり、そびえ立つ重桜陣営の紋章が描かれた大扉の前で彼女は大扉に手をかざすと、重桜の紋章が薄赤色に光り輝き、大扉が音を出しながらゆっくりと開かれた。

 

 そこには木造で作られた広い空間であり、奥にある空間を遮るように白い布を使った(すだれ)がかけられ、今奥で眠っているであろうKAN-SENの姿を隠していた。

 

 そしてその空間を守るかのようにこの場所にいたのが、涼月と能代だった。

 

 彼女達KAN-SENの2隻は三笠の姿を見ると立ち上がり、深々と頭を下げて挨拶をした。

 

「お久しぶりです、三笠さん」

 

「うむ、久しぶりだな2人とも。信濃は相変わらずなのか?」

 

「ええ。相も変わらず眠っています」

 

 涼月が簾をあげ、布団の上で眠っている姿の信濃を三笠にみせた。

 

 信濃は青い寝巻きを纏って規則正しい寝息を立て、今も尚別の世界へと旅立っていた。三笠は信濃の力をある程度は理解し、今はどうしているのかとあんじながら信濃の髪を少し撫でる。

 

 そしてそれと同時に、オロチに頼まれた事を成し遂げた。髪の隙間にオロチが組み込んだ小型のキューブを絡まらせ、これでオロチの頼みは完了した。

 

 だが、信濃の状況が知りたかったのは本音だった。仲間として、どうしても心配せずにはいられなかったのだ。

 

「そういえば……三笠さん、少し良いでしょうか?」

 

 突然能代が恐る恐る三笠に声をかけると、三笠は反応して能代に顔を向けた。

 

 三笠の目に能代の不安が帯びており曇り空の様な顔が移った。

 

「妖狐様の件ですが、少し気がかりな事があって……」

 

「気がかりな事?」

 

「最近、妖狐様の動向が怪しいのです。誰かと密会しているのも多く、上層部の執務に関しても他の方に丸投げしているようで……」

 

 妖狐。それはアズールレーン上層部かつ、重桜の上層部、その頂点に立つ女の名前だ。

 

 絶世の美貌を持ち、噂では妖狐の姿を見た男は妖狐に煩悩を支配されるとも言われており、その噂の説得力は彼女の周りにいる男たちが物語っていた。

 

 飄々としてつかみどころのない性格だが、上層部としての力と能力はあり、上層部と距離が近い三笠等のKAN-SENはそれなりに信頼してはいた。

 

 だが、KAN-SEN達は妖狐のある部分に対しては拭えない気味の悪さが、KAN-SEN達が妖狐を完全には信用出来ない溝となっていた。

 

 それは、いくつになっても変わらない顔だ。

 

 妖狐は人間、それは間違いない。

 

 だが妖狐は数十年間美貌を維持しており、歳をとっている様子が全く感じられないからだ。

 

 同じ名前の娘だとも考えたKAN-SENもいたが、妖狐を知る人物によれば、妖狐は今まで上層部に在籍しており、彼女には娘すらも居ないという。

 

 つまり、彼女は老いたりしないのだ。人間が生きている内に必ず出会う【老い】が、彼女には存在しない。

 

 その理由は不明だが、妖狐曰く神によって授けられた使命があり、その為に自分は不老不死の力を得たと民に言っている。

 

 ある意味人類の願いを叶えていると同時に、神への信仰深い重桜の民からすれば神の使いと崇められており、その影響力は長門以上でもある。

 

 しかし、彼女の行動は所在不明が多く、人とは違う何かを感じずにはいられない者にとっては不気味以外の何者でも無かった。

 

 その不気味さが不信感を積もらせ、能代の顔には妖狐の不信感で満たされていた。

 

「密会……誰と出会っていたか分かるか?」

 

「何となくですが……多分あの子と……」

 

「ん? 何かあるのか?」

 

「何やら楽しそうな話をしているのぉ。妾も混ぜておくれなし」

 

 はんなりとした口調が部屋に響き、三笠達はその声の主に顔を向けた。

 

 そこには長い白髪に大きな狐の耳、そして見るだけで柔らかさが伝わる9本の狐の尾をなびかせ、赤い杯で酒を嗜んでいた上層部……いや、重桜の頂点に立っている女、妖狐がいた。

 

 妖狐は妖艶な黄色い眼差しを三笠に向け、三笠との再会を喜ぶかのように小さく笑った。

 

「久しぶりじゃのぉ三笠。ここで会えるとは思って無かったわぁ」

 

「お久しぶりです、妖狐様」

 

 いつもは英雄的な言葉遣いをしている三笠だが、相手が相手なのでここでは敬語で接していた。

 

「ここは信濃の部屋でかしこまる場所でも無い。楽にしてもええぞ」

 

 妖狐はそういいながら、眠っている信濃に近づく。

 

 妖狐と信濃の距離が近づく度に三笠の心臓の鼓動が激しくなる。

 

 オロチのメンタルキューブは信濃の髪に絡ませており、注視すればメンタルキューブが見つけられてしまうぐらいだ。

 

 アズールレーン上層部は混乱を避ける為に優海の抹殺を企てている。

 

 その上層部である妖狐に優海がこの重桜にいる証拠やきっかけを見てしまえば、必ず妖狐は優海の存在を気づく。

 

 その洞察力が妖狐にはあると三笠は知っている。

 

 妖狐が信濃の寝顔を見続けている中、何かに気づいたような素振りを見た三笠は立ち上がり、何か妖狐の気を逸らそうとしたその時だった。

 

 この部屋の扉が開かれ、扉の先には神主の様な服装を纏い、顔を隠していた男性が頭を下げていた。

 

「失礼致します妖狐様。お客様が到着なされました」

 

「ん? もうそんな時間か。長く生きておると時が経つのが早うなってかなわんなぁ」

 

 信濃の様子を後回しにし、オロチのキューブに気づかない様子に心の中でホッと息を漏らしながらも、妖狐に悟られないように冷静な顔を保ちつつげたまま、妖狐を見送った。

 

 大扉がしまり、妖狐の姿が見えなくなると同時に止めていた息を吐き、心做しか三笠は肩の力を抜けた。

 

(どうやら、乗り切ったようだ)

 

「まさかここで妖狐様に出会うとは……なんの用だったのでしょう」

 

「さぁ……ところで能登。さっきの話の続きだが」

 

 能登はさっきの話と言われて少しして自分が言い出しかけていた事を思い出し、三笠に伝えた。

 

「ええリフォルさんと会っていたような……気がします」

 

 妙に自信が無さそうに話す能登に三笠は首を傾げ、リフォルの名前を反芻した。

 

「リフォル? 本当なのか?」

 

 現在行方不明となっているリフォルの名前をここで聞くことになるとは思わず、優海の友人と認識している三笠は内心安否が確認してホッとしたが、リフォルと妖狐の接点がどこにあるのか悩んでいた。

 

 重桜上層部の指導者の妖狐と、科学者でしかないリフォル……接点があるようには思えなかった。

 

 能登自身もそれを自負しているが、それでも綾波と妖狐が密会をしているのを見たと言った。

 

「ううむ……」

 

 顎に手を乗せて三笠は悩んだ。能登の言うことを完全に信用している訳では無いが、嘘を言っている様子も無い。と言うより、嘘を言う必要が無いから嘘では無いと分かっているからこそ、これ程悩んでいるのだ。

 

「しかし、優海の友人の情報をここで知れるとは……」

 

「そうだ、三笠さん。最近少し変な事件があるので気をつけてくださいね」

 

「変な事件?」

 

「実は最近、重桜ではこんな事件が……」

 

 ____

 

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 重桜の景色は他の陣営に比べて特色が濃く出ていて美しい。この桜という植物もどの花よりも肌触りが良く、匂いも鼻腔を燻らせる。

 

 さて、情景を眺める事もう36分ぐらいだろうか。まぁまぁ遅い。一応約束の時間を過ぎてると言うのに、これ程待たせるのは俺を怒らせたいのか、それとも時間感覚が狂っているバカなのか……まぁ多分、今回合う人間に関してはどっちもだろう。

 

 茶器に入れられた緑色のお茶……緑茶と呼ばれるものを眺めて自分の顔を移す。

 

 笑顔、悲しみ、驚きの表情を繰り返し、本性を隠す仮面がちゃんと作れているかを確認を終えると同時に、奥の扉が開かれた。

 

 そこには顔を隠した男の従者を引き連れた白い神に狐の尻尾が9本ある女性であり、この重桜のトップに位置する人、妖狐さんがいた。

 

「よく来たのぉ、指揮官」

 

「ちょっと遅すぎませんか?」

 

「貴様無礼だぞ!」

 

 遅れたことに文句を言うと従者達が腰に添えた刀に手を添えて切りかかろうとしたが、妖狐が右手をあげて従者達の動きを止めた。

 

「よい、お前達の忠義に感謝するが下がっておれ」

 

「しかし……」

 

「妾ということが聞けんのか?」

 

 妖狐の声色が低くなり、従者達の頭巾の下に隠れている顔は青ざめている事だろう。

 

 従者は足を震えさせて謝罪し、逃げるようにこの場から立ち去った。流石重桜のトップと言うべきか、人を従わせるカリスマは持ち合わせているようだと関心した。

 

 妖狐さんは向かいの椅子に座ると、わざとらしく着崩した着物から見える谷間を見せつけた。

 

 自分の美貌を際立たせてお色気で話し合いに優位に立ちたいのか知らないけど、頭脳を捨てて自分の体が武器のやつは程度が知れる。

 

 しかし、ここはあえて魅了に取り憑かれた事で相手に優位を立たせたと思わせた方がやりやすいだろう。

 

 わざと妖狐(クソババァ)の谷間をチラ見しつつ、妖狐はクスリと笑った。

 

「なんじゃ? 妾の胸が気になるのか?」

 

「んぐっ……いやぁすみません……たはは」

 

 わざと恥ずかしがる反応に妖狐は予想通りに笑った。

 

 ちょろいなこの人、これなら主導権を握るのも簡単そうだなと思っていたその時だ、妖狐は俺の顔に扇を向けると、さっきまでの笑顔が消え失せていた。

 

「下手な嘘は身を滅ぼすぞ?」

 

 氷よりも冷たい目が俺に刺さってきた。

 

 この目は本当にこっちの嘘を見抜いている目だと一瞬で悟った俺は嘘の仮面を外し、窮屈だった物を吐き出すかのように止めていた息を吐き出した。

 

「……へぇ、流石150年生きてきたお婆さんは違いますねー」

 

 150年という言葉に妖狐の薄笑いが消え、顔を近づけて怖い声が僕の耳元に届く。

 

 それはまるで刀が首筋に向けられているように冷たくて鋭いものだったが、恐怖はそれ程感じなかった。

 

「お主、どこまで知っておる」

 

「なんの話ですか? さぁさぁ、話し合いを進めましょう」

 

 徐に笑顔を浮かべ、「お前の全てを知っている」とアピールする。

 

 まぁ全てでは無いが、ほとんどは知っている。

 

 分からない事と言えばこれからの事であり、今日の話し合いがそれがメインだった為、こうして主導権を握る必要があった。

 

 最近、重桜には怪しい動きが多々見受けられる。物資の動きは通常の5倍近く動いており、流通や新技術の開発が目まぐるしい成長を遂げていた。

 

 元々重桜は発展途上な所があったと言えど、この発展は異常だ。

 

 喜ばしい事だとは思うけど、こっちの目的の邪魔になるかもしれないし、種は潰しておくに限る。

 

「最近、重桜はかなり進歩してますよね? 化学、機械技術、軍事施設の増強の早さ、素晴らしい!」

 

「今度は褒めおって……お主の事はよくわからんのぉ」

 

「そんな、事実褒めてますよ。いやぁ……本当に」

 

 本当にこれは凄いと思っている。陣営の技術進歩で絶対に必要なのは、その陣営に住む人々の意識レベルだ。

 

 例えば家を作るのなら、まずその材料を調達する者、設計する者、設計図を元に家を形にする者……細分化すればもっと人手がいるのだが、少なくとも多くの人数が必要となる。

 

 最初はみすぼらしい家でも、経験や技術を極めていけば立派な家が出来上がることが出来、それが他の人々に共有し、更なる技術が生まれる……これが僕がいう意識レベルだ。

 

 技術に対しての意欲、研究、研鑽、実践、失敗、改善等など……それに対しての意識が大きれば大きいほど、技術進歩はしやすいと考えている。

 

 重桜の街並みを見た感じ、古き良き時代を大事にしている懐古主義者が多そうなイメージを持っていたが、所々近代化が進んでいる。

 

 日常で機械があるのは珍しくなく、重桜特有の雰囲気、和風……って言えばいいのか? それと機械技術が共存しているのが今の重桜だ。

 

 現にここから見える1つの島には空港があり、いまさっき飛行機が飛びだった。

 

 そして目を見張るのが……さっきも言ったとおり、一般人の意識レベルの高さだ。

 

 皆それぞれ己の役目を果たすかのように、不平不満を言わずに働いており、サボってたり力を抜いたりしている人物はこの鎮守府にはいなかった。

 

 ……気持ち悪いほどに。

 

 1人ぐらいそういう人がいてもおかしくない規模な筈なのにそういう人が居ないことにどうしても違和感が拭い切れず、調査がてらここに来たということだ。

 

(これだけの意識レベルの高さなら物資の動きも技術進歩も大きくなるのも頷ける……が)

 

 どうもそれが行き過ぎている。同じアズールレーンのよしみで技術進歩が捗っているのは嬉しいが、こっちの目的に支障をきたすのは少々面倒だ。

 

 それらしい理由をつけて、原因を調査するとしよう。

 

「それで話というのは……普段より多く物資の動きがある重桜に、規定以上の弾薬や武器が重桜に入っている恐れがあるとの指令を受けましてね。その調査に参ったのです」

 

「ほぅ? 指揮官自らがか? 暇なのか?」

 

「まぁ僕がやらなくても良いんですけど、でもほら、僕指揮官になって日が浅いじゃないですか。ついでに重桜のKAN-SEN達とも仲を深めたいなと思って」

 

「そんな見え透いた嘘をつかなくとも良い」

 

「ええー、本当なんですけどね」

 

「んふふ……まぁ良い。要らぬ疑いをかけられても困る。好きに調査するが良い」

 

「ありがとうございます」

 

 まぁこんな物か。話し合いが終わって清々し、俺は笑顔で会釈して席を立ち上がり、部屋を去って鎮守府の廊下へと出た。

 

 煙草の煙を吐くかのように小さく息を吐き、ブルート……自分の母親に調査を開始する旨のメールを送った。

 

「さて、じゃあ早速調査を始めるか……ん?」

 

 ふと外を見ると、興味深い人が目に映る。しかしなぜ? 

 

 巡る巡る考えを紐解いていき、僕はある仮説を立てた。

 

 あの人がここにいるのであればきっと……アイツがいるはず。

 

「ふふ、運が良いにも程がある」

 

 だってここには丁度いい餌があるのだから。

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 昼過ぎの日差しが縁側に差し込む中、ベルファストの膝の上で優海が今日も動かず寝息を立てていた。

 

 もしかしたら寝ている時にちょっかいをかければ少しは反応を示すのでは無いのか期待を胸に、少しだけ、ほんの少しだけ優海の頬に触れた。

 

 しかしなんの反応も無かった。落胆しつつも予想出来た無反応に胸が一瞬締め付けられた様な痛みが襲いかかった。

 

 この胸の痛みは優海が帰らない限りずっとベルファストを縛り付けていた。

 

 だがその束縛がもうすぐ開放される期待感が胸の内にあった。三笠の連絡によるとオロチのキューブを信濃の傍に置くことに成功したらしく、早くても明日一番に行動するらしい。

 

 それまでは全員待機、下手に動かないようにとオロチに釘を刺された状態だった。

 

 ただ時が流れるのを肌で感じる時間にベルファストは少しもどかしく感じた。

 

 いつもはロイヤルメイドのメイド長として日々働いており、暇な時間なんて存在しなかった。

 

 ここでもロイヤルメイド長として腕を奮うつもりだったが、天城から「お客さんにそんな事させられない」と言われた為、ベルファストは渋々この状況を受け入れた。

 

「メイドである私がこのような時間を過ごしても良いのでしょうか」

 

「いいんじゃねぇの? 休暇って思えば」

 

 ベルファストの独り言を近くの居間に居て聞いたジンが反応して答えた。

 

「お前は優海と同じで働きすぎだ。休めよ、体持たねぇぞ」

 

「そういう訳には行きません。私はメイドであり、主に尽くす事が使命です」

 

「そりゃあなんとも大層なもので」

 

 揶揄う意味での言葉だということはベルファストも理解していたが、そうなると自分の志を否定する事になる。

 

 その為ベルファストは誇らしい顔をジンに向け、ブレないベルファストにジンは「相変わらず」だと笑った。

 

 また静かな時間が経ち、ベルファストは周りに赤城達が居ないことを確認すると、ジンにある事を尋ねた。

 

「このままご主人様を目覚めさせてもいいのでしょうか」

 

「はぁ? お前何言ってんだ?」

 

 ジンはベルファストのこの言葉を独り言では無いと察し、ベルファストの真意を疑った。

 

「ご主人様を守るのが私の使命。ですが、ご主人様は強い。私達KAN-SENよりも遥かに強く……それこそ、守る必要が無いほどに」

 

 むしろ守られていると、ベルファスト……いや、KAN-SEN達は薄々ながら痛感していた。

 

 今テネリタスに対抗できるのは優海のみであり、KAN-SEN達がどれだけ人数を揃えてもテネリタスには勝てない。

 

 戦力と言えるほどの力を持っていないベルファストは自分の本懐を失いつつあり、弱りきった優海を目の前にして初めて自分の無力さを思い知る。

 

 ならばこそ、これ以上傷つけないようにこのまま安心して眠らせた方が良いと、ベルファストの天秤が揺らいだ。

 

「ベルファスト、お前……」

 

「分かっています。このような考えをしてはいけない。いけないのは分かっています。ですが傷つくご主人様を思い浮かべてしまうと考えてしまうのです」

 

 ベルファストの脳裏には連合演習最終日に乱入したテネリタスによってボロボロになった優海の姿が鮮明に浮かび上がり、ベルファストの胸はまた締め付けられる。

 

 二度とあんな目には合わせないようにしたい。だけど自分の力では無理だ。

 

 目を覚ましてまた傷つくのならば、いっその事このまま目覚めさせなければ……

 

(ダメ、ダメです。そんな事考えてはいけません)

 

 自分の悪しき考えを振り払い、ベルファストは心を落ち着かせるように深呼吸をする。

 

 顔を上げて晴天の空を見ても、ベルファストの心は月の無い夜のように暗く、夜明けを迎える事は無かった。

 

「私は……どうすれば」

 

 出口のない迷路に迷い込んだかのようにベルファストは悩み続け、それを見かねたジンは何か言おうと無い知恵を絞った。

 

「やっぱお前働きすぎだ。だからそんなネガな考えばかりするんだよ」

 

 胡座をかいていたジンは背筋と腕を伸ばして関節を伸ばして立ち上がった。

 

「いくら優海がめちゃくちゃ強くてもさ、お前らが必要だと思うぜ。俺は」

 

「……そうでしょうか」

 

「そうなんだよ。優海はまだガキだ。本来なら友達と一緒に遊んでてもおかしくない年齢だ。セイレーンでもそれは一緒だろ」

 

 ベルファストの気持ちをジンは理解していた。自分も同じように無力感に苛まれた事は何度も経験しており、その度に優海に対しての劣等感を募らせ、自分の弱さを嘆いた。

 

 だが、弱者には弱者の意地がある。その意地が大きな力になり、合わされば無限大の力が得られる事も知っている。

 

 その事を伝えようと思った矢先、ジンの携帯から着信音が鳴った。

 

 この状況でジンの携帯にでるのはリアしかいない。リアから何かしら連絡が来たのかと思って何気なく携帯を手に取ると、ジンの目付きが変わった。

 

「……悪ぃ、ちょっと出かけるわ」

 

「何かありましたか?」

 

「気にすんな。リアが荷物が重いから手伝えってさ。じゃあな」

 

 ジンは険しい顔付きで家から出た。縁側から見えるジンは銃に弾丸を込めたのを目撃した。

 

「……ジン様、何故銃を?」

 

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 静寂の中で聞こえる音は2つ。1つは縄と服の擦れる音、もう1つは古いドアを蹴破った大きな音。

 

 この古い廃屋で蹴破られたドアによって埃が舞い上がり、僕の方に襲いかかってくる。ハンカチで鼻と口元を覆いながら右手の拳銃を構えると、即座に埃の霧から発砲音が鳴り響いた。

 

 僕の銃では無いのは百も承知。埃の霧から1発の弾丸が僕の横を通り、後ろにある鉄配管のパイプに辺り、まるで悲鳴のような白いガスの噴射音が耳に響いた。

 

 やがて埃が霧散し、銃を撃った人物が姿を現した。

 

 茶髪に赤いメッシュ、そしてワイルドな白いジャケットを来たジン君が凄く怖い目つきで睨んでいた。

 

「やぁ、久しぶりだね。ジンくん」

 

「……おい、お前リアをどうした」

 

 ドスの効いた声が廃屋に響き、目に見えての殺気向けられているのが分かる。

 

 嫌でも背筋が伸びて銃を下ろさずジンくんに銃口を向き続ける。そうでなければジンくんは容赦なく僕を撃つだろう。

 

「どうしたって言ってんだよ!」

 

 ジンくんは怒鳴りながらまた僕に発砲する。だがリアさんの場所を聞き出そうとしているのかわざと外しているのが見え見えだ。

 

 ジンくんの腕ならあの埃の中でも僕の眉間を撃ち抜くのは簡単だったはず。優しさなのか、それとも人殺しになりたくない壊さなのか……本当にあの冷血無慈悲なべリタスの息子なのか疑ってしまう。

 

 けど、あの冷たくも恐ろしい目はべリタスの血を継いでいるのが分かる。

 

 見る物を震えさせ、まるで自分こそ正しいと思っているあの目……父親の事を憎んでいるくせに、似ている所は似ているのだから笑ってしまう。

 

 この笑いがおちょくっていると誤解したのか、ジンくんは首筋の血管を浮き出る程の怒りを顕にした。

 

「おっとごめんね。ふふ、心配しなくてもリアさんはあそこにいますよ」

 

 僕とジンくんの丁度真ん中辺りに目線を向けて少しだけ顎を突き出すと、ジンくんはこっちに警戒しながら廃屋の天井を見上げると、動揺した声を漏らしながら宙吊りになったリアさんを目撃した。

 

「リア! お前……!!」

 

 ジンくんは思い切り引き金を引くつもりだ。思った以上に動揺していて面白いが、これでは話し合いにならない。

 

 ならばあえて慌てる様子を見せびらかして落ち着かせよう。

 

「いやいやいやいや、リアさんは眠っているだけです。あ、心配しなくともリアさんにはそれ以上の手を出してませんよ」

 

「ああそうかよ。……さっさとリアを返せ」

 

「その前に君達はなんでこんな所にいるのかな」

 

「知ってどうすんだよ」

 

「それはこっちの勝手だよ。あと主導権はこっちが握っているのを忘れないでね」

 

 ポケットからスイッチを見せびらかし、試しにボタンを押すと宙吊りのアンカーがリアさんを持ち上げ、別のスイッチを押すとアンカーは横に移動し、リアさんは振り子のように動く。

 

 アンカーにギリギリ引っ掛けるようにしたからあと少し大きく動けば引っ掛けた糸はアンカーから離れ、リアさんはこの高所に真っ逆さまという事だ。

 

 ようやく自分の立場を知ったジンくんは銃を下ろした。

 

「さて、友達同士久しぶりに会ったんだ。再会を祝して一杯どうだい?」

 

「誰がお前なんかと飲むかよ」

 

 うーん、まぁ予想通り断られた。でもこれで話し合いが出来るほど落ち着いて貰ったのは確認出来た。

 

「さて、どうしてここに居るのかな?」

 

 何故ジンとリアがこの重桜にいるのかは正直どうでもいい。

 

 問題はどうやってここまで来たのか、それが重要だ。

 

 ジン達を襲わせたアズールレーンの後方支援基地はユニオン領土にある。しかしここからユニオンまでは相当距離があり、飛行機や船等の交通機関を経由しなければ絶対に辿り着けない。

 

 しかし、2人が交通機関を使った形跡は無い。つまり考えられる事は、長距離移動できる何らかの手段を持っているという事になる。

 

 恐らく船、しかもこっちに動きを悟られないような高性能なステルス機能を持ったやつだ。

 

 こっちとして是非ともそれは手に入れたい。

 

 ジンくんの反応を確かめる為の揺さぶりをかけ、ジンくんがこの話し合いという名の心理戦のテーブルに座ろうとした時だ。

 

 突然この廃屋の天井に穴が空いた。老朽化では無く、人為的に穴は開けられ、天井に吊るされていたリアさんが落下すると思っていた。

 

 しかし、突然空から大柄な人型の何かがリアさんを受け止めるとそれはジンくんの傍に降り立ち、天井の破片が僕達の間に割って入るように落下する。

 

 落下した破片でまた埃が舞い上がり、破片の落下音と共に1人が走る足音が聞こえる。

 

 恐らくジン君が逃げたのだろう。そして埃が落ちると、ジンくんと入れ替わったかのように、僕の目には銀色の装甲を纏った人型の……ロボットが現れた。

 

「コレは……サディアの時にいたロボットか?」

 

 確か名前はJBだったかな。ジンくんを助けたような行動をしたから、恐らくジンくんが所有していると思ってもいいだろう。

 

 JBは僕の事を視認するとバイザーを光らせ、機械の足音を立ててゆっくりとこちらに近づいた。

 

「確認。現アズールレーン指揮官、ヤークト・プロイド」

 

 これはちょっとまずいな。相手がロボットなら人間の僕が勝てる訳が無い。話し合い……は出来るのか? 

 

 出来そうな感じはしなくも無いけど、まぁやるだけやってみようか。

 

「やぁやぁ初めまして。君はJBだよね?」

 

「肯定」

 

「言葉は通じるか……こっちに戦闘の意思は無い。話し合いで事を進めよう」

 

「否定、敵対個体との意思疎通は無意味です」

 

 あっけらかんとJBは背中のジェット噴射で風穴が空いた天井へと飛び経ち、話し合いには応じなかった。

 

 こっちを敵対個体として認識しているのにも関わらず、手を出してこないのは少し意外だった。問答無用で敵を倒す戦闘マシーンと思っていたけど、行動原理が全く分からない。

 

 まっ、JBの情報を少しだけ手に入れたのは良い収穫かな。

 

 にしてもジンくんが意味も無くこの重桜に留まっている訳が無い。重桜でやる事があるのか、それとも留まらないといけない事でもあるのか。

 

 少し考えにふけ、ある考えが生まれた。

 

 もしもだ、もしもここに優海くんがいるというのなら納得は出来る。

 

 義理堅くて諦めの悪いジンくんの性格なら優海くんが何かあれば即座に助けるはず。

 

 確か優海くんはオロチとベルファストによってどこかに連れて行かれてはいる。……サディアで天城達が無くなった事からして、天城は優海くんの接触しているはず。

 

「まっ、真相はこれから分かるけどね」

 

 服のポケットから小型のイヤホンを右耳につけて起動する。リアさんを攫ったのはジンくんを誘き寄せる為だけじゃなく、小型の盗聴兼発振器をつけるためだ。

 

 早速イヤホンを起動して盗聴器を起動させると、最初に聞こえたのはジン君の声だった。

 

『やっぱ盗聴器付けてたんだな』

 

「おっと、バレてたんだ。まぁ、君がそこまで神経を張り巡らせている訳だから余程の事だと分かったけどね。優海くん、いるだろ?」

 

『……チッ』

 

 うーん分かりやすい反応だ。これで優海くんがジンくんのところにいる事は確定した。

 

 同時にオロチ、ベルファスト、天城、赤城、加賀、土佐の存在が確認出来たということになる。

 

「ねぇジンくん。少し取引しないかい?」

 

『取引だぁ?』

 

「拒否権は無いと思うよ。重桜に優海くんがいるとアズールレーン本部に伝えれば、上層部は血眼で探すと思うよ。重桜を攻撃してでもね」

 

『……』

 

「ふふ、本部は優海くんを手駒にしたいらしくてね。そうなっては悲しいだろ?」

 

『その言い分だとお前はそうでも無いらしいな』

 

 食いついた。と内心ほくそ笑み、ジン君の心境が変わらない内に要件を話す。

 

「こういうの重桜では単刀直入って言うんだっけ。君たちの今の状況と、何をしようとしているのか知りたい」

 

『見返りは?』

 

「君達がしようとしている事の邪魔はしない」

 

『それを信用しろって?』

 

「けど信用するしかない。あ、そうそう。これも言っておくよ」

 

 決して覆る事が出来ない手札をここできる。優海くんがいる事は分かっているんだ。きっとこの情報で、ジンくんは従うしかない。

 

「指揮官は本来、KAN-SEN達が万が一暴走した時の為の対策として、自分の思い通りに動くコードが渡されるんだ。言っている意味、分かるよね?」

 

『てめぇ……従わなかったらKAN-SEN達全員殺すって事か』

 

「『殺す』。じゃなくて、『壊す』が正しいよ。で? どうする? 多分そっちにあるKAN-SEN達を今ここでそれをやってもいい」

 

『……はぁ、分かったよ』

 

 ジンくんはこれまでの経緯を伝えてくれた。要約すると、オロチの力を使って植物状態の優海くんを正気に戻そうとしているらしい。

 

 なるほど、通りでサディアに動きが無いと思ったけどそんな状態になっていたのか。

 

「ありがとう。それじゃあまた会おうね」

 

『二度と会いたくねぇよ。ゴミ箱の底のタンカスが』

 

 物凄い悪口言ってジンくんは盗聴器を壊し、イヤホンからノイズが走り、僕はそのイヤホンを投げ捨てる。

 

「さてと、じゃあ調査に戻ろうかな」

 

 思いがけない出会いを優先した為、すぐにでも調査に戻ろうと町に戻る。

 

 優海くん、僕も君が帰ってくるのを待っているよ。

 

「君がいないと、俺の計画は始まらない」

 

 

 

 

「人類を進化させる為に……ね」

どのテネリタスが好き?

  • ロリママ創造者の2代目 ラハム
  • 人類最強の天然3代目 アトラト
  • 食いしん坊な絶対守護者4代目 シーア
  • 武士道と極める騎士5代目 ロドン
  • 風のように自由なガンマン6代目 セイド
  • 完璧で究極のアイドル7代目 マリン
  • おっとり包容力で全知全能の8代目 ミーア
  • 元人間のセイレーン 10代目マーレ
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