もしもアニメのアズールレーンに指揮官が出てきたら〜2nd season 海上の誓い〜   作:白だし茶漬け

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お久しぶりです。

音信不通で行方をくらましていたが元気な白だし茶漬けです。

いやー、やる事とやりたい事がおおくなってなかなか筆が進めませんでしたが、本日更新をします。

待っていた方は申し訳無いです。

これ書いている途中でなんか地震がありました。最近地球は働き者ですね。この前なんて雷とか雨が連続で来ました。

何か誰がやらかしたんですかね。


拒絶

 

痛い。 辛い。苦しい。

 

どうしてこんなことになったのだろう。

 

どうしてこんなに苦しい所まで来てしまったのだろうか。

 

家に……故郷に帰りたい。最初はそう思って指揮官になった。

 

けど指揮官になって大切な人達が出来た。

 

守りたいと思った、そしてその力もあった。だから守ろうとした。

 

強い敵と戦って、戦って、戦って、戦って、戦い続けた。

 

痛くても、辛くても、苦しくても、泣きたくても、頑張って戦った。

 

でも……疲れてしまった。

 

終わらない戦いに、心がすり減る。

 

戦う度に生傷が生まれる度に心が傷つく様な痛みも体に走る。

 

けれど誰も助けない、助けられない。

 

だって、皆……

 

 

 

俺より弱いから

 

この言葉を呟くと、深海のような黒いこの空間に、青く光る蝶と鈴の音が鳴った。

 

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「さーて、第2回!チキチキ!優海の心の中に入っちゃoh!を開催するわよ〜」

 

優海を元に戻す時がやってくると、オロチは場を盛り上げる為にテンションを高くしていた。

 

だがそれは場違いというものであり、おちょくっていると感じた土佐の怒りに火を付け、腰に帯びた刀へ手を添えさせた。

 

「姉上、こいつ斬っても良いか?」

 

「落ち着け土佐、斬るのは優海を元に戻してからだ」

 

加賀の静止に土佐は不満たっぷりの唸り声を上げながらも刀から手を離し、オロチの次の言葉を待った。

 

「まぁおふざけはこれぐらいにして、今回の流れを説明するわね」

 

そう言ってオロチはどこからかメガネを取り出してかけると、さらにどこからか持って来たホワイトボードをひっぱり出す。

 

既にホワイトボードにはオロチが描いたデフォルメ調のイラストが書き出されており、この後の流れが書かれていた。

 

「まず天城、赤城、加賀、土佐、ベルファストが私と信濃の力を借りて優海の深層世界に意識を持っていかせる。ここまでOKー?」

 

「オロチは行かないのか?」

 

「今回私はパスー。というか、深層世界……つまり心の世界に多くの人数が入り込んだら、心がごちゃごちゃになる恐れがあるから、最大6隻が限界ー」

 

つまり、既に天城達で最大の6隻に達している為、今回オロチは天城達を深層世界に連れていく事が役目という事になる。

 

「それじゃあ皆さん、優海の手を握ってくださいませ〜」

 

優海の右手には天城、赤城、ベルファストが握り、左手には土佐と加賀が握り、オロチは黒いキューブを手に取りそれを優海の体の上に置くと、キューブは淡い紫色に光だし、天城達の意識は薄れつつあった。

 

「ご主人様、必ずお迎えに参ります……!」

 

「たとえ地獄の底でもお前を連れ戻すからな」

 

「お前はここでくたばる弱者じゃ無いはずだ」

 

「さぁ皆さん、それでは〜いってらっしゃい〜」

 

まるでアトラクションの店員かのように、オロチは陽気に天城達を優海の深層世界へと旅立たせた。

 

そこで天城達の意識は完全に途切れ、糸の切れた人形のように天城達は居間の畳の上に倒れていく。

 

オロチはこれで2度目だがこの光景を初めて見たジンとリアはギョッとした顔をして天城達の脈を測る。

 

指先に脈の鼓動がある事から生きてはいると、ジンとリアは安心した。

 

「うへぇ、心臓に悪いわこれ」

 

「本当に大丈夫なんでしょうね」

 

「さぁね、この先はあの子達に任せるしかないからね〜。さて、一休みしよっと」

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突然意識の糸が途切れ、気がつくと闇が広がるつめたい世界にいた。

 

地面……いや、水面の上に私は立っていた。

 

艤装は展開していないのにも関わらず水の上に立てるのは、ここが現実では無いからでしょうか。

 

しかし夢と言うには意識があるはっきりし、空気の冷たさは現実と変わらなかった。

 

「天城姉様!」

 

遠くの方から赤城が私を呼ぶ声が聞こえ、赤城だけではなく加賀と土佐、ベルファストさんも先に合流していたのか一緒にいた。

 

みな無事という事にほっと胸をなでおろしつつ、この暗い水底のような世界を見渡した。

 

ここが優海の心の中……暗く、冷たく、悲しい世界。これが優海の心の中だとは到底信じられずつつも、浮かんでいる泡に触れる。

 

指先に触れられた泡が弾けた瞬間、私の頭の中に何かが流れ込み、目の前の黒い世界から本棚に囲まれた書斎の部屋に変わり、私の前に2人の男が立っていた。

 

2人とも見覚えのある顔だ。1人はオセアンさん、そしてもう1人は……幼い頃の優海でした。

 

『優海くん。君が重桜に帰るためには指揮官にならないといけない。そして……名前を変えなければならない』

 

『名前……』

 

『あぁ。君が重桜の人と知れば、レッドアクシズのスパイと勘違いされて酷い事をされるかもしれない』

 

これは……アズールレーンとレッドアクシズが対立していた時の優海の思い出という事でしょうか。

 

オセアンさんは優海に目を合わせ、辛い事実を優海に向けて放っていた。オセアンさんは心苦しさを隠すように強がりを貼り付けたかのような笑顔が優海に向き、彼がどれだけ重い判断を下したか目に見えていた。

 

『今日からは君は、マーレ・テネリタスになるんだ。……私の、息子になるんだ』

 

『息子……』

 

『すまない、私が無力のせいで……君に辛い未来を背負わせてしまう……』

 

彼の悲痛な言葉が言い終わると同時に目の前の光景が消え、私は元の黒い世界に戻っていった。

 

「今のは……やはり優海の」

 

「天城姉様も見られましたか?」

 

「赤城もあれを?でという事は皆様も?」

 

加賀と土佐、ベルファストさんも頷くと、何も言わずとも全員私が見たのと同じ光景を見たという意味が伝わった。

 

「今のは……なんだ?」

 

「あれは、彼の者の記憶の泡。心に残し、蝕む夢想の泡」

 

加賀の問に答えたのは、鈴の音ともにこちらに近づくある1人のKAN-SENだった。

 

銀色の髪、青い着物、そして青く光る蝶と共にいるあの方は……信濃だった。

 

「お久しぶりです信濃。……積もる話は後にして、先程の泡を知っているようですね」

 

「この泡は……相反する心の衝突により生まれたもの……」

 

「相反する心?」

 

「行先はこの蝶が知らせる……」

 

信濃の腕に止まっていた青い蝶が暗闇の道を照らしながら先まで飛んで行き、それに信濃はついて行きました。

 

「相変わらず言葉遣いが古臭いやつだ」

 

「まぁ良いじゃない加賀。優海を助けられるのならどんなものでも縋ってやるわよ。さぁ早く行きましょう!」

 

赤城もさっきの泡の光景を見たはずなのに意気消沈するよりも、逆にやる気に満ち溢れていました。

 

優海の事になると猪突猛進になるのはいいですが、もう少し落ち着いて欲しいと再三言っていますが、今はその行動力が頼もしい限りです。

 

さっきの泡の光景で見たのは、優海がマーレと成り代わる最初の日……あの時から指揮官になるべく必死に頑張って来たのでしょう。

 

名前だけではなく、年齢、性格、好物、何もかも偽り、決して弱みを見せない英雄になったのでしょう。

 

本当は泣き虫な優海が一体どれだけ自分を押し殺し続けたのか想像出来ず、母親として情けなくて仕方なかった。

 

『会いたかっただけなのに……』

 

「優海っ!?」

 

 

突然優海の声が聞こえて周りを見渡すと、私の目の前に体が壊れかけ、亀裂が入っている優海の痛々しい姿が映った。私の声に反応して赤城達もその優海を見て、赤城は優海に触れようとしましたが……赤城の手に触れた優海は泡の様に消えた。

 

一瞬全身の血が抜けたかのような冷たさが身体中を襲い掛かり、心臓も一瞬止まりかけたような気がした。

 

優海が消える。そんな考えたくもない考えが頭に一瞬よぎりつつも、冷静を保つ。

 

『お姉ちゃんに会いたい、重桜に帰りたい。ただ、それだけだった』

 

目の前の優海はそう言い残しながら暗闇の奥へ溶けるように泡となって消えてしまった。

 

「……あれは一体」

 

「あの指揮官は……指揮官の心の残影。彼の悲しみが形となって、心を蝕み続けている。泡を覗き、彼の心の一部を見れば妾たちの前に現れる……」

 

水面から泡が浮かび上がり、私達の前に浮かんだ。

 

前の泡と同じものならば、これに触れる事でまた優海の軌跡を見る事が出来るはず。

 

進むべき場所や道が分からない今、私達はこの泡に触れる事しか選択肢が無かった。私は皆に目を配ると、何も言わずにみんなは頷き、私は泡に触れる。

 

泡は弾け、私達に軌跡を見せた。

 

今度はどこかの部屋が見えた。

 

殺風景でベットと机しかの最低限の家具しか無く、ベットの上で優海は白紙のメモ帳を折り、折り鶴や狐を折っていた。

 

『千羽折れば願いが叶うって、鳳翔さんが言ってたっけ』

 

重桜に帰る為に指揮官になろうとしている優海は『帰りたい』と願いながらもう1羽の折り鶴を作ろうとすると、ノック音がした。

 

どうぞと優海が言うと、そこに現れたのは制服に身を包んだ私の知らない男性でした。

 

今の優海と同じ物を着ているから……ここの生徒でしょうか。彼は優海に対して憧れや緊張が見え、高揚した顔が見られました。

 

『ま、マーレさん!俺……いや自分、ロイヤルの者なんですけど、英雄の末裔である貴方に話を聞きたくて』

 

『そっか、うん。いい……ぜ、あぁ、話してやるよ』

 

(折り紙は捨てよう。重桜の人だってバレるかもしれない)

 

優海は折っていた折り鶴と狐の折り紙を捨て、マーレとして彼に接した。

 

優海の悲痛な笑顔と共に泡が見せた世界が弾け、また暗闇の世界に戻り、また私の目の前に朧気な優海が立っていた。

 

朧気の優海は前と違って顔つきが変わっていた。目つき、雰囲気、その全てが優海とは違っていた。

 

『俺はマーレ。……そうじゃないといけないんだ』

 

そんな訳無い。と言いたいのに、否定出来なかった。

 

否定すれば優海の今までの軌跡を否定する事にも繋がると思ったからだ。

 

自分を偽り、英雄として振舞った結果、優海は指揮官に慣れた。塗りつぶされた嘘の道の結果が指揮官なのだとしたら、誰も優海の嘘を否定する資格は無い。

 

そうしなければ、生きていけなかったのだから。

 

それでも母親としてなにか言わなければと喉奥で言葉を濁らせている間、目の前の優海がまるで私達から避ける様に陰へと溶けていき、姿を消してしまった。

 

「……行きましょう、皆さん」

 

言いたいことが山ほどできた今、私は少し早足で青い蝶が通った道を歩いた。

 

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「うーん、重桜の料理は美味しいな」

 

調査がてら重桜の街を散策し、そこにあった定食屋という重桜のレストランで焼き鮭定食というものを食べた。

 

この中でいちばん美味しいのは味噌汁というスープだ。鉄血もスープ料理や汁物は多いが、このスープは独特の味わい深さがあった。

 

「すみません、ちょっと」

 

帰る時少し買いだめておくかと味噌汁をもう一度注文しようと店員に声をかける。

 

駆け付けてくれた店員は中年の男性であり、ハキハキとした顔がとても元気が良かった。

 

(……見た目だけね)

 

目の下のクマが深いところ、手足が震えている所からして何日もろくな睡眠を取っていない事が伺える。

 

重桜は何日も寝ずに働く企業戦士(バカ)が多いと聞いた事あるけど、まさかここまでとは思わなかった。ここまで酷いのはこの店員だけだが、キッチンにいる人や近くの席に座っている人も同様に疲れが溜まっていた。

 

「あの、ご注文は?」

 

「おっと失礼。これとこれをもう一度食べたくて」

 

「あぁおかわりですね。かしこまりました」

 

店員さんはキッチンにオーダーを通し、また次の注文を聞きに走り回った。

大変そうだなと無関心ながらに呟きながら、手に持った資料をじっと見つめてまた吐き気を催すような異常な数値とにらこめっこした。

 

「さーて、どうしてこんなにも重桜の人間は長時間働けるんだぁ……?」

 

手元にある資料は今重桜でアズールレーンに関係している企業の全てをまとめた業務関連報告書だ。

 

いつ、どこで、どのように、どんなものを、どんな手順で製造したのかがこれ1つで丸わかりになその中で一際異質に感じたのが労働時間。

 

つまり、人間が働いている時間だ。

 

「これ、平均で26時間働いているぞ……なんなんだこれ」

 

重桜は恐れを知らない民族だと言うがこれは異常だ。平均で……つまり、ほぼ半分の人間が1日中寝ずに働いているのだ。

僕も徹夜とかした事はあるが、全員にこれを強いるのは無理だ。これを強いる無能な上が喚き散らしかして強要したとしても、働く本人達の体力が持たないだけだ。

 

だが、事実それをやってのけているのは事実だ。

余程の圧力があるのか、それともそうしなければならない状況なのか……どっちにしろ、かなりの労働力は確保しているようだ。

 

その労働力により、やはり物資の流れが他陣営を凌駕しているかつ、兵器の大量投入に成功していた。そして何よりも……兵士の存在が大きい。

 

KAN-SENが誕生した今、人間の兵士は使い物にならなくなり、多くの人が軍から抜けていき、軍に残っているのは陣営に対しての忠誠心が多い人と、将校クラスの人間だけだ。

 

実際鉄血でも、軍というシステムはあまり機能しておらず、兵器開発部だけが機能している。

 

にも関わらず……何故か重桜には兵士が多く残っている。まぁ、妖狐に対しての忠誠心が多い所だ。好き好んで残っているのは確かだ。

 

考えがそれたけど問題はそこじゃない。異常なほどの士気の高さも気になるが、問題は兵士の能力。

 

視察を警戒してか上手く隠してはいるが、人間にしては異常な身体能力を持っていた。

 

数秒の壁走りや世界記録並や速力と跳躍……そして正確な射撃力をわずか数ヶ月で手に入れている。どう考えても努力だけでたどり着ける領域じゃない。

 

なにか外的要因があるのは間違いない。考えながらコーヒーを一口のみ、どう足掻いても重桜食には会わないと言葉を濁らせていると、ガシャンと食器が床に落ちた音が店に響き、客の悲鳴が2つほど後に続いた。

 

どうしたのかと様子を見ると、客の1人が突然倒れたようだ。熱々の鉄板に顔面を打ち付け、顔が焼ける音がしているのにも関わらず男は鉄板に突っ伏せたままだった。

 

そして他にもう1箇所、さっき僕の注文を受けていた店員はどうやらキッチンの方にも仕事を任されていたのか、その人がキッチンで倒れていた。

 

さっきの悲鳴は客と店員の2人だったということだ。

 

あまりのハプニングで周りの人達は慌てふためくかそのまま倒れている人を眺めているしか出来ていなかった。

 

バカなのかと呆れて物を言えず、悲しいため息を吐きながら僕は立ち上がって事の沈静化を図った。

 

まず倒れた客の髪を掴んで頭を持ち上げ、鉄板から引き離し、そのまま近くにあった氷の入った水を顔にぶちまけた。これで火傷の応急処置は良いだろ。

 

「ちょ、お客様何を!?」

 

近くにいた1人の女性店員が僕の行動に気づいて止めようとしていた。

 

「バカなのか?早く氷水を用意して顔を冷やして上げろ」

 

「は……はい?」

 

おどおどしながらも女性店員は他の店員と共に氷水を用意しに店の奥へと走った。

 

店員の方は店員の方で任すとして……何故急に倒れたのだろうか。

しかも僕が助けるまで鉄板に突っ伏せたにも関わらず、彼は熱さを感じないように倒れていた。

 

神経の麻痺、思考の低下など色々考えられるが……どれも倒れるという事には繋がらない。

 

(というかコイツ、息してなくないか?)

 

項垂れている男の右手首に指を添えて脈を測ろうとすると……

 

この男に脈が流れてなかった。それを意味する事実に流石にこれには驚かずにはいられず、思わず息を飲み込んでしまった。

 

数秒で落ち着きを取り戻しつつ、死因を探ろうと男のあらゆるところを調査すると……ふと男のポケットに注射器の様な物を見つけた。

 

一般人も買えるごくごく普通の注射器のようだが、何故こうして街歩いている必要があるのだろう。

 

彼は医者か?いやそうは見えないし、この近くに病院は無い。医者でもないのに注射器を持ち歩く理由は……まぁ、考えられなくはない。

 

俺はもう少し男の服の中を探ると、やはりあった。注射器に入れるであろう【薬】。

 

中身は空でシリンダーの形をしたそれは注射器に入れるのに適しており、彼が何かしらの薬物を服用していたのは確実だった。

 

(にしても二人同時に倒れた……ねぇ)

 

たまたまという線も否定は出来ないが、どうにも引っかかった僕は彼の注射器を借りて血液を抜いた。

 

「お、おいアンタ。何して……」

 

この男に何か言っても無駄だと分かっているから何も喋らない。採血は完了し、次は店員の方の血を貰うとしよう。

 

同時に倒れたとなれば倒れた原因も同じだろう。バックヤードの扉を見つけ、混乱に乗じてバックヤードへと入り、あるであろう薬を探した。

 

机の上や引き出しの中は……無いか。まぁ流石にこんな人目がつきそうな所に薬は置かないだろう。となると、やはり……カバンの中だろう。

 

彼の体型からして私服は奥のスーツ、そしてその傍には小さなカバンがある。カバンの中身は財布と多数の領収書に……注射器と薬があった。

 

しかも薬の1つが未使用であり、成分を調べるのに充分な量だった。

 

重桜の謎に迫っている好奇心で笑みがこぼれ落ちる。まさかたまたま来たこの店でこんな事に出会えるとは、神様に愛されているのかと自惚れてしまう。

 

「さて、これを使って何をしようとしているのかな。妖狐さん」

 

シリンダーの中に煌めく赤い血のような薬に移る僕の顔は、とても悪い悪い顔をしていた。

 

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暗い道の中で青い蝶を頼りに進んでいく。

 

水の上を歩く音がこだまのように広がり、無数の泡が水面から浮かび上がっていく。

 

泡の中は優海がこれまで体験した事が映し出され、そのどれもが戦いのものだった。

 

私の知らない優海の軌跡、苦難の道、苦痛の道が私達の周りに広がり、その度にチラつく優海の重苦しい顔が胸を痛ませる。

 

だけどどうしてこんなにも悲しい物しか見えないのでしょうか。母港のKAN-SEN達と暮らしている物が一切無いのが気になった。

 

「……!天城姉様、あそこ」

 

赤城がある方向に指を指すと、青い蝶が赤城の指した方向に止まり、そこには大きな黒い椅子に項垂れて座っている優海の姿があった。

 

優海を見た瞬間私は我を忘れてあの子の元へ駆け寄ろうとしたが、信濃が手を広げて私の足を止めた。

 

「信濃……?」

 

「指揮官の近く何か……蠢いている」

 

信濃の向けた先、優海が座っている椅子の背後から2つの龍がゆっくりと姿を現していく。

 

白く長い体は蛇のようでもあり、龍のようにも思わせる程であり、片方には突き刺しているかのような砲塔があり、もう片方には滑走路のような翼が備わっていた。

 

「あれは……コネクターの……!」

 

赤城があの龍のような形をした艤装に向けてそう言葉を出した。

 

コネクター……セイレーンである優海の本当の名前であるということは聞いていますが、実際の艤装見たのはこれで初めてだった。

 

艤装のみの出現かと思いきや、巨大な椅子の後ろから何かが飛び出し、椅子のてっぺんに立ってその姿を見せた。

 

優海と真逆の色素の薄い髪に、黄色く光る目…それは正しく、私たちの知るセイレーンの姿だった。

 

「あれがコネクター……」

 

似ていると言えば当然似ていたが、それ以前に優海と全く雰囲気が違う。無機質な冷たさだけが肌に伝わり、彼は何も言わずに高台の椅子からじっと私達を見ていただけだった。まるで、観察でもしているかのように……。

 

コネクターは高台の椅子からゆっくりと水面へと落ちていき、私達の前に立つ。

 

緊迫した空気が続き、警戒が解けない中、コネクターから言葉が発せられた。

 

「……どうしてここに来たの?」

 

幼子の様な口調に驚きつつ、その問いに私が答えた。

 

「優海を元に戻す為です」

 

「優海がそう望んだの?今の状況は優海自身が望んだ事なのに」

 

優海と同じ声のコネクターの言葉に私……いえ、私達は耳疑った。

 

あの植物状態が優海が望んだ事……?そんな訳無いと心から反論しつつ、コネクターの真意を問いただす。

 

「優海が望んだ事とはどういうことですか」

 

「見てきたでしょ。優海が苦しんだ事、傷ついた事をね」

 

コネクターが手を動かすと、これまで見た記憶の泡が私達を囲み、その中の光景を見せられた。

 

戦い、傷つき、偽り、苦しみ、静かに嘆く優海の姿しか見られず、思わず目をそらす。

 

「故郷を離れらせられ、自分を捨ててなりたくもない嘘の英雄を演じて、重桜に帰るために指揮官になった。……そこで、赤城達の手で1度故郷に帰ったけど……そこは優海の知る重桜では無かった」

 

「っ……」

 

赤城は痛む胸を抑え、加賀は負い目を感じながら1歩後ろにさがった。

 

オロチを利用して私を蘇らせようと画策していた赤城は少々荒れていた。

 

もう一度私に会いたい。ただその為だけに赤城は敵を作り続けた。邪魔をする者は全て打ち倒す。

 

私が見た訳ではなく、他の方から聞いた話ですが、今の赤城の反応を見ればどれほど酷いのか想像はしやすかった。

 

「変わってしまった家族を説得する為に戦うことを決めて、最後にオロチを倒してようやく平穏を……と思ったけど、すぐにまた新しい敵がやってきた」

 

「……テネリタス」

 

「そう。あの力に対抗できるのは自分自身。守れるのは自分だけ。優海はずっとそう思ってきたよ。君たちもそう思っているんじゃないの?」

 

見て見ぬふりをしていた事実に胸を撃たれるようだった。自分たちの本懐が壊されているようでもあった。

 

守る立場から、いつの間にか守られる立場になっていた事を、目の前にいる存在につきつけられる。

 

「戦って、傷つき、戦い続けてようやく気づいた。自分がもう、歩けない事に」

 

「………」

 

「だから終わってしまったんだよ。君達が、KAN-SENが弱いから」

 

コネクターは淡々と事実を言葉にした。

 

遠回しに、私達のせいで優海はこうなってしまったと言われているように感じ、怒りや苛立ちと同時に図星をつかれたような胸の痛みも同時に感じた。

 

「ご主人様……どうして頼ってくれなかったのですか」

 

「頼る?自分よりも弱いのにどうやって頼ればいいの?」

 

「それは……」

 

「君たちは優海を元に戻してどうするの?戦わせるの?また傷つけるの?どうしたいの?」

 

……何も言えなかった。

 

たとえここで優海を元に戻しても、その先にあるのは厳しい戦いは必須。

 

たとえ戦わせないようにしてもいずれ限界が来て優海がまた戦う場面が必ず来る。そうなれば優海はまた傷つくことになる。

 

「さっきから好き勝手言わせて貰えば……私達を弱者扱いするとはな」

 

「それにいつから優海が強者だと勘違いしているんだ」

 

自分の強さにプライドを持っている加賀と土佐が武器を構え、コネクターに対しての敵意を剥き出しにする。

 

コネクターは2人の敵意に反応し、2つの艤装がこちらに向けて吠え、戦闘する意志を感じ取った私達は艤装を展開し、先陣を切ったのは土佐だった。

 

土佐の接近にコネクターは迎撃し、火力を土佐に集中させる。紫の光が土佐に襲いかかるが、土佐は刀で光を弾きながらコネクターに向けて突撃すると同時に魚雷を放ち、魚雷はコネクターに向け一直線に突き進む。

 

魚雷の接近に気づいたコネクターが魚雷を避けようと空中に逃げると、その先には加賀が放った青い炎の弾がコネクターに襲いかかる。

 

しかし、コネクターは片方の艤装の体を使ってアクロバティックに加賀の攻撃を避け、もう片方の艤装から大出力のビームを加賀に向けて放ち、加賀は避けようとするが、いつの間にか現れていた敵の空母が加賀の回避の邪魔をする。

 

避けられないと踏んだ加賀は青い式神で前方に壁を作り、コネクターの攻撃を防ごうとする。

 

壁とビームが衝突し、壁は耐えきれずに爆発を起こしながら後退する。

 

コネクターは本来援護に特化したと聞いていますが、単騎でも充分私達に通用している。

 

「やっぱり弱い。優海がこうなるのも無理はない」

 

「舐めるな!」

 

加賀への攻撃に集中していた隙をついて土佐がコネクターの喉元へと接近し、寸分の狂いもなくコネクターの脳天に刀を振り下ろす。

 

誰もが攻撃は通ると確信した中、コネクターは脳天に当たる刀を両手で挟んだ。

 

「白刃取りだと!?」

 

白刃取りで攻撃を止められ、刀は横の衝撃に耐えきらずに折れてしまう。折れた刀の刀身に映る土佐の驚く顔が映し出され、攻撃を止められたショックが目に見えてわかる。

 

「もう終わり?それで優海を助けられると思っているの?」

 

「いいえ、まだよ!」

 

今度は赤城がコネクターに向けて赤い炎を纏った式神を集め、赤黒く巨大な狐を出現させた。

 

赤黒の狐はコネクターを噛み砕こうとする程の巨大な口を開き、口から巨大な火球が放たれる。

 

暗い空間を熱く照らす程の火力はこの一体を灼熱地獄に変え、吸い込む空気さえ熱くなっていき、コネクターは巨大な火球に呑み込まれて行く。

 

手応えを感じた赤城はしたり顔を浮かべ、椅子に項垂れる優海の元へ駆け寄ろうとしたが、一筋の紫色の光がその足を止めた。

 

光……ビームが飛んできた方角はコネクターがいた場所だった。赤城は上空に顔を上げると、火球が内側から破裂していき、そこにいた無傷のコネクターが無表情で赤城を見下ろしていた。

 

「その程度?これで優海を守ろうとしているなんておこがましいと思うけど」

 

「それは違う!」

 

加賀がコネクターの言葉を否定しながらも艦載機を放ち、土佐も折れた刀を捨ててもう一本腰に携えていた刀を抜き、加賀の艦載機を足場にコネクターへ近づくが、同時に接近してくるコネクターの艤装に阻まれ、土佐は押し返そうと刀に力を込める。

 

「おこがましいのは優海の方だ!私達を守る?あいつにそれほどの強さは無い!」

 

「……なんだって?」

 

「分からないなら言ってやろう。あんな泣き虫で鈍臭い奴がどうして1人で私達を守れる?」

 

小馬鹿にするように土佐は嘲笑を浮かべた。

 

「あいつは弱い癖に頼る事を知らなかった。だからこうなった。なら、教えこんでやる。自身の弱さをな!」

 

渾身の力を刀に込めた土佐の攻撃にコネクターの艤装の装甲が一部切り裂かれる。

 

艤装が苦しそうに吠え、全身の砲塔からビームを乱射して土佐を引き離させる。ようやくダメージを与えられた事により、流れが少しこちらに傾きつつあった。

 

「天城さん。優海に教えてやってくれ。お前がしているのは、崖から飛び降りるために歩いていると」

 

「土佐……」

 

「貴方の言葉でしか優海は答えない。……私は昔、優海とあまり接する事は出来なかったからな。それに天城さんは……優海の母親だ。思い切り叱ってやれ」

 

土佐の言葉に心の霧が晴れていく様な感覚を覚える。

 

優海を元に戻してその後どうするのか、ずっと引っかかっていた物が実は簡単な物だと気づいた時、自分もまだまだ未熟と思い知り、苦笑いを浮かべる。

 

「ええ、そうですね。……叱らないといけませんね」

 

【叱り】とは、過ちを正すために怒るということ。間違いに気づかせ、成長させる。それが母親の役目だ。

 

ならば今こそ、その役目を果たす時だと自分に言い聞かせる。例え血が繋がっていなくとも、セイレーンとKAN-SENだとしても、我が子(優海)が母と読んでくれる限り、私はあの子の母親なのだから。

 

「ベルファストさん、信濃。赤城達を援護します。いいですか?」

 

「ええ。それに私も、ご主人様があのように私共を勝手に弱いと思っていたと知って、少々腹が立ちました」

 

「ふふ、ならあの子に言ってやって下さい。信濃、行けますか?」

 

「無論。尽力致す……」

 

目的が固まった事で、士気も上がりつつある。今まさに、流れはこちらに傾いた。

 

「……らしいよ、優海」

 

(今、コネクターが笑った……?)

 

一瞬コネクターが優海に向けて笑った様な気がしましたが、気のせいなのか彼の顔は無表情のままだった。

 

この流れを止めないよう、攻撃を止める訳には行かない。艤装の火力を全てコネクターに向け、信濃も無数の蝶をコネクターに向けて飛びだたせ、コネクターの周りに蝶が囲む。

 

囲まれる前にコネクターは蝶の包囲網を抜け出すべく、全ての蝶を撃ち落とさんと副砲や艦載機を駆使して迎撃するが、その間にこちらの集中砲火の時間が稼げた。

 

全ての主砲をコネクターに向け、一斉に放つ。

 

空気が割れるほどの轟音の数々と共に榴弾がコネクターに襲いかかる。蝶の大群に気を取られていたコネクターは艤装で榴弾を迎撃するが、赤城達の艦載機も四方八方から襲い掛かり、大量の榴弾と機銃の衝突による大爆発がコネクターを中心に発生した。

 

流石の集中砲火には為す術もなく、2つの艤装はボロボロになって地面へと落ちたが、コネクターはよろめきながらも立っていた。

 

「や……るな……」

 

「姉様!今のうちに優海を!」

 

恐らくこれが最初で最後のチャンス。コネクターがまともに動けない今、優海に接触するチャンスはここしかない。

 

赤城達が全力でコネクターを止める間に優海がいる巨大な椅子の元へと走る。

 

2m、1m、優海との距離が近づいていく。あと少し、一息で届く距離になった時、私の前に黒い影が現れる。

 

コネクターでは無い何か。

 

刀のようなものを持ち、私に切りかかろうとしている。けど、何故か殺意のような物が感じ取れなかった。それよりも感じ取れたのはーー拒絶や恐れといった物だった。

 

それ故に私は避けられなかった。殺気が無い刀は右肩かは左腰にかけて振り下ろされ、私の体を切り裂いた。

 

ここは現実ではないからか痛みが無く、血が溢れることは無かった。

 

「イ……タ……い、つ、ラ、イ」

 

それよりも拒絶による悲しみが体を襲い、影の顔を見る。

影は涙を流すかのような目元から白い線があり、陰で顔が分からないはずなのに、この影に手をのばした。

 

「ゆ……う」

 

優海の名前を呼びながら私は倒れ、指先から泡のように体が消えつつあり、視界もおぼろげになっていく。

 

「天城……!」

 

「天城姉様ぁぁぁ!!」

 

赤城達が私の容態に気づいた時、私を斬った影は赤城を突き刺し、加賀を背後から切り裂き、土佐の腕を切断した。

 

攻撃された赤城達は傷付けられた所が泡のように消えてしまい、五体満足は信濃だけとなった。

影は信濃に向けてゆっくりと歩き、信濃は後退りをする。

 

「ここは……退くべき」

 

焦る信濃は鈴の音と共に青い蝶の大群を私達に纏わせる。どうやらこれ以上踏み込むのは無理と踏んでこの世界から抜け出すつもりらしく、彼女の判断は間違っていない。

 

理性ではそう分かっている。ですが、心はそれを拒んでいた。目の前に優海が居ると言うのに何も成し遂げて居ないのに。

 

今すぐこの蝶をどかさなければと思っても体が動かず、視界は最早暗闇に囚われ何も見えなくなっていた。

 

同時に意識も闇に溶けていくように無くなり、最後まで優海の名前を呼び続けた。

 

「ごめんなさい……優海」

 

 

 

 

「イ……タ……い、つ、ラ、イ」

 

 

 

 

どのテネリタスが好き?

  • ロリママ創造者の2代目 ラハム
  • 人類最強の天然3代目 アトラト
  • 食いしん坊な絶対守護者4代目 シーア
  • 武士道と極める騎士5代目 ロドン
  • 風のように自由なガンマン6代目 セイド
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  • おっとり包容力で全知全能の8代目 ミーア
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