もしもアニメのアズールレーンに指揮官が出てきたら〜2nd season 海上の誓い〜   作:白だし茶漬け

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約束

 

 深い森の中、天城達は優海を元に戻す為に雲仙というKAN-SENを探し回っていた。

 雲仙は俗世から離れて過す仙人のようなKAN-SENであり、ここ数年姿を見せていない。

 

 だが優海は幼い頃その雲仙に出会った事があると日記に書いており、天城達はその出会った場所である富士の山という重桜で最も高い山の麓の森の中で雲仙を探していた。

 

 しかし富士の森は見通しが悪く、行動不能の優海を背負って移動しているので中々奥に進めずいた。

 そして何よりもう1つ、背負っているKAN-SENがいた。

 

「お……重ぇぇ……胸が大きいせいかめっちゃ重い」

 

 眠っている信濃をジンが背負っており、信濃の全体重や柔らかい所がジンの背中に当たり、その感覚でジンの頬が緩んだ。

 

「うおぉ……柔らかっ。重桜の胸すげぇ……」

 

「しばきまわすわよ」

 

「じ、冗談だって」

 

 ジンはリアからの圧にたじろぎ、口笛を吹いてその場の空気を濁した。

 

「状況分かってるの? 時間無いのだからそんな事考えてる暇あるのなら雲仙の場所を見つけなさいよ。そのムッツリセンサーでね」

 

「何怒ってんだよ」

 

「怒ってないわよ」

 

「怒ってんじゃねぇか」

 

「怒ってなんかないわよ!」

 

「夫婦喧嘩なら他所でやってくれないか」

 

 ジンとリアの痴話喧嘩を加賀は止め、2人はその場で話を止めた。

 

「ふふ、随分と仲の良い友達ですね。優海」

 

 天城は車椅子で項垂れる優海にそう告げるが、優海は動かず、何も言わなかった。

 いつもだったら自慢気に友の良い所を言う優海が、何も言わずにただ俯いているだけの姿を見て天城は胸が痛む。

 だけどそれも最後。最後にしたいという想いを胸に乗せ、天城は前を向いて森の中を歩いていく。

 

「それにしても、よく信濃を連れて行く事が出来ましたわね。三笠大先輩」

 

「長門の許可が出たからな。それにしてもこんな所に雲仙は本当にいるのか?」

 

「分かりません。ですが、人里離れているここでなら可能性はあります」

 

「ほーんと、意味分かんないし、面白いわよね雲仙ってKAN-SENは」

 

 三笠の心配は当然の事だった。森の中を歩いてもう2時間以上経っており、流石のKAN-SEN達も体力を奪われている。

 少し休憩を三笠は提案し、一旦少し開けた場所で適当な岩の上や切り株の上に座ると、ベルファストが手に持っていた荷物からバスケットを取り出し、中には白くて綺麗なサンドイッチが皆の目に映った。

 

「皆様、少し早いですがランチに致しましょう」

 

「お〜流石ベルファスト! 手際がいいな」

 

「おにぎりとお茶もございますので、お好きな物をお食べください」

 

 ジンに続き、皆それぞれ料理を手にして腹を満たしていく。

 流石はベルファストと言うべきか、握ったおにぎりは程よい力加減で握られてふっくらとしており、塩加減も丁度いい。具材である鮭は下処理が丁寧に仕上げられ、梅も鰹節と混ぜて酸味の中に旨味を引き出していた。

 

「おぉ……これは美味い! ロイヤルのメイドもやるな」

 

「三笠様からお褒めいただき光栄でございます」

 

「ふん、こんなの天城姉様の方が何十倍も美味しいわよ」

 

「こら赤城。作ってくれた人にそんな事言ってはいけません」

 

 天城は赤城にゲンコツをお見舞いし、ゴンッという音ともに赤城の頭にはたんこぶが出来上がり、涙目になりながら赤城は少し塩辛くなったおにぎりを黙々と食べ進める。

 

 和気あいあいな雰囲気だが、それでも優海はやはり変わらず俯くまま何も口にせず、人数分の昼食を作った筈なのに、どうしても1人分余ってしまう食事を見たベルファストはやるせない気持ちを抱きながらも、その感情を表に出さず、黙々と点滴を取り替えていた。

 

「ご主人様……」

 

「大丈夫ですよベルファストさん。必ず優海を元に戻します」

 

「ありがとうございます。天城様……しかし、雲仙様は見つかりませんね」

 

「あぁ。奴を見つけ出すのは砂塵の中から宝石を見つけるようなものだ」

 

 昼食を食べ終えた加賀がベルファストの呟きに応え、指に付いた米粒を食べた。

 

「話を聞く限り、奴は人避けの結界を張って根城を構えている。その結界がある限り、人は雲仙の場所にはいけない」

 

「はぁ? それじゃあどう見つけんだよ」

 

「だが、信濃とどういう訳か優海だけはその結界を貫通出来る。だから信濃が起きてくれれば……」

 

「じゃあ起こしてみる?」

 

 オロチが指を鳴らし、眠っている信濃に全員目を向けると、眠っている信濃の耳がぴくりと動き、ゆっくりと瞼を開くと、小さく欠伸をして目元に少しだけ溜まった欠伸涙を指先で拭った。

 

「……ここは、夢?」

 

「いいえ現実よ。私が引き戻したの。……状況は分かってるわよね? 雲仙とはどうやって会えるの?」

 

「標無ければあの場所にはいけず。この蝶が道を照らすにはべらむ……」

 

 そう言って信濃は青く輝く蝶を放つとまた深い眠りについた。

 

「おつかれ、夢ではずーっと起きてるから、今だけは寝ていいわよ」

 

 青い蝶は森の奥深くへと飛んでいき、飛んでいった場所には青い鱗粉の様な光が草木についていた。

 

「あそこの方向って俺らがさっき来た道じゃねぇか。戻れってのか?」

 

「ですが意味はある筈です。来た道を戻りましょう」

 

 天城の号令の元、皆は来た道を戻っていく。

 代わり映えのしない木々の道を進む中、蝶は変わらず羽ばたいていく。

 やがて蝶は1本の木に止まると青い蝶は霧散し、目の前に広がる木々が水面の様に揺れ動くと開けた広場にポツンと小屋が立てられた光景が広がっていた。

 

「は? 俺ら前にここ通ったよな? 素通りしたって事か?」

 

「そのようですね。雲仙はどこに……」

 

「ここにいますよ」

 

 天城に応えるようにすぐ側の木陰に白髪のKAN-SENが姿を現した。

 凛とした姿に腰に備えた刀、どこか一線を抜けている独特な風貌と雰囲気に全員は息を飲んだ。

 

 雲仙は車椅子に座って項垂れている優海を見て胸を貫く痛みを負い、先程の風貌とは変わって感情を顕にして優海に近づいた。

 

「この子は……天城の息子の?」

 

「息子……ふふ、ええ。自慢の息子。……ですが、今は心が壊れてしまい、廃人になっています」

 

 天城はオロチの助けを借りながら優海の状況を説明し、雲仙は状況を把握した。

 

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 _

 

 状況把握した雲仙は小屋の中に皆を招待した。

 しかし小屋の中にはこれといって物が無く、あるのは布団と僅かばかりの食器と、小さなちゃぶ台だけだった。

 

 その為、小さな小屋に10人入るのは難しくは無かった。

 

「なるほど、それで信濃を連れてきたのですね」

 

「そうです。この子の為に力を貸してください」

 

「……残念ですが、私にはもう夢渡りの力はありません。殆ど信濃に受け継げましたから」

 

 雲仙は自分の力を見せるように信濃と同じ青い蝶を手の上に出すと、信濃よりも光は弱く、一瞬にして霧散してこの世界から消えてしまった。

 

「私の力はもう残り火程度しかありません。この程度で力を闇雲に使えば二度と夢想の世界から戻れなくなる事も……」

 

「つまり、下手をすれば貴女……いえ、貴女の力を使って優海の深層世界に行った者は目覚めないと?」

 

 雲仙は何も言わずに頷いた。

 

「オロチ、何とかならないの?」

 

 リアがオロチに頼ってきたが、オロチは首を横に振った。

 

「ムリムリ。そもそも信濃と雲仙がどうして夢であれ、別次元に干渉できるメカニズムも分からないもん。分からない物を弄ったりするのは無理」

 

「そう……ならジンを深層世界に入れるのは諦めて何か別の手立てを考えるべきね」

 

「はぁ? 何勝手に決めてんだよ」

 

「雲仙の力が期待出来ない以上仕方ないでしょ」

 

「使えない訳じゃないし、そうなるかもしれないだけだろ?」

 

「二度と目覚めないのかもしれないのよ!?」

 

「他になんかあるのかよ!」

 

「だからそれを今から考えて……」

 

「時間ねぇんだぞ! それに、深層世界に入る手立ては他にあんのかよ!」

 

 ジンとリアの口喧嘩は収まりを知らずにヒートアップし、見るに堪えなかった天城と三笠は二人の間に立って落ち着かせる。

 

「2人とも喧嘩はやめてくだい!」

 

「天城の言う通りだ。こんな事している暇は我達には無い」

 

「だったら……どうすればいいんだよ」

 

 ジンの言う通り、方法と時間が限られている以上残された手段は不安定な雲仙と信濃の力を借りての深層世界の突入のみとなっている。

 これ以上の方法を模索しようにも情報、時間、道具、ほぼ全ての要素が不足している状況では模索しようがない。

 

 喧嘩から重苦しい空気になって無言になった今、オロチが何か思いついたのか、ある装置の名前を呟いた。

 

「『リアリティレンズ』があればね〜」

 

「何だそれ」

 

「ある世界線の指揮官が、メンタルキューブ解明の為に自分が思い浮かべた光景を精神空間に具現化できる装置の事よ」

 

「精神世界の具現化……?」

 

「言ってしまえば自分の思い描いた夢がほぼ現実と同じように体感出来る装置ね」

 

 オロチは自分の中に残っていたセイレーンのデータベースから情報を取り出し、知る限りの事を話した。

 

「このレンズを使って優海のメンタルキューブを直結すれば、優海の深層世界が具現化されてちょっとはマシになるかも」

 

「マシに……ね。どのくらい?」

 

「目覚める確率が3割から5割に上がったぐらい」

 

五分五分(フィフティフィフティ)か、結構上がったな」

 

「待って。それって所謂別次元の装置でしょ。この世界にあるの?」

 

「ある訳無いでしょー?」

 

 オロチの飄々とした言い分に怒りを通り越して落胆したリアはため息をついた瞬間、携帯の着信音が全員の耳に入った。

 

 誰の着信音か分からず、全員持っている携帯端末を取り出した時に初めてこの着信音がどこから鳴っているのか判明した。

 着信音はジンの携帯からだった。

 

「知らねぇアドレスだな」

 

 迷惑メールの類では無いが、タイミングがタイミングなのでジンは警戒しながら自分の携帯から新たに追加されたメッセージを開く。

 メッセージにウィルスは無く、たった1行の短い文章だったが、ジンを……いや、この場にいる全員を驚かすには充分なメッセージだった。

 

 ﹁リアリティレンズならJBが持っている﹂

 

「どういう事だ……?」

 

 ジンはメッセージを全員に見せると、その意味を理解した。

 JBがリアリティレンズを持っているというこの一文は、今までの会話を聞いていないと出てこない文章だ。

 つまり、盗聴されているのは間違いない。この部屋に盗聴器は仕掛けられいる可能性は無く、ジンは自分の身の回りに盗聴器がない事を確認すると、直ぐさま外にてで広場に人影が居ないかくまなく周りを見渡した。

 

 しかしこの開けた場所には隠れられる箇所はなく、探したとしても広場の先は深い森。

 恐らく話を聞いていた人物を探す事は不可能だ。

 

「くそっ! 逃がしたか……」

 

 もう人の気配は無い。ジンは舌打ちをして苛立ちを発散し、もう一度メッセージを見返した。

 情報の出処が不明な以上、この情報を信用に値するかは分からない。

 しかし、JBとリアリティレンズという単語は今の所さっき小屋にいた者と……ジン達に関連深い人物のみだが、ジンはその人物に心当たりは無かった。

 

 ジンは深呼吸をしながら小屋に戻り、リア達に人影が無かった事を伝え、考えをまとめる。

 

 _他者を利用し、欺き、操り、己の利のみとして扱え。それが上に立つ物が絶対に必要な物。そして、その為には冷酷にならなければならない。

 

 ジンは父親に言われた言葉を思い出す。

 

 情報の出処は確かに不明だが、今の所これに頼るしか手段は無いと考える。

 

「……俺はこの情報を使うべきだと思う」

 

「大丈夫なの?」

 

「まっ、JBの事知ってるんだったら信用してもいい。もしかしたらあいつの開発者かもしれないしな」

 

 開発者が自分たちの味方という訳では無いが、少なくともこちらだけに有益な情報を提供している分には信用してもいいとジンは判断した。

 

「私もそのように考えます。少なくとも、今だけは信用できます」

 

「うむ。敵意があるのなら何かしら行動を起こしてくるだろうしな」

 

 KAN-SEN達もジンの考えに納得するように頷き、リアもしぶしぶ受け入れ、ジンはJBに対して通信を送ると、わずか数秒で返事が返ってきた。

 

 ﹁解答。リアリティレンズはコンパスにて収納﹂

 

『じゃあそれをこっちに持ってくることは?』

 

 ﹁可能。推定予想時間……3分﹂

 

『んじゃよろしく。バレないようにな』

 

 ﹁了解﹂

 

 

 

 

 

 

 三分後、JBが銀色の装甲を隠すかのようにトレンチコートを身にまとっていた姿で雲仙の広場へと足を踏み入れると、ジン達はその違和感しかない姿に苦笑いを浮かべた。

 

「お前なんだそのダッセェ姿」

 

『回答。バレないようにと通達を受けたため、変装しました』

 

「いや完全に不審者のソレだろお前の姿。ズレてんなぁ……んで、リアリティレンズは?」

 

『ここに』

 

 JBの右手にエメラルド色に輝くレンズの様な物を見る。

 パッと見普通のレンズの様だと思え、これで優海を助ける手助け出来るとは到底思えなかった。

 

 ジンはオロチにリアリティレンズを渡すと、それを本物かどうか確かめるようにリアリティレンズを見続けた。

 

「ほうほう、確かにリアリティレンズね」

 

「これで俺も優海の深層世界に入れるのか?」

 

「入るだけならね。でも、脱出は別。さっきも言ったけど、成功確率は5割よ」

 

「半分も成功する確率があるんだろ? なら、行くしかねぇだろ」

 

「ジン……」

 

 リアは半分「しか」成功する保証が無いと考え、止めようとジンの服の袖を掴んだ。

 行かせたくないと、言葉を言わなくてもジンはリアの今にも泣き出してしまいそうな不安を纏った顔で理解していた。

 

「大丈夫だって、な? 必ず戻るって約束する」

 

「約束? ……貴方の約束なんて信用できないから」

 

 リアはオロチからリアリティレンズを取り上げ、小屋の隅へと逃げ込み、ジンに睨みつけた。

 

「あの冬の日、忘れたと言わせないから」

 

「……思い出した事もねぇよ」

 

 あの冬の日という言葉でジンはそれが何の日か直ぐに理解した。

 それは、ベリタスがジンに対しての教育が始まった日であり、幼いリアと出会う約束を果たせなかった日だった。あの日リアは雪が降る中ずっとジンを待ち続けた。

 

 しかしジンは来ず、その日のリアはジンに裏切られたと思って家へと戻った。

 だが、微かな希望を胸に明日、明後日、3日、一週間と約束の公園に足を運んではジンを待ち続けた。

 

 だが来ない。来てくれない。忘れられたと、リアは希望と共に涙を地面へと零し続けた。

 その出来事がリアの胸の奥へと焼き付けられ、また居なくなるのではという恐怖が、リアを今の行動へと突き動かした。

 

「馬鹿なことしてるって分かってる。優海を元に戻さないとテネリタスに対抗できないって分かってる! けど……けど、ジンが目を覚まさなくていい理由にはならないわよっ! バカ!」

 

 いつも通りバカと言われているジンは、この瞬間胸が痛んだ。

 ありったけの感情を顕にして感極まったリアの目からは大粒の涙が頬を伝い、涙はリアリティレンズに滴る。

 無様な泣き顔を晒さまいとリアは蹲るようにして座り、止まらない涙を必死に拭った。

 

「守れない約束なんてしないで……お願いだからっ!」

 

「ジン、どうするの?」

 

「……なぁ、ちょっと2人きりにしてくれないか。ここの家主の雲仙には申し訳ねぇけどさ」

 

「構いませんよ。どうやら、私たちが立ち入るべきでは無い様子なので」

 

「ごめんな」

 

 家主である雲仙が先立って小屋から出ていき、皆も小屋の外に出ていく。

 小屋の中にはジンとすすり泣きしているリアの2人だけとなり、ジンはリアの隣に座った。

 

「リア、確かに俺は約束を破った。言い訳もしない、許してくれとも言わない。……恨んだっていい」

 

「…………」

 

「けどさ、俺達は出会って、一緒に仕事して、今ではこうして隣に座ってる。すげぇ奇跡だよな」

 

「だから何? その奇跡を信じろっていうつもり?」

 

「お前先に言うなよ。はは、やっぱ敵わないな」

 

 自分がいうつもりだった言葉を先に言われてどう切り出すか悩んだジンは、苦笑いを浮かべる。

 

「もう会えないと思ってた。けど、十数年ぶりにお前と出会えてこうして隣にいる奇跡に比べたら、半分も成功する確率(フィフティフィフティ)なんて大したことねぇよ」

 

「じゃあ、証明しましょう。貴方の運の悪さをね」

 

 リアは1枚のコインを取り出すと、表裏をジンに見せてすぐコインを指で弾き、コインは回転しながら宙を浮き、ちょうどリアの手の甲に落ちたところで直ぐにコインを隠すようにもう片方の手をのせた。

 

「表と裏、どっち?」

 

「表」

 

 リアはコインを隠した手を離すと、コインは裏だった。

 

「ほら見なさい。貴方の運はどうしようもなく悪いの。ゲームで目当てのキャラを引く時はいつも天井、カードも弱い。そんな人が確率なんてあてにしないで」

 

「リア……」

 

「奇跡なんて信じない。私を信用させたいなら、確実な方法を見つけてきて」

 

「確実……なぁ」

 

 はっきり言ってそんな方法はない。のがジンの正直な感想だった。

 そんな方法があるのならオロチもそれを提案する……筈だとは思う。いや、分からない。もしかしたらオロチが面白半分でその方法を隠している可能性も捨てきれないのが厄介だと、ジンは頭を悩ませた。

 

 だが、無い知恵を絞っても答えなんて出ない。不毛な考えに浸っても仕方ないとボヤいたジンは、外に出させた皆を小屋に呼び戻した。

 

「ええ……こういうのって答えが決まったら呼び出すお決まりだと学習してるんだけど」

 

 オロチは学習に使った漫画からある程度のお決まりというものを学んでいたが、それが必ずしも決まらない事では無い事を学びつつ、あっさり自分達に頼ったジンに向けてからかいの笑みを向けた。

 

「うるせぇな〜。仕方ねぇだろ、俺だけじゃ良い方法考えられないんだからよ。ほら、重桜の言葉であるだろ? 皆でよれば饅頭の知恵って」

 

「饅頭……?」

 

 加賀はジンの言ったことわざが間違いだと思いつつ、頭の中でおしくらまんじゅうしている饅頭達を思い浮かべた。

 

「『三人寄れば文殊の知恵』では?」

 

「そうそうそれ。……んで、なんかあるか?」

 

 天城が正しいことわざを言い、別の手立てが無いか模索したが、心の中の世界という不確な事に関しては、流石の天城も直ぐに名案は浮かばなかったが、1つ気になる点を示唆した。

 

「オロチ、貴女の力で雲仙の世界渡りの力を高める事は出来ないのですか?」

 

「コネクターならまだしも私にそんな能力ありませーん」

 

「……コネクターですか」

 

「天城姉様?」

 

 何やらコネクターについて何か気になる事でもあるのか、天城は集中して何か考えていた。

 

「もしかしたら……コネクターは……」

 

 だがその時、とてつもない爆音と共に地面が揺れる程の衝撃が襲いかかり、何が起きたのかと全員身構えた。

 

「な、何だ!?地震か!?」

 

「この揺れは地震では無いっ!」

 

「遠くの方から轟音が聞こえた。まさか戦闘か……!?」

 

 土佐が言ったその後にまた轟音が鳴り響き、明らかに人為的に放たれている音からして戦闘音だと確信したKAN-SEN達は、直ぐに外に出て音の出処を確認する。

 周りが森な為、赤城と加賀が艦載機を一機呼び出して羽根に乗り、空高く飛んで上空から状況を確認する。

 

 赤城と加賀の目には、重桜の横須賀鎮守府から黒い煙が立ち上り、海の上には爆発とビームの光が差し込む戦場と化していた。

 

 そしてそれよりも2人の目に入ったのは空だ。

 

 重桜を包み込むかのように広がる黄金色の光がバラバラになり、まるで空が壊れかのような光景の下、2種の艤装を背負った男が、重桜を見下ろすように浮いていた。

 

「あれは……マーレ!」

 

「という事はまさか……大結界を破ったの……!?」

 

 赤城は大結界という物を破られた事に焦りを感じている中、重桜の本拠地に乗り込む男の影が目に映る。

 

 黒い髪、そしてロイヤルの者でありながら刀を添える人物は一人しかいない。

 その名はロドン・テネリタス。ロドンは今、復讐の為にこの地に戻ってきた。

 

 ___

 

 __

 

 _

 

 数日前……

 

「大結界?」

 

 当方の息子であるセイドは、だらしなく胡座をかきながらポテトチップス(芋の揚げ菓子)を貪っていた。

 その姿、まるで働からない者(ニート)そのものだ。

 

 ポテトチップス(芋の揚げ菓子)のザクザクという咀嚼音は鬱陶しいが、注意したところでこいつは止まらん。

 この場にいるマーレも同じ事を思ったのか、注意せず話を進めた。

 

「大結界……大まかに言ってしまえばバリアの様なものですよね」

 

「あぁ、それをどうにかしなければ、当方達は重桜に入ることさえできん」

 

 大結界、重桜を守る為に作られたその名の通りの結界であり、外からの攻撃や害意を反転させる。まさに絶対防御を体現した物だ。

 

 しかも、大結界内では天候や気温、そして豊穣も操作でき、正しく神の領域だ。

 重桜の民達もこの大結界内にいる限り安全だと知っている。だから、平和ボケして自分達は戦争には関係ないと思い込んでいる。

 

 嘆かわしい物だ……当方が生きていた時代の重桜の民達は戦いに対して常に警戒し、自分の強さを磨いていたというのに。

 今ではとんだ腑抜けた人民に成り下がっている事に呆れてしまう。

 

「というか大結界ってすげぇな、どんな原理で動いんてんだ?」

 

「力の源は2つだ。1つは大和というKAN-SENが関わっているらしいが……もう1つは……」

 

「ん? どうした? 親父」

 

 恐らくもう1つは……『俺』とセイドに関係するかもしれない。だが確証もなければ証拠も無い。

 大事な時間の真っ最中だ。ここは話さない方が作戦に集中できるだろう。

 

「いやすまない。根源は関係ない。あのバリアは物理的に破壊可能だ。セイド、お前が8割本気を出せば1人でも破壊できるだろう」

 

「8割かぁー。すげぇな、大結界」

 

「流れでセイドさんが破壊担当になりそうですが、その大結界は俺が破壊します」

 

「……出来るのか?」

 

 正直、マーレの技術で大結界を壊せるかどうかは不明だ。完全に破壊するのであればセイドの方が適任だと思ったが……マーレの目は本気だ。

 何かを必ずやり遂げようとする執念の炎が熱く滾らせ、まるで昔の当方を思い出させる。

 

「俺は一度あの結界を壊してる」

 

「あの時とは比べ物にならないぞ」

 

「ならそれ以上の力でねじ伏せる」

 

 マーレから当方好みの言葉が出てきて少し驚きつつもあり、生意気に成長するマーレを見てニヤリと笑う。

 セイドも同じ事を思ったのか、腹を抱えて笑った。

 

「はっはっは! 言うねー。俺は賛成。親父は?」

 

「当方は好き勝手やらせてもらう。そういう決まりだ」

 

「んじゃ、重桜破壊は俺とマーレとミーアか?」

 

「いや、その事について少し話がある」

 

 当方は後の戦いで復讐に決着をつける。そしてその為にはどうしても避けられない事がある。

 その事をマーレに話し、マーレは二つ返事をして了承をしてくれた。

 

 

 

 

 

 会議を終え、戦いの為に英気を養う時間となった当方は誰もいない無人島の浜辺から大神木重桜を見つめた。

 

 飽きる程見た景色だと言うのに、当方の心があの桜の木をいつまでも見ていたいと叫んでいる。

 あの桃色の花々を見ていると、妻のサクラと過した日々を思い出す。

 

 色褪せていた世界が鮮やかになったあの日々が当方を作ってくれた。まさに、運命を感じた。人生というのは、分からない物だと痛感した瞬間でもあり、彼女が好きだった重桜酒を飲もうとした時、誰かの足音が耳に入る。

 

 構える必要は……無い。この足音はセイドだ。

 

「何しに来た」

 

「げっ、なんで分かんだよ。気持ちわりぃ」

 

 息子の足音を分からない訳が無い。

 だがそれを言ってもセイドには理解出来ないだろうと踏んで当方は何も言わず、さっさと要件を言えと言った。

 

「用ってもな……ただ、何となくあの大神木? ってのが気になってな。あれを1番よく見える所を探したら、親父がここにいたって話だ」

 

「そうか。……折角だ、隣に座れ」

 

「はっ? なんでだよ」

 

「いいから座れ。酒もあるぞ」

 

「へぇ、じゃあお言葉に甘えてっと……」

 

 セイドは隣というには少し遠い所に座り、柔らかい芝生に関心しながらタバコを加え、火をつけた。

 

「おい、タバコをやめろ。臭いで酒がまずくなる」

 

「うるせぇな。別にいいだろ離れてんだから」

 

(まさか気を使って遠くに……?)

 

 てっきり気まずいからだと思っていたが……当方の思い違いか。自分自身の浅はかな考えを恥じたが、やはりタバコの珍妙で慣れない臭いが鼻につき、臭いを気にしないぐらい盃に注がれた酒を飲み干す。

 

 空になった盃に一杯分酒を注ぎ込み、残りの酒がある瓢箪をセイドに渡す。

 互いに何も言葉を交わさなかったが、別に気まずい物では無い。むしろ心地よいぐらいだ。

 自分の息子と、こうして同じ景色を見ている事自体、当方は嬉しくも思っているからだ。

 

 しかも今日は満月だ。満月の光が大神木を月光で照らしており、稀に見る絶景に心奪われる。セイドもタバコを咥えながらも重桜を真剣に見つめており、思わず口角が上がる。

 

「どうだ、重桜は」

 

「なんか……懐かしい感じがする」

 

「懐かしいか……そうだな、お前はあの木を見て産まれて来たからな」

 

「へぇ……ん? ちょっと待て、それどういう事だ?」

 

「お前はこの重桜の地で産まれたんだぞ」

 

「はぁぁぁぁ!?」

 

 夜中だからセイドの声が響き渡る。耳の鼓膜が激しく揺れながらも、帽子の奥で困惑しているセイドの顔は実に愉快だ。酒がすすむ。

 

「マジか……俺、重桜で産まれたのかよ」

 

「言ってなかったか?」

 

「聞いてねぇよ……という事は、アンタ俺をこさえてロイヤルに戻ったのか?」

 

「あぁ。婚約者とその家系の者達はこれには激怒したが、力で黙らせた」

 

「はぁぁぁ……そっか……母さん、大変だったろうな」

 

「まぁ、最初は家中の者もあまり良い目はしてなかったな。だが桜はそれにめげずに接していた。本当に、いい女だ」

 

「……その母さんがあそこに居るってのは本当か?」

 

 セイドはタバコの火を消し、タバコの先を大神木に向けた。

 

「あぁ。間違いなくあそこに桜がいる」

 

「ずっと、あそこに封印されて……生き続けさせられてるのか?」

 

「あぁ。150年間、ずっとな」

 

 あの時、ロイヤル最悪の戦争が起こったあの日、俺は桜を奪われ、そのまま無念で死んでしまった。

 地獄の炎よりも熱く、激しい焔の炎は今でもこの身を焦がし続けている。

 

 この憎悪の焔は、復讐と桜の救済によってようやく収まる。150年間の決着を……明日、たった1日で終わらせる。終わらせなければならない。

 

「待っていろ。桜……」

 

 この刀に誓おう。

 今度こそ、お前の…………

 

 

 

 

 

 

 

 

 お前の幕を閉じらせる事を、この海に誓おう。

どのテネリタスが好き?

  • ロリママ創造者の2代目 ラハム
  • 人類最強の天然3代目 アトラト
  • 食いしん坊な絶対守護者4代目 シーア
  • 武士道と極める騎士5代目 ロドン
  • 風のように自由なガンマン6代目 セイド
  • 完璧で究極のアイドル7代目 マリン
  • おっとり包容力で全知全能の8代目 ミーア
  • 元人間のセイレーン 10代目マーレ
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