もしもアニメのアズールレーンに指揮官が出てきたら〜2nd season 海上の誓い〜 作:白だし茶漬け
はらりはらりと桜が散る中、刀を添えた桃色の髪を持ち、白い着物を纏った女性が目の前に移る。
彼女は花も嫉妬する程の美しい笑顔をこちらに向け、滑らかで雪のような白さを持った柔肌の手で握ってきた。
暖かい、久しく忘れていた人肌の温もりに心の氷で溶けていく様だ。
これは昔の記憶だ。もう幾数年経とうとしていというのに、目の前の女性の和やかな目、麗しい唇、柔らかい声、仕草の癖。
彼女の全てを死んでも尚覚えていた。
_ねぇ、もし私が人の道を外した外道になったら止めてくれる?
_何を言ってるんだ。お前がそんな事するわけが無い。
それに外道は俺の方だ。力だけの存在の俺に、力の意味を教えてくれた。
力は存在するだけで他を圧倒し、寄せ付けず、絶対的な信頼となる。それは紛れもない事実であり、未来永劫変わる事は無いだろう。
だが、信念のない力という程厄介な物は無い。信念なき力は他者を無闇に傷つけ、行き場の無い力はいずれ暴走する。
そう教えてくれたのが目の前の美しい女性、サクラだ。
_約束して
しかしサクラはまるで未来が見えているかのように確信した力強い目をしていた。
_じゃないと私、貴方のお嫁さんにならないよ
_何だと!?
今一番の脅し文句を言われ、ずるいぞと口を開く。
しかしサクラは不敵に笑い、桜の匂いを纏った桃色の髪をなびかせ、俺の肩に寄り添った。
_どうするの?
敵わないと思いつつ、俺が放った言葉は……
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空が不穏を知らせるように暗くなり、雷雲が槍のように降り注ぐ。
大結界が破壊されて荒れ狂う海と空に重桜の民達は慌てふためき、この世の終わりだと嘆く。
「お、終わりだ……」
「おぉ……誰か! 誰か……助けてくれぇぇ!!」
この状況に嘆かわしくも哀れだと吐き捨てる男が一人、重桜に聳え立つ城の天守閣に突き進み、城の外壁を壊して中に侵入する男が妖狐を目の当たりにする。
その男の名はロドン。テネリタス5代目当主であり、ロイヤルの者でありながら武士道を宿すかつて英雄だった者。
その男は今、復讐の焔を宿して宿敵を目の当たりにし、白銀に淡く輝く刀を抜いた。
「見つけたぞ……妖狐っ!!」
ロドンの周りには数々の妖狐の腹心が居たがロドンの目には目の前の白く美しい獣耳と尻尾を持った麗しい女性がいたが、ロドンの目には何よりも邪悪であり、おぞましい女性と映っていた。
妖狐は今まさに殺されるという立場であるのにも関わらず、妖狐は不敵な笑みを零し、ロドンを見下していた。
「おや、これこれは義弟では無いか。その姿を見るのは懐かしいのぉ」
「貴様に復讐を果たす為に地獄から蘇ったぞ」
ロドンは遂に待ちわびたこの瞬間で抑えきっていた感情を爆発させ、怒りのままに刀に手を添える。
「妖狐ぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」
怒りを乗せた声と共に、神速とも思える太刀筋で妖狐の体を一刀両断にし、妖狐の体からは鮮血が飛び散る。
妖狐から溢れ出る鮮血はロドンの顔を汚し、漆塗りの木と畳の床を赤く染めると同時に腹心達も阿鼻叫喚の叫び声をあげた。
「よ、妖狐さまぁぁぁぁぁあ!!」
「ああ、あ、あ、ああああああ!!! ぁぁあ!!」
「あわぁがぁ! も! もう、この国はおしまいだぁぁ!!」
人とは呼べぬ叫び声は雑音と化したが、ロドンの耳にそれは聞こえず、血が飛び散る音と未だになる『2つ』の鼓動音だけだった。
1つは自分、もう1つは……目の前にいる妖狐自身から聞こえていた。
「くっふふふ……妾は死なぬ。死なぬよ」
妖狐の耳障りな笑い声にロドンは顔を上げると、鮮血に注がれながら笑う妖狐のしたり顔を見た。
有り得ない。と心の中で叫ぶと同時に、やはりという確信が生まれたロドンはもう一太刀妖狐に向けようとしたが、刀は妖狐の体に触れる前に、紫色の障壁に弾かれてしまい、妖狐は刀によって作られた傷を再生し、傷はまるで無かったかのように元に戻ってしまった。
「やはり……死なないか」
「妾は不死身。永遠なる存在じゃ。さぁ愚鈍な英雄よ。ひざまつくがよい!」
妖狐が振袖の中から扇子を開き、ロドンに向けて軽く振ると、ロドンの前に突風が吹き荒れる。
吹き荒れる突風に抗おうと刀を床につき刺すが、風は床を抉り、ロドンは城の天守閣から城下町へと吹き飛ばされ、その勢いは止まらず城下町の母屋の数々に衝突しても尚止まらない。
次々と襲いかかる衝撃はロドンにとっては孫のマッサージみたいなものだ。ロドンの頭の中には、次はどうやって妖狐を倒すかの未来しか見えておらず、ロドンはそのまま息子であるセイドが海に向かって吹き飛ばされる。
「……ん? なんだなんだ?」
セイドは吹き飛ばされているロドンを察知し、目でそれを確認すると、予想にしなかった事に驚いた。
「いー!? 何で親父が吹っ飛ばされてくるんだよっ!?」
慌ててセイドはロドンの直線上の場所から離れ、ロドンはセイドを前にしてようやく体勢を整え、海の上に着地した。
「おいおい、空から美少女が来るのは良いけど親父はねぇだろ。なんかあったんか?」
何が何やら分からないセイドは飛ばされたロドンに説明を求めたが、ロドンは何も言わず、天守閣にいる妖狐を睨みつける。
「まだだ、まだ俺の刀と意志は折れてないぞ……」
「おぉ、怖いのぉ。まるで獣じゃ」
「よ、妖狐様……お身体の方は……?」
確実に妖狐は死んだと思った腹心は動揺しながらも妖狐の様態を案じていると、妖狐は斬られた筈の体を見せつける様にして胸元の着物をはだけさせ、無事を見せた。
「妾は未来永劫の不滅じゃ。心配せんとも良い」
「おぉ、流石妖狐様……ですが、重桜の神木があの輩達に汚されてしまい……結界も破壊されて……!」
老人の腹心がここから見える神木重桜に指を指すと、神木重桜が赤い空に溶け込むように桃色の桜が赤黒く変色し、枝も幹も黒く枯れ始めていた。
「ふむ、これは参ったのぉ。神木は大結界や重桜の豊穣を約束し、重桜に生きる人々の魂の拠り所でもある大切な要……それが枯れるとはのぉ」
「はい。ですから妖狐様、神子である長門様と共に重桜を魔の手から救ってください……!」
腹心全員が頭を垂れて妖狐に懇願した。妖狐は血で染まった天守閣と腹心達を見ると、小さくため息を吐いた。
「そんな汚い成りで敬うな、汚らわしい猿共」
冷たく突き放す重い声色と共に、天守閣の床から無数の木の枝が腹心達の心臓を狙うように突き刺し、腹心達は叫び声を上げる暇も無く、木の枝に赤い血を注ぐようにした。
「ゴバッ……! よ、ようござま……ど、どおじて……!?!?」
腹心の一人が息絶え絶えに殺される理由を聞き出そうとしたが、妖狐は羽虫を見るような目で腹心を睨み、同じ空気を吸わないように振袖で口と鼻を隠し、せめてもの情けで言葉を出した。
「安心しろ。お主達は重桜の源となり、永遠に妾の贄となるのじゃ」
言葉の意味を理解出来ない腹心の命は耐え、枝は赤い地を血を求めるように串刺しにした物を地中深く引きずり込んでいった……。
「神木が血を欲する程とは……大結界が壊された事によって、姉様の血だけでは足りなくなったか」
このままでは、重桜の民の半分が神木に捧げる事になる。……だが、妖狐にとってはどうでも良かった。
「重桜は、妾さえ
確固たるも確信した高らかな笑い声は重桜中に響き渡ると、その笑い声はこれから怒る地獄の呼び鳴らす狼煙になり、それはこの場にはいない者達も例外では無かった…………。
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「……ふぅん、大変なことになっているね」
長門と対談する予定があったヤークトは、長門が根城にしている鎮守府の最奥にてアズールレーンの今後について話し合っていた。
しかし、突如重桜に襲いかかる謎の木の枝に一般人が襲われ続けていると同時に、重桜のシンボルである大神木にも異変を見たヤークトは内心焦っていた。
しかしそれを顔には見せず、ヤークトは荒れ狂う天候を背景に聳え立つ大神木に見た。
ヤークトはこの現象に興味はある。だが、ここにいたら確実に死ぬ事を確信していた。
(まぁ、調査で大抵の事は理解している。恐らくこの現象の原因は、大結界の破壊と大神木の贄となっている物の寿命か……だが……この状況はまずい)
好奇心は猫を殺すという重桜の言葉を思い出したヤークトは無情にも重桜を離れる事を即決した。
「僕は撤退する。こんなところにはいられないからね」
「うむ……」
早く避難しなければ、自分もあの枝の犠牲者になる。それを避けるため、ヤークトは早くこの重桜から退却しようとした。
状況が状況だからか、ヤークトの行動を誰も止めず、長門は何も言わずに見送ろうとしたが、指揮官という立場を重ねてか、長門の目には一瞬優海の姿が見えた。
「本当に行くのか?」
「はっ?」
無意識に出た言葉に長門自身が戸惑い言葉を失った。
勝手に口と舌が動いたとした言いようが無い程の無意識に長門は口を袖で隠し、いきなり言葉をぶつけられたヤークトは困惑よりも苛立ちを覚えていた。
「申し訳ないけど、これは指揮官がいるからってどうにかできる状態じゃない。正直、逃げる事しか出来ないと思うけどな」
ヤークトの言うことは正しかった。
天変地異は人間が到底敵わない現象だ。人が足掻いた所で自然は止まらない事をヤークトは知っている。だからこそ逃げる。
重桜が滅びようがどうなろうが、ヤークトがこの場に残る理由は無い。
(鉄血の目的が少し狂うだけだが……まぁ誤差の範囲だろう)
そんなことを考えながらヤークトは撤退の準備を進めると、長門が立ち上がった。
何をする気と言う言葉を思い浮かべる前に、長門が何をしようとしているのが容易に想像できた。
ヤークトの考えと長門が今やろうとしている事は同じであり、ヤークトは長門の愚鈍さに呆れた。
「いや、すまない。こんな時に引き止めて重桜は必ず守ってみせる。其方は逃げろ」
「そうさせて貰うよ……あ、そうそう。ならちょっと試して見たい事があるんだけど」
「なんじゃ?」
ヤークトが指を鳴らすと長門の意識が朦朧とし、視界が歪んだ。
聞こえてくる叫び声は遠くなり、ヤークトの声だけが鮮明に聞こえる中、長門は何もする事が出来ず、ヤークトの前に項垂れた。
(な……なんだこれは……体が勝手に……)
「命令だ。長門……いや、この場にいるKAN-SEN達に命令するよ」
(あ……頭と心に何かが入り込む様な気味悪さだ)
意識が支配されていく感覚から抜け出そうとしても、緩やかな支配が長門の心を蝕み、ヤークトの命令に必ず従わなければならない使命感が溢れ出していく。
最早長門……いや、この鎮守府付近にいるKAN-SEN達は頭の中で響くヤークトの声に逆らわず、ヤークトは長門の様子で機能が作動した事を確認した。
「強制コード。サディアでザラとポーラで動作確認済みだが、これにも機能して良かった」
虚ろな目で項垂れている長門を見下ろすヤークトは特別感情を出さず、無表情で好奇心が赴くままにこう告げた。
(ジンがやろうとしていることの予想はつく。だったら……こう命令すれば恐らくだが俺の思うがままに事は動く。全ては君達の頑張り次第だ)
「
「……っ!! お主、妾に何をした!!」
長門は前々から持っていたヤークトの疑念が敵意に変わり、ヤークトから離れた。
長門は自分の身を確認したが、特に身体に異常は無かった。だがその変わり、心になにかに縛られる違和感があった。
違和感の正体が何なのかは分からないが、その違和感を探る時間は残されていなかった。
「……さぁね? それよりも早くしないと重桜が滅ぶぞ」
最早長門に対して仮面を被る必要が無いのか、ヤークトは素の笑顔を向けた。
ヤークトの素顔の笑みを見た長門はその闇の深さに体が震え、重桜の危機を何とかしようと躍起になりこの最奥の部屋から飛び出した。
「そうそう、頑張ってくれよ。お人形さん」
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「おい、なんかやばいことになってるぞあれ!」
空と重桜の異変を見たジンは天城達に目を向けて説明を求めるが、天城達もこの天変地異の異変は始めてなのか、表面上は落ち着いてはいるが、目に見えて狼狽えていた。
その証拠に天城達の額には僅かな冷や汗が落ち、あの雲仙は異変の目に見えない恐怖に少し震えていた。
「私にも分かりません。これは……一体?」
「ねぇ、これ本気で優海を戻さないとやばいわよ」
オロチの真剣な声色はこの場にいる全員の意識を変えさせる程であり、オロチは把握している状況を簡潔に話す。
「大結界が壊れた事で神木の維持コストのリソースが追いついて無い。今の神木さんは維持コストの為に人間さんをぶっ殺し続けてるわよ」
「は? 植物が……人を殺してるって事か? あのでかい木って意識があるのか?」
「無いわよ」
「はぁ?」
「けど、近くにある物がそうさせてるかも……ねー赤城〜?」
急に声をかけられた赤城は全員、特に天城から絶対に目を合わさないように目を逸らした。
「赤城、何か知っているのですか」
「それは……」
「時間が無いのです。知っている事は話しなさい」
天城は無理矢理にでも聞き出そうと拳を突き出し、赤城は突き出された拳を見てトラウマを呼び出しながらも、僅かな抵抗で口を閉じつつも、結局は口を開けて知っている事を話した。
「……神木の近くには『ナラク』という特異点がありますわ。あそことオロチを使う事で、天城姉様を復活させようとした事があります」
「そうそう。けどテネリタスが来たりとナラクが使えないから、その計画は破綻しましたとさ〜」
「貴女が自我を出して計画をめちゃくちゃにしたのよ。忘れてないわよ、オロチ」
「てへっ☆メンゴメンゴ〜♪」
さっきの重い圧を感じさせる声色はどこかに行ったのか、オロチは片目を閉じながらわざとらしく舌を出しながら軽々しい謝罪をすると、全員が目を皿の様にしてオロチを見た。
「ハイ、フザケテスミマセンデシター」
蔑みの目を浴びせられたオロチは情緒不安定なのかと思えるほどの切り替えで真剣な顔になり、その速さには最早誰もツッコミはしなかった。
「その特異点がちょーっと特殊でね。それがもう開きつつあるからマジでやばくなってる感じね。このままだと人間もKAN-SENも最悪全滅よ」
「……マジかよ。止める手立てはあるのか?」
「あの神木を破壊するしかないと思うけどね。重桜の方々はどう思う? 一応アレ、ありがたい木なんでしょ?」
変わり果てた姿を果たして神木として扱っても良いかは分からない。天城達の目にはかつての神木としての姿は無く、最早別物の類となっていた。
しかも、よく見ると赤黒く変色しているのは人間の血であり、枝に吊るされているのは心臓を貫かれた重桜の人間達だった。
吐き気を催す地獄に袖で口元を隠し、吐き気を無理矢理引き止める者もいた。
そんな中、雲仙が重い口を開いた、
「……あれは最早大神木ではありません。あれを止めなければ、重桜に未来は無い」
雲仙は急いであの場所に向かって民たちを守らなければと意識を向けるが、優海を元に戻す為には自分の力は必要だと分かっていた。
歯がゆさに雲仙は唇を噛み、今すぐにでもここを離れたい自分を押し殺していた。
しかし、その意思は今も尚神木の枝に貫かれている民達の叫びを聞いた雲仙は無意識に足を動き、大神木に向けて走り出そうとした所を赤城に手を握られてその足を止めさせた。
「貴女がいなければ優海は起きない事を忘れないでください。ここは私と加賀と土佐が行きます」
「赤城、貴女……」
「天城姉様はここで優海の帰りを待ってあげてください。きっと、天城姉様が標になって帰ってきますから」
「でしたら、ご主人様の帰る場所を守る為にも私も行きます」
ベルファストも赤城達についていくことに決め、赤城は何も言わず、ベルファストの同行を認めた。
「……分かりました。ですが赤城、加賀、土佐、そしてベルファストさん。これだけは忘れないで」
天城は赤城達が無茶をしようとしていることを一目見ただけで理解し、赤城達は無茶を通してでも重桜を守ろうと決意していた。
天城は決意を込めた赤城達の瞳に向けて口を開く。
「必ず生きてください。そうでないと、優海はまた泣いてしまいますから」
まるで……いや、正しく母親の様に天城は笑い、赤城達も当然そうするつもりだという意の笑みを向ける。
「では、行ってきますわ」
赤城は加賀と土佐と共にこの場を発ち、天城は彼女達の無事を祈った。
「赤城、加賀、土佐、ベルファストさん……どうか、ご無事で……」
「うしっ! 俺らも、そろそろ始めるか」
「ジン……」
この状況になった以上、最早止める事は出来ないと理解はしていたが、納得はしていなかった。
本当はこんな事させたくない、自分の心の拠り所である人が居なくなってしまうのではないかという恐怖でリアの体は震えだし、見納めになるかもしれないジンの顔を直視出来ずにいた。
「心配すんな。そんなに俺の約束が信じられないのなら、逆にこう約束する。『俺は帰らない』ってな」
リアの不安を取り除こうとジンはリアの頭に手を乗せながら、訳の分からない事を言った。
約束が信用出来ないのなら、逆の事を言えばその逆が叶う……つまり、帰らないと言えば帰ってくる馬鹿げた理論をぶつけた。
馬鹿げた理論をぶつけられたリアは鳩が豆鉄砲を食ったような顔となった。
「あんた……やっぱりバカで無鉄砲ね。……分かったわよ。さっさと行ってきなさいよ」
「リア……! ありがとうな」
「その変わり、今度は約束を守って。破ったら殺すから」
するとリアはジンに小指を向け、重桜が約束をする時にする指切りをしようとしたが、ジンはその作法を知らず首を傾げた。
リアは仕方ないと言いつつもジンの小指と自分の小指を絡ませ、指切りげんまんの歌を思い出した。
「重桜では、約束を破ったら針千本飲まされるらしいわよ」
「うげっ、マジ……?」
ジンは本当かどうか重桜のKAN-SEN達に顔を向けた。
「えぇ、本当ですよ」
勿論そんな事はなく、ただの枕詞なのだが、天城は必ず約束を果たせるように、少し悪い笑みを浮かべて小さく頷いた。
これを嘘だとは思っていないジンは是が非でも帰ろうと誓い、リアの手を離した。
「針千本はきついなぁ……まっ、帰れば無問題だな!」
「現金な人……まぁいいわ。行ってらっしゃい、ジン」
「おう!」
ジン達は優海を取り戻すべく雲仙の小屋に入り、JBから貰った、自分の思い描いた夢がほぼ現実と同じように体感出来る装置、リアリティレンズを握りしめる。
「JB、お前も重桜の奴らを守ってやってくれ」
『任務了解。防衛任務、開始』
ジンからのオーダーを了承し、JBは足のジェット噴射を使って空を飛び、いち早く戦場へと身を置いた。
これで心置き無く優海を戻す準備は完了した。
ジン、信濃、雲仙は空いている椅子に座り、天城はベットの上で目を閉じている優海の右手を優しく包むようにして握った。
それぞれの覚悟を決め、オロチは右手に小さな黒いキューブをかざし、キューブから黒い光が溢れ出すと、ジン、信濃、雲仙の意識が朦朧とし始め、彼らが深層世界に入りつつあった。
「それじゃ皆さん、頑張ってねー」
オロチの言葉を皮切りに3人は大きな力に引っ張られるような感覚に受けながら、3人の精神は優海のメンタルキューブへと向かっていった。
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暑くもなく、寒くもない世界には何もなく、果てしない闇が広がる。
闇が広がる世界にジンたちは足を踏み入れ、右も左もわからない世界を見渡す。
「……ここが優海の心の中か?」
予想はしていたが、予想以上の寂しさにジンは自分が今立っている場所を疑った。
どれだけ感情を押し殺せばこんな真っ暗な闇が広がるのだろうか。
目に見える果てまでも闇が広がり、どこに行けばいいのかさえ分からない中、信濃が黄金の蝶の大群を生み出し、歩くべき方角に蝶達が飛んでいき、蝶が飛んだ軌跡には黄金の道が浮かび上がった。
「導はこれで灯された……いざ……ゆこう」
「えーと、この道を進めばいいのか?」
「そうらしいですね。一応前は私が歩きます。ジンさんは信濃を頼みます。彼女、この状況でも眠ってしまいそうですから」
雲仙の言う通り、信濃は瞼を重くさせながらウトウトと眠そうにしており、ジンは慌てて信濃をおぶり、信濃が示してくれた黄金の道を進んでいく。
今歩いているところは地面では無いのか、1歩進む度に水面の波紋が広がり、地面と足がぶつかる音では無く、水と水が弾く音が鳴り響いた。
すると水面の音と共に水面から黒い泡がジン達の前に現れる。ジンと雲仙にとっては初めての物であり、2人は黒い泡が映し出す光景を見た。
泡には、優海が戦い続ける光景が繰り返し映し出されていた。だがそれはかつてあった戦いの他にもう1つ、過去に無い戦いがあった。
優海の前にはラハム、アトラト、シーア、ロドン、セイド、マリン、ミーア、そしてマーレが立ちはだかり、優海はテネリタス全員と戦っていた。
しかし優海の周りには誰もいなかった。
1人で傷つき、1人で苦しみ、1人で戦っていた。
KAN-SENも、誰も、居なかった。
『嫌だ……戦いたくない。怖い……! けど……けど、俺がやらなきゃいけないんだっ!』
怯える子供の様に震えながら涙を流す優海はテネリタスに戦い続けた。
見る者にとっても痛々しく、本人が抱いているであろう今の光景にジンは泡に殴り掛かり、泡は勢いよく弾けた。
「……あの野郎、偉そうな考え方しやがって」
自分の予想が当たって怒りを拳に宿し、黒い泡を消したジンは静かな怒りを優海に向けていた。
「ジンさん? どうなされましたか?」
「別に、ただ身勝手すぎる子供にムカついただけだ。早く行こうぜ」
思わず苛立ってしまったジンは反省しながら、少しの時間重苦しい空気のまま静かな道を歩いていった。
ほぼ初対面のKAN-SENでこの空気での居心地の悪さにジンは耐えきれず、話題を振り絞りながらこの空気を何とかしようとした。
「雲仙はさ、ちっさい頃の優海と会ってんだろ? どうだった? 優海は」
「そうは言っても、私と彼が出会ったのは4、5回程です。それでも語って良いのでしたら……そうですね、随分と元気いっぱいな子でしたよ」
雲仙の記憶にある幼少期の優海は活発だった。自分の修行に興味を持っているものの、雲仙の厳しい修行に耐えきれず大泣きした事が多かったが、それでも何とかついて行こうとする忍耐強さがその一因だった。
雲仙が過去を語っていると和やかな笑みが雲仙自身、無意識に浮かばせており、罪作りな男だなとジンは軽く苦笑した。
「んっ……んん……ふわぁ……」
「お、信濃が起きたな」
充分に休息が取れたのか信濃が目を覚まし、瞼を擦りながら信濃は意識を覚醒させ、ジンの背中から降りた。
「どうだ? 調子は」
「……立ちはだかるものが、いる」
信濃は目元をキリっとさせ、空中にいる二つの艤装と共にジン達を見下ろす者に目を向けた。
姿形は優海と同じだが、目は黄金色に輝き、まるで血が通っていないほどの白い肌、そして無機質な雰囲気はジンたちが知る優海ではなく、セイレーンのコネクターだった。
コネクターは水面に降り立ち、ジンに眼差しをむけた。
「……人間がここに来るんなんてね、驚いた」
表情には出ないが、コネクターは本心で驚いていた。
メンタルキューブという具現化された精神があるKAN-SENならまだしも、見えず、認知できず、調べようがない人間の精神、それとも心なのか魂なのかはわからないが、他人の精神の世界に入れたことをコネクターは興味を示した。
だからこそコネクターはジンに可能性を感じたと同時に、武器も持っていないジンの無謀さに呆れてもいた。
「今回は3人……いや、2人でどうにかしにきたの?」
「2人だぁ? 俺をハブんじゃねぇよ」
「武器も何も持っていないのに?」
「ただ説教するだけで武器もなにも必要ねぇだろ。まぁ、しいて必要なのはコレだろ」
必要なのは己の拳のみ。そのことを示すように右手の拳を突き付けた。
「だとすればなんの力もない君が説得なんかできないよ」
「俺の事を弱者とかいうのは良いけどよ。弱者の意地なめんなよ」
自分は弱い。そのことはジン本人は一番よく理解していた。
そして、今の状況から逃げ出していい理由にはならないとも理解していた。
「弱者は弱者の気持ちが分かる。そして、這い上がる意志さえあれば自分の世界だって変えられるんだよ」
「……理解はできないかな。這い上がる意志がある時点で弱者とは言い難い」
「かもな。けど知ってっっか? 生まれてくる奴は全員弱者で、はじめから強い奴なんて、最初
「けどそれは人間の領域における尺度だよ」
コネクターは右の艤装にある主砲をジンに向け、間髪入れずにビームを放った。
それを察知した雲仙はジンに放たれたビームを真っ二つに切った。
真っ二つのビームはジン達の横を過ぎ去り、ビームを物理的に斬るという離れ業を涼しい顔をしてやってのけた雲仙はジンの前に立って守りの体制に入った。
「ジンさん、ここは私と信濃で抑えます。あなたは早くあの子を!」
「おう! ありがとな!」
ジンは勢い良く真っ直ぐ走り抜け、意外にもコネクターはジンを足止めはしなかった。
雲仙と信濃を警戒して足止めをしなかったのか、それとも自分じゃ優海を助けられないと思ったのか、どちらにしろジン達にとっては好都合な事だった。
そんな好都合な出来事に雲仙は違和感を持ち、その違和感を探っている中、コネクターが水面に降り立ち、自立する艤装に項垂れるように持たれかけた。
「貴方はやはりもう限界なのですね」
「あぁ……それぐらい、もうあの子の心は壊れかけている。持ちこたえるのも、あと数分って所かな」
「其方……もしや心に巣食っていたのでは無く、救っていおられた……?」
「同音異義で……分かりづらい、なぁ……抑えていたって、言ってよ」
歯切れが悪く、呼吸が乱れて言葉が震えているコネクターの様子から、如何に優海の心がギリギリ保たれているのかが想像出来た。
最早自分の足で立ち上がる事も出来なくなるほど疲弊し、それでも尚優海の心を繋ぎ止める事を止めなかった。
「どうしてそこまでして貴方はあの子の事を? その気になれば、乗っ取る事も……」
「……それじゃダメだ。それじゃ……あの人が……僕を、創った目的が……果たされないから」
「あの人? それは一体……」
その誰かを聞くと、コネクターはその者の名前を言った。
「___だよ。多分、知らないでしょ」
コネクターの言う通り、2人にとっては聞き馴染みの無い名前だった。
コネクターは苦笑し、艤装に乗ってジンを追いかけようとした。敵意が無いということが確認した雲仙は刀を鞘に納め、信濃も肩の力を抜いた。
「悪いけど、ちょっと……頼みがあるんだ」
「頼み?」
「2人にしか……出来ない……事だ」
歩く度に空気が重く、泡が見せてくる光景も暗いものばっかで気分も沈む。
1つぐらい楽しい記憶が無いものなのかとジンは文句が垂れながら、黄金の蝶が示す道を歩き、ついにその道が途切れた。
目的地に着いたのかと周りを見渡すと、巨大な白い椅子に目が入り、そこに項垂れている優海を見つけた。
天城達から聞いていた通りの光景でジンはこれから現れるであろう存在に対し警戒する。
そして、遂にその姿が露になる。
表情が見えないほど全身が黒く、艤装ズムウォルトを背負った優海の影がジンの前に現れた。
「…………」
「だんまりかよ。シャイな奴だな」
こんな状況で揶揄う口調を放ったジンに、優海の影は突然刀をもって襲いかかる。
殺気の様なものを感じとったジンは最初の攻撃こそ避けたが、次の攻撃は避けられないと半ば確信していた。
優海の影は回し蹴りでジンの横腹を蹴り上げ、まるで鈍器に殴られたかのような衝撃にジンは悶える。
痛みに悶絶するジンに更に優海はジンを蹴ってぶっ飛ばし、ただの人間であるジンはこの攻撃だけで満身創痍になりつつあった。
「いっつ……くっそいてぇ……」
精神だけの世界なら痛みは無いと思っていたジンだったが、その思惑が崩れ去った。
だが驚いたのはそこではなく、影の強さだった。
容赦の無い一撃は優海がこれまで見せた物には無く、優しさが消えたあの状態は所謂優海の本来の力だとジンは確信した。
その証拠に優海が数える程しか使ってこなかった武装、レールガンを影はジンに銃口を向け、今すぐにでも放とうとしていた。
レールガンの威力をジンは見た事無いが、KAN-SEN達から聞いた話やデータでその威力は計り知れない物だと理解はしていた。
あんなもの避けられるはずも無く、防御を論外だ。
「どうする……! なにか無いか!?」
諦めずに状況の打破を模索したジンはダメ元でポケット中身をまさぐると、小さな何かが入っているのを手で感じ取り、それを取った。
ジンの手の中にあったものは、JBから渡された物、リアリティレンズだった。
「……やれるか? 一か八か」
リアリティレンズの特性を思い出したと同時に、影はレールガンをジンに三発放ち、着弾と同時に一帯が爆発した。
並の人間……いや、KAN-SENでもセイレーンでもあの攻撃を耐えることは不可能だ。
優海の艤装は全てのKAN-SENとセイレーンを凌駕する程のポテンシャルを秘めてはいた。
だが、優海は自身の優しさからその力をセーブしていたのだ。危険なレールガンを使うの躊躇い、敵を倒したくない博愛主義がそのポテンシャルを殺し続けてはいたが、影はそんな優しさは持ち合わせてはいなかった。
ただ敵を倒す為に武器を使用する。客観的に見れば理想の兵器そのものだ。そんな相手に人間が適うわけが無い。
……普通の人間ならの話だが。
突如爆煙が吹き飛ばされ、影に向かって凄まじい速さで突進をかける人影があった。
一瞬の反応が遅れた影は迫り来る人影の飛び蹴りをお返しと言わんばかりに腹部に直撃し、吹っ飛ばされていった。
「へへ、やられたらやり返すってな」
影を蹴り飛ばしたのはジン、それは確かだった。
だが、ジンの体は軍艦を彷彿させる銀色をベースに関節部分が赤茶色と青のツートンカラーの装甲に纏われ、左腕にはパイルバンカーが装着され、正しくロボットと言わんばかりの見た目になっていた。
──擬似艤装。
かつてアズールレーンが指揮官を戦闘に参加させようと開発した物があったが、優海がセイレーンだった為それは凍結した。
しかしチカロフがその設計図を見つけて開発し、武器だけは優海の元へと送られた物であったが、その計画自体はジンも知っていた。
だから願った。今、優海を止められる力をと。
リアリティレンズは精神空間に具現化できる装置。
なら精神空間の場所で使うとどうなるかは分からなかったが、ジンはオロチのこの言葉を思い出し、リアリティレンズを使った結果、この擬似艤装を装着出来た。
今この瞬間、ジンはKAN-SEN達と同じ程度の力を持つ事が出来た人間となった。
「さぁ、第2ラウンドの開始と行こうぜ」
ジンが装着した擬似艤装は、アズレン 指揮官 エイプリルフールであった物と同じだぞ!
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