もしもアニメのアズールレーンに指揮官が出てきたら〜2nd season 海上の誓い〜   作:白だし茶漬け

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はい、ちょっと遅くなった白だし茶漬けです。

いやー、タイトル。アレです。分かる人には分かる!自由のアレです!

そんな感じのノリで書きました。はい。

いよいよ重桜編が終わりに近づき、優海君も復活!その姿を見届けてくださると、幸いです




舞い降りる剣と復讐の刀

 心が折れる音がする。

 

 悲鳴が耳から離れない。

 

 突然現れた黒い獣達に傷つけられ、神木の枝に人間が貫かれる姿が目に焼き付けられる。

 

 地獄だ。この世は地獄だ。

 

 それでもKAN-SEN達は戦わなければならないと心のままに戦い続ける。

 

 守るべき人間の為に、或いは1人の人間の為に。

 

「この場所は絶対に守ってみせるです! 指揮官が帰る場所を!」

 

 奮闘し、獣を切り裂く綾波。魚雷を放ち、榴弾を放ち、2本の剣で獣を切り裂く姿は正に鬼神だった。

 しかし、鬼退治をするかのように獣達は綾波の周りを囲み始め、その物量差で押し切ろうとしていた。

 

 迫り来る獣達に綾波の艤装が遂に1匹の獣に噛みつかれ、装甲を破っていく。艤装のダメージがそのまま痛みに変わり、次々と獣達は綾波の事を貪ろうと接近する。

 

「綾波先輩! 助太刀致します!」

 

 兎の如く海を跳ねるように駆け抜ける島風が綾波を囲んでいた獣達を刀で斬り伏せ、綾波と合流する。

 綾波と島風は互いの背中を守るように立ち、無数の獣達に向かって火花を散らす。

 

「後輩に助けられるなんて……情けない先輩です」

 

「そんな事はありません! 綾波先輩はよく持ち堪えくれました! 島風はもうボロボロですが……」

 

 島風の状態は酷いものだった。

 魚雷は撃ち尽くし、艤装と服もボロボロになった事からダメージは綾波以上だ。このまま戦闘を続ければ身が持たない事は島風自身わかっているが、それでも島風は仲間達や人間を守る為にその身を震わせた。

 

「それでも皆さんを守ってみせます!」

 

 島風は勇敢にも獣に立ち向かおうとするが、多勢に無勢。もはやここを乗り切る力も体力も無く、このままやられる事も覚悟をした島風は目の前の獣に立ち向かうその時、一筋の斬撃が2人を囲んでいた獣達が一斉に斬り伏せ、援軍が来たのかと周りを見渡す。

 

「2人とも、無事ですか?」

 

 2人を助けたのは雲仙だった。綾波と島風は初対面だが、その風貌からKAN-SENだと理解しつつ、只者では無いとも感じた。

 

「あ、ありがとうございました! ええと……」

 

「私の名は雲仙。ただのしがない援軍ですよ。それに、貴方達にとって大事な人も、直ぐにここに来ます」

 

「大事な人ってまさか!」

 

「……帰って、きたです!」

 

 雲仙の言葉に綾波と2人は互いに喜びの顔を合わせ、雲仙が空に指さす先を見た。

 綾波達の目には、この紅の空にかける白い流星と、無数の青い蝶がこの戦場に舞い降りていた。

 

 

 

 

 

 

「くっ……数が多い!」

 

「あら土佐、泣き言なんてらしくないわね!」

 

「黙れ腰巾着! お前こそ息が上がってるぞ!」

 

「姉様、土佐、無駄話はそこまでにしてくれ」

 

 赤城、加賀、土佐も神木の方向から現れる無数の獣の大群に善戦していたが、やはり他と同じように数の多さで圧倒されていた。

 

 ジリジリと距離を詰められ、遂には囲まれた赤城達は残り少ない弾薬に苦しめられながらも、戦意はまだ折れなかった。折れる訳にはいかなかった。

 

「優海が帰る場所は守ってみせるわ……!」

 

「待ちなさい赤城!」

 

 最後に力を出し切ろうとする赤城を止める声が赤城の耳に入り、声がした方角には青い蝶達の大群が獣達に向かって飛んでいた。

 

 蝶は黒い獣達に触れた瞬間霧散し、その光で浄化するかのように獣達の動きを止める。

 その隙をつくかのように、どこからか正確な砲撃が獣達に襲いかかる。

 

 動きを止めた好きに土佐が一方向に重い斬撃に放ち、その直線にいた獣の大群を切り裂き、赤城達は包囲網から抜け出す。

 包囲網を抜け出すと同時に、赤城と加賀は大群に向けて赤と白の炎を巻き起こし、巨大な炎の竜巻となって獣達を焼き尽くす。

 

「今の声は……」

 

「間違いない、天城姉様よ!」

 

 聞き間違える筈が無い声に赤城は気分を高鳴らせ、声がした方角には天城と信濃が赤城達の元へと駆けつけた。

 

「よく無事でした皆さん。……ああ、良かった……」

 

「天城さんがここにいるということは……まさか」

 

「ええ。あの子が帰ってきましたよ」

 

 天城が紅の空に指を指し、その先には赤黒い雲しか映っていなかった。

 しかしその直後、その雲と空を断ち切るように動く一筋の光が降り立ち、赤城達はまるで流星の様な光の正体が何なのか確信した。

 

 

 

 

 

「どうして……こんな事になったのだ……」

 

 自分の行いに何か間違いがあったのか、どこから歯車が狂ったのか? 

 

 長門は戦いながら迷う。だが分からない。

 

 分からない。分からない。分からない。分からない。

 

 後悔だけが胸の中を埋めつくしていく。成されるがままに役目を全うしたのに、自分に蓋をして神像として生きてきたのに。

 

 どうしてこんな地獄が生まれたのか、こうなった以上、自分に存在価値はあるのか。

 

(分からぬ……余は一体どうすれば)

 

「神子様!」

 

 一番の側近である江風の声でようやく自分の身の危険を知る。

 黒い狼が長門の事を食い破ろうと口を開き、鋭い牙を向ける。江風が長門を助けようとするが、背後にいた黒い鳥から出す黒い炎に艤装がやられ、江風は倒れてしまう。

 

「み……こさま……」

 

「江風!? はっ……」

 

 もう長門の目と鼻の先には狼がいた。世界の時間の流れが遅くなり、長門の脳裏に走馬灯が駆け巡る。

 

 嫌な記憶の中に、光輝く幸せな記憶が流れる。

 象徴としての長門では無く、ありのままの長門として過ごせた一時。

 

(優海……!)

 

 自分の命が終わる刹那、長門はその名前を思い続ける。

 助けてと、心の中で叫ぶと襲い掛かる狼の頭上に青い光が降り注ぎ、狼の脳天を貫いた。

 狼は霧散し、長門は何が起こったのかゆっくりと瞼を開く。

 

 長門の目には、黒髪に毛先が青く、獣耳を模したようなくせ毛に、白い指揮官が着る軍服。

 そして、見たことない白い艤装と二つの蛇のように長いセイレーンの艤装。

 

 間違いない、見間違えるはずがない。長門だけではなく、この場にいる全員が待ち望んだ男の姿を目の当たりにすると涙を流し、その帰還を祝福する。

 

「……優海っ!!」

 

 名前をよばれた優海は長門に振り返り、久しぶりにあう顔を懐かしむように笑った。

 

「もう大丈夫だよ。長門ちゃん」

 

 優海は長門の前に立ち、変わり果てた重桜に思うところはありつつも、今自分がやるべき事をした。

 通信の回線をオープンにし、この場にいる全員に自分が帰ってきたと知らせる。

 

『こちら、指揮官、天城優海! 繰り返す、こちら指揮官、天城優海! この場にいる全てのKAN-SENは俺の指揮に入ってくれ!』

 

「優海……?」

 

「ええ、優海君よ。帰ってきたのよ!」

 

 優海の帰還にKAN-SEN達は士気を取り戻しつつある。しかし、大半のKAN-SENはボロボロになっている。

 長時間の戦闘は出来ない状況になっている。

 

 優海もその事を周りを確認し、形成を逆転する為に全ての武装を展開し、コネクターの艤装である2体のリュウグウノツカイの武装も展開した。

 

 両手にライフルを構え、艤装に搭載されている全てのミサイルの砲門、主砲を全面に集中する。

 

 コネクターの力を受け継いだ優海の目にはこの海域にいる全ての勢力の位置を把握し、黒い獣達を全てに赤いロックオンマーカーが映し出される。

 

 優海が両手のライフルの引き金を引くのと同時にミサイル、そしてリュウグウノツカイの艤装の兵装で攻撃し、黒い獣達は優海の攻撃の雨に撃たれ、次々と消滅していく。

 

 青いビームの連射は一発一発が的確に命中し、ミサイルも全て打ち漏らさず獣達に当て、爆散する。

 圧倒的な火力の前に獣の大群の半数が消え去り、驚異的とも言える力にKAN-SEN達は唖然とする。

 

 しかし、獣達が消されてもまた蘇るように黒い獣達の数は増えていき、先程の攻撃は無駄となりつつあった。

 

「今こそ使うぞ、コネクター!」

 

 優海は2つのリュウグウノツカイの艤装を天に登らせ、2つの艤装は球を作る様にうねり飛ぶ。

 

「俺はもう……ひとりじゃない!」

 

 2つの艤装の中心に青い光が徐々に大きくなると、光はやがてこの海域を包み込む様に広がり、KAN-SEN達はその光に対して身を構えるが、光はKAN-SEN達の体を通過するだけで何も起きなかった。

 

 だがその直後、体に何か起きた事をKAN-SEN達は感じ取れた。

 

「体が軽い!」

 

「これなら戦える!」

 

 力を増したKAN-SEN達は優海の帰還により士気が上がった事も相まって通常の倍の力を手に入れる。

 風のように動き、槍のように敵を貫き、敵を倒していく。

 

 コネクターの力を全て受け継いだ優海はその力を使ってKAN-SEN達の限界まで引き上げていく。だが、KAN-SEN達の体には異常はない。

 

 ノーリスクで限界を超えた性能を引きあげさせる。それが新たにコネクターと優海が手に入れた力だった。

 

『損傷が激しいKAN-SENは重桜に戻って一般人の救援! 残ったKAN-SEN達はあの敵対勢力の対処! 各個別に指示を送る!』

 

 優海は空を飛び、上空から海域の状況とKAN-SEN達の状況を瞬時に把握し、コネクターの力を使って各KAN-SEN達に直接指示を送る。

 

 優海の戦闘センスと、コネクターの状況判断力とKAN-SEN達の強化。

 戦闘と指揮を同時に行うその姿は正に、神にも等しい存在だった。

 

 そんな中、優海はある男と目が合った。

 まるで映し鏡の様な同じ顔でありながら、目と雰囲気が自分とは違う存在、マーレ・テネリタスと目を合わせる。

 

「マーレ……さん」

 

 マーレも優海を見つめ、艤装の銃口を優海に向ける。だが、優海は避けようともせず、ただ何かを伝えようとマーレの目を見るだけだった。

 

 互いの沈黙が続いた中、マーレは銃口からビームを放つと、ビームは優海の横を通り過ぎ、優海を狙っていた黒い狼を貫いた。マーレは最初から優海ではなく、その背後の狼を狙っていたのを、優海は最初から気づいていた。

 

「……ふん」

 

 これはマーレの意思表示でもあった。馴れ合うつもりは一切無い。俺とお前は敵だと、銃口を向ける事で伝えた。だが、今だけは敵では無い事を、背後の獣を撃つことで伝えた。

 

 言葉不要だ。だがそれは信頼という意味では無く、敵であるが為に会話そのものが不要だと、マーレの意思表示だった。

 

 優海もその意思表示を理解し、引き留めることをせずに今成すべきことを成す為に海を駆け抜けた。

 

 優海の帰還により、劣勢だった戦況が覆りつつあったが、それは一瞬の内だった。

 

 無尽蔵に蘇る黒い獣と、重桜の民達に襲い掛かる神木の枝は次々と民達の命を貪るようにして貫き、重桜の人口を減らしつつあった。

 

 このまま戦いが長引けば、確実に重桜は滅ぶ。そんな最悪な未来が優海の頭を過ぎる。

 

 何故こうなったのか、どうしてこんな事になってしまったのか分からず、必死に情報を集めようとした時、突如として赤黒色のビームが大神木に向かって伸びていった。

 

 しかしビームはバリアの様な物で弾かれてしまい、ビームは枝分かれして霧散する。

 

「あのビームは……オロチさん!?」

 

「ハーイ、優海。全く、私を置いていくなんて酷いわァ」

 

「あ……そういえば俺、オロチさん置いていったな……」

 

 自分が起き上がった事への高揚感と、重桜が大変な事になっているという危機感に押されるようにして飛び出した優海は、オロチの事を頭からほっぽり出していたのだ。

 

 オロチは蛇の艤装を優海に巻き付け、自分も優海を舐め回す様に手を顔の輪郭に沿って撫でていき、顎を持って目線をその先を神木に向けた。

 

「この酷〜い状況をぶっ壊す。たった一つの方法が……あそこにあるわよ〜??」

 

「大神木……? 確かに、あそこからすごく嫌な雰囲気を感じますけど」

 

「そう。妖狐によって大神木は今やあの女の手足となり、重桜の民達の命を力に変えている。……テネリタスを倒すためにね」

 

「なっ……その為だけにこんなに馬鹿な事を!?」

 

「まっ、親父が命を狙ってるからな。当たり前だろうな」

 

 優海とオロチの前に、敵でありながらもまるで友人の様に接する陽気な男の声の正体である、セイド・テネリタスが優海の前に現れた。

 

「よっ、お前とは多分初めましてだよな。それにしてもお前ホントにマーレと似てるよなー」

 

「六代目テネリタスの……セイド・テネリタス……」

 

「おいおい、そんな嫌悪すんなって。今は仲間だって……」

 

「指揮官様から離れなさいっ!!」

 

 突然セイドの頭上に赤く燃える槍が降り注ぎ、セイドは右手に持っているハンドガンで迎撃した。

 セイドは笑顔を崩さず、欠伸をしながら襲い掛かる炎の槍を全て一発で撃ち抜き、セイドは槍を出したKAN-SEN、大鳳が近づくのを見て驚いた。

 

「ワォ、おっぱいが物凄い速さで襲いかかってくらぁ」

 

「ウジ虫は消えろ!」

 

 大鳳は鬼の形相でセイドに敵意を向け、今度は槍を重ねてセイドに向けて放った。

 セイドも同じハンドガンで槍を撃ち抜こうとしたが、流石に威力が低いのか弾丸は槍によって貫かれてしまう。

 

「はっ? 嘘だろ!?」

 

 優海が持つコネクターの力でKAN-SEN達の能力が底上げされた事を実感したセイドは驚嘆し、今度は少し口径の大きな銃を構え、発砲した。

 

 今までより大きな発砲音と共に、白眼の弾丸が炎の槍を貫く。弾丸はそのまま大鳳の髪に掠り、大鳳は優海を守るように前に立った。

 

「うわぁ……女がしちゃいけねぇ顔してる。こっわ」

 

 一体どんな顔をしているのか、後ろにいる優海は分からない。だが、大鳳の激しい息遣いと背中から伝わる圧でどれだけテネリタスの事を敵視しているのかが伝わってくる。

 

「まぁ待てって。今はお前とデートしてる暇は無いって。な? 後ろにいるウルフガールも聞いてくれよ〜」

 

 セイドはわざとらしく両手を上げた瞬間、セイドの背後にいた愛宕が容赦なくセイドを背後から斬り伏せる。

 

 しかしセイドは既の所で膝を曲げて愛宕の斬撃を避け、左腰にぶら下げていた銃の引き金に左手の親指をかけながら愛宕に銃口を向けていた。

 

 発砲音共に弾丸が愛宕に向かうが、愛宕の驚異的な反射神経によって弾丸は全て刀に斬られが、セイドが距離を取るのは充分な時間だった。

 

「優海くん! 怪我はない!?」

 

 愛宕も優海の壁になるように前に出ると、セイドに向けて刀を構える。

 

「愛宕さん! 大鳳! 落ち着いて! セイドさん達は今、敵じゃない!」

 

「ですがテネリタスは重桜を攻撃しました! 敵ですわ!」

 

「あちゃーそれ言われちゃ何も言えねえ〜」

 

 セイドは弁論もせずに重桜への侵攻を認め、その行動がより一層大鳳と愛宕……いや、重桜KAN-SENの敵意を煽った。

 

「おーお、モテモテだな〜俺。敵意とか無かったらもっと良いんだけど」

 

「私の心は指揮官様の物ですわ。指揮官様のために、戦い、その敵は全て排除しますわ!」

 

「だってよー! じゃあ指揮官よーい! お前が今思ってる敵は誰だー?」

 

「……大鳳、愛宕さん。武器を下ろして」

 

「けど優海くん……」

 

「お願い」

 

「……分かったわ」

 

 大鳳と愛宕はようやく武器を下ろし、話し合いのテーブルにつくことが出来た事に安堵した優海は、同時に2人の様子のおかしさに違和感を感じた。

 

 だが、その違和感を詮索する時間は無い。今はこの状況を何とかするのが、ここにいる全ての者の共通認識だった。

 

「まぁ簡単な話。あの花粉撒き散らすよりもヤバい事しているデカイ木を何とかすれば、この事態は収まる」

 

「その方法は?」

 

「物理的にぶっ壊す」

 

「けど見たでしょ? アレ、私の同じバリアを使っている。簡単には突破できないわよ」

 

「ならお前がやられた時と同じ事すればいいじゃねえか」

 

「……全員で攻撃してバリアの強度を減らし、一点突破での攻撃でバリアを破壊する?」

 

 だが、オロチのバリアを突破出来たのは全ての陣営のKAN-SEN達がいてようやく破壊出来た物だ。

 確かに同じ性質なら同じ手順でバリアを破壊出来ると優海は考えたが……

 

「無理よ。明らかにマンパワーが足りない」

 

 しかしオロチがそれを否定した。

 重桜のKAN-SENしか存在せず、しかも半数がボロボロであるかつ黒い獣達は減る事を知らずにKAN-SEN達と戦っている。バリアを何とか出来る余力は無いとオロチは計算した。

 

「そりゃあ俺が居なかったからな。俺なら、あんなガード破ってやるよ」

 

「……ちょっといい? いつの間にか、アンタがこの状況を止めるのを協力する形になってるけど、貴方達は重桜を侵攻したのでしょ? なら、逆に手伝わない方が貴方達の為になると思うけど」

 

 オロチの言うことは最もだ。目的は不明だが、テネリタスが重桜を侵攻したのは事実。ならばこの状況はテネリタスにとっては都合がいいとオロチは言ったが、セイドは帽子を深く被り、オロチの事を嘲笑った。

 

「誰も中身のねぇ箱なんていらねぇよ。それだけだ」

 

 意味深な事を言ったセイドは狙撃位置に移動するのか、半壊した重桜の土地に足を向けた。

 

「あとそれと……母さんの生まれ故郷を守りたいってのが、俺の本音な」

 

 一瞬セイドは真剣な目を優海に向け、優海はそれがセイドの本心だと確信し、優海はその本心に応えようと決意した。

 

 ﹁そうはさせぬぞ﹂

 

 外にいるにも関わらず、洞窟の中で発した反響した声が海に響き渡り、大神木が紅に輝いていく。

 

 紅に染った大神木から、何か蠢く影が海を覆い尽くしていく様子が見えた優海達はその影を目にすると、その正体に驚愕する。

 

「オオ"……ヨウコサマノオオ.……タメニニニニ……」

 

「ヨウコサマァァァァ"""……」

 

「あれって……人間?」

 

 壊れた人形のような項垂れた姿勢、掠れた声、そして神木の枝に貫かれた形跡として、体には数カ所穴が空いていた。にも関わらず、そこに血は流れておらず、人間達はまるでゾンビの様に歩いていた。

 

「これは……一体?」

 

 ﹁ソレは妾の愛する重桜の民じゃ﹂

 

「この声は……妖狐!」

 

 重桜KAN-SENの誰かがその名を口にした瞬間、神木の背後には巨大な妖狐の姿が淡く映し出された。

 妖狐はまるで神にでもなったかのように優海達を見下し、滑稽と思っているのか小さく笑っていた。

 

「一体どういう事だ妖狐! 重桜の民達を……大神木をどうしたのたと言うのだ!」

 

 ﹁長門。妾はお主と違って民達に愛され、崇拝されておる。これは民が自ら妾の為に戦ってくれているのじゃ﹂

 

「どう考えてもあれは操られている様にしか見えない……」

 

「しかも生気も感じられない。生きてるの……あれ?」

 

 ﹁さぁ? どうじゃろうなぁ? 試しに斬ってはどうじゃ? 行け﹂

 

 妖狐の号令と共に人間達はKAN-SEN達に襲い掛かる。下手な攻撃だが、KAN-SEN達は人間を攻撃する事は出来ず、攻撃を受けるか避けるかの2択を強要される。

 

「くっ……何? この力は!」

 

 攻撃を防御したKAN-SEN達は、予想を超える人間達の力と速さに驚愕する。

 明らかに人間が出せる限界を遥かに超える力を持っており、肉体には相当な負担がかかる事は間違いなかった。

 

 その証拠に攻撃した人間は痛みに悶える様な苦しい声を出し、虚ろな目には涙が溢れだしていた。

 

「生きている……のか?」

 

『確認。対象の生体反応を検知』

 

 空からまた1つ、炎を纏った流星が優海達の前に降り立つと、炎は消え、中に白銀のロボット……ジンをサポートする戦闘ロボット、JBが現れた。

 

「えぇ!? ろ、ロボット!? しかも喋った!」

 

 心を失っていた時からの優海を初めとした重桜KAN-SENのほとんどはJBとは初対面の為、そのインパクトに圧倒された。

 どこから来たのか、誰に作られたのかという疑問を浮かび上がると、丁度その時優海から通信が入った。

 

「もしもし?」

 

『お、繋がった。俺だ、ジンだ!』

 

「ジンさん! あの、聞いてください! 俺の前に凄いロボットが!」

 

『は? あ〜そっか。お前まともな状態の頃の記憶あんま無いのか。まぁとにかく、そのロボットは味方だ』

 

「要件はそれだけですか?」

 

『いやこっから本題だ。聞いてくれ。今、謎のメッセージが届いたんだけどよ。そのメッセージにはデータがあった。JBにそれ送ってるから、確認してくれ』

 

 するとJBは顔のバイザーからそのデータを投影してくれた。

 今こちらに近づいている人間や様々なデータに……ホログラムされている大神木の地下には、大きな空洞な様な物があり、そこにあるデータ量だけは異常だった。

 

『どうやらそいつらはこの重桜で妖狐に配られた薬によって無理やり体を強くさせられるらしい。おまけに……脳の中枢神経を麻痺させてる代物だ!』

 

「つまり、妖狐の為だけに戦わされているって事ですか?」

 

 ジンは無言で頷き、優海は通信越しにそれを受け取った。

 

 薬によって無理やり人を自分の物にする妖狐の行いに優海の怒りは燃えたぎらせる。

 

(どうすればいい……?)

 

 考えた。周りを見渡し、何か使えないかと頭の中で模索し続ける。

 

 人を傷つけることは出来ない。かといって長引かせれば人間とKAN-SENが持たない。

 

 その時、長門の姿を見た優海は自分がこれまでしてきた事を思い出した。

 

 長門だけじゃない。ビスマルクとエンタープライズにやった、KAN-SENの深層世界に入った能力、『リンク』。これを使えば薬によって正気を失った人間を元に戻せるかもしれないと考えた優海は、KAN-SEN達に新たな指示を出す。

 

「皆! 人間達をなるべく傷つけずに戦ってくれ!」

 

「どういう事だ? 優海」

 

「コネクターの力を使って重桜の皆さんを正気に戻す。でもその為にはデータが足りないんだ! 人類を守るために……頼む!!」

 

「頼む……ふふ、優海君は指揮官でしょ?」

 

「指揮官様の言うことは従いますわ」

 

 愛宕と大鳳、そしてこの場にいるKAN-SEN達は優海の指揮に従い、KAN-SEN達は人に対して防御中心に戦った。

 

「金剛たち戦艦は黒い獣を優先! 駆逐や軽巡が人間達を戦闘してくれ!」

 

 比較的火力が低い駆逐・軽巡が人と戦い、火力が高い戦艦、援護範囲が広い空母で獣たちと戦い、駆逐と軽巡をサポートする。混沌が混沌を呼ぶ戦場を把握し、KAN-SEN達に的確な指揮をする優海が一体となり、わずかな希望が小さく輝いた。

 

「う””……アアぁ””……」

 

 ﹁さぁ、妾の手となり足となり、重桜の糧となれ!! ﹂

 

「重桜の人々をこんな風に……許せないっ!」

 

 心が痛みながらも刀を交わし、KAN-SEN達は奮闘した。KAN-SEN達は良いが、人類は余りある力に耐えきれず、骨がきしみ、筋肉が裂け、血反吐を吐く。

 

 黒い獣も見ているだけではなく、人と戦うKAN-SENに向けて牙を剝く。しかし、それを許さないのKAN-SENをいるのもまた事実。

 

「お前たちの相手はこの我だ!」

 

 白龍を筆頭とした空母と戦艦が獣たちと戦う。だが、獣は際限なく増え続けていき、負担が徐々に募っていく。

 

「まずい……!」

 

「ここは任せてください、指揮官」

 

 それを見た優海は援護しようとデータ収集を中断しようとしたがJBが優海を止めた。

 

『質問。指揮官、私は黒い獣を排除すればいいでしょうか?』

 

「JB? うん! 願い!」

 

『了解』

 

 JBも獣たちを駆逐していき、KAN-SEN達も防戦ながらも優海の指揮で戦闘を行っていく。

 しかもJBだけでは無く、セイドとマーレも同じく黒い獣達を駆逐していった。

 

「マーレさん!?」

 

「勘違いするな。たまたま敵がこっちに噛み付いただけだ」

 

「うわぁ、素直じゃねぇな」

 

 マーレとセイドの介入によって予想よりも駆逐と軽巡のKAN-SEN達の負担は少なく、優海は着実にコネクターの力で着々と戦闘データによる人の脳のダメージを学習(ラーニング)していく。

 

「……よし! いいぞ!」

 

 充分なデータを収集した優海は

 

 KAN-SEN達はその様子に驚きながらも、優海がこれからやるであろう行いを危惧していた。

 コネクターの力を使うということはつまり、セイレーンになるという事だった。

 今まで優海はコネクターの力を使う度に人間性を失う代わりに兵器としての能力を手に入れてきた。

 

 味覚の消失、視覚と聴覚の異常発達、そして心の崩壊。

 

 また何かを失うのではないか、また心が壊れるんじゃないか、KAN-SEN達は止めたい一心だった。艤装の融合がその不安を一層押し出した。

 

「大丈夫! 信じて」

 

 その不安を感じ取った優海はKAN-SEN達にそう呼びかける。しかし、すべての不安は拭うことは出来なかった。

 

「優海……」

 

「赤城、信じましょう。私たちの指揮官を……」

 

「優海、頼んだぞ……」

 

 信頼、不安、期待、希望。その全てが入りまじる空気を優海は感じる。

 

 怖い、これから何が起こるか分からない今が怖い。だが同時に希望が見えていた。

 

「皆がいたからここまできた。皆と一緒だから、ここまでこれた! だから……やれる! そうだろ!? コネクター!!」

 

 もう存在しないもう一人の自分(コネクター)に言葉をかけるようにコネクターの艤装に目を向ける。

 セイレーン艤装特有の瞳があるような部分と目が合うと、コネクターの艤装は優海の艤装であるズムウォルトと連結し、二つの艤装が1つになった。

 

 まるで艤装が融合したかのようにも思えた変貌に周りは驚愕し、優海がそのことに一番驚きつつも、今確信できた。

 

 絶対に、人類を助けられると。

 

 優海は自分の武器を出現させ、大剣が一つの長い棒へと変形し、その先にはアズールレーンのマークが記されたビームの旗が作られた。

 

 優海は青く輝くビームの旗を掲げると、旗から青い光が流星群のように降り注ぎ、青い光が人類に触れると、人の動きが止まりつつあった。

 

「がっ……アア””……」

 

「イタイノ……なくなっああ……」

 

「わわ! そのまま倒れたら溺れますよ!!」

 

 動きを止めた人類は心成しか穏やかな顔になりながら気絶しながら倒れると、KAN-SEN達はその人間が海に溺れないように近場の沿岸に運んだ。

 

「指揮官ー!! 無事ですよー!!」

 

 島風が人の呼吸音を確認し、優海に伝えるように大きく手を振った。

 

「よかった……」

 

 ﹁なんじゃと……﹂

 

 安心した優海はホッと息を漏らし、次に紅色の大神木をにらむ。

 あの諸悪の根源である大神木をどうにかしなければ、この悪夢は終わらない。

 

 大神木の背後にいる妖狐も優海に対して嫌悪の目を向け、優海も妖狐に対して厳しい目を向けていた。

 

 ﹁この異物め……﹂

 

「これ以上、重桜を傷つけないでくれ!!」

 

 ﹁傷つける? どこがじゃ? ﹂

 

「はっ……? どう見ても傷つけているでしょう!? 民たちをこんな風に使って! KAN-SEN達も傷つけて!」

 

 ﹁これは民の意志でもあるんじゃぞ? ﹂

 

「どういうことだ!」

 

 どう考えても民の意志に反する光景に優海は理解が出来ず、妖狐は冷めたような目と口調で話を続けた。

 

 ﹁重桜の民どもは妾を敬い、称え、縋り、愛しておる。まるで神のようにな。故に、どうしようも無く自分の考えが無い、ただの肉塊よ﹂

 

「何だと……っ!!」

 

 ﹁実際そうじゃ。誰も未来の事なんて考えて無く、妾に全てを頼っていた。妾が入れば安泰だ。妾がいれば自分は安心して最後まで生きられる。そんな思考放棄をした奴らばかりじゃ﹂

 

「そんな事は……」

 

「あるぞ」

 

 優海の否定を否定したのは、マーレだった。マーレは優海の前に立ちはだかり、優海が知らない重桜の実態を優海に突きつけた。

 

「重桜の民達の半数は妖狐さえいれば良いと思考放棄をしていた。現に、彼女の腹心達も、上層部達も妖狐の意見には全く疑いは無かった」

 

「それに、ヤバい薬も妖狐が作ったって言って疑いも無く飲んだからな。最終的に人間があぁなったのは、自己責任って奴だ」

 

 ﹁そうじゃ。妾に舵を任せたのじゃ。重桜という船のな。なら、妾が何かをするのならば、それは民の意志という事になるのじゃ﹂

 

「そんな事……」

 

「そんな事ある訳がなかろう!!」

 

 優海の代わりに叫ぶ長門の声が響き渡り、優海は言葉を詰まらせて長門の方に目を向ける。

 

 長門は怒りの感情を全て妖狐に向け、重桜の神子としての威厳を保つように立ち振る舞う。

 

「余の愛する民達の命を弄び、ましてや大神木をそのような目にさせるなど、決して民の意思な訳がない!」

 

 ﹁ふん、人形が何を言う。現に民は妾に未来を! 全てを委ねた! 自分の欲望に手足の付いた醜い肉塊など知った事か! ﹂

 

「違う! 人とは……人間とは、そのような簡単な者では無い! 一人一人が生きる事に対して尊重し、未来をより良くしようと努力する者もいる! 民を愛さないお主に、重桜を担う資格など無い!」

 

 ﹁口煩い羽虫じゃのう。それに、もうこの戯れも飽きた。遊んだ後はしっかりと片付けないとのぉ? ﹂

 

 妖狐が突然姿を消すと、大神木から黒い光が集まり始めた。

 光は影となり、影が蠢きその形を変えていった。

 

 鋭い爪と牙、巨大な体と八首の龍の頭が作られていく。

 

 影はまるで龍の様な姿となり、その大きさまるで全てを飲み込む津波程にまで膨れ上がる。

 

「グゥオワァァァァァァァ!!!!」

 

 1つの胴体に8つの頭、8つの尾を持ち、目はホオズキのように深紅に輝かせ、影の様に蠢く姿に優海達は全身を震わせるその名は……ヤマタノオロチ。

 

 重桜に伝わる伝説上の生き物が、優海達の前に立ち塞がろうとしていた……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 大神木の根には、巨大な空間が広がっていた。

 

 周りは石に囲まれ、地面は無く地下水の清い水で地面が満たされ、根がその水を吸って成長していた。

 

 そんな少し殺風景な空間に妖狐は自分が好む酒と菓子、そして天守閣と全く同じ作りの部屋を作り、妖狐はそこでくつろいでいた。

 

 妖狐は酒と菓子を無邪気に貪り、目の前にいる大神木の根っこに重桜の民から吸い取った血液が大神木の力になっていくのを見て気分を高揚させた。

 

「良いぞ良いぞ♪ そのまま力を増していけば、全ての陣営を超越するのも時間の問題じゃのう? 姉上?」

 

 大神木の根っこに向けて、妖狐がそう口にすると、根っこの奥から一人の若い女性が手足を縛られ、磔の様にされていた。

 

 髪は所々桃色だが全体的に白く、酷くやせ細っていた。

 

 若い女性の名前はサクラ。妖狐の実の姉であり、大神木の贄となっている女性だった。

 

「不老不死になる薬を打ち、150年姉上の血を捧げできたが……」

 

 サクラは妖狐の顔を見ると、虚ろな目を向けて口を開ける。

 

「よ……うこ……こんな事は……も、……やめ」

 

「何を今更。それに姉上の役目はもう終わる。この150年。重桜に血を捧げ、今日は多くの民から血と贄を捧げた。この大神木は妾の手によって全ての陣営を超越する力を得たのじゃ! 喜ばしいのぉ? 姉上」

 

「あ……なたは……なに……を」

 

「何をしたいのか? そんなの、妾が全ての頂点に立つことに決まっておる」

 

 妖狐は酒を飲み干し、姉に向けて盃を投げると、先程高揚した表情とは違う、憎悪に満ちた顔をサクラに向けた。

 

「今も昔も……妾は誰かの贄になり続けた。この大神木に血を捧げる為に産まれたと聞かされ、その為に人生を歩まされ……妾の意志はそこには無かった!」

 

 妖狐は忘れ物しない過去を思い返していた。

 

 良い思い出なんて無い、絶望しか無い過去を。

 

「何故妾なんじゃ? どうしてこんな物に命と人生を捧げなければならない? ただ産まれただけの妾が!? 何故!?」

 

「だがら……あな……たは、わた……しを」

 

「そうじゃ。じゃが姉上は逃げたのじゃ。あのロドンとかいう男と共に! じゃから……あの日、姉上をここに連れ戻す為にあの戦争を起こし、ロドンを殺した」

 

「ロ……どん……」

 

「その後出会った女に不老不死の薬を貰い、姉上も妾も不老不死になり、妾は重桜の神に等しい存在に、姉上はこうして大神木に身を捧げる事になった。……もう、150年か。長かったのぉ」

 

「……」

 

「妾は願うがままに生きた。求めるがままに成してした。であれば、妾が何を求めたから、それに協力するのが筋であろう?」

 

「だが……ら、こんなこと……」

 

「これが民の意思じゃ。……さて、そろそろ儀式の仕上げに……」

 

「悪いがそれ以上俺の妻に口を向けるな」

 

 その瞬間、大神木の地下と唯一繋がる大扉が無数の斬撃によってバラバラになり、扉の破片が妖狐に向かって吹っ飛んでいく。

 妖狐は式神を使ってその破片を防ぎ、扉の前にいる男に目に映させた。

 

 土煙を切り払いながら、水面を歩くその男はロドンだった。

 

「長い参拝道だった。途中でお前を慕う忍もいたが、敵では無い」

 

「ふん、使えん奴らじゃ。何をしに来たんじゃ?」

 

「決まっているだろう」

 

 ロドンは刀を構え、自分が今ここにいる理由を告げた。

 

「妖狐、お前をここで……殺す」

 

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