もしもアニメのアズールレーンに指揮官が出てきたら〜2nd season 海上の誓い〜   作:白だし茶漬け

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逢魔ノ刻:日没

 私の運命は寒い雪が降るあの日で変わったのかもしれない。

 

 初めて優海と出会ったのは赤城が哨戒任務の最中に発見したのが最初であり、冬の海の冷たさで震え、今にも命の炎が消えそうな物だった。

 

 急いで毛布とお湯を用意したのを今でも覚えている。冷えきった体を少しづつ暖め、震える手を握って必死に看病をしていた。

 

 そんな中、意識が朦朧とする中で優海が私の手を握り返し、こう言った。

 

『お母さん』

 

 その言葉を聞いた時、胸が締め付けられるように苦しかったと同時に、母親……家族はもういないのだろうと悟ってしまった。

 

 まだ幼く、母親の愛情を受けるべき時なのに失ってしまった優海を見て、私は憐れみや同情の感情を積もらせた。

 

 罪悪感か、偽善的な正義感からか……それとも人間で言う所の直感から、私は優海を育てる事に決めた。

 

 赤城も加賀も土佐も最初は戸惑っていた。リュウコツが欠陥だらけの私の体は弱く、とても人間を育てられる物では無いと赤城達に言われなくても分かっている。

 

 ですが、一度助けた命を無責任手放す事は出来なかった。偽善的であろうと最期の時になるまでこの子を見届けると決めた私は少し強引にこの子を優海を家族に迎え入れた。

 

 KAN-SENが親になる……能力も価値観も違う中での子育ては少し難しかった。

 

 最初は話すことさえままならず、食事の時はいつも隅っこで静かに食べていた。おいでと言っても来なかったので、こちらから近づき隣で食事を共にしていると、少しづつですがあの子の距離は近づき、いつしか食事中に会話が弾む事もあった。

 

 だけどまだ他人とは会話はままならず、私達ぐらいしか会話は出来なかった。三笠先輩の話も聞かず、愛宕達が来ても部屋に閉じこもってしまう。

 赤城はそれで良いと言ってはいましたが、それでは成長は出来ない。少し無理矢理ですが、私達がわざと家を開け、三笠先輩に優海の世話をした事もあった。

 

 これが項を成したのか、優海は他人と触れ合う事が多くなった。

 

 少しづつ成長し続け、やがて指揮官として相応しくなってくれた。母親として誇らしく思い、育てて良かったと涙ぐんだ。

 

 優しく、強く、仲間を信頼する素晴らしい指揮官…………だったのに。

 

 この世界……いや、()()()()の人間達は優海の事を認めなかった。

 

 全てを終え、敵がいなくなったこの次元に優海を待ち受けたのは、彼に対する不安心から出る悪意だった。

 

 優海の力を恐れ、地位を妬んでは蔑み、優しさを否定した。

 

 貴方達に何もしていないのに、貴方達を守る為に傷ついて戦ったのに。何故? どうして? どうして認めてくれないのですか? 

 

 必死に弁明しても人間達の恐怖心は優海を殺した。

 

 最期の優海は悲しく笑っていた。運命を受け入れる様に、心の中では泣いている仮面の笑顔が最後に見た光景であり、それが今でも頭や心にこびりついている。

 

 他のKAN-SENの心が次第に壊れていき、自ら命を絶つ者もいた。少しづつ、少しづつ私達は壊れていき、行き場のない怒りは遂に心を壊していった。

 

 憎い、全てが憎い。

 

 私の大切な存在を認めず、知ろうともせず、ただ振りかざした力のみに恐れた人類が、世界が、全てが憎い。

 

 逝ってしまった赤城達の仮面を付け、遺された優海の指揮官服を羽織り、微かな存在を感じようと必死に縋るが、どうしてもあの子の存在が感じられない。

 優しさも温もりも強さも、何もかもが消えていた。あるのは燻る怒りの焔だけ。

 

 人に対し、世界に対し、全てに憎悪の焔を宿す。

 自分が生まれた本懐さえも忘れ、焔の炎が消えるまですべてを燃やす。

 

 木々や街と人間、望んでない自身、望んでいない未来。

 

「全てを……燃やしましょう」

 

 この滾る焔が消えるまで。自分自身とさえも、家族でも私は戦う。

 目の前にいるのが誰であろうと。

 

 背中に携える艤装を構え、背後の鳳凰と九尾が目の前にいる天城達に向かって進軍する。

 黒い鳳凰は流星のような炎を撃ち、九尾はその巨大な口を大きく開き、黒色の波動を放つ。

 

 対抗するように、天城と赤城は互いの鳳凰を呼び出し、2匹の鳳凰は紅蓮の炎に包まれてその身を焦がしながら流星に向かっていく。

 

 流星は鳳凰に飲み込まれ、鳳凰同士のぶつかり合いが日没の空を照らしいてく。

 

 九尾が放った波動は加賀と土佐が互いの死力を尽くし、刀と式神で塞いでいる。ぶつかり合う衝撃で波動の一部が分散していき、その余波で雑魚が駆逐されていく。

 

 少しづつ押されていく九尾の攻撃を土佐が縦一閃に断ち切り、波動は真っ二つに切り伏せられる。この隙を逃さまいと、加賀が自身の式神を集めさせ、巨大な白九尾を顕現させ、私の九尾の喉元を食い破らんと走り出す。

 

 巨体に見合わない速度ですが、防御は容易い。着物の袖から無数の黒い式神が私の壁になるようにして整列し、白九尾の動きを止める。式神は白い九尾の体にまとわりつき、その身を糧にして爆発させる。爆発で九尾の体はボロボロとなり、体を出来ずに消えていく。

 

「見かけの割に脆いですね」

 

 まるで加賀の内面のようだった。見かけは強く、孤高の戦士のように勇敢ですが、心は弱い。

 先ほどの言葉はと回しにそういったつもりですが、加賀はそのことには気づかず、私を睨んだ、

 

 残りの式神を飛び立たせ、天城達を囲む檻となって姿を変えさせる。土佐が刀を振って檻を断ち切らせてももう遅い。檻となった式神は紙では無く鋼となり、もうそこから逃げられる事は出来ない。

 

 檻の中の天城達に向けて黒色の艦載機を飛び立たせ、更に主砲を向ける。檻の中では避けられる場所も無く、この攻撃を受けざる負えない。

 

「終わりです」

 

 そう、終わり。全ては終わりなのです。

 艦載機の雨のような機銃と獣の咆哮の様に轟く砲撃が檻の中の天城達に襲いかかる。

 狭い檻の中で赤城と加賀は式神を使い機銃を防ぎ、土佐が榴弾を斬り、天城が従う鳳凰も榴弾を燃やし続ける。

 

 檻の中で虚しい抵抗はそう長くは持たない。式神も疲弊していき、赤城と加賀に機銃の弾丸が掠め、土佐の刀は折れて使い物にならなくなり、斬り逃した榴弾に艤装が直撃し、半壊した。

 

 もはやこの状況を覆す力はもう無い。そう、あの時の様に、為す術なく何も出来ない自分達の姿が重なった。

 

 私はあの子の力になれなかった。体が動かず、KAN-SENとしての本懐が出来ないほど、私の身体は使い物にならなかった。

 砲台にも盾にもなれず、私は愛する者たちを失うのを見るだけだった自分の怒りと、愛する者達を奪ったもの達への憎悪を糧に、艤装からとある武器を取り出す。

 

 ボロボロに朽ち、刃こぼれが目立つ情けない武器は多くのコードを露出させて火花を散らしている。

 

「あの武器は優海の……!」

 

 この武器を見た天城達はこの武器の正体に気づき、それを見ようと目を大きく見開いた。

 

 口元が震え、どうしてそれをと言おうとしているのでしょうが、天城達は声は喉の奥で詰まって出てこなかった。

 

 そう、これはあの子の武器であり形見の1つでもある命よりも大事な物。せめてもの情けでこの武器をトドメを指すことが、私に取っての手向けだ。

 

 剣の持ち手からコードが伸び、コードを艤装に接続する。

 艤装から直接エネルギーを受け取った剣が鈍い音を鳴り響かせ朽ちた体を鞭打つ様にぎこちなく姿を変え、口を開くように中央が開き、にエネルギーの光が収束していき、一気に解き放つ。

 

 1つの武装から出たとは思えないほど強烈なビームが放たれた。空気が焼けるような音が響き渡り、ビームは一直線に敵に向かって突き進んでいく。

 

 折に閉じ込められ逃げる事も、傷つかれて防ぐ事も出来ない。

 これが絶望。何も抵抗も出来ずに終焉を迎えるちっぽけな存在だと突きつけられる絶望。

 

 ビームは檻ごと飲み込み、天城達はその光に包まれる。

 これで終わったと確信したその時、打ち出したビームの光の中から、焔の如く燃える鳳凰が羽を広げた。

 

 天に登る程巨大な鳳凰からは天城達が現れ、鳳凰が天城達を守ったのは間違いなかった。

 

 これが空母としての天城……あの子の武器を使ったのにも関わらず、耐えきった事は賞賛に値する。

 鳳凰は天城達の傍で羽ばたき続け、見る者によっては不死鳥にも思えるでしょう。

 

 そんな鳳凰を従えている天城は私が持っている武器については天城達は興味と困惑を示した。

 

「……何故それを」

「貴女はその意味が分かっているでしょう。赤城達も、私がこれを持つ意味がどういう事なのか」

 

 ボロボロで使う事すらままならない武器を天城達に見せる。あの頃の輝きは消え失せ、ほぼ全ての機能を失ったとしても、この武器はこの世で最も大切な物です。

 

 向こうの天城達なら見間違えるはずが無いこの武器がここにある理由は1つしかない。

 認めたくないのか、赤城達は頭の中で思い浮かべている言葉を出そうとはしなかった。ですが向こうの天城はその言葉を放った。

 

「貴女の傍にもう優海はいないのですね」

「ええ。あの子が強かったせいで……何も知らない人間に迫害されて……ね」

 

 彼女の言葉で燃え残った全てを燃やそうと焔が灯る。

 

 優海だけじゃない、赤城も加賀も土佐も皆逝ってしまった。戦えなかった私だけ置いて、皆……全て。

 

 残ったのはこの羽織っている指揮官服と武器のみ……冷たい武器とボロボロになった服を抱きしめ、涙で服を濡らし、武器に涙が伝う日々が続く中、とある人間の女性が私の前に現れた。

 

 彼女はあの世界に嫌気をさしたかのような空の目を向け、私に力をくれた。

 

 _もう全て壊していいから

 

 彼女はそう言い、まるでおもちゃを捨てるように言ってそのまま去っていくと、私に赤く輝くキューブを手渡した。

 キューブに触れた瞬間、鉛のように重かった体が羽のように軽くなり、私は私がいた世界を壊し続けた。

 

 人々の悲鳴、崩れ行く瓦礫の轟音、燃える硝煙の鼻につく臭いに世界は包まれた。

 最後に残ったのは、乾いた私の笑みと無差別な力のみ。

 

 そこから先の事はあまり覚えていない。どうしてここに来れたのか、どこへ向かおうとしたのかも分からない。

 ですが、私はあの子の事だけは必ず守り通す。

 その為にあの子はもう戦ってはいけない。

 

「あの子の心が壊れていたあの時が幸せだったというのに……どうしてまだ戦いに駆り出した。天城」

 

 故にあの天城が許せない。安念を、戦いから遠い場所に引きずり戻したあの子達を許せない。

 質問を投げかけたが、その答えが待てない程憎悪が燃える。

 

 天城は顎を引き、懐かしい強い目を向けて口を開いた。

 

「母親として子を助けるのに理由がいりますか?」

 

 最もらしい母親の答えだった。言葉を聞いた瞬間、私の中の後悔の感情が燃え上がる。

 

 私だって助けたかった。救いたかった。支えたかった。なのに……なのになのになのになのになのになのになのになのになのになのに。

 

 どうして私は救えなかったの?

 

 そんな意味の無い自問自答が頭の中に響いてくる。

 

 響く声が哀しみとなり、痛みとなり、怒りとなる。

 行き場の無い怒りに振り回されながら動こうとしたその時、体が動かずに止まってしまい、激痛と共に私は膝を着いてしまう。

 

 その後口の中に鉄の味がする液体が溢れ出し、異物感から鮮血を吐き出す。

 喉の奥にこびりつく血を吐き出しながら息を吸い、震える手足を見る。

 

「どうやら今日は……ここまでのようですね」

 

 さっきの攻撃で体を酷使しすぎたようであり、私の体は悲鳴を上げていた。ここで無理をする理由も無いと悟り、震える手足で立ち上がろうとする私の前に、赤城が血相を変えて向かってきた。

 

「天城姉様っ!!」

 

 久しぶりに言われたその名を呼ぶイモウトは私の体を支える様に肩を貸してくれた。

 

「しっかりしてください天城姉様っ!」

「……私は貴女が知る天城では無い」

「関係ありません! 別の次元の天城姉様でも、天城姉様は天城姉様です!」

 

 隣にいる赤城と目を合わせていると、元いた場所で見てきた赤城の姿が重なる。

 この子も私と共にいた赤城であり、そうでは無い。正にテセウスの船だ。

 

 そっくりに作られても決してそれは『元の存在』では無い。本気で心配してくれている目を向ける赤城を私は突き飛ばし、よろける体を剣で支えて赤城を睨んだ。

 

「貴女は私と共に過ごした赤城では無い。馴れ馴れしくするな」

「っ……天城姉さ」

「二度とその名を呼ぶな!!」

 

 聞きたかった声の筈なのに聴きたくない。助けられなかった赤城と同じ声が耳に入るたびに、自分の不甲斐なさで胸が苦しく締め付けられ、憎悪で心が憎しみの炎が燃え上がる。

 

「……私は……いずれあの子を糾弾し、無惨に殺す人間を倒す。あの子が戦うというのならば、いずれヒトはあの子を殺しますから」

 

 直ぐに否定の言葉が出ないという事は、少なからずヒトに対して思う所があるのでしょう。

 何故ならこの次元の人間達は何もしない。

 

 責任を負いたくないから、力が無いことを理由に逃げ続け、自分に不都合な事が起きれば一方的に責める。

 そう、弱者という凶器を手にして。

 

 弱者という免罪符は凶器だ。それをいい事に自分だけ都合のいい神様を作り出してはそれに縋る虫どもだ。

 

 私ほどでは無いですが、赤城達は恐らくそう思っている片鱗はある。だから私の言葉を直ぐに否定しなかった。

 

「……貴女達が優海を戦わせる限り、私は行く手を塞ぎますから」

 

 疲弊した体を引きずりながら、私はこの場から立ち去る為、赤いキューブを取り出し、背後に歪む空間が現れる。

 

 鏡面海域に繋ぐこの空間を通り、姿を消す。

 あのこと出会うその日まで……。

 

 

 

 

 

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