もしもアニメのアズールレーンに指揮官が出てきたら〜2nd season 海上の誓い〜 作:白だし茶漬け
出会いは桜の木の下だった。
あの小さな場所から抜け出したくて、自分の力を確かめたくて、俺はとある陣営に流れ着いた。
ロイヤルとは違う桃色の光景は本では見られず、自分の世界が広がった。風景も建物も、地面も空気も植物も文化も食事も何もかもが違うこの世界の中で、俺の心を奪った物が3つあった。
1つは刀。ロイヤルの剣とは違い、細くしなやかなでありながら、その切れ味はロイヤルの物とは違う。
叩き切るのでは無く、『斬る』という所作が大事だと言う。
ロイヤル的に言えば、そこに優雅さを見出した。
次は武士道という精神だ。武士道とは騎士道とは違い、己自身を極める為に自身の名誉や意地を誇るスタイルが気に入った。
騎士道は正しさを重んじるが……俺にはどうしてもこれが受け入れられなかった。正しさが戦いを終わらせられる訳が無いのだから。
そして最後は……1人の女性だった。
刀の魅力に取り憑かれ、そこらで売っていた刀を買い、刀を自分の物にしようと人里離れた深い竹藪の中で刀を振り続けた。
しかも不思議な事に、竹藪の奥には広い場所があり、広場の中央に一本の桜の木が美しくそびえたっていた。
刀と一緒に買った砥石を使って刀を研ぎ、その辺に生えていた竹という植物を一本斬ろうとするが、途中が刀が止まってしまい、中途半端に斬ってしまう。
_……研ぎが甘かったか?
だがそんな様子は無い。単純に自分の力量不足だと詰まった息を小さく吐き出し、もう一度竹を斬る。
今度は刃が食い込んだ程度で止まってしまった。
やはりロイヤルの剣とは勝手が違うと呟き、もう一度刀を振る。刃が風を通る音と竹が割れる音が繰り返し響く。
10回、100回、1000回振っても竹は切れない。黄昏で空が茜色に染まり、慣れない刀を何度も降ったせいで手が赤く腫れ、マメが出来てしまった。
_まだだ……!
1000回でだめなら1万回やるだけだ。出来ないからと言って匙を投げるのは逃げであり、俺の中の信念が許さない。
額に流れる汗をぬぐい、1001回目の刀を振ろうとしたその時、背後から柔らかな声が聞こえた。
_そんなに力みすぎたらいつまでも斬れないよ
さっきまでいなかった筈の女性が桜の木の向こうから顔をだすと、素早く体を振り返って慣れない刀を構えた。
_あぁごめんなさい。大丈夫、何もしないから
女は桃色に渋く煌めく刀を腰に携え、桃色のKIMONOと言う服を着て花のように柔らかな笑みを浮かべていた。
だが、彼女から滲み出る強者のオーラが神経が震え始め、体の緊張が止まらない。
俺が恐れていると知ったのか、彼女は刀を桜の木の傍に置き、俺にゆっくりと近づいた。
顔が目と鼻の先まで近づき、女性の桃色の髪から嗅いだことの無い甘い匂いがする。バラに近いが……もっと柔らかな匂いが気になりつつも、女性は俺の顔をじっと見上げていた。
_貴方って……重桜の人じゃないの?
俺は頷き、ロイヤルの人間だと伝えると、彼女は目を輝かせ、小さく飛び跳ねた。
_え!? ホントに!? へぇ……やっぱり顔つきとか全然違うのね! ねぇ、良かったらロイヤルのお話聞かせて?
急に声を荒らげた女性の姿はさっきまでの雰囲気が嘘の様だった。
彼女は次々と質問を俺に投げ続け、それが止まることは無かった。ロイヤルの料理、場所、空気、家、そこに住む人の様子など、自分が知らない事を全て聞き出し、俺は可能な限り答えた。
答える度に彼女は目を輝かせ、ロイヤルに思いを馳せていた。さしずめ夢見る少女と言った様子と感じ、ふと俺はある事を投げかけた。
_そんなに気になるならロイヤルに行けばいい
次の瞬間、彼女の顔が暗く沈んだ。だがそれは一瞬の出来事であり、直ぐに顔を上げてにこやかな笑みを浮かべたが、その笑顔は今日見た中で1番暗かった。
_……出来たらいいんだけど
彼女は空を見上げた。まるで鳥かごの中にいる鳥のような目で空を渇望し、俺の事を羨ましそうに見る目は死してもなお忘れられなかった。
_私そろそろ行くから……あ、そうだ
彼女は刀を持ち、竹藪の奥で家に帰ろうとした。俺はせめて竹を楽に斬れる様にもう少しだけこの場所に居ようとすると、彼女は最後に一言俺に言ってきた。
_刀はね、体を使って斬るの。こう、全体を使って……ね!
彼女は腰に携えた刀を一瞬で抜き、周りの竹藪を真っ二つに切り裂いた。刀を振る音と竹を斬る音すら聞こえないほどの早業に圧倒され、思わず腰を抜かした。
この時から、俺は彼女の……桜の弟子となった出会いだった。
今となって随分と昔の事を思い出した。今から遡れば150年程度前の話だと言うのに、昨日の事の様に思い出せる。
あの時感じた空気や匂い、そして初めて手に持った刀の感触の他に、サクラと出会った一瞬の感情も忘れない。そして、それを怪我した妖狐を俺は許せない。
「重桜を……サクラと、サクラを愛したこの土地と神木を怪我したお前を俺は許さない」
この世で最も強い刀である薄紅を構え、刀の柄を強く握りしめる。
胸の奥で煮えたぎる復讐の炎が全身を突き動かし、怒りと憎しみが入り混じる視線の先に、仇の姿の目に移す。静かに息を整える中、仇である妖狐は髪を掻きむしり、苛立ちを隠せない程強い怒りを盛れ出していた。
「許さない? 闇雲に重桜を……いや、世界を混乱に陥れたお主らがそれを言うのか?」
妖狐は大神木に指を指し、そこに囚われていた人間達に注目した。
「馬鹿な民は妾に全てを委ねたのじゃ。その方が安全で、幸せになると分かっているから思考を停止し、傀儡になった。お主も落胆したじゃろう? この民達の不抜けさが」
妖狐の言う事は間違ってはいなかった。俺の知っている重桜の民達は皆がそれぞれ確固たる意志を持っていた。
そこに惹かれたと言うのに、今の重桜は思考を放棄し、俺の目には首の無い奴が歩いているようにしか思えなかった。
「幸せに、楽に生きていきたい。その願いを叶える為に妾とそこの姉が産み出された。なら、傀儡をどう使おうが妾の勝手じゃろう?」
「桜はそう思ってはいなかったぞ」
「そうじゃろうな……現に、この150年間ずっと大神木に取り込まれて、民の為に生きてきたからのう」
大神木の傍で項垂れている桜に妖狐は冷たい笑みを見せる。
「桜もそれで本望なのじゃ。なのにお前はその均衡を壊した。これはお前が愛する者への裏切りなのでは無いか?」
嘲笑いながら言葉を繋ぐ妖狐の声は俺の耳には届かない。何故ならこの行動は桜から託された物だからだ。
この刀も、想いも、全てを受け止める覚悟はとっくに出来ている。
俺は母上の様に誰かを守る事は出来ない。息子のように自由への道を切り拓く事も出来ない。
たった一つ、俺だけ出来ることは……。
「俺達の邪魔をするやつを斬ることだけだ」
俺の中に迷いは無い。サクラのために、そしてこの世界の未来の為に俺が出来ることは……その障害となるものを斬るのみ。
「気に食わん目じゃ……ならお前ら諸共、この神木の糧としてやろうぞ!!」
妖狐が掌から怪しげな紫色の光を生み出し、光は大神木へと向かい、吸い込まれていった。
次の瞬間、謎の地響きと共に大神木が紫色に輝き、突然神木の幹から枝が生えだし、三本の枝がこちらに向かって伸びていく。
いや、正確には妖狐に向かって枝は襲いかかり、妖狐の手足と体を貫いた。
体から出る血が大神木の枝を赤く汚し、大神木が紅く輝き始める。
体を貫かれても痛みを感じていないのか、妖狐は勝ちを確信したかのような笑みをこぼす。
「さぁ大神木よ! 妾と傀儡共を糧とし、真の姿を顕にせよっ!」
妖狐の体が枝によって大神木の中へと連れ去られ、大神木の中へと吸収された瞬間、赤く輝く大神木が黒く染まり、大神木の頂点から黒い光が空を貫くかのように伸び続けた。
空は黒く染まるように雷雲で包み込まれ、雷鳴が鳴り響き続ける。
直感と本能で分かる危険な状況だ。俺は直ぐにサクラの元に駆け寄り、弱った体を抱き上げると、サクラが大神木を見つめ、体を震わせた。
「サクラ、一体妖狐は何をした?」
「大神木は重桜を繁栄に導くのと同時に、ある怪物を封印していたの……」
「怪物? それはなんだ?」
「私も見た事ないけど……それは龍の形をしていて、あらゆる万物を呑み込むだろうって。妖狐は重桜の民達を生贄にしてアレを呼び出そうとしているわ」
「なんだと……!?」
どこまで腐っていけば気が済むんだ……! 自分では無く、本来導くはずの民を生贄にして怪物を呼び出す行為に理解が出来ない。
理解どころかサクラが愛していた重桜を傷つけ、汚していく行動に対し怒りが収まりきらない。
憎悪が溢れ出し、今でも妖狐を殺したい気持ちが抑えられないが、今はサクラの安全確保が重要だ。
封印されている怪物が出てくる影響なのか、この地下が崩壊していっている。岩壁が剥がれて瓦礫に変わり、早くここから出なければ俺はサクラと一緒に生き埋めになってしまう。
「サクラ、しっかり捕まっていろ」
サクラは俺の首元まで腕を回してしっかりと俺を抱きしめ、こちらも離れないようにサクラの体を掴み、空洞になった天井に目を向ける。
呼吸を1つ置き、吐いたその刹那、地面を蹴って大神木へ飛び、大神木を足場としてもう一度空を飛ぶ。
俺の艤装にはマーレやセイドの様な空を飛ぶ機能は備わっていない。
必要が無いからだ。その気になれば空気を蹴って空を飛ぶが、サクラを抱える為それは無理だ。
変わりに飛んだ先にあった落下する瓦礫に足を乗せ、それを足場にもう一度空を飛ぶ。
落下する岩を足場にし続けて飛び跳ね続け、空が近づいていく。あと3回、いや1回で地上に辿り着けると確信し、最後は両足を使って地上へと帰還する。
地上に出ると海が荒れ狂い、踏ん張らなければ吹き飛ばされてしまいそうな強風が俺達に襲いかかる。
「……まるで怪物が生まれる演奏みたいだな。サクラ、大丈夫か」
「私は平気よ。それよりも早く大神木を」
「だが……」
サクラは長い間大神木と共に生き、力を使い続けていた。消耗していないのはありえず、その証拠にサクラは最早経つことすらままならない程までに力を失っている。
この状況でサクラを見捨てるほど俺は心を捨ててはいない。多少マシな所でも安全な場所でサクラを避難させようとしたが……周りには荒れ狂う海ばかり。そんな場所を見つけるのは最早無理だ。
いや、たとえ安全な場所があったとしても、サクラは決してそこには行こうとはしないだろう。
何故なら、この地をサクラは愛しているのだから。
「……ロドン」
「分かってる」
精一杯振り絞った掠れた声を届けながら、弱々しく俺の手を握る。握力が感じられず、握っていると言うより添えると言い換えた方が正しいほどの繋いだ手を、俺は握る。
「あの大神木の暴走を止めるんだな」
「ええ。それが……私の…………やく……めだから」
桜は小さく頷き、周囲の喧騒が耳の奥で遠ざかり、サクラの心の熱を感じる。彼女の目は徐々に焦点を定め、まるで新たな光を宿すかのように輝いていった。
この瞳を俺は知っている。俺が彼女を連れ出そうと決めたその時見た瞳だった。
自分の役目を呪わずに受け入れ、自分の名前を知らず、ただ重桜の民だという理由から救おうとしている純粋で、狂った瞳。
俺にはそれが怖くもあり、美しも感じられ、間違っていると心が叫んだ。
まだ一緒に生きていきたい。平和になった世界を見てみたい。……自分自信という存在を捨てさせたくなかった。
だから連れ出した。この縛られた土地から。サクラを。
「……今度は連れ出せない」
「うん」
サクラは小さく頷き、俺は背を向ける。自分の頬に熱い物を流しているのを見せない為に。
本当は連れ出したい、もう一度そばに居たい。
俺がサクラをロイヤルに連れ出した時と同じように手を取って逃げればいい。
だが、今の俺の手はサクラの手を取れない形をしている。
鉄臭い血の匂いと、血の通っていない冷たい死者の手。
「……行ってくる」
「がんばって、私の英雄」
大神木に残った最後の桜のひとひらが舞い落ちると同時に、俺はまた一歩前へと踏み出した。
「あれは……なんだ?」
大神木が黒く染まり、黒の光が空を貫くように伸びていき、大神木が枯れていく。
大神木が枯れていく事に嘆き、驚き、戸惑うKAN-SENもいれば、何がどうなっているのか分からず混乱するKAN-SENも少なからずいた。
天気も突然悪くなり、嵐が吹き荒れて上手く海の上に立てず、バランスを保つ事が難しくなる。
(長門はどうなった?)
コネクターの力を使い、長門のメンタルキューブの状況を俺だけにしか見えないホログラムを使って確認する。
長門のメンタルキューブは正常値を保っており、生きている事は確かだ。
けど、大神木の様子がおかしくなれば危険な事に変わりない。だけどまだ重桜の人間達の救助が完了していない。大まかには6割ちょっと……もう少しで全員助けられる中、胸騒ぎが突然大きくなる。
防衛本能と言うべきなのか、あの黒い光と大神木から出てくる黒い瘴気に恐怖する。まるでトラウマが蘇る様な感覚と、絶対に勝てない敵と遭遇したような絶望感が襲いかかり、体の震えが止まらなかった。
「……まさかあれって」
「優海!! 早くKAN-SEN達を撤退させて!!」
あの瘴気の正体に勘づくその時、背後から物凄いスピードと焦った表情のオロチさんが合流してきた。
いつも飄々として余裕を持っているオロチさんが、瞳孔を開き、汗が上がる程の恐ろしいものを見たかのような顔で、俺にそう叫んだ。
「全員退避!! あの黒い瘴気に触れないでっ!!」
オロチさんを本気にさせる程の存在が俺達に向かってくる焦りで声を荒らげてKAN-SEN指示をする。
空から伸びる黒い瘴気が大神木に向かって伸びていき、大神木が黒く染っていき、近くにいた人間達が瘴気に飲み込まれ、さっきまでいた存在が消えていく。
俺の声色と目の前の現象を見てKAN-SEN達は直ぐ様撤退したが、黒い瘴気がKAN-SEN達に狙いを定めて襲いかかっていった。
「あの黒い瘴気に触れたらまずい! みんな逃げて!」
「ですがこのまま全速力で行ったら人間が持たない……!」
救助に言ったのは全員機動力のある駆逐艦だけだ。全速力のスピードを出せばあの黒い瘴気から振り切れると思うけど、そうなれば背負っている人間の体はKAN-SENの加速に体が耐えきれず、最悪な事態を招く。だけどこのままじゃKAN-SEN達まで危険だ。
「コネクター……力を貸してくれ!」
KAN-SEN達全員を無視する訳には行かず、俺はぶっつけ本番で使った事の無い能力を使う。
まずはKAN-SEN達の現在位置を把握し、次にそれぞれの予測ルートを計算する。今までは自力で計算してきたけど、コネクターの演算能力は凄まじく、圧倒間に皆の予測ルートが俺の目に映し出される。
「ここだ!」
予測ルート上の座標に鏡面海域へと続く空間を作り出し、脱出経路を生み出す。
「今出てきた空間に逃げて!」
KAN-SENは俺の言葉を信じ、鏡面海域へと続く空間に飛び込んでいき、全員が鏡面海域に入った事を確認する。
空間をくぐったKAN-SEN達の姿が海上から消えると直ぐに空間を閉じ、その後俺の近くに同じ様な空間への扉が作り出されると、さっきまで鏡面海域にいたKAN-SEN達が姿を現し、俺の元に帰ってきた。
「え? ええ? さっき私達、あっちに居ましたよね!?」
救助隊の島風が大神木の方に指を指し、今いる場所が本物かどうか確認するように周りを見渡し、今のロジックをオロチさんは見抜いた。
「鏡面海域の入る場所と出る場所の座標を操作したのね。あんた、そんな事も出来るようになったの?」
「ぶっつけ本番……ですけ…………ど」
突然体が重くなり、膝をついてしまう。能力は上手いこと使えたけど、これを使うとかなり艤装に負担がかかるらしい。
鏡面海域は通常、大掛かりな装置を使ってやっと行ける場所だ。それを1個体のセイレーンが使うとこうなるのは必須だ。
「指揮官!? 大丈夫ですか?」
「大丈夫……それよりも早くその人達を安全な場所に……」
この天気でも、離れた小島があればそこに避難は出来るはずだ。戦力はそれまで無くなるけど、今は人命第一だ。
救助隊のKAN-SENはこの天気でもあまり左右されない小島へと向かい、すれ違いに分散したKAN-SEN達がこっちに合流していく。
「優海ー!」
「優海、大丈夫か!?」
母さんと姉さんも合流していき、どうやら大神木から出現した敵も倒したようだ。
これで残りは……あの黒い瘴気を発している何かだ。
上空で静止しているマーレさんとセイドさんも黒い瘴気を警戒し、こちらにも攻撃は仕掛けては来なかった。
それもそのはずだ。元々セイレーンにいたマーレさんなら、あれの正体に気づいているはずだ。そう、アレはセイレーンの目的であり、人類が倒すべき存在の……。
「エックス」
オロチさんがその存在を口にしたその時、大神木の中から巨大な龍が現れる。
大神木すら超える全長は重桜よりも大きく、まるで影のように全体が掴めない龍には巨体な剣と鏡、そして勾玉の様な物が周囲に浮かんでいた。
「エックス? なんだそれは」
「人類の敵よ。まぁ詳しい話は生き延びた後にね。話している間に死んじゃったら元も子も無いから」
加賀姉さんの質問にいつになく真剣な声色で返したオロチさんに対し、加賀姉さんはそれだけで事の重大さと危険さを察し、それ以上は何も聞かないでくれた。
エックス……セイレーンが数多の次元を超えて人間を襲い続け、敵対した理由であり、セイレーン達の最終目標でもある。
だが、この事実を知る者は少なく、この次元では一部の上層部とテネリタス、そしてセイレーンである俺しかいない。
その力は凄まじく、この時点で多くの次元がエックスに敗北したデータもある。
ここから先は一歩間違えたらまず間違いないく命が無い。それ程危険な相手を今、俺達は目の当たりにしている。
「……はっ! 長門は!?」
エックスの存在に気を取られてせいで、今更俺は大事な事を思い出してしまった。
長門は今、大神木の暴走を抑える為に近くにいるはずだ。あんなものが出てきた今、近くにいた長門の身が危ない筈だ。直ぐに長門に連絡したが、聞こえてくるのは耳障りの酷いノイズ音だけで、長門の声は聞こえなかった。
「長門!? 返事をして! 長門ちゃん!!」
「優海! ここにいるぞ!」
何故か上空から長門の声が聞こえ、上を見あげると一筋の炎がこちらに向かい、白銀色のロボット、JBが長門を抱えて戻ってきた。
「報告。大神木内部から異常反応を検知した為、長門を回収。帰還いたしました」
「ありがとうJB……。あぁ、良かった」
「突然大神木が枯れてしまって……もう世の手には負えぬ……優海、あれは一体なんじゃ?」
「あれは俺達が本当に倒すべき存在だ。……けど」
あれはエックスでほぼ間違いない。だが何かがおかしい違和感が拭えなかった。エックスではあるけど別の存在が混じっている様にも感じられ、コネクターの記憶……データベースの中にあるエックスとは少し雰囲気が違った。
何か別の要因が生まれて変化したエックスなのだろうかと推測していると、どこからか高笑いが鳴り響く。
『あっはっはっは!! これが大神木の本当の力じゃ!』
「これは妖狐? けど、声がちょっと違う……」
妖狐と別の低い声がこだまする様に海に響き渡り、どこから声が出ているのか分からない。だが、大神木という言葉を発したのを察するに、あのエックスを生み出したのは妖狐なのは間違いない。
『見よ! この圧倒的な力! これが民達が望んだカミの姿ダ!!』
まるで妖狐はエックスになったかのように話していた。
……とても信じられないけど、あの龍の形をしているエックスの中に妖狐が紛れ込んでいるのか、もしくは妖狐自身がエックスに似た何かになったのか。
だからコネクターの知っているエックスと情報が違ったんだ。一体どうやって、なんの為に取り込んだのかは分からないが、状況が最悪だというのは変わらない。
だがここで逃げたら重桜に住む人々が危険に晒される。ここで何としてもあのエックスを倒さなければならない。
「皆、あの龍を倒す。力……貸してくれないか?」
まず俺だけじゃ無理だ。倒す為にはここにいる全てのKAN-SEN達の力が必要だ。けれど、今まで戦ってきた中で最も危険な相手だと全員本能で理解している筈だ。
最後の意思確認として協力を要請すると、KAN-SEN達は通信を聞く前に答えるつもりだったのか、全員頷いた。
「何言ってるの。お姉さんに任せなさい。優海くん♪」
「姉は私よ愛宕。優海、私が貴方の力になるから」
「綾波も……協力するです」
全員逃げもせず、否定もせず、直ぐに一緒に戦うと言ってくれた。真っ直ぐと、嘘偽りない言葉に胸を打たれ、共に居るだけで嬉しいのにそれ以上の事をしてくれる事に涙が溢れそうになった。
「……ありがとう。皆」
「相変わらず泣き虫ですね、優海」
そんな俺を天城母さんが俺の両頬を包むようにして顔に触れ、無理矢理上げさせた後、目頭に溜まった涙を拭った。
「優海、行きましょう。貴方の指揮ならどんな存在で打ち勝てます」
「……うん。行こう、母さん。皆!」
久しぶりに肩を並べ、俺達は妖狐が駆るエックスに対抗するべく、武器を旗に変形させ、両肩にいるコネクターの艤装を旗の上に飛び立たせ、それを合図にKAN-SEN達はエックス……いや、妖狐に向けて全速前進した。
2つの艤装の中心に青い光が大きくなり、旗を振ると同時に光は弾け、粒子となってKAN-SEN達に触れる。
青い粒子を受けたKAN-SEN達は体が軽くなったかのように動きが機敏になり、艤装の出力も限界を超えていくのを感じたKAN-SEN達は驚きながらもその力を受け入れていた。
「これがコネクター本来の力だ! 全員、エックスに向かって一斉射撃!」
鳴り響く轟音と共に数多の放物線を描きながら榴弾は影のように蠢く体に向かっていく。
見た目は影のようでもそこには実体がある筈だ。ともかく弱点を探す為にも、でたらめでも良いから攻撃を当てる事に専念する。
こちらも艤装の火力を前面に押し出し、両手の武器と艤装からから放たれる強烈な光が、まるで太陽のように眩しく輝き始めた。ビームは力強いエネルギーの塊となり、エックスのもとへ一直線に飛び出した。
一斉攻撃に対し、エックスは左腕に装備された鏡のような大盾をかざすと、エックスの前に白銀の光が映し出される。
ビームの光と鏡がぶつかり合い、拮抗しているその時、ビームは敵の体に当たることなく、鋭い角度で枝分かれする様で跳ね返った。
「ビームを反射した!?」
跳ね返されたビームはKAN-SENたちの放った榴弾と艦載機の殆ど破壊しながら戻ってくる。目の前に迫る眩い光に俺は咄嗟に身をかわすが、反射の威力は凄まじく、間一髪で避けることができたが、攻撃が反射されたショックは大きい。
生き残った榴弾と艦載機はエックスに向けられたが、龍の口から黒い炎が溢れ出し、炎の息で榴弾と艦載機は破壊され、最初の攻撃は不発に終わってしまった。
『無駄じゃ! 我の盾はあらゆる物を通さない!』
「んじゃあこれはどうだ!?」
今度は上空にいたマーレさんとセイドさんが同時に攻撃を仕掛けようと武器を構える。
セイドさんは2丁の長銃を重ね、エネルギーを集約させ、マーレさんは左腕の艤装と剣を直結させ、巨大なビームサーベルを使って妖狐を倒そうとする。
「FIRE!!」
セイドさんの叫び声と共に引き金が引かれ、まるで空から降り注いだ槍の如く、輝きを持った高出力のビームがエックスに襲いかかる。
セイドさんの攻撃にもう一度鏡の盾を使って防ごうとするが、その隙にマーレさんは盾が向けられた方向とは反対方向に瞬時に移動し、そこから攻撃を仕掛け、巨大なビームサーベルが妖狐の体に目掛けて振り上げられる。
しかし妖狐は片方の腕に備えられた巨大な剣でこれに対抗した。一振で島を真っ二つに出来るほどの巨大な剣と、マーレさんが形成したビームサーベルはほぼ同じ大きさを持ち、どちらも拮抗する鍔迫り合いになる。
「ぐっ……!」
あのマーレさんが若干押され、セイドさんのビームも跳ね返されたりはしていないが、逸らされつつあった。
あのテネリタスの猛攻を凌ぐ程の力に圧倒され、ビームサーベルもエネルギーが尽きたのか、マーレさんは攻撃を止め、2人の攻撃は痛み分けという形になって攻撃はエックスに届く事は無かった。
「おいおい、ビーム効かねぇのは反則だろ」
「だが、防げるのは一方向のみ」
「そこさえ潜り抜ければ!!」
「「確実に攻撃は通る!」」
マーレさんとの言葉と意見が一致し、テネリタスとは別方向に戦力を集中させる。
しかも攻撃を防ぐという事は、物理的な衝撃は有効の裏返しだ。
すかさず艤装に装填されているレールガンを構え、そのチャンスを伺う。
「戦艦はそのまま砲撃。空母は頭上に攻撃を開始!」
俺の指揮の元、KAN-SEN達は妖狐に攻撃し、マーレさんとセイドさんも同時に攻撃を仕掛ける。あちらのビーム攻撃の直撃を嫌ってか、妖狐は盾を使って防ぎ、こちらからの攻撃は剣を使って応戦するが、あまりの物量に防ぎ切れず、榴弾の直撃を受ける。
『おのれ小癪な……!』
妖狐は俺がレールガンへの攻撃には目もくれず、KAN-SEN達へ意識を向けている。上手く引きつけいているおかげでレールガンのチャージが溜まり、砲身が稲妻を帯びながら開いていく。
「レールガンチャージ完了……!」
強力な磁場と電力が艤装を超えて漏れだし、周りに青い電流と火花が散り散りに出ていく中、右目に映し出されるロックオンカーソルをエックスの頭部にセットされたその時、レールガンの引き金を引く。
凄まじい轟音と共にレールガンの弾丸が発射され、そのあまりにも凄まじい衝撃に体が支え切られず、反動で俺の体は後ろへと吹っ飛ばされてしまう。
だが狙いはそこまでブレず、弾丸は空気の壁を突き破り続けながら超高速で妖狐に向かっていく。
『ナニ!?』
「行けぇ!!」
レールガンの存在に気づいた妖狐だがもう遅い。弾丸はエックスの頭部を貫き、そのまま雲をつきぬけていく。その様子が妖狐の風穴から見れた。
妖狐は頭を撃ち抜かれて身を捩らせ、苦しそうな声を上げていた。攻撃が通った事で安堵する中、それが束の間の喜びだと言うことを思い知らせた。
『……なんてなぁ』
するとエックスの周りに浮かんでいた黒い勾玉が光だし、大神木からは人魂の様な物が勾玉の中へと吸い込まれていく。
人魂を吸収した勾玉が眩く光ると、妖狐の体が少しづつ修復されていき、レールガンで空いた穴が完全に塞がってしまった。
いや、それどころか2本だった腕が4本に増え、それにつれて鏡と剣が1本ずつ増えていき、明らかに強くなったのは目に見えていた。
「回復した……!?」
『あははは!! 妾は不死身! 無敵! もはやKAN-SENや遺物の英雄も敵では無いっ!!』
強くなった事で高揚した妖狐の声と共に、2本の剣が黒い影をまとい、力強く荒れ狂う様に振り回し、全方位に向けて斬撃が飛んでくる。
斬撃も一つ一つが大きく、海を割るほどの強力だった。これは掠っても致命傷は免れない。
「バリアを張れるKAN-SENは外側に移動し、そのままバリア展開! それ以外のKAN-SENは内側に避難して!」
戦艦除くKAN-SEN達は斬撃から身を守る為に内側に避難し、戦艦のKAN-SENはドーム状にバリアを形成する。
その中には天城母さんとオロチさんもあり、母さんは鳳凰を呼び出し、オロチさんは赤く輝くドーム型のバリアで二重のバリアを張る。
赤いバリアがその身を削ってでもKAN-SEN達を守り、鳳凰もその身を呈してでもKAN-SEN達を守っていく。
コネクターの力によって限界を超えた性能を発揮した艤装の力は凄まじく、海を割る斬撃を防ぎ続けていた。
KAN-SEN達は限界を引き出した力に戸惑いながらも防ぎ続けている。
だが、妖狐も攻撃は手は止めず斬撃は無限に迫ってくる。このままでバリアは破壊されるのは時間の問題だ。
今動けるKAN-SENはいない。だけど、それ以外なら一体いる。そいつは今はバックパックの推力で空を飛び、斬撃をものともしない硬い装甲を持っているロボット、JBだった。
「JB! 今の距離を維持して攻撃は可能!?」
『解答。問題なし、実行可能』
「なら剣を狙って動きを止めて!」
俺の指揮にJBは右手を開き、掌の中心から光が増していく。
『エネルギー出力80……90……オールクリア。破壊開始』
無機質な声と共に、JBの手から灼熱のビームが放たれ、まるで太陽の一部と思える程の灼熱を帯びた攻撃は、片手だけとは思えない程の高出力だった。
迫り来るビームは妖狐が持つ1本の剣を溶かし、それを握っていた腕も消滅する。
それに続く様に、月光の輝きを帯びた斬撃がもう一本の腕を切り落とし、巨大な剣は海の底に沈められた。
斬撃を生み出したのは雲仙さんであり、刀を抜いた音さえ聞こえないほど静かな抜刀に驚きを隠せない。
「指揮官さま今です!」
雲仙さんの声と同時に、もう一度レールガンに弾丸を装填し、今度は勾玉に狙いを定める。
あれが光った時、エックスの体は元に戻り強化されたのは一度目でハッキリしている。
反動で吹っ飛ばされないように腰を下ろし、片膝を着き、リュウグウツノカイの艤装を背中で支えにする。
「これでっ……!!」
右目に映るカーソルを勾玉に合わせ、これで終わらせる為にレールガンの引き金を引こうとしたその時、妖狐の声が耳に入った。
『その引き金を引けば贄になった民達は滅するぞ』
「っ!?」
妖狐の意味深な言葉に引き金を引く指を止め、妖狐の言葉に耳を傾ける。攻撃を止めた俺を見て、龍の姿に変わった妖狐の顔はケタケタと笑い、3つ首のあだをそれぞれ俺やテネリタスに向けた。
『この体は重桜の民の魂を依代にして顕現したものじゃ。そしてこの勾玉はそれを集めて力にするもの。つまり、魂が入っておる』
「人々の魂……? どういう事だ!」
『大神木は永遠に力を扱わせる為に、古来より人間の魂を生贄にしてきたのじゃ』
「そんな馬鹿な話が……」
否定しようとした瞬間、脳裏に長門が大神木に捧げられた光景を思い出した。
そういえば、大神木が枯れ始めていると長門や側近のKAN-SEN達は言っていた。その為に長門を捧げ、大神木の力を取り戻そうとしていた。
もしあれが生贄であり、KAN-SEN達が産まれる前に人間達を使ってやっていたとしたら……。
大神木には人々の魂を奪える力があるという事になる。
そして、それをストックしているのがあの勾玉という事だろう。妖狐の意図が掴みかけていると、妖狐は破壊された腕を復活させた。
『そう、そうして生贄を産み出す家系も生まれた。それが我ら【神子】。大神木に身と魂を捧げるためだけに産まれた命じゃ』
「……長門、いや江風さん。あの話は本当?」
神子を守る立場の江風さんなら何か知っていると思い、長門では無く、あえて江風さんに通信を繋いで真意を探った。
通信越しからの息を飲み込む音が聞こえて来るような空気に、ついに江風さんは口を開いた。
『その話は……真実だ。現に古い文献にそう記されていた』
生きている事自体否定されたかのような存在を見せつけられたようで、いつの間にか引き金を添えていた指が引き金から離れ、レールガンを下ろしてしまう。
「だったら今ここで貴女は生きているんだ」
『それはのぅ、心優しき姉上が変わり身になったのじゃ』
「姉……? けど、その後はどうしたんだ!!」
『後……あぁ、次の贄という事か。それはもう必要ない。何故なら、姉上は永遠に大神木の糧となったのじゃからな。妾と同じ、永遠の命を持ち、永遠に大神木に力を捧げてな』
「……は?」
「まぁでも、年々力が足りなくなったのか、少し馬鹿ども……いや、民達の犠牲もあったがな」
言葉が出ない。自分の姉が一生……いや、死ぬ事すら出来ずに永遠と大神木に縛られていると言うのに、妖狐は悲しむどころかそれが当然かのように言い放った。
しかも妖狐は自分自身の為に重桜の人間達をも巻き込んでもいた。
「自分の姉や何の関係もない人達をどうしてそんな風に扱うんだ!!」
まるで命を消耗品の様に扱う妖狐と今もこの瞬間、大神木に魂を囚われている重桜の人達を思うと、身体中から怒りが湧き上がってきた。
『なら何故、妾の様な生きることを許されない存在が産まれた!?』
初めて見せる妖狐の激怒と共に、龍の口から黒い炎を纏った弾が吐き出され、雨のようにこっちに向かって降り注ぎ、再生した剣を握って斬撃も飛ばしてきた。
激しい攻撃は正しく妖狐の怒りそのものであり上空から降り注ぐ弾を避けても、すぐに襲いかかってくる斬撃は回避が不可能な程の距離まで差し掛かる。
咄嗟に前面に質量を集中させたバリアを展開し、斬撃の直撃は防ぎつつもバリアは耐えきれず、艤装にダメージを追ってしまう。
『お前に何がわかるっ! 贄の為だけに産み落とされた命を! 定められた運命しかない命を!』
怒りは収まりを知らず、妖狐はもはや誰を狙っているのか分からない程、攻撃を激化させる。海を叩きつけると津波が生まれ、剣を振れば海をも割った。
『スベテぇぇぇ! キエロォォ!!』
正しく神の天変地異が起きる中、KAN-SEN達は波に飲み込まれつつあり、このままではこっちが持たない。
早く妖狐を何とかしなければならないけど、妖狐にダメージを負わせれば大神木に囚われている人達の魂が妖狐に吸収されて消えてしまう。
考えろ、考えるんだ。その為に戻ってきたんだろ。
なんでもいい、この状況を打開する策、せめてあの勾玉と妖狐との繋がりを断ち切れば……。
「断ち切る……もしかしたら」
できるかどうか分からないけど、今はこれしか方法がない。だがこれをやるには俺一人の力では無理だ。
あと1人、鏡面海域へと繋ぐ空間を作り出せる存在がいる。仲間内にそんな人1人しかいない。
「オロチさん! 聞こえますか!」
『あら、何か用入り?』
直ぐオロチさんに通信を送ると、こんな状況でも平静なオロチさんの声が聞こえてくる。
「妖狐を鏡面海域に引きずり込みます。あの勾玉に力を送られているのなら、送り先をが居なくなれば……」
『なるほどね。けど、そう簡単につれこめるの? あんな大きな質量なら、鏡面海域に繋ぐゲートも巨大じゃないと』
「いや、鏡面海域勾玉も対象に入れましょう」
鏡面海域にはいるためにはゲートをくぐらなければならない。今の妖狐の大きさ島一個分であり、妖狐を鏡面海域に引き込むのは現実的では無い。
だけど勾玉なら可能性はある。ここから見ると勾玉の大きさ妖狐の手に収まる程度……戦艦の艦首と同じくらいの大きさだ。
これなら勾玉をどうにか鏡面海域に移動する事が出来れば、妖狐はあれ以上体を再生する事は出来ない筈だ。
だが、勾玉と妖狐の距離は近い。あれを移動させるのは厳しいが、今はこれしか勝ち筋は無い。
「皆! あの勾玉を鏡面海域に移動させる! まずは妖狐を勾玉から引き離す!」
作戦を決め、勾玉をどうにか移動する為に36の作戦パターンを一瞬で思いつき、その中で今の状況の最適な作戦指揮をしようとしたその瞬間、大神木から桜色の斬撃が妖狐の背中に襲いかかり、桜色の傷痕を残した。
獣のように叫び声を上げる妖狐の背後には、刀と言うには細すぎる刀身と彼の艤装である鞘が鈍く光り輝いていていた。
「おっ、ようやく来たな」
「相変わらず遅いですよ」
2人の英雄も彼の帰還を待ち望んでいたのか、勝利を確信していた。
その英雄の名前は……ロドン・テネリタス。
ロイヤルの英雄でありながら、重桜の刀を使い、圧倒的な武力を持って全てを打ち倒した、テネリタスの中でも最強戦力が、大神木を背に戻ってきた。
「全ての決着をつけるぞ」
ロドンさんは刀を鞘に収めると、腰を下ろして斬撃を飛ばす構えを取った。だけどその目線は妖狐では無く、妖狐の頭上に浮かぶ勾玉に向けられていた。
「まさか……!!」
あの人が妖狐のエネルギー源であり、重桜の人々の魂が閉じ込められている勾玉を狙っているのを察知し、鏡面海域に続くゲートを生成した後すぐに潜り、鏡面海域に移動する。
そうしてすかさずロドンさんの目の前に出られるように座標を指定し、鏡面海域の中でもう一度ゲートを作り、ロドンさんに対抗する為に大剣を刀に変形させながらもう一度ゲートをくぐり、ロドンさんの目の前に現れる。
いきなり目の前に俺が現れた事にほんの一瞬ロドンさんは驚くが、それでも構えを止めず刀を抜こうとするロドンさんに向けて刀を振り下ろし、彼との居合いの刀とぶつかり合う。
刀同士の衝突が周りに衝撃波を生み出し、俺とロドンさんの周りの海が吹き飛ばされる。
(細身の刀なのにこの衝撃は何だ……!?)
(艤装のチャージが間に合わなかったか)
お互いの鍔迫り合いは長く続き、膠着状態に入った。
けど少しづつロドンさんに力押しされてしまい、この鍔迫り合いを保つ事が難しくなっていき、遂に片膝をついてしまう。
「ほぅ、貴殿。前よりも風貌が違うな」
「色々……ありました……からねっ!」
「そう見て取れる。だが、膝を着くのは勝負を捨てる事と同義!!」
渾身の一振を加えたロドンさんは鍔迫り合いを制し、俺の刀が手元から離れ、上空を飛んでしまう。針よりも細い刀だから刀身が見えず、太刀筋が分からない。
今でもいつ斬られるか分からない恐怖の中、コネクターの艤装を前面に押し出し、ロドンさんに体当たりを仕掛ける。
もう一方の艤装からの挟撃を嫌ったのか、ロドンさんは一歩下がって距離を置き、その隙に吹き飛ばされた刀を回収する。
「何故邪魔をする」
「勾玉には囚われた重桜の人々の魂がある。それを壊させはしない!」
「あれが妖狐の力の源だと気づいているだろう。なら壊すべきだ」
「だからって罪の無い人間達を犠牲にするのは間違っている!」
「罪の無い……か。お前にはそう見えるのか」
含みのある言い方が気になりつつも構えを取り続けると、ロドンさんは中に浮かぶ勾玉を見つめて口を開いた。
「俺にとって今の重桜の人間達は言う慣れな家畜だと思っている」
「家畜……!?」
「そうだ。カミとやらの加護に惰性を貪り、現実を見ようともしない生き物……思考を停止した家畜以外の何者でも無いだろう」
冷たい眼差しから感じる重桜の人間達への憐れみと諦めは過去にロドンさんが重桜と縁のある人だったからだろうか。
確かに皆は重桜のカミ……大神木の加護に頼り切りな節はあった。だけど、それだけじゃ重桜はここまで来れなかった。
「人間も少しづつ進歩してここまで来れた筈です!」
「もうその面影は無いと言っている。既に民は自分の意志で道を歩いてはいない。それに、お前の知り合いがいる訳でも無いのに、何故お前は人間を助ける」
「何故って……」
「仮に助けたとしても、お前たちは感謝されない。むしろ当然の事だと吐き捨てられるだろう。お前たちはその為に生み出された物だからだ」
ロドンさんの言葉に少し気圧される。確かに人間の知り合いはジンさん達以外にはいない。
指揮官になる前の子どもの時も人と触れ合った事はあまりない。
人を守るのが俺たちの義務であり使命だから、助けても当たり前だと吐き捨てられるだろう。
けど、それは俺が戦うのを止める理由にはならない。
「見返りが欲しくて戦ってるわけでも、感謝されたいから助けるんじゃない」
俺は拳を握りしめロドンさんだけじゃなく、マーレさんにも伝えるために深呼吸をし、腹から声を出す。
「人間もこの世界も助けたいから戦うんだ!!」
ありったけの本心をぶつけても、ロドンさんの目は変わらず冷たいままだった。だけど伝えるんだ。俺が戦う理由を、俺自身が見失わない為に。
「確かに、この世界は残酷な所もある。目を背けたい辛い現実が襲い掛かることもある。
けど、だからこそ綺麗で温かい場所が大事なんだ」
「……」
「俺は、そんな小さくても優しい、暖かな場所が確かにあるこの世界やそこに住むすべての人間を救いたい。それが……俺が今、ここにいる理由です!」
一瞬微かに笑ったロドンさんは上空にいるマーレさんに顔を向けた後、流し目で俺を見た。
「やはりお前はマーレと似ている」
「え……?」
予想していなかった言葉に一瞬、ほんの刹那の瞬間気が緩んだその時、上空からビームが降り注ぎ、勾玉に直撃する。
直撃を受けた勾玉は端が欠け、欠けた部分から人の悲鳴の絶叫が辺りに響き渡りながら青白い人魂の様なものが霧散していく。
ビームはマーレさんの艤装から発射され、撃った本人は直撃した筈なのにそこまでダメージが与えられ無かったことに対して気を向けていた。
「マーレさん!? なんで!」
「妖狐を止める為だ」
「まだ囚われてる人がいるのにですよ!」
「それがどうした。この場で勝つことに置いては邪魔な要因だ」
今度はセイドさんと一緒に勾玉に向けて攻撃を放つが、2度目の攻撃は妖狐が放つ黒い雷によって阻まれてしまう。
『ジャマヲオオオスルナアアアアアア』
「なーんかあいつ、様子おかしくね?」
「エックスに精神を侵食されていますね。ロドンさん、その馬鹿を頼みますよ」
マーレさんとセイドさんは妖狐ではなく、勾玉に向けて集中的に攻撃し、妖狐がそれを止める形になる。直ぐにでも止めなければ囚われている人々が危険に晒されるが、俺の前にはロドンさんが刀を構え、俺を逃がさないでいた。
「そういうことだ。当方達とお前たちは分かり合えない敵だ」
「くっ……」
「敵は倒す。いつの世も変わらない、世界の摂理だ」
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