もしもアニメのアズールレーンに指揮官が出てきたら〜2nd season 海上の誓い〜   作:白だし茶漬け

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命の価値

 英雄──人とは一線を越えた力を持ったもの、世界を変えた実績を持つ偉人、自分たちを絶対に守ってくれる存在を人々はそう言って称える。

 

 けど、もしも。そんな英雄が人類の敵に回ったらどうなるか。

 そんな状況が、今まさに俺の目の前で起きていた。

 

 嵐が吹き荒れる中、桜の匂いと微かな血の臭いが鼻につく。

 体の体温が何かに持って行かれるように冷たくなっていく。

 息をするのさえ命がけな緊張感が襲い掛かり、それが槍の様に体を貫いてくるようだ。

 次瞬きしたその時には、頭と体が離れてしまうかもしれない。そんな事が可能にする相手が、今俺の目の前で刀を構えていた。

 

 英雄ロドン・テネリタス。噂では生前、1人で戦争を何度も終わらせたと聞く最強の英雄。

 

 それは誇張でも伝説でも無く、事実だ。セイレーンの記録がそれを裏付けている。

 圧倒的な力、圧倒的な武力は伝説の英雄が戻ってきたと、ロイヤルの人々は喚起した。

 

 ……けど、ロドンさんは強すぎた。次元の違う強さに敵はおろか、あまりの侵攻スピードは味方の事を一切考えない物であり、味方から暴君とも呼ばれていた。

 

 先代、つまり4代目のシーア・テネリタスが一切他陣営を侵攻しないスタイルとは真逆のロドンさんに民はついてこれなかった。

 そして政治的要因も重なり、ロドンさんは……妖狐の陰謀によってその命を絶たれた。

 

 味方からも敵からも恐れられた孤独の英雄。ロドン・テネリタスが、俺の前にいた。

 

 時間が止まっているかのような見えない鍔迫り合いの中、ひとひらの桜が舞い落ちる瞬間、ロドンさんがこちらに向かい、同時に俺も刀を抜き、刀はぶつかり合った。

 

 鈍い隕鉄と鉄の音が重なり合い、衝撃が俺たちを中心にして広がる。

 

「ぐっ……!」

 

 まるで巨人と相手にしているような重みに負け、刀のぶつかり合いはたった一回で決着がついた。

 刀の振り合いを制したロドンさんはすかさず2振り目を浴びせようとする。そうなる前に、予めロドンさんの背後にいたリュウグウノツカイの艤装の主砲を彼に向ける。

 

 口の中で溜められてたエネルギーは大きくなり、発射されるその瞬間、ロドンさんは刀を手放して鞘を手に持ち、空中で刀を受け止めるように鞘に収める。

 その後鞘すらも手放したかと思いきや、リュウグウノツカイの開かれた上顎と下顎を掴み、艤装であるリュウグウノツカイが背負い投げされた。

 

 投げられたリュウグウノツカイの巨体が災いし、巨大な艤装にぶつかって共に吹き飛ばされる。

 

「柔道の心得もあるのでな」

「多彩すぎる!!」

 

 まさに武神の名に相応しいと脅威に感じる物の、もう一つある空母のリュウグウノツカイを使って俺の体を受け止めさせ、何とか遠くに吹き飛ばされる事は防げだ。

 

「このままだと……」

「優海!!」

 

 近くから土佐姉さんの声が聞こえ、まっすぐロドンさんに向かう反応が4つあった。

 

 反応は土佐姉さん、島風、高雄さん、そして雲仙さんだ。

 

 4方向から攻撃が来る事を察知したロドンさんは攻撃に備え、投げた刀を回収して構えを取り、4人は一斉に攻撃を始める。

 

 島風が先陣を切るように突撃し、自慢の機動力を活かした高速戦闘に持ち込んだ。

 風の様に切り続ける島風は更に刀を振る速度を早め、まるで分身しているようにも見えた。

 

「凄い……! 島風、まるで風になっているみたいです! これが指揮官の力なのですね!」

「このまま一気に攻めるぞ!」

「任せて高雄ちゃん!」

 

 高雄さんの号令の元、今度は高雄さんと愛宕さんの同時攻撃がロドンさんに襲いかかる。

 2人の主砲でロドンさんと島風の刀の打ち合いを止め、ロドンさんの動きを一瞬止めさせる。

 

 その隙に愛宕さんはロドンさんの背後に回り、高雄さんはロドンさんの正面に立つ。

 

「……!!」

 

 前後から二人の挟撃が迫り、まずは愛宕さんの背後からの奇襲攻撃がロドンさんに襲い掛かる。

 刃先が首元に差し掛かる瞬間、殺気を頼りにロドンさんの裏拳が刀の軌道を逸らし、正面の高雄さんとの鍔迫り合いが始まる。

 

 2人とも今までと別格に動きが早くなっていた。より強く、しなやかに刀を扱えることにより、着実にロドンさんを追い込んでいた。

 

 魚雷、榴弾、そして斬撃がそれぞれの方向から襲いかかるも、ロドンさんは自分の体ごと回転しながら刀を降り、巨大な竜巻を引き起こす。

 

 切れ味を持った竜巻は榴弾と魚雷を切り裂き、斬撃さえも歪ませ、ロドンさんに攻撃は当たらなかった。

 だが、防御した僅かな隙をついた土佐姉さんは稲妻のごとくロドンさんに突撃をかけ、刀を突き出す。

 

「貰った!!」

「あまいな」

 

 ロドンさんは指で刀の先を摘み、完全に土佐姉さんの突きをとめた。

 

「手詰まりか?」

「何のための主砲だと思っている!」

 

 土佐姉さんは至近距離からの榴弾を当てる為に主砲を向けさせていた。あの距離だとロドンさんに当てたとしても土佐姉さんも無事では済まない。

 

「やめろ土佐姉さんっ!!」

 

 俺の静止は儚く散り、ロドンさんは姉さんの刀を押し返す。

 

 姉さんは体制を崩しながらも艤装から零距離射撃での砲撃を放ち、このままロドンさんに榴弾が直撃すれば、2人ともひとたまりも無い。

 

 主砲から爆発と共に榴弾がロドンさんの頭に向かっていき、このまま直撃すれば致命傷は避けられない。

 だがロドンさんは……

 

 目の前に迫る榴弾を裏拳で横に吹き飛ばし、吹き飛ばされた榴弾は明後日の方向に向かわされた後、爆発した。

 

「……少ししびれるな」

 

 榴弾を素手ではじき返したことにKAN-SEN達は言葉を失った。

 ありえない、目と鼻の先とも言えるほどの至近距離の榴弾を避けるのでは無く、拳で弾き返した。

 

 言葉通り、自分よりも大きいな鉛玉を拳で突き返すのなんて、腕どころか体の半分が吹き飛ばされてもおかしくない。

 なのに、目の前のロドンさんは手が痺れる程度で収まっていた。

 

「まぁ、欠伸しながら素手で飛んでくる弾丸を握ったぐらいだからな。人間辞めた親父はあれぐらいするか」

 

 遠くにいるセイドさんがそのようなこの事を口にし、生前でも充分人間離れしていると思うという気持ちは抑えた。

 

「……なるほど見事だ。あの指揮官の能力で限界まで力を高めたのもあるが、お前達の技量自体も上がっている。ただの小石が俺の足を躓く小石程になったか」

 

 高雄さんたちに向け、ロドンさんは心からの賞賛を送った。彼なりの礼儀なのか、それとも余裕があってのものなのか。その賛辞を高雄さん達は受け取らず、ロドンさんを囲みつつあった。

 

「優海くん、ここは私達に任せて妖狐をなんとかして」

 

 愛宕さんは視線を上空にいるマーレさんに向けた。マーレさんは今、エックスと融合した妖狐と戦っている。

 マーレさんは力の源であり、重桜の人間の魂が取り込まれている勾玉を狙って攻撃し、妖狐も負けじと反撃を繰り返している。

 

 その攻防は激しく、小さな島を全壊させるほどだ。このままだと間違いなく重桜は崩壊する。

 迷っている時間はない。

 

 指揮官としては最悪だけど、この場を皆に任せてマーレさんの下へと駆け抜ける。

 

「まっ、そんな簡単には行かせねぇけどな」

 

 その言葉が聴こえたと同時に、一筋のビームが俺の前を横切り、足を止めさせる。

 飛んできた方向に体を振り返ると、セイドさんがニヤケ顔を浮かべながら銃を回し、余裕そうにタバコを口にしていた。

 

「わりぃけどあのアトラクションは店員オーバーだ。終わるまで待ちな」

「どいてください!」

「ジョークが通じねぇ奴」

「ジョーク? 冗談とかそんなこといってる場合じゃないですよ! このままだと重桜の人々が……」

「死んじまうんだろ? まぁ半分は良いだろ?」

「……は?」

 

 呆気なくそう言葉にしたセイドさんは何も気にも止めないようにタバコの煙を吸い込み、吐いていく。

 

「俺らのやり方だったら、半分の人間犠牲にすれば重桜は守れるぜ。計算上な」

「だから何もするなって言いたいんですか」

 

 セイドさんは何も言わず、ぶっきらぼうにタバコをふかした。

 無言を肯定と受け取った俺はその態度と命を平然と切り捨てる思考に怒りを露わにする。

 

「犠牲を前提に動くのは間違っている」

「お前が言うのかよそれ」

 

 セイドさんは鼻で笑いながら煙草を吸う。

 一瞬、セイドさんの嘲笑と言葉が俺の頭を強くたたき、胸を締め付けられる。

 何も言えない、言う資格が無いのは……俺自身この気持ちがなんなのか分かっているからだ。

 

「図星だろ」

 

 セイドさんの言葉が胸を貫き、喉奥に引っかかっていた言葉を代わりに口にした。

 

「お前は自分を犠牲にして今まで戦ってきたんだろ? それが正しいと、それで皆を守れるから」

「……そうです」

「そんな自己犠牲の塊みたいなやつが使う犠牲なんてペラペラな薄い紙の様なもんだ。鼻をかむ価値もねぇ。今でも自分の命なんてどうなっても良いって思ってんだろ?」

「ええ。思っていました。この前までは」

 

 大きくはない声で、俺はセイドさんの言葉を否定した。まっすぐ、前を見て、セイドさんの隠している瞳に向けて、顔を上げる。

 

「俺の命は、俺だけの物じゃないって今更気づきました」

 

 その言葉が口にした瞬間、思い出すのはKAN-SENたちとの日々だ。それぞれの個性が交わり合い、笑い合った瞬間、戦いの中で見せた勇敢な顔、そして時折見せた悲しそうな表情。彼女たちの存在は、自分にとって何ものにも代えがたいものであり、その思いは決して軽いものではない。

 

 そしてそれは、俺に対しても同じだった。

 

 俺が皆の事を守りたいと思うように、みんなも俺の事を守りたいと強く、俺よりも何倍も強かった。

 

 見えていなかっただけで、きっともっと前にその想いは持っていたはずだ。つくづく俺は未熟だなと思い知らされる。

 

「1人1人が命に色んな想いを乗せているんだ。生きていきたい、幸せになりたいと。だから俺はその想いや幸せを守る為に戦う!」

 

 刀を構え、セイドさんを押し通す覚悟を決めた俺を前に、セイドさんは腕をだらんと下げたまま、空を見上げて笑みを浮かべる。

 

「そりゃあ大層良い考えをお持ちだ。立派だ。とても耳心地が良くて耳くそ吹っ飛んじまった」

 

 馬鹿にするような口調と笑いに腹が立った中、セイドさんは一瞬冷たい目を向けた。

 

「知った様な口を聞くんじゃねぇよ。人間知らねぇ癖によ」

「なっ……」

「お前は人が全員良い奴だって思っているのかよ。だとしたら、お前の言う事は本っ当に薄っぺらいな」

 

 下げていた腕は上がり、俺に銃口を向け、いつの間にか俺の周りにはセイドさんのビットが浮かんでおり、ビットの先がビームを収束する光で溢れていた。

 

「人間はな、俺みたいにずる賢い奴の方が多いんだぜ」

 

 セイドさんが指を鳴らすと、ビットたちが一斉にビームを発射する瞬間、突如として現れた青い蝶と鳳凰が、俺の周りを囲み、ビットの一斉射撃から守ってくれた。まるで時を止めたかのように、攻撃の瞬間が一瞬の静寂に包まれ、続いて閃光と共に破壊の光景が広がる。

 

 その後、上空から降り注ぐ榴弾の艦載機がセイドさん1人に襲いかかり、セイドさんはサンゴ型の艤装を水中から複数機呼び出し、その中からガトリングガンを両手に取り、残りはミサイルポッドを装填した。

 

 榴弾と艦載機の嵐を、ガトリングガンとミサイルの嵐で応戦し、戦場が爆発の光に照らされる。

 

「優海! ここは私達に任せなさい!」

 

 後ろの方角に聞き馴染みのある声……天城母さんだ。

 後ろに振り返ると、姿が違う母さんが目に映る。

 

 和服姿だったものが白い軍服な様な物を身にまとい、艤装も細部が少し違っていた。

 間違いない、あれは戦艦では無く、空母の艤装だった。

 

「母さん!」

「行きなさい!」

「逃がす訳……」

「させないですっ!」

 

 どこからともなくセイドさんに向かって魚雷が発射され、彼はサンゴ型艤装から魚雷を同数ぶつけ、激しい水飛沫があがる。

 

 一瞬の時、今の彼女達にとってその時間は数秒間引き伸ばされた様な感覚だった。

 水飛沫と同時に綾波がその姿を現し、セイドさんの背後に迫る。

 

 ガトリングガンを両手に持っていたセイドさんに自衛手段は残されていなかった。

 

「貰ったです!」

 

 攻撃を当てると確信した、その時だった。

 

「遺言の準備しとけよ」

 

 綾波の剣が振り上げる瞬間、綾波の周りには6基のビットがそれぞれ綾波に向けられていた。

 

「いつの間にっ……」

「魚雷撃った時、水飛沫に紛れて隠したんだよ」

 

 綾波の行動を完全に読み切ったビットの配置は綾波の攻撃を妨げる様にビームが襲いかかる。

 一本の青色の光が綾波の髪に掠った瞬間、上空から飛び降りる様に白銀の装甲を持ったロボットが綾波の前に現れ、ビームを弾き、鈍く光り輝きだす。

 

『大丈夫ですか、綾波』

「ろ、ロボット……なのです」

『JBと申します。今のうちに体制を整える事を推奨』

 

 動き、喋る戦闘ロボットを見て感激しつつも綾波は体勢を整える為にセイドさんから離れ、綾波の撤退の為にJBはその場から動かず、セイドさんに拳を向ける。

 

 ここはJBと綾波達に任せよう。勿論、指揮も同時に並行する。コネクターの力なら、それが可能な筈だ。

 

「まさかお前が俺の前に来るなんてな」

『疑問。何故アナタは私のことを知っているのですか』

「さぁな。知りたいなら俺の口から吐かせてみろよ。言わねぇけど」

 

 

 

 

 

 

 

 

「……アイツが来る」

 

 マーレさんがこっちの接近に気づき、遠いにも関わらず目と目が合う。

 

 一触即発の緊張感が漂うが、今はマーレさんと対峙するよりも、妖狐が守る勾玉を何とかすることが最優先だ。妖狐がマーレさんに目を奪われている今が絶好のチャンスだ。

 

 急いで、手際良く、真っ直ぐに、何の躊躇もなく、ただ一心に……!! 

 

 妖狐とマーレさんの間を駆け抜け、海面を蹴って空へと飛び立つ。風を切る感覚を体で感じ取り、目指すべき勾玉が見えてくる。冷静さを保ちながら、一瞬で距離を詰めたその瞬間、妖狐はこっちの気配を感じたようだが、気を逸らさない。目標はただ目の前にある。

 

 緊張が走る中、力強く手を伸ばし、勾玉に触れようとする。

 

 その瞬間、黒い手が俺の前に立ち塞ぎ、俺を握り潰そうと近づいてくる。

 空中では身動きは取れないが、こうなる事は折り込み済みだ。俺の周りを漂う1体目のリュウグウノツカイの艤装を足場にし、もう1体のリュウグウノツカイに飛び乗って攻撃を避ける。

 

『小癪なぁ!』

 

 今度は炎の追尾弾が背後から無数に襲いかかって来るのを感じ、咄嗟に武器を二丁拳銃に変形させ、艤装のミサイルハッチを開き、リュウグウノツカイ戦刃の砲門を展開させる。

 

 艤装から飛び降りると同時に背後を振り返り、銃の引き金を引く。

 引き金が引かれたと同時にミサイルと戦刃の攻撃が無数に襲いかかる炎の追尾弾を破壊し、こっちも狙いを定めていない乱れ打ちの弾幕で追尾弾をかき消していく。

 

 攻撃をいなしながら上昇し、遂に黒く禍々しく光る勾玉を視認する。

 視認できる距離にいるのならば、鏡面海域に勾玉を引きずり込む事が出来る。

 

 そうする事が出来れば、違う次元の影響によって妖狐の再生能力は失い、重桜の人間の魂が妖狐の手によって消える事も無い。

 

 座標計算をし、鏡面海域へと続くゲートを生成しようとしたその時、勾玉から異様な影が溢れ出し、影は蠢きその姿を変え続ける。

 

『我が其方の策に気付かぬと思っていたのか?』

 

 妖狐のせせら笑いと共に影は人の形を型どり、手には刀のような武器を持って助けを求める様な呻き声を放っていた。

 

「ォゥ……た……ズけ……て」

「えっ……?」

 

 勾玉から出てきたって事は、まさかアレって……重桜の人の魂から作り上げられた存在という事になる。

 

 半ば確信的で最悪な考えが頭の中で思い浮かべると、背筋が凍りつき、それに反し体の内側が燃えるように熱くなる。

 

「重桜の人の魂を使って……お前は無理やり戦わせる存在を作ったのか!? 妖狐っ!!」

 

 怒りと戦慄の感情が渦巻き、妖狐は龍の姿のまま目を細め、口を三日月の様に上げて笑った。

 

『そうじゃ、魂を練り上げ、平凡で使い道のない民の魂から、強靭な非凡な兵士に作り上げたのじゃ』

「貴女はどこまで民を犠牲にすれば気が済むんだっ!!」

『妾の手足をどう使おうが、妾の勝手じゃ』

 

 平然と、誇らしくあるかのように喋る妖狐からは罪悪感という物は無かった。いや、むしろ当然だと思っていた。

 

『むしろ感謝して欲しいものじゃ。何者にもなれず、ただ命を消費していくだけの存在が、この妾に貢献したのじゃ。人生に彩りが添えられて良かったなぁ?』

「ヴぁ……だす……い……やぁ」

 

 魂から作られた黒い影は苦しそうに頭を抱えるが、妖狐の言う事には逆らえないのか、黒い顔に白い涙を流しながら、俺に向かって刀を構え、こっちに飛び出してきた。

 

 人影は人間とは思えない程の速さで一直線こちらに向かい、驚きながらも回避する。

 

 KAN-SENと同等の強さ程度だが、これが次々と出てくるのならば、俺たちは数で押されてしまう。

 

 かと言って倒す訳には行かない。倒してしまったら今目の前にいる人の魂が失ってしまう……。

 

『どうした? 攻撃せんのか? 因みに、その影は1人分の魂ではない。せいぜい10数人程度から作ったものじゃ』

「くっ……」

「タ……スケテ。イダぃ……クルジィ……」

 

 影から男の人、女の人、老人や子供、全員の苦しい声が混じりあって聞こえてくる。

 身の毛がよだつ程恐ろしい光景に焦り、何とかして妖狐を止めようと艤装を妖狐に向ける。

 

 だが、その瞬間多数の影が妖狐を守る壁となり、攻撃したくてもできなかった。

 

『お前達は守る物が多くて辛いのぉ。弱く、何の価値も無い人間を助ける為に、自分達が苦しんでいるというのに!』

「本当に馬鹿馬鹿しいな」

 

 冷たい言葉と同時に、マーレさんは妖狐に向かって高出力ビームを2本放つ。

 

 2つの光は壁となった人影を多く巻き込み、光は貫通して妖狐を包む黒い体を焼き尽くした。

 

『イヤダァァ!!』『イタいっ!! いたいっゥ!!』

「止めろマーレさん!!」

 

 俺の声と影達の断末魔はマーレさんには届かず、さらにマーレさんは艤装の出力を高め、壁となった人影を貫き、妖狐の体に風穴を空けた。

 

 だが、風穴が空いた箇所に人影は吸い込まれていき、妖狐の体は完全に回復してしまった。

 

『悲しいのぅ。今ので数千人の魂が失ってしまった。ロイヤルの英雄は非情な奴じゃのう』

「そうだな……そうじゃなければ世界の敵なんかなってないさ」

 

 マーレさんは止まること無く妖狐に攻撃を続け、妖狐は防御を壁に任せ、重桜は攻撃に専念していた。

 2人の戦闘は激化していき、次々と影は消滅していく。

 

「止めろ! もう!」

 

 攻撃を止めさせる為に、マーレさんに向けてミサイルを放ち、雲の糸を帯びながら突き進んでいく。

 

 ミサイルの接近に気づいたのか、マーレさんは妖狐の攻撃を止め、ミサイルの迎撃に移り、背負っている2つの艤装が放つビームマシンガンで全て撃ち落としていく。

 

 ミサイルの爆煙に紛れるように接近し、彼との距離を詰め、接近戦に持ち込む。こうしなければまたマーレさんの高火力攻撃が妖狐……いや、影達に襲いかかるからだ。

 

「お前っ……」

「これ以上、もう人々の魂を失う訳にはいかないっ!」

 

 刀と剣がぶつかり合い、どちらも一歩も引かない接近戦が始まる。剣だけではなく艤装の兵装を駆使してゼロ距離砲撃も交わり、ビームの光が交差していく。

 

「これ以上攻撃させない!」

「邪魔するな!」

 

 互いに一歩も譲らず、刀と剣の重い音が鳴り響く。

 

「お前……なんのつもりだ。妖狐に味方するのか」

「違う。俺は重桜とそこに住む人達全員を助けたい。だから今は貴方を止める」

「偽善だな」

 

 二刀流の連撃が更に重くなり、怒涛の攻撃についに足を止められ、片膝を付いてしまう。

 刀ごと俺を斬り伏せようと、容赦の無く両手の剣を叩きつけられ、剣の衝撃に体が耐えられず、やがて刀を手放し、吹き飛ばされてしまう。

 

 急いで刀を取ろうにも黒い剣が俺の喉元に触れ、その場から動けなくなる。

 

「全員助けるという事はお前はあの妖狐も助けると言うのか?」

 

 もう1つの白い剣を妖狐に突きつけると、俺達の攻撃を楽しむように眺めていた。

 

「傲慢で民を道具にしている妖狐をお前は赦せるのか?」

 

 確かに妖狐が今やっている行いや、やってきた事は赦されない罪だ。きっと永遠に誰も許してはくれないだろう。

 

「罪は消えない。罰を与えても、犯した者を殺しても、残響のように罪は残り続ける。

 罪を罪とも思っていない奴を、お前は助けたいのか」

 

 その言葉に、胸の奥がざわついた。確かに、罪は消えないかもしれない。罰を与えたところで、過去が変わるわけでもない。けれど——それでも。

 

 喉の奥から込み上げる焦燥や矛盾に悩みながらも、確かな想いを込めて剣を掴む。

 

 手のひらから血は流れ続け、激痛が走る。

 それでも離さず、首に突き付けられていた剣を退け、マーレさんと同じ目線まで立ち上がる。

 

「罪は消えなくても、赦されなくても、だからと言ってその人の未来を否定したくない!」

 

 偽善と言われても、それでも俺は誰かの未来を守りたい。

 明日は何をしようかなって悩んでいる子ども、明日の献立を考える家族、将来の事を夢見る人々、

 そして、他愛無い人生を歩む中で誰もが笑える世界の為に。

 

「誰もが笑いあえる未来の可能性を俺は信じたい。そして俺は、そんな未来を作り上げるために皆を守るんだぁぁぁぁ!!」

「お前はっ……!!」

 

 血で塗れた手で黒い剣を押し返し、マーレさんの体制が崩れる。

 拳を握り、力を籠め、その空いた頬に拳を突き立てる、殴った。

 マーレさんの体がのけ反りながら吹っ飛び、その隙に武器を拾って、妖狐に向かって全速力で向かっていく。

 

 時間稼ぎをしようと思ってなかったけど、妖狐の慢心やマーレさんとの口論で時間と意識をこちらに向けたことで、あの人の準備が整っている筈だ。

 

「オロチさん!!」

「りょーかい」

 

 俺の声とオロチさんが指を鳴らすのと同時に妖狐の真下に穴が開き、妖狐の巨体が穴の中に吸いこまれていった。

 

「なんだこれは!?」

 

 自分の足元が急にブラックホールになったかのような足場に妖狐はパニックを起こし、必死に逃れようとそれに向かって飛ぼうとすることに夢中で俺の接近には気付かなかった。

 

 あれは鏡面海域に通ずるゲートであり、オロチさんが生成したものだ。

 今や妖狐はエックスと融合して巨大な竜の姿へと変え、通常のゲートでは入りきらない。

 

 妖狐の鏡面海域に引きずり込むのは無理……と、思わせるのが俺の目的だ。

 

 だからこそ二段構えの作戦をオロチさんだけに話した。

 俺は勾玉を、オロチさんは妖狐をそれぞれ鏡面海域に引きずり込もうと動いた。

 

 ますが俺が勾玉に固執し、大きく動くことで妖狐は自分は狙われないことを強く刷り込ませる。

 慢心が表に出ている妖狐なら絶対にこの作戦が通る確信はあった。

 

 妖狐はその場で藻掻くが、引きずる力が強く、体がどんどん吸い込まれていく。

 

「おのれええ! 羽虫如きににいい!!」

 

 妖狐の叫びは虚しく、沼の様に体は鏡面海域へと沈んでいった。

 

 妖狐が別次元にいったせいなのか、勾玉の輝きは失い、そこから出た兵士も動きを止めた。

 だが、妖狐が鏡面海域から抜け出せない保証はどこにも無い。

 あとは鏡面海域で妖狐を……正確にはエックスを倒すことが出来れば、この惨劇は終わるはずだ。

 だが俺だけじゃ無理だ。KAN-SEN数人が欲しいところだが、マーレさんたちを止める人数も確保したことを考えると、5人が限界だ。となると、俺が選ぶべきは絞られる。

 

「母さん! 島風、信濃さん、雲仙さん、長門、俺と一緒に来てくれ!」

 

 現時点での最大戦力かつ少数で選ぶならこの5人だ。

 俺に呼ばれた5人は反応し、それぞれの傍にゲートを作り、妖狐の状態とゲートを見て状況を理解したのか、5人はゲートに入り、鏡面海域へと入っていく。

 

「マーレさん、俺は俺が守りたい世界の為に戦います」

 

 橋目で過るマーレさんに告げ、妖狐が落ちたゲートの中に入り、鏡面海域へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 殴られた所を指で拭い、血の汚れを落とす。

 アイツ、ようやく本気で俺を殴ったな。

 

 今までは無意識にセーブしていたのか、俺に大したダメージは与えなかった。

 いや、俺だけじゃなく他のテネリタスに対しても、あいつは先手を取ることなく話し合いを持ちかけていた。

 

 戦いを舐め腐っていた行動がようやく無くなり、せいせいする中、したり笑いを浮かべた蛇女が俺を見ていた。

 

「どうする? このまま私達と殴り合う?」

「そうしたいのなら望みどおりにしてやるぞ」

 

 武器を構え、背後の艤装がオロチを睨みつけるが、あいつは怖い怖いと言いながら両手を上げて距離を取った。

 

 まぁ当然だろうな。ここで俺と戦うも理由が無く、闇雲に消耗するのはあいつはやらない。オロチはそういうやつだ。

 

 だが、戦うつもりは無いのはこっちも同じだ。元々俺の目的は別にあるのだから。

 

「ロドンさん、セイドさん。邪魔はいなくなった。俺は本来の目的に入ります」

 

 通信で2人に伝達する中、ロドンさんに動きがあった。

 

『俺は妖狐を追う。セイドに任せろ』

『俺も無理! 厄介な奴いるからな! ちょい手こずる!』

 

 セイドさんが相手にしているのは恐らくJBというロボットだろう。彼はあのロボットの事を知っているようだが、詳細を聞ける暇は無さそうだ。

 

「俺一人で充分です。ロドンさんは勝手にしてください」

『そのつもりだ』

 

 ロドンさんは直ぐさま鏡面海域へと移動し、セイドさんの援護は見込めない。

 という事はつまり、俺の目に映る数十隻のKAN-SENを1人で相手にしなくてはいけないことになってしまったという事だ。

 

 しかも今までのKAN-SENと違い、コネクターの力で能力は向上したKAN-SENとでだ。

 

 素直に目的地の大神木には行かせてはくれないだろう。ならば小細工は必要ない。

 

「敵は全部打ち倒してやる……!」

 

 この体になったその時から、俺はそう決めたのだから。

どのテネリタスが好き?

  • ロリママ創造者の2代目 ラハム
  • 人類最強の天然3代目 アトラト
  • 食いしん坊な絶対守護者4代目 シーア
  • 武士道と極める騎士5代目 ロドン
  • 風のように自由なガンマン6代目 セイド
  • 完璧で究極のアイドル7代目 マリン
  • おっとり包容力で全知全能の8代目 ミーア
  • 元人間のセイレーン 10代目マーレ
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