もしもアニメのアズールレーンに指揮官が出てきたら〜2nd season 海上の誓い〜   作:白だし茶漬け

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少し遅くなりましたが、ようやく重桜編が終わりを迎えられそうです。




家族の力

 何故私は産まれてきたのだろうか。

 命とは一体どんな意味を持って存在するするのだろうか。

 

 決められた食事、決められた時間の就寝。

 

 1秒でも狂うこと無く、決められた行動をする毎日は心を腐らせ続ける毎日だった。

 

 起きて、食べて、祈って、寝て、起きて、食べて、祈って、寝て……それを死ぬまで繰り返すのがおぞましく感じる。

 

 人ではなく傀儡のような人生に自由という概念は無かった。

 自我という物は要らない、必要ない。塵芥の様に捨てられ、持つことも許されず、生贄になることを求められ続ける日々は生きてすぐに命を落とすカゲロウそのものだ。

 

 ……いや、カゲロウの方がマシだろう。その一瞬に全てを注ぎ、自我に従って行動し、天寿を全うするのだから。

 虫の方がはるかに生を謳歌していることが自分は虫以下の存在だと突き付けられているようで、自分の愚かさが憎く、不憫で乾いた笑みを零す。

 

 なぜ私は生まれて

 

 なぜ自我すら持つことを許されず

 

 なのになぜ崇められるのだろう

 

 ーあなたは特別なのです。病に侵され、果てにはこの地から逃げた姉と違って。

 

 不自由さが特別なのだとしたら、手足を使って自由に走り回る子どもたちは特別ではないのか? 

 私にとっては、そのことが特別なのに。

 

 特別とはなんだ

 

 生きるとはなんだ

 

 なぜ私はこんなところでただ死ぬことを待たなければならないんだ? 

 

 特別なら……何故妾は好き勝手出来ない? 

 

 特別なら崇められるのであれば、妾は何故人生が決まっているのだ? 

 

 自由が欲しい。この地獄から逃げ出せる程の力が欲しい。何もかも思いどおりになる力が欲しい。

 

 力が。ちからが。チカラが。全てが欲しい。

 

 _なら、お望み通りにあげようか? 

 

 それが、奴との出会いであり

 

 

 妖狐が産まれた日でもあった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 鏡面海域……通常の海域とは別次元に存在する、もう1つの海であり、ここに住む生物は存在しない。

 

 思い切り戦う場所には充分過ぎる場所であり、俺も皆も全力で妖狐を止められる。

 

「ふん、たった6隻で妾を止められると思っているのか?」

 

 この場にいるのは俺を含め、母さん、島風、信濃さん、雲仙さん、長門だけだ。

 本当はもっと連れていきたかったけど、通常海域も放って置ける状況では無い。この人数とメンバーが、最小で最大限の戦力だ。

 

「止めてみせる!」

「指揮官殿、島風達はどうすれば?」

「力の源の勾玉とは分離させたから、後は物理的な衝撃を与え続ければ倒せるはずだ」

「つまり、攻撃し続けろという事だな?」

 

 長門の言う通り、攻撃すれば倒せるようにはなっている筈だ。だけど、闇雲に攻撃してもあの巨大な盾で攻撃は防がれてしまう。

 

「俺と島風、雲仙さんで突破口を開くから。残りの3人は後方で火力支援をお願い」

 

「了解です、指揮官!」

 島風が一瞬で加速する。彼女の艤装が火花を散らし、海面を滑るように進んだ。背後に生じた水柱が、まるで弾けた雷の尾のように空へと舞い上がる。

 

 演習で見た時よりも格段に速さを増しており、島風は一瞬で妖狐の懐に飛び込んだ。

 

「行きますよ、雲仙さん!」

「ええ、共に風穴を開けましょう」

 

 島風に続き、雲仙さんと刀を合わせで刀を振り、X字に重なった

 

「来るぞッ!」

 

 異形艦の巨大な盾がこちらに向けられ、鋼鉄の杭のような砲弾を三連射。轟音が空を裂き、俺たちを襲う。

 

「島風、右へ回避! 雲仙さん、左から!」

 

「了解っ!」

「敵の死角、取ります!」

 

 俺は中央から突っ込む。砲撃をギリギリで回避し、すぐさま主砲を叩き込む。だが、盾が瞬時に反応し、衝撃と火花が散る。砲撃は弾かれた。手応えなし。

 

「くっ、硬いな……!」

 

「私が抑えます。今です、指揮官!」

 雲仙さんが敵の左翼へと回り込み、艤装から高出力のエネルギービームを発射。盾の向きが逸れた瞬間を、島風が逃さなかった。

 

「魚雷、発射しますぞ!」

 

 島風の魚雷が放たれる。水面を裂く雷光が盾の裏側へと到達し、爆発音が轟く。爆煙の中、妖狐が体勢を崩した。

 

「今だ、全火力叩き込めッ!!」

 

 俺の叫びに、後方の三人が即応する。

 

 轟雷のような砲声が海を震わせる。母さんと信濃さんの力を帯びた支援砲撃も加わり、爆炎が妖狐を包む。

 

「こんなものぉぉぉ!!」

 

 咆哮が、空を裂き、炎を振り払うと、妖狐は反撃に黒い稲妻を俺達に向けた。

 稲妻はまるで海を焦がすかのように熱く、かすっても致命傷は免れないだろう。

 

 黒煙の中から、今にも崩れそうな竜が姿を現す。

 さっきの攻撃がまるで聞いていないかのように無傷であり、それ程のダメージを与えていなかった。

 

「無駄じゃ無駄じゃ。お前らの羽虫のような攻撃ではこの体に傷をつくことは不可能!」

「けど、再生はしていない。このまま攻撃を続ければ……!」

 

 

 次の波状攻撃の準備に入る次の瞬間、この鏡面海域の空に無数の刀の切り筋が生まれ、空の一部が破片となって砕け散り、空間の裂け目から閃光の如く妖狐に襲いかかる。

 

 一条の閃光が妖狐を目がけて落ち、それは一瞬の出来事だった。

 

 妖狐は反応すらできず、背中から尻尾にかけて、見事なまでに一直線の太刀筋を刻まれる。

 

「ぐああああああっ!!」

 

 断末魔のような叫びを上げ、妖狐が海上をのたうち回る。黒血が舞い、空が震えた。

 

 そしてその裂け目の向こうから、一人の男が現れる。

 

 姿を現したのは、和装を纏った針のように細い桜色の刀を携えた武士。黒髪が風に靡き、鈍い赤色の瞳が鋭く妖狐を睨んでいる。

 

「ロドン……テネリタス!」

 

 俺の口から漏れたのは、驚愕と共にある名前。

 

 だけど、この場にあの人が来ることはどこかで予想していた。復讐に駆られた人は、どこまでも執着する。

 例えそれが、英雄でも。

 

「死ね」

 

 刀を鞘に収め、一瞬の居合で無数の斬撃が妖狐に襲いかかる。

 刀を振った回数はたった1回なのに、斬撃が無数に飛ぶという矛盾した光景は、ロドン・テネリタスが如何に強大な存在なのかを思い知らされるようでもあった。

 

『思い上がるな亡霊!』

 

 妖狐は無数の尻尾を生み出し、それが剣の様に振り回す。

 無数の斬撃を無数の剣技で対抗するが、妖狐の太刀筋は素人そのものだった。

 

 デタラメに剣を振り回すだけじゃ、刀は本来の役目を果たせない。太刀筋を沿っていき、それを見極める事が刀を振るう意味が生まれる。

 

 戦い方が素人と分かれば対抗策はある。

 

 ロドンさんの介入は予想した事だ。あの人の目的が妖狐ならば、こっちの動きを阻害しないはず。

 問題は……あの人の動きを予測しての指揮が出来るかどうかだ。

 

「島風、雲仙さん。ロドンさんに動きを合わせるように指揮するから、しばらく前衛を抜けるけど……」

「それが指揮官の本懐だと思いますよ」

 

 雲仙さんは笑いながら言った。

 

「あはは……そうだった」

「指揮官の本懐を成してください」

「島風もその為に頑張ります!」

 

 頼もしい新人と頼もしい仙人の笑顔に背中を押され、2人はロドンさんと共にかけていく。

 

 だがロドンさんの動きに2人は着いてこれず、後衛の3人もその動きに戸惑っている。

 下手に攻撃すれば、連携は一気に瓦解する。

 

 戦闘のプロであるロドンさんもそれは分かっている筈だ。だが、ロドンさんはこちらに目を向けず、妖狐さんに一点に殺意を向けていた。

 

 あくまで1人でやるつもりだと、復讐の邪魔はするなと、刀で語っていた。

 だけど、その復讐を果たすのを見ているわけにはいかない。

 

 誰も死なせない。その為にここに立っているのだから。

 

「……長門、3秒後に首元辺りを狙って砲撃」

「うむ!」

 

 3秒後、長門の砲撃が発射されると同時にロドンさんの刀が妖狐の首元を襲い、それと同時に長門の砲撃が刀で傷つけられた箇所に直撃する。

 

 さっきの攻撃でロドンさんはこっちの意図に気づいたのか、こっちを一瞬見る。

 好きにしろと言われた様に思い、ロドンさんは復讐の為に刀を向ける。

 

「次、島風と信濃さんと母さんでで波状攻撃! 島風は三時の方向に魚雷! 信濃さんと母さんは島風の6秒後に同じ方向に爆撃機を発艦!」

 

 島風の魚雷は何も無い所に向かって放たれる。

 だが、ロドンさんの攻撃を防ぐ事で精一杯の妖狐は後退していき、その先には島風が撃った魚雷が迫っていた。

 

 魚雷は妖狐と衝突し、その後、空から信濃さんと母さんが放った艦載機の爆撃機が妖狐の背中を燃やし、黒い体が剥がれ落ちるかのように消えていく。

 

『おのれぇェ……皮と肉を与えれただけの鉄くずがァァ!!』

 

 激昂の咆哮と共に、妖狐の九本の尾が異様に膨れ上がる。

 

 収束したエネルギーはまるで生き物のように蠢き、膨大な光と熱を孕み、全方位に向けてビームを放つ。

 

 爆発するような衝撃と共に、九方向へと放たれたビームが海を薙ぎ払った。水面が一瞬で蒸発し、衝撃波が地獄のように押し寄せる。

 

 全方位を網羅する死の光線に、逃げ道はどこにもなかった。

 

「きゃぁぁぁ!」

 

 島風が必死に身を翻すが、ビームの余波を受け、バランスを崩して海面に叩きつけられる。辛うじて直撃は免れたものの、艤装の一部が爆ぜる音が聞こえた。

 

「島風っ!」

 

 急いで島風の手を取り、イクサバのビーム砲を使って妖狐のビームの一部を拮抗させる。

 

 だが、妖狐の出力の方が大きく、ビームの拮抗が崩れ始め、押されてしまう。

 

「指揮官様!」

「優海!」

「っ……」

 

 母さん、雲仙さん、信濃さんの3人が俺と島風の前に立ち、鳳凰と青い蝶の大群の壁を作り、雲仙さんが刀で防ぐ、3人がかりでようやく受け止める事ができた。

 

 ロドンも、流石に防戦一方だった。ビームの光を斬って回避するものの、あまりに無差別に放たれる光線の網に捉えられ、衣の端を焦がされる。

 

『砕け散れ!』

 

 ビームの勢いは衰えを知らず、蝶と鳳凰の壁は崩れ去り、ビームの衝撃波に吹き飛ばされてしまう。

 

 艤装の一部が破壊され、身が焦がされる熱さにやられ、状況は一変する。

 

「っ……皆、大丈夫?」

「な、何とか……」

 

 衣服は所々焦げ、素肌に赤黒い血が流れ、皆の艤装はほとんどボロボロになってしまった。

 全員なんとか動けるようではあるけど、無茶が出来る状態では無かった。

 

 あのロドンさんも防御に徹していたのにも関わらずダメージを負っている様子だ。

 

 それに対し、あんなに攻撃を受けた筈の妖狐はまだまだ余裕そうだ。

 

『くははは! 貴様ら羽虫如きがカミに適うはずなかろう! このチカラさえアレバ、わらわはスベテをテニイレラレル!!!』

「……? 指揮官殿、あちらの様子がおかしいような」

『スベテ! スベテ全てすべてスベて!!! 全テ! 

 妾のぉぉお!』

 

 壊れた機械の様に同じことを繰り返す妖狐は最後のトドメをさそうと九尾の尾から収束されるエネルギーを1点に集中する。

 

「エックスに精神が侵食されている……!」

 

 最早妖狐は自分がなんの為に戦っているのか朧気になっている。

 ただあるのは、妖狐の行動理念にもなっている支配欲。

 

 全てを支配するまで、彼女は止まらない。

 

 崩れ落ちる仲間たちの姿を見ながら、必死に意識を繋ぎ止めた。だが、その身体はあまりにも重い。

 

 そして妖狐はなおもエネルギーを溜め続けていた。今度は、全てを薙ぎ払う一撃を放つために。

 

 九本の尾が一斉に天を突き上げる。収束された力は、先程とは比べ物にならない密度と熱量を持って、爆発的に膨れ上がった。

 

 空気すら歪み、大気は悲鳴を上げ、鏡面海域が揺らぎ、空間ひび割れていく。

 

 次の一撃が放たれれば、この海域ごと消し飛ぶ。

 

 鏡面海域は一時的に作られた海域に過ぎない。

 この海域が耐えられない程の質量が現れれば海域は保てず、通常海域に引き戻されてしまう。

 

 そんな状況であの攻撃がどこかに当たれば、この辺り一帯が文字通り火の海になってしまう。

 

「そんなこと……させないっ!」

 

 歯を食いしばりながら立ち上がり、皆も息をたえだえに立ち上がる。

 

「満身創痍だな」

 

 ロドンさんは冷ややかな目で俺たちを一瞥すると、ゆっくりと刀を肩に担いだ。

 だが、馬鹿にするわけでも、見捨てるわけでもない。

 

 その瞳にはただ冷徹な現実と、ほんのわずかな期待のようなものが宿っていた。

 

「これ以上勝手な事をするな。あいつの因縁は俺が付ける」

「それは妖狐を殺すって意味ですか」

「そうだ」

 

 短く、鋭い。

 

 言い訳も飾りもない、ただ事実だけを突きつけた一言だった。

 

 冷たく、まるで抜き身の刀のように、鋭く心に刺さる。

 

「アイツは桜の全てを奪った。そして重桜を汚した咎人だ。だから俺はアイツの全てを終わらせる」

 

 静かな声色には確かな怒りがあった。

 

 彼の怒りは150年前から燃え続け、その焔は一生消えないだろう。

 だからって、それを黙って見過ごす理由にはならない。

 

「俺は誰も死なせない。人間も、KAN-SENも、妖狐も全員助け出す!」

「清々しい程の偽善ぶりだな。マーレが嫌うわけだ」

 

 ロドンさんは背中を見せ、俺と一切目を合わせなかった。

 

「命があればそれで人が救われる訳では無いぞ」

「それでも俺は人々全員を助けたい。その為に俺はここにいる」

「…………その言葉、忘れるな」

 

 彼は前に飛び出し、刀を鞘に収めて居合の形を取る。

 

 あの一撃が放たれれば、本当にこの海域ごと消し飛ぶ。

 それを止める手段はただ一つ。

 

 妖狐が攻撃する前に止める事だ。

 

「皆、どれくらい動ける?」

「全力を出したら動けない……ってところです」

 

 他の皆も雲仙さんと同じ程度の損傷だ。ならチャンスは一回。ここで勝負を決めるしかない。

 

「皆、いつでも全力の攻撃を仕掛けられるように準備を進めて。俺が活路を開く」

「島風もお供します!」

 

 ついて行こうとする島風はやせ我慢をしながら立ち上がり、俺の隣に立った。

 

「絶対、お守りします! だから……お願いします」

 

 

 島風の声は震えていた。

 それでも、真っ直ぐに俺を見据え、イクサバとクウブの艤装を島風を守るように周りに漂わせる。

 

「これで援護するから大丈夫」

「ありがとうございます! これで島風は戦えます!」

 

 俺は小さく頷き、彼女の隣に立つ。

 全員、限界だ。それでも、誰一人として退こうとはしない。

 

 静かに武装を構える。傷だらけの体に、まだ戦う意志を宿し、海を蹴って駆け抜ける。

 島風も俺が走り出すと同時に追いかける。

 

 こちらの接近に気づいた妖狐は両手の大剣を振り下ろす。

 

「島風! 俺の艤装を足場に!」

 

 クウブを足場にし、まるで空中に地面があるかのように島風は空中を駆け抜ける。

 俺は大剣の躱し、大剣が真上に通り過ぎた同時に手に持つ剣を槍へと姿を変えさせ、妖狐の頭目掛けて槍を投げる。

 

 雷鳴の如く突き進む槍は妖狐の龍の頭へと突き刺さり、脳天に風穴が開き、開いた箇所から黒い光が漏れ始める。

 

「島風、追撃!」

 

 島風は俺の声に即座に反応し、疾風の如く駆け抜けるその姿が、一瞬で四方八方に分かれた。

 

「島風! 押して参ります!! 」

 

 薄紫色の分身と共に島風は個手の主砲、魚雷を一斉に発射し、怒涛の連続攻撃が妖狐に襲いかかる。

 

 主砲の弾丸の雨と魚雷の弾幕が妖狐の頭部を正確にぶつけ、漏れ出る光が広がった。

 

 だが、島風の攻撃は止まらない。さらに島風自身が跳び上がり、分身たちとタイミングを合わせ、無数の斬撃を浴びせる。

 

『グォォォォォォ!!』

 

 激昂した妖狐は、島風めがけて大剣を叩きつける。

 島風は正面の一撃に備えるが、島の様に巨大な大剣の渾身の一振が衝撃波を生み出し、島風を襲う。

 

 艤装が破損し、体がボロボロになっていく島風を守るように艤装を操作し、島風の壁になる。

 

 イクサバとクウブの装甲が衝撃波によって軋む様に傷つけられ、そのフィードバックが俺に襲いかかる。

 

「全身が押し潰されるようだ……けど! 島風は守ってみせる!」

 

 艤装で守れるのはそう長くない。

 攻撃を止める為にズムウォルトの艤装に装填されているレールガンを構え、頭部に狙いを定める。

 

 艤装のエネルギーをレールガンの砲身にチャージし、弾丸のエネルギーに加える事で、威力は増大する。

 

 最大チャージじゃなくても、半分のチャージで山の1つは2つは貫通する。

 

「いっけぇぇぇ!!」

 

 僅か十数秒のチャージでレールガンを放ち、閃光の如くレールガンは妖狐に向かう。

 

 だが、突然レールガンの直線上に巨大な鏡の盾がレールガンを防いだ。

 

 鏡とレールガンは共に砕け散り、妖狐は無傷でレールガンを止めたが、島風の攻撃は収まり、こっちに標的を変えた。

 

『ワラワを邪魔するハエがぁっ!』

 

 トドメを刺そうと、膨れ上がったエネルギーを俺に向けて解き放とうとしていた。

 

「優海ぅ!!」

 

 母さんの声が聞こえる。今必死に俺の事を助けようと、全速力で走っているんだろうけど……大丈夫。

 

「ここまで何もかも、想定していた通りだから」

 

 心配する母さんを笑顔を向け、妖狐には鋭い目を向ける。

 

「……その前に、後ろに注意した方がいいと思うけど」

『ナニっ!?』

 

 もう遅い。妖狐の背後には最初に致命傷を与えた槍がさらに変形し、無数のビットとなって妖狐に向けて銃口を向けていた。

 

 俺の武器は俺の手元に無くても、頭に思い浮かべるだけでいくつもの武器に変形できる。

 

 どんな時でも、いつでもだ。

 

「これで詰みだ。妖狐」

 

 指を鳴らすと同時に、ビットが無数のビームを撃ち続ける。攻撃を防ぐための盾は壊された妖狐にこの攻撃を避ける事は出来ず、黒い龍の体が薄くなる。

 

「今だ!」

 

 俺の合図に長門達は最大限の火力を構える。

 

 長門は背後に九尾を宿し、信濃さんと雲仙さんは片目に輝く蝶を宿し、月光の輝きを刀に乗せて抜刀し、母さんは燃える鳳凰を呼び出す。

 

「重桜に仇なす穢れ、余がこの手で祓う!」

「これで終わりです、妖狐!」

 

 長門の背に現れた九尾の口と、母さんの羽ばたく鳳凰の翼から、燃え盛る獄炎の球が放たれる。

 緋色に燃え上がる炎は、妖狐の影のような黒い体を包み、浄化するかのように焼き尽くしていった。

 

「虚ろに彷徨う魂よ……此度にて沈めよう」

「天壌無窮の理のもと、罪穢れを祓除せん!」

 

 片目に蝶の幻影を浮かべたふたりが、同時に刀を構え、月光を纏った斬撃を放つ。

 

 銀の弧を描く剣閃は妖狐の巨体を真っ向から断ち切り、巨大な大剣が細かな破片となって消え去った。

 

 妖狐は叫び声をあげる間もなく、身体を貫かれ、深く抉られた傷口から黒い光が噴き出した。

 

 圧倒的な力に押し負け、膝をつきかけながらも、それでも妖狐はなお、憎悪に満ちた瞳でこちらを睨み据えていた。

 

『オオオォオオオオオオオォォォォォオオ!!!」

「終わりだ、妖狐」

 

 男は針のように細い桜色の刀を振り、無数の切れ筋が妖狐の身体に描かれる。

 

 龍の体が刻々とガラスのように砕け散り、妖狐の体が元の人間の姿へと戻っていく。

 

 人の姿になった妖狐の体にはボロボロで見るも絶えず、至る所が血で汚れていき、妖狐の周りの海も赤黒く染まっていく。

 

 普通なら間違いなく絶命する出血量だが、妖狐は生きており、本当に不死身なのだと今更ながら思い知らされる。

 

 これで終わったと思いたいけど、攻撃する際に溢れ出した黒い光……いや、人魂がこの鏡面海域で漂っていた。

 

「これは……一体」

 

 現世をさ迷っている魂は俺達の周りを漂わせ、魂から呻き声や怒りの声、悲しみの声を出す多くの人々の声が聞こえてくる。

 

『ドウシテ』

『ナゼ、シアワセニナレナイ』

『イタイタイタイマイタイタイタイ』

『クルシイクルシイクルシイ』

 

 耳を塞ぎたくなる程の痛々しい叫びに戦慄にも似た感覚が刻まれ、どうすることも出来ない自分の無力さが突きつけられる。

 

「これって、妖狐の犠牲になった人々の魂……?」

「真なり……、あの龍の糧となった、彷徨いし者の成れの果て……」

 

 信濃さんの静かな声に、誰もが言葉を失い、漂う黒い人魂を俺達は見つめる。

 

 魂たちは漂いながら、薄く淡い光を放っている。

 

 その光は、怒りに染まり、悲しみに濁っている。

 

 目の前に広がる魂たちの姿は、かつての人間。

 妖狐に家族を奪われ、未来を砕かれ、命さえも理不尽に引き裂かれた人たちの成れの果てだ。

 

「あの、この方達はこのままなのでしょうか?」

 

 島風が魂を何とかしようと触れると、魂は炎の様に揺らめき、島風の手をすり抜けた。どうやら、触れられないらしい。

 

「……神子である長門様なら、出来るのでは?」

 

 母さんの言葉に一筋を希望を見出す島風だが、長門の浮かない顔を見て、それは絶望的だと悟り、直ぐに顔は曇ってしまった。

 

「いや、余の力ではこの魂を浄化させることは出来ぬ。妖狐への憎しみが強すぎて、皆ここに縛り付こうとしている」

 

 黒い人魂は妖狐の周りに集い、倒れている妖狐に向かって憎しみの声を突き付け続ける。

 

『ナゼこんなコトをしたァ』

 

 

『オマエもくるしめ』

 

 

『オマエもぜつぼうしろ』

 

『オマエがシネ』

 

 

 

 痛い程伝わる無念や憎悪を見た俺たちは守りきれなかった悔しさに押しつぶされそうになった。

 妖狐との戦いは勝った。けど、重桜の人々を守りきれなかったら意味が無い。

 

「……何か、方法はある筈だ」

 

 あるとすれば妖狐だ。仮にも大神木を担った巫女なんだ。

 

 人々を魂を利用したのならば、元に戻せる方法があるという希望的観測を抱いて妖狐に向かうが、妖狐の前にはロドンさんが立っており、最後のトドメを刺そうと刀を突き刺そうとしていた。

 

「やめろロドンさん!」

 

 重く鈍い足を動かし、倒れる妖狐とロドンさんの間に入り、妖狐を守るように腕を広げる。

 

「もう妖狐には抵抗する力も無いです!」

「そいつは不死身だ。時が経てば力を取り戻し、また牙を剥く。そもそもこいつは、重桜を我が物顔で汚した奴だ。そんなヤツを守るのか、お前は」

 

 確かに、妖狐のやった事は許されないし、俺自身も許さないと思ってる。

 

 償えきれない罪を犯したのもわかっている。

 

「けど、命を落とすところを黙って見ている訳には行かない」

「こいつは多くの民達の命を踏みにじったんだぞ」

「分かってます! だから、その責任を取ってもらう」

「何……?」

 

 ロドンさんに背を向け、倒れている妖狐を見つめる。

 髪は乱れ、炎の煤で顔が黒く汚れながらも確かな呼吸があり、虚ろな目で俺を見る。

 

「妖狐、ここにいる魂を元に戻す方法を教えてくれ」

 

 しかし妖狐は答えず、虚ろに空を見上げていた。

 ダメージが残っているのか、喋られる状況では無いのかと、妖狐の容態を確認しようとしたその時……

 

まだ終わらぬぞ……

 

 突然妖狐の瞳孔が開き切るほど目が開けられ、とても人とは思えないおぞましく、恐ろしい目を向けながら、糸の切れた人形が自力で立ち上がるかのように動き出した。

 

「支配できぬなら……滅びてしまえ!」

 

 口が裂けそうなほど口角を上げる妖狐の狂った笑みに危機感を覚えてその場から離れると、上空に何かあると初めて分かった。

 

 妖狐が見上げる空には、巨大なエネルギーの塊が蠢いていた。

 

「あれって妖狐が発射させようとした奴!?」

 

 上空のエネルギーが突然現れた空間の裂け目を通ってこの海域から消え、残ったのはエネルギーの余波から発せられた熱だけが漂わせ、妖狐もその裂け目からこの海域から姿を消した。

 

 空間の裂け目の向こうにはもう一つの空と、一瞬見えた艦載機から考えると、あの向こうは通常海域だ。つまり、あのエネルギーが向かったのは……! 

 

「っ……!」

 

 急いで通常海域に戻るゲートを作り、島風に貸していた艤装を戻す。

 

「先に戻る! 雲仙さん、妖狐を頼みます!」

「くはははは……もう、遅い……」

 

 無駄な努力をあざ笑う妖狐を無視し、ゲートを通る。

 

 景色が揺れ動き、空が青く、海色の海がひろがる。

 

「優海!? どうしてここに!?」

「アレを止めにきた!」

 

 俺の戻りに早速気づいたのは赤城姉さんで、他のKAN-SENの皆は突然現れたであろう上空のエネルギーに注目していた。

 

 エネルギーが徐々に膨張し、エネルギーが向かう先は恐らく重桜本島だろう。

 

 あのエネルギーが重桜に当たったら、間違いなく重桜は地図から存在しなくなる。

 

 いや、それで済んだら御の字だろう。あのエネルギーの塊がもしも地表に衝突すれば、重桜だけじゃなく、近くの陣営にも被害が及ぶ。

 

 膨張し続けるエネルギーは、もはや制御を失って今にも発射されそうな勢いだ。

 

「……やるしかない!」

 

 自前の武器を1番威力の高い両手銃へと変形させ、武器とイクサバの艤装に直結させ、限界以上の出力を持ったビームライフルへと変形させる。

 

 それだけじゃない、ズムウォルトとクウブのエネルギーも繋げ、これでセイレーンの艤装2つ分と俺の艤装、武器の元々のエネルギーが合わさった出力が出せる。

 

「これが、今俺が出せる全力の攻撃だ……!」

 

 衝撃に備える為に腰をおとし、ライフルの銃口に青白い光が溜まっていく。

 

 エネルギー充填50……60……80……100と溜まっていく中、更に限界を超えさせる。

 

 110……130……180……200……! 

 

 エネルギーの充填が限界突破の200%を達成した瞬間、黒い奔流が咆哮のように空を切り裂き、地平線を焼き尽くす勢いで重桜本島へと迫っていく。

 

「滅びろぉぉぉ!!」

 

 その巨大な光はもはや一筋の赤黒いビームだったが、怒りと憎悪が凝縮された呪いそのものの様に思えた。

 

 ビームが発射されたと同時に引き金を引き、限界を超えた出力の青白いビームを放つ。

 

 発射と同時に、俺の背後から巻き起こった爆風が、全身を裂くように吹き抜ける。

 

 光と光が衝突し、天地が振動し、海が荒れ狂う波を引き起こす。

 

 衝突点を中心に、世界が引き裂かれたかのような轟音が響き、二本のビームは互いに押し合い、衝突の余波が次々とKAN-SEN達に降り注ぐ。

 

「グッ……くっそぉぉ……!!」

 

 妖狐との戦闘のダメージが残っており、思ったように力が出せない。

 

「くっはっはっは!! そのまま憤怒の焦土と化すがいい!!」

 

 それに比べ赤黒のビームは一本のまま、確実に俺の光を削り取るように迫ってくる。

 中心点がこちらに傾き、ビームの熱と衝撃が傷ついた体を抉るように襲いかかる。

 

 その重圧は肉体を焼き、骨を軋ませ、肺を焦がす様に苦しませ、艤装の装甲が少しづつ剥がれ落ちると同時に体が切り裂かれるように痛む。

 

「まだだ……持ち堪えてくれ、俺の艤装と体……!」

 

 武器を構える腕は下ろさず、艤装がもう限界と叫ぶ様な

 火花を散らさせながらも、諦めずに耐え続ける。

 

 だが、その諦めの悪さを嘲笑うかのようにビームは押し返され、赤黒の光が青白の光を飲み込んでいく。

 

「……もう、ダメなのか?」

 

 ごめん、皆……。

 

 心の中で多くの人に謝ってしまう。助けられなくてごめん、守れなくてごめん。

 

 せっかくまた立ち上がれたのに……俺は結局、誰かのことを守れなかった。

 

 悔しさと無力さに押しつぶされ、目の前が真っ暗になったその時、目の前に小さな炎が灯った。

 

「諦めないで、優海」

 

 耳元に優しくて暖かい声が聞こえると、炎は大きくなり、数を増やす。

 

 緋色の炎、紅の炎、蒼の炎、蒼穹の炎が俺の周りを囲み、真っ黒だった景色が元に戻り、隣には天城母さんと赤城姉さん、俺の後ろで支えているのは、加賀姉さんと土佐姉さんだった。

 

「貴方だけにもう重荷を背負わせたりはしないわ!」

 

 赤城姉さんが隣で下がり続けていた腕を支えてくれる。

 

「立て! お前はここで終わるような奴ではないはずだろう!」

 

 後ろで加賀姉さんが膝を付いた体を起こし、迫り来る衝撃を一緒に背負ってくれつつも激励してくれる。

 

「弟の為に姉の私達が居ることを忘れるな。命を無駄にしたら、地獄の果まで追い詰めてやるからな!」

 

 土佐姉さんが俺の命を拾うように支え、その言葉で崩れかけた意識がわずかに引き戻してくれる。

 

「優海、もう少しです。最後にあの憎悪にまみれた力を打ち消す程の力を爆発させましょう」

「……でも、もう力が……」

「大丈夫、私達家族がついています」

 

 隣で天城母さんの手に触れると、母さん達の手から細くても力強い光が俺の中に流れ込む。

 

 光を受け取ると同時に体の底から力が沸き上がり、俺が放った青白い光は、まるで炎を宿すかのように緋色へと変わっていく。

 

 緋色の光は紅の炎と蒼炎の炎を纏わせ、妖狐の赤黒の光を押し返していく。

 

「な、なんじゃ!? 何が起こって……!?」

 

 必死に光を押し返そうと、妖狐は力を出し惜しみせずに挑むが、俺達の力には到底及ばなかった。

 

「お前の怒りや憎しみで、俺達の重桜を滅ぼされてたまるかぁぁぁぁ!!」

 

 最後の一押しで赤黒の光を飲み込み、俺達の光は妖狐を飲み込みながら、空を覆う雲を吹き飛ばす。

 

 吹き飛ばされた所から太陽の光が差し込み、雲一点の無い晴天が戦いの幕を下ろすかのようだった。

 

 限界を超えた出力を出してしまい、ライフルの銃口は焼け爛れ、イクサバも半分以上の機能が停止してしまった。

 

「お……終わった。俺……重桜を守れ……た……」

 

 同時に俺も体の力が抜け、そのまま仰向けになって倒れると、母さんが体を支え、姉さん達が必死に酸素を取り込む俺を心配そうに見つめる。

 

「……お疲れ様です。優海」

 

 戦闘が終わり、溜め込んでいた感情を溢れ出すかのように涙を流し、俺を抱きしめる。

 

「おかえりなさい、優海」

「…………ただいま」

 

 心が壊れた時でも一緒に居てくれた母親の元に、今この瞬間、ようやく帰る事ができた。

 

 血は繋がっていなくても、暖かいこの家族の居場所に……。

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