もしもアニメのアズールレーンに指揮官が出てきたら〜2nd season 海上の誓い〜 作:白だし茶漬け
潮風が、開け放した窓から執務室へ吹き込んだ。
髪を撫でていく風と一緒に、懐かしい潮の香りが鼻をくすぐる。
革張りの椅子に身体を預け、くるりと一回転する。
赤い絨毯。
漆塗りの資料棚。
使い古した羽根ペンに、指紋の残ったタブレット。
何もかもが懐かしい。
ここはアズールレーン基地の執務室。
指揮官として何百、何千という書類と格闘して、ベルファストに紅茶を淹れてもらって、時には皆に仕事を押し付けられて。
実家の次くらいには、思い出の詰まった場所だ。
胸元へ手を伸ばす。
指先に触れたのは、金色の錨を象ったバッジ。
少し前まで、俺の手元には無かった物だ。
「……帰ってきたんだなぁ」
思わず、そんな言葉が漏れた。
重桜での戦いから数週間。
俺は再び、アズールレーンの指揮官に戻った。
――ヤークト・プロイドの手によって。
「…………」
椅子の背もたれに身体を預けながら、天井を見上げる。
あまりにも簡単だった。
俺を追い出した側に近い人間が、何の条件もなく指揮官の座を返した。
もちろん、監視しやすくする為だとは本人の口から聞いている。
だけど。
本当に、それだけなのか。
指揮官選別学校時代の記憶を辿る。
最初に抱いた印象は――影のような人だった。
柔らかな口調。
誰に対しても絶やさない笑顔。
座学、射撃、指揮能力、そのどれもが高水準。
当時の俺でさえ、ついていくのが精一杯だった。
何度か助けられたこともある。
それでも。
昔から俺は、あの人が苦手だった。
笑っているのに、何を考えているのか分からない。
誰かを褒めているのに、その人自身を見ているようには思えない。
そして今なら分かる。
ヤークトは――KAN-SENを道具としか見ていない。
「……道具、か」
無意識に拳へ力が入った。
コードを使い、KAN-SENの意思すら奪う。
それを必要なことだと言い切れる人間。
そんな男が俺を指揮官へ戻した。
不気味じゃないはずがない。
――コンコン。
考えを遮るように、扉が叩かれた。
「ご主人様。ベルファストです」
聞き慣れた声だった。
それだけで、強張っていた肩から少し力が抜ける。
「どうぞ」
扉が開く。
そこにはタブレットを胸元に抱えたベルファストが立っていた。
「会議の準備が整いました。皆様、既にお待ちでございます」
「もう?」
時計を見る。
開始十五分前。
「相変わらず早いなぁ……」
「ご主人様をお待たせするわけには参りませんので」
「いや、俺が待たせる側なんだけどね」
苦笑しながら席を立つ。
ベルファストと共に廊下へ出ると、また懐かしい景色が広がった。
赤い絨毯。
海を映す大窓。
慌ただしく行き交うKAN-SEN達。
気付けば俺は、きょろきょろと辺りを見回していたらしい。
隣を歩くベルファストが、小さく笑った。
「何か?」
「いいえ。ただ――」
ベルファストは前を向いたまま、どこか嬉しそうに微笑む。
「本当に、お帰りになられたのだなと思いまして」
「…………」
その言葉に、胸の奥が少しだけ熱くなった。
「……うん。ただいま」
「はい。お帰りなさいませ、ご主人様」
やがて会議室の前へ辿り着く。
扉へ手を伸ばそうとした――その瞬間。
俺より先に、ベルファストが一歩前へ出た。
「自分で開けるからいいのに……」
「これもメイドのお勤めでございますので」
「そうなの?」
「はい」
凛とした笑みを浮かべ、ベルファストが扉を開く。
その先には、円卓を囲む九人のKAN-SEN達がいた。
中央には巨大なホログラム。
その周囲を囲むのは、世界各地を代表する者達。
ユニオン。
ロイヤル。
重桜。
鉄血。
東煌。
アイリス。
ヴィシア。
サディア。
北方連合。
俺が入った瞬間、一斉に視線が集まった。
「ようやく来たわね、下僕!」
「待っていました、同志指揮官」
「エリザベス。ソユーズ」
久しぶりに聞く呼び方に、思わず笑ってしまう。
「二人とも元気そうで良かった」
「当然でしょう? 誰に向かって言っているのよ」
「同志も以前より顔色が良くなったようで何よりです」
軽く挨拶を交わし、一番奥の席へ着く。
ベルファストも俺の後ろへ控えた。
全員の顔を見渡す。
味方だった人。
敵だった人。
一度は刃を向け合った人。
それでも今は、同じ円卓を囲んでいる。
――だったら。
もう一歩くらい、進んでもいいはずだ。
「これで全員だね」
軽く咳払いをする。
「多分、俺に言いたいことは沢山あると思う」
何人かがこちらを見る。
エリザベスなんかは「当然よ」とでも言いたそうな顔だった。
「それについては後で全部聞く。怒られるのも覚悟してる」
「当たり前よ!」
「やっぱり怒るんだ……」
少しだけ空気が緩んだ。
だけど、すぐに表情を戻す。
「その前に。今、俺達が置かれている状況を確認したい」
ベルファストがタブレットを操作する。
中央のホログラムが切り替わり、世界地図が映し出された。
赤く表示された地域がいくつもある。
「オロチとの戦いが終わって、四大陣営がようやく歩み寄ろうとしていた」
そこに現れたんだ。
かつて英雄と呼ばれた者達。
「――テネリタス」
ホログラム上に、その名が表示される。
「マーレ・テネリタスの宣戦布告以降、世界は大きく三つに分かれた。俺達アズールレーン。セイレーン。そしてテネリタス」
これまで彼らは、ほぼ全ての陣営に姿を現している。
その中でも被害が大きいのは鉄血、サディア、そして重桜。
だが。
「行動に謎が多い」
ビスマルクが腕を組んだ。
「テネリタスは各陣営の中枢を攻撃している。だが、都市そのものへの無差別攻撃はほとんど行っていない」
「うん」
俺も頷く。
「俺もそこが引っ掛かってる」
もし本当に世界を滅ぼしたいのなら。
テネリタスの戦力なら、もっと簡単な方法はいくらでもあるはずだ。
都市を焼く。
インフラを破壊する。
物流を止める。
だけど、彼らはそれをしなかった。
「……少なくとも」
俺は地図を見ながら言う。
「無差別に命を奪いたいわけじゃない」
「けれど、各陣営の中枢は容赦なく潰しているわ」
エリザベスが眉を寄せる。
「随分と都合の良い博愛主義ね」
「だから分からないんだ」
守る時もある。
殺す時もある。
時には俺達と共闘すらした。
「マーレさんは確実に【エックス】を警戒している。だけど……それだけじゃない」
もう一つ。
何か別の目的がある。
そんな気がしてならない。
「その前に」
ヨークタウンが手を挙げた。
「一つ確認してもいいでしょうか」
「どうぞ」
「先程から出ている――【エックス】とは、一体何なの?」
室内が静まり返った。
当然の疑問だ。
「それについては……俺より詳しい人がいる」
何人かの表情が険しくなる。
俺はベルファストを見る。
彼女が小さく頷き、端末を操作した。
会議室中央のホログラムが一度消える。
そして。
黒い影が投影された。
巨大な触手。
人の姿を模した上半身。
見間違えるはずもない。
「ごきげんよう」
セイレーン。
オブザーバー。
その姿が映し出された瞬間、空気が変わった。
何人かが咄嗟に立ち上がる。
艤装を展開しかけた者すらいた。
「待って!」
俺が声を上げる。
「彼女を呼んだのは俺だ」
「優海」
低い声がした。
長門だった。
「説明はしてもらえるのであろうな?」
「もちろん」
「……ならば聞こう」
長門がそう言うと、皆も渋々ながら席へ戻る。
ただし警戒は解かれていない。
オブザーバーはそんな視線など気にも留めず、愉快そうに笑った。
「随分と歓迎されているようね」
「今までやってきたこと考えたら当然でしょ……」
「ふふ。それもそうね」
そして。
オブザーバーは言った。
「では改めまして。エックスについて説明しましょうか」
中央のホログラムに、見たことのない映像が表示される。
黒い何か。
生物なのか。
兵器なのか。
それすら分からない異形。
「端的に言えば――この星を支配しようとしている敵性存在よ」
「侵略者……ということか?」
ビスマルクの問いに、オブザーバーは肩をすくめた。
「そう理解してもらって構わないわ。もっとも、貴女達が想像する侵略者とは随分違うでしょうけれど」
誰も言葉を発しない。
当然だ。これまで人類最大の敵だと思われていたセイレーン。
その更に向こう側に、別の敵が存在する。
そして――。
「貴女達KAN-SEN。そして私達セイレーン」
オブザーバーが笑みを消した。
「私達は元々、同じ敵と戦う為に生み出された存在よ」
「……何ですって?」
エリザベスの声から、いつもの余裕が消える。
「私達の旧称は――アンチエックス」
誰も動かない。
「つまり」
ヨークタウンが静かに尋ねる。
「貴女達は最初から、人類を滅ぼす為に作られた存在ではない……?」
「ええ」
「なら、これまでの戦いは何だったんだ!」
ジャン・バールが机を叩く。
オブザーバーの表情が僅かに曇った。
「それを説明すると、とても長い話になるわ」
「なら簡単に言え」
「――失敗したのよ」
静かな声だった。
「私達も。私達を作った人間も」
「どういう事だ」
「私達を作った創造主がいた世界は、エックスに敗北した。そして私たちはそのエックスに対抗する為、様々な次元を観察してきた」
誰もすぐには返せなかった。
俺には、その言葉の意味が少しだけ分かる。
コネクターから引き継いだ記憶。
引き出しの奥底へ押し込まれているような、膨大な記憶。
思い出そうとすれば見える。
だけど。見ようとしなければ、何も見えない。
「優海は知っていたのか?」
長門に尋ねられる。
「……全部じゃない」
正直に答える。
「コネクターの力を受け取った時、記憶も一緒に入ってきた。でも……普段から全部覚えてるわけじゃないんだ」
頭の中にある。
だけど、自分の記憶ではない。
そんな奇妙な感覚。
「必要になった時に、引き出しを開けるみたいに思い出す。そんな感じかな」
「便利なのか不便なのか分からないわね」
エリザベスが呆れたように言った。
「とにかく、セイレーンは色んな次元で色んな実験をしている。この次元での実験内容は……俺とテネリタスだ」
「そう、コネクターによるKAN-SENの強化と、オロチによる強化……これが主軸だったのだけど、もうひとつ別プランとして、人間にメンタルキューブを適応させることにしたの」
片やKAN-SENとの強化、片や人間自身の強化。
皮肉にもこれが衝突し、今の状態になっていた。
「この世界は限りなくエックスに対抗出来る力を持っている。私達は何としてもそのデータを受け取り、エックスを倒したいのよ」
「それがそららの条件か」
「ええ。その為ならいくらでも戦力は出す……って、上は言ってるわ」
俺がセイレーンとの同盟を必要だと考えた、もう一つの理由だった。
テネリタス。
エックス。
今まで通りの戦力だけでは足りない。
「……セイレーンと組む」
ジャン・バールが低く呟く。
「本気なんだな?」
「本気だ」
迷いはない。
「信用出来ないのは分かる」
今まで何度戦ってきたか分からない。
傷付けられた人もいる。
失った人だっている。
「俺だって、全部信じてるわけじゃない」
オブザーバーを見る。
「同じセイレーンの記憶を持っていても、こいつが何を考えてるのか分からない時はある」
「あら酷い」
「事実でしょ」
「否定はしないわ」
だけど。
「見ている先だけは――同じだと思ってる」
俺は席から立った。
「セイレーンもKAN-SENも、本当は同じ願いから生まれた」
世界が良くなってほしい。
人類が生き残ってほしい。
平和になってほしい。
そんな願いから。
「セイレーンを作った人達は、人類を過酷な環境へ追い込み、進化させようとした」
「ええ。戦いで人は進化した、それは歴史が証明してるわ」
「それは間違いだ」
苦しめることが進化だとは思わない。
誰かを踏み台にすることが正しいとも思わない。
「人類の進化って、そんなものじゃないと思うんだ」
分かり合う。
失敗する。
喧嘩する。
それでも、もう一度手を伸ばす。
「そうやって少しずつ前に進むことが、俺は進化だと思う」
かつて敵だった重桜とユニオンが。ロイヤルと鉄血が。
今こうして同じ机を囲んでいるように。
だったら。
「セイレーンとも出来るかもしれない」
俺は頭を下げた。
「信じろとは言わない」
それだけは違う。
傷付けられた人に、忘れろなんて言えない。
「疑ってもいい。監視してもいい。条件だって付けていい」
それでも。
「一度だけ、一緒に戦ってみてほしい」
命令ではない。
「これは……」
指揮でもない。
「俺の願いだ」
沈黙。
誰もすぐには答えなかった。
当然だ。そんな簡単に決められることじゃない。
やがて。
「顔を上げよ、指揮官」
長門の声が聞こえた。
顔を上げる。
「長門……?」
「余はセイレーンを信用しておらぬ」
オブザーバーを見る。
「重桜が奴らによって何を失ったか。忘れたわけではない」
「ええ。当然でしょうね」
「だが」
長門は俺を見る。
「お主のことは信用しておる」
「…………」
「それで十分だ」
その言葉を皮切りに、ソユーズが口を開いた。
「北方連合も条件付きで賛成します。情報の完全共有。そして同志指揮官の独自行動の禁止。最低限、この二つは必要です」
「鉄血も異論はない」
ビスマルクが続いてくれた。
「確かに、下僕一人に格好をつけさせるのも癪ね」
「それって……」
「勘違いしないで! 貴方を信じただけよ!」
全員が賛成したわけじゃない。
納得していない者もいる。
オブザーバーへ向けられる視線には、未だ敵意が残っている。
それでいい。
今日いきなり全てが変わるなんて思っていない。
これはただの――最初の一歩だ。
「どうやら、話は纏まったようね」
オブザーバーがこちらへ近付いてくる。
黒い触手が揺れる。
昔なら、間違いなく武器へ手を伸ばしていただろう。
だけど、今は違う。
「これからは共同戦線だ」
俺は手を伸ばし、オブザーバーがその手を見る。
「元の関係に戻るだけよ」
冷たい手が重なった。
「どうせなら、お姉様らしく振る舞ってあげようかしら?」
「残念だけど、姉ならもう間に合ってるよ」
その瞬間。
「誰が姉ですって?」
背後から、恐ろしく低い声が聞こえた。
振り返る。
そこには笑顔の赤城姉さん。
ただし、目だけが笑っていない。
「ふふ。冗談よ」
「本当でしょうね?」
( 前途多難だ……だけど。)
それでも俺達は、初めて同じ方向を向いた。
KAN-SENと。人類と。
そして――セイレーンが。
同じところを向いていた。
「ですが指揮官、いくらなんでも私達とセイレーンの指揮は無理では……」
「それは……」
「セイレーンの指揮は自分にお任せ下さい」
俺以外の男性の声に、顔を向ける。
会議室の扉が開かれた先にいたのは、貫禄ある軍服の人だった。
「オセアンさん!」
「お久しぶりです、皆さん」
「あら、来たのね、私達の指揮官」
「どういうことですか?」
「前々から話をしていたのよ。オセアンをセイレーンの指揮官にしようって」
「自分もそれには賛成していました」
「じゃあ……結局セイレーンとは協力する形になる事は決まってた……?」
「まぁ、そうですね。」
苦笑いが似合う、微妙な空気が流れた。
「えっと……俺、この判断結構深く考えたんですけど……」
「自分もですよ、優海君。ですが君ならこうすると予想はしていましたので、先に手を打って起きました」
「流石というかなんというか……本当に未来が見えてるんじゃないですか?」
「まぁ、伊達に歳をとっていませんから」
「……敵いませんね」
和やかな空気はオセアンさんの咳払いで、終わった。
するとオブザーバーは端末を使い、中央のホログラムにいくつか印を付けた。
「この座標は?」
「私達が元いた次元……α世界と呼称し、そのα世界線とこの世界を結ぶ橋があるの。マーレ達はそこを壊しに行っている」
「まさか、重桜の大神木も?」
「この次元ではその役割もあるわ」
映し出された座標は3つ。
1つはユニオンのNYシティ近くの海域。
2つ目はロイヤルのスカパ・フロー近海海域
最後の3つ目はアイリスの聖都だ。
「因みにこの座標にあるものが全部破壊されたらどうなるんだ」
「この世界が観測できなくなり、私達が介入する事が出来なくなる」
「なんだ、メリットだけしかないじゃないか」
「あら、ならセイレーンの存在無しでこの後の事をどうするつもりなのかしら」
「この後だと……?」
「ふふっ、気にしないでちょうだい。この場では関係ないことだから」
そう言って、オブザーバーはこれ以上は喋らないと言わんばかりに静観した。
「ともかく、テネリタスが狙っている場所が分かっていれば、対処のしようがありますね」
「だけど、こちらからも打って出なければジリ貧になりますよ」
オセアンさんの指摘はごもっともだ。
だけど相手の本拠地等が分からない限り、打つ手がない。
「それこそ、奴の出番では無いのか?赤城」
「……耳が痛いですわ、長門様」
「オロチさんですよね」
向こうの母艦はオロチだ。なら、元は同じ艦であるオロチさんなら何かしら感じ取れるものがある筈だ。
今までそうしなかったのは、そうする暇が無く、解析もままならなかったが、セイレーンが味方についた今なら、それも可能な筈だ。
「とりあえずは指針は決まりましたね」
「はい。これから、この3つの座標の防衛艦隊とテネリタスの母艦に攻撃する艦隊の2艦隊に分けようと思う」
2艦隊と言っても、正確にはもっと細かく艦隊は分けられる。
ユニオン、ロイヤル、アイリスを担当する防衛艦隊だけでかなりの艦隊数が分けられるし、攻撃艦隊も相手が未知数なので、最低でも3部隊は欲しい。
しかも問題なのは指揮官の数だ。
仮に攻撃部隊の指揮が俺だとすれば、残りの艦隊をジンさんとオセアンさんで賄えるかと言えば……厳しいだろう。せめてあと1人、指揮官が欲しい。
「ともかく、現状は打開策を練るしかない」
そうして会議は終わり、各陣営はそれぞれの対抗策を練っていった。
いつの間にかオブザーバーも居なくなり、会議室にはいつしか俺とベルファストしかいなかった。
「お疲れ様ですご主人様」
「うん。でも、これから更に大変になるよ」
「ですので、ご主人様はしばらくお休みになってください」
「休みかぁ、なんか気が引けるなぁ」
「復帰されて間もないのです。……ご所望であれば、無理やりにでもお休みさせていただきますが」
陰のある笑みに思わず腰が引ける。この笑顔……いつしかエンタープライズを無理やり食堂に連れていったあの頃を思い出す。
「や、休む!休みますから……」
「本当ですか?」
「本当本当!」
「…………休んでないかどうかは直ぐに分かりますので、もし破ったら……」
「や、破ったら……」
「鎖を繋いででもお休みさせます」
「ひっ」
思わず悲鳴を出してしまった。
「では、何かあればいつでもお呼びください」
ベルファストは頭を下げた後、会議室を出ようとするとーー
「ご主人様」
「ん?」
「私はいつまでもご主人様の味方です」
そう言って、ベルファストは笑顔でこの場をあとにした。
「……うん」
もう忘れない。周りには味方でいてくれる人がいることを、もう忘れない。
だから守りたい。一緒に、そんな人が生きるこの世界を。
「……よし、行くか」
この後の予定は決まっていた。俺には一人、会わなければいけない人がいる。
◇
薄暗い廊下を照らしているのは、淡い光を出している電光。
何も無く、ただ真っ直ぐで平坦な道を歩いていくと、一番奥に厳重な扉があった。
扉の上には監視カメラがあり、カメラが動いてこちらを見ると、厳重なロックが解除された。
「開けたよ」
「ありがとうございます。……ごめん、ここで待ってて」
奥からスピーカー越しの声が聞こえる。
懐かしい声だった。
付き添い人を待たせて扉を開くと、そこは様々なデータがホログラムで管理された、研究室だった。
膨大な情報データが宙に浮く中、ただ1人の人間が椅子に座り、そのデータを見つめていた。
「お久しぶりです」
「……ん」
俺の声に反応し、椅子が回転した。
ぼさついた薄紫色の髪、サイズのあっていないダボダボな白衣には見覚えがあった。
「元気そうですね、リフォルさん」
リフォル・ネロ。俺の親友であり…………
俺を作った人
「……ぜーんぶ見てたよ。思い出したんだ」
「まぁ、色々あって」
「てことは、私がこの世界の人間じゃ無いって事も?」
俺は静かに頷いた。
「ジン達には?」
「伝えてません。というより、伝えなくていいかなって」
「まっ、私がα世界……終わった別の時間軸に来たって言っても、信用してくれ無さそうだし」
そう言い、リフォルさんは研究を再開した。
「んで、何しに来たの?」
「伝言と、ある人が貴女にお礼をしたいって」
「……伝言から聞こっか」
「コネクターから、自分を作ってくれて……生み出してくれて、ありがとうって」
リフォルさんの手が一瞬止まった。
「別に、ただエックスを倒す為に造っただけだし」
「それでもです」
「で、お礼の方は?」
「連れてきてます。良いよ、入って」
俺の声を聞き、もう一度扉が開けられた。
そこに現れたのは、天城母さんだった。
「こんにちは、こうして顔を合わせるのは久しぶりですね」
「だね。空母になって、元気そうじゃん」
「はい。もう病気の心配もありません」
「そりゃよかった」
「……リフォルさん、優海を生み出し、気にかけてくれてありがとうございます」
母さんは頭を下げ、深く感謝を伝えた。
「僭越ながら、私はこの子を息子のように接して来ました。限りはありましたが、貴女に恥じないよう、育ててきたつもりです」
「うん。立派になった。本当、母親らしいじゃん」
「いえ、恐らくですがそちらも優海の事をいつも見守って来たのでしょう。私が居なくなった後の事は優海から聞きましたから」
「まぁ……裏からちょくちょく手は打ったけどさ」
確かに今思えば、選別学校の時も、俺が指揮官になった時も、事はスムーズに動いていた。
それがリフォルさん……セイレーン側に何かしら動きを出していたとなると、納得出来ることはある。
「自分が生み出した存在に対し、責任を取るということを、私は親だと考えています。そういった意味では、やはり貴女もある意味では母親ですね」
「ちょ、やめてよそれ。母親なんて柄でもないし」
「ふふっ、失礼しました」
「要件はそれだけ?」
「はい。今日はこれで失礼します」
「優海は?」
「俺も……あぁでも、最後に1個だけ」
「ん、良いよ」
「……俺にとって、母さんは天城母さんだけど。それでも、俺を……俺を造って、ここまで育ててありがとう」
「お母さん」
立場とかは違うけど、この人も紛れもなく俺の母さんだ。
お礼は言い尽くした。また会えるはずだ。
別れの言葉を言い、俺と母さんは母港へと戻った。
「…………まさか、自分が造った兵器からありがとうや、お母さん。なんて言われるなんてね」
「貴女が見ようとしていた世界、何となく分かった気がするよ。アンジュ博士」
どのテネリタスが好き?
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