もしもアニメのアズールレーンに指揮官が出てきたら〜2nd season 海上の誓い〜   作:白だし茶漬け

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ついにこの小説も30話になりました。
お話もいよいよ9話に突入しました。
今まで書いた小説を読み返すと大分書き方変わっな〜と思いましたね。いつの間にか一万文字も書いてますし。




遺した手紙と日記と信頼と

第30話【遺した手紙と日記と信頼と】

 

何も感じない。景色が灰色に見える。何もしたくない。

僕は相手がいない将棋盤をずっと見つめている。駒を一つも動かさずただずっと天城お姉ちゃんの事を思い出す。

優しくて、暖かくて、時々怖いけど大好きな僕のもう一人のお母さんだった。でも居なくなった。また家族が居なくなってしまった。

もう嫌だ...天城お姉ちゃんが居なくなった喪失感で目の前が真っ暗になる。そんな時、相手側の駒が動いた音がした。天城お姉ちゃんが帰ってきたと淡い期待を持って顔を上げるとそこに居たのは加賀お姉ちゃんだった。

 

_どうした。次はお前の番だぞ。

 

僕は加賀お姉ちゃんを虚ろな目で見つめる。何故なら加賀お姉ちゃんの服が変わって赤城お姉ちゃんのと似ているのと何だか変だけど、

天城お姉ちゃんの事を感じられたからだ。そんなはず無いのに。

僕は加賀お姉ちゃんに言われるがままに駒を動かす。勿論何も考えてない。だから結果は加賀お姉ちゃんの圧勝だった。

 

_何だその動かし方は。そんな事では天城さんが浮かばれないぞ。

 

天城お姉ちゃんのような説教と天城お姉ちゃんの名前で反応をする。

 

_高雄にも鍛錬で言われたはずだ、立てとな。そして歩き続けろ。これは天城さんから言われたはずだ。

 

加賀お姉ちゃんが言った言葉で高雄お姉ちゃんの鍛錬の事と天城お姉ちゃんから怒られたあの将棋を思い出す。

そして加賀お姉ちゃんは服の裾から一枚の紙を将棋盤の上に置く。

 

_天城さんが遺した手紙だ。お前宛てだからしっかりと読め。

 

そう言って加賀お姉ちゃんはこの場から立ち去った。将棋盤の上に置かれた手紙を広げ一語一語しっかりと読む。

 

 

優海へ

この手紙を読んでいるという事は私はもう居ないのでしょうね。

きっと今貴方は泣いて、悲しんで、喪失感でいっぱいでしょう。

でも、貴方なら乗り越えられます。私の教えを心に刻み、忘れてさえいなければきっと乗り越えられます。

諦めずに一歩ずつ歩んで行けば行きたいところにも手が届きます。

だから歩み続けてください。赤城や加賀もいます。

見守っていますよ。

 

 

 

手紙を汚さないように手紙を将棋盤の上に置いて涙を流す。

これまで天城お姉ちゃんと過ごした日々を思い出す。

優しかった時や勉強をした日、花火をした時、将棋をした日々を忘れること無く鮮明に思い出す。たった二年だったがそれでも天城お姉ちゃんの存在が僕をここまで来させてくれた。

僕は靴を履き替え、外に出る。晴れた日差しの中で空を見上げ決意を抱く。

 

僕、頑張って歩いて見せるよ!だから見ていてね。

 

青空を見上げ決意を決める。だってそうじゃないと天城お姉ちゃんが悲しむからと思うからだ。僕は生きていた中で一番空を見上げていたと思う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「俺をこのまま指揮官にするか、セイレーンとして沈めるかどちらか選んでくれ。」

 

俺は三日後、俺の全てを話す事にした。話し終えた後にここに来る奴とKAN-SEN達全員が俺の今後を委ねる事にした。

 

「ち、ちょっと待ってよ。いきなり言われても...」

 

ホーネットが俺の言ったことに戸惑い、焦ってしまう。

他の皆も同様の反応だった。だからこそ時間を与え、心の準備をさせる為三日の猶予を与えた。

 

「指揮官は何故私たちに指揮官の命運を委ねるんだ。」

 

ウェールズから戸惑いが隠しきれてない声色で俺に言う。

戸惑いを消そうとしてるのかウェールズは自分の腕を強く握っている服のシワからでもその強さはわかる。

 

「俺だと指揮官を続けたいって言うからな...そんな事したら不信感を抱いているKAN-SENが俺の事を信用してくれないしそうなれば俺の指示を無視して危険な目に遭わせてしまうかもしれない。」

 

俺が恐れているのはまさにそれだった。俺が全てを話した後に俺の我儘で指揮官を続けようとしても少なくともセイレーンと関わりがある俺に不信感のあるKAN-SENが危険な目に遭う。

例えば、命令を無視して危険な目に遭うこと。俺を背後から撃ったりして内部で暴動が起きたりなど考えられるケースはある。

 

「しかしご主人様。それでは指揮官に賛同する方が仮に多く、ご主人様が指揮官を続けることになってもそれに反対なさった方がいては意味があまりないように思われますが...」

 

ベルファストが言ってることはこうだ。

多数決で俺が指揮官を続けることになった。だがそれに反対の奴がいる限り、俺に対する不信感が消えた訳では無い。つまり、俺が自分で指揮官になりたいのと言ったケースとほぼ同じになるのだ。

だが、そうはならないのだ。何故なら俺は多数決だなんて一言も言ってないのだから。

 

「これは多数決じゃない。俺をセイレーンとして沈める意見が一人でもいれば俺はそいつに沈めてもらうからだ。」

 

「「っ!?」」

 

皆がどよめく。だがこれしか方法がないのだ。俺に対する不信感がある限り、そいつに危険が付き纏う。だからこそ一人でも俺を認めないその時が俺の最後だ。俺は皆のざわめきを無視するように部屋から出ていく。

 

「そういう事だ。この事を通達してくれ。それと...俺の味覚の事は口外しないでくれ。余計な心配はさせたくない。」

 

そう言って俺は困惑しているKAN-SEN達を無視して部屋を出る。

俺の命は最低でもあと三日となった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

指揮官が部屋から出たのにも関わらず部屋には沈黙が続く。

沈黙に耐えられずそわそわする者がいれば、黙って長考する者もいた。

 

「指揮官は本気なのかな...?」

 

沈黙を破ったのはホーネットだった。彼女が言ってることは指揮官が言ったことだ。指揮官を認めない人が一人でもいたら指揮官はその人に沈めてもらうと。勿論ホーネットは指揮官の事を認めている。共にすごした日もあり、指揮官の事は少なからず分かってはいた。

だが指揮官はセイレーンと関わりがあるかもしれない。

その現実にホーネットは自身の考えが揺らいでしまう。

 

「...本気だと思う。指揮官のあの目は本気の目だ。」

 

ホーネットの質問にクリーブランドが答える。彼女もまた、指揮官と日々をすごした一人だ。だからこそ揺らぐ。指揮官として彼を見るか、セイレーンとして彼を討つか。

結局の所その二択に迫られる。どうする事も出来ずに時間だけが過ぎていく。

手袋越しの拍手が突如として生まれる。手を叩いたのはフッドだった。

 

「皆様、ここは一旦お茶にしませんか?ベルファスト、準備をして貰えないかしら。」

 

彼女はこの雰囲気をどうにかしようと彼女はお茶会を勧める。

ベルファストはフッドの考えに気づいたのか手際よく紅茶を淹れ、皆に振る舞う。

 

「こういう時こそ優雅に決めなければなりません。折角指揮官が時間を与えてくださったのです。皆で話し合い皆で決めましょう。」

 

フッドは優雅に紅茶を飲む。彼女につられて皆も紅茶を一口いただく。なんとなくだが皆の雰囲気が少し落ち着いた気がした。

 

「ふぅ...少し取り乱しちゃったみたいですね。」

 

ヴェスタルが反省するように皆に視線を向けて言う。皆も同じように反省をして、ようやく先程の雰囲気が消える。ようやく、話し合いに持ち込めた。

 

「では、話し合いを進めよう。まず明石と言ったか。あなたの考えが聞きたい。」

 

突然指名された明石は驚き、紅茶を机の上に置く。ウェールズが明石を指名したのは今現段階で最も中立的な立場にいるためだ。重桜を抜け、指揮官とは少し関わりがある程度の彼女なら誰よりも中立に話せると思ったからだ。

 

「正直、明石はよく分からないにゃ。赤城がセイレーンと手を組んでいてそれを見て明石は消されそうになって...なりゆきでこの基地に入って...いつも通り商売してるにゃ。」

 

明石は彼女とってはまだ熱い紅茶を見つめ続け、ここに来ることになった事を思い出している。

 

「でも、指揮官は明石を助けてここに居させてくれたにゃ。明石はそんな指揮官を信じたいにゃ。」

 

彼女は紅茶に息を吹きかけるのを止めて紅茶を飲む。しかし、まだ熱かったのか明石は紅茶を口から離し、冷ますように舌を出す。

 

「つまり、貴方は指揮官を認めると?」

 

ウェールズの問いに明石は首を縦に振る。

 

「そうにゃ。というか皆も指揮官の事認めてるにゃ。だって皆は指揮官の名前を知っているのにも関わらず、皆は彼の事指揮官って呼んでるにゃ。」

 

明石の発言に皆は気づく。そう、この場にいる全員は指揮官の名前を把握しているのだ。だがそれは指揮官の本当の名前では無い。しかし、それは大して問題では無い。皆が指揮官と呼んでいる事に対して問題なのだ。勿論ずっとそう呼んでいた癖もあるかもしれない。

しかし皆は躊躇いも無く彼の事を指揮官と当たり前のように呼ぶ。

明石はこの事から皆は指揮官の事を認めていると思った。

 

「うん...あの時だって体を張って皆のこと守ってくれてたもんね。」

 

ホーネットが言ったあの時とはエンタープライズが敵味方問わずに攻撃した時だ。その時は指揮官は体を張ってKAN-SEN達を守ってくれていた。

 

「うん。私もこの基地で過ごした指揮官を信じたい!」

 

「私もご主人様に使える身...信じる以外の答えはありません。」

 

皆の意見が固まる。指揮官を認め、信じると。だがそれはこの場にいる者の意見だ。問題はこの基地にいる全員が指揮官の事を指揮官として見なければ指揮官は間違いなくその身を棄ててしまうだろう。

 

「皆にもこの事を知らせないと!」

 

「だが、説得までは大分かかるだろうな...」

 

この事...つまりは指揮官をどうするかという件だ。事情を知らせるのは簡単だが、指揮官に不信感のある人を説得するのには時間がかかるだろう。何しろセイレーンと関わりがあるかもしれない人物を簡単に信じられるとは考えにくい。

 

「それでしたらもうベルファストさんが動いていましたよ。」

 

ヴェスタルはベルファストに視線を送るとベルファストは机の上に数冊の日記帳を広げる。最初は皆何かの本だと勘違いしていたがベルファストが指揮官の日記帳だと告げると皆は驚く。無理もない。本を開くと文字がびっしりと書かれているのだから。まるで一つの小説だった。

 

「あ、この日付は私と指揮官が幽霊探しに出た日だ!いや正体はエルドリッジの電気だったけどね、指揮官は怖がっていたな〜!」

 

ホーネットは思い出す様に日記帳を見ながらその時の事を話す。

すると皆は興味しんしんで話を聞く。

 

「これは...私が付きっきりで秘書艦になった日だな。ふふっ、指揮官は案外恥ずかしがり屋だったな。」

 

ウェールズが指揮官が足を負傷させられ、そのサポートの為ウェールズがお茶会の権利を使い。この基地で初めての秘書艦となった日のことを思い出す。今思えば中々気恥しい行動をしたと本人は赤面しながら反省する。

 

「まぁ、私とシグニットの事まで...」

 

「こっちは私とエンタープライズちゃんとホーネットちゃんと一緒にサンドイッチを食べたことが書かれています。」

 

本人達が知らないこと、興味を持たせるもの、指揮官の日記はどれも皆を楽しませるものだった。

 

「ベルファストさんはこの日記帳を基地の皆さんに見させていたんです。指揮官はこういう人ですよって。」

 

ベルファストは勝手ながら指揮官の日記を他のKAN-SEN達に見せていた。指揮官のこれまでの事を書き記した日記を見せるとやはり興味を持った。何故なら指揮官はあまり自分の事を話さなかったからだ。

故に興味を持ったのだ。そして何より指揮官の事が知ることが出来る唯一の方法だった。

 

「皆様はご主人様の事を心配していました。ご主人様に対する不安感はあれど不信感などありませんでした。」

 

ベルファストは日記を全て回収しながらこれまでの事を話す。

皆は指揮官の事を信じていると言う。しかし、説得は続けた方が良いだろう。指揮官は一人でも自分の事を信じられなければその人に沈めてもらうと言ったのだから。

 

「とすると...問題はエンタープライズだな。」

 

当面の問題はエンタープライズの件だった。

この前の戦闘でエンタープライズは二度も指揮官を撃ったことから責任を感じもうこの数日部屋から出ていないのだ。声をかけようにもこちらの接触を拒絶する。

 

「説得しようにも出来ない状態だしね...」

 

「ならさ...指揮官に会わせたい人がいるんだ。」

 

ホーネットから合わせたい人がいると言う。その人物とは指揮官はまだ一度も会ったこと無い人物らしい。しかし、指揮官はこの基地のKAN-SEN達とは全員と交流していた。あまり交流をしてないと言えば新しく配属したばかりの【ノースカロライナ】【ワシントン】【ミネアポリス】の三人だろう。...いや、もう一人いる。その人はある戦闘がきっかけで部屋から出られない事を強いられていただから指揮官には一度も会っていない。ホーネットの口からその人物の名前を言う。

 

「指揮官にヨークタウン姉さんと一度会わせたいんだ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

_現時刻 重桜 横須賀鎮守府

沈んでいく夕日を見つめながら海を見つめる人達がいた。一人の少女を思いながら。

 

「綾波...敵に捕まっちゃうなんて...」

 

敵に捕まってしまった事の事実を嘆く夕立とそれを悲しみ誰よりも涙を流す雪風、雪風程では無いがその目には確かに涙を浮かべる時雨、そして助けられなかったことを後悔と己の無力さを痛感してる瑞鶴が、夕日で照らされている海を見つめていた。

 

「ごめんね、綾波を連れて帰れなくって。」

 

「い、いや瑞鶴さんの謝ることじゃ...」

 

時雨は瑞鶴を責めたりはしないが瑞鶴本人は自分の事を責め続ける。助けられなかったことは勿論、テンペストとエンタープライズに全く歯が立たなかった事が何よりも悔しいのだ。

 

「綾波大丈夫かな?いじめられてないかな?」

 

「雪風様と違って幸運じゃないからもしかして...びぇーん!!」

 

綾波が敵にいじめられていると考えるとさらに雪風は涙を流す。

時雨がこの場を治めようとするが、瑞鶴が雪風の大泣きにつられるように泣き、収集がつかなくなってしまった。

 

「私、殿だったのに...逆にあの指揮官や綾波に助けられて...」

 

さらに自分の不甲斐なさを痛感し瑞鶴は涙を浮かばせる。

 

「綾波だけご飯抜きだったら...」

 

「一人だけ肉食わせて貰えなかったら...」

 

「私がしっかりしていれば...」

 

「もうー!なんなのよ!この重たい空気ー!」

 

この重たい空気に時雨は収集がつかず、自暴自棄のように叫ぶ。その叫び声は周りへと響き渡った....

 

 

 

 

 

 

重い空気を漂わせているのは他にもあった。場所は変わり、長門がずっと居るこの屋敷に長門、陸奥、江風、そして戦闘の報告をしている翔鶴がいた。翔鶴は殿での傷なのか頭には包帯が巻かれ、右腕を骨折していた。

 

「結局赤城は戻らなかったのか...」

 

長門の表情に悲しみが見れる。あの後、重桜の艦隊は撤退を予後なくされ、赤城の捜索は打ち切りとなった。赤城自身がこの基地に戻っているかもしれないと思ったがどれだけ待っても結局赤城は帰ってこなかった。

 

「作戦の総指揮を務める赤城先輩を失い、黒箱はアズールレーンに奪われてたまま。極めて厳しい状況です。このまま計画を進めるのは危険です。」

 

これは翔鶴の意見では無い、あくまで艦隊が思った意見だった。

これまで赤城はオロチ計画の鍵となる黒箱、つまりは黒いメンタルキューブを使って量産型のセイレーンを使役していた。しかし、肝心のオロチ計画の全容は話そうとしなかった為、今回の戦闘においてセイレーンの量産型は終盤において全艦機能停止していた。

これが引き金となり、オロチ計画に不信感を抱くものが少なからずいた。

 

「しかし、加賀はオロチ計画の遂行を強く主張しておるが...怪しんでいるのか?加賀を。」

 

翔鶴は首を縦に振る。オロチ計画の全容を知るのは赤城だけでは無い、同じ一航戦の加賀も赤城と同じように知りながらも隠していたに違いなかった。現に今でもオロチ計画を進めるべきだと強く主張している。

 

「仲間を疑いたくは無いが...」

 

長門は赤城を失った悲しみに浸ることも許されず仲間を疑ってしまう躊躇が長門に押し寄せてくる。

 

「ね、ねぇ...あの子に優海君には会えたの...?」

 

「陸奥!」

 

陸奥はかつて一緒に遊んだ少年の名を呼ぶ。しかし、立場を弁えろと言うよに長門は陸奥の名を叫ぶ。しかし陸奥は止まらずに翔鶴に優海...つまりはアズールレーンの指揮官であるマーレの事を問い詰める。

 

「それでしたら...見てもらいたいものと預かっているものがあります。」

 

翔鶴は蒼龍から渡された手紙と一つの映像デバイスを出す。

 

「これは...?」

 

長門は映像デバイスに指を指す。このデバイスはどうやら明石が作ったものらしく戦闘映像が記録されるものらしい。翔鶴は映像を見せるとそこには指揮官が艤装を展開し戦っている映像が流れた。しかも...セイレーンの艤装をも展開しながら。

 

「全て事実で御座います。私と瑞鶴はこの人に助けられて無事に殿から戻ることが出来ました。」

 

翔鶴はあの時の事を包み隠さず話した。長門と陸奥は信じられないような顔で映像を見続け、江風は反応こそ薄いがチラチラと映像を見ていた。

 

「まさかあやつが艤装を...?有り得ん!あやつは人間なのだぞ!」

 

「...人間では無くセイレーンだとしたら?」

 

翔鶴は指揮官をセイレーンだと判断した。極めつけはやはりあのセイレーンの艤装だった。ただの人間が艤装を使いKAN-SEN達と同等に戦うなんて有り得ないのだから。

 

「...もうこの議論はよそう。して、その手紙はなんじゃ。」

 

「アズールレーンの指揮官から貰った物です。中を見ずに長門様に渡すようにと。」

 

翔鶴は左腕で手紙を拾い長門に渡そうとするが傷が傷むのかぎこちない動きをする。それを見かねた江風は手紙を受け取り、代わりに長門渡した。

 

「余に手紙とはな...ふむふむ....これは!」

 

長門は手紙の封をあけ、手紙を見ると目を丸くした。

 

「翔鶴もう良いぞ。下がれ。」

 

翔鶴は一礼をしてこの場を離れた。翔鶴が下がった後も長門は黙々と手紙を見続ける。

 

「神子様...手紙の内容はどのような物で?」

 

「私も優海君の手紙見たい!」

 

長門は陸奥と江風を近くまで来させ手紙を見せる。手紙を見た二人は長門と同じような反応する。

 

「あやつは...このような大層な事を考えていたのか...」

 

長門は手紙を綺麗に封に戻した後、巨大な桜の木を見上げる。

 

「余も...決断しなければな。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お待たせ致しました〜。」

 

赤い絨毯のような肌触りのする長椅子の上に注文した団子が運ばれる。上から桃色、白、緑の順で彩られた菓子はとても食欲をそそる。

プリンツ・オイゲンは2本ある団子から一本とり団子を一つ食べる。

 

「それにしても大変な事になったな。」

 

重桜がアズールレーンに大打撃を与えられたことを他人事のように呟くのはZ1、皆からはレーベと呼ばれている彼女だった。レーベは団子を一本平らげると団子を追加に注文した。

 

「こういう時こそ同盟陣営である鉄血も動き、協力するべきではありませんか?」

 

Z23...二ーミから協力の案が出た。確かに同じレッドアクシズでもある重桜に協力をするのには良いが、肝心の重桜に協力するにはオロチ計画の影が大きすぎる。協力するには明らかにリスクが大きい。

二ーミも少なからずそれが分かっているはずだ。

 

「もしかしてこの混乱に乗じて重桜を乗っ取ろうて魂胆かしら?二ーミも随分と腹黒いわね〜。」

 

オイゲンは二ーミをからかうように心にもない事を言う。二ーミはそれを否定した後お茶を全部飲む。

 

「まぁまぁ、綾波を助けたいんだろ?妙に仲良かったもんな?」

 

「なっ!?」

 

「あぁ...そういう事ね。」

 

綾波と二ーミは同じ艦隊に配属されることが多かった。さらに同じ駆逐艦だから妙に気があった事をオイゲンは見ていた。

どうやら二ーミは綾波を助けたいべく、重桜と協力をもちかける案を出したらしい。

 

「まあ、でも乗っ取るなら混乱している今がチャンスよ?」

 

これをチャンスと言ったのは金髪のツインテールに恐らくこの中で最も貧相な胸部装甲であり、プリンツ・オイゲンの姉にあたる姉妹艦、アドミラル・ヒッパーだった。

ヒッパーの言うことも確かだ。しかし、オロチ計画の全容が知らない今、無闇に動くのは得策ではない。

 

「貴方はどうなのかしら?全てを憎んでいる人さん?」

 

オイゲンは隣にいるグラーフ・ツェッペリンに視線を向ける。ツェッペリンは団子を一本手に取り味わうように食べる。

 

「ほう...なんと甘美な...だが甘美なものは生き続けられない。」

 

なんて事を言ってるのだがどうやら気に入ったらしい。その証拠にレーベに負けないぐらいの団子を追加注文した。

 

「というかなんであんたがここにいるのよ!ビスマルクはどうしたのよ!?」

 

ヒッパーが食べ終えた団子の串をツェッペリンに向けてツッコミを放つ。ヒッパーが言ってることは本来ツェッペリンはビスマルクと共に鉄血へ戻るつもりだったのだが何故か鉄血には戻らずここにいること自体がおかしいのだ。

 

「心配するな、ビスマルクの事ならUー556に任せた。どうやら勝手に着いてきたらしくてな...それに、あの指揮官がどうにも気になってな...」

 

「き、気になるってどういう意味よ!」

 

ツェッペリンは団子を一本完食した後でお茶を全て飲み干す。

丁寧に紙で口を拭いてからその訳を話す。

 

「...あの指揮官は言ってしまえば空だ。空を仮面で詰め込んでいるに過ぎない。だがその空には何かがある。私はただそれが気になっているだけだ。」

 

てっきりあの艤装の事かと思ったがそれはツェッペリンよりもビスマルクが気になってるだろう。彼女はセイレーンの研究に誰よりも没頭してるのだから。しかし、ツェッペリンの言ったことは誰も理解し難い事だった。

 

「何言い出すのかと思えば...もうちょっとはっきりと物事を言ってください!」

 

「ハイハイニーミ先生落ち着いて。でもあの指揮官が空なのは分かるわ。だってあんな心から笑ってないの見ていて滑稽だもの。」

 

オイゲンだけはツェッペリンの言うことが分かったらしい。しかし、ほかの人たちは訳が分からずお手上げ状態だった。

何故ならあの指揮官が空っぽで作り笑顔なんてしそうにないからだ。

 

「さて...空である為かこの世界を憎むことも希望を見出す事さえない指揮官だが...妙に誰かを守りたがる。その矛盾の先に何があるのか...見るのもまた一興か...」

 

ツェッペリンは追加注文した団子を一本手に取り夕日を見つめながら食した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

_現時刻 アズールレーン基地

 

辺りは暗くなり夜空に浮かぶ三日月と星空が海を照らす。

海風の匂い、砂の感触、海の冷たさがまだ俺が人間だって証明になる。海を手のひらですくい上げ飲んでみる。普通なら海の塩辛さで吐き出してしまうのだが、その塩辛さが感じられず代わりに塩が舌にまとわりつく感触と喉を襲う感覚が敏感に感じ、その感触の気味悪さに海水を砂浜で吐き出す。

 

「はぁ...はぁ...やっぱり味はしないな。でも、まだ冷たいのは分かる。砂浜の感触もこの風の冷たさも海の色も海のさざなみも、まだ...まだ...!」

 

まだ残っている五感を噛み締めるように腕を強く握り、耳をすまし、目を見開き、海の香りを嗅ぐ...しかし味覚が無くなったことでそれに深い関係がある嗅覚も一緒に失われていた事に気づく。

俺はそのショックで柔らかい砂浜に座り込んでしまう。

 

「...ごめん。天城さん...俺立ち止まりそうだよ...」

 

「こんな所にいたんだ指揮官。探したよ。」

 

後ろから声がしたので振り向く。そこにはホーネットがいた。俺が振り向くのを確認すると彼女は手を振った。彼女は俺の隣まで近づいた後に俺の隣に座った。

 

「何してたの?」

 

「...海でまだ俺が感じられる所を探していたんだ。味覚が無くなったせいか...嗅覚もついでに失っててさ...ははっ。」

 

俺は訳も分からずに笑ってしまう。そんな俺を見てホーネットは帽子を深く被り、こちらに顔を背ける。

 

「私は信じてるよ指揮官。」

 

「え?」

 

言葉の意味が分からず、俺はホーネットの方を向く。ホーネットは深くかぶった帽子を脱ぎ、俺の目を見る。

 

「私は信じてる。指揮官がセイレーンと関わりを持っていたとしてもあの時守ってくれた指揮官の姿や基地にいる皆の事を第一考えていた。だから信じる。だから指揮官も私達を信じて全部を話して。」

 

それは激励でもなく慰めでもなく、ただ想いを伝える事だった。

真っ直ぐに脇目も振らずただ俺の目を見つめる。

だけど不思議と救われた感覚があった。「信じてる。」その一言が俺の胸にあった重りみたいな物が軽くなった気がした。

 

「....ありがとう。」

 

俺は上手くは笑えなかったがそれでも今出来る最大の笑顔を見せる。

ホーネットは帽子を被り直し、指で銃を作りその指先を俺に向ける。

 

「このホーネット様に惚れたかにゃ?」

 

わざとらしく語尾に猫のような声真似をしながらホーネットは銃を打つように指先を上に少し曲げる。その動作で少し笑ってしまう。さて、どう返したいいのか迷ったが少しこちらも悪戯心というものが勝ってしまったのである。

 

「とうの昔に惚れてるよ。」

 

「へ!?」

 

ホーネットは顔を真っ赤にさせて帽子をまた深く顔を隠すように必死に被り直す。成程、サラトガ辺りがイタズラを繰り返す理由が少しわかった気がした。

 

「そう言えば...ホーネットは俺に何か用があったのか?」

 

ホーネットは最初に探したと言ったのだ。つまり、なにか俺に用があって探したはずだ。ホーネットは思い出したように気持ちを切り替えるように一旦呼吸を整えてから要件をはなす。

 

「そうそう。実はさ、指揮官に合わせたい人がいるんだ。多分、まだ指揮官は一度も会ったことないと思う。」

 

「俺がまだ会ってない人?そんな人が...いや待てよ...」

 

心当たりはある。それはこの基地に入って間もない頃まずはKAN-SEN達の顔と名前を覚える為に必死になって全員覚えるようにした時のことだ。それで何とかこの基地にいる全員の顔と名前は覚え、

そして、KAN-SEN達と交流をして、まだ会ったことない人が確かにいた。

 

「うん。私の姉で...エンタープライズ姉ちゃんの姉でもある。ヨークタウン姉さんに会わせたいんだ。」

 

ヨークタウン...書類では確かにこの基地に配属されており、俺がこの基地に来る前に戦闘で負傷し、ここ最近はほとんど出撃はおろかまともに外に出ていないそうだ。

 

「指揮官がKAN-SEN達全員に自分の命運を委ねたいなら、ヨークタウン姉さんにも会わせたいんだ。指揮官から自分はこういう人間だってきちんと伝えて欲しい。」

 

確かにヨークタウン目線で言えばあったことも無い奴の命運を決めろと言われても困惑するだろう。だが良い機会だった。俺はヨークタウンに会うことに賛成してヨークタウンの部屋が何処にあるのか聞こうとしたが...

 

「あ、じゃあ私も一緒について行くよ。」

 

「え?いやいや大丈夫だけど...」

 

しかしホーネットは聞かず、俺の手を掴んで無理矢理道案内をする。

 

「それに指揮官は怖がりだからね〜。だってあのお化け探しの時に指揮官はずっと震えていたじゃん?だからこのホーネット様がエスコートしてあげるよ!」

 

痛い所を突かれた。確かにあのお化け騒動...正体がエルドリッジの電気だった日の時確かに幽霊の怖さでずっと震えていた。ホーネットはそれを忘れておらずからかうように俺の事を笑う。

 

「さぁさぁ行くよ指揮官!」

 

「おい引っ張るなって!あとそんなに俺怖がりじゃないからな!?あの時はビックリしただけだからな!」

 

俺は怖くないと弁解をするがまるで言い訳するように説得力が無く、またもやホーネットにからかわれる。そして手をホーネットに強く握られたままヨークタウンの部屋へと向かう。

 

 




昼下がりのベンチに座って黄昏ていた時、ポートランドとインディアナポリスと言うKAN-SEN達と出会った。
二人とも姉妹艦らしく大変仲が良かった...良いのか分からないが姉にあたるポートランドがやけにインディアナポリスの事を推す、推すかなり推す。
インディアナポリスの写真集や自伝とか全てインディアナポリスに関連する物ばかりでここまでいくと最早宗教のようだ。
これに対してインディアナポリスは若干迷惑そうだがそれでもポートランドは止まらずにインディアナポリスの事を推す。何処から出したのかインディアナポリスのプロマイド集らしきものやぬいぐるみを取りだした。ホントにどこに閉まっていたんだ...!?
だが、大変妹思いなのは伝わってくる。それは...すごく優しいことなのだから。少なくとも俺はそう思う。

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