もしもアニメのアズールレーンに指揮官が出てきたら〜2nd season 海上の誓い〜 作:白だし茶漬け
前話の36話にて、マーレが見つかったのは事故から3日と書いていましたが、あれは3年の間違いです。訂正いたしましたので今はもう大丈夫です。
今後ともよろしくお願いします。
三日だったら時系列合わないよ…^^;
第37話【決断と変貌と息苦しさと】
_貴方の艤装の件です。何故貴方が艤装を持ってるのですか。
空気が凍りつくようだった。男の目付きが鋭くなった。それはまるで、首筋に刀を突きつけられてるようだった。
この目に嘘はつけられない。ついたとしても即座に見破られるだろう。そんな緊張感の中で俺は思わず男から目を逸らしながら今自分のことを話す。しかし、話すと言っても彼の望む答えは出ないだろう。何故なら、俺は自分が艤装を使えたことが今初めて知ったのだ。
自分の中で不安や困惑が入り交じる中、それに抗うようにベットのシーツを握りしめる。
艤装なんて使えたことなんて今初めて知りました。だから俺は知りません.
男が俺の目を見つめる。まるで、渡された骨董品が本物か偽物かどうか鑑定するかのように俺が嘘をついているかどうか見極める。
俺は勿論嘘はついてない。男はそれを分かったのか、目を閉じて息を吐く。
_そうですか...では優海君。この名前からして貴方は重桜の出身ですか?
俺はそれに大きく頷く。ここで俺は一つ疑問に思った。いや、最初に疑問に思うべきだった。それはここは何処かという事だ。
重桜では見れない装飾や壁にはマーレという男の肖像画。
どう考えてもここは重桜では無い事は明らかだった。
あの...ここは何処でしょうか?
_ここはロイヤルですよ。そして私達が今いる所は私の家ですよ。
しかし、重桜ですか少し不味い状況ですね.
俺は質問される立場にあるにもかかわらず質問した。しかし、男は俺の問に丁寧に答えてくれた。ロイヤル...天城さんの授業で習った事がある。確か、陣営の中で一番大きい国だったような.
しかし、その考えは男の様子がおかしかった事から考えを止める。
_今言うことは大事な事です。よく聞いてください。
俺は覚悟を決めるように唾を飲み込み、大きく頷く。緊張やこれから何を言われるのかという不安で冷たい汗が背中から伝わって来る。
そんな不安を紛らわすように握りしめていたシーツをさらに強く握り、シーツには多くのシワが出来た。そして今、男の口が開かれる。
_今、重桜...いや、レッドアクシズとアズールレーンは緊張状態にあります。
もしも貴方が重桜の出身だとバレたらレッドアクシズのスパイと誤解されて貴方は殺されることでしょう。
そ、そんな...
俺に与えたのは絶望感だった。折角生きているのに、たった出身が違うだけで殺される理不尽を受け入れられず、俺は落胆する。
俺は、傍にある開かれた窓の向こうの海を眺める。あの海の向こうには赤城姉さん達がいるのに.俺はそんな事を思うと、俺が気絶する前の記憶が突然蘇る。
襲われた重桜に傷ついていく重桜の皆。そして、仮面の男.
そうだ!重桜の皆は!?仮面の奴が重桜を!
俺は取り乱して男の肩を掴むと、無理に動いたせいか全身に激痛が走る。痛みを堪えるように歯を食いしばって体の中で悶絶する。
それを見て一層心配した目をした男は俺をそっとベットに寝かした後に重桜の事について話してくれた。
_大丈夫です。幸い皆は無事のようです。しかし、仮面の男は行方不明...新たなセイレーンの可能性があるので今捜査を進めています。
そうですか...良かった...
無事だと言う事に安心し、全身の力が抜かれ、ベットに沈んでいく。
本当に良かった.まだ会えるチャンスがある希望と俺はこれからどうなっていくか分からない不安が同時に一気に押し寄せ、俺は涙を流す。男に見られないように腕で目を擦り、懸命に涙を吹くが入り交じった感情の滝のように一向に涙は流れ続ける。
俺、生きたいです! 生きてまた...赤城姉さん達に会いたい...!
自分ではどうする事も出来ないことを悟り、縋る思いで俺は本心を男にぶつけた。泣きながら、みっともない姿と声を晒しながら、自分の嘘偽りの無い本心をぶちまける。
男はそんな俺を見限らず、そっと頭を撫でた。
_大丈夫です。貴方が無事に生きていける方法は一つあります。ですが、これは君が君自身を殺すとこになりますが...
男は手を俺の頭から離すと、俺が唯一無事に生きていける方法があるという。涙が乾く中、俺はそれに希望を見いだした。だが、それは俺が俺自身を殺すという事らしいが...? 耳を傾け、一字一字聞き逃さないように耳に全神経を注ぐ。
_私の息子、マーレになりすます事です。幸い、貴方には重桜の人特有の獣耳や尻尾はありませんから。
確かに俺には耳と尻尾が無い。そんな人が重桜には少なからず存在するが、重桜に伝わる【カミ】の加護を受けられないと認識されており、他の人からは白い目で見られていた。勿論、天城姉さん達はそんな事気にせずに接してくれた。
それが今回は幸いした。俺が生きていける方法は自分を捨てて、マーレになる事だった。顔は似ていた、それだけで良かった。声や髪色は事故の影響とかでの理由で適当に誤魔化せると男は言った。
_とても残酷な選択だと私も思います。ですがこれしか無いのです...貴方はマーレに似ている。だからこそこうするしかないのです。
仮に養子として引き取っても、好奇心か疑惑で俺の事を調べる人が必ず現れる。
そしてそれで出身がばれたらおれはその場で終わり。そしてその事が重桜にしられたら、赤城さん辺りが怒りで戦争を起こしてしまうだろう。それだけは絶対に避けたい。
つまり、俺に残された道はただ一つ…俺は窓から見える海をみて決意した。
「ううん...中々見つからないな」
息を切らしながら、ある人達を探して俺は基地内を走り回っている。
探している奴とは今日ジン達の護衛艦を務めた【イントレピッド】【ブレマートン】【マーブルヘッド】【リノ】【クーパー】の五人だ。彼女たちは護衛の任務と同時にこの基地の配属が決まっていたのだ。
というか、俺が明日、大事な話をこの基地にいる全てのKAN-SEN達にしなくてはならない時に、何故このタイミングで新しく配属するKAN-SENがいるのだろうか。
いきなり大事な話をすると明日言い出しても、彼女たちは混乱するだろうと考え、一度彼女達と話す為に今懸命に探しているが、これが中々見つからない。
まず、彼女たちは護衛の疲れや修理をした為にまずはドックで修理に出ていた。しかし、俺が来た頃には入れ違いでここを離れたらしく振り出しに戻る。
こうなると彼女たちが行きそうな場所に行くしかないが、初対面の奴の行きそうな場所など分かるわけが無い。とにかく走って見つけるしか方法が無いのだ。
「いや待てよ?行きそうな場所じゃ無くて、
例えば、ホテルにチェックインした時にはまず荷物を部屋に置かなければならない。つまり、絶対に部屋に行かなければならない。
イントレピッド達も、ここに配属されたのなら多少は自分の荷物を持ってきてるはずだ。ならば、ドッグで修理した後、荷物を置きにユニオン寮で割り振られた自室に行ってるはずだ。
俺は、そう考えながら息切れ寸前ながらもユニオン寮に急ぐ。
だが、その考えは無情にも外れた。走り続けたせいで呼吸が血の味がする。肺に限界まで酸素を取り込むように息を吸い、限界まで息を吐く。
血の巡りが、全身に血液の鼓動が早まるのを感じる。そして、それを心配そうに見るのはロイヤルメイド隊のニューカッスルだった。
そうだ、イントレピッド達の案内をしたのはロイヤルメイド達だ、だったら荷物を部屋まで運んで彼女たちに自由な時間を提供することは容易に考え付くことだったのに.
「貴方様、落ち着いてください。まずはクーリングダウンをしましょう。でなければ血液の流れが悪くなってしまいます。」
ご主人様ではなく、貴方様と呼ぶニューカッスルは俺をクールダウンさせるために俺の支えて、一緒に歩く。ランニングなどした後はこうしてクールダウンをさせることで心臓等への負担を減らすことができる。
メイドでありながら、スポーツ分野にも幅広い知識を持ってる事に、流石は元ロイヤルメイドの統括を担った者だと脱帽する。
ようやく、呼吸も落ち着いて来て、俺はニューカッスルの支えから離れる。
「ふう...迷惑かけたね。」
「いえいえ、貴方様の暮らしを支えることがメイドの務めですので。ところで、ご主人様はユニオン寮にどういった御用でしょうか?」
「ああ、そうだ。イントレピッド達が何処に行ったか知らない?探してるんだけど。」
「でしたら、二組に別れて別の場所に行かれましたよ。マーブルヘッド様、ブレマートン様がテニスコートに。イントレピッド様、リノ様、クーパー様が広場のほうへ向かわれました。」
ニューカッスルは丁寧にそれぞれの行き先を指した。どちらも方向は反対方向で、その為距離がある。仮に、テニスコートの方に行って用事を済ましても、移動距離でのロスでイントレピッド達の方は別の場所に行ってしまう可能性がある。逆も然りだ。
口を隠すように手を当てて大いに悩む。どの道もここからならほぼ同じ距離なのでどっちに行くか大いに迷う。そんな時に、助け舟を出すかの如く、ニューカッスルがあることを話す。
「貴方様、でしたら先にテニスコートの方へ行ってみてはどうでしょう。私が手配致しますので、用事を終えたら、それを使って広場まで行けば大して時間はかかりません。」
「成程、車か!」
そうだ。確かロイヤルは基地を移動するために車を使っていった。俺も一度だけだが使ったことがある。そう、その時は確かイラストリアスとベルファストが隣にいて...いや、これ以上はまたあの刺激が強い光景を思い出すことになる。
俺はそんな光景を忘れるように空を切るように手をばたつかせる。
「貴方様?どうかなさいましたか?」
「え?いやいや何でもない!」
さっきの行動がニューカッスルに見られ、俺は気恥ずかしくなり、逃げるようにテニスコートに向かう。
そんな無我夢中の状態で走ったせいか、体感時間的にはそれ程時間がかからず、テニスコートに到着した。テニスコートはフェンス囲まれており、数は全部で4つあった。俺はフェンスの外からブレマートンとマーブルヘッドを探す。
視点を変えるようにフェンスの周りをうろついてると、不意に目立ったピンクの紙が目にとまった。しかも、髪型はツインテールなので間違いなかった。さらに、マーブルヘッドの顔も確認できた。だが、それとは別にもう一人テニスコートにいた。
少し茶色寄りの黒髪のボブヘアーに、黒で黄色のラインが入ったジャージにやけに短いズボンというよりもテニスウェアか?短すぎで太ももが露出していた。その彼女が俺に気付いたのか、手を大きくふりながら俺のことを呼んだ。
「あ、指揮官!どうしたんだこんなところに来て。指揮官もこっちにくるか?」
ブレマートン達と一緒にいたのはボルチモアだった。ボルチモアの声でブレマートンとマーブルヘッドは後ろに振り返り、俺を見つけるとボルチモアと同じように手を振る。俺はテニスコートの中に入るためのフェンスドアを開き、コートに入る。
俺があちらに向かう前にボルチモア達が先にこっちに来てくれた。
「ここに来るなんて珍しいな指揮官。あ、そうだ。ブレマートン、マーブルヘッド、この人が話してた指揮官だ。」
「うんうん。さっき会ったよね?それじゃ、改めて自己紹介させてもらうね。ユニオン所属の重巡洋艦のブレマートンよ!よろしく~!」
ブレマートンは陽気に自己紹介をしながら俺に握手をしてきた。ブレマートンの自己紹介を終えると、次はもみあげ部分だけが長い短い金髪だが、毛先部分だけはピンクに染められていて、これまた露出度の高い網模様のインナーと白いブラをだしており、体格にあってないぶかぶかな白くて青いラインが入っているコートを着ているのはマーブルヘッドだ。
「ちょりーす。マーブルヘッドですよー。...へぇ、指揮官って結構イケてる感じですね~」
「ち、ちょり?」
聞きなれない単語が耳に飛び込んできて思わず、戸惑ってしまう。そんな俺に気にすることなくマーブルヘッドは俺の空いてる左手に握手をしてきた。
「さぁさぁ、次は指揮官の番だよ!」
ブレマートンがそう言うと、二人は俺から手を離し、俺の自己紹介に期待してる目を向けながら俺の自己紹介を待っている。俺は一つせき込んでから自己紹介をする。
「アズールレーン指揮官の...マーレだ。」
俺は明日の事が頭でよぎり、この名前を言うのを一瞬躊躇った。流石にこの歯切れの悪さに全員気付き、指摘する。
「指揮官どうしたんだ?なんだか急に歯切れがわるくなったが...?」
心配したボルチモアが俺の肩に手を触れる。この場の空気が一瞬で暗くなったような気がした。俺はボルチモアに礼を言いながら触れられた手をどかし、ここに来た用事を果たす。
「いや、何でもないし大丈夫だ。俺がここに来たのは、二人に会うためだ。二人には明日の事について話しておきたいからだ。」
ブレマートンとマーブルヘッドの二人は顔を見合わせて少し戸惑う。ボルチモアは“明日の事”という言葉に反応し、体をびくつかせる。
俺は二人に明日、俺のすべてを語ることを説明した。そして、最後に俺のことを指揮官とみるか、敵とみなして俺を倒すかどちらかを決めてもらうことを。そして、俺を敵と見て倒す奴が一人でもいれば俺は倒されることを受け入れることも、抜け目なく伝えた。
それを聞いた二人は、顔を見合わせた後...笑った。まるで、俺が言うことが分かっていたかのように。
「指揮官。実は私たち知ってたんだ。指揮官がそんな話をするって。」
「え?誰から?」
「ベルファストって人から。」
ブレマートンの言うことに俺は納得した。相変わらず用意が良いというか...そんなベルファストを変に関心しながら、ブレマートンの話に耳を傾ける。
「それにジン君言ってたよ。マーレは凄いやつだって。」
ブレマートンは目を閉じ、ジンが言っていたことを思い出す。
__ねぇねぇ、指揮官ってどんな人?
ブレマートンは、自身の元となった艦の甲板であぐらをかいていた男に指揮官の事について聞く。その男の名はジン。指揮官のマーレとは一番仲がいいと聞く。
ジンは、昔を思い出しているのか腕を組んで、一面の海を見る。
__そうだなぁ、あいつは凄いとしか言いようがなかったなぁ。知識も、戦術も、体術も、何もかもあいつがトップだった。
ブレマートンはそんな完璧な人なら指揮官はきっとお堅い人だろうと想像した。自分とは馬が合わなそうで会うのが憂鬱になった。
__うへぇ、きっとお堅いひとなんだろうな~
__いや、そんなこと無いぞ。むしろ、あいつはそんなお堅い事は苦手な奴だと思うぞ。
ジンは服のポケットから携帯を取り出し、写真アプリの中から一枚の写真をタップし、見やすいように横画面でその写真をブレマートンに見せる。
ブレマートンは写真をまじまじと見る。写っているのは5人、ジンと他の艦に乗ってる3人の他に真ん中に写っているのが指揮官だろう。ジンと肩を組んで笑っているこの写真がとても微笑ましい光景だった。
__それはあいつが指揮官に選ばれたときの写真だ。まぁ、普通の学校でいうと卒業式の写真みたいなものだ。
__へぇ、ほかの皆は居ないの?
ブレマートンのその言葉にジンは少し困った顔をした。ブレマートンはなにか地雷を踏んでしまったのかと卑屈になる。
_あー、他のやつらはマーレが指揮官になるのを良いと思ってないんだよ。というか、大半がそうだった。皆、自分が指揮官になる為に必死だった。中にはどんな手を使ってもなろうしてたやつがいた。
_どんな手でもって...例えば?
_権力使って他のやつを脅したりしては、派閥を作って他のやつらを蹴落としたりしてた。まともに指揮官になろうとするやつはそいつらの餌食にされたよ。
ブレマートンはそれを聞いて背筋が凍りつくような寒気を感じた。もし、そんな人が指揮官になったらKAN-SEN達の扱いがどうなるか容易に想像できた。
今基地にいるマーレ指揮官もそんな人だと思うと、ブレマートンはさらに悪寒が走る。そんなブレマートンの不安を拭うようにジンはマーレについて話す。
_そんなに心配するな、あいつは正々堂々誰よりも努力して指揮官になれた。きっと紳士のように...いや、友達のように接してくれるはずだ。
それを証明するかのように、ジンはさらにブレマートンに写真を見せる。写っていた顔ぶれは変わってないがそれでも写真に写ってる人たちは楽しそうだった。
_会ってみれば分かるさ。それにあいつ、なんだか考え込んでるらしいからさ、なんかあったときは頼むな。
「という訳で、私は指揮官を信じることにしたよ。それに、私たちは指揮官がどんな人なのか聞くためにいろんな人に話を聞いてるし。」
俺はジンが言っていあたであろう言葉を聞いて気恥ずかしさとそんな奴を騙し続けている罪悪感が同時に感じた。そんなきもち感情の葛藤が俺の中で渦まき、どうする事もできずに俺は手を顔に当てる。
「あ、指揮官照れてる!?可愛い所もあるんだね~。」
ブレマートンはからかうように俺に近づいてはこつくように肘を当ててくる。ブレマートン達は俺が恥ずかしがってると思っているが違う。俺が感じてるのはそんなんじゃ無い。
しかし、それを言うこともできずに俺は、自分の感情を誤魔化すようにするかのように小さく笑う。
俺はこんな仮面をかぶったような笑顔を何度もしてきた。あの人ならこの時こんな行動をとる。あの人ならこう笑う。あの人はこう言う。
俺は生きるために
だとしたら俺は一体何のためにここにいるんだろう。
「指揮官?どうしたんだ?」
ボルチモアの声で俺は考え事を止めて顔を上げる。顔を上げて三人の顔を見ると心配そうな顔で俺を見る。
俺はまた作り笑いでその場を和ませる。どうにか誤魔化せたのか三人の表示が明るくなった。
「そうだ、折角四人いるんだ。ここはダブルスをしてみないか?」
ここで言うダブルスはテニスのダブルスの事だろう。そして四人とは勿論俺も入っている。
「賛成!じゃあ早速チーム決めしよう!」
「待て待て、俺今軍服だし...いくら俺でもしんどいぞ。」
今の俺は軍服を着ているので、流石にこれで激しい動きは無理がある。勿論テニスウェア等持参してる訳もなく、俺は誘いを断る。ボルチモアのそれに納得してくれた。
「そうか...じゃあじゃあまた何時かやろう。」
「何時か...か、明日俺が居なくなるかもしれないのにそう言ってくれるのか。」
そんな俺の言葉にボルチモアは持っていたテニスラケットを俺の顔ギリギリの距離に突き出した。ボルチモアの表情がいつになく真剣な表情になっていた。
「そんなことを言わないでくれ。私は…いや、私たちは指揮官の事を信じている。これは貴方が正しい道に進んでいるからこそだ。だから私たちは貴方を裏切らないし、いつでもあなたの味方だ。」
ラケットを突き出した時の表情が無くなり、ボルチモアは俺に突き出していたラケットを下げた。
「ふう、堅苦しい話はこれでおしまいにしよう。ブレマートン、一戦付き合ってくれ。」
「了解~相変わらずかっこいいね~」
「からかうなよ。」
ボルチモアとブレマートンは着替えなど諸々の準備をするため近くの小屋の中にある更衣室に談笑しながら移動した。
「じゃあ、指揮官はこの後どうしますか?」
近くにいたマーブルヘッドから予定を聞かれた。この後は、イントレピッド達がいる広場のほうへ行きたいが、こことは反対方向故にかなりの距離がある。そのためニューカッスルが手配した送迎用の車がここに来るはずだが、まだ来てなかった。
「この後はイントレピッド達のほうに行こうと思ったんだけど、まだ車が来てないから来るまでにここにいるよ。」
「それじゃ、近くのベンチで休憩しましょうか~。」
わざとらしく語尾を伸ばしながら、マーブルヘッドは俺をベンチまで案内する。ベンチに腰掛けて、ボルチモア達が到着するのを待ちながら俺とマーブルヘッドの会話は続いた。
「意外だな…髪とか服装とかでもっと派手なイメージだったけど、意外としっかりしてるな。敬語もしっかり使えてるし。」
「ギャップ萌えってってやつですよ~」
マーブルヘッドはぶかぶかの裾をひらひらさせながら笑った。そして裾と同じように彼女に服に一枚のぶら下がってる写真が目に映った。写真に写ってるKAN-SENらしき人物は、眼鏡を掛けていて黒髪に三つ編みの髪をさげていた。
こう言ってはなんだが、ブレマートンと違い、地味な子だった。写真を見てる俺に気付いたのか、マーブルヘッドはぶら下がっている写真を手に取った。
「あ、指揮官この写真が気になります?」
「あ、ごめん。気になってさ…気を悪くしたなら謝る。その子って…姉妹艦とか友達かな?」
勝手に写真を見たことを謝罪をしたが、マーブルヘッドは気にしてない様だった。俺は写真のKAN-SENが誰なのか気になり、誰なのか問う。
「あ、これ昔の私ですよ。」
「………え?」
時間が止まった気がした。自分の耳を疑い両耳を塞いだり、弄ったりした。目頭の内側の部分を押して聞き間違えたかと自問自答もした。落ち着いてもう一回聞くことにしよう。そうしよう。
「ごめん、その写真の子が誰だって?」
「だーかーら、あ・た・しですよ。」
「ああそうか、お前か…ってええええええええ!?」
俺はマーブルヘッドと彼女が持っている写真を見比べた。どう見ても別人としか言いようがなかった。肌の色や髪の色が全く違うし、写真から感じる雰囲気も丸っきり正反対だった。
マーブルヘッドがまた俺をからっている嘘だとおもったが、そんな素振りは無いさそうだ。事実なのだ。マジで言ってるのだ。
「あはは!指揮官、かわいい反応しますね!でも本当ですよ~よーく見てください。」
マーブルヘッドが俺に昔の自分の写真を渡し、よく見るように催促した。俺は写真とマーブルヘッドをよく観察した。写真を近づけたり、同じところが無いかマーブルヘッドとの顔の距離を一気に縮める。
マーブルヘッドの顔が目と鼻の先まで近づくとマーブルヘッドもじっとこっちを見つめる。
「指揮官って大胆ですね~そんなにあたしの事見つめちゃって。」
「え?あ、ああごめん!でも、やっと同じところが見つかったよ。」
俺は写真をマーブルヘッドに返した。マーブルヘッドが写真をとると、自分の顔と並べるように俺に写真を見せる。
「今とっ昔のあたしが同じところってどこですか?」
「ここ。」
マーブルヘッドの問いに対して俺は右の人差し指を自分の眼に向けて何も言わずに答えた。
「眼ですか?」
「そう。その眼だけは変わってない。いやーそれにしても凄いな…ここまで変わるものなのか。」
ようやく、写真の人物とマーブルヘッドが同一人物という事実が理解できた。改めて彼女の変わりように驚く。
「えへへ、まぁ、別に地味っ子だった事を隠すつもりはありませんよ。今だってこうしてぶら下げてるわけですし。」
「外見を変えた事には何か理由があるのか?」
「いやー大したことじゃないですよ。ただ、勉強やお仕事ばかりだと世の中楽しくない!みたなそんな感じです。」
俺は、彼女の事を少しうらやましく思った。自分の世界を広げるために自分を変え、それでも自分らしく生きている彼女が羨ましいと思った。
俺はというと生きるために、他人になりすまし、
苦手な料理も顔色変えずに食べ続け、好きでもない事を好きといったあの窮屈さは忘れられなかった。そして、
_あの人、テネリタスのひとじゃない?
違う。
_英雄様が指揮官か。これじゃ俺が指揮官になるのは無理だな。
そんな事ない。あなた達だってチャンスはある。
_もういっそのことあの人にまかせようぜ…完璧だしもう確定だろ。
完璧なわけがない。俺はただ必死にもがいて生きているのに精一杯なんだ。
_だよな。だって英雄の家系だもんな。俺たち凡人とは違うんだよ…
俺だって凡人なんだ。決めつけないでくれ。
_やっぱり、英雄に任せたほうがいいって!何かあったときは英雄に任せるのが一番だって!
英雄なんかじゃない。
_マーレ君?元気がないようだけど…
俺はマーレじゃない。
辛い。息苦しい。窮屈だ。でも…
俺はいつしか憧れを抱いていた。だから…ここまで生きてきた。
「指揮官?」
マーブルヘッドの声で俺は現実に意識を覚醒させる。
「ああ、ごめん。昔の事思い出してたから。」
「お、指揮官の昔のころってどういったものでした?」
マーブルヘッドは昔の俺の事について興味を示すように目を輝かせていたが、話す気にはなれなかった。どのみち、明日話すことになるから無理に話すことはないが。
「聞いてて楽しいものじゃないから、話したくは無いな…ごめん。」
沈黙する空気の中、フェンスの外から車の駆動恩が聞こえた。振り返るとクラシックなオープンカーがあり、運転手であるロイヤル所属のKAN-SEN、ロンドンが俺を呼んでいた。
「閣下、お迎えに参りました。」
フェンスにある扉を開けて、俺の事を閣下と呼ぶ濃い茶色の髪に眼鏡を掛けて、紺のジャンパースカートに象牙色のジャケットを着た彼女は、ロイヤル所属の重巡洋艦のロンドンだ。
物腰は穏やかで丁寧であり、何度かあったことがあるKAN-SENだ。どことなく昔のマーブルヘッドと似ているところがある。マーブルヘッドもそれを思ったのか、ロンドンの事をまじまじと見る。
「あ、あの…私に何か…?」
「ん?ちょっと昔のあたしになんか似てるなって。眼鏡かけてるかな?」
「昔の…というと?」
マーブルヘッドは服にぶら下げている写真をロンドンに見せるとそれは昔の自分だと話す。案の定ロンドンは驚き何度も写真とマーブルヘッドを交互に見る。
「これは、凄い様変わりですね…」
「あはは、ま、昔は昔、今は今!今のあたしが一番自分らしいって事で。」
ロンドンは半ば事実が呑み込めずにいたが、自分の役目を忘れずにいた。
「閣下。そろそろ出発の時間です。要件はニューカッスルさんから聞いてますのでどうぞ車へ。」
「わかった。じゃあ俺はこれで、ボルチモア達によろしくって言っておいて。」
「了解~あ、イントレピッド達に指揮官が来るからって連絡しておきますね。多分、待っててくれと思うんで。」
マーブルヘッドは携帯を取り出し、慣れた手つきでイントレピッド達に連絡を入れた。彼女の気遣いに感謝しながら俺とロンドンは車に移動した。
車に近づくと、席は運転席と助手席の二つしかないオープンカーがあった。運転するのはロンドンなので、いち早くロンドンは左にある運転席に座り、遅れて俺も助手席に座り、椅子に体を預けるようにもたれ掛かる。
「あ、閣下、ネクタイと襟がまた乱れてますよ。直すのでじっとしててください。」
ロンドンは恐らくイントレピッド達を探して走り回ったせいで乱れていたネクタイを綺麗に結び、襟も綺麗に折る。それはまるで新婚夫婦ワンシーンのようだ。
「…まるで新婚夫婦みたいですね。」
「え?あ、ああそう…だな?」
俺の考えを読んでいるかのようにロンドンは俺と同じような考えを口にした。言葉で聞いたせいで、変に意識してしまい近くにいるロンドンの顔を直視出来ずにいた。
「はい、直りました。それでは出発します。」
ロンドンは車のキーを差し込みエンジンを起動させる。エンジンが点いた音が聞こえるとロンドンはアクセルを踏み、車を前へ進める。地面の凹凸で車体が少し揺れながら、天井も窓もないオープンカーで柔らかな風が体に通る。
ただ座っているだけのせいなのか急に眠気に襲われる。走り続けたせいかさらに疲労感まで押し寄せ、最早抗うことはできずにいた。そして止めをさすかのようにロンドンがとんでもない物を出した。
ロンドンは何故か車を一時駐車させて俺にあるものを掛けた。暖かくて、肌触りがいい...毛布だった。
「お体が冷えないように前もって準備してたんです。どうぞ、遠慮なく使ってください。」
「ああ…ありがとう。ごめんな、ロンドン。」
俺は残ってる力と気力を振り絞ってロンドンにお礼を言う。謝ったのは運転してるのに俺だけ寝るのがやるせなかったからだ。でもそんな気持ちも瞼が閉じるのと同時に暗くなって消えていく。
「はい、ゆっくり休んでください。…ですが。」
ロンドンは寝ている指揮官の右の服の袖を自分の方に小さく引っ張る。そのせいで指揮官はロンドンにもたれ掛かった状態で寝続いている。
「私も忙しい時間の合間を縫って運転してますからこれぐらいのご褒美は良いですよね?」
自分の肩に指揮官が寝ている。その事実にロンドンは少しの幸福感をかんじていた。ロンドンはアクセルを踏み、車を目的地まで進める。少しでもこの幸福を長く感じたいが為、少し速度を抑えながら車を走らせる。
やはり朝の食堂は人が多い。今日はいつもより遅く食堂に来たから席は殆ど埋まっていた。
空いてた席を見つけようにも、声をかけられようにも、姉妹艦やら仲の良い子同士で食事しているのを見ると申し訳無さで席に座れなかった。
なんとか、奇跡的に空いてる席を見つけて座ろうとしたが、近くにいたロンドンと鉢合わせになり、席の譲り合いになった。
埒が明かないので、今日の朝はロンドンと朝食をとることとなった。
その際、ロンドンは乱れていた俺の服装を直してくれた。
こういう細かい所も直さないといけないなぁ...
もしもの話(R-18)を観測しますか?
-
Yes
-
NO