もしもアニメのアズールレーンに指揮官が出てきたら〜2nd season 海上の誓い〜   作:白だし茶漬け

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皆様お待たせしました!
2週間も待たせてしまいしましたね…本当に申し訳ないです…。
今回は3万文字という事で約三話分のスケールとなっていて、今回の後書き日記は残念ながら無しにしますが、最後まで読んでいただけると幸いです。



日記と夜とパーティーと

第38話【日記と夜とパーティーと】

 

海の地平線の彼方を見る。今会いたい人が今どうしてかを思いながら。

海を見て心の中で叫ぶ。「俺は大丈夫だよ」と。

そんな事を思い、心の中で押し殺しながら今いる部屋の探索をする。

俺は、あの人...オセアンさんからの提案を受け入れ、マーレとして生きていくことになった。その為にはまず、そのマーレさんがどんな人か知らなければならない。

部屋を見渡すと流石は貴族の部屋だと言える。広く白い部屋に、本が詰まった本棚の隣には綺麗な茶色い木の机に革製の回転イス。床に柔らかい絨毯が足から良い感触が伝わる。そして窓に置かれている天体望遠鏡。マーレの趣味が天体観測だったらしいのでそれに使うものだろう。ざっと見た感じこんな物だった。

 

俺、今日からこんな所に住むのか…

 

全く持って不満など無いが…落ち着かない。

落ち着かなさを紛らわすため、机にある本を見る。

本と言うよりは日記帳だった。

一ページめくるとやはりロイヤルの文字で書かれていた。この世界は言語は何故か統一されているが、使っている文字だけは陣営事に違う。しかし、俺は昔、天城姉さんから陣営事の読み書きを習っていた。対して苦では無かった。

日記にはきちんと日付と場所が書かれており、内容も詳しく書かれていた。文字だけでは無く現地の写真まで貼られていた。同じ顔と名前で、しかも日記を書いてる所まで同じだと妙な親近感が湧く。そんな事を思いながら日記を読み上げる。

 

_○月✕日 ユニオンにて

今日この日、俺はユニオンのとある街に出た。

いやいや、流石にこの馬鹿でかい料理は何だ?

ユニオンは量重視の食生活を送ってるのだろうか?

ともかく、ハンバーガーにコーラは合う。

さて、腹が膨れたので消化の為に歩く。

行った所はグランドキャニオンと言う観光地だ。

川に削られた断層はこの星の歴史を感じられる。

正に歴史が積み重なった地層だ。

俺も積み重なった英雄の歴史に恥じぬように振る舞わなければ。あ、勿論少しの羽休めは良いよな?

 

大きいハンバーガーとグランドキャニオンの写真がそこにあった。

写真でも分かる壮大さにもし本物を見たら言葉を失うだろう。

他にもまだある。

 

○月▷日 ユニオンにて

今日はLAという所だ。

アルファベットだけの街だなんて不思議だ。

プロムナードというストリートでは大道芸人達で賑わい、歩行者達を楽しませていた。

英雄としてこうして人を笑顔にさせることも出来なくてはならないと感じた。

笑顔だけで人はこんなにも生き生きしてるのだから。

 

この人は英雄としての自覚があった。

ロイヤルだけの英雄では無く、世界の誰にとってもの英雄になろうとしていた。

果たして…俺はこの人になれるのだろうか。

 

_なれるさ。

 

っ、誰だ!?

 

オセアンさんでも俺でもない声がいきなり聞こえ、部屋の中を見渡す。

しかし、誰かが入ってきた様子も痕跡も無かった。

結局、空耳として俺は終わらせてしまい、俺はまた日記を見直す。

言動も行動もこの人になる為に何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も見直す。

 

 

_なれるさ。

 

 

 

 

 

 

_何故ならお前は

 

 

 

 

 

 

_何者でもなれる空っぽな存在だからな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

体が揺れる。それが段々とはっきりと感じたせいか、俺は目が覚める。確か俺は車でロンドンにイントレピッド達の所に送って貰ってるはずた。

 

「あら、閣下。目が覚めましたか?」

 

何故かロンドンの声がすぐ側で聞こえた。

変に思い、俺は重い瞼を開ける。頬になんだか衣服の感触があった。繊維の柔らかさとどこか柔軟剤の花のようないい匂いがする。そして目に映ったのはロンドンの顔だった。

 

「あ…ごめん。もしかして寄りかかってた?」

 

「いえ、大丈夫ですよ。…もう少し寄りかかっても良いんですよ?」

 

「いや、流石に悪いよ。毛布、ありがとう。」

 

俺は目頭を擦りながらロンドンから離れるように起き上がる。一つ小さな欠伸をしながら丁寧に毛布を畳んで、膝の上に置く。

 

「…もっと閣下の寝顔みたかったな…」

 

「え?何か言った?」

 

「い、いえいえ何も言ってませんよ。」

 

俺はロンドンがなにか呟いてたように思えたが、ロンドンは妙に焦りながらそれを否定した。

変だなと思いながらも辺りの景色を見渡す。目的地の広場が目視で確認できた。

 

「それじゃ、ここでいいよ。後は自分で歩くから。」

 

「はい。それではお気をつけて。」

 

毛布を助手席に置いてから車から降りる。

ロンドンは俺が見えなくなるまで車から手を振って俺を見送る。俺もそれに応えるようにロンドンが見えなくなるまで後ろを向いて手を振りながら歩いていく。

 

 

 

「…行っちゃいましたか。」

 

ロンドンは指揮官が行ってしまった虚無感に襲われていた。ロンドンは助手席を見ると、ふと指揮官が被っていた毛布を見る。

するとロンドンはその毛布を広げて自信に包ませる。

 

「ふふ、とっても暖かいです。」

 

衝動的な行動だった。指揮官が使っていた物と考えたら不思議と手が勝手に動いた。

しかしそれを変だとはロンドンは思わなかった。

まるで、こうする事が事当たり前のように。

 

「さて、私もお仕事に戻りましょう。」

 

ロンドンは毛布を肩から背中にかけて被り、今日の夜のパーティーの準備へと車を動かす。

一人の男の温もりを感じながら…

 

 

 

 

 

「さて、イントレピッド達は何処だ?」

 

ロンドンが車を出したお陰で、かなりの短い時間で移動出来たのは良いが、相変わらずの賑わいで人が多く、この中から一人二人を探すのは難しい。

マーブルヘッドがイントレピッド達に連絡を入れてくれたので待っててはいるそうだが、何処にいるかの目星は無い。さて、どう探したものか…

 

「あら、もしかして指揮官ですか?」

 

指揮官と呼ばれて後ろを振り返る。そこには蒼い髪のツインテールで、自身のスタイルを強調するかのようなぴっちりとした服に蒼いコートを羽織って現れたのはユニオン所属の空母、エセックスだった。

エセックスも最近ここに配属され、この前の戦闘にも参加した。

 

「エセックスか、どうだここは。もう慣れた?」

 

「はい、もうすっかり慣れました。あ、そういえば、イントレピッドもここに配属されたと聞きましたが…」

 

エセックスとイントレピッドは同じエセックス級の空母だつまりエセックスとイントレピッドは姉妹艦の関係だ。どうやら、彼女もイントレピッドの事を探していたらしい。姉妹だから積もる話もあるだろう。

 

「そうだ。実はイントレピッドを探しているんだけど、何かあいつ(イントレピッド)が行きそうな場所とか思いつかない?この広場にはいるはずなんだ。」

 

今日初めて会った人の行きそうな場所など考え付くわけが無い。だが、姉妹艦であるエセックスならイントレピッドが行きそうな場所の心当たりがあると踏んだ。

 

「そうですね…もしかしたら何処かで本とか読んでいるのかも知れません。テーブルがある場所に回って探しましょう。」

 

「分かった。じゃあ一緒に探そうか。」

 

俺はエセックスと一緒にイントレピッド達を探すこととなった。

店番をしてるKAN-SENからの目撃情報を頼りにしながらイントレピッド達を探し続けた。どうやら、向こうで飲み物を買ったのを見たらしい。そこで待っているはずなので俺とエセックスはそこへ向かう。

…気まずい。めっちゃ気まずい。今俺はエセックスと一緒に歩いてるが沈黙が続くと気まずくなる。こちらから何か話せ良いのだが話題が思いつかない。そんな時、エセックスが口を開いた。

 

「指揮官は、エンタープライズ先輩の事をどう思ってるのですか?」

 

「え?」

 

エセックスは突然、エンタープライズの事について問いて来た。驚きながらも、俺はエンタープライズとの出会いを振り返る。

 

思えば最初の出会いは最悪だったな…いきなり関係に溝が出来てしまった。自分を道具として扱えというエンタープライズに俺は激怒してエンタープライズと衝突した。

激怒した理由は自分を兵器扱いしようとするエンタープライズが許せなかったからだ。この基地で最初に出会ったKAN-SEN、ユニコーン、ジャベリン、ラフィーとの出会いでKAN-SENも人間と同じように笑ったりしていた。

だが、エンタープライズにはそれが無かった。自分の命を無下に扱おうとするエンタープライズに俺は怒ったのだった。

それ以降も意見は衝突して関係悪化…自分の不甲斐なさが憎い。

でも、昨日の夜のエンタープライズは違った。あの時、初めてエンタープライズの本心が見えたような気がした。

 

_指揮官、教えてくれ。私はあと何隻沈めればいいんだ?

 

「…誰よりもお人好しで、誰よりも強く、誰よりも繊細な奴かな…」

 

「繊細と言いますと?」

 

「人一倍責任感強くて、それを全部ひとりで抱え込んでしまうところとかな。」

 

誰よりも強いからユニオンの英雄となった。誰よりもお人好しだから皆からそう呼ばれた。そして、姉の足を失い、かつての同胞と戦っている場所の海がいつしかエンタープライズは恐怖を抱き、それに今呑まれている。

だが、分かっていても俺ではエンタープライズを助けられない、ここは今エンタープライズを気にかけているベルファストに任せるとしよう。

俺はこの考えを止めるようにエセックスと話を続ける。

 

「そうだ。エセックスはエンタープライズの事をどう思ってるんだ?」

 

「私ですか?…エンタープライズ先輩はユニオンの伝説で、英雄であり、憧れでもあって、私の目標です。…ですが。」

 

急にエセックスの顔つきが曇りだした。原因は分かっていた。この前の、エンタープライズの暴走か定かでは無いがエンタープライズが敵味方問わずに無差別に俺たちに攻撃した時のことだろう。

 

「この前の戦闘でのエンタープライズ先輩は、なんだが先輩じゃなかったような気がして…そういう意味では今の先輩もそうなんですが。」

 

確かに、何とか最後は正気を取り戻したが、俺を二度も撃った事実がエンタープライズに突き刺さり、彼女はいま閉じこもっている。エセックスも憧れの先輩に対して思うところもあると思うが、どんなふうに声を掛ければいいのか分からないのだろう。

そんな顔をいましていた。

 

「私は…あの時何も出来なかった。今だって、先輩の事を励ますことも出来ずにいる自分が情けないです…!」

 

エセックスは悔しさを握りつぶすように手を強く握った。その力強さは自身の手を傷つけるほどに。

そんなエセックスの事を見るに耐えず、俺は意識をそらすためにエセックスの拳に手を置く。いきなりの事でエセックスは驚き、手の力を弱めてくれた。

 

「大丈夫。きっとあいつは立ち直れる。だってユニオンの英雄だろ?それに、今動いている奴だっている。そいつが何とかしてくれるさ。だから信じよう。」

 

「指揮官…そうですね。エンタープライズ先輩ならきっと立ち直れます!」

 

エセックスは俺の手を包み込むように握り返した。彼女から暗い雰囲気は消え、いつものエセックスに戻った。こうしてしばらく見つめあう状態が続き、それは何かの落下音で終わりを迎えた。

俺とエセックスはその落下音の正体を探る為に音がした方向に向く。

するとそこにはコップが落ち、中身のジュースが零れていた。それだけでは無く、何か人の足があった。恐る恐るその黒いストッキングを伝っていくように見上げるとそこにはエセックスと同じような蒼い髪のツインテールのKAN-SEN、イントレピッドがそこにいた。

 

「あああ、貴方たちまさかそういう関係だったの!?」

 

そういう関係?俺とエセックスは何を言ってるのか分からずお互いにまた見つめる。そして先に気付いたのはエセックスの方だ。エセックスは視線を手の方に向くとイントレピッドが何を勘違いしたのか分かった。

そう、さっきの俺たちは見つめ合って手を繋いでいた。これでは傍から見れば恋人みたいな関係だと見て取れる。イントレピッドは俺とエセックスがそういう関係だと誤解したのだろう。

 

「ちちち違うの!これは違うのよイントレピッド!」

 

エセックスは慌てて俺の手を離して、俺を勢いよく突き放した。

そう、勢いよくだ。KAN-SENは本気を出せば普通の人間の倍以上の身体能力が出せる。勿論、それは筋力も例外では無い。そして今のエセックスは本気で俺を突き放した。つまりこれが意味するものとは…今の俺はまるでオーバースローのピッチャーに投げられたボールのように吹き飛ばされ出るというわけだ。

 

「ぐはぁぁぁぁあ!?」

 

「「し、指揮官ー!?」」

 

何とか背中から地面に着地したので致命傷は避けれたが、背中痛い。

めっちゃ痛い。勢いがありすぎて地面に接触しても勢いは止まらず、地面をえぐりながら進んだが何とか地面との摩擦で止まってくれた。おかけで地面の土が掘られていた。

 

「こ、これは流石に効くな…」

 

「だ、大丈夫ですか!?指揮官!」

 

エセックスが大声で心配してくれるのを聞いて、俺は大丈夫と言うサインの意を込めて親指をぐっと上げた。

 

「な、中々苦労してるのね指揮官は…」

 

こうして色々ありながらもようやく俺はイントレピッド達と出会えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

_アズールレーン 基地 医務室

 

一方その頃、マーレによって気絶(自業自得なのだが)させられたジンは医務室のベットの上で目を覚ます。

 

「んん…ここは何処だ?俺はジン。」

 

「あら?お目覚めですか?お身体の方は大丈夫ですか?」

 

ヴェスタルに声をかけられたジンはマーレに攻撃された横腹を手探りで痛みを確認しながら起き上がる。横腹を触っても対して痛みは無かった。ジンに気絶させたのにも関わらず、痛みを感じさせないマーレの技量には恐ろしい物だとジンは改めて思い知らされる。

 

「あぁ、大丈夫。それにしても医務室にそんな美人なナース?いや女医?まぁ、とにかく最高のシチュエーションだ。どうだ、一杯付き合わない?」

 

「あ、結構です。」

 

「あ、そうですか。」

 

ゲームやアニメだと何かしらのイベントがある場面に立ち寄ったジンは真っ先にヴェスタルを口説くがあっさり撃沈させれるジンであった。しかしそれだけでは終わらず、突如背後から突き刺さるような視線を感じた。ジンは視線の正体をおおよそ察しながら、正体を各院するためにゆっくりと後ろに振り向く。

 

「ジ〜ン?一体貴方は何をやってるのかしら…?」

 

後ろにいたのはやはりというかサラだった。その後ろにもネージュと風呂でメイドさんに手入れされたのか、髪もサラサラ肌がツヤツヤになったリフォルがそこにいた。そんな変貌を遂げたリフォルにジンはまじまじと見るが、それをサラが遮るようにジンの頭をサラが鷲掴みにする。

 

「ま、待ってくれ。俺は怪我人だぞ。それにこれには深い事情がだな…」

 

「風呂を覗きに来て、挙句の果てにはさっきKAN-SENに口説いた人が何を言ってるのかしら?」

 

「すみませんごめんなさい許してください。」

 

ジンはかなりの早口でサラをどうにかしてなだめるが、最早火に油を注いだ後のように、サラの怒りの炎は燃え盛っていた。

しかし、それを見るに耐えず一人の女性がサラの怒りを沈める。

 

「ま、まぁまぁ。落ち着いて下さいサラさん。今のジン君は怪我人なんですから。」

 

「貴方は甘いのよネージュ。だからこの馬鹿が調子に乗るのよ。」

 

サラはジンの頭を掴む手の力を弱めずなおも今ジンの頭を掴む。そろそろ離さないと本当にジンの頭にヒビが入るだろう。そのせいか、ジンは白目を向きながらすっかり大人しくなっていた。

 

「…まぁ、今はこのくらいしておくわ。良かったわねネージュが優しくて。」

 

(お前もあんな風に優しければいいのにとか言ったら殺されそうだから黙っておこう…)

 

心の中でそんな願いを殺しながら、ジンは痛みと共にベットに横たわる。

 

「ジンさん?ちょっと質問よろしいですか?」

 

「ん?」

 

ヴェスタルは椅子をベットの横に移動させる。椅子についている車輪が小さく音を立てながら、ここにいるもの全員がヴェスタルに注目する。

 

「確か、指揮官と喧嘩して負けたから気絶をされたんですよね?お怪我の方は大丈夫ですか?」

 

「ああそれなら問題ない。気絶はしたけど目立った外傷も後遺症も無い。本当に大したや…つ?」

 

突然ジンの歯切れが悪くなる。怪我が原因ではなく、ジンが何か考え込んでいるのが原因だ。今の話にどこにそんな考えることがあったのか分からずサラ、リフォル、ネージュは顔を見合わせる。

そして、その考えが分かっていたかのようにヴェスタルがジンの考えたことを当てる。

 

()()()()()()()()()()()()。そう考えてますね?」

 

ジンは考えを当てられて驚いたが、同時にヴェスタルの態度にも注目していた。まるで、最初からこの事を聞く為に質問したような感じだった。

 

「もしかして、それがさっきの質問の本質か?」

 

ヴェスタルは小さく頷く。ヴェスタルの考えを当てて返した事に少しの優越感を感じながら、ジンは頭を掻く。

 

「ふっ、だったら最初からそう言えばいいのに。」

 

「私は工作艦ですよ?誰かの怪我を診るより他に優先することはいきませんから。」

 

ヴェスタルは微笑みながら、自身の役目を告げた。ジンはその姿勢に感服しながら、皆に話すために体を起こす。

 

「優しいな…んじゃ、話を戻すぞ。まず、確かにマーレは豹変していなかった。あれはいつものマーレだった。」

 

この答えにサラ達三人は驚愕する。これまでマーレが例外なく自身が戦闘に、又はそれに近い状況の中で豹変しないというのは無かったからだ。三人は驚愕こそしたがリフォルがあることに気付く。

 

「んーでも、それって悪いこと?むしろ良いほうじゃないの?」

 

「そうね。あの豹変のせいでで周りからは白い目でみられたんだし。よくよく考えてみたら良いことね。」

 

皆はこれを異変として考えていたが、よくよく考えてみると悪い影響は一切無いように皆は思えてきた。いや、一人だげその事になにか不安を感じていた者がいた。

それは、ネージュだった。ネージュが一人考え込んでいた姿を見たジンは、いち早くそれに気づく。

 

「おいどうしたネージュ?なんかあったか?」

 

「え?いえいえ!なんでも無いです!大丈夫です!」

 

ジンの呼びかけで皆は一斉にネージュの方を見る。ネージュは突然視線を向けられて慌てふためきながらジンの言うことを否定する。しかし、そんな怪しい態度を目の当たりしたらそのまま流すわけにはいかなかった。

 

「ネージュ…残念だけど、流石にその態度じゃ無理があるわ。」

 

「嘘と隠し事が下手だね。」

 

「う、うう…はい、実は気になる事があって…」

 

サラとリフォルの追い打ちにより、ネージュは渋々と考えを打ち明ける。

 

「マーレ君の豹変が無くなった事は本当に良いことばかりなのかなって思って…」

 

「え?良いこと…なのよね?」

 

サラは自信なさげに言うが、確かに良いことばかりだ。悪い影響なんて見当たらなかった。皆は悪い影響の事について考えを出し合った。

 

「ん~…あ、戦闘の指揮をしていたのは豹変したマーレだから、指揮能力の低下とか?」

 

「いえ、それは変わっていませんでしたよ。数日前の戦闘では指揮官は豹変はしてませんでしたが、指揮能力や戦術は変わっていませんでしたよ?」

 

実際に指揮を受けているKAN-SENにそういわれると最早それは説得力の固まりしかなかった。それはそのはずだ、戦術を考えているのはあくまでもいつもの指揮官だ。豹変している指揮官は現状の戦況を見て、それを基にして戦術をアレンジしている。多少は戦略が変わっているがそれは誤差の範囲だ。

 

「あ、じゃあ反応速度とかの低下かしら?」

 

「いや、それは無い。あいつはスポーツとかしてる時は豹変してないが、それでも反射神経はずば抜けてるからな。」

 

確かにマーレは戦闘以外では豹変をしない。例えばスポーツでのマーレは豹変してないがそれでも反射神経等は常人よりは上だ。それはいつも一緒にスポーツをしていたジンが断言した。

ヴェスタルも指揮官とホーネット、エンタープライズと一緒にサンドイッチを食べた時の事を思い出した。

ホーネットと指揮官との最後のサンドイッチの取り合いを先に制したのは指揮官だった。人並みでは無い反射神経だとヴェスタルはあの時から薄々は感じていた。

 

「んー…思いつけば思いつく程、何だか悪い事が無いような気がしますね〜…。」

 

ヴェスタルは頬杖をしながら豹変が無くなったことによってマーレが悪影響を及ぼす事を考えたが、それは一切思いつかなった。それは他の人も同じだった。ついには悪影響なんて無いのではという考えにも至るほどだ。

 

「やっぱりネージュの考えすぎなのかしら…?」

 

「確かに。ネージュは一体どういう風に考えてるの?」

 

リフォルはこの議論を言い出したネージュに本人はどう考えているのか問いかける。ネージュは自信なさげに服の袖で口元を隠しながら考えを告げる。

 

「えっと…()()()()()()()()()()()()()みたいな嫌な予感がするんです。」

 

「「「………は?」」」

 

ネージュ以外の全ての人が呆気に取られた。無理もない。

そんな訳の分からない答えを出されては受け取りようがない。

 

「えーと、それだと人格が独り歩きしてるって事になるけど…?」

 

リフォルは、苦し紛れに考えついた答えを出すが、やはり訳の分からない答えだった。人格の独り歩き…それはまるで…

 

「それって幽れ…」

 

「や、止めてくだいジン君!それ以上言ったら、私今日眠れなくなります!」

 

「いや、貴方が言ったことが原因だから。」

 

サラはネージュにツッコミを入れた。ジンの言うことはネージュによって遮られたが、全員考えてる事は同じだった。

そう、それではまるで幽霊のようだった。つまり、マーレは最初からその幽に取り憑かれいたということになる。

その考えに辿り着いた全員、背筋に悪寒が走る。

 

「そもそも、どうしてネージュさんはそんな考えに至ったんですか?」

 

「…っ!それは…」

 

ネージュはヴェスタルの質問に対して解答を必死に拒む。

顔を下げて、拒絶する程に。

 

「言えません…それだけは絶対に。」

 

「…分かったよ。だったらこの話は止めだ。」

 

「ジン…良いのかしら?」

 

「良いんだよ。本人があんな言いたくなきゃ無理に聞く必要は無いからな。」

 

ジンは諦めたのかベットに倒れ込む。確かにネージュにこれ以上追求しても話してはくれないだろう。ネージュは申し訳なさそうに顔を下げる。

 

「私…ちょっと外に行ってきますね…」

 

自分のせいで空気を悪くした事に耐えられず、ネージュはゆっくりとドアを開けて謝罪するように一礼しながらこの部屋を申し訳なさそうに出る。

 

「…幼なじみだからこそ感じるものがあるのかしら。」

 

「多分な。」

 

ネージュが出ていった事で少しの虚無感を感じながらもジン達は話を続ける。ネージュにだけが感じた悪い予感は、マーレとネージュが幼なじみだからこそ感じ取れたものだろう。

 

「…ネージュはこの中で一番あいつ(マーレ)の事を知っていて、過ごしてきた奴だ。思う所もあるんだろうな。」

 

ジンは窓から見える海を見渡す。マーレとは海と言う意味を持つ単語だと思い出しながら…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

白い髪を揺らしながら、息を切らしながら何処かに行くわけでも無く、ただ皆から離れるようにネージュは走る。息が続かずに近くにあった砂浜で腰を下ろして少し体を休める。

 

「はぁ…はぁ…悪い事…しちゃったな…」

 

自分で作った議論に自分でうやむやにしてしまった事を思い出してネージュは自分を責め続ける。

 

「言える訳ないですよ…()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()だなんて。」

 

勿論、性格は全然違った。どちらかと言うと、いつものマーレの方が昔からあった性格だった。でもネージュは違うと確信していた。幼なじみだからこそ感じるものが確かにあった。

つまりそれは、()()()()()()()()()()()()()()()()ようだと。その考えは当たっていた。何故なら、彼はマーレでは無いのだから。

だがネージュはもしそれが間違って無かったらとすると、本物のマーレはとっくに居なくなってるという事になる。

ネージュはそれを認めくたくない為にその考えをしないようにしていた。しかし、どうしても確かめる為に、ネージュはマーレと同じ【アズールレーン指揮官選別学校】に入った。

 

「でも、やっぱりあっちのマーレ君の方が昔からいたマーレ君みたい…」

 

四年間ずっと見てきて、感じた事を確認するかのようにネージュは呟いた。これがネージュの結論だった。

癖や利き手、戦い方、そして豹変が終わる瞬間、必ずネージュの方に向けるその目は間違いなく昔のマーレだとネージュは確信した。

いや、本当は昔から確信していた。あの時、セイレーンに襲われ、奇跡的に生還したマーレ君を見た時にはもう気付いていた。彼はマーレでは無いと。

 

「…マーレ…君…グスッやっぱり…もう…」

 

ネージュは夕日に照らされた海を眺め、マーレとの思い出を振り返ると涙が零れ落ちる。ずっと一緒にいた人はもういない。恋焦がれていた人はもういない。そんな現実を突きつけられ、ネージュは泣き続ける。

そんな時、それを見て心配したのか四人のKAN-SEN達がネージュの傍に駆け寄った。

 

「あ…あの、大丈夫ですか?良かったらこれ使って下さい。」

 

ネージュは声をかけられた事を認識すると声のした方向に振り向く。そこには、ハンカチを差し出しているジャベリン、ラフィー、ユニコーン、そして綾波がいた。

 

「あ…ありがとうございます…えっと…」

 

ハンカチを手に取り、涙を吹くいた後にジャベリンに返した。しかし、感謝こそしたが、肝心の名前が分からず、ネージュは戸惑う。それを察したのかジャベリンは軽い自己紹介を始める。

 

「あ、私はロイヤル駆逐艦のジャベリンです!」

 

「ラフィー。」

 

「ゆ、ユニコーンです。」

 

「…綾波です。」

 

ネージュは最後の名前、綾波という名前に疑問を持った。どう考えても重桜のKAN-SENの名前だった。

 

「綾波さん…?その名前って重桜の…」

 

「ああ!これはには深〜い訳がありまして…」

 

「ざっくり言えば、綾波は捕虜なのです。」

 

ネージュは訳が分からず困っていた所、ジャベリンが事の経由を話した。

前の戦闘で重桜艦隊の殿をつとめたが、エンタープライズの暴走により、綾波は重症を負った。そしてアズールレーンが綾波の身柄を確保して、捕虜にした。そしてその監視をジャベリンとラフィーがしてるという。

 

「でも、何だか捕虜じゃなくてお友達見たいな感じですね。」

 

「だって、ラフィー達は友達だから。」

 

ラフィーがそう言うとジャベリン達は顔を見合わせて笑いあった。その光景が微笑ましかったのかネージュの涙は止まっていた。

 

「ふふ。仲良しなんですね。私はネージュです。マーレ君とは幼なじみの関係です。」

 

「指揮官の幼なじみですか!それなら指揮官のお話を聞かせて貰っても良いですか?」

 

幼なじみ。その言葉を聞いて、ネージュは胸が掴まれる感覚に襲われた。確かにネージュはマーレと幼なじみだが、今いるのはマーレでは無い。その事もネージュはもう確信しているので、平然と嘘をついている自分に罪悪感を感じる。

 

「…良いですよ。それじゃ何処から話しましょうか…」

 

ネージュはそれでも彼女達が気になっているマーレの昔話の聞かせる為に、マーレの事を話した。

 

(指揮官になったマーレ君…貴方は一体誰なんですか?)

 

そう心の中で思いながら、ネージュはジャベリン達にマーレの事を語る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

_現時刻 アズールレーン基地 広場

 

もうとっくに空はオレンジ色の夕日によって紅くなり、夕方となった。そろそろ今日の夜のパーティーの準備やらで戻らないといけない訳だが…

 

「それでね、英雄が誰かに力や意思とか受け継がれていくのもいいと思うんだよ!そして悪を倒していく姿を見るともう感動しちゃう訳で…」

 

うーん、長い。このリノって言うKAN-SENはヒーローとかが大好きらしく、俺は今そのヒーローの魅力について語っている。これがもう止まらずに話し続ける。なんかいつの間にかイントレピッド達どっかに行ってるし、つまり俺は今、リノと二人きりというわけだ。

 

「そういえば…確か指揮官って英雄の家系だよね。やっぱり意思とか志とか受け継がれていく事とか実感してるの?」

 

リノのその質問は俺には答える資格がなかった。何故なら俺はその家系の血筋も受け継ぐ資格も無いのだから。俺はただの嘘つきで、生きる為に仮面を被っているだけのただの悪い人でしか無かった。

 

「…実感はある。だから昔、世界を旅したんだ。この世界はどんなのか、人を守る為には何をすれば良いのか。」

 

…そんな訳ない。俺は生きる為に、もっと言えば重桜の皆に会いたいが為にマーレになっている。

さっきの言葉はマーレさんならこう言うから言ってるだけだ。

 

「〜っ!やっぱりヒーローの考えって凄い!こんな人が今隣にいるなんて、リノは今恥ずかしい表情をしてるに違いない!」

 

恥ずかしい表情と言うがそんなことは無い。ただ憧れの人が隣にいて緊張と歓喜が入り交じったそんな表情をしていた。

だから同時に罪悪感を感じる。やはりこの罪悪感は慣れない物だ。他人に嘘をつき続けると同時にこの罪悪感が胸を締め付けてくるように俺を苦しめる。そんな事をもう何年もしてきた。

 

「どうしたの指揮官?ヒーローがそんな顔してると周りは不安になるよ?」

 

「…あぁ。そうだな。でも…俺そんな大した奴じゃ無いんだよ…そろそろパーティーの時間だからこれで。」

 

俺はリノから逃げるようにこの場から離れる。きっと今の俺は酷い表情をしてるに違いない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

_現時刻 重桜

 

「なんとまぁ面倒な事になってきたねぇ。」

 

「オロチ計画は休止、量産型セイレーンも結局動かないまま。八方塞がりだ。」

 

星空浮かぶ夜の中、紅い髪をした伊勢と銀色の髪をした伊勢の姉妹艦、日向が酒に酔ったのか、着ている着物が乱れ、サラシが晒されていた。しかし、これは日時茶飯事の事なのか他の人は微動だにもせず、静かに会食を行う。

その場にいる一人の愛宕は灼を丁寧に一口飲むと、この場にいるものを確認するかのように二航戦である、蒼龍と飛龍、そして翔鶴を見る。

 

「確かにその事も心配だけど、綾波ちゃんと明石ちゃん、それに…優海君の事も心配ね。」

 

愛宕は優海と言う一人の男の名だけ強く言った事はこの場にいる全員の耳に入る。愛宕から少しの圧が少し感じられる。

 

「そうね…特に優海君…彼は何故か艤装を使っていた…しかもセイレーンの艤装も。」

 

蒼龍は思い出すように優海の艤装について語る。

見た事が無い艦の艤装にまるで蛇のように長い胴体を持った、セイレーンの艤装…優海はその二つを同時に使っていた。

 

「そもそも、皆さんは何故そんなにあの指揮官…優海さんの事をこだわるのですか?もしかしたらあの人はセイレーンかもしれな」

「そんな訳無いでしょう?」

 

まるで刀で切り伏せる様に翔鶴の言葉を遮り、刀の先端に首筋を向けてるかのような威圧を愛宕は翔鶴に向ける。翔鶴はその圧に屈し、それ以上の言葉を呑んだ。

 

「あの子がセイレーンであるはずが無いわ。だったら、この前の戦闘であの【大時化】と戦った事の説明がつかないでしょ?」

 

【大時化】とはアズールレーンが言う【テンペスト】の事だ黒いローブに顔を覆う仮面と二種のセイレーンの艤装を使う姿はまさに嵐そのものだ。

前の戦闘で、重桜はアズールレーンに宣戦布告をし、アズールレーンと戦闘を行った。その時、突如としてエンタープライズの変異とテンペストが介入した事により、戦況は変わり、重桜は撤退を余儀なくされ、旗艦である赤城は行方不明。綾波はアズールレーンに連れられた。

殿を務めた翔鶴と瑞鶴はテンペストと戦闘したが、圧倒的な力の前に為す術が無かった。そんな時に助けてくれたのはアズールレーンの指揮官だった。その事を間近で見た翔鶴はあの指揮官の行動が嘘偽りなく本気で自分達を助けるためだと分かっていた。

 

「ですが、それでもセイレーンの艤装がある以上関係がある事は間違いないんですよ?それでも彼の事を信じるとでも?」

 

「勿論よ。」

 

迷いない笑顔で愛宕は翔鶴に言い放った。

 

「きっとあの子はセイレーンに何かされたのよ。そうに違いないわ…だとしたら許さないけどね…」

 

愛宕から殺気のような物を翔鶴は感じ取り、鳥肌が立つ。これ以上優海の事を話すのは得策では無いと判断しこの話をする事は無くなった。

 

「それも心配ですが、オロチ計画が休止になったのは些か心配ではありますね。」

 

蒼龍は顔を上げて、皆に言い聞かせるようにか、それとも話題を切り替えるため声を上げる。

 

「そもそもあんな得体の知れない物に重桜の命運を託すべきでは無いんです。」

翔鶴はオロチ計画休止に賛成するように吐き捨て、灼を一口飲む。

 

「でも、そう簡単な話では無いわ。」

 

「蒼龍姉様の言う通りだ。レッドアクシズも一枚岩では無い…鉄血には弱みを見せたくない。」

 

重桜と鉄血はレッドアクシズとして同盟は組んでるが、関係は良好では無い。重桜からしても鉄血が何をしてるのかは把握していない。だからこそ、今オロチ計画を休止させ、オロチの事で何かを弱みを見せるのはあまり良くはない。それに突かれて立場が弱くなる可能性だってあるからだ。

 

「まぁ、本当の敵はセイレーンなんだけどな。」

 

日向が言った言葉に皆は黙った。分かっているのだ。皆それは分かっているのだ。しかし、敵の敵は味方とは限らない。現にこうして、意見が食い違ってるだけでこうして戦争だって起こしているのだから。最早、どうしようも無い状態だった。

本当に、どうしよう無い…

 

 

 

だが、それでも抗う奴がいた。

 

_同時刻 重桜

 

「体の具合はどうだ。」

 

「もう平気だよ。」

 

桟橋を歩く中、高尾が瑞鶴の様態を心配していた。

瑞鶴はもう大丈夫だと言わんばかりに小さく力こぶを作るように腕を曲げた。

 

「それは何よりだ…だが、状況は乏しく無い。重桜だけでは無く、まるで全てが悪い方向に進んでいる様な気がしてならないのだ。」

 

高雄の言うことはあながち間違いでは無いのだろう。

アズールレーンでは指揮官の命運が明日決められ、重桜はオロチ計画休止…周りは悪いことばかりだ。

だが、瑞鶴はそれに抗おうとしていた。

 

「だったら、私達で何とかしないとね!」

 

瑞鶴は深刻な顔をせず、笑顔で夜の海を見つめ、前の戦闘の事を思い出す。

殿を務めたのは自身なのに二人の人が助けてくれた。

重桜の仲間である綾波、そして、敵であるのにも関わらず、迷わず助けてくれたあの指揮官…優海。

 

「あの人達だって頑張ってるんだ。私達だって変わらなきゃ!」

 

「あの人とは、優海の事か?」

 

瑞鶴は強く頷く。高雄は小さく笑い。暗い表情を無くした。

 

「すっかり、あやつの影響を受けてるな。」

 

「そ、そうかな?」

 

「ああ。とっても似ておる。」

 

高雄は瑞鶴と優海を重ねて見た。昔を思い出し、高雄は懐かしながら目を閉じる。瞼の裏に鮮明にあの時の光景が蘇ってくる。

 

「高雄さん?」

 

瑞鶴の言葉で高雄は目を開ける。

 

「おお、済まない。少し昔の事を思い出してな。」

 

「…あの、良かったら優海さんの事、教えてくれませんか?」

 

「あぁ。良いぞ。そうだな…あやつと拙者が出会ったのは…」

 

高雄は瑞鶴に優海事を話した。性格や好きな物は勿論、彼の成長ぶりを長々と瑞鶴に語った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あたりは桜が舞い。空は白い。そこにいたのは加賀だった。

 

「この光景は…」

 

どこかで見覚えのある光景に加賀はただ立ち尽くす。

そしてしばらくすると、そこには見間違いようがない、一人の姉がいた。

 

「赤城姉様…!」

 

名前を呼ぼうとも赤城は加賀には振り向かず、ただ一人のKAN-SENを見ていた。

 

「天城姉様。」

 

「ふふ…ごほっごほっ…」

 

そのKAN-SENは名前を呼ばれてゆっくりと赤城に振り向く。しかし、その瞬間天城は咳き込んでそのまま倒れ込んでしまう。赤城はいち早く天城に寄り添った。

加賀は何も出来ずにただそれを見ている事しか出来なかった。

 

「天城姉様!無理はいけませんわ。」

 

「ごめんなさい。でも今日はとっても体の調子が良かったら…あの子と一緒に外に出たかったの。」

 

天城は一つの桜の木を見つめる。加賀もその木を見ると、そこには木登りをする幼い優海がいた。

 

「見てみてー!僕こんな木も簡単に登れるんだよ!」

 

「優海ー!危ないから降りてきなさい〜!天城姉様も心配してこんなに苦しそうよ?」

 

「ええっ!?天城お姉ちゃん!大丈夫!?」

 

優海は直ぐに気から飛び降りて、天城の所に駆け寄る。

天城の背中をさすったり、顔を近付けたりしてなにをどうすれば分からず困った顔をしていた。

天城はそれに察したのか、落ち着かせるように優海の頭を撫でる。

 

「うふふ。大丈夫よ優海。貴方の元気が私の特効薬なのだから…見て、今日はこんなに桜が綺麗よ。」

 

天城は加賀の後ろにある桜の木々に指を指す。最早この天城達には加賀が見えてはいなかった。まるで、必要なんか無いように。

瞬間。加賀はオロチ計画が始まったあの日を思い出す。

 

 

 

 

 

_数年前…

 

「このままでは重桜に、いえ世界に未来はない。力が必要よ。神の如き力を持った艦が。」

 

宙に浮かぶ、触手を持ったセイレーンが黒箱を持って赤城たちに話しかけた。最初は赤城たちも攻撃したが、ことごとく無力化され、相手から話があると言われ、今この状況になっていた。

 

「この黒いメンタルキューブはあらゆるデータを集め、進化するわ。」

 

触手のセイレーンは見せつけるように黒いメンタルキューブを手に持った。

 

「データとは思いそのもの。思いとは力そのもの。私たちの様な存在にとっては…ね。」

 

思いとは力…それは思いによって生み出された自分達KAN-SENの事だと赤城たちは理解した。願われて生まれてきた存在、だからこそ力を持って生まれた事を再認識させるように。セイレーンは言の葉を繋ぐ。

 

「故にこの箱から作られる艦は大いなる力を持つ。過去を再生し、未来を思うがままに作り出す。」

 

「訳の分からないことを!」

 

加賀は言葉の大半が理解できないが、何かをやらかそうとするのは本能で感じ取れた。加賀は鋭い目付きでセイレーンを睨むが、セイレーンは小さく笑うだけだった。

 

「どんな物でも生み出せるわ。たとえそれが死せるものだったとしても。愛したい人だったとしても。」

 

「戯言ね。」

 

「あら、心外ね。」

 

セイレーンは赤城の意外な反応に少々戸惑っていた。

 

「たとえ同じ姿、同じ記憶を持っていたとしても、それはただの現身(うつしみ)。鏡に映った影でしか無いわ。」

 

「違うわ。形も中身も寸分違わず同じものならそれは既に本物よ。」

 

この問は贋作を例にすればわかりやすいだろうか。

絵の作家と全く同じ手法、絵の具、考えが全く同じで同じ絵を描くと、それは紛れもない()()()()()()()()

本物がある以上、どう描いてもそれは偽物にしかならない。だが、本物を知らない人々はそれを見比べてもどちらか本物かは分からない。つまり、本質が見抜けない以上、偽物も本物なのだ。セイレーンはそういうことを言ってるのだ。

 

「そもそも本物って何?新しく出来た艦と朽ちた材木の寄せ集め…果たしてどちらかテセウスの船かしら?」

 

セイレーンは赤城に近づいた。唇同士が重なるギリギリの距離まで近づき、囁くように赤城の耳に悪魔の囁きを入れる。

 

「大切な事は貴方の隣に天城と優海がいるという事実…」

 

「…!」

 

赤城の目が変わった。心の弱みに付け込まれた赤城がセイレーンの提案を聞くことは時間の問題だった。

これが、オロチ計画の始まりだった。

景色はまた白い空間に戻り、赤城、天城、優海がいた。

加賀はまたそれを見てるだけだった。

 

(赤城姉様や優海の隣には私は居ない。)

 

心の何処かで分かっていた事を加賀は心の中で呟いた。

いや、分かっていたからこそ赤城に尽くそうとここまでやって来た。

 

(それでも構わない。私はただ赤城姉様の思うままに…)

 

だが、加賀はまだ何かの燻りを感じていた。これまでとは何か違う燻りを。その燻りを潰すように胸を掴むように服を掴むが、それでもまだ消えない。

 

「何なんだ…この苦しさは…?」

 

その苦しさは赤城…いや、優海を見ると苦しさは増した。

あんなに笑ってる優海を見ると、赤城や天城と一緒に入れて幸せな優海を見ると苦しさが立ち込めてくる。

 

「やめろ…そんな顔を私に見せないでくれ。」

 

加賀は目をつぶり、優海から顔を逸らす。だが、苦しさは無くならず、どうしようも出来ない状態だった。そんな時、服を引っ張られてる感覚に意識を持っていかれ、下を見る。そこには優海が心配そうに加賀を見つめていた。

 

「加賀お姉ちゃん?大丈夫?どこか痛いの?」

 

突然胸の苦しさが消えた。優海が私を見てくれてる。私を心配してくれてる。いつの間にか乾いていた所が潤う様にも感じられた。その乾きを無くすために優海を愛しく抱く。砂漠のような乾きが一瞬で無くなり、その上この上なく満たされていく。

 

「あぁ。そうか…私は本当は…」

 

加賀の意識は途切れる。意識は現実へと戻され、辺りの景色はいつもの重桜に戻った。空は暗く星空が瞬き、提灯の明かりが重桜を照らしていた。

だが、今の加賀にはどうでも良かった。加賀はこの場を離れ、オロチの場へと向かった。その姿を影から見送っていた人物がいた。

 

「うふふ。これでオロチは確実に目覚める。さらなる力を持って…ね。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

_アズールレーン基地 ロイヤル寮 パーティー会場

 

ロイヤル主催でジンたちの歓迎パーティーを行わせたが…まさかここまで豪勢にやるとはおもわなかった。

煌びやかな装飾に床は綺麗な大理石、そしてパーティーに参加しているKAN-SEN達は皆綺麗なドレスを着こなしていた。軍服で来た俺、凄い浮いてないか?まぁ、衣装に関しては例外はあるにはあるが…

 

「みんなドレスなのに、なんで私だけ男装なのさ!まぁこれはこれで着心地が良くて結構いい感じかも…」

 

一人だけ男性のフォーマルスーツいたクリーブランドがその一例だ。いや、確かに男性用のスーツだがクリーブランドは見事に着こなしていた。普段の性格や行動も相まって、違和感が無い。男性といえば、他の人は信じてしまうだろう。

 

「姉貴かっこいいよ~!」

 

「素敵です!姉貴!」

 

テンバーとモントピリアもかっこいいクリーブランドに感服している様子だった。コロンビアも相変わらずフーセンガムを膨らませながら、俺を見つけたのかこっちに呼ぶ。

 

「あ、指揮官!ちょっとこっちに来てみて~姉貴が凄いよ?」

 

俺は呼ばれたのでクリーブランド達に近づく。改めて近くで見ると男性用スーツを見事に着こなしているのが分かる。まじまじと見られたクリーブランドは恥ずかしいのか頬を紅く染めた。

 

「おお…こりゃ凄い。俺よりも似合ってるな。」

 

「でしょ~?かっこいいでしょ?」

 

「ああ、もしこれでダンスとかに誘われたらときめいてついて行ってしまうかもな。」

 

そんな冗談を交えながら俺は、クリーブランドを褒めちぎった。すると、クリーブランドが何か思いついたのか、身だしなみを整終えるようにスーツを延ばし、俺に近づいてくる。

 

「ふふん。じゃあ指揮官?この騎士と一曲どうですか?」

 

「え?」

 

俺はクリーブランドに右手を掴まれ、そのままKAN-SEN達の人混みの中をかき分けながら、ダンス場へと歩く。

まさか本当にダンスに誘われるとは思っても見ず、ときめくどころか戸惑いが溢れる。そんな事を考えいると、ついにダンスホールへと着いてしまう。周りのKAN-SEN達からの注目されてしまい、変に緊張してしまう。

 

「じゃあ指揮官。私に合わせて。」

 

「あ、ああ。分かった。」

 

クリーブランドは俺の両手に手を絡ませるように手を握り、向かい合う。音楽に合わせるように俺たち二人はワルツする。音楽に合わせ、足を動かしお互いの動きを合わせる。順調な滑り出しで始めたワルツは周りのKAN-SEN達も魅力する。

 

「そうそう。この調子で…」

 

しかし、良い調子もここまでだった。クリーブランドが足を踏み出すタイミングを間違えた為、クリーブランドはバランスを崩した。

 

「あ…」

 

「危ない!」

 

俺は咄嗟にクリーブランドの左手を放し、放した左腕ごとクリーブランドの背中に回り込ませてクリーブランドの背中を支える。そして、バランスを崩した体勢を無理やり起こすように右手でクリーブランドの右腕ごと思い切り引き上げる。その結果、俺はクリーブランドを抱きしめている構図になった。

 

「ふぅ…大丈夫か?クリーブランド。」

 

「へ?あ、うん!大丈夫大丈夫!…それと指揮官、近い…」

 

「あ…でも、このまま支えてないとクリーブランドが…」

 

この状態でもし手を離したり左腕の支えを切れたら間違いなくクリーブランドは地面に倒れ込んでしまう。

 

「指揮官…私、実はこんなダンスはからっきしで…動画とか見て見よう見まねでやってみたけど…こういう服着てるし、折角だからかっこいい所見てもらいたかったのに…かっこ悪いよね。」

 

「…いや、そんな事は無い。やっぱり、可愛い所もあるんだな。」

 

「か…カワ!?わ、私が!?」

 

「ああ、とっても。それじゃ今度は俺がかっこいい所、見せてやるからな。」

 

俺はクリーブランドと立ち位置を変えるようにターンをして、その遠心力でクリーブランドのバランスを整える。さっきはクリーブランドのタイミングに合わせて踊ったが、ここから先は俺の番だ。

 

「一応、俺は貴族だからな。こういうダンスは慣れてるから、今度は俺に合わせてみて。」

 

「わ、分かった。」

 

今度は足がもつれないように、ゆっくりと丁寧に足を動かす。クリーブランドも今度は俺の動きに合わせるように動かす。それにしても、やりたくも興味もなかったこの社交ダンスがこんな所で役に立つとは思いもしなかった。そろそろ曲調から終わりが近くなって来たのが分かる。

 

「フィニッシュを決めるからちょっと早く動くぞ。」

 

「だ、大丈夫。任せてよ!」

 

クリーブランドは自信満々な笑顔を見せると、こちらも心配無く動ける。

俺は大理石のダンスホールをクリーブランドと大きく腕を広げながら両手を繋ぎ、回りながら大理石の上を大きな一歩で早く歩く。回りながら動いているので目にちゃんと映るのはクリーブランドの顔だけとなった。クリーブランドと離れないようにしっかりと手を繋ぎ、最後は綺麗にフィニッシュを飾った。周りから拍手が喝采し、賛美の音でこの場を支配した。

 

「やったな!クリーブランド…あれ?どうした?」

 

クリーブランドと、グータッチをしようと思ったが、なぜかクリーブランドが隣で縮こまっていた。

 

「恥ずかしい…折角かっこいい所を見せようと思ったのに逆にかっこいい所を見てしまった…それにか、かわいいって…恥ずかしい…!」

 

何やら独り言を言ってるようだが、小さくてよく聞こえなかった。兎に角心配なので声をかけることにする。

 

「大丈夫か?足でも痛めたか?」

 

「え?大丈夫大丈夫!じゃあ指揮官!私はこれで!あ、あと次も少し頑張った方がいいよ?」

 

「え?次って?」

 

クリーブランドは俺の後ろに指さすとそこには複数KAN-SEN達が俺に手を差し伸べていた。

 

「指揮官、次は私と踊って貰おうか。」

 

クリーブランドに負けず劣らずの雰囲気を出すウェールズ。

 

「指揮官様。次は是非私と。」

 

パーティー用の衣装なのか、いつもの白いドレスでは無く、同じような白いドレスに青い花飾りと鳥の羽のような髪飾りに三つ編みの髪型をしたイラストリアスが笑顔でこちらに手を差し出す。

 

「指揮官〜!今度は私と踊ろうよ!」

 

今度もパーティー用の衣装なのか黒いドレスに金髪のツインテールのKAN-SEN、ホーネットが満面の笑みで手を差し出した。いつものカウボーイハットを外していたのでとても新鮮な姿だ。

 

「指揮官君?ここはお姉さんと一緒に踊らない?」

 

色気を全面的に押し出すセントルイス。

 

「お、お兄ちゃんとなら踊りたいな…?」

 

ゆーちゃんを抱えながら恥ずかしがりながら俺と一緒に踊りたいユニコーン。

 

「はいはーい!ここはジャベリンと踊りましょうよ!」

 

元気一杯に一緒に踊ろうとするジャベリン。

まずい、収集がつかなくなった。こうしてる間にもどんどん誘ってくるKAN-SEN達が増える一方だった。

このままでは全員と踊る羽目になる。いや、嫌では無いんだ。寧ろ嬉しい。嬉しいがここまで多いと流石に俺の体力が持たないので、終盤辺りからは俺とペアになったやつがガッカリするような動きになってしまう為、結局、相手を悲しませてしまうからだ。かと言って体力が無いからと言って、踊る事を拒否すればそれはそれで相手にガッカリさせる。

何かいい方法は無いかと辺りを見渡すと。俺の目に止まったのは、パーティーの食事を平らげてるジン達だ。なぜかネージュだけがいないのが気になるが、とにかく俺はKAN-SEN達とは後にしてジンたちと合流する。

 

「ふぉ!んーむ。ふぉてふぉてだな!ほくしょー!(おお!マーレ。モテモテだな!ちくしょう!)」

 

「食べるか喋るかどっちかにしなさい!」

 

サラの叱りでジンは皿に盛られていた料理を一瞬で全て平らげ、飲み干した。こんな人間離れした行動をするから、時々あいつが本当に人間なのか疑う。

 

「ふぅー。何だマーレどうした?」

 

「いや、お前も踊らないのかなって。」

 

「無理。相手居ないからな。」

 

ジンのその言葉にサラがなぜか怒ってるようにも見えた。サラはジンのスーツの裾をクイッと小さく引っ張ってこちらに気づかせる。

 

「ん?どうしたサラ。」

 

「…相手なら…ここに…いるじゃない。」

 

サラは顔の暑さで湯が沸かせるほど顔を真っ赤にしていた。何かに耐えているのかジンのスーツの裾を掴んでいる力が強いのが分かるほど手が震えていた。

 

「もぐもぐ…あ、ごめん聞こえなかった。なんて?」

 

「ジ…ジンのバカぁぁぁぁ!!」

 

しかしジンは食べる事に集中していたのでサラの話を聞いていなかった。自分が恥ずかしい思いをしながら誘ったのにこんなにも無下に返すジンはサラの怒りを買ってしまった。サラは思いっきりジンの顔に平手打ちを放った。

 

「ぶふぉ!?」

 

ジンの顔にサラの手の跡がくっきりと赤く残った事から相当の力で叩かれたのがわかる。サラは目に少しの涙を浮かべながらこのパーティー会場から出ていった。

 

「いてて何だよ…たくっ。」

 

「今のはジンが悪いよ。早く追いかけて。」

 

リフォルはジンの背中をおして、会場ドアの手口までジンを押した。

 

「…分かった。」

 

ジンはリフォルの圧に負けて、サラを探してこの会場を後にした。

 

「まったく素直になれないサラもだけど、ジンも悪いかな~」

 

「なぁ、リフォル。ところでネージュはどこだ?何故か見当たらないけど…」

 

リフォルは俺の問いに無言で窓を指を指した。指を指した方向に顔を向けると、外のテラスに深い青色のドレスを着てるネージュがいた。

 

「なんであんなところに?」

 

「さぁ、どこかの誰かがKAN-SEN達にうつつを抜かすからかな~?」

 

まるで誰かに言ってるような口調でリフォルは俺を見る。いや、分かっていた。それは俺の事だと。思えば、折角会ったのに殆ど喋ってもいなかった。

 

「悪いことしてるよな…」

 

「うん。あ、あとあの子たちはどうするの?」

 

「え?」

 

リフォルは、今度は俺の後ろに指を指した。何故か後ろから複数の視線を感じるのは気のせいではないだろう。そっとそっと後ろを振り返ると、そこにはほったらかしにされてご立腹なKAN-SEN達が俺を鋭い目で見ていた。

そしてそのままじりじりと敵を追い詰めるように俺に近づく。俺は恐怖から一歩ずつ後ろに下がるが、ついに背中と壁がぶつかり合い、逃げ道が無くなった。

 

「指揮官…酷いぞ。これだけ先約がいるのに貴方はそこの女性から先に踊るというのか?」

 

「いや、違うんだウェールズ。ただ、そこにジンたちがいたから話そうとしただけで…お前たちと踊りたくない訳では無くてだな…」

 

そんな俺の言い分を聞かず、KAN-SEN達はじりじりと俺に詰め寄る。…覚悟を決めろ俺。

 

「…ちょっと一人一人と踊る時間短くなるけどそれでもいいなら…」

 

こうして、俺は誘いに出たKAN-SEN達全員と踊った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

_現時刻 アズールレーン基地 

 

月明かりが照らす夜の中でエンタープライズはパーティーには出ずに一人歩いていた。特に何か用があるわけでもなく、エンタープライズは気晴らしに歩いているだけだった。この夜空をみると、エンタープライズは不意に昨日の夜、指揮官に自分の本心をさらけ出したあの日を…

 

_あと何隻沈めればこの戦いは終わるんだ?いや、そもそも戦いは果たして終わるのか?

 

「あれが私の本心なら、最早私には兵器としての価値は無い…」

 

エンタープライズは昨日言った自分の言葉を思い出す。自分はこの戦いを恐れている。だから自分が戦う場所である海を恐れている。破壊した敵の残骸の冷たさ、海の冷たさ、戦場からとめどなくあふれ出る硝煙の匂いや止まない砲撃音や艦載機の音、幾度となくそれを感じてきた。傷ついた見方もいた。その中には足を失った自分の姉もいた。そして、自分の手で仲間を…指揮官を撃ってしまった。あの時の恐怖を思い出し、エンタープライズの手が震える。エンタープライズは必死に震えを止めるように手を握るが、それでも止まらなかった。

 

「私は一体…どうすればいいんだ。」

 

思わずうつむいたエンタープライズは前から走ってくる人に気付かずにその人とぶつかってしまう。エンタープライズはいきなり来た衝撃に驚き、そのまま倒れこんでしまう。ぶつかった人もその反動から逆方向に倒れこんだ。

 

「す、すまない。大丈夫か?」

 

「いえ、こっちも向こう見ずに走ったから…」

 

エンタープライズは咄嗟に立ち上がり、ぶつかった人に手を差し伸べる。その人は煌びやかな赤いドレスを身に着けたクリーム色の髪をしたサラだった。

 

「見ない顔だな…人間か?」

 

「え、ええ。そういう貴方は…エンタープライズ?」

 

名乗ってもいないのに自分の名前を当てられたエンタープライズはすこし驚くが、とにかく今はサラの手をとり、彼女は立たせた。

 

「何処かであったかな…?」

 

「いいえ。貴方はユニオンの英雄だから、嫌でも耳に入ってくるわ。私はユニオン出身だから。」

 

エンタープライズは納得した。英雄というものは誰でもその名を口にして人々の耳に入っていく。しかし、エンタープライズはその「英雄」という言葉を聞くと、胸が突かれるような痛みを感じた。それはきっと自分がもう兵器としての価値が無いというのを自覚してるからこそ故だ。もはやエンタープライズは自分はもう英雄として呼ばれる筋合いは無いと自負していた。

 

「止めてくれ…最早私には英雄と呼ばれる事や、ましては兵器としての存在理由は無い。つまり私は存在価値の無い鉄くずと同じだ…」

 

「それ、マーレが聞くと怒るわね。きっと。」

 

「指揮官か…確かに怒るかもな。」

 

「…少し話ましょうか。」

 

エンタープライズとサラは近くのベンチに座った。夜風の中、二人はしばらく黙って夜の海を眺めていた。どちらが先に話を切り出すか困っているからだ。そしてようやく、サラが最初に話を切りだした。

 

「えっと…マーレはどう?上手くやれてる?」

 

「ああ。あの人は素晴らしい指揮官だ。戦術も戦略もまるで未来を予知してるかのように先を見据えた指揮はいつも驚かせる。…私がいなくても大丈夫なほどに。」

 

エンタープライズは指揮官がしてきた指揮を思い出す。最初、赤城と加賀がいきなり攻めてきたのにも関わらず、指揮官は冷静に皆を指揮した。まるで、相手の動きを予知してるかのように相手の動く先に魚雷を放ったりもした。そして、エンタープライズが五航戦に襲われていたホーネットの部隊を助けに来た時も、敵の攻撃を目視もせずにすべての攻撃を把握した。まさに完璧な指揮官だった。

 

「何か最後行ったかしら?」

 

「いや、何でもない。ところで、貴方はどうしてこんなところに?確か、今は貴方たちの歓迎パーティーをロイヤルが主催してるはずだが…」

 

エンタープライズは自分が言ったことをサラから気をそらすため、別の話題へと切り替えさせる。自分の事を言われたサラはエンタープライズの思惑通りにこの話題に気を逸らした。

 

「ええと、何ていうか…自暴自棄になって出ていったというか…何というか…」

 

サラの歯切れが悪くなり、自分のスカートを強く握りしめた。

 

「えっとね、ある人がパーティーの食べ物ばかり食べて、折角だからダンスとかしようかなって誘ったんだけど…どうしても素直に誘えなくて…でも、その本人がそれを聞こえなかったらしくて、なんか私の気持ちを無下にされたようで腹が立って…今の状況に至るわ。」

 

「その人って、指揮官か…?」

 

「うふふ、まさか。」

 

サラは笑ってエンタープライズの問いに否定した。と言ってもエンタープライズが知ってる男性と言えば、指揮官であるマーレしかいないのだが。

 

「私にとって身近な人で、昔から一緒にいた人で、誰よりも真っすぐな人。…だからこんな気持ちになるのかも。」

 

サラはその気持ちを手で感じるように自分の胸に手を当てる。

 

「私ね、多分この気持ちが怖くてずっと逃げていたの。伝えたら離れてしまうかも、この関係からもっと遠ざかってしまうかもって考えると…怖くて逃げてきた。それを認めたくないから変に強気になっていたのかも…」

 

「逃げる」「怖い」その言葉にエンタープライズは指揮官との夜を思い出す。

 

_海が怖いのか?

 

_逃げるな。そんな安易な考えで逃げるな。

 

エンタープライズは指揮官に言われた言葉をまた思い出す。その言葉はエンタープライズにとって胸に突き刺さる言葉だった。心のどこかで認めているからこそ、その言葉が槍のように突き刺さるのだとエンタープライズは頭では分かっていた。だが認めたくないから、逃げてきた。兵器としての理由を盾にして、認めたくない本心から逃げてきた。そして昨日、自分の本心を指揮官に…

 

「あ、いたいた!」

 

突然横から指揮官では無い男性の声がした。サラとエンタープライズはその声の方向に向くと、そこにはスーツ姿のジンがいた。ずっと走ってサラを探し続けたせいか、ものすごく息を切らしてサラの目の前に止まる。

 

「はぁ…はぁ…ようやく見つけた…」

 

「…何よ。貴方は早くパーティーの食べ物を食べ尽くしたら良いじゃない…」

 

サラはジンから顔を逸らし、顔を見せないようにする。

まだ息が荒いジンは深呼吸をして息を落ち着かせる。

 

「ふぅ…さっき俺が何かやらかしたのなら謝る。だからさ…戻ろうぜ?夜風は冷えるしさ。」

 

「別に良いわ。このまま部屋に戻るから。貴方はさっさとKAN-SEN達にナンパでもしてたら?」

 

「うぐっ…」

 

ジンはサラの言葉に貫かれるような心の痛みを感じた。

 

「早く私の前から消えて。もう顔を見せないで。」

 

「……」

 

サラとジンとの心の距離は離れるばかりであった。ここにいたエンタープライズは見てられないと思ったのかサラの肩を掴み、先程の話をする。

 

「…素直になった方がいいんじゃないか?」

 

サラはその言葉でさっきエンタープライズに話した事を思い出す。エンタープライズもサラが驚いて肩を少し上がったのを見逃さない。

 

「話を聞く限り、悪いのはこの人の方だろう。だが、本人もこうして貴方を必死に探して謝罪している。」

 

ジンは今でも深く頭を下げていた。顔は見えないが、自責の念をした顔をしてるのだろう。

 

「俺はお前に許して貰うまでこうしているつもりだ…あの時の様にお前に許してもらうまでな。」

 

あの時という言葉でサラはまだジンとサラがまだ未成年のあの頃を思い出す。ある日の頃、ジンはサラとの約束をすっぽかした事があった。サラは何時までも約束した場所で待ち合わせをしたあの時だ。

 

 

 

 

 

 

_数年前 ユニオンにて

 

約束の時間からとっくにすぎて、あたりは暗くなり始めた。それでもサラはジンを待ちづけた。何も食べずにただ来ることを信じて待っていた。そして、ジンが来た頃には最早遅かった。

 

_サ、サラ…すまん。約束の日今日だった事忘れてて…

 

_…もういい…あんたなんかずっとここで反省してればいいの!

 

サラは泣きながら家へと帰っていき、その姿を見てジンは立ち尽くしが出来なかった。

サラは家に帰るとベットの上にある枕に顔を沈め、枕が濡れるまで泣き続けた。外もサラの涙が空から降ってきてるように雨が降っていた。

 

_楽しみにしていたんだけどな…

 

サラは約束の日の事をずっと楽しみにしていた。買い物をして、一緒に遊んで、もう18歳だからちょっと背伸びして夜遅くまで外に出歩くのを今日するはずだった。でももうそんな今日は訪れない虚しさがサラを一層悲しませた。悲しみに暮れる中、ドアのノック音がした。

 

_サラ。ちょっと良いかしら?

 

突然、サラの母親が部屋に入ってきた。何やら少し慌てている様子だった。

 

_お母さん…どうしたの?

 

_ジン君、まだ家に帰ってないらしいのよ。あの子の家って結構大きい家系だからお手伝いの人たちが探しに回ってるらしいけど見つからないって…それで友達の貴方なら何か思いつくんじゃないかって…

 

ジンがまだ家に帰ってない。その事実はサラはジンへの怒りが心配に変わった。サラの呼吸が荒くなり、胸が掴まれているかのように苦しくなる。サラは必死にジンが行きそうな場所を考えた。だが、考えた場所はもうとっくにジンのお手伝いの人たちが探しに行っていた。

サラは泣きながら必死に考えた。そして、ふと今日ジンに言い出した言葉を思い出した。

 

_あそこだ…!

 

サラはベットから飛び出して玄関へと走る。玄関から自分の傘を一本取り出し、雨の中、外へ飛び出した。

雨粒が体をうち、向かい風が吹き飛ばすように吹いていた。サラは風で傘が飛ばないようにしっかりと傘を持つ。ようやく辿り着いた場所はジンとの約束した公園だった。サラの予想通り、ジンは公園にある木の下で座っていた。髪も服も雨でずぶ濡れになっいてぐったりしていた。

 

_ジン!

 

サラはジンに駆け寄り、すかさず体に触ると手からまるで氷のような冷たい感触が伝わった事から、体温がかなり低下してるのがわかった。サラはこれ以上濡らさないようにジンに傘をさし、次にジンの家の電話番号を携帯に入力してジンが見つかった事を知らせる。

 

_もしもし!ジンを見つけました。場所はヒルズタウンの中央公園です!早く来て下さい!

 

サラはジンの場所を知らされるとジンを見つめる。目を開けてくれず、酷く衰弱していた。この雨の中、ずっとここにいたのだ。雨で服が濡れ、体温がかなり奪われていた。

 

_どうして…?どうしてなのよ…!

 

_…お…前に…悪い事したから…な。

 

_え…?

 

ジンの声がした。サラは咄嗟にジンの顔を見ると、少しだがジンの目が開いていた。寒いのか体が少し震えていた。

_折角…約束したのに…俺が破った…からな…お前に…許して貰うまで…ずっとここで反省するつもりだ…

 

ジンはサラの言うことを真に受けてずっとここにいたのだ。サラが言った「ずっとここで反省してればいい」と言う言葉を受けて。雨風に打たれながらもサラに許してもらうまでずっと…勿論サラは本気で言ったつもりは無かった。

 

_バカ!本気にする必要無いのに!もう許すから…だから元気になって…お願い…!

 

結果。サラのこの叫びでジンの執事がジンを見つけ、直ぐに家へと戻され、治療を受けた。何とか体温は正常に戻ったが、ジンは風邪を引いてしまった。無理もないことだか…そして、時は一日が経つ頃、サラはジンの家に行き、ジンの見舞いをしていた。サラはジンが寝ていたベットのすぐ側の椅子で座っていた。

 

_…なぁサラ、昨日は本当に…

 

_別に良いわ。まさか本気にするなんて思って思わなかったけど。

 

そう言いながら、サラは器用にリンゴの皮をナイフで切っていく。一つも切れ目もなく、綺麗に剥かれたリンゴはさらによってサラに小さく切られ、食べやすいようにした。

 

_でも…反省したのなら良いわ。約束を破ったのも悪いけど、貴方に何かあったら私はもっと嫌だから…

 

_…ごめん。

 

_ふふっ…はいリンゴ。食べやすいようにちょっと小さく切ったから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

_時は戻り現在…

 

「…またあの時のように風邪を引かれても困るわ。だからもっと別の方法で私になにかして。」

 

「何かって?」

 

サラはベンチから立ち、何か心の準備をするように深呼吸をした。長い深呼吸が終わるとサラは何か決めたように気張った。

 

「わ…私と踊りなさい。今日はそれで許してあげる。」

 

サラは自分の顔を赤くなってるを自覚しているためジンには顔を見せずにいた。

 

「え?それだけでいいのか?」

「そう。これだけでいいのよ。」

 

ジンは、それならおやすい御用と言った顔を浮かべ、すかさずサラの手を握りパーティー会場まで戻ろうとした。

 

「じゃ、戻るか。」

 

「そうね。あ、そうそう。エンタープライズ、私の愚痴聞いてくれてありがとうね。」

 

「私は別に何もしてない。」

 

「私にとっては貴方のおかげよ。」

 

サラはエンタープライズに礼をしてからジンと共にパーティー会場に戻った。

 

「…何かした覚えは無いんだかな…」

 

「自身にとってはでも相手にとっては感謝される事なんて多々ある事ですよ。」

 

後ろから突然の声にエンタープライズは警戒してベンチから立ち上がり、ベンチの後ろの背景を睨みつけた。

そこにいたのはベルファストだった。エンタープライズは身内の顔を見て警戒心を解いた。

「いきなりなんだ。」

 

「エンタープライズ様がパーティーに顔を出さなかった為、こうして探していました。」

 

どうやらベルファストはパーティーに出席していないエンタープライズを探していたらしい。

 

「私はパーティーに出るつもりは無い。もう私に関わるな。」

 

「エンタープライズ様!」

エンタープライズは軍帽を深く被り、夜道に溶けるように消えていった。

 

 

 

 

 

 

_現時刻 アズールレーン基地 パーティー会場

 

「さ、流石に全員と踊るのは疲れたな…」

 

俺はダンスに誘ったKAN-SENの誘いを全て受け入れ、踊りに踊り続けた。他対一なので結果としてかなり体力を持ってかれた。まぁ、喜んで貰えて何よりだ。俺はふらついた動きで少し風に当たるためにテラスへと移動した。そして、俺は忘れていた。そこにはもう一人いた事を。

 

「マーレ君?どうしたんですか?」

 

「あ、ネージュ…いや、ちょっと踊り続けて体力が無くなったからちょっと休憩を…」

 

「そうなんですね…」

 

そうだった。確かテラスにネージュがいる事をすっかり忘れていた。ずっと放ったらかしにしたのを怒っているのか、ネージュはこちらに顔を向けようとしない。

 

「なぁネージュ…その折角会えたのに中々話せかった事に怒っているなら謝るよ…」

「お、怒ってませんよ!?いつも皆の為に頑張ってるのは良く分かってますから気にしないで下さい!」

 

様子が変だったがどうやら怒ってはいなかった様だ。

だが、それだと何故俺から顔を背けようとするのか…理由を聞くのが怖かった。そのせいで俺とネージュは沈黙が続く空気の中、ただひたすらに過ごした。そろそろパーティーがお開きになる雰囲気の中、このままでは行けないと思い、別の話題を考えようとしたが、沈黙を破ったのはネージュの方だった。

 

「あの…マーレ君。明日話す事って何ですか?」

 

心臓が止まりそうな質問だった。何故そんな事を聞くのかと思った前に俺はその答えを言うのが怖くなった。

明日話す事は俺の全てだ。俺はマーレじゃない事、皆を騙していた事を話す。まだ心の準備もしてない中で不意打ちにもネージュが核心に迫っていた。

 

「…ごめん。今言えないんだ…」

 

「…あの、踊りませんか?」

「え?」

 

「ここで良いです。ちょっと狭いですが、ワルツをするのには充分でしょう。」

 

ネージュはこのテラスで踊らないかと俺に誘った。いきなり踊るなんてなにを考えてるか分からなかったが、ネージュの目は真剣な目付きになっていた。俺はその目に負けてネージュと踊ることにした。

ネージュと手を繋ぎ、足を動かす。慣れた足運びでこちらもとても踊りやすかった。

 

「懐かしいですね。小さい頃、踊ることが下手だった私を励まして、夜はこうして一緒に練習をした事を覚えていますか?」

 

「…あ、ああ。覚えてる…」

 

心が痛い。そんな事覚えてる所か知ってる訳が無い。俺はマーレじゃ無いのだからそれを平気で嘘をつく俺が憎い。

 

「…嘘ですね。」

 

「…え?」

 

何でバレた?何処で間違った?俺は驚きを隠しきれず、まるで時が止まったかのように動きを止める。ネージュは顔を俯かせて俺の手を離して一歩下がる。

 

「…実は少しカマをかけてみました。踊りが下手なのはマーレ君の方です。マーレ君なら、”俺の方が下手だから俺が頼み込んだんだろ?”って言うはずです。」

 

俺はただ立ち尽くす事しか出来なかった。だが、この程度なら忘れていたと言えばどうにか出来るレベルだ。

だが、ネージュの追求は止まらない。

 

「それにマーレ君は()()()です。左手で剣を持つし、握手も必ず左手でします。でも貴方はこれまで見た限り()()()です。…どうですか?何か反論はありますか?」

 

…最早言い逃れは出来なかった。俺はただ黙って顔を全力で逸らすしか出来なかった。

 

「教えてください…貴方は一体誰ですか…?」

 

きっと俺は酷い表情をしている。ネージュも涙組んだ声で俺が何者なのかを追求する。ネージュの方を一瞬だけ見ると、真っ直ぐした目をしながら、一筋の涙が頬を伝っていた。それがはっきりと見えたのはこの夜を照らす月があるからだ。こんな綺麗な月がこれ程憎んだのは初めてだ。

俺の答えを彼女は涙を流し続けながら月明かりの下で待っていた…

 

 

_現時刻 某海域

 

鏡面海域の中、愛宕と高雄が俺に斬りかかってくる。俺は左右から来る刀を左腕にある剣で受け止め、左にある艤装の主砲で愛宕達を消し飛ばす。すぐに別の砲音が聞こえた為に右の艤装にある目玉で奴らの位置を把握する。さっきの主砲を撃ったのはウォースパイトとフッドだった。俺は主砲音から位置を計算して北西方向とそのやや上向きに右腕にあるビーム砲を放つ。上空は砲弾に当たって爆発が発生し、海の上でも爆発が発生した。どうやら俺のビーム砲が当たったのだろう。

 

「…まだいるな。」

 

上空から無数の艦載機の飛行音が聞こえてくる。数からして空母の数は…三隻だろう。俺はまた右の艤装にある目玉で空母の位置を索敵する。索敵が完了する間、俺は右の艤装から迎撃機を、右腕のビーム砲の出力を連射モードに切り替えて艦載機を迎撃する。

一点の狂いも無く、俺は正確に艦載機を撃ち落とし、俺が出した迎撃機も見事にほとんどの艦載機を撃ち落とした。

そして、全ての艦載機が撃ち落としたのと同時に、右の艤装が意志を持ってるかのように俺に空母の位置を脳内で知らせる。俺は渡された空母の位置を把握すると、右腕のビーム砲からケーブルを出し、それを魚の型をしている右の艤装の一部に繋ぎ、出力を最大まで高め、一点に放つ。

超高出力のビームは射線にある海を熱で蒸発させながら真っ直ぐに敵消し飛ばす為に進む。数秒が経ち、向こうで爆発が発生する。これで敵は全滅だ。あの空母達は…戦い方からしてエセックス、イントレピッド、そしてサラトガ辺りだろう。まぁ、どいつが来ても変わらないのだが。

 

「おうおうやってるね〜!明日遠足が楽しみで眠れない子供みたいな物かな?」

 

やけにテンションが高めでこちらに近づいてくるのはセイレーンのピュリファイヤーだった。

 

「何の用だ。」

 

「べっつにー、ただお前がなーんか私達の駒を使って戦ってるから見に来ただけだ。」

 

駒…俺がさっき戦っていたKAN-SENの事だ。原理は知らんが、本物と大差無い能力なので最近はこれを使って俺は戦闘をしている。量産型のセイレーン艦では最早相手にならないからだ。

 

「それにしても随分と戦うね〜そんなに戦いが好きなのか?英雄の末裔さんは血の気が多いねぇ?」

 

「お前みたいな戦闘狂と一緒にするな。」

 

「はっ!オロチの予備が何を言ってるんだよ!たく、あいつも自我を持ってから、KAN-SENは戦う為だけの存在じゃないとか言い出してよ!違うんだよ…戦争する為にあいつらKAN-SENは生まれてきたんだから戦う為だけの存在に決まってるのにさ。」

 

あいつ…とは、指揮官になってる優海というやつだろう。

確かに、あいつはそんな事を重桜で言い出していたな。まぁ、恐らくあれはマーレ()だったらこう言ってるだろうと思っての事だと思うが、半分は本心だろう。確かに昔の俺のままならそう言っていた。本当に昔の自分を見ているようで苛立ちが起こる。

 

「あ、そうだ。あいつはなんで暴走しないのかな?」

 

「暴走だと?」

 

「なんだって普通…まぁ、特殊な艤装とセイレーンの艤装を同時に装備して戦ってるんだ。そりゃ本人に負荷がかかって暴走やら何かの機能が失ったりするのに何故か暴走だけはしない…何で?」

 

確かに、あいつは三つのメンタルキューブを持っている。

まず一つはKAN-SENと同じメンタルキューブ、二つ目はセイレーンのメンタルキューブ、そして三つはオロチのブラックキューブだ。あいつもオロチの予備なのだから黒いメンタルキューブを持ってるのは当然の事だ。まぁ、本人は持ってること自体知らないと思うがな。

だが、暴走しないのはおそらく…

 

「恐らくだがブラックキューブが原因だろう。あれが負荷を軽減してるのかもしれない。」

 

「何でブラックキューブが負荷を軽減してるんだ?」

 

「そもそもブラックキューブは他人の思い等を無差別に取り込み、進化させるキューブ…恐らくだがそこにはKAN-SEN達の思いやデータが詰まっている筈だ。その膨大なデータが負荷を軽減させ、何とか自我を保っているのだろう。」

 

「へ〜愛の力ってやつ?」

 

「お前がそんな事言うとはな。」

 

ピュリファイヤーも吐き出すように舌を出す。どうやら自分が言ったのに虫酸が走ったようだ。

だが、現状考えられる事はこれだけだ。まぁ、明日それが分かる事だ。

 

「それで、明日は私とあんたが二つのブラックキューブをアズールレーンから取り戻すってわけね。」

 

「あぁ。アズールレーンが確保した奴は任せるから、俺はあいつのキューブを取り出す。」

 

明日、アズールレーン基地に奇襲かけ、二つのブラックキューブを奪還する。一つはアズールレーンが確保したキューブ。もう一つはあいつ…指揮官の中にあるブラックキューブだ。

 

「それにしても明日ね…お父さんや幼なじみに会えるかもね?」

 

「出来れば会いたくないんだかな。」

 

俺たちを見殺しにした父といつも一緒にだった幼なじみ…その人達に嫌でも会える憂鬱さに襲われながら、俺は空に浮かぶ月を見る。

こうして夜空を見るのだけは唯一変わってないと感じながら、俺はこの海を去る。

 

 

 

 

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