もしもアニメのアズールレーンに指揮官が出てきたら〜2nd season 海上の誓い〜   作:白だし茶漬け

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真実と自分と最後の朝と

第42話【真実と自分と最後の朝と】

 

「個体名…【コネクター(接続者)】。こいつは俺を基にして造られたセイレーンだ。」

 

その言葉を聞いて、世界が壊れるようにヒビが入った。

周りの景色や皆は灰色になり、時間が凍りついたように感じた。

 

「指揮官が…セイレーン…?」

 

エンタープライズがそう良いながら俺を見る。やめろ。そんな目で見ないでくれ。お願いだ。俺だって否定したい。嘘だと言って欲しかった。だが突きつけられた現実は非情だった。

 

「あぁ、そうだ。顔が俺に似てるのは、全て俺を基にしたからだ。…最もセイレーンの艤装を持ってる時点で確定してる事だ。お前達はそんな可能性から目を逸らしてこいつ(指揮官)がセイレーンに何かされたの一点張りだった。違うか?」

 

この場にいたKAN-SEN達、エンタープライズ、クリーブランド、ウェールズ、ベルファストは図星をつかれたのかそのまま何も言い返せずにいた。そんな彼女たちを見てマーレは無様だと言うように笑った。

 

「俺が…セイレーンなんて嘘に決まってるだろ…だって俺は昔セイレーンに襲われたんたぞ?ちゃんと親だって…」

 

「じゃあお前はその親の顔や名前を覚えてるか?」

 

「当たり前…だ…あれ?」

 

俺は親の顔と名前を思い出せなかった。いや、それ以前に俺は住んでいた街を襲われたという事実しか思い出せなかった。

 

「生みの親なんている訳がないだろ…そもそもその街を襲ったのはお前なんだからな。」

 

「そんなことある訳が…」

 

瞬間。俺はフラッシュバックで急に記憶が甦る。思い出せなかった昔の記憶のノイズが晴れるように段々と思い出してきた。

一筋の光が建物を壊し、崩壊した瓦礫が人を踏み潰していた。

炎が街を包み、人を苦しみながら焼き殺し逃げ場を失わせる。

必死に助けを求めて走り続ける少年も結局はその炎に焼かれた。懇願する姿も逃げ惑う姿も何もかも絶望した姿も見てきた。

そして、それを楽しみもせず淡々と街を破壊してるその姿はまるで平気であり、化け物でもあった。

彼の艤装なのか、長い蛇のような艤装は次々と砲撃を撃ち、街の全てを破壊した。彼は目的を達成したのか砲撃をやめて振り返る。

瞳は黄色く、髪も少し白いその姿は…間違いなく自分だった。

 

「うわぁぁぁぁぁぁぁ!違う違う違う違う!」

 

認めたくない記憶を振り払うように頭を抱えて膝を着く。だが、そんな記憶は振り払うこと無く認めろと言わんばかりに俺の目に浮かんでくる。

 

「違う違う違う違う!俺は…俺はそんなんじゃない!」

「ご主人様!お気を確かに!」

 

ベルファストが誰よりも早く俺に寄り添い、俺を落ち着かせようとした。

 

「俺は…俺は…」

 

「…話を続けるぞ。こいつと俺はオロチをさらに強化する為のただの予備だった。」

 

「予備…?」

 

「まぁ、予備と言うよりは強化パーツか。…オロチの起動には黒いメンタルキューブが必要…どういう事か分かるか?」

 

俺はセイレーンであり、オロチの強化パーツ…そしてオロチには黒いメンタルキューブを使う事で起動する・・・つまり考えられる結論は一つだ。だが、皆は口に出さずにいた。認めたくないから口を閉ざしていた。

しかしマーレはそんなKAN-SEN達の意思に反するように言葉を続けた。

 

「もうとっくに考え付いてるだろう。指揮官にもあるんだよ。オロチの黒いメンタルキューブが!」

 

マーレはその黒いキューブを突きつけるように俺の胸に指を指す。

 

「俺にも黒いメンタルキューブが…?」

 

それがあるのかどうか確認するようにおれは自分の手を胸に当てる。すると、急に胸がざわめき出す感覚に襲われる。まるで自分は最初からここにいたと主張してるように唸ってるようにも感じられた。

 

「…あぁそうだ。あのオロチの演算能力があったからこそ未来予知のような指揮が出来たんだ。…まぁ最も、俺も二度オロチの演算能力を体験したが…あれは相当な物だ…話を戻すぞ。元々お前にはそれとセイレーンのメンタルキューブと合わせて二つ持っていた。だがお前はいつしか、もう一つ持つことになった。それがKAN-SEN達と同じキューブだ。その証拠にお前は艦の形をした艤装が使えてる。」

 

確かに俺はKAN-SEN達と同じような艤装を主に使ってきた。つまり俺は、KAN-SEN、セイレーン、オロチのキューブ。合わせて三つのメンタルキューブを持ってるという事になる。

 

「そこまで知ってるなら、指揮官が使ってる艤装の艦は一体何だ。あんな艦を私達は知らない。」

 

ウェールズが言ってる事は俺の艤装の事だ。俺の艤装は間違いなくKAN-SEN達と同じような物だが、明らかに異質だった。戦艦並の主砲に、多数のミサイル。そして、あの時、マーレによって生み出されたレールガン。レールガンは直感で危険な物だと判断して使わなかったが、恐らくあれが装備してる中で最強の武装だろう。

そしてKAN-SEN達が言うにはあんな艦は見たことがないという。ウェールズはその事を言ってるのだ。

 

「…あれは、人類が未来作る艦らしい。」

 

「未来…?」

 

「あぁそうだ。急な事をだから詳しい事は分からないが…そのキューブを渡したのは一体誰なんだろうな…?」

 

まるで答えを言わせるかのような言い方に一同は思い悩む。だが、対して時間はかけずに答えが出たように。全員がある人物の顔を見る。

キューブを扱ってるのはアズールレーン上層部である。そして今ここにその上層部の一人がいる。

そう…オセアンさんだ。

 

「まさか…優海にキューブを渡したのは…あんたか?」

 

ジンがオセアンさんの顔を見ながら、震える声でオセアンさんに問いかけた。

しかし、オセアンさんは動じていなかった。

いや、むしろこの状況を予想していたかのような態度だった。

 

「…いえ、私ではありません。ですが、アズールレーンは優海君が艤装を持っていたことは知っています。」

 

そう。オセアンさんや一部の上層部の人達は俺が艤装を持ってる事を知っていた。何故なら、俺がオセアンさんに保護された時には、俺は艤装を無意識に展開していたからだ。それが報告され、アズールレーンの極一部だけが知っている事実だ。

 

「…そして私は貴方達に謝らなければなりません。」

 

「…どういう事でしょうか?」

 

リアさんは敬語で丁寧にオセアンさんに問うと、オセアンさんは頭に被ってる軍帽を深く被った。深く被ったせいで目が見えないが、何やら言いづらさや戸惑いが感じられた。

それを見たマーレは呆れてため息をついた。

 

「そんな態度なら俺が話してやるよ。」

 

「いえ、これは私自身が言わなければならない。」

 

マーレの目は父親を父として見ていない冷たい目を、オセアンさんは変わり果てた息子をまだ息子として見てる目が衝突しあっていた。

オセアンさんは一息吐くと、覚悟したように話を続けた。

 

「皆さんが指揮官になる為に入った【アズールレーン指揮官選別学校】…指揮官を選ぶのは仮の目的。本当の目的は別にあるのです。」

 

「別の…目的…?」

 

「優海も知らなかったのか?」

 

「俺もそんなの初めて聞いた…」

 

俺は困惑する。【アズールレーン指揮官選別学校】は名前通り、指揮官を選別する為に競い合う学校だ。それ以外に目的があるとは思えないが…

オセアンさんは俺やジン達の顔を見て、その目的を話す。

 

「その本来の目的は…優海君。君を指揮官にさせる為です。」

 

「え…それってつまり…」

 

「優海が指揮官になると言う出来レースという事だ。…つまり、お前達はただの優海の踏み台だった訳だ。」

 

「言ってしまえばその通りです…艤装を持った優海君をみすみすこのままにしておく訳にはいきませんでしたからね…そこで指揮官にならせたら管理が行き届くと考えました…しかし、生半可な能力では指揮官には出来ない。そこで作り出したのが【アズールレーン指揮官選別学校】です。競わせ、学ばせ、そこで指揮官になりゆる力をつけさせました。」

 

マーレが言ったことをオセアンさんは否定せずに深く頭を下げて顔を上げなかった。

ジンは怒りと戸惑いが混じった顔をしながらオセアンさんに今にも飛びかかろうとしていた。

しかしジンはそれをせずにただ自分の手を握っていた。爪が肌を貫き、血が出る程に強く握りしめていた。それほどまでにジンは信念を持って指揮官を目指していたのだ。それを無毛にされていた事を知ったジンの心境は言葉に出来ない。

 

「…やっぱり人類は変わらない。他人を貶し、陥れ、虐め、殺し、そして他人の気持ちさえもこうして利用する。」

 

まるで人類そのものを軽蔑してるその態度は自分がもう人間では無い事を主張してるようでもあった。

 

「優海の艤装がそれを物語ってる。己の為に他人がどうなろうと構わない。他人が不幸になろうとどうなろうとも、結局人は自分の為にしか動けない生き物なんだよ!」

 

「それは違います。」

 

それを否定する言葉が凛としてこの部屋に響いた。

俺の前に雪のような長い白髪が通る。それはベルファストでは無く、俺の前に立っていたのはネージュだった。

 

「他人に優しく出来て、人を愛し、自分よりも他人の為に行動できる人だって沢山います。」

 

ネージュはマーレの鋭い目を見つめながらそう言った。

まるで貴方がそうだと訴えるように思えた。

 

「知ってるさ…優しい奴もいる。俺はそんな人を何度も見てきた…

 

「だったら…」

 

「でもなネージュ。そんな良い人から利用されて、最悪死んで逝くんだ。そんな光景を俺は何度も見てきた!」

 

マーレは左手を力強く掲げた。そこには確かな怒りが感じ取れた。

 

「…話が逸れたな。じゃあ、そろそろ始めるか。」

 

「始める…?」

 

俺がそう呟くと同時にマーレは左手に力を込めると、黒い光がマーレの左腕に集まる。光は徐々に実態を持ち、剣となった。

 

「貰うぞ。お前のブラックキューブを。」

 

「下がれ指揮官!」

 

マーレが飛び出すと同時にウェールズは腰にかけてる剣を素早く抜いて、斬り掛かるマーレの剣と鍔迫り合いを始める。

しかし鍔迫り合いは長く続かず、マーレの圧倒的な力の前にウェールズはまるで赤子を赤子の手をひねるように打ち負かされた。

 

「くっ…!」

 

「その程度か…」

 

「そうはさせない!」

 

ウェールズに続くようにクリーブランドもマーレに飛び出していた。クリーブランドは艤装を一部展開させ、右手に装着された主砲をマーレに向けた。

しかしマーレは空いてる右手でウェールズの胸ぐらを掴むと、そのままクリーブランド目掛けて片手で軽々と投げ飛ばす。

空中にいたクリーブランドは踏ん張る事も出来なかった為、ウェールズ共々壁に吹き飛ばされた。

 

「クリーブランド!ウェールズ!」

 

俺は彼女達の名を叫んだ。返事こそは無かったが、苦し紛れの咳き込みで何とか無事だったことが確認出来た。

その姿を見て、俺は心臓の鼓動がこの上なく強く感じた。まるで全身の血管と言う血管を一気に隅々までに届かせるような勢いだった。それが速く、強く鼓動をさせ、俺はそれを静めるように胸を掴むがそれでも止まらない。

 

壊せ

 

守れ

 

潰せ

 

救え

 

相反する2つの思いがぶつかり合い、俺の中で暴れるようだ。そのせいか頭が殴打されてるような痛みが走る。

俺はその痛みに耐える為に必死にもがき苦しみ、地面に両膝をついた。

 

「ぐ…ア゛ア…」

 

「ご主人様!?大丈夫ですか!?」

「おい優海!しっかりしろ!」

 

ベルファストとジンが俺の異常を察知し、俺の近くを寄り添った。だが、マーレは止まらない。

 

「次はお前だ!」

 

「そうはさせない!」

 

エンタープライズがすぐ様俺の前に立ち、マーレの行方を阻んだ。エンタープライズは左手でマーレの腕を掴み、斬り掛かった剣を止めた。しかし、それだけでは終わらない。

エンタープライズはそのまま右手でマーレに殴りかかったが、マーレは驚きもせずにエンタープライズの右腕を掴んで止めた。そしてそのままエンタープライズの腕ごとへし折ろうと力を込める。

エンタープライズはマーレの手から離れようとするが、抑え込まれてる力が圧倒的に強いのか、微動だにせずにただ骨が軋むような音がエンタープライズの苦痛の叫びと共に発せられる。

 

「ぐっ…ああああ!!」

 

「…結局この程度か。覚醒した時もそうだったがお前は本当に弱いな。」

 

「何だと…ぐぁぁ…!」

 

「くっそもう我慢出来ねぇ!」

 

ジンが勢い良く立ち上がり、そのままマーレに向かって行った。

 

「止めなさいジン!」

 

「お前は下がってろリア!」

 

リアの呼び止めにジンは足を止めずにマーレに襲いかかる。しかし相手はセイレーンなのに対しこちらはただの人間…力の差は歴然だった。その事をマーレは思ったのか溜息を吐きながらエンタープライズの右腕を掴んでいた手を離し、そのままマーレに殴り掛かるジンの攻撃を避け、ジンの顔を掴み、そのまま地面に叩きつけた。

だが、そのお陰もあってかエンタープライズがマーレから離れられた。エンタープライズは自身の痛みをひかせるようにを腕を掴み、そのまま倒れ込んだ。

 

「がはっ…!」

 

「ジン!」

 

リアは叩きつけられたジンを見て叫んだ。ジンの顔は今もマーレに掴まれていた。マーレはリアに圧をかけるように睨みつけると、圧倒的な力とプレッシャーの前にリアは静かに膝をつく。

 

「馬鹿な奴だ。勝てる訳も無いのにな。」

 

「そういう問題じゃ…無いんだよ…!」

 

「…気絶させる程叩きつけた筈だが。」

 

苦しみながら発する声を出したジンは、両手でマーレの右腕を掴む。さっきのエンタープライズにした事のお返しと言わんばかりに、ジンはマーレの腕を折る気で力強く掴む。

 

「勝てる勝てないじゃねぇ…!抗うんだよ!昔お前らと戦った人達も、KAN-SEN達も、お前らと戦って抗った!生きる為に、愛する何かを守る為にな!だから、このままやられる訳にはいかねぇ!人類の力って奴を見せつけてやる…!」

 

ジンは人類の力を見せつけるように更にマーレの右腕を強く掴み、マーレの骨が軋む音が聞こえる。しかし、マーレにダメージを与えてる様子は無く、マーレはまるで些細な抵抗をしてる虫を見てるかのような目でジンを見た。

 

「…虚しい抵抗だ。」

 

そして止めを刺すようにさらにジンの頭を地面に押し付けた。地面にヒビが入り、少しのへこみが出来た。

ジンはそのまま力尽きてマーレの腕を掴んでいた手を地面の重量に従ってそのまま地面へと落とした。

 

「…!ジン!」

 

 

リアの悲痛な叫びがその場を震撼させた。ピクリとも動かないジンを見たリアは涙を流す。今目の前にある現実を認めたくない為か、リアは両手で顔を覆った。

 

「…滑稽だな。」

 

「それをお前が言うのか!マーレ!」

 

自分の息子の名を叫びながら、オセアンさんは服の内ポケットから護身用の銃を取り出し、マーレに銃口を向けた。

 

「ジンさんから離れなさい。」

 

まるで悪いことをした子供を叱りつけるようにオセアンさんはマーレに言い放ちながら、震えた手でマーレに銃口を向き続けた。

 

「撃てるのか?お前に。」

 

「っ……」

 

マーレは言う通りにジンから離れるとそのまま右足でジンをリアの所まで蹴りつけた。

蹴られたジンの体は回りながらリアの傍まで移動し、そのままリアにぶつかった。

 

「ジン…!ジン!目を開けてよ!ねぇ!…お願いだから…!」

 

リアは涙を流しながらジンを目覚めさせるように声をかける。リアの涙が頬をつたり、そのままジンの顔へと落ちた。しかし、一向にジンの目は覚めなかった。

そんな彼女を見て、俺にまた頭が割れるような痛みが襲いかかる。俺は悶絶し、そのままその痛みに耐える。

 

_お母さん!目を開けてよ!

 

_おい目を開けろ!…開けてくれ…!

 

崩壊する街の中で、瓦礫が落ちる音に混ざって大切な人に呼びかける声がする。これは…俺が襲った街の…記憶?

 

街は全壊し、最早街とは言えなくなった場所でただ一人

立ち尽くしていた奴がいた。それは先程見た本当の自分…セイレーンの【接続者(コネクター)】だった。

そいつは俺の存在に気づいたのか俺の方に振り返る。

その目は光が灯ることは無く、まるで機械のようだった。

 

_…お前は(俺は)皆とは一緒に生きられない。

 

「……」

 

コネクターが言ったことを俺は否定する事が出来なかった。何故なら俺は皆を騙し、欺き、そして自分は人類の倒すべき敵なのだから。

 

_お前は(俺は)人類にとって忌むべき存在だ。

 

「…分かってる。だからこそ…終わりにさせる。」

 

世界がガラスのように壊れ、世界は一変して暗い虚無になる。まるでそれは、俺の最後を表してるかのように。

俺は決意を胸に、そのまま進む。

 

 

意識は現実へと帰り、俺は全身に力を込める。世界が揺れ、俺の周りに風圧が発生する。それだけじゃない。黒と白の稲妻が俺の周りに走り、黒と白が混ざったような光が俺の右手に集まり、まるで剣の様な形へと変える。

 

「っ…指揮官…?」

 

「ご主人様…?」

 

エンタープライズとベルファストが俺の事を呼んだ声が聞こえた。俺は振り返ると、エンタープライズとベルファストだけでは無く、ここにいる全員が俺の事を見ていた。

 

「…ゆ…う。」

「!?ジン!良かった…無事だったのね…!」

 

さっきの衝撃で意識を取り戻したのか、ジンは目を開けた。ジンは今の状況を呑み込めずにいたが、本能的には分かっていた。俺とマーレがこれから戦う事を…

これが俺にとって最後の別れになるかも知れない。

だからこそ言うことがある。

 

「皆…今までありがとう…!……さよなら。」

 

天城さんとあの時別れた時、天城さんは笑っていた。

だから俺も同じように笑った。作り笑いではなく、本心の笑顔を。

 

「…別れの挨拶は済ませたか?」

 

マーレから凄まじい殺気を感じ取り、俺はゆっくりと振り返る。なるべく長く皆の顔が見たかったからだ。ここで振り返り終えると、もう皆の顔は見れないと思ったからだ。そして俺の目に映るのはマーレだけとなった。

 

「…もうしました。俺は…貴方を止めます。」

 

光の靄がかかった剣はようやく実態を持ち、白い大剣となった。その剣先をマーレに突きつけて戦闘体勢に入る。

何となく、今までよりも自分の力が強くなったと分かる。それもそうだ。これが最後だから、全力でマーレを止める。

これで次に目や耳の機能を失っても良い。どうせ最後になるのだから構わない。

 

「やめてくださいご主人様!」

 

その言葉と共に、俺は一気にマーレとの距離を詰めた。

予想よりも速かったのか、マーレは一瞬反応が遅れた。

その隙を見逃さなかった俺は、外に出るためにマーレの胸ぐらを掴み、そのまま窓ガラスに投げ飛ばした。

ガラスが割れる音共にマーレはそのまま外へと放り出され、俺もそのまま外へと飛び出す。

俺たちがいた執務室は最上階にあるため、地面とはそれなりの距離がある。俺とマーレはそのまま自由落下に逆らえず、どんどん地面に近づいていく。

 

「この程度で…!」

 

マーレは右の艤装を展開させ、艦載機を一機呼び出すとマーレはその艦載機の上に乗った。マーレはそのまま艦載機で海の方向へと進む。俺もそれに対抗するように、セイレーンの艤装を展開させる。蛇のような長い胴体部分に乗り、艤装はそのまま宙へと浮かぶ。

 

「逃がさない!」

 

俺は更に艤装を展開すると同時に大剣を二丁拳銃に変形させる。使わなかった大剣のパーツはそれぞれ小さな自立型の盾となり、それが5つ程作られた。更に俺はセイレーンの艤装の砲含む全砲塔をマーレに向けて放った。

圧倒的な弾幕がマーレに襲いかかる。

マーレは出したばかりの艦載機を踏み台にしてジャンプをした後、右腕のビーム砲の出力をワイドレンジ寄りの威力に切り替え、まるでビームの壁を作り出した。

ビームの壁はき艤装の実弾を破壊し、ビームも減衰させて威力を殺した。

全ての弾幕を躱した後、すかさず別の艦載機を出して体勢を整えた。

 

「どうした?レールガンは使わないのか?」

 

「ぐっ…」

 

俺はマーレによって生み出された右腕の兵装…レールガンを見つめる。確かにレールガンを使えば状況を打開するかも知れない。しかし、本能的に感じるこの兵装の危険さが使うことを躊躇わせる。

そんな考えが過ぎる中で突如基地から爆発が起きた。場所は大講堂の所だった。何が起きてるのか確認するためにその方角を見る。

 

「なんだ!?」

 

『…きかん…指揮官!』

 

「この声は…ヘレナか!?さっきの爆発は何!?」

 

ノイズ混じりの通信を聞き、ようやくノイズが減ってヘレナの声を聞き取る事が出来た俺は爆発の原因を報告させる。

 

『それは…こちらにももう一人セイレーンが!』

 

「何だって!?マーレさんだけじゃ無いのか!?」

 

「よそ見する余裕があるのか?」

 

「しまっ…」

 

不意をつかれ、距離を詰めたマーレに俺は抵抗も無く、そのまま海に叩きつけられるように振り下ろされた剣を受け、そのまま海に落下する。これだけでは飽き足らずマーレは更に左側の艤装も展開させ、主砲と艦載機で俺に追撃する。

俺はさっき変形させた二丁拳銃で主砲のビームを減衰させる。こちらの銃もビーム系なので何とか減衰は出来るが相手の出力が高すぎて相殺は出来ない。

しかし、自立型の盾が俺から攻撃を防ぎ、ダメージは最小限に抑えてはいた。だが、マーレさんの攻撃は終わらない。

 

「終わりだ。」

 

嵐のような弾幕が終わる頃にはマーレさんは右側の艤装と右腕の武装を連結させ出力を溜めていた。流石にあの出力は防げない。残された手はただ一つ、レールガンだった。

 

「ぐっ…使うしか無いのか…!」

 

俺は二丁拳銃の武装を一旦閉め、代わりに右腕に装備されたレールガンの銃口をマーレに向けた。レールが伸び、その間には弾丸が積まれていたこの武装の力は未知数…だが何となく分かる。これは強力な兵器だと。

レールの間から微かな電気が走り、出力を溜めていた。

 

「ここだ…!いっけぇぇぇ!」

 

「…!」

 

レールの間にある弾丸が一瞬でレールから放出された。その反動により、俺はそのまま勢いよく海へと落下されて行った。弾丸は音速を超え、マーレに向かって突き進む。だが、俺が撃った場所は空中でしかも初めて使う武器なので使い勝手がまだ分からなかった為か弾はマーレの横を通り過ぎた。

 

「…ほぅ。中々の威力だな。」

 

俺は海に落下され、艤装を展開した状態では艤装が正常に機能するまでは海の中に沈むことは無く、普通の地面同様の感触が得られる。俺は沈むことなく、そのまま地面を転がるように海に転がり、何とか無事だった。

上にいるマーレを見るために顔をあげるとようやく使う気になったかと笑っているようだった。

 

(嘘だろ…?こんなの山の二つ三つは軽く消し飛ばす事だって簡単だ。こんな兵器が未来に…?)

 

俺の持ってる装備の中では最強の部類に入るレールガンは予想以上の威力を見せた。音速を超え、雲までも突き破った弾丸は遥か彼方まで打ち出された。

 

「そうだ!さっきの爆発…皆は無事なのか!?」

 

俺は大講堂の方に顔を振り向かせ、その原因となったセイレーンを索敵した。そして、複数の人影が見えた。KAN-SEN達数人と、KAN-SENの艤装では無いあの艤装は間違いなくセイレーンの艤装だった。

 

「あっははは!ようやく暴れられてスッキリするなぁ〜!」

 

「あいつか…!」

 

「お?あれってもしかして…?」

 

もう1人のセイレーンがこちらに気づいたのか真っ直ぐこちらに向かって来た。少し紫がかったポニーテールにセーラー服のような衣装を着ていた。

 

「やっぱりコネクターじゃん!見ない間にすっかりでっかくなったなぁ!」

 

「俺はそんな名前じゃない!」

 

俺は否定の気持ちを伝えるようにセイレーンに向かって主砲を向けて放った。しかしそれをセイレーンは難なく躱し、俺から少し離れた所で立ち尽くした。

そしてその場所にようやくマーレが降りてきた。

 

「随分と暴れたようだが…目当ての物は手に入ったのか。」

 

「ハイハイ。ここにありますよー!」

 

そう言いながらセイレーンは黒いメンタルキューブをマーレに見せた。

 

「んで?あんたの方は…まだみたいだねぇ?仕事が遅いぞ〜?」

 

「直ぐに終わらせる。お前はKAN-SEN達とじゃれておけ。」

 

「はっ!言われなくてもそうするよ!最近欲求不満だったからここらで発散させておきたいしね。」

 

「指揮官!大丈夫!?」

 

「この声…ホーネットか?」

 

ホーネットの声を聞いて、俺は声のした方向へと顔を向ける。そこにはホーネットだけでは無く、エディンバラ、シェフィールド、ジャベリン、ラフィー、ユニコーンそして綾波がいた。

 

「状況は?」

 

「負傷した子達もいるけど全員大丈夫。無事だった子は、今向こうで量産型と戦ってる。」

 

これで状況の把握は出来た。しかし迂闊だった。マーレが黒いメンタルキューブを狙ってるという事なら、もう一つの方にも気を使うべきだった。しかし、一気に二つ取られなかった事は不幸中の幸いと言うべきか。

 

「ご主人様!ご無事ですか!?」

 

「ベルファストか!」

 

後ろからベルファストの声が聞こえ、振り返るとそこには先程執務室にいたエンタープライズ、クリーブランド、プリンス・オブ・ウェールズ、ベルファストがいた。

 

「皆怪我は大丈夫なのか?」

 

「平気平気!指揮官は絶対に守って見せるからね!」

 

「私も今度こそは指揮官を守ると誓ったからな。」

 

クリーブランドとウェールズはどうやら大丈夫らしいが…よくよく見るとかなりのダメージを背負ってる。

あまり無理はさせたくない。

 

「エンタープライズ。腕の方はどうだ。」

 

俺は痣が出来てるエンタープライズの右腕を見た。

痣は青紫色に滲んでおり余程の力で握りしめられたのがよく分かるほどにだ。

こんな状態では弓もまともに使えない筈だ。

 

「問題無い。…そんな顔をするな。無理はしない。」

 

エンタープライズは少し笑ってそう返した。エンタープライズのそんな顔を見るのは初めてなので少し驚いてしまった。

 

「…変わったね。…ベルファスト、エンタープライズのフォローを頼む。」

 

「…ご主人様は?」

 

「俺はマーレさんの相手をする。皆は量産型とあの人型セイレーンを頼む。」

 

「そんな!無茶だよ!私も…」

 

「そんなダメージじゃ返って邪魔になる。…だからこそ一人で戦う。」

 

たとえダメージが無くても、俺は何かと理由をつけてマーレと一人で戦っていただろう。今まともにマーレに対抗出来るには正直言って俺しかいない。だからこそ俺がやるしか無い。KAN-SEN達に負け戦をさせてはやれない。指揮官というのはそういうものだから…

 

「…戦闘中の指揮も開始する。全員俺の指揮に従ってくれ。」

 

「正気ですか?戦いながら戦闘の指揮をするなど、正直に言ってご主人様に出来るわけがありません。さっさとこの場から離れて戦闘の指揮に集中して下さい。」

 

シェフィールドの相変わらずの優しさが入り交じった毒舌を真に受けながらもそれでも俺の意思は折れない。

それにそれを出来る根拠はある。それは俺の中にあるオロチの黒いメンタルキューブだ。

今までの指揮があの黒いメンタルキューブによる超高度な演算から成された事なら出来るはずだ。

 

「…聞こえてるかオロチ。これが最後なんだ…お前の力、思い切り使わせて貰うぞ!」

 

俺の呼び掛けに答えるように、俺の中にあるオロチが俺に力を与えるように唸ったような感覚が襲った。

頭が痛い。吐き気もする。全身の血が暴れるように血流が速くなる。

 

「ぐっ…ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!!」

 

意識がオロチに侵食されそうな感覚を拒みながら、俺は頭を抱えて必死にもがく。まだだ、まだ呑まれる訳には行かない…!

 

「お前がその気ならそれ相応の場所を用意してやる。」

 

マーレは左腕の剣を天高く掲げると突如海中から鎖のような物が現れた。その青暗く光る鎖は俺とマーレを囲むようにドーム状の形を作り出し、まるで鳥籠のような檻が出来上がった。

 

「これで邪魔者はいない。さぁ、俺とお前の一騎打ちだ。」

 

「指揮官!」

 

「ご主人様!」

 

エンタープライズとベルファストだけじゃ無い。他のKAN-SEN達が一斉に指揮官やご主人様と呼んだ。

その言葉で俺は呑まれかけていた意識を取り戻した。

全身の痛みに抗い、全ての力を出し切るように、セイレーンの力も全力で使う。

全身に力を込め、全ての力を解放するように俺は吠える。

俺の艤装はそれほど大きな変化こそはしなかったが、艤装にあった蒼いラインが濃く浮き出し、まるで全てを解放したかのようだった。

そして、大きな変化はセイレーンの艤装だ。今までまるで雑に突き刺したような主砲が、規則性のある並びとなった。そして、()()()()()()()()()()()。今まで一つだけだったセイレーンの艤装がもう一つ増えたのだ。

その艤装も蛇のような長い胴体を持ち、主砲こそは無いが、代わりに滑走路のようなレールが側面にあった。

どうやら、戦艦と空母の役割を分けてらしいが、戦力がダウンした訳では無い。むしろ役割を分けたことによってより出力を集中出来るので返って戦力は向上した。

 

「…二つの艤装だと?」

 

これにもマーレも動揺を隠せずにいた。正直俺もちょっとは驚いている。だが、俺はマーレを基に作られたセイレーンだとしたら理由は自ずと分かる。

 

「俺は貴方を基に作られたセイレーンだ。だったら貴方と同じようにセイレーンの艤装を二つ使えるのは道理な筈だ。」

 

「…成程な。だが、お前はそれで良いのか?」

 

「どういう事ですか。」

 

「お前は艤装を使う度に()()()()()()()()()()()。お前の味覚は失ってるんじゃない。むしろ戻っているんだ。…兵器に無駄な機能は必要ないからな。だからそんな全てを使うような力を出したら、お前は殺戮兵器のセイレーンに逆戻りになるぞ。」

 

…心当たりはあった。俺は今まで艤装を使うと身体中が痛みだしたり、酷い時には吐血までした。

あれは、一種の防衛反応だったのかもしれない。これ以上使うな。さもないとまたセイレーンに戻るという警告の意識の表れだったのだ。…だが。

 

「それでも構わない。ここで俺の全てを終わらせる。

この朝は俺にとっての最後の朝となる。」

 

自身の最後を宣言し、俺は最後の空を眺めた。先程のレールガンで全ての雲を吹き飛ばしたので今は雲一つない晴天はまるで海のようだった。

こんな空の中で最後を迎える事は悪くないと思った。

 

 

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