もしもアニメのアズールレーンに指揮官が出てきたら〜2nd season 海上の誓い〜   作:白だし茶漬け

62 / 159
さぁいよいよ始まりました!
第2部重桜編!あんなKAN-SENやこんなKAN-SENも続々と登場しますので乞うご期待!


第2部 重桜編
ただいまと言える日は遠く


ゆらりゆらりと穏やかな波のように舞う青く輝く美しい蝶がいた。

何処かも分からないこの場所で僕は何もせずに立ち尽くしていた。蝶を見つけて、それをまるで小さな子供の頃のように夢中で追いかける。

いくら走っても走っても蝶は遠ざかっていき、いつしか蝶は青い光と共に消えてしまった。

 

_汝…

 

「誰…?」

女の人の声が聞こえるけど良く誰かは分からないし、何処にいるのかも分からない…

しかし声の主が見つける事が出来ず、僕の視界はまた黒く塗りつぶされた…

 

 

 

 

 

ゆらりゆらりと海の小さな波を乗り越えるように船は揺れていた。

今僕がいるのは赤城さんが出してくれた空母【赤城】の中にいた。

アズールレーンの基地から重桜に来るには最短でも1日ぐらいかかってしまう。そろそろ重桜に着くはずだが…何だかとてつもなく眠い…瞼に目やにがある事から僕は寝ていたのだろうか?

 

「あら起きたのね、おはよう、優海。」

 

目の前には赤城さんの顔が映っており、僕を愛おしく見つめていた。頭が何やら柔らかい感触に包まれており、どうやら僕は赤城さんに膝枕されていた。

 

「おはようございます…赤城さん。」

 

「もう、赤城さんじゃなくて、赤城姉さんでしょ。私と貴方は家族なんだから。それに敬語はダメ。」

 

「ご…ごめんなさい…じゃなくて、ごめん…」

 

そうだ。僕と赤城姉さんは血の繋がりが無くても、その繋がりを超える家族なのだと教えられた。

記憶を失う前も僕は赤城姉さんと言って随分と甘えてたらしいけど…

 

「あぁ…寝顔が随分と可愛かったわぁ…もっとずっと私だけの物にしたいぐらいに…ね。うふふふふ…」

 

背筋がぞわりとしたような感覚に襲われた僕は体を震えさせてしまった。あれ?家族…だよね?なんだか赤城姉さんの表情が凄く怖い…

 

「さて…もうすぐ着くわよ。私達の故郷…重桜に。」

 

赤城姉さんがそう言うと急に桜の花びらが1枚僕の服の上に乗った。すると空一面が美しい桜吹雪で覆われていた。

 

「わぁ…凄い!」

 

あまりの美しさに思わず僕は赤城姉さんの膝枕から立ち上がろうとしたが、僕の足は全く動かない。

それはそうだ、僕の足は何故か再起不能な状態なのだから。

 

「落ち着きなさい。私が車椅子に乗せるから…」

 

赤城姉さんが僕の体を抱いて車椅子に乗せると、そのままゆっくりと鑑の艦首まで車椅子を動かした。

前方に桜の桃色が目立つ島が見えてきた。あれが…【重桜】なのかな?

 

「赤城姉さん!あれが重桜?」

 

「そう、あれが私達の故郷…重桜よ。」

 

桜の花びらがまるで僕たちの帰りを歓迎するように咲き誇っているように思えたその美しさは今まで見たものの中でも1番だった。本来は故郷の筈たが、今の僕にとっては未知の新天地だ。溢れ出る高揚感と冒険心が疼き出し、早く着かないかと待ちわびていた。

 

「そんなに急かしても重桜は逃げない。少しは落ち着け。」

 

声の方向に振り返ると、そこには加賀姉さんが呆れたようなため息をついて僕を落ち着かせるようにポンと僕の右肩を叩いた。

 

「姉様、出迎えの者が準備を終え、私達を待っているようです。」

 

「そう、じゃあまずは優海を迎えの誰かに預けた後、私たちは長門様にお会いしましょう。」

 

「長門様…?」

 

様付けしてる辺りから、偉い人なのだろうか?いやもしかしたら既に会っているのかもしれないが、僕にとっては未知の人だ。どんな人なんだろう…

 

「さて、そろそろ到着ね。優海、準備して。」

 

「はーい。」

 

艦が徐々に速度を落とし、いよいよ重桜の地に到着していく。

 

 

 

 

 

 

_現時刻 重桜到着

 

ようやく重桜に着いた僕達は、懐かしの地に足を付ける。足を付くと言っても、僕は車椅子だから付けはしないけど。

不思議な気持ちだ…今の僕にとっては初めての場所なのに、どこか懐かしい感じがするこの感覚は、本当にここが僕の故郷という裏付けなのだろうか。

 

「おかえりなさい、優海君!」

 

突然犬耳を生やした黒髪の女性におかえりと言わながら抱きつかれ、早速僕は混乱した。

恐らくは知り会いのKAN-SENだと思うが…生憎記憶を失った僕にとっては初対面の人だ。直ぐに名前が思い出せずにいた。

 

「あ、あの!一旦離れませんか?」

 

「そうよ愛宕。早く優海から離れなさい。…潰すわよ?」

 

後ろから赤城姉さんが殺気じみた圧が感じ、愛宕と呼ばれた女性はしぶしぶと僕を見て離れていった。

 

「…やっぱり覚えてないのね。」

 

「…!?どうしてその事を…?」

 

突然女性が僕の記憶喪失を知っているような口ぶりを発した。驚いた僕は体と心臓を跳ね上がらせた。

でもどうして僕の記憶喪失の事を知っているのだろうか。僕は今まで…と言うか記憶を無くす間にこの人達には会っていない。

僕は今、記憶喪失です。なんて言える訳が無い。つまり誰かが僕の状態を話したという事だ。そうなれば自ずと答えは見えてくる。

重桜の関係者で、僕が重桜に行くことを知っていた人物…いや、僕を重桜に帰ろうと提案した人物とでも言っておくべきだろうか。

 

「まさか、赤城姉さんが…?」

 

愛宕さんは首を縦に降り、確信を得るために赤城姉さんの顔を見ると、その通りだと言わんばかりの表情を浮かべていた。

 

「加賀と一緒に考えた結果よ。変に隠すより、あえて話す事によって皆が貴方の記憶を戻す事に尽力を尽くすと考えたわ。」

 

確かに下手に隠してショックを受けさせるよりも、敢えて真実を話す事で心構えが出来るけど…やはりショックはある筈だ。しかもこの重桜の地で昔僕とすごした者にとってはそのショックは大きい筈なのに…

だけど重桜の皆さんはそんな事してる暇はないと言っているような目付きをしていた。

何がなんでも記憶を取り戻す決意や意思が口では言わなくともはっきりと僕に伝わってきた。

 

「優海、まずは貴方に合わせたい人がいるの。」

 

「合わせたい人…?」

 

「貴方にとっては母親みたいな人…天城姉様よ。」

 

天城…僕と同じ苗字の人で、僕の母さん…なんだろう、会ったことも無いのに酷く懐かしい感じがするのは、その人が僕の母さんだからだろうか。

赤城姉さんと加賀姉さんは、僕を天城…母さんって言った方が良いのかな。その人が待っている家へと僕を連れて行くのかと思われたが、どうやらそうでは無いらしい。赤城姉さんと加賀姉さんは僕が乗っている車椅子を愛宕さんに渡す。

 

「それじゃあ愛宕、優海を天城姉様の所に頼むわね。…もしも優海に変な事したら…分かっているわよね?」

 

「あらあら、大丈夫よ。優海君のお世話は私に任せてちょうだい。」

 

「貴方の言うお世話は信用ならないのよ…全く、どうしていつもいつも愛宕に任せなきゃいけないのかしら…」

 

赤城姉さんと愛宕さんの間に火花が飛び散るように見えた僕は、何故だろうか胃が痛くなってしまった。

ともかく、ここで一旦赤城姉さんと僕は別れ、愛宕姉さんが、天城母さんの所まで案内してくれる事となった。

 

 

 

 

石畳の道に古風な建物のお店から見るものはどれもアズールレーンの基地では見慣れない物ばかりだった。

KAN-SEN達が経営している店もあれば、普通のひよこより断然大きく、それでいて小さな子供の背丈ぐらいの不思議な生き物、饅頭と言う生き物が店番をしていた物もあった。

どれもこれも初めて見るものばかりで目移りし、興味を惹かせる物ばかりだった。

 

「わあ…色んなお店があるんだね!」

 

「昔の貴方にとってはここは貴方がよく通る道だったのよ。」

 

へぇ…昔の僕はいつもここに来ていたのか。そのせいかこの道ではかなりの常連だったらしく、店番をしているほとんどの人が僕に手を振ってくれていた。

 

「あら、優海君じゃない〜元気にしてた?…と言っても覚えていない…か。」

 

紫色の髪で着物と上着を羽織ってはいるが肩が全面的に露出していた女性が僕に話しかけてきた。

どうやら昔の知り合いらしいが、残念ながら覚えていない。申し訳なさで目を逸らし、彼女は更に悲しそうな表情を浮かべてしまった。

 

「あの…ごめんなさい…」

 

「大丈夫よ。優海君が無事だと知れて、私も安心したのよ。」

 

女性はそのまま優しく僕の頭に手を伸ばすと、そのまま頭を撫で始めた。女性は心無しか懐かしむような表情を浮かべ、優しく僕の頭を撫で始める。櫛で髪をとかすように指の隙間に髪を通し、髪の繊維が傷つけないようにそっと触り続けた。

 

「鳳翔さん、もう良いでしょう?」

 

「え〜折角会えたんだからもう少し優海君を甘えさせても良いでしょう?」

 

この人、鳳翔さんって言うのか…何故か不機嫌になった愛宕さんは、僕と鳳翔さんの距離を離すように車椅子を少し自分側に引いた。

 

「あ〜もっと甘えさせたいのに…そうだ、お腹空いてない?私がお団子沢山作るわよ?」

 

「残念ですが、今はそんな時間は無いのでs」

 

ぐうっ〜

 

愛宕さんが断るより先に、僕のお腹が食べ物をねだるように鳴ってしまった。はしたない行動をしてしまった僕は恥ずかしさで誰の顔も見れず、両手で顔を隠してしまった。

クスリと鳳翔さんが小さく笑っていたような声を聞いた僕は、情けなさで縮こまってしまう。

 

「あらあら、お腹空いたのね。だったら尚更何か食べさせてあげないと…ね?愛宕?」

 

「うぐ…」

 

愛宕さんを煽るような口調の鳳翔さんの発言に、愛宕さんは何も言えずにいた。

無言を貫いた愛宕さんを見た鳳翔さんは肯定と言う意味合いと受け取ったのか、勝ち誇ったような顔をして店の奥へと行ってしまった。

しばらくすると、鳳翔さんは沢山の団子を盛った皿を持って戻ってきた。

 

「はい、優海君がいつも私のお店で頼んでいたお団子よ。今日は久しぶりの出会いだから、特別に沢山あげるわ。」

 

「わぁ…美味しそう!」

 

空腹のお腹が刺激され、さらに大きな腹の虫が鳴ってしまったが、目の前の美味しそうな団子に釘付けの僕には些細な事であった。目の前にある三色団子を取ろうと手を伸ばすが、あともう少しのところで手が届かない。

足が動けないのでどうにかして腕を悶えさせて団子を取ろうとする。

 

「あ、危ないわよ優海君。お姉さんが食べさせてあげるから。」

 

そう言って僕の代わりに愛宕さんが1つの団子を手に取ると、そのまま僕に差し出す…事はせずにそのまま食べさせる姿勢でいた。

 

「はい、口を開けてあ〜んして?」

 

「い…いやいや、自分で食べれますよ!」

 

流石にそこまでさせるのは申し訳ない…と言うか恥ずかしい。いい歳なのに他人から食べて貰うのはすごく恥ずかしい。きっと今の僕の顔は真っ赤にしている事だろう。

 

「もう、何恥ずがしがってるの?昔はこんな風に食べさせてあげたのよ?今更恥ずがしかしがる事なんて無いのよ?」

 

そうは言っても…昔は昔、今は今だ。例え記憶を残っていても、自分のプライドやらで今のように自分で食べようとしただろう。

だが、愛宕さんはグイグイと体を密着させて僕に団子を食べさせようとしてくる。

もう逃げられないと悟った僕は諦めるように口を開けて団子を一つ食べる。

モチモチとした食感と、ほんのりとした甘さが何とも噛み合っており、何時でも口の中に入れたい心地良さだって感じる。

 

「…!美味しい!」

 

「ふふ、それは良かったわ。どんどん食べて良いからね?」

 

愛宕さんはそう言いながらどんどん僕に団子を食べさせていく。その美味しさに魅入られた僕は、どんどん団子を口に入れる。何だか餌付けされているような気がするのは気のせいなのかな…?

 

 

 

 

 

鳳翔さんのお店を後にして、いよいよ天城母さんの所へと車椅子を動かす僕達は、鳳翔さんからもらった団子の箱詰めを手に持っていた。流石にあの量を1人で食べるのは無理だったので、こうしてお土産にと思って用意した。…喜んでくれるかな?

どんどん道が坂道になって行き、愛宕さんの負担が心配と思い、顔を振り向くと、愛宕さんは何ともないような笑顔を向けていた。

 

「大丈夫よ、心配しないで。」

 

「あ…でも、無理はしないで下さいね?」

 

「無理なんてしてないわ。優海君の為なら何だって私はするもの…」

 

そう言いながら、愛宕さんは坂道と僕の重さをものともせずに足を動かし続けた。

確かに、KAN-SENだから人より少し力はあると思うけど…、愛宕さんがそう言うなら問題は無いだろうと考えた僕は、そのまま顔を前に向けた。

もう少しで坂道を終わるところで、何やら走り込んで来る小さな人影が5つ程あった。誰かと思い、目を凝らして見ると、小さな女の子達が何かを求めて走っているのが見えた。

全員何だろうか…園児服のような服を着ていた。

 

「早く早く〜!鳳翔さんのお団子が無くなっちゃうよ〜!」

 

「あのお店…美味しいものばかり…!」

 

「ま、待って睦月ちゃん!そんなに走ると…」

 

内気で桃色の髪をした女の子が、先導して走っている子を止めようとしたのが見えたが、その子は坂道で止まることが出来ず、そのまま僕に向かって突撃をかけるようにこちらに向かっていった。

 

「え?…えぇ!?」

 

避けようとしてもこちらは車椅子だ。避けようとしても避けられない現実に悔やむ僕は、愛宕さんに全てを任せるしかない。

愛宕さんも前方の異常を察知すると、すぐ脇道に逸らそうと車椅子を横に移動しようとしたその時、前に来た女の子が地面に躓いてしまい、そのまま愛宕さんとぶつかってしまう。

 

「キャッ!?」

 

その衝撃で思わず愛宕さんは車椅子から手を離してしまい、支えが無くなった車椅子はそのまま僕を乗せて坂道を勢い良く下ってしまう。

「え?ええ!?ちょ、嘘でしょ!?」

 

「優海君っ!?」

 

愛宕さんが車椅子のハンドルを握ろうとしたが、あと拳ひとつ分の距離届かなった。

止める手だても無い僕はそのまま車椅子と共に勢い良く

坂道を下っていってしまった。凄まじい速度とそれで生まれた風圧が僕の手にある団子が入った箱を吹き飛ばそうとしていたが、これだけは守ろうと何とかして箱を抱えるように持つ。

車椅子はそのまま速度を上げると、その先に人が道を横断しているのが見えた。このままではあの人にぶつかってしまう。何とか僕は声を上げてその人に危険を知らす。

 

「ちょっとー!そこの人!どいてくださぁぁぁい!!」

 

「…む?」

 

編笠を被り、武士らしく袴を来たその人は僕の声が聞こえたのか、僕の方に体を向ける。

どいてと言ったのに、その人はむしろそのまま止まってしまった。

 

「何してるんですか!?早くどいてください!」

 

いや、どいたとしても間に合うかどうかの距離まで近づいてしまい、その人との距離が縮まっていく。

もうダメだと思い、目を閉じる。

その時、急な衝撃が車椅子から感じられ、徐々に速度が落ちていくのと何やら引きずる音が僕の耳に襲いかかると、やがて車椅子は止まった。

どうなったのかと気になり、僕はゆっくりと目を開けると、そこにはさっきの人が車椅子を前から支えていた。

どうやら、この人が車椅子を止めてくれたらしい。

 

「…貴殿、無事か?」

 

編笠を深く被っているせいで顔は分からないが、声からして男の人だ。その人の問に僕は何も言えずに首を縦に振るだけしか出来なかった。

男の人はそれでも安心したのか、小さく笑ったような声が聞こえた。

 

「そうか…それは何よりだ。」

 

編笠で顔が見えないはずなのに、笑っていると分かるようなその優しい雰囲気に僕は何故か安心感を覚えた。

 

「優海君っ!!」

 

僕を心配するような声を上げながら、愛宕さんが走っていく姿が見えた僕は無事だと分からせるように手を大きく振った。無事だと分かった愛宕さんはホッと安堵の息を漏らした。

 

「あぁ良かった…!どこか怪我は無い!?痛い所は無い!?」

 

怪我が無いか確認するように、僕の顔を両手で優しく包んでまじまじと見ると、僕の視線は愛宕さんの顔しか見えなくなった。

怪我とかは特に無く、問題は無さそうだった。

 

「大丈夫ですよ。この人が助けてくれましたから。」

 

僕は彼を紹介するように手を伸ばすと、彼はぶっきらぼうな佇まいをしながら、更に編笠を深く被った。

 

「まぁ、それは良かった…所で、貴方は何者かしら?この子を助けてくれたのは感謝するけど…貴方、KAN-SENじゃ無いわよね?…誰かしら。」

 

愛宕さんが僕を守るように立つと、彼に敵意を向けるような冷たい目を向けていた。彼はその目に屈する事も臆することも無ければ、脅威と感じる事が無いように思えた。

 

「…当方はただの旅人だ。」

 

「そんな言い訳…通ると思って?」

 

何かを隠そうとしている態度を見た愛宕さんは、更に不信感を抱いて彼を睨んでいた。

愛宕さんは怪しそうに見ているけど、僕はこの人が悪い人だとは思えない。

 

「待ってください。この人は僕を助けてくれたんですよ?そんなに悪い人じゃ無いと思いますけど…」

 

僕を助けてくれたのもそうだが、何よりも僕を助けた後に見せたあの優しさに満ちた雰囲気がどうしても悪い人とは思えないからだ。必死に愛宕さんを説得するようにすると、愛宕さんはそれでも折れなかった。

 

ぐぅ〜

 

突然緊張感が抜けるような腹の虫がなり響いた。これは僕で無い。何故なら先程団子を食べたばかりでお腹は空いていないからだ。

すると、腹の虫を鳴り止ませるようにお腹をさすった人が一人いた。それは…さっきの男の人だ。

 

「…む、すまない。少々腹が減っててな…」

 

申し訳なさそうに男の人は編笠を深く被ると、この場を包んでいた緊迫感が無くなった。

 

「…はぁ、分かったわ。今回はこの子を助けてくれたお礼で見逃してあげる。」

 

「かたじけない。」

 

男の人は深く礼を詫びるように頭を下げると、相当お腹が空いたのか、ため息を吐きながらお腹をさすっていた。

 

「あの…良かったらこれ差し上げます。流石に全部とはいきませんが、少しだけなら…」

 

何かお礼がしたいと思った僕は、男の人に団子は入った箱を差し出した。

流石に全部だと天城母さんに悪いと思うが、半分ぐらいならいいと考えた僕は腕を伸ばして箱を差し出すようにした。

 

「む…まことか、では一本貰おうか。」

 

男の人は綺麗に敷き詰められた団子を一本取り出すと、顔を出さないように団子を口に入れた。

余程顔を見せたく無いのか、男の人は頑なに顔を見せようとしない。

 

「ふむ…これは美味だな。つい2本目も手を伸ばしたくなる。」

 

「良ければ半分どうぞ。」

 

男の人が一本の団子を食べ終えると、2本目をとることはしなかった。その代わり、僕の後ろの方に指を指していた。

 

「では、もう一本貰い、残りはそこの少女達に分けるとしよう。」

 

指を指している方向に振り返ると、そこには僕の目の前にぶつかって来たKAN-SEN達がいた。僕よりも背丈がかなり低く、ビクビクと体を震えさせていた。

 

「あ…あの…ぶつかってしまってごめんなさい!」

 

真ん中にいる子がぺこりと頭を下げると他の子も必死に謝っていた。しかし、許してくれないだろうと思っているのか、皆はまだ怖さで震えていた。

大事にはならなかったし、許す許さないかで言えば許しているけど…

 

「大丈夫だよ。そっちこそ怪我は無いかい?」

 

「え…?あ、はい。こっちは大丈夫です…」

 

「じゃあ、ここにあるお団子の半分をあげるよ。確か、鳳翔さんのお団子とか言っていたからね。」

 

僕は箱を開けて彼女たちにお団子を見せた。すると、彼女たちは直ぐに鳳翔さんが作った団子だと分かったのか、飛びつくように僕の元に近づいた。

 

「わぁ!これ鳳翔さんのお団子だ!」

 

「本当に半分良いの!?」

 

彼女たちは目を輝かせながら質問すると、僕は笑顔で首を縦に振る。彼女たちは箱にあった団子をそれぞれひとつずつ取って食べると、幸せそうな表情をしていた。

 

「全く…次は気をつけなさいよ?」

 

「は〜い!」

 

愛宕さんの注意を聞いた後、皆は元気よく手を振って僕達と別れた。

しかし…あんな小さな子達もKAN-SENなのか…戦うのが怖くないのかな。戦うことがKAN-SENの使命って言っていたけど。KAN-SENだって笑ったり泣いたりする人間と変わりないはずなのに、ヒトの形をした兵器だからって戦いを強要しても良いのだろうか…

 

「優海君?」

 

愛宕さんの声で僕は考えから意識を目覚めさせる。ダメだダメだ。せっかく故郷の重桜に帰ってきたんだからこんな暗い考えは止めよう。

そうだ、まだあの人にお礼を言っていなかったはずだ。僕はあの人にお礼を言おうと顔を振り返るが、そこには誰もいなかった。まるで風のように消えてしまい、いた痕跡さえ無かった。

 

「あれ…?愛宕さん、あの人は…」

 

「そう言えば居ないわね。どこに行ったのかしら…」

 

KAN-SENでさえ気づけない消えていった男の人の名前を知らずにいた僕は、また再会出来るかなと淡い期待を抱いていた。

だけど…この再会が、僕の転機だと言うことをこの時の僕は知る由もなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あの…何やっているんですか…!」

 

「む、前に人が乗った車椅子が物凄い勢いで来てたからな。思わず助けたのだ。」

 

「そうじゃありません。どうして優海と接触するようなマネをしたんですか。」

 

俺は少々この人の行動にイラついていた。俺の計画の為、この重桜の『ある物』を俺は利用しようとした俺は、5代目当主のロドン・テネリタスさんと共に重桜に偵察していた。

それなのにこの人は毎回毎回単独行動をとるものだから今のようにKAN-SEN達に怪しまれる要素が多々ある。

どうしていつも英雄って奴は勝手なんだ…

 

「ふむ、団子を一つ貰ったのだが…食うか?」

 

「いりません!」

 

「そうか…」

 

何でかロドンさんはしぶしぶと団子を食べ始めると、虚しい表情で団子の食感を楽しんでいた。

何だこの人…一体何がしたいんだ…英雄って人はみんなこうなのか?人の心が分からないのか?

だが、この人が優海と接触した事は大きい。取り敢えず、優海の様子だけ聞くとしよう。

 

「ロドンさん、アイツの様子はどうでした?」

 

急に質問された事により、ロドンさんは勢い良く団子を食べ終えると、少し考え込んだ。なにか引っかかる事があるのだろうか…?

 

「…あやつはやはり記憶を失っている。恐らくだが自分が指揮官だった事も忘れている。そして、何故か足を動けずにいた。」

 

やはりあの時…オロチとの最終決戦での負担のせいで、優海は自分自身のメンタルキューブを破損してしまっている。足が動かないのもその影響だと考えるが…

 

「そして、一つ気になることがある。」

 

「…?」

 

「いや…まだ確信はない。これは当方の中に閉まっておこう。」

 

そう言ってロドンさんは団子の串を行儀よくゴミ箱に捨てると、満足そうに腹をさすった。

 

「さて…この地の進軍はいつだ。」

 

「まだKAN-SEN達全ての情報と、『アレ』がどこにあるのかも知らないですからね。ですが…そう待たせませんよ。」

 

「ほぅ…それは楽しみだ。」

 

俺とロドンさんは裏路地の闇に溶けるように探し物を探す。アレがあれば俺はもっと…もっと強くなる。

世界を変える程の力を…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ようやく長い坂道を登りきるとあとは平らな道だけだった。石畳の道から普通の土の地面へと様変わりし、いよいよ家に帰ってくる雰囲気が伝わってくる。

 

「あ、見えたわよ。あそこが貴方の実家よ。」

 

すると僕たちの目に大きな木造の家が目に映ると、そこが僕の実家なのだと言う。

…帰ってきたんだ。嬉しい反面、少し申し訳ない気持ちもある。

恐らくあの家にいる天城母さんは僕が記憶喪失だと知ったら…いや、恐らく知っているのだろうが。いざ対面するとショックは受けるだろう。何だが怖くなってきた…

怖さで少し手が震えると、愛宕さんがそっと僕の手を握ってくれた。

 

「大丈夫よ。心配しないで…」

 

「…うん。」

 

そして、出会いの時が来た。目の前には僕の家が目に映ると、そこには懐かしさが感じられず、新しい場所に来たという事しか感じられなかった。

愛宕さんが家のインターホンを押すと、家からなったインターホンの音が外にも響いてきた。

 

『はい、行きますね。』

 

家から聞こえてきた聞いたことない女の人の声…あの声が天城母さんの声なのかな…。思わず心臓が飛び出すような感覚と、迫り来る足音が大きくなるにつれて、僕の心臓の鼓動が大きくなっていく。

そして、家の扉が開かれると、そこには栗色で長い髪と、赤と紺色の着物を着た綺麗な女性がいた。この人が…僕の母さん…?

 

「…お帰りなさい…優海。」

 

その人は僕の帰りを待っていたかのように、優しく笑って出迎えてくれた。

でも僕は…『ただいま』とは言えなかった。

だって…記憶を失っているのだから…

もしもの話(R-18)を観測しますか?

  • Yes
  • NO
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。