もしもアニメのアズールレーンに指揮官が出てきたら〜2nd season 海上の誓い〜   作:白だし茶漬け

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母の味は決して忘れられない

今目の前には僕の母さんがいる。厳密には僕を産んでくれた母さんとは違うらしいが、それでもここまで僕を育てくれた人はこの人だと言う。

名前は天城と言うらしい。僕の苗字と同じなのは、記憶を無くす前の僕がこの苗字をつけたらしい。

今の僕でもその気持ちが分かるような気がする。何だかこの人のそばに居ると落ち着くような…安心する。

 

「ここまで疲れたでしょう。さぁ、中へどうぞ。」

 

「あぁ、ありがとう天城()()()。」

 

するとどうだろうか、何故か母さんが驚いたような顔をしてこちらに振り返った。今まで車椅子を押してくれた愛宕さんも同様の反応をしていた。

何かおかしな事を言ったのだろうか、僕は交互に母さんと愛宕さんを見返すと、その驚きは笑いへと変わった。

 

「いえ、貴方は今まで私の事を天城()()()と言っていましたから。天城母さん…良い響きですね。うふふ…」

 

そう言いながら母さんは笑って家の中へと入っていった。そうか…昔の僕は姉さんと呼んでいたのか。

まぁ、確かに厳密には母では無いのでそう言うべきなのだろうが…ここまで育てくれたのだから、間違いなく僕にとっては母親だ。これから天城母さんと呼ぶ事にしよう。幸い、そう言われて母さんも喜んでいたような感じだったし。

 

「さぁ、私達も入りましょうか。」

 

愛宕さんがそっと車椅子を押して家の中に入ると、見た目通りの木造の廊下が目に入った。

僕が来ると事前に知ったお陰か、車椅子でも問題無く廊下に上がれるスロープが設置されていた。

お陰で誰も苦労せずに僕を家に入れる事が出来た。

 

「貴方が記憶を無くして足が動かないと聞きましたから、少し家を改修して貰いました。饅頭に感謝ですね。」

 

「すみません迷惑をかけて…」

 

「良いのですよ、自分の子供の為に何かをするのが母の役目ですし、それに…敬語は止めて母に甘えても良いのですよ?」

 

そう言いながら天城母さんは僕を溺愛するように頭を撫で続ける。

 

「あら、天城さんもしかして…お母さんって言われて少し舞い上がってますか?」

 

弱みを握ったと言わんばかりの愛宕さんの顔に天城母さんは表情をひとつ変えずに笑っていた。

だが、図星をつかれたせいなのか天城母さんが撫でた手が少し強ばっていた。

…という事は内心嬉しいんだろうか。

 

「ふふ、それはどうでしょうか?さぁ、こちらへ…」

 

天城母さんが居間の扉を開けると、中からは暖かい空気が流れ込み、外で冷えていた僕の体を温めてくれた。

そう言えば最近何だか冷え込んでいたから、この暖かさは良い意味で身に染みる。

居間へと僕達は入ると、そこには何と意外な人がいた。

その人は少し早い炬燵に温もりながら、だらけきった表情でみかんを食べていた。みかんを綺麗に剥き、その甘さを舌全体で堪能していたその人の髪は白く、その赤い目は見間違いようが無かった。

 

「いや〜このみかんは本っ当に甘いわね〜さてもう1つ…て…あら?」

 

「…オロチさん?」

 

「あら、おかえりなさい〜」

 

自分の名前を呼ばれたせいか、オロチさんは小さく手を振ってくれた。やはり見間違いでも他人の空似でも無く、今僕の目の前にいるのはオロチさんだった。

それを知った途端、愛宕さんは鋭い威圧を放ちながら刀を抜き、剣先をオロチさんに向けた。

 

「…どうしてここにいるのかしら?」

 

「い、いや〜私がいないと優海の記憶は元には戻らないでしょ?だから私もここに来たって訳よ。」

 

「それは分かるけどどうして優海君の家に上がり込んでいるのかしら?」

 

愛宕さんが今にもオロチさんに切りかかろうとする勢いだ。流石に家の中で事を起こすのはまずいので、愛宕さんをどうにかして止めた僕は何故ここにいるのを問う。

この重桜にいること自体の理由はさっきオロチさんが言ったが、僕が知りたいのは天城母さんがいるのに何故この家にいるのかだ。

まさか不法侵入したとは思えない態度だし、そうなると天城母さんがこの家に入れたということになる。

 

「…もしかして天城母さんがオロチさんをここに?」

 

「そうよ〜だからその刀閉まってくれないかしら?いや…いや本当に…」

 

降参するという意味合いなのか、オロチさんは両手を上げて愛宕さんに刀を下ろしてくれと頼んだ。

愛宕さんは威圧的な態度を剥き出しにしながらも、刀を鞘に収めてくれた。

 

「分かったわ…だけど優海君に手を出したら…私は貴方を絶対に許さないから…分かっているわよね…?」

 

「貴女なんか赤城みたいになって…」

 

口答えしたせいか愛宕さんはオロチさんの胸ぐらを掴みながら、目が笑っていない笑顔を浮かべた。

 

「あぁごめんなさい!わかりましたから!」

 

笑みのない笑顔の圧に屈したオロチさんはそのまま涙目で僕には手を出さない事を約束した。

愛宕さんは呆れと安心が入り交じるようにため息をつくと、愛宕さんはオロチさんの手を掴んだ。

 

「だったらこの場から離れましょう。貴方は今ここにいるべき人では無いわ。」

 

「…あぁそういう事…良いわよ別に。天城とは少し話が出来たし…」

 

「それじゃあ優海君、今日はここでお別れね。あ、でもお姉さんに会いたくなったら何時でも会いに来ていいからね〜!」

 

愛宕さんはオロチさんに見せた笑顔とは真逆の笑顔を見せると、そのまま力強くオロチさんの腕を掴んでいる。

相当な力なのか、オロチさんの顔が少し歪んでいたような気がするが…深く考えないでおこう…

 

「あら、愛宕さんとオロチさんはもうお帰りで?」

 

「はい、親子水入らずって言うじゃないですか。では私達はこれで…」

 

愛宕さんは天城母さんに挨拶を済ますと、そのままオロチさんと共に家から出ていってしまった。

2人きりなってしまった僕は、いざ何を話そうか切り出せずにいた。折角会ったんだから何か言うことはないのかと自問自答で問いかけるが、今の僕にとって天城母さんは初対面の人だ。

初対面と面と向かって話すのはどうにも緊張してしまうので、沈黙した空気の中で居心地の悪さを感じていた。

 

「…優海、お腹は空いてはいませんか?」

 

「え…?」

 

急に天城母さんがお腹は空いてないかと質問してきた。

…そう言えば、行く途中で鳳翔さんのお団子を食べたけど、そんなにがっつりとは食べていない。

空いたかと言えばお腹は確かに空いていた。何だか意識してきたら急に空腹感が僕を襲ってきた。

 

「まぁ…空いたかな…」

 

「では、お昼ご飯にしましょうか。でもまずは貴方を部屋へと連れていきますのでそこで待っていて下さい。」

 

そう言いながら天城母さんは僕に近づくとゆっくりと車椅子を押してくれた。廊下を歩き、1つの扉を開けると、そこにはひとつの部屋の扉だった。床は畳であり、障子の窓、いかにも和風という部屋だが、一際大きいベッドがそこにはある。下に何か機械のフレームがある事から…多分、ベッドの角度を調整出来るようにも改装したのだろうか。

 

「いつも車椅子では貴方も腰など辛いでしょう。だからこれを用意したのです。では布団に体を乗せますね…よっこら…しょっと。」

 

そう言って僕を横抱きした天城母さんは僕をベッドの上に優しく載せた。このようなベッドは少々固いと思っていたけど、そんな事は無かった。布団は柔らかく、掛け布団もぬくぬくと暖かくて心地よい。寝るのには最適な状態だった。思わず直ぐに寝てしまいそうになったが、何とかして瞼を開け続ける。

 

「なんだか軽いですね…優海、ちゃんとご飯は食べているのですか?」

 

「食べているとは思うけど…」

 

そもそも食事バランスはベルファストさんが注意してくれる筈なので問題は無いと思うけど…そんなに軽いかな…?体重計にはあまり乗っていないから、自分の体重はよく分からないけど…

少なくともご飯はちゃんと食べている。食べなければベルファストさんに凄く怒られるし。

それでも疑心暗鬼でありながらも心配そうな表情を浮かべていた天城母さんはそのまま立ち上がった。

 

「あらそう…とにかくお昼ご飯を作ってきますから、優海はこのまま待っててくださいね。」

 

「はーい。」

 

そう言って天城母さんは昼食を作る為にキッチンへと向かった。待っている間暇なので僕はキョロキョロと今いる部屋を見渡す。

多分ここは昔の僕の部屋なのだろう。机の上に積み重ねられた本や、そのそばにある竹刀。本棚には敷き詰められた数々の本は気にはなるが、生憎今の僕は足が動かせない。どうしようかと思い、とりあえずは傍にある窓を開けて景色でも眺めようと窓を開ける。

窓を開けた先は草原の緑と桜の美しい桃色が調和していた世界が広がっていた。

アズールレーンで見た景色も綺麗だったが、こんなに美しい景色を見たのは生まれて初めてだ。

いや、昔の僕はこんな風景は飽きるほど見たのだろうが、今の僕にとってはそのように思えた。

見るものが全て新鮮で、初めてであり、どんどん自分が生きている世界に対して興味が湧いてくる。窓から来る心地よい風がその気持ちを後押しするかのようにも感じられた。

その景色に魅入られた僕は時間を忘れて景色を見るのに没頭した。

 

「あらあらまるで子供見たいですよ?」

 

いつの間にか天城母さんが昼食をもって部屋に戻ってきた。手に持っているトレーには、茶碗と丼ぶりが乗せられていた。

丼ぶりから白い湯気が出ており、そこから凄くいい匂いがこちらにも漂ってくる。

 

「最近は冷えてきましたからね。少し暖かい物をご用意しました。」

 

そう言って天城母さんが用意したものは…何だろうこれ?鶏肉に卵を綴じた物…親子丼と豚汁だった。

 

「わぁ…美味しそう!」

 

天城母さんがベッドの横につけられていた小さめの長机を僕の前に設置すると、目の前には親子丼と豚汁が僕の食欲を刺激した。もはやその食欲を抑えることなど出来ず、僕は用意してくれたスプーンを手に取り食べようとした。

 

「こら、ダメですよ。ちゃんと『いただきます』と言ってからじゃないと、お行儀が悪いですよ。」

 

天城母さんが親子丼をすくうスプーンの手を止めると、少し怒っているような顔をしていた。

 

「ご、ごめんなさい。…いただきます。」

 

「はい、おあがりなさい。」

 

行儀よくいただきますと言うと、天城母さんは満足したのか笑顔で食事の手を離した。

綺麗に半熟卵に白いご飯に良い焼き色の鶏肉…目で見ているだけで更にお腹が空いた僕は勢いよくそれを食べようとしたが、あまりの熱さで食べられずにいた。

 

「あふ…あっっ!!」

 

「あらあら、そんなにがっつくからですよ?」

 

そうだった…これは出来たてだ。つまり1番熱い状態で出された料理なのだから熱いに決まっている。火傷はしてないが、火傷したような舌を冷ますように小さく舌を出す。

それを見た天城母さんは小さく笑った。

 

「全く…仕方ない子ですね。母が食べさせてあげましょう。」

 

「む〜…僕そんな子供じゃないよ?」

 

「親にとって子供はどんなに歳をとっても子供のままなのですよ?さぁ、冷ましてあげますので匙を貸してください。」

 

匙と言うと…このスプーンの事だろうか。だが、天城母さんは半ば強引にスプーンを取り上げると、スプーン1杯の親子丼をすくい、息をふきかけて程よく冷ましていた。

 

「ふぅ…ふぅ…このくらいでしょう。はい、口を開けてください。」

 

まさかこの歳になって誰かから食べさせてるなんて自分のプライドが許さないと叫んでいるようにも思えるが、目の前に美味しそうな物をちらつかされては、空舞の僕には抗う術なんてなく、一瞬躊躇うもそのまま大きく口を開けて親子丼を食べる。

 

「あーん…はふっ…あふっ…」

 

まだ少し熱いが、さっきまでよりかは全然マシで食べられる熱さだ。

とろけるような半熟卵とちょうど良い硬さのお米に鶏肉の旨み…それを引き立たせる甘辛な丼たれもこれはまた美味しい…全てに無駄が無く、まさに完璧な親子丼だ。

それなのに…僕はどうして泣いているんだろう。

 

「優海…?」

 

「あれ…おかしいな…美味しのにっ…凄く美味しのになんで泣いているんだろう…」

 

料理が美味しくない訳がなく、それでもこの気持ちは何だろう。懐かしさや悲しさが入り交じりどうしようとないこの気持ちに耐えきれず、無意識に涙を流した僕は必死に涙を吹き続けた。

それを見た天城母さんはそっと頭を優しく撫でてくれた。

 

「大丈夫ですよ。今は泣きたい時は泣いてください。」

 

「…ううん、大丈夫。ご飯、凄く美味しいよ!」

 

涙を流し終え、今度は笑顔で天城母さんを安心させるようにいま全力で出来る笑顔を振舞った。

 

「ふふ、それは良かった…さぁ、まだまだありますからね。」

 

どこか嬉しいそうな顔を浮かべていた天城母さんは再度スプーン1杯の親子丼をすくうと、舌を火傷しないようにまた息をふきかけた。充分に冷ますと僕の口にスプーンを近づけさせる。

先程のように抵抗はせずに、僕はなすがままに口を開けて親子丼を食べる。何だか餌付けされているようにも思えたが、この美味しさの前ではそんな気持ちは些細な事だった。

この懐かしさを感じる味を僕は何度も噛み締めた。

 

 

 

 

 

_同時刻重桜領地にて

 

「ねぇ…そろそろ離してくれないかしら?この服結構気に入っているんだけど…」

 

相も変わらず愛宕はオロチの服を引っ張りながら、天城と優海がいる家からオロチを遠ざけていた。

この距離なら大丈夫だろうと判断した愛宕はオロチの服から手を離した。

やっと解放されたと感じだオロチは服の伸びが無いかと、引っ張られた所を確認する。シワや伸びが無かったのを確認したせいか、オロチはホッと安堵の息を漏らした。

 

「貴方…どうして重桜にいるのかしら?」

 

「言ったでしょ、私が居ないと優海の記憶は元には戻らないって。」

 

「だとしても、どうしていきなり天城さんの家に入り込んだのかしら?」

 

愛宕が言っているのは何故自分達に黙って天城の所に真っ先に行ったのかと言うことだ。

そうなれば先程みたいに敵意を剥き出されるのは確実であり、それを考えないオロチでは無い。

オロチは体を伸ばし、リラックスしてからその質問に答えた。

 

「そうね…んっ〜…優海の拒絶心をどうにか壊す為…って言えば信じてくれるかしら?」

 

「拒絶…?一体優海君は何に対して拒んでいるのかしら?」

 

その質問にはオロチは口では答えず、ひとつの指差しで答えた。オロチの指先は…愛宕の方に向けられた。

それを見た愛宕は優海が自分を拒んでいると考えると、頭の中で疑問と怒りが混ざりあった。

 

「優海君が私を…?いい加減な事を言っていると本気で沈めるわよ…!」

 

「誰も貴方なんて言ってないでしょう。と言っても優海が拒んでいるのは貴方達KAN-SENよ。」

 

「私…達?」

 

「そ、優海の正体はセイレーンのコネクターと言う個体…貴方達もあの戦いの後、アズールレーンから聞いたでしょ?」

 

重桜…いや、レッドアクシズである重桜と鉄血、アズールレーンであるユニオンとロイヤルは優海に関する全ての情報を共有した。

優海の過去や、優海の正体はセイレーンである事…それら全ては重桜のKAN-SENは衝撃を受けた。

だが、優海は優海だと、誰よりもその存在を肯定している重桜のKAN-SEN達はその事実をものともしなかった。

それゆえ、あまり混乱は起きずにいた。

だが、今のオロチの口から放たれた事実はそれを遥かに超える衝撃だった。

 

「優海はね、その事実を受け止めてるからこそ貴方達から離れているの。自分はKAN-SENの敵だから、だからこそ…拒絶する道を選んだ訳。多分記憶を失ってるのもそのせいだと思うわ。」

 

「そんな…」

 

「ま、だからこそ天城の力が必要なのよね…まぁ、今はそんなに時間は無い思うけど…」

 

オロチは何かを察知するように目を細め、海の方向に振り返った。様子の変化に気づいた愛宕は同じように海の方向に顔を向けたが、特に異常は見られなかった。

 

「…来るわよ、敵がね…」

 

 

 

 

 

 

 

 

_現時刻 重桜 天城宅

 

結局最後まで天城母さんに食べさせて貰い、ようやく僕は昼食を完食した。充分な満腹感に包まれながら、少し脹れたお腹をさすり、完食の余韻に浸る。

 

「ごちそうさまでした〜」

 

「はい、お粗末さまです。食器を片付けて来ますので待っていて下さい。」

 

テキパキと食器を片付けてまたもキッチンに戻った天城母さんは、今度は食器を片付けただけで済んだせいか、直ぐに戻ってきた。

 

「さて…久しぶりに会えたのです。少しお話でも致しましょう。」

 

「…と言っても、僕は記憶が…」

 

アズールレーンの指揮官として過ごした記憶以前に、僕が生まれた頃から失うまでの記憶全てを僕は無くしていた。本当は話したい。一日では足りないぐらいもっと思い出を話したい。こんな事があったよ。色んなことがあったのだと、自分の口から言いたい。

…でも言えない。例え僕がそのように過ごした事実があったとしても今の僕からすればそれは存在しないのだから。

そんな交差する気持ちを表すように僕は布団を右手で握りつぶした。布団の一部分がシワになった様子は、僕のくしゃくしゃな心のようだった。

そんな時、天城母さんが優しく僕の右手を優しく添えてきた。

 

「大丈夫ですよ…貴方の事はオロチさんから聞いていますので。」

 

「オロチさんが…?」

 

「そうですよ。貴方の事を話したいからとわざわざここまで来たのですから。」

 

オロチさんが僕の事を話す為にここに来たと言うことなのかな…?だとしたら、オロチさんがここにいた事が納得出来る。

でも…なんでわざわざそんなことをしたのだろうか?

僕の昔の事を言うだけなら、赤城姉さんや加賀姉さん等、重桜のKAN-SEN達で事足りるはずなのに、オロチさんがわざわざ天城母さんにその事を言う必要はほとんど無い。

…いや違う。元々僕はアズールレーンの指揮官だった。レッドアクシズである重桜の皆は僕が指揮官として歩んだ人生を知らない。それを見越してオロチさんはここに来たのだろうか…

 

「貴方は指揮官としてよくやってくれたと、オロチさんは言っていました。母として誇らしいですよ。」

 

「そんな事…」

 

その事実があっても、本人からすれば知らずの内に起きていた事実だ。感覚的には、寝ていただけで英雄になれたとかそんな感じだ。

だからいくらもてはやされても、僕としては引っ掛かりを感じているのだ。

 

「今の僕は…誰かの力が無いと生きていけないんです。足も満足に動かせなくて…皆に迷惑をかけて…記憶も失って…そんな自分が嫌なんです。誇らしいなんてとんでもない。」

 

悔しさ。悲しさ。ありとあらゆう感情が心が渦巻く波のように押し寄せ、それが溢れるように目から少しずつ涙も溢れてきた。

これ以上無様な姿を見せないように、顔を見せないようにして、目に力を入れて涙を流さないようにしていた。

さらに力を込める拳に天城母さんはそっと手を添えた。

 

「それは違います。貴方が歩き続け…進み続けた軌跡は確かに存在するのです。誰もが貴方の事を認め、敬い、待っているのです。貴方の帰りを…」

 

「待っている…?」

 

顔を上げ、天城母さんの表情を見ると、そこには真剣な顔つきをしていた天城母さんがいた。

怒られるとは少し違うが、何かを言うことは明らかだ。涙が怖がるように引っ込み、生唾を飲んで何を言われるか覚悟を決めて心構えをした。

 

「優海、貴方は指揮官に戻るべきです。」

 

「…指揮官に?」

 

無理だ。心の第一声がそれだった。第一僕はもう指揮官の立場を下りようとしていた。

それが今、母親から指揮官に戻れと言われた僕は困惑していた。

 

「そうです。今、四大陣営が手を取り合えたのは間違いなく貴方の功績…KAN-SEN達は貴方以外の指揮官など認めないでしょう。」

 

「…僕なんかよりももっとちゃんとした指揮ができる人なんていくらでも…」

 

「逃げないで。」

 

その言葉を聞いた僕は、心に図星の槍が突き刺さったような衝撃を受けた。

…あれ?なんで僕そんな言葉に図星をつかれたんだろう…逃げる…僕が逃げている?いや…違う。この感じはまるで、()()()()()()()()()に突き刺さっているような感じだ…そんな曖昧な感性が更に僕を困惑させる。

 

「私は貴方に遺したはずです。『歩き続けて』と…ですが、今の貴方はその場から立ち止まっています。今その動かない足が貴方の心の現れようです。」

 

「……」

 

何も言わず、僕は布団に被せられた動かない足をじっと見つめた。足には何も異常は無いが、何故か石のように動かないこの足が僕の心の現れ…『立ち止まっている』と天城母さんは言った。

 

「でも…今の僕に指揮官なんて…」

 

その時だった。突然、轟音が身体中で聞かせるように全身で音を感じ、異常を感じだ僕達はその轟音が聞こえた方角に顔を向けた。

窓の外を見ると、そこから黒い煙が立ち上り、何か水の上でぶつかっているのか水柱も多く出ていた。

何が起こったのか分からない焦りと恐怖が鼓動の速さと共に波のように押し寄せ、不安で息が荒くなった。

 

「これは…敵襲…?」

 

「ちょっと失礼するわよ。」

玄関から家の扉が開く音が聞こえた、この声はオロチさんの声だ。オロチさんが僕と天城母さんを探すように家中探し回ると、ようやく僕の部屋を見つけたようでここに来た。

 

「あぁ、ここにいたのね…残念なお知らせよ。この重桜に敵が現れたわよ。」

 

「敵の数は?」

 

「2人よ。…と言っても、まともに戦っているのは1人だけど。」

 

天城母さんが敵の数を聞くとあまりの少なさに驚愕していたように見えた。

いやこれに関しては誰でも驚愕し、言っていることが嘘だと絶対言うはずだ。

相手はたったの2人で、しかも国全体に喧嘩を売っている様なものだ。それなのに…たった2人って…正気の沙汰では無い。余程の自信家なのかそれとも…

 

「優海…貴方はオロチさんと一緒にここにいなさい。」

 

天城母さんはたちが上がりそのまま勢い良く部屋を出ていくと、そのまま窓の外から天城母さんが爆発が起きた所に向かっていくのが見えた。

 

「あらあら、戦いに行っちゃったわね。」

 

言われなくても分かっていた。家を出る前に見せた険しい表情を見れば、何も言わずとも天城母さんがやる事は充分に察することが出来た。

 

「それで?貴方はどうするのかしら?」

 

「え…?」

 

「このままここにいるか…それとも指揮官として皆を救うのか…どっちがいい?」

 

そんな選択…勿論決まっている。僕にもう指揮官としての能力も無いし、何より…怖い。

今でも轟音を聞いただけでも恐怖で体が震えているのに、指揮官なんてできるわけが無い。でも…どうしても天城母さんが言ったあの言葉が頭から離れずにいた。

 

_逃げないで。

 

「…オロチさん。ちょっと良いですか…?」

 

顔を上げ、窓から見える海の地平線の向こうを見つめ、オロチさんにひとつ頼み事をした。

僕が出来ることなんて無いと思うけど…背けたくは無い。そんなちっぽけな決意が、僕の意志に…炎を灯してくれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

_現時刻 重桜 海域

 

海の冷たさと消炎の鈍い熱さが入り交じり、少し息苦しくもあるこの戦闘で、一人の男が刀を振っていた。

一振で海を割り、空気を切り裂き、重桜のKAN-SEN達に牙を向けていた。

KAN-SEN達は砲撃を一人の男に集中し、一斉に放った。

男は刀を鞘に収め、力を溜めるように目を瞑り、一気にそう、を振りかぶった。海が岩肌のように裂かれると同時に、男に向かっていた砲撃が全て真っ二つに切り裂かれ、爆発を起こす。爆風は男に届くこと無く、男は余裕の態度で編笠の位置を調整していた。

 

「な…なんてやつだ…」

 

先程から刀の近接戦闘に持ち込んでいる高雄だったが、圧倒的な力の前には手も足も出ず、高雄は無様に膝をついてしまう。今にも倒れそうな高雄の体を愛宕は優しく背中を支えていた。

 

「…あの男…さっき見かけた人だわ…やっぱりあそこで捕らえておくべきだったわ…」

 

そう、今重桜を襲い、海の上に佇んでいるあの編笠を被った男は、愛宕と優海があった男であった。

腰にはまるで太刀魚と思わせるような黒く長い鞘が掛けられており、艤装の類は一切見られなかった。

いや、もしかしたらあの鞘こそが艤装であり、遠距離武装は無いのではと考えた者もいた。現に男は、刀による攻撃しか行ってはいなかった。

 

「相手の武器は刀のみ…遠距離で一気に叩くわよ!」

 

赤城の号令により、KAN-SEN達は一斉に男から距離を取り、艤装による砲撃中心の戦闘に入った。迫り来る砲撃を男は刀で切り裂いていくが、男は防戦一方であった。

徐々に逃げ場は失い始め、ついには男は完全に包囲された。

 

「…囲まれたか。」

 

「総員!一斉に砲撃っ!」

 

重桜のKAN-SEN達はありったけの砲弾、魚雷、空母による爆撃をたった一人の男に向けて放った。

男は諦めたように刀を鞘に収め、ゆっくりと深呼吸を行った。

最後の時を噛み締めるのでは無い、男はこれを切り抜けられる確信があった。

 

「…この程度とは…落胆した。」

 

男はKAN-SEN達の実力に呆れたように呟き、溜息を吐くと、男は鞘から刀を完全には抜かず、直ぐにまた鞘に収めた。一見なんの意味の無い行動と思えるが、違う。

男が刀を鞘に収めたその刹那の遅れ、砲弾、魚雷、空母が全て…切り裂かれた。まるで斬られた事さえ認識出来なかったように。

男の周りに大爆発が起こり、KAN-SEN達はその爆風と衝撃に巻き込まれてしまい、一気に陣形が崩れ去った。

男は爆風を切り裂くと何事も無かったかのようにその場に立ち尽くした。

そう、男は目には見えない神速で刀を振っていたのだ。あまりの速さに、皆は刀を鞘から抜いた事さえ見えずにいたのだ。

 

「なんなのこの力…」

 

「歯が立たないよ…」

 

圧倒的な力の前には屈服したKAN-SEN達はそう少なくは無かった。先程の一撃だけで戦意も切り裂かれたKAN-SEN達はそのまま倒れてしまう。

 

「くっ…このぉぉ!」

 

「待って!瑞鶴!」

 

最後まで戦意が折れなかった瑞鶴がそのまま一直線に男に向かって飛び出した。

翔鶴の声も聞こえていなかった瑞鶴は、刀に炎を纏った空母をのせ、刀は炎を纏い、全速力で襲いかかる。

瑞鶴の接近に気づいた男はゆっくりと瑞鶴の方に体を向けると、瑞鶴との距離はもう目の前だった。

 

「…ほう。」

 

「貰った…!」

 

瑞鶴が刀で男を斬りながら通り過ぎると、2人は微動だにしなかった。刹那の斬り合いの行く末を見届けるKAN-SEN達は固唾を飲んでその結末を待つと、その結末はすぐに来た。

瑞鶴の刀に亀裂が走り、刀がガラスのように粉々に切り裂かれるのと同時に、瑞鶴の服と体がまるでかまいたちに切り裂かれたように切り傷が無数に生まれた。

 

「あ…れ?私…いつの間に斬ら…れ…」

 

「瑞鶴ぅぅぅぅ!!」

 

切り裂かれた瑞鶴は血を流したがら海に倒れ、それを見た翔鶴は急いで瑞鶴の元に行き、体を支えて何度も呼びかけた。しかし瑞鶴は呼び掛けに応えず、目を閉じたままだった。

目の前にある現実を否定するように何度も何度も瑞鶴の名を呼ぶ翔鶴だが、現実が打ち付けられるように瑞鶴の目は開いてくれなかった。

 

「…心配無用だ。致命傷は避けた…まだ息はある。」

 

「なんですって…!?」

 

それを聞いた翔鶴は確認する為に瑞鶴の胸に手を当てた。微かだが心臓の鼓動は確かに生きていた。脈もあり、命に別状は無いと分かった翔鶴は急いで重桜本部へと移動した。

 

「貴方…私達を沈める気は無いのかしら?倒れた子達も命には別状は無い…貴方の目的は何なのかしら!?」

 

敵を倒さず、目的も告げない愉快犯的な行動に疑問を持った赤城は痛む体を抑えながらその理由を聞いた。

 

「ふむ…そちらにはなんと言ったか…確か…『ワタツミ』と言ったな…それを渡してもらおうと思ってな。」

 

「『ワタツミ』を…!?」

 

「それと…貴殿が持っている『黒箱』…それも頂戴しよう。」

 

「貴方に渡すと思って…?」

 

どうやら、男の目的は『ワタツミ』と『黒箱』との事だが、赤城はその要望を蹴った。やはりと呟いた男は刀で斬撃を起こし、斬撃は重桜にある建物を切り裂いた。

 

「すまぬが荒手で行かせてもらうぞ。…渡してくれぬか?」

 

物腰が低いのに、行動が高圧的である態度がますます気に入らない赤城だったが、最早戦力差は歴然…どう足掻いてもこの男には勝てないと赤城はもう受け入れていた。このままでは重桜の土地にも被害が出る。最早渡すしかないと思えたその時だった。

突如一発の轟音が響き、砲弾がそのまま男の向かったが、男はものともせずに斬撃で砲弾を切り裂いた。

 

「む…新手か?」

 

砲撃が来た方向に男は注目すると、そこには一人では無く、複数人の人影が見えていた。その人影には巨大な艤装がある事から、ほとんどが戦艦のKAN-SENだろうと判断した男は刀を抜き、構えた。

ゆっくりと影が近づき、いよいよその姿が目視出来た。そこには数々の戦艦のKAN-SEN…天城を始め、三笠までおり、重桜の者にとってはこれ程頼れる者はいなかった。

 

「あ…天城姉様!?」

 

「大丈夫ですか?後は私達にお任せ下さい。」

 

「ですがお身体の方は…」

 

天城は大丈夫だと言わんばかりに赤城に笑いかけた。だが、それだけでは赤城の不安は取り除けなかった。

天城は他の者たちと比べると、かなり身体が弱い方だった。その原因はKAN-SEN達の核…『リュウコツ』に問題がある。"戦艦天城"は史実では大災害に巻き込まれ、船の役割として機能はしなくなったという。その史実があるためか、天城の『リュウコツ』はひび割れているようなものである為、身体が弱いのだ。

今は調子が良いのか、その素振りは一切無かった。

 

「今は三笠さんもいるのです。あまり心配はしないでください。」

 

「うむ、天城ばかりに負担はかけさせん。ここはこの三笠に任せよ。」

 

その言葉を示すように、三笠は主砲を男に放つと、凄まじい轟音と共に砲弾が空気を突き破る勢いで男に迫ったが、男はいとも容易く砲弾を斬ると、男の目の前にはもう一発砲弾が隠されていた。切り終わりの動作の隙を突かれた男は咄嗟に回避行動をとった。男が被った編笠が砲弾に突き破られ、砲弾の爆発に巻き込まれて燃えてしまった。

もう1発の砲撃の正体は天城の砲撃だった。三笠の砲撃に合わせ、隠すように天城はそれに合わせて同時に砲撃を開始していたのだ。弾道計算やタイミング…全てが計算されて行ったその行動は戦う軍師とでも言うべきか。

ダメージは与えられなかったが、初めて男に痛手を受けさせたのは大きい。

 

「ほう…これは中々…」

 

編笠が取れ、遂にKAN-SEN達に男の姿が晒された。

髪は黒く、その細身の刀のような紅の目は抜き身の刀のようでもあった。

 

「貴様…何者だ。」

 

「…テネリタス5代目当主…名はロドンと申す。」

 

「テネリタス…!」

 

セイレーンに続き、新たな敵として現れたテネリタス…それはロイヤルの貴族の家計でもあるが、英雄として称えられた一族であった。

だが、今ではKAN-SEN達に牙を向き、敵として蘇った。

そして今目の前には…その5代目に当たる英雄がそこに存在していた。

 

「貴族と聞いていますが…その成り立ちではまるで武人のようですね。」

 

天城の言うことは最もだった。目の前にいるロドンの姿は、黒を基調とした武士服であり、腰には刀…貴族というよりは天城の言う通り武士そのものであった。とても貴族とは誰も思えなかった。

 

「当方は貴殿達に伝わる武士道に興味を持ってな…それに惹かれ、こうして立ち振る舞っている。」

 

「貴方の国…ロイヤルでは騎士道があるのでは?」

 

「当方に騎士道は向かなくてな…やはり当方は己の義を貫く武士道精神が性に合う。」

 

ロドンは刀を天高くかがげて己の義を示した。

他のテネリタス当主とは違う考えでも、己の考えを曲げないその姿勢は、折れない刀そのものであった。

 

「義…か…貴様達に義があるとは思えんがな。」

 

三笠がロドンが言っていた「義」と言う言葉に疑問を感じていた。

ここで言う義とは正義やただしいとされる概念の事を指している。しかし、今のロドンがやっている事に義など無いと三笠は感じていた。

 

「それぞれに自分が信じる正義があり…それが衝突するからこそ戦いは起こる…こちらにもそれなりの義がある。」

 

「ほう…是非とも聞かせたいな…そなた達の義を…!」

 

ロドンの正義を認めないように三笠は最大火力の砲撃をロドンに向けて撃ち続けた。その意志に応えるようにロドンは回避せず、刀で全て切り伏せようと刀を構えた。

刀を鞘に収め、目を閉じて刹那のその時を待つ。

その間に雨のような砲弾がロドンに襲いかかった。

 

「…義は我にありとは言わん。だが…己を貫くこの勇の精神は偽り無く!」

 

ロドンが目を開き、刹那の瞬間刀を大きく振り上げる。

一瞬遅れて、衝撃がロドンから放たれると、近くにいたKAN-SEN達はその衝撃だけで吹き飛ばされてしまう。

襲いかかる水しぶきがまるで弾丸のような衝撃を持ち、三笠が撃った砲弾が何事も無いようにロドンの後ろを通過し、水の中で静かに沈んだ後そのまま遅れて爆発を起こした。まるで、砲弾が斬られた事を分からなかったように…

 

「馬鹿な…!」

 

勝てない…三笠の心はその一言に尽きた。この場にいるKAN-SEN達は、今この身で英雄の強さを思い知られた。

マーレによって蘇らせられ、艤装を手にした力もあるが、それを差し引いても人間離れした力はまさに伝説通りの力であった。

 

「もう…終わりか?」

 

「くっ…」

 

最早万事休す…誰もがそう思ったその時、一筋の光がロドンを襲った。

ロドンは刀でビームを跳ね返すように斬ると、跳ね返したビームは撃った方向に返された。

 

「おっと!刀でビームを跳ね返すって…どれだけ人間離れした技なのよ…全く。」

 

空から白い髪をなびかせ、後ろには蛇の形をした異形な艤装を背負ったオロチがいた。

オロチはゆっくりと着地すると、ロドンに艤装の銃口を向けた。

 

「ほう…オロチか。」

 

「私だけじゃないわよ。」

 

オロチは目線で私の後ろを見ろとロドンに伝えると、ロドンはオロチの後ろにある重桜の地を見た。

ロドンの目には車椅子らしき影とそれに乗る人影が見えた。いや、ロドンの目にはハッキリ映っていた。あそこには…優海がいると。

 

「ほう…まさか優海がそこにいるとはな…」

 

「優海が!?」

 

赤城がその名を聞き、すぐ様後ろに振り返ると、そこには見間違い無いようがない優海の姿があった。

 

「何してるの!早くここから離れなさい!」

 

「嫌です!」

 

ここからでも聞こえる大きな声が、赤城やKAN-SEN達を黙らせた。今まで見たことが無い優海の気迫に圧倒されたKAN-SENは黙って優海の姿を見ていた。

 

「僕は…僕は指揮官だ!だから逃げる訳には行きません!」

 

「優海…」

 

記憶失った優海が初めて自分が指揮官だと自覚した事に、赤城達は驚きに加え、少しの安心や喜びを感じていた。もしかしたら記憶が戻ったのかと思ったが、今の態度からして戻っていないと自己完結した。だが、これは記憶を取り戻す大きな進歩だった。それだけでも、KAN-SEN達は1つの希望を見いだせた。

 

「指揮官がこんな事言うのもなんだけど…負けないで!頑張って!」

 

指揮官にはあるまじき言葉だったが、その言葉だけでKAN-SEN達を震え立たせた。

 

「もちろんよ…貴方だけは…絶対に守るわ…!」

 

優海を守る。それだけでも力に変え、KAN-SEN達は立ち上がった。守るべきものを守る…それもKAN-SENの存在する理由でもあるのだから。

 

「ほう…立ち上がるか。その力強さには感服するが、そやつが来たのなら話は早い。」

 

「なんですって…?」

 

ロドンは目的を果たしたように刀を鞘に収めると、上空で何かが光っているのをKAN-SEN達は確認した。

光が徐々に大きくなり、まるで何かを溜めているような気配を感じたKAN-SEN達はその光の正体を探った。

光で後ろにいる人影の者が姿を表すと、2つの艤装を背負った者…マーレが優海に目掛けて右腕に装着しているビームの銃口を向けていた。

 

「あれは…マーレ!?」

 

「やばっ…あれ完全に優海を狙っているわね…」

 

脇目を降らずに上空にいるマーレを全力で妨害するKAN-SEN達だが、その妨害を容易くロドンが切り払い、マーレに攻撃は一切届かなかった。

 

「悪いが邪魔をさせる訳には行かない。」

 

「逃げなさい!優海!」

妨害されてはマーレの攻撃は止められないと悟った天城は、逃げてと優海に伝えはしたが、車椅子である優海は逃げる事さえままならなかった。それを見逃すマーレでは無く、無慈悲に優海に狙いを定める。

 

「…ターゲットロック。…これでお前が俺の思い通りにならなければ…それまでという事だ。」

 

意味深な言葉を発しながら、マーレは最大火力のビームを優海に向けて放った。青白い光が真っ直ぐ優海を消す為に進み、優海は逃げることは出来ないと悟り、その場で止まってしまう。

 

「…!」

 

ビームが優海がいた所に直撃すると、凄まじい爆風と共にその場の土地は半壊した。KAN-SEN達は時が止まったかのような衝撃を受け、目の前の現実を受け入れずにいた。

 

「優海…?優海!!!」

 

無事だと願うばかりの赤城が優海の名前を何度も何度も叫び、爆風が風と共にその場から離れると、そこには半壊した土地と原型を失った車椅子と…優海の周りに蛇の様な長い胴体を持った艤装2つが優海を守るように漂っていた。

 

「あれは…セイレーンの艤装?」

 

重桜のKAN-SEN達はアズールレーンから優海がセイレーンの艤装を使う事は聞いてはいたが、KAN-SEN達はそこに驚いているのではない。

()()()()()()()()()()驚いているのだ。

優海が日本の足で地に足を付け、今までと雰囲気が別人のように瞳は黄色に輝いていた。それはまるでセイレーンのように…

 

「やはりそう言う事か…」

 

ロドンが何か納得したような表情を浮かべ、危険視するように刀を構える。

 

「…行きます。」

 

優海が腕を伸ばし、2つの艤装が戦いを終わらせる為に吠える。

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