もしもアニメのアズールレーンに指揮官が出てきたら〜2nd season 海上の誓い〜   作:白だし茶漬け

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夢はいつしか未来へと

桜の香りを微かに感じながら目を開ける。目を開けて見えた光景は、桜が美しく満開に咲き誇っていた。

僕は何の変哲もないベンチに座っており、何故ここにいるのか頭を悩ませた。

 

「あれ?確か僕、家にいたはずだけど……なんでこんな所で寝てたんだろう…… 」

 

誰かが外に連れ出したとは考えにくいし、僕が夜な夜な歩き回ってたのもない。いくら考えたも答えにはたどり着けず、僕は考えるのを諦めたその時、鈴のような音が聞こえて来た。

聞いた事ある音だった。僕の考えが合っているなら、この後あの光り輝く蝶が来るはずだ。周りを見渡し、その蝶がいないか探すと、僕が起きるのを待っていたかのような良いタイミングで蝶が僕の目の前を横切るように通り過ぎた。

 

「やっぱりいた……!という事はこれは夢なのかな? 」

 

昨日に続きこのような夢を見る。鈴のような音が聞こえた後には、決まってあの蝶が僕を誘うように現れる。

これは夢には間違いないのだが、どうもそんな風には思えない。

今着ている服の感触も、手のひらに落ちてきた桜の花弁も、太陽の日の暖かさも何もかも夢とは思えないほどリアルだからだ。夢と言うよりは、別の世界に迷い込んだと言った方が正しいぐらいにだ。

とにかく、今は僕を横切った蝶を追いかけるべきだと考え、僕は蝶を追いかけた。

桜の道を走り抜け、道をぬけた先には一軒の家があった。

広々とした屋敷みたいな木造建築の家……間違いない、あれは天城母さんの……僕の家だ。

蝶はあの家の扉に止まっており、僕はその蝶の目の前まで近づく。蝶は青白く輝いており、触れろと言わんばかりに羽をゆっくりと動かしていた。恐る恐る、羽を傷つけないようにゆっくりと蝶に触れると、蝶の周りから光が溢れ僕を巻き込むように広がった。

思わず目を瞑り、腕で目を守るようにする。

もう大丈夫かなと思い、恐る恐る目を開けると、そこには天城母さんがいた。声をかけても返事は無く、気づかせるように肩を叩こうとしたら、そのまま手が天城母さんをすり抜けてしまった。

 

「うわぁ!? 」

 

驚きのあまり思わず尻もちを着いてしまう。自分の状態を確認するように僕は左右の手を見る。別にどこにも異常は無く、至って普通の状態……いや、もしかしたら僕目線ではそうかもしれない。もう一度天城母さんに触れられるかどうか確かめる為、腰を上げ、天城母さんの肩を叩こうとすると、やはり手が肩をすり抜けてしまう。

「……」

 

『ふぁ……おはよう母さん。 』

 

寝起きなのかは分からないが、僕に似た男の子は眠そうに欠伸をしながら瞼を擦った。そのままの状態で机に座り、天城母さんの朝食を待っていた。

 

『おはよう優海。』

 

天城母さんは今日に包丁で野菜を切りながら挨拶を返した。切り終えた野菜を鍋に投入し、待っている間に男の人の姿を見た。

 

『もう、寝癖がついていますよ。まずは顔を洗って寝癖を直してきなさい 』

 

『は〜い…… 』

 

男は気だるけそうに椅子から立ち上がり、洗面所へと向かっていった。

やはり天城母さんはあの人の事を『優海』と言った。

だがどういう事なのだろう。これは、僕の昔の記憶なのだろうか。この前はすごく小さい頃の夢なのに対し、今は僕と背丈が変わらないぐらいの大きさだ。

昔の記憶と言うには、少々無理があるような気がする。

考えを張り巡らさてはいたが、それはある叫び声によってかき消された。

 

『あびゃぁぁぁぁ!!』

 

変な叫び声を出したのは、僕…いや夢の方の優海の方だ。なにかあったのかと、急いで優海がいる洗面所へと走る。部屋の場所は僕の知っている配置だったので、探すのには時間がかからなかった。洗面所へと辿り着くと、そこには優海の他に赤城姉さんがいた。

しかし、赤城姉さんが来ている服が少し妙だ。白いシャツにスカート……まるで学校の制服だ。赤城姉さんが学校に行っていたと言う話は聞いていない。どう言う事なのだろうか。そんな事を考えている内に、赤城姉さんが優海君の寝癖を丁寧に直していた。

 

『もう、優海ったら、暴れちゃダメじゃない。ほら、私が丁寧に丁寧にすいてあげるから…… 』

 

『これくらい自分で出来るから!もう俺、子供じゃないんだからさ 』

 

そう言いながら必死に優海君は赤城姉さんに抵抗したが、やはり力の差はKAN-SENである赤城姉さんの方が強いのか、赤城姉さんはなんの障害も無く優海君の寝癖を直していった。

そしてついには諦めたのか、優海君は抵抗せず、優海君の寝癖は直った。

 

『はい、これで大丈夫ね 』

 

『はぁ……もういい加減1人でもできるんだから別にいいのに…… 』

 

『良いじゃない。全部私に任せて、貴方は私に愛を注ぐだけで……うふふふ…… 』

 

稀に見る……というか結構見る赤城姉さんのあの顔に、僕と優海君の背筋は凍るように冷たくなった。

赤城姉さん、僕の事になるとあんな風になるから怖いんだよなぁ……。

 

『ふん、流石は天城の腰巾着だな。それでは優海はまともな奴にならないというのにな 』

 

挑発的な言動をしたのは、土佐姉さんだ。挑発的な態度に赤城姉さんはカチンと来たのか、笑っているのに不穏な空気を放っていた。

 

『あらごめんなさいねぇ?貴方のような未建造の艦の考えは、私には理解出来ないので 』

 

『貴様喧嘩を売っているのか? 』

 

『さぁ……どうかしらね……? 』

 

いや完全に喧嘩を売っているよ……。

もうどうしようも出来ない状況に陥ってしまい、赤城姉さんと土佐姉さんの間に火花どころか灼熱の炎が燃え盛っているようだった。

これには優海君も動けるに動けず、その場で固まってしまった。

しかし、そこで救いの手なのか救世主なのか分からないが、加賀姉さんが遅れてやってきた。

 

『朝からなんだこの騒ぎは……なるほど、また姉様と土佐の喧嘩か……』

 

呆れたようにため息を吐いた加賀姉さんは、やれやれと言いながら優海君に近づいた。

 

『加賀姉さん、あの二人どうしよう…… 』

 

『無視しても構わないだろう。ところでなんだその寝癖は、全くもって見苦しいぞ 』

 

『こ、これから直す所だったんだよ! 』

 

『いや、今日はお前にとって大事な日だからな。今回だけ私がしてやる。早く頭を貸せ 』

 

抜け駆けするように、加賀姉さんが優海君の寝癖を直すようにしていた。

 

なんだかんだで、加賀姉さんも甘い所あるんだよね…

目を閉じてそんな事を考えていると、また鈴の音が凛としてなった。

その音を聞き、目を開けその先は、また外へと立っており、僕の家が目の前にあった。

 

『それじゃあ母さん、行ってくるね 』

 

『待ちなさい。ちゃんとハンカチやお弁当は持ちましたか? 』

 

『ちゃんと持ってるよ 』

 

『知らない人や怪しい人にはついて行ってはダメですよ? 』

 

『分かってるよ!天城母さんって、赤城姉さんと同じぐらい過保護だよね。そんなに心配しなくても大丈夫だから 』

 

『でも、貴方は学校自体が初めてでしょ?これでもお友達が出来ないか心配で…… 』

 

どうやらさっきより少し先の時間なのだろうか。扉の目の前で優海君と天城母さんが話し込んでいた。

優海君は白い制服に鞄を持っており、話の内容からして学校に行くのだろう。

……しかし、初めてとはどういう事だろうか?優海君は学校に行ったことが無いのだろうか?

 

『それじゃあ、赤城姉さん達も行っちゃったし、僕も行ってくるよ。行ってきます! 』

 

『はい、行ってらっしゃい 』

 

天城母さんは笑顔で優海君を見送り、優海君も最後まで天城母さんに手を振った。

他人から見ればほっこりする光景だが、僕にとっては違和感でしか無い。自分と同じ顔……いや、もしかしたらおなじ存在の人をこうして見るのはどうにも気持ちが悪いと言うか……とにかく不思議な感じだ。

それに……何故僕は途中から()()()と自分の事をまるで他人のように言っているのだろうか?

まるで僕が【天城優海】じゃないみたいだ……

いや、そんな事ない。僕は天城優海だ。それは間違いない筈だ。

 

自分の存在を確かめるように、胸を手を置くと、また青白く輝く蝶が目の前に飛んできた。

蝶は僕を通り過ぎ、1本の桜の木の下に止まった。

…いや、そこにいた人の膝に止まっていた。

重桜のKAN-SENだろうか?

銀色の髪色と獣耳が着いており、青を基調とした着物がはだけているせいで、肩と胸のほとんどが露出している状態だった。

寝ているのか、彼女は目を瞑って動いていなかった。

あんな格好では風邪をひいてしまうかもしれないので、

あの人を起こすため、近づく。

 

「あの〜起きて下さい〜。そんな格好でこんな所で寝ていたら風邪をひきますよ……? 」

 

声をかけてみるも、目を開けてくれない。いや、もしかしたら聞こえないのかもしれない。

先程、僕は天城母さんの体に触れようとしたら、そのまま僕の手が天城母さんの体を通過していたのだ。

俗に言う、幽霊みたいな感じだ。となると、肩を掴んで体を揺らす事も出来ないわけだ。

出来るはずも無いのに、この人の肩を掴もうとすると……掴めたのだ。手から伝わる少し冷やかな人肌が脳に届くと同時に、驚きで僕は手を離した。

 

「どうして……?なんで掴めるんだろう? 」

 

「……汝 」

 

突然彼女に声をかけられ、頭の中の疑問が全て頭の片隅に吹き飛ばされる。

 

「えと……僕の事……見えているんですか? 」

 

僕の疑問に彼女は首を縦にゆっくりと振ってくれた。

 

「あの、こんな所で寝ていると風邪をひきますよ。寝るなら家の方が……」

 

「汝もこの夢を……? 」

 

「え……? 」

 

汝も……って事は、この人も僕と同じ夢を見ているのだろうか。でも、僕の知っている人が同じ夢を見るのはまぁ有り得るには有り得るかもだけど、僕はこの人の事を一切知らないし、会ったことも無い。頭の中が疑問で埋め尽くされ、大いに頭を抱えてしまう。

 

「この夢は未来……汝が望み、有り得たかもしれない未来……しかし、これを望んでいるのは汝であって汝では無い者……」

 

眠そうでゆっくりとした口調だが、どこか惹かれるその声と言葉で、僕の頭は限界を迎え、疑問が破裂するような感覚に陥り、何が何だか分からなくなった。

 

「ん〜分からなくなってきた……そもそも貴方は一体……」

 

「それはいつか来る未来……また何処で…」

 

彼女が右手を伸ばし、その手の甲には僕が見た蝶がいた。すると突然、風も出ていないのにも関わらず、桜の風花が僕の視界を覆った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……また変な夢を見ちゃった 」

 

目ヤニで少し痒い瞼を擦り、少し重い瞼を開ける。

雀のさえずりが聞こえる気持ちの良い朝なのだが、夢のせいでどうも気分がふわふわする。

取り敢えずは体を起こし、意識を覚醒させる。

重桜に来て、母さん達と過ごして早2週間…いや3週間ぐらいだろか。未だに僕の記憶は戻らない。

ここにいる人との関係は全て分かったが、唯一僕が知られない事は、僕が指揮官であった事だ。

 

幼い頃とかの話は聞けるが、ピンポイントに僕が指揮官だった頃の話は、ノイズが混じって聞けずにいた。

僕が指揮官だった頃書いた日記も、モヤがかかって文字が見えずにいた。

 

「はぁ……こんなので僕の記憶が戻るのかな……」

 

もしかしたら、もう二度と戻らないのかもしれない。

そんな考えがよぎり、不安が高まっていく。

 

「いやいや…こんな考えじゃダメだ。もしかしたら、何かの弾みで一気に思い出すかも知れないし! 」

 

希望を持つ。僕の帰りを待っているアズールレーンの皆の為にも、必ず思い出してみせる。

その思いを胸に抱き、僕は今日も一日を過ごす。

 

ぐっ〜

 

「あ……お腹空いちゃった……」

 

変に意気込んだ後なので余計に恥ずかしくなり、それを忘れるように、居間へと歩く。

今日の朝ごはんは何かなと考えながら居間へと辿り着くと、そこには朝食の準備をしている天城母さんとあと一人……白い髪に白基調の着物と、刀を持っている人…江風さんがいた。彼女が座っている椅子には、黒色の上着がかけられていた。

 

「あれ?江風さん……? 」

 

「む、起きていたのか……邪魔しているぞ 」

 

「お、おはようございます 」

 

深々とお辞儀しながら挨拶を交わし、恐る恐る僕は椅子へと座る。

 

「あら、おはよう優海。もうすぐご飯だから、そのまま待っていなさい。」

 

「……あれ?そういえば赤城姉さん達は? 」

 

いつもなら僕より先に起き、天城母さんと一緒に朝食の準備をしているのに、今日は姿が見えなかった。

 

「赤城達なら任務で早めに出ていきましたよ。あの方達、マーレとロドンが行った破壊行動により、重桜は大打撃を受けていますから……その防衛と聞いています 」

 

マーレとロドン……この前僕たちを襲った人達であり、ロドンさんに至っては、僕を助けてくれた人だ。

マーレ達は僕たちを襲う前に、重桜の領域の破壊行動を行っていた。怪我人はかなり多くはいたと聞くが、死者はいないのが不幸中の幸いだ。

今でも復旧作業は進められており、まだまだ重桜は混乱状態に陥っていた。

 

「ロドンさん……」

 

やっぱり、納得がいかなかった。ほんの少ししか関わってないが、あの人の優しさは嘘偽りが無かった。それなのに、どうして……分からなさの苛立ちをぶつけるように、僕は右手で強く握りこぶしを作ってしまう。

 

「……そうだ。そういえば、なんで江風さんがここに? 」

 

このままだと暗い考えばかりがおもいつきそうなので、強引に話題を変える。

江風さんは出されたお茶を飲んだ後に、その質問に答えてくれた。

 

「いや、私自身用は無いが、神子様がお前と会いたがっている。私はお前を連れて行くためにここに来た 」

 

「神子様……?ああ、長門さんの事か…… 」

 

この重桜で1番偉いKAN-SEN……実際の所、1番偉い訳では無いらしいのだが、とりあえずその認識で大丈夫だと、以前江風さんから教えて貰った。まだ会った事は無いのけど、昔は結構遊んでいたと聞いている。

 

「でも、どうしていきなり? 」

 

「……」

 

理由を聞こうとしたが、江風さんは黙ってしまった。余程理由を聞かれたくないのだろうか。そのまま江風さんは僕から目を逸らしてしまい、気まずい空気になってしまった。

 

「とりあえず、まずは朝食と致しましょう。江風さんも御一緒にどうですか? 」

 

「あ、あぁ……頂く 」

 

静まり返った空気を、天城母さんが何とかしてくれた。

いつも通り手の込んだ朝食だけど、赤城姉さん達がいないから少し寂しい気もした。

そのせいなのか、何だか味も()()()()()

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「すまない、世話になってしまったな 」

 

「気にしないで良いですよ。天城母さんだって言ってたでしょ? 」

 

朝食を済ませ、僕は早速長門様に会いに行くために江風さんと一緒に、長門様の所に向かっている。

だが、少しばかり問題があった。

……気まずい。めっちゃ気まずいのだ。

何か話題があればと、話してみると考えたものの、江風さんの近寄り難い雰囲気に圧倒され、あまり会話が弾まずにいた。

この気まずさを抱えて長門様に会うのはまずい。何かいい話題は無いのだろうか…

そんな時、ふと目に映ったものがあった。それはある1枚のポスターだ。重桜の雰囲気とは些かミスマッチしている赤色のポスターに、それに描かれているのはクリスマスツリーだ。ポスター内容はあまり興味が無いため、確認はしなかったが、もうそんな季節かとふと思った。

 

「クリスマス……もうそんな時期かぁ〜通りで寒い訳だ 」

 

意識したせいか肌寒さが見に染み込んでしまい、摩擦熱で腕を暖めるようにした。天城母さんから上着を貰っているが、それでもまだ寒かった。

そんな時、江風さんから声をかけられた。

 

「少しここで待っていろ。すぐ戻る 」

 

「…?はい、分かりました…… 」

 

江風さんは近くの店に立ち寄り、僕はこのまま待っていた。何か欲しいものでもあったのだろうか。

買い物と言えば、一応偉い人に会う訳だから、何かお土産でも持っていった方が良かったのだろうか?

しかし何が良いのだろうか……考えで周りが見えなくなり、僕の足に何かぶつかったような感触が感じられた。

感触的に人の頭なので、誰かとぶつかったのだろうか。

 

「あぁ、ごめんなさい!……って君たちは 」

 

焦って振り返ると、そこには園児服を来た小さな子達……確かこの前会った子達だ。えーと確か…【睦月型】の子達だったはずだ。

 

「あ、あの!お兄ちゃんにはこのまえめいわくかけたから、おれいをしようと思って……これ、たいやき! 」

 

1番前にいた子、確かこの子は睦月だったはずだ。睦月ちゃんはひとつの紙袋を差し出すと、中身は言った通りたい焼きがあった。

 

「それ、しっぽまであんこが入ってるから凄く美味しい……!」

 

水色の髪をした子……確かこの子は【三日月】だったはずだ。尻尾まであんこが入ってる事を見せつける為か、この紙袋に入ってるたい焼きと同じ物を食べ、尻尾にもあんこが入っている事をみせつけた。

 

「へ〜!美味しそうだね!でも、わざわざ良かったのに 」

 

この前迷惑をかけたというのは、おそらく僕がまだ車椅子に乗っていたあの時のことだろう。まぁ、ある人のおかげで無事に済んだし、別に僕は気にしていないけど、この子達はこの子達なりに気にしていたのだろう。

ここはこの好意に甘えるべきだ。

 

「ありがとう、皆!」

 

威圧をかけないように、膝を曲げて姿勢を低くし、思い切りの笑顔でお礼を言った。

睦月達は恥ずかしそうに笑顔になり、こちらとしても嬉しかった。

 

「今戻ったぞ……ん?何かあったのか? 」

 

買い物を済ませたのか、戻ってきた江風さんの両手には、2つの紙コップが持っていた。紙コップから白い湯気がたちこんでいる事から、何やら暖かい飲み物でも買ったのだろう。

 

「あぁ、この子達と接点があって、お詫びにたい焼きをくれたんですよ 」

 

「そうか、引き離して悪いが、早く神子様の所に行くぞ

 

「はーい。それじゃ皆、またね 」

 

「ばいばーい! 」

 

睦月達と別れをすませ、彼女達は大きく手を振って僕たちを見送った。わざわざこんな物くれるなんて、良い子達だなぁ……

 

「何やら嬉しそうだな 」

 

そう言いながら、江風さんは片方の飲み物を僕に差し出してくれた。恐らく、寒がっていた僕の事を気遣ったのだろう。

 

「いや、重桜だけじゃないですけど、僕の周りにいる人達は凄く良い人達ばかりだなって…… 」

 

記憶を失っても、これだけは分かった。僕は凄く恵まれているということに。

僕の為に一緒に動いてくれたり、記憶を失っても僕のコ事を家族と言ってくれる人だっている。そして、僕の事を気遣ってくれる人も。

 

「……こっちを見て何を笑っているんだ 」

 

「いえ、江風さんも凄く優しい人だなって 」

 

率直な感想に、江風さんの顔が少し暗くなってしまった。何か、気を悪くするような事を言ったのだろうか…?そんな僕を見た江風さんは、訂正するように言ってくれた。

 

「私は……それほど大した奴では無い。それに、この顔付きだ、他人に些か威圧感を持ってしまうのも無理は無い。神子様の姉妹艦……陸奥様にも少々苦手意識を持たれていることだしな。」

 

江風さんは、自分の顔を戒めているのか分からないが、自分の顔に触れながらそう言った。

 

「それに私はKAN-SENだ。戦う為に生まれ、戦う為に死ぬ。優しさや……平和や愛など、私にとっては不要……いや、届くことの無い夢物語だ 」

 

_私は、戦う為に生まれたのだから。

 

その言葉と雰囲気に混じって、ここにはいない誰かの姿と声が同時に聞こえた。

僕の見間違いじゃ無ければ、さっきの姿と声はエンタープライズさんだ。でも、どうしてあの人の姿と江風さんの姿が重なったのだろうか。それに、こんな風な事が前にもあったような気が……

 

「……どうした?何か考え事か? 」

 

「あ……いえ 」

 

どうにも話す気が起きず、僕はそのままうやむやにしてしまった。江風さんも問い詰める事はせず、気にしない様子でいた。

 

「……あの、さっきの話、夢物語なんかじゃないと思います 」

 

「ん……?」

 

「戦う為に、メンタルキューブっていうものからKAN-SEN達は生まれたって話は聞いていますけど、それだけじゃないと思うんです。だって、江風さんだって僕の為にこうして暖かいお茶を買ってくれたんですから。優しさはありますよ。」

 

江風さんの言う事を僕は否定したかった。何故だろうか、そうしないといけないような、僕の中で叫んでいるような気がしたから。自分の心に従い、僕が伝えたい事を、江風さんにぶつける。

 

「それに、例え夢物語でも、夢は諦めなければいつしか現実になると思うんです。必死に手を伸ばして、それでもダメなら他の人と一緒に手を伸ばしたら、いつかは……」

 

「愚昧で甘い理想だな。そんな陳腐な考えは好かん。」

 

履いて捨てるように江風さんは刀で切り捨てるように僕の言葉を否定した。流石にそこまで言われると応える物もある。目に見えて僕は落ち込んでしまい、トホホと聞こえるような表情を浮かべてしまった。

 

「……だが、それをしてきたお前が言うなら、説得力はあるな 」

 

「ん……何か言いましたか? 」

 

「何でもない。もうすぐ神子様の元にたどり着く。道中で長階段がある。寒さで階段が滑りやすくなってるから注意しろ 」

 

「やっぱりなんだかんだで優しいですね 」

 

「うるさい 」

 

「あいてっ」

 

照れ隠しかどうか分からないが、江風さんから軽く頭を叩かれてしまった。それほど痛くは無いが、何だか懐かしい気がした。

 

 

 

(夢……か、お前とならいつかは…… )

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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