もしもアニメのアズールレーンに指揮官が出てきたら〜2nd season 海上の誓い〜   作:白だし茶漬け

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皆さんこんにちは。
この小説を書いて1年経ちました。この小説がこんなに読まれ、第2部が始められたのも皆さんのご愛読の限りです。
最近投稿の頻度が遅れたり、なんだか拙い表現になってしまってる所もありますが。これからもどうぞよろしくお願いいたします。

感謝を込めて、
ありがとうございます。


『僕』にとっての最後

「や……やっと着いた……」

 

長い長い石階段を登り終え、ようやく長門様の屋敷へと辿り着いた。

体力的には問題は無いが、今は冬で階段が所々凍っていたところもあり、道中で滑りそうな所が何回もあった為、精神的に疲れた。

付き添いの江風さんがやれやれと首を振りながら呆れている姿をみると、本当に申し訳ない気持ちでいっぱいになる。

 

「よし、ついてこい。粗相はおこすなよ? 」

 

「は、はい! 」

 

いよいよ長門様に会えると意識すると心臓の鼓動が早まり、緊張で息苦しくなって来た。緊張で吐き気がするとはこの事だろうか。

手土産がたい焼きで大丈夫なのか、身だしなみは大丈夫なのか、言葉遣いには気をつけよう等、とにかく頭と心が不安に埋め尽くされながら歩いていくと、江風さんが足を止めた。

 

「ここだ、少し待っていろ。……神子様、優海を連れてまいりました 」

 

江風さんへの返事は帰ってこず、あたりは静まってしまった。この部屋にはいないのだろうか?でも僕を呼び出したからには、僕がここに来る事は分かっていたはず……それを知って留守をするのはおかしい。

 

「まさか……神子様!お怪我はありません……か? 」

 

勢いよく部屋に入った江風さんだが、何故か困惑したような顔をしていた。中がどうなっているか確かめる為、そっと部屋の中を覗くと、そこには意外な人もいた。

 

「いい?この桜の花びらが消えるからよく見ておいてね? 」

 

「え〜!?なんでそんな事出来るの? 」

 

「まぁまぁ見てなさい、こうやって桜の花びらを潰すように握って…息を吹きかけると……」

 

オロチさんは握り拳の中にある桜の花びらを吹き飛ばすかのように息を吹きかけたが、手から桜の花びらが飛んだ様子は無い。桜の花びらは、今もオロチさんの手の中にある筈だ。小さな女の子2人もそう思っているようにじっくりとオロチさんの手を見ていた。だが、オロチさんはそれを見透かすようにクスリと笑っていた。

 

「すると〜?あら不思議!私の手に桜の花びらはありません! 」

 

「ええ!?嘘だ! 」

 

短髪の少女がオロチさんの手をじっくりと見つめ、どこかに桜の花びらがあると踏んで探したが、見つからないのか更に困惑していた。

 

「ふっふっ、桜の花びらは〜貴方の頭の上よ! 」

 

「へ?……え〜!?なんでなんで!? 」

 

すると短髪の少女は自分の頭に手を乗せると、1弁の桜の花びらを手に取った。少女は大いに驚き、なんでなんでと言いながら目を輝かせながらオロチさんに迫っていた。

 

遠くから見た僕達からしたら、手品でもなんでも無かった。タネは単純であり、桜の花びらは2枚あり、協力者がいたからだ。その協力者と言うのは、長髪の少女……多分あの人が長門様なのだろう。

 

オロチさんがあの少女の目を引き付けてる間に、長門様があの子の頭の上に桜の花びらを乗せるだけという単純な手品だ。長門様は知らん顔をしながら目をそらすと、僕達と目が合った。

 

「……む、優海では無いか。もう来ておったのか 」

 

「え!?あ、優海君だ〜! 」

 

「ふぐぉ!? 」

 

ようやく僕達の存在に気づいた2人の内、短髪の子が猛突進でこっちに向かい、思わず身構えた。

少女は僕の腹部にダイブするように飛びつき、倒れないように何とか踏ん張った。思ったより強力なダイブで少し意識が飛びそうになった……だが今僕の両手にはお茶とお土産のたい焼きがある、落とす訳には行かない。

 

「久しぶりだね〜!」

 

「久しぶ…り?……あぁ、ごめんなさい、今の僕からしたら初めましての方が正しいんです……記憶がありませんから……」

 

「そう……だったね……うん、皆から聞いてはいたけど、やっぱり悲しいね…… 」

 

抱きつく力が抜け、いつしか少女は僕から離れた。顔を俯かせ、前髪で目元が見えなくなったが、暗く寂しい雰囲気がひしひしと伝わってきた。その雰囲気が空気にも伝染したのか、周りが重く苦しくなった。

 

「はいはい、折角会えたのに何そんなに暗くしてる訳?感動の再開なんだからもっと明るくしないと! 」

 

オロチさんが重い空気を無くすように手を強く叩き、僕らの意識を向かせる。その通りだと言わんばかりに、長門様は1つ咳払いをさせる。

 

「うむ……オロチの言う通りだな。わざわざ呼び出したのにすまなかった 」

 

「い、いえいえそんな…… 」

 

偉い人にそんな風にされるとは思わず、これ以上無く恐縮した。しかし、どこかがおかしかったのか長門様は少し頬を膨らませ、不機嫌そうな感じだった。

 

「むぅ、やはりその態度では落ち着かんな……」

 

「な、何か言いましたか? 」

 

「……いや、何でもない 」

 

長門様は、どこか悲しそうな顔を浮かべながら僕から顔を背けた。

その時、僕はこう思った。長門様が会いたかったのは僕では無い僕、つまり、記憶を失う前の僕なのだと。

未だに記憶が戻らない罪悪感のせいなのか、胸に痛みが走る。

 

「ごめんなさい……」

 

罪悪感の痛みと沈黙した重い空気から逃げたいか為なのか、僕は長門様に謝った。

 

「いや、謝らなくとも良い。お主が目の前におる事が、余のよろこびだ。……それに、これが()()になるかも知れんからな……」

 

「最後……? 」

 

違和感があるその言葉を問い出すように僕が言うと、長門様と江風さんが静かに驚くように肩を一瞬上げた。

 

「さ、最後というのはこの年最後という事だ!そろそろ月が師走になり、年越しが近いからな!余も立場上忙しく、優海とは中々会えなくなる。そういう意味だ! 」

 

「そ、そうですか…… 」

 

妙に焦っている事が気になるけど……言っていることに筋は通っている。重桜には年中桜が咲き誇っているせいで、今は冬とは忘れそうになるけど、今は師走……12月だ。

長門様にも予定があるのだろう。僕はそれで納得した。

 

「それでは神子様、私はこれにて失礼します。陸奥様と優海でごゆっくりしてください。オロチ、お前も出ろ。どうしてここにいるかも知りたいしな。」

 

「あ〜やっぱそこにツッコムのね。まぁ……確認したい事は確認出来たしね……」

 

オロチさんが何故か僕の事を見つめていた。顔になにかついているのかと思い、顔に手を当てるが、顔には何もついていなかった。

 

「ふふ、心配しなくても顔に何もついてないわよ。じゃあね、優海 」

 

オロチさんは笑顔で小さく手を振りながら、江風さんと一緒に部屋から出ていった。

 

「ねぇねぇ優海君、気になっていたんだけど、その袋は何? 」

 

陸奥様が僕が持っているたい焼きが入った袋を見つめていると、恐る恐る僕は長門様にお土産を手渡す。

 

「あ〜これはその……お土産というかつまらないものと言うかなんと言うか……手ぶらだと申し訳ないから、たい焼きを買ったというか貰ったと言うか……良かったらどうぞ……」

 

本当にこんなもの渡していいのかどうかの焦りで、ちぐはぐな言葉遣いになってしまい、さらに焦りが生まれ、冷や汗が止まらなくなってきた。

 

「わーい!ありがとう!優海君!いっただきまーす!」

 

陸奥様は早速袋からたい焼きを取り出し、美味しそうに頬張った。どうやら気に入ったらしく、ホット胸を撫で下ろす気分になった。

 

「土産か……ふふ、記憶を無くしても、そういう所は変わっておらぬな……」

 

「……? 」

 

以前にもこんな風な事が合ったのだろうか、長門様は何かを懐かしむように笑っていた。

 

「お主と余が初めて会った時、余に金平糖を差し出しのだ。ふふ、懐かしいの……もう10年程も前か…… 」

 

10年……長いような短いような時間を、長門様と陸奥様は目を閉じてその風景を思い出していた。

 

「そうだ、お主に返しておくべき物がある。こっちに来てくれぬか? 」

 

長門様が小さく手招きをし、こちらに近づくように言った。返すものがなんなのか気になりはしたが、それ以上に長門様に近づく事に1番の緊張が走った。

粗相を起こさないように、何か変なことしないようにと頭の中で言い聞かせながら、緊張で固くなった手足を動かし、ゆっくりと長門様に近づく。

 

「そ、それ程緊張しなくとも良い。返すものはこれの事だ 」

 

長門様に手渡されたのは、一つのノート……いや、厚みから察すると、これは日記帳だった。表紙もページもクタクタになっており、一目で古い物だと分かった。

恐る恐る日記帳を開くと、子供が一生懸命考えた書いた内容がびっしりと書かれていた。

 

「お主が余に渡してくれた物だ。余は立場上外には出られぬからな……こうしてお主の日常で外の世界を書いてくれたのだ 」

 

「そうだったんですね…… 」

 

この日記は、いわば僕と長門様の繋がりみたいな物だろう。少しボロボロになっているが、大切にしていた形跡や、何度も読み直した痕もある。

それなのに、僕は一体何してるんだ……こんな大事な事も忘れて……!

情けなさと悔しさで日記帳を強く握ろうとしたが、日記帳を傷つけさせないように、心でそれを押し殺した。

 

「……だが、お主が無事にこうして重桜に戻ってきた事が何よりの幸だ。」

 

「うんうん!優海君が無事だって聞いた時は、重桜の皆は喜んでいたよ!」

 

僕を気遣ってか、長門様と陸奥様は僕を励ましてくれた。

 

「ねぇねぇ、昔話しようよ!優海君はこんな人なんだよとか、こんな事があったとか!」

 

「そうだな、それがきっかけで何かを思い出すかも知れん。少し長くなるが……良いか? 」

 

「良いですよ。僕も、僕自身の事が知りたいですし 」

 

「うむ、そうだな……じゃあ、余とお主が初めて出会った時の話でもしよう。あれは………… 」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

優海達がいる部屋の壁越しから聞こえる、和気あいあいの話声が江風の耳に届いていた。

優海がいる部屋はそれ程狭くはなく、むしろ広い方だが、獣耳のせいなのか、話声が少しだが届いていた。

大方昔の話でもしているのだろうと江風は考え、聞き耳を立てるように獣耳をピンと立て、会話の内容を聞こうとした。

 

「あら?盗み聞きかしら?澄ました顔して随分と趣味があれなのね 」

 

「っ!」

 

江風はこの一瞬、隣にオロチがいる事を忘れてしまっていた。江風はその事実を刹那に思い出し、驚きで尻尾と耳を逆立て、威嚇するようにオロチを睨んだ。

江風の頬は羞恥で赤く染まっており、睨んだ表情がどうしても愛らしく見えてしまっていた。

オロチもその表情を可愛らしく思い、クスクスと笑っていた。

 

「き、貴様……! 」

 

最早羞恥で耐えきれなくなっている江風は、いっその事このまま切腹するかオロチを斬るかの極端な選択しか絞れなくなっていた。

江風は刀の鞘に手を置き、今でも刀を抜こうとしていた。

 

「待って待って待って待って、一旦落ち着きなさい。大丈夫よ、盗み聞きなら私もまぁしてるからお互い様よ 」

 

「貴様と同じなら最早この身を斬るまでだ……」

 

「あ、しまったこれ逆効果だったわ 」

 

最早泣き出してしまう程江風は参っており、冗談抜きで自決しそうな勢いを、オロチは江風に接近して刀を抜くのを止めた。

 

「落ち着きなさい。そうね……これなら落ち着いてくれるかしら?貴方達……いえ、長門が何をやろうとしているのか知っているって言えば、貴方はどうする? 」

 

「何だと……? 」

 

「ふふ、ようやく落ち着いてくれたわね 」

 

怪しい笑みを浮かべているオロチの顔は、何もかも見透かしてるようにも思えた。

江風は落ち着きを取り戻し、同時にオロチに対しての警戒も強めた。

 

「貴方達……あの子(長門)を【封印】する気でしょ?しかも上層部の命令で。違う? 」

 

「なぜ知っている 」

 

「言ったでしょ、盗み聞きなら私もしてるって。たまたま寝所を探すためにここに来たら、たまたま貴方達がそういう風に話してる所聞いた。それだけよ 」

 

図星という事を表すかのように、江風は沈黙を貫いていた。言葉にせずとも、オロチは自分の考えが当たっている事を悟った…いや、確信した。

 

「もうあの子、重桜連合艦隊の旗艦じゃないんでしょう。まぁ……元々お飾りみたいな存在で、次は人柱……いえ、生贄って言えば良いのかしら?本当に残酷よね、 吐いて捨てられるような扱いで 」

 

「貴様っ……!」

 

側近として今まで生き、その守る者を怒りを顕にした江風は、オロチの胸ぐらを力強く握った。本能が全面に出たその眼光は、まさに獣そのものだった。

 

「お前に……お前に神子様の何が分かる……!」

 

「じゃあ貴方は今まであの子に何かやったのかしら? 」

 

「それは…… 」

 

オロチは零度を超えるような冷たい眼差しを江風に向けると、オロチはその目と言葉に圧倒され、胸ぐらを掴む手を離した。

 

「何もしてこなかった。そうよね?ただ護衛だけ務めて、ただ与えられた事をこなしていただけ。それこそ機械のように……ねぇ? 」

 

「…… 」

 

江風は否定出来なかった。いや、否定と言う言葉すら間違いと思えるほど、オロチの言う事は間違っていなかった。

 

「私は…… 」

 

「もう話すことは無さそうね。それじゃあ私は失礼するわ。」

 

今自分の目の前から立ち去ると何をするか分からないのに、江風はオロチを追う気にはなれなかった。

心を見透かされ、えぐり取られたような感覚の江風はその場に崩れ落ち、無意識に聞こえる優海達の話し声を聞いた。

 

「そうだ……いつか来るその日の為に、私は神子様の護衛を全うした。だが……」

 

頭を抱え、江風は大いに悩んでいた。自分の使命と心の奥底に眠る思いがぶつかり合い、自分自身の衝突が生まれた。

大いに悩んだが、いつしか考える事に疲れ、江風は一つ大きく息を吐く。無意識に長い時間呼吸を止めていたせいか、一息では呼吸が安定せず、何度も大きく深呼吸する。

 

「私には……分からない 」

 

江風は逃げるように、そう呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

すっかり空が暗くなり、随分とここにいたなとようやく感じられる。

昔の僕の話を終えたあと、陸奥様……じゃ無かった、陸奥ちゃんと一緒に遊んだりしたから、時間を忘れてしまった。

でも、まさか偉い人をちゃん付けしてたのか僕は……我ながら幼い頃が恐ろしい。

 

 

「もう夜か……優海、今日はもう良いぞ。帰らなければ天城が心配するからな 」

 

確かに、今頃凄く心配しているはずだ。母さんはああ見えて、赤城姉さんに負けないくらい過保護だ。

赤城姉さんとは姉妹艦……って言ってたから、そこの性格は似ているのだろうか?

今ここで考えても仕方が無い。帰る支度を済まし、部屋から出ようとしたその時だった。

 

「待ってくれ……! 」

 

突然だった。急に長門ちゃんから急に呼び止められた。帰るようにと言ったのは長門ちゃんの方なのに、どうしたものだろうか?隣にいた陸奥ちゃんも困惑していた。

 

「陸奥、すまぬが少し部屋を後にしてくれ……優海と2人きりで話がしたいのでな 」

 

「え?どうして……? 」

 

「とても大事な話をするからだ……」

 

そう言って長門ちゃんは陸奥ちゃんの事をじっと見つめていた。僕にも伝わる悲痛な叫びが、目を通して陸奥ちゃんに突き刺さるように伝わっていた。

 

「わ……分かった。じゃあ優海君、またね……」

 

陸奥ちゃんはそのまましぶしぶと部屋から出ていき、広い部屋の中、僕と長門ちゃんだけとなった。

申し訳なさそうに陸奥ちゃんを見送る長門ちゃんの目が、こちらをじっと見つめていた。

明らかに雰囲気が変わり、上に立つ者の威圧感は感じられない。むしろ見た目相応の、か弱い雰囲気が薄々感じられた。

 

「優海……もし余が果てしなく遠い所に行こうとしたら、お主はどうする?」

 

「え……? 」

 

僕には、その質問の意味が分からなかった。果てしなく遠い所って何処なのだろうか。僕が知らない所なのか、それとも僕が行けない所なのだろうか。どちらにしても僕は答えを出せずにいた。

 

「ごめんなさい……僕には分かりません 」

 

結局僕の答えはこれだった。ぬるま湯のような中途半端で、逃げるような答えだった。

自分の情けなさが浮き彫りになり、それを恨むように服の裾を握りしめる。

それでも長門ちゃんは小さく笑ってくれた。でもその笑顔は何処か弱々しく、何処か諦めたような笑顔だった。

 

「いや良い。変な質問をして悪かった。……最後に、手を貸してくれぬか? 」

 

最後にこれも分からない願いだが、手を貸すくらいならお易い御用だ。利き手である右手を差し伸べるように長門ちゃんの前に出す。

長門ちゃんはそっとその手に触れた。

手の体温を体と心に刻みつけるように長く、永く、優しく触れていた。ついには僕の手を自身の頬に添えた。

 

「やはりお主の手は雪にも負けぬ温もりを持っているな。……触れていて心地が良い… 」

 

「ど…どうもありがとうございます…… 」

 

何故だろうか、ただ手を貸してるだけなのになんだが凄くいけないことをしているようだ。

冬で少し寒いはずなのに、夏場のように体の内側が熱くなり、心臓の鼓動も妙に早くなっている。

 

「……はっ!べ、別に他意は無いぞ!?いや…でも無くな無いが……その……」

 

「え?なんて言いました? 」

 

「な……何でもないっ!……よし、もう良いぞ 」

 

赤面しながら長門ちゃんは僕の手を離した。

 

「もう良いのですか? 」

 

「うむ、もう夜も深くなりつつあるからな。これ以上ここにいては、天城達にも迷惑がかかる 」

 

「そうか……もうそんな時間なのか……」

 

少し寂しい気持ちもあるが、母さんがそろそろ本気で心配してるかもしれない。

立場上中々会えないと長門ちゃんは言っていたから、もう二度と会えないことは無い。

また遊びに行けばいいのだから。

 

「それじゃあ、またね。長門ちゃん 」

 

「……うむ、また……の……」

 

妙に歯切れが悪い長門ちゃんを不思議に思ったが、この時は気にしていなかった。

 

 

 

でも、『僕』にとって、これが最初で最後の会話になるとは思わなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

もうすっかり暗くなり、空に浮かぶ星や街灯が目立ち始めた時間となった。

帰り道はこの数週間重桜に暮らしたのでもう覚えている。例え暗くとも道に迷う事は無い。

長い石階段を滑らないように慎重に下り、平坦な石畳の道を歩いていく。

歩いていく内に通り道の商店道を通り、街灯が派手に光っていた。

重桜のKAN-SENや饅頭さん達が景気よく商売に勤しんでいる姿を見ると、ついこの間まで襲撃されたとは思えない程賑やかだった。

だが寄り道している場合じゃない。駆け足で急いで家に帰らなければならない。

走り続け、白い息を吐き続けながら、家まで駆け上がる。

走っていたせいなのかは分からないが、()()()()()()()()()()()。それどころか()()()()()()()()()()()

そのせいか、雪が降ってきたことさえ今まで気づけなかった。

 

「わぁ……雪だ!……はっ!いやいや、早く帰らないと……」

 

ようやく家まで帰り、僕は恐る恐る扉を開ける。

 

「た…ただいま〜」

 

「おかえりなさい優海。帰りがこんな遅いなんて聞いていませんよ? 」

 

家の中に入った時に、目の前には天城母さんが笑顔でそこにいた。笑っているはずなのに怖い雰囲気が全面に表れ、怒っている事が刹那よりも早く分かった。

これではまずい、何とかして許して貰えるようにしなければ、晩御飯抜きとかにされかねない……!

 

「な、長門ちゃんと話してたら遅くなっちゃって……」

 

「それなら江風さんに頼んで連絡等すれば良かったでしょう?こんな時間まで連絡が無かったから心配したのですよ? 」

 

天城母さんの怒りがますます膨れ上がり、そろそろ堪忍袋の緒が切れそうな勢いだ。

何か他の方法は無いかと探ると、玄関に赤城姉さん達の靴が合った。つまり姉さん達は既に帰っている証拠……何とかして助けて貰おうと家の周りを見渡すと、居間の扉から赤城姉さん達が心配そうに覗いていた。

 

助けて欲しいと言う訴えを目で送ると、赤城姉さんは激しく首を横に振っていた。そこを何とかしてと、熱い視線を送ったが、天城母さんがそれを阻んだ。

 

「赤城、加賀、土佐、貴方達は先に食事を済ませておきなさい。手出しは無用です 」

 

「は……はぃ……ごめんね、優海……! 」

 

「そ、そんな〜……」

 

「優海、こちらに来なさい。抵抗したら……お仕置ですよ?」

 

「うぅ……ごめんなさい〜!許してくださいぃぃ!」

 

僕の抵抗は虚しく、そのまま居間とは別の部屋に連行された。

赤城姉さん達はそのまま居間へと戻り、僕は天城母さんの叱りを受けることになった。

辛い時間は長く感じられ、もう僕の体感時間では何時間くらい過ぎている。

天城母さんの叱りの言葉は、耳から耳へと通り過ぎ、ほとんど覚えていない。

唯一覚えているのは、天城母さんの静かで怖い怒りと正座の足の辛い痛みと痺れだった。

 

「全く……貴方はもう17なのですよ?それなのに貴方は…………」

 

「じゅ…17歳だったらこのくらいの夜遊びは良いんじゃないかな……?」

 

「言い訳ですか? 」

 

「いえすみませんでした 」

 

まずい、足の痺れがもう限界点を超えて辛さが増し、天城母さんの声は聞き取りずらくなった。心無しかだんだん感覚が薄れていくような気がする……

 

「聞いているのですか? 」

 

「ひゃい!?あ……えーと……ごめんなさい。あまり聞いていませんでした……」

 

下手に嘘をつくとバレるのは確実なので、ここは素直に観念した。天城母さんは一つ溜息を吐いた。

 

「……全く、次からはちゃんと連絡しなさい。さぁ、晩御飯にしますよ 」

 

許されたのかな……?

母さんはその場からすんなり立ち上がったが、僕は足の痺れがまだ残っており、すんなり立つことは出来ず、産まれたての小鹿のように足を震えさせながら立ち、そのまま居間へと戻った。

 

「どうやら死線を超えたようだな…… 」

お疲れ様と言わんばかりに、加賀姉さんは同情するような視線を向けた。

 

「まぁ、拳骨よりかはマシかと思うわね。天城姉様は口よりも手が先に動くから……」

 

「赤城?何か言いましたか? 」

 

「い、いえ!何も言っていませんわ! 」

 

天城母さんが笑顔で拳を作り、今にも赤城姉さんの頭に1発喰らわせる勢いだった。

……これを見た僕は、正座と説教だけで済んで良かったと心から思った。

 

「次からは気をつけないと……」

 

でも、その次なんてものは無かった。

この暖かな晩御飯も、この家族と過ごせる夜は、これが最後となるなんて、思いもしなかった。

これが、最後の晩餐になるなんて……きっと誰も分からなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

_現時刻 某海域にて

 

やっとだ……やっと俺の計画は進む。オロチの力で先代達を蘇らせ、オロチの力で更に艤装の性能は上がった。

だが足りない。まだ足りない。力がまだ足りないんだ。

俺が目指す場所に辿り着くには、まだまだ力が足りない。その為にまずは、重桜に伝わる『ワタツミ』、重桜の誰かが持っている『黒箱』が必要だ。

だが、明日おいて最も大事なのは……

 

「アイツが来るか……いや、目覚めると言った方が正しいか。」

 

アイツは今、深い深い眠りについている。誰も寄せ付けず、誰にも干渉できない程の暗い暗い水底のような所に、1人拒んでいる筈だ。

だが明日になれば嫌でも目覚めるはずだ。

 

「俺は……必ず世界を……」

 

その先の言葉を口に出さず、俺は空から降ってくる1粒の雪に気を取られた。

そう言えば、もうそんな季節か。時間というのは、気にしなければ経つのが早いものだ。

 

「雪か…… 」

 

雪を見ると、嫌でもネージュの事を思い出す。

ネージュは雪という意味を持ち、ネージュと初めて会った時も、こんな雪が降った頃だったかな……

首に掛けず、服のポケットに入れていたネージュのロケットペンダントを手に取る。

あの時……オロチとの最終決戦の時、ネージュが落としたペンダントを俺が拾い、俺を守ってくれたペンダントだ。エンタープライズの攻撃を受けたせいで、原型はギリギリにしか留まっておらず、いつ朽ち果ててもおかしくない状態だ。

「……必ず返すからな。それまで待っててくれ 」

 

ペンダントをポケットに入れ、雪降るこの夜を過ごした。

もしもの話(R-18)を観測しますか?

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