もしもアニメのアズールレーンに指揮官が出てきたら〜2nd season 海上の誓い〜   作:白だし茶漬け

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あけましておめでとうございます(フライング)
無茶苦茶寒くなってもう鼻がヤバいです。
早速プリンツ・ハインニイをお出迎えしました。
どことは言いませんが南半球の主張が凄いですはい。


想いと思い

暗く、寂しい場所に僕はいた。周りには何も無く、ただ黒色の景色が広がってるだけだった。

また夢なのかと考えたが、夢と言うには変な感覚だ。

どこか懐かしく、見るに堪えない恥ずかしさも感じる。この感覚は、まるで自分の心を見ているようだ。何だか気味が悪い。

 

「……蝶が飛んでこない 」

 

いつも見る夢は青い蝶と不思議な女の人がいるのだがこの様子だと出てこないだろう。その時、誰かの足音が近づいてくる。

後ろに振り返ると、闇に紛れるような黒い鎧のような物を身にまとった人が現れた。

 

「えーと、貴方は? 」

 

「…………」

 

でも目の前の人は返事をしなかった。仮面越しだけど、じっとこちらを見ている事は分かった。

鎧の人はそのまま後ろに振り返り、僕から離れるように消えていった。

 

「あ、待って! 」

 

追いかけようと足を動かして走ったが、距離がちっとも縮まらず、むしろ離れていった。あっちは徒歩でこっちは走っているのにも関わらずのにだ。

突然何も無い所で僕はバランスを崩してしまい、地面とぶつかると同時に僕の意識は消えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今日の朝はなんだか忙しない。家もバタバタしていて、外もなんだか騒がしい。今見た夢と、この騒がしい音によって目覚めた僕は少々寝覚めが悪かった。

 

「んん……今日ってお祭りとかあったっけ…… 」

 

でもそんな話は聞いていないし、あったとしたら天城母さんが一言教えてくれる筈だ。

と言うか寒い。とにかく寒かった。布団の温もりと言う魔力に魅入られ、思わずそのまま二度寝しようしたその時だった。

 

「優海っ!起きてるか!?起きてなかったらも叩き起こすぞっ!!」

 

「おっふ!? 」

 

突然加賀姉さんが大声で僕の部屋に突入し、その声で僕の眠気は完全に消え去った。

 

「な……何!?なんなの加賀姉さん!?」

 

「いいから来いっ!長門が大変な事になっている!」

 

「……え? 」

 

考えが追いつかず、そのまま呆然としていた。加賀姉さんは僕の手を強く掴み、強引に居間へと連れ出された。

居間に辿り着き、もう天城母さんや赤城姉さん、土佐姉さんも起きており、いつになく険しい表情をしていた。

 

「……どうしたの? 」

 

「優海……長門様が…… 」

 

怒っている訳でも、悲しんでいる訳でも無い暗い声をしていた天城母さんから放たれた言葉は周りの景色を真っ白になるくらい衝撃的な事だった。

 

 

 

 

 

 

 

「長門様が……重桜に身を捧げられました」

 

僕には、何が何だか分からなかった。言葉の意味も、その状況も分からなかった。

でも、母さんや姉さん達の顔を見て、これだけは分かる。

 

これは、悲しいことだって。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

_現時刻 重桜 祭儀にて

 

「……随分と枯れておるな……それと同時に民達の信仰さえも無くなって来ておる……」

 

『重桜』と言う言葉の意味は2つある。ひとつは土地として、もう1つは神木である『重桜』と言う事を指しており、長門が言った重桜は後者の事を指している。

島1つ覆い尽くす大きさとその枝は、重桜の民の信仰により、美しく咲き誇るが、オロチ計画の不穏生、そしてマーレ、ロドンによる重桜の襲撃により、土地は傷つき、同時に民達の不安がつのり、いつしか信仰は徐々に薄れつつあった。

 

信仰によって繁栄してきた重桜にとって、この神木が完全に枯れるということは、重桜そのものの終わりを意味していた。

そして、全ての責任は長門に向けられた。止められた筈のアズールレーンとの戦争と、マーレ達による襲撃により増えた民の不安、怒り、憎しみを長門は全て抱え、重桜に身を捧げる事を決意した。

 

「ねぇ、本当にやるの……? 」

 

長門のやる事を止めようとする陸奥だが、止めてしまえば重桜は枯れ続ける一方だと分かっていた。

姉と国、彼女にとっては重すぎる物を天秤にかけられず、陸奥はそのまま後を言えずにいた。

 

「そんな顔をするな。重桜に身を封じたら、『タマシイ』の流れも分かるし、何より重桜を……民たちを護ることも出来る。余はずっと陸奥を見守る事だって出来る……」

 

長門は最後の別れのように、陸奥に笑顔を振りまいた。しかし、陸奥にとっては長門の笑顔は何処が悲しさが隠しきれていない笑顔に見えていた。

 

「江風、ここを頼んだぞ 」

 

「……承知致しました 」

 

江風はこれ以上なく弱々しく返事をした。

 

「もしも優海が来たら……もう良いと言ってやってくれ。それでも聞かぬというなら……」

 

「分かっています。優海と……刀を交えます 」

 

「くれぐれも傷つかせぬようにな 」

 

それを聞いて安心したのか、長門は重桜に近づいた。一歩一歩を重く踏み、最後まで威厳ある立ち振る舞いを見せた。

重桜の木の幹に手を置き、そのまま背中を合わせた。カミに祈るように、手を握り、そのまま受け入れるように長門は目をゆっくりと閉じた。

 

「陸奥、『ワタツミ』を…」

 

「……うん 」

 

蒼く輝く『ワタツミ』と呼ばれた石を、陸奥は重桜に捧げるようにかざすと、『ワタツミ』は一層輝きを放ち、長門の所まで近づきつつあった。

 

(さようなら……優海 )

 

ワタツミが光り、長門の周りに青く輝く光が現れ、長門を包むように光は広がった。光は水晶のような形と透明度を持ち、長門は完全に重桜に封印された。

ある1つの想いを抱きながら……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

_現時刻 重桜 天城宅にて

 

「そんな……じゃあ長門ちゃんは二度と目を覚まさないって事!? 」

 

天城母さんから聞く限りの情報だと、長門ちゃんは目を覚ます事無く、重桜と言う神木にずっと閉じ込められたままらしい。

これに関しては重桜のKAN-SEN達も聞かされておらず、本当にいきなり知らされた事らしい。

 

「なんでそんな急に…… 」

 

「いえ……もしかすると、随分と前から決められた事なのかもしれません 」

 

天城母さんは、ある考えを言った。随分と前からって……どう言う事なんだ?

 

「どういうことですの?天城姉様?」

 

「封印に対しての準備や行いが、あまりにも円滑すぎます。恐らくですが、『オロチ計画』が終わった段階から計画されたのかもしれません 」

 

「そして、マーレ達による襲撃により長門の封印は確実となり、決行された……そういう事ですね、天城さん 」

 

土佐姉さんの答えに天城母さんは首を縦に振った。

『オロチ計画』って何だろうか…?オロチと言えばここによく来るオロチさんと何か関係があるのだろうか。

記憶を失う前の僕にも何か関係があるかな……

 

「そう……つまりは私が引き金を引いてしまったのね……」

 

「赤城姉様……」

 

どういう訳か、赤城姉さんが申し訳なさそうに顔を俯かせてしまった。赤城姉さんにも関係あるというのだろうか、その『オロチ計画』と言うのは、今の僕には分からなかった。

 

でも、今はそんな事を考えている暇は無い。僕には、どうしてもやらなければならない事が出来たのだから。

 

「ねぇ……僕もその『重桜』って所に行きたい 」

 

「優海…!?」

 

僕の言葉に全員が驚いた。

 

「行ってどうするのですか?長門様は意識があるかどうかさえ分からないのです。封印を解こうと考えているのなら無理な話です。貴方は行ってどうするというのです 」

 

天城母さんの言う通りだ。行っても何も無い。封印なんて解けやしないし、ただ封印されてる長門ちゃんの姿をみて、悲壮感で悲しむだけだって分かってる。

でも、どうしても昨日のあの顔と言葉が脳裏に過ぎる。

 

_優海……もし余が果てしなく遠い所に行こうとしたら、お主はどうする?

 

あの時の悲しそうな声と顔が頭から離れられなかった。もしもあの時、僕が何か言っていれば、こんな事にはならなかったかもしれない。だからこそ、行かなければならない。

 

「……どうしても伝えたい事があるんだ。昨日、長門ちゃんから質問されて、答えられなかった事なんだ。その時、僕は分からなくて何も言えなかったけど、今だから伝えたいことなんだ。だから…… 」

 

天城母さんと向かい合い、厳しい目で見ている天城母さんに負けまいと、目を見つめ返し、自分の意思をぶつける。

 

「だから僕は長門ちゃんの所に行く。…行きたいんだっ! 」

 

こうして親に反発するのは初めてなのだろうか、今の僕にとってはこうして反抗するのは初めてだ。怒られても構わない。もしも許されなくても、僕はあらゆる手段を使って長門ちゃんの所に行くだろう。

天城母さんは一つ息を吐き、目を閉じた。

 

「……赤城、加賀、土佐、貴方達はどうです? 」

 

名前を呼ばれた3人はお互いの顔を見合った。

その時間は短く、答えを出す時間はそう使わなかった。

 

「決まっていますわ。この事に納得がいってないのは優海だけでは無いですもの 」

 

「それじゃあ……! 」

 

「行くわよ、神木『重桜』がある祭儀に。」

 

 

 

 

 

 

 

 

_現時刻 重桜近海にて

 

「長門が重桜に封印されたか……こちらも動くか 」

 

長門を封印する為に、『ワタツミ』が使われたはずだ。俺の目的はその『ワタツミ』と『黒箱』だ。

『黒箱』と言うのは、オロチ起動の時に使われた『ブラックキューブ』とは若干違う。形こそはそっくりだが、それとは別物だと、オブザーバーから聞いた事がある。使ったら最後、とてつもない程の力が得られると聞いた。どれほどの力なのかは、まだ誰も使った事が無い為未知数だが、可能であればそれも手に入れたい。

 

しかし、問題は誰が持っているかだ。昔オブザーバーに問いただしても、誰が持っている事までは分からなかった。

だが、オロチの力をほとんど自分の物にしたせいか、何となくだが『黒箱』の位置だけはわかった。位置と言ったが、正確には微かなエネルギーの波長……いや、質量を索敵出来るようにはなった。

 

『黒箱』は僅かだが、他の質量とは大きく、大まかな位置は特定出来た。生憎誰が持っているかは判断しかね無いが……位置だけでも十分な情報だった。

 

「しかし、まだ幼子に責任を押し付けるとはな……なんとも度し難い 」

 

ロドンさんが、長門の封印ついて少し不満を持つように喋りかけてきた。

確かに俺にだって思う所はあるにはある。だが、KAN-SENとして扱うのなら当然の結果だろう。

所詮人類にとってKAN-SENは、セイレーンに勝つ為の道具と言う認識だ。

どうなろうと知った事では無い、という事なのだろうな。重桜の上層部……いや、アズールレーンの上層部もそうか……

 

「……幼子と言っても長門はKAN-SENです。あんなふうな姿に産まれただけですよ 」

 

KAN-SENは産まれたその時、姿や性格が確立すると聞く。つまり、成長が無いのだ。

長門は子供のような姿のまま生き続ける訳で、もう10年以上も生きている筈だ。それを子供と言うには……些か抵抗がある。

 

「ふむ……だが、相手の意思も聞かず、ただ傲慢に物事をさせるのは些か暴君ではあるがな 」

「道具に躊躇なんてしないでしょう 」

 

どうせメンタルキューブさえあれば、何度だってKAN-SEN達は産まれてくる。人類はそう考えているのだろう。

使い捨ての道具か、自分達にとっての都合のいい何かでしか無い。

で無ければ、責任を全部長門に押し付ける事はしないだろう。

 

「やはり……傲慢な所は変わっておらぬな。人間というのは…… 」

 

妙に説得力がある……と言っても、彼は数十年前に生きていた英雄だから、昔の人だって見てきた。

それが俺の手によって蘇らせた訳だから、説得力があるのは当然か。

ロドンさんの目には人類に対しての呆れの他、心底落胆したような雰囲気が捉えられる。

 

「人はいつまでも変わりませんよ。誰かが変えない限りは…… 」

 

だからこそ変える。その為にはまず更に力が無ければならない。

ロドンさんと共に、俺は海を駆け、重桜に向かう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

風を切り、海をかけ分け、僕達は長門ちゃんの元へ前進する。

 

「てっきり重桜がある祭儀の所に行くのは僕と姉さん達ぐらいかと思ったのに、まさかこんなに来るなんて……」

 

周りを見渡すと、色んな艦があり、その甲板上にも沢山のKAN-SEN達がいた。

皆、僕と同じように、長門ちゃんの所へ向かう人達だ。その有り様はまさに艦隊そのものだった。

 

「何もあの子の行動に納得がいかない者は君だけでは無いからな 」

 

僕の独り言を聞いたのか、答えながら近づく人がいた。

大きな角があり、茶色い服を着ている……え〜と…そうだ、『三笠』さんだ。

聞く所によると、ものすごく強くて頼りになる人らしく、皆から尊敬されているらしい。

そんな人が前にいるとなると、流石に少し緊張する。

 

「あ、三笠さん 」

 

挨拶と同時に僕は深くお時期をしたが、三笠さんは何故か少し笑っていた。

 

「はは、そんなにかしこまらなくとも良いよ。いつも通りの君で良い 」

 

「は…はぁ…… 」

 

と言ってもなぁ……記憶を失う前の僕ならそうしたけど、今の僕にとってはそうもいかない。難しい所ではある。

 

「寒くはないか?今は冬だ。暖かくしなければ冷えるぞ? 」

 

「あぁ、大丈夫ですよ。全然寒くありませんから! 」

 

大丈夫だという意思表示の為、僕は小さくガッツポーズを見せた。三笠さんは嬉しそうに首を縦に振ってくれた。

 

「うんうん、子供は風の子と言うからな。だが、冷えてはいけない。君にはこれをあげよう 」

 

そう言って三笠さんが差し出しのは何か茶色で楕円形の形をした物だった。思わず手に取るが、僕の頭の中は疑問や?マークで一杯になり、思わず目を丸くする。

 

「えーと……これ何ですか? 」

 

「湯たんぽだ。……知らない? 」

 

「知りません。と言うか初めて聞きました 」

 

すると三笠さんは頭上に雷が落ちてきたような驚きとショックを受け、その場からゆっくり崩れ落ちてしまった。なんか悪い事言ってしまったのだろうか……

 

「い……今時の子供は湯たんぽを知らないのか……これが、『じぇねれーしょんぎゃっぷ』というものか…… 」

 

「もしも〜し……三笠さん〜? 」

 

なんかショックを受けながらブツブツと何か言っており、話しかけても返事は一向に帰ってこない。

これは相当落ち込んでいるな……何でか分からないけど……

とりあえず渡された湯たんぽをどうにかして使ってみようとしたが、いまいちよく分からない。振ってみても何も起きず、叩いても乾いた音が出るだけだった。唯一分かったのは、中身は空洞と言うだけだ。

よく見るとキャップがある事から、何かを入れる事は分かるのだがそれが分からない。ん〜困った……

 

「ん?2人して何してるの?三笠大先輩に関しては何か落ち込んでるけど…… 」

 

通りすがりに2人のKAN-SENが来た。2人とも同じような服を来てるけど、髪型や髪色も違った。1人は茶髪のポニーテール、もう1人はロングの白髪だ。

この人達は……『五航戦』の『翔鶴』さんと『瑞鶴』さんだ。

 

「翔鶴さん、瑞鶴さん、何か三笠さんにこれ渡されて。湯たんぽって言うんですけど、これが何なのか分からないって言ったら、なんかショック受けちゃって…… 」

 

「ゆ……湯たんぽ?三笠大先輩のチョイスは相変わらずね…… 」

 

「うぐっ…!」

 

翔鶴さんの言葉でトドメを刺されたのか、三笠さんはそのまま倒れてしまった。

意外とメンタルが弱いのかな……

 

「ま、まぁ湯たんぽってお湯さえあれば熱くなるから!ちょっとそれ貸して! 」

 

瑞鶴さんに湯たんぽを差し出し、すぐさま饅頭達に何かを頼んでいた。

饅頭達は湯たんぽを持ち出し、どこかへ行ってしまった。

それから数十分後、饅頭達が湯たんぽを持って戻り、瑞鶴さんに返された。

 

「はい、ちょっと熱いから気をつけてね 」

熱いとは言われたが、形も何も変わってないし、先程大した熱さも冷たさも無かった為、疑心暗鬼で恐る恐る湯たんぽを手に取った。

 

手に持つと先程と違い、少し重みが増していた。中からちゃぽんとと言う音からして中は水が入ってる事が分かる。

するとどういう事だろうか、熱さを持たなかった湯たんぽが、見違えるように熱くなっていた。

外の冷たさで、まるで氷のように冷たくてかじかんだ手も、氷が溶けるような気分になりながら温まることが出来た。

 

「おお……これは凄い…! 」

 

「…!そうだろ?そうだろ!?今の現代科学にも負けてはおらぬだろう?」

 

湯たんぽの凄さに驚くと同時に三笠さんも水を得た魚のようにその場から元気よく立ち上がった。

さっきとは違い、目をキラキラと輝かせており、目がしいたけみたいになっていた。

 

「……なんか孫とおばあちゃんみたいね 」

 

「翔鶴姉!聞こえたらまずいよ……! 」

 

「なんだか楽しそうな雰囲気じゃない。私も混ぜて欲しいな? 」

 

そう言いながら飄々と現れたのはオロチさんだった。

やはり寒いのは苦手なのか、手で腕をこすっていた。

 

「あらあら〜?私達を苦しめたオロチさんが、この程度の寒さに負けているのですか〜? 」

 

「むむむ、な〜んかやな感じね。見た目とは裏腹に腹黒いのは確かなようね? 」

 

「それはどうも〜 」

 

2人とも笑っているのに、どこか隙が無い姿勢が逆に怖い。だがオロチさんの体は震えているので、見過ごす訳にはいかない。

 

「あの、オロチさん。良ければこれ使いますか?とっても暖かいですよ。いいですよね?三笠さん 」

 

元々三笠さんから貰った物なので、一応の確認をとる。三笠さんは首を縦に振って了承してくれたので、気兼ねなく湯たんぽを渡す事が出来る。

 

「あら?これは……湯たんぽかしら?中々チョイスが古臭いけど、結構温まるのよねこれ……有難く頂くわ 」

 

オロチさんは湯たんぽを手に取ると……何故か胸と胸の間に挟み込んだ。

オロチさんが着ている服は全体的に黒く、胸部部分の上部が顕になっているため、そこに湯たんぽが挟み、強調さが更に増した。

この行動には他の人も唖然として驚いていた。

 

「な…ななななな何やってるんですかオロチさんっ! 」

 

「え?だってこの方が早く暖まるし……あぁ、お子様には早かっ」

「いくらオロチさんでも、優海に淫らな事を教えてたら怒りますよ?」

 

「きゃあ!?ビックリした…… 」

 

突然オロチさんの背後からまるで幽霊のように天城母さんが出てきた。あまりの神出鬼没さにこれは誰しもが驚いた。

 

「オロチさん、湯たんぽはお腹に当ててゆっくり体を温めるものなのですから。間違った使い方をしないでくなさい 」

 

「は……はぃ…… 」

 

笑顔で使い方を説明しているが、天城母さんから滲み出ている怒りの圧が凄まじいのか、オロチさんは縮こまってしまい、涙目になりながら正座していた。

 

「はは、あの様子では長くなりそうだな 」

 

その様子をどこか懐かしむように、三笠さんは大きく笑った。

 

「あれを見ると、昔の優海を思い出すよ 」

 

「昔の僕ですか? 」

 

 

昔の僕、つまりは記憶を失う前の僕か……これまで色んな人から昔の僕について教えて貰ったけど、唯一知れてないのは、僕が指揮官だった頃は全く分からなかった。

聞こうとしても、あまり話したくは無いのか、聞こうにもノイズが走って聞いてはいられないかどちらかになってしまう。

唯一知れるのは、僕の幼少期、つまりは重桜に住んでいた頃だけだった。3年間と言う短い期間だけど、僕にとってはこれが原点である事は間違いない。

それは、記憶を失っても感じられることであった。

 

「昔の優海も、随分と天城に叱られていたものだ。夏の時は外で遊びたいと言って家を抜け出したりして、天城にお尻を叩かれた事もあると、赤城は言っていたぞ? 」

 

「ええ、昔の僕そんなやんちゃだったのか…… 」

 

まぁ、色んな人から聞いても、子供の頃の僕は相当活発な子だったらしい。記憶が戻ったらその性格に戻るのだろうか……戻ったらなんか皆に迷惑かかりそうだな……

 

「やんちゃか…それは違う。強いて言えば……優しい子と言えば良いな 」

 

「どういう事ですか? 」

 

「長門から昔の事は聞かれなかったか?君と長門はどういう関係だったのか 」

 

それなら、昨日の夜にたっぷり聞かされた。

外に出れない長門ちゃんの為に、僕の日常を日記に書き留め、それを長門ちゃんに見せ、外の世界を紙で見せていた事や、ほぼ毎日屋敷に遊びに行った事を、長門ちゃんは凄く嬉しそうに話していた。

 

「誰かの為に行動する事自体は本当に難しい。一時的な行動ならまだしも、それをずっと……献身的に行動するのは本当に難しいのだ。でも、君はずっと長門の為に行動してくれた。本当に……優しい子だよ。今でもそう、君は長門のために、こうして祭儀に向かってるのだから……だから頼みたい事がある 」

 

「頼みたい事ですか……? 」

 

三笠さんが真剣な顔つきになり、僕の目をじっと見つめていた。

目で分かる三笠さんの本気の願いが、目から全身に伝わり、僕の体を強ばらせた。

 

「長門を、あの子を救ってやって欲しい 」

 

「救う…ですか?」

 

そう言われても、救える程の力があるとは思えないし、そもそも僕にそんな力がある訳が無い。

でも三笠さんはそうは思ってはいなかった。むしろ、僕にしか出来ないと思わせるような目をしていた。

 

「連合艦隊の旗艦という重い責任を1人で背負い、1人でせ追い込もうと誰にも頼れずにいた時、お主が来てくれたんだ。だから長門は君に惹かれ、最後に君に出会ったんだ。……長門と距離が1番近いのは君だ。だから……君にしか頼めない 」

 

「……自信がありません 」

 

「それでもお主に頼みたい。お主の言葉で…救ってやって欲しい 」

 

そう言って、三笠さんは僕に深く頭を下げた。皆から尊敬されている偉大な人がこんな僕に頭を下げたのだ。

恐れ多く、顔を上げてくれと何度も言ったが、三笠さんは頭をあげなかった。

三笠さんは待っているのだ、僕が頼みを聞いてくれるのを……断られても彼女はずっと頭を下げ続けるのだろう。

情けないとは一切思わず、むしろ彼女の誠実な願いが伝わってきた。

 

「……自信が無いのは変わりませんが。やってみます。僕も…長門ちゃんに伝えたい事がありますから…! 」

 

「ありがとう…」

 

ようやく三笠さんは顔を上げ、晴れ晴れとした笑顔に戻った。

しかし、その顔は突然消え去り、何かを察知したなのか警戒した顔で海を見ていた。

 

「偵察機に反応あり!進路上に人がいる!」

 

瑞鶴さんが叫ぶと、全てのKAN-SEN達はそれに反応し、進路上の海を睨んだ。

同じ方角に目を向けると、ぼんやりだか人影が見えた。影は近づく度はっきりと見え、ついにその姿を表した。

黒髪に刀を腰にかけているあの人は……ロドンさんだった。

 

「あの人って……! 」

 

「どうして彼がここに!? 」

 

「戦闘体制に入るぞ!オロチ!優海を頼むぞ!」

 

KAN-SEN達は海に飛び込むように艦から飛び出すと同時に、自分の艤装を展開した。

 

「了解、それじゃあ優海、しっかり私に捕まって……ね! 」

 

「へ? 」

 

オロチさんは僕を急に抱き、そのまま海へと飛び込んだ。

僕は情けない声を上げながらも、オロチさんはそれを一切気にせずにた。

オロチさんの背後に赤黒い光がまとい、まるで蛇のような形を型取りと、それが実体化し、艤装へと変わった。まるで蛇のような長く、1つの生き物のような形をした艤装だったが、今の僕はそれを気にする余裕は無かった。何とか無事に海に着地をし、ひとまずは一安心する。

 

「……ねえ、貴方艤装を出せない?」

 

「え?」

 

「ロドンが1度重桜を襲った時、貴方も艤装を出したでしょ?あれよあれ 」

 

そう言えば僕もそんな風なのを出した覚えがあるけど、どれだけ力を込めても、艤装は出ずにいた。

申し訳なく首を横に振り、オロチさんに艤装は出せない事を伝えた。

 

「あら……どいうことかしら… 」

 

「ごめんなさい…… 」

 

「別に良いのよ。取り敢えず……なんでロドンがこんな所にいるのかしらね……」

 

言われて見ればそうだ。なんでロドンさんがこんな所にいるんだ…?そもそもの目的が分からない為、はっきり言って謎だ。

 

「ロドンと言ったか…何故ここにいる? 」

 

三笠さんがロドンさんに尋ねると、意外にもロドンさんは丁寧に教えてくれた。

 

「単刀直入に言えば、当方達は『ワタツミ』を所望している。そしてその『ワタツミ』は今あの祭儀にある……」

 

ロドンさんが後ろに指を指すと、巨大な桜の木が見えていた。あれが重桜なのだろうか?枝で島が覆われ、かなりの規模だ。あそこに長門ちゃんがいるのか…?

 

「だったら何故貴様はここにいる。『ワタツミ』が欲しいのなら何故祭儀に行かない 」

 

確かに、ここには何も無いし、その『ワタツミ』という物も無い。だからこそ分からない。何故ロドンさんがことにいるのかということを……

 

「そうだな、当方はいわば……貴様達の邪魔をしに来たと言うべきか 」

 

瞬間、重桜の枝の一つが爆発を起こし、枝は折れて海へと落下した。あまりの巨大さを示すように起きた海柱も相当な希望であった。

 

「重桜が!?」

 

「あそこにはマーレがいる。マーレの他にも神木の護衛艦がいるにはいるが……果たして何時(いつ)まで持つかな? 」

 

「貴様っ…! 」

 

三笠さんの顔が見た事ないほど怒りに満ちた表情になり、KAN-SEN達数人はその威圧に圧倒されていた。

これがさっき僕と話していた三笠さんなのかと疑う程にだ。

 

「さて、では当方も動くとしよう。少しばかりは力をつけてはいたいものだが……」

 

余裕に満ちた態度の隙をつくように、瑞鶴さんと高雄さんがロドンさんに斬りかかった。

しかし、ロドンさんはそれを容易く刀で受け止め、表情を崩さずにいた。

 

「オロチっ!早く優海を祭儀に……長門の所へ!」

 

「ここは私たちに任せて、早くっ!」

 

「話してる余裕があるのか…! 」

 

瑞鶴さんと高雄さんは刀に吹き飛ばされたが、KAN-SEN達の追撃は止まらない。無数の砲撃がロドンさんに襲いかかり、砲弾の爆発がロドンさんに襲いかかった。

しかし、爆風がまるで紙のように真っ二つに斬られ、ロドンさんは無傷のままだった。

 

「どうやら本気で突破するしか無いわね……優海、しっかり捕まっててね 」

 

「は……はい!」

 

オロチさんの肩をしっかりと掴み、放されないように密着し、準備と覚悟を決める。オロチさんは息を整え、ロドンさんを突破するタイミングを測っていた。

KAN-SEN達はオロチさんの邪魔をさせまいと全力でロドンさんに攻撃を行っていた。

 

「よし、今っ! 」

 

ロドンさんが防御をしたと同時にオロチさんが加速し、海を割る程の速さでこの海域を突破しようとした。あまりの速さで前からも重力が押しかかって来るが、歯を食いしばって耐える。

 

(皆……無事でいてね…! )

 

加速によるGに耐えながらも、僕は切にそう願った。

 

 

 

 

 

 

「……行ったか 」

 

ロドンは優海とオロチを見送るように何もしなかった。まるで、最初から優海だけは通す気だったかのように。

だが、それは真実だった。何故ならロドンは最初から優海は通すつもりだったのだから。

 

「呆気なく優海を通したな……まさかとは思うが優海だけは通すつもりでいたのか…? 」

 

この行動に不審と思ったKAN-SENは少なくなく、三笠が代表してその真意を探った。

 

「うむ、優海だけは通すようにとマーレから言われてな。まぁ、艤装は展開出来ずにいた為、仕方なくオロチも通したが……」

 

「……これまでもそうですが、貴方達の行動にはいつも疑問がつきます。貴方達の目的は何でしょうか? 」

 

「……直ぐに分かる。さて、貴殿達には少し好機をやろう 」

 

何故かロドンは刀を収め、見るからに隙だらけの状態を作った。今のロドンは、今まで最も隙をさらけだしてる筈なのに、KAN-SEN達は動かずにいた。いや、動けないのだ。丸腰でもロドンの圧は変わらず、攻撃しても無駄だと分かっていたのだ。だからKAN-SEN達は動けず、ロドンの行動を待つべき他無かった。

 

「貴殿達の内、後誰か一人ここを通す。それまで当方は何もしない 」

 

「……どういう事だ? 」

 

三笠の疑問は確かなものだった。ロドンの気まぐれなのか、それとも何かの作戦なのはか知らないが、KAN-SEN達に撮っては、優海を手助けする絶好のチャンスでもあった。

 

「しかしこの内の誰か…か。難しい所であるな……」

 

ロドンは1人を通すと言ったが、隙をついて2人以上ここを突破させる手もあるが、それを許すロドンでは無い。1人しか送り出せないためか、皆は誰を選ぶべきか悩んでいた。だがその悩みは一瞬で解決した。

 

「すまぬが送り出す奴は当方が決める。異論はあると思うが、こちらが出した好機だ。受け入れて貰うぞ 」

 

下手に拒否すると折角の好機が失う可能性を考慮したのか、KAN-SEN達はやむなく承諾した。

誰を選ぶか気にはなりはしたが、ロドンが選んだのは……意外なKAN-SENだった。

 

「選ぶのは……貴殿だ 」

 

ロドンが指差しで指定したのは据えた眼差しを持ち、赤とグレーの機械耳、ライトアイボリー寄りの白髪のポニーテールをしているKAN-SEN……綾波だった。

 

「え……綾波なのですか? 」

もしもの話(R-18)を観測しますか?

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